(1)検察官、被告人または弁護人は、証拠調べに関し異議を申し立てることができる(法309条1項)。訴訟関係人の行為が訴訟法規の定めを避した場合に、これを指摘し、その是正を求めることにより当事者が自己の利益を守るための不服申立てである。異議申立ての対象となるのは、証拠開べに関する行為全般に及び、冒頭陳述、証拠調べ請求の時期・方法、証拠決定、証拠調べの範期・方法・順序、証拠能力などに及ぶ。裁判所、裁判官の行為だけでなく、訴設関係人の行為に対しても申立てができ、また。作為・不作為を問わない。(2)対象となる行為が法令に違反している場合はもとより、その行為が相当でないという場合でも異議の理由となる。ただし,証拠調べに関する決定に対しては、相当でないことを理由とする異議申立ては許されない(規則 205条の1項)。これは、証拠決定の際に、既に当事者の意見を悪いているので(税別190条2項),再度相当性についての異議申立ては認めない趣意である。異議の申立ては、個々の行為。処分または決定ごとに、簡潔にその理由を示して直ちにしなければならない(規則205条の2)。公判期日においては、まず「異議あり」と述べて裁判所の注意を喚起し。そのうえで異議の理由を述べるのが通例である。(3) 異議の申立てに対し、裁判所は遅滞なく決定をしなければならない(法309条3項、規則 205条の3)。時機に遅れた申立て、訴訟遅延目的のみでなされたことの明らかな申立て、その他不適法な申立ては、決定で下しなければならない。ただし。時機に遅れた申立てであっても、申立事項が重要であり、これに対する判断を示すことが相当と認めるときは、時機に遅れたことを理由としてこれを却下してはならない(規則205条の4)。申立てを理由がないと認めるときは決定で棄却しなければならない(規則205条の5)。裁判所は、異議の申立てに理由があると認めるときは、申立ての対象となった行為の中止,撤回、取消しまたは変更を命ずるなど申立てに対応する決定をしなければならない(規則 205条の6第1項)。既に取調べ済みの証拠につき証拠とすることができないと判断したときは、その全部または一部を証拠から排除する決定をしなければならない(規則 205条の6第2項)。これを証拠の排除決定と称する。なお、異議申立てがない場合でも、取り調べた証拠が証拠とすることができないものであることが判明したときは、裁判所は、職権で排除決定をすることができる(規則 207条)。異議申立てに対して決定をするときは、訴訟関係人の陳述を聴くことを要する(規則 33条1項)。なお、異議の申立てについて決定があったときは、その決定で判断された事項については、重ねて異議を申し立てることはできない(規則 206条)。(4)証拠調べに関する異議とは別に、検察官。被告人または弁護人は、裁判長の処分に対しても異議を申し立てることができる(注309条2項)。裁判長の処分が証拠調べに関するものであるときは、前記の異議申立てによることになるので(法30条1年)、ここではそれ以外の処分が異議の対象となる。裁判長の処分として重要なものには、法廷察権に関するもの(法287条・288条)と訴訟指揮権に関するもの(法 294条・295条、規則208条)がある〔第2章14]。この場合の異議申立ては、処分に法令の違反があることを理由とする場合に限られ、不相当を理由として異議申立てをすることは許されない(規則205条2項)。(5)実際上は、公判期日における当事者の申立てが正式な異議申立てなのか。単に裁判長の訴訟指揮権の発動(法294条)を促す注意喚起にとどまるのか。必ずしも明らかでないことが少なくない。証人尋問の際の誘導尋問に対するように即時の対応が要求される場合には、後者に当たるものとして裁判長の訴訟指揮権の範囲内で処理されるのが通例である〔Ⅲ 4(2)〕
裁判所は、検察官及び被告人または弁護人に対し。証拠の証明力を争うために必要とする適当な機会を与えなければならない(法308条)。裁判長は、裁判所が適当と認める機会に、検察官及び被告人または弁護人に対し、反証の取調ベの請求その他の方法により、証拠の証明力を争うことができる旨を告げなければならない(規則 204条)。事者追行主義訴訟の審理方式を通じた裁判所の的確な事実認定を期する趣旨である。犯罪事実につき被告人側の反証があるときは、検察官の甲号証取調べ終了時点または検察官立証の一応の終了時点で、反証の機会を与えるのが通例である。
(1)裁判所は、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、証拠調べの範囲,順序及び方法を定めることができる(法297条1項)。この手続は受命裁判官にさせることもでき(法 297条2項),また、公判前整理手続または期日間整理手続において行ってもよい(法316条の5第9号・316条の28第2項)。裁判所は適当と認めるときは、いつでも検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、既に定めた証拠調べの範囲。順序または方法を変更することができる(法297条3項)。(2) 実務上、証拠調べの順序は、採用決定のあった検察官請求証拠をまず取り調べ,引き続き被告人または弁護人請求の証拠を取り調べるのが原則であり、検察官の立証段階から被告人側の立証段階へと移行するのが証拠調べ手続全体の通常の進行である。ただし、裁判所が相当と認めるときは、この順序を変更して随時、必要とする証拠を取り調べることができる(規則 199条1項)。また、証拠の取調べは、狙罪事実に関する客観的・直接的な証拠から、主観的・間接的な証拠へと移り。最後に被告人の経歴・性格・境遇・犯罪後の情況等の,量刑上重要な情状に関する証拠に及ぶのが通例である。検察官の証拠調べ請求(証拠等関係カードの記載)もほぼこの順序で行われている。2005(平成17)年の規則改正により、このような従前の運用を明文化し、犯罪事実に関しないことが明らかな情状に関する証拠の取調べは、できる限り、犯罪事実に関する証拠の取調べと区別して行うよう努めなければならないとの規定が設けられている(規則198条の3)。なお、犯行の動機・目的・共犯関係等、犯罪事実に密接に関連するいわゆる「泥構」は、犯罪事実自体の立証に重要な意味を有すると共に、量刑に関する重要な情状事実にも当たるので、このような区分には親しまない。画一的な「手続二分論」はこの点を看過しており、疑問であるう。(3)実務上。被告人の捜査機関に対する供述調書や前科関係・身上関係を記載した書面は乙号証として、それ以外の証拠は甲号証として証拠調べ請求される。起訴された犯罪事実に争いのない自白事件では、通例。甲号証には、証拠物や被害者・目撃者等被告人以外の者の捜査機関に対する供述調書,捜査機関が作成した捜査報告書、捜査機関の検証・実況見分調書などが含まれる。なお、2005(平成17)年の規則改正により、手点に関する証拠調べに集中するため、訴訟関係人は、争いのない事実については、誘導尋問,法326条の同意や法327条の合意書面の活用を検討するなどして、当該事実及び証拠の内容・性質に応じた適切な証拠調べが行われるよう努めなければならない旨の規定が設けられている(規則198条の2)。もっとも、事案によっては、書証より人証による方が心証形成に資することもあり、裁判員裁判では、自白事件であっても、犯罪事実の重要部分について被害者、目撃者等の人証が取り調べられる例も多い〔後記皿1(2))。他方。書証による方が事実を的確に把握できる場合や、証人尋問自体が二次被害を生じさせるおそれがある場合は、書証による立証がなされている。これに対して、公訴事実の存否が争われる事件の場合には、通常、まず甲号証の証拠能力や証明力をめぐる攻撃・防禦が展開され、その後にて号証(とくに捜査段階で作成された自白調書の任意性・信用性)をめぐる攻防へと審理が進行してゆく。なお、2005(平成17)年の規則改正により、従前、深刻な手いが生じることのあった自白調書等の作成状況をめぐる立証について、検察官は、被告人または被告人以外の者の供述に関し、その取調べの状況を立証しようとするときは、できる限り、取調べの状況を記録した書面その他の取調べ状況に関する資料を用いるなどして、迅速かつ的確な立証に努めなければならない旨の規定が設けられている(規則18条の4)。「取調べの状況を記録した書面」とは、法316条の15第1項8号に掲げられた書面、すなわち、取調べ状況の記録に関する準則(検察官につき「取間べ状況の記録等に関する訓令」、贅察官につき「犯罪捜査規範」182条の2)に基づき、職務上作成が義務付けられている取調べ状況を記録した書面のほか、被疑者や参考人の取開べに際して作成された取調状況報告者がこれに当たる。被疑者取調べ過程の録音・録画は、「その他の取調べ状況に関する資料」として、有用な素材となろう。2016(平成28)年の法改正により録音・録画義務が一定範囲の事件につき法定されたので(法 301条の2)。それ以外の事件についても実際に録音・録画が実施されていれば、この規則198条の4に基づき、その利用が検討されるべきであろう。
(1) 証拠調べの請求に対して、裁判所は、証拠調べをする旨の決定またはこれを却下する旨の決定をしなければならない。また、職権により証拠調べをする旨の決定をすることもある。これらを「証拠決定」と称する(規則 190条1項)。(2)証拠決定をするについて、請求による場合は、証拠調べの請求をした相手方またはその弁護人の意見を聴くことが必要である。職権による場合には検察官及び被告人または弁護人の意見を聴かなければならない(法299条2項、規190条2項)。ただし、被告人が出頭しなくとも証拠調べを行うことができる公判期日に,被告人及び弁護人が出頭していないときは、これらの者の意見を聴かないで決定をしてもよい(規則190条3項)。裁判所は、証拠決定をするについて必要があると認めるときは,訴訟関係人に証拠書類または証拠物の提示を命ずることができる。これを「提示命令」という(規則192条)。これは、裁判所が、書面等の証拠能力の有無等、証拠決定に必要な事項を判定するためのものであり、この目的に必要な限度で書面の内谷を固読することもできる。もとよりその内容から事件の実体に関する心証を形成することは許されない。(3) 裁判所は、証拠調べ請求の手続が法令に違反している場合や、取調べ請求された証拠に法定の証拠能力がない場合には〔第4編証拠法第2章】,請求を却下しなければならない。また、適法に取調べ請求された証拠能力のある証拠であっても、刑事手続の目的(111)達成に不可な犯罪事実や量刑に関する事実との関連性・重要性(立証事項を証明するため取り調べることに相応の意味があること)がきしい場合や、既に取り調べられた証拠と重複するなど証拠調ベの必要性がないと認められる場合等、審理目的の越速・的確な達成のため正当な理由が認められるときには、請求を却下することができる。前記規則189条の2が、証拠調べの請求を証明すべき事実の立証に必要な証拠に厳選するよう要請する趣旨からも、裁判所は、証拠の必要性・重要性について請求者に釈明を求め、これを吟味することを要する。なお、このような第1審裁判所による。両当事者の主張と争点を踏まえた証拠採否の合理的な裁量判断に対して、事件を直接審理する立場にない控訴審や上告審が事後的に介入して審理不尽と論難することは、第1審の判断に重大明白な過誤が認められる場合を除き、不である(後記最判平成21・10・16参照)。証拠調べの決定後にその取調べの必要がなくなったときは、手続を明確にするため、原則として、訴訟関係人の意見を聴いて決定で証拠決定を取り消すべきである。請求により証拠決定をした後、請求の撤回があったときも、証拠決定を取り消さなければならない。(4) 証拠調べは当事者の請求により行われるのが原則であるが(法298条1項),法は、裁判所が必要と認めるときは職権で証拠調べをすることができると定めている(法 298条2項)。しかし、実務上、職権による証拠調べの実例は少なく、裁判長等が立証の不十分な点について当事者に立証を促すことで事実上その目的を達することができる場合が多い(規則 208条)。これは、当事者追行主義すなわち主張・立証の主導権を当事者に委ねる手続の基本的構造に則した適切な運用といえよう〔序Ⅱ 4)〔第4編証拠法第1章Ⅳ 4)。当事者追行主義の審理方式の下では、裁判所には、原則として、職権で証拠開べをしなければならない義務や当事者に対して立証を促す義務はないというべきである(最判昭和33・2・13形集12巻2号218頁)。例外があるとすれば、当事者が請求しない証拠の存在が明白で、その取調べが容易であり、かつ、その証拠を取り調べなければ正確な事実認定を期し難く著しく正義に反する結果が生じるおそれが顕著であるときに、当事者に対して立紙を促す※釈明の限度で訴訟法上の義務が生じると解される。このような裁判所の示酸・初告に対する被告人側の対応が不十分なときは,後見的見地から、さらに職権証拠調べの義務が生じる場合があり得るが、検察官側の立証を助力する方向での職権証拠調ベの義務は到底想定することができない(なお、当事者追行主義との関係で、第1審裁判所の求釈明義務、検察官に対して立証の機会を与える義務の存否に言及した。最判平成21・10・16 刑集63巻8号937頁参照)。
(a)請求権者証拠調べを請求することができるのは、当事者たる検察官、被告人または弁護人である(法 298条1項)。裁判所の職権による証拠調べの権限も認められているが、それは補充的なものとされている(法298条2項)。法は、証拠を提出する第1枚的権限と責務を当事者に委ねて、公判審理における「当事者追行主義」すなわち当事者の主導権を顕している。(b) 検察官の請求検察官は、事件の審判に必要なすべての証拠の取調べを請求しなければならないとされている(規則193条1項)。もっとも、被告人側の主張・立証により新たに必要となった証拠や審理の途中で発見された証拠については、その都度必要に応じて取調べを請求することができる(規則199※)。ただし、公判前紫理手続に付された事件については、やむを得ない事由が認められる場合を除き、公判前整理手続が終わった後には、証拠開べを請求することができない(法316条の32第1項)(第3章15(2))。告人の自白は、北非事実に関する他の証拠が取り調べられた後に請沢すべきものとされている(注301条)。これは、被告人の自白のみで有罪とすることを認めない憲法(悪法38条3項)及び法(法319条2項)の趣旨を手続的側面から担保するものであり、裁判所が他の証拠(いわゆる「補強証拠)に先立って自白に接することで、心証形成に自白偏重の不当な影響が及ぶのを防ぐ趣意である〔第4編証拠法第4章皿)。また,検察官は、法 321条1項2号後段の規定により証拠とすることができる書面については、必ず取調べ請求しなければならない(法 300条)。被告人側に不利益な内容の検察官調書については、通常、検察官が自発的に取調べ請求を検討するであろうから、この規定は、被告人側に利益な内容の書面について意味を有する〔第4編証拠法第5章3(6))。なお、2005(平成17)年の規則改正で,迅速かつ充実した審理の実現に資するため、証拠調べの請求は、証明すべき事実の立証に必要な証拠を厳選して行うようにしなければならない旨が定められている(規則 189条の2)。検察官が証拠調べ請求をするに際しては、まず立証事項すなわち有罪・無罪の決定と量刑にとって重要な事実を吟味・画定し,その立証に必要不可欠な証拠であるか必要性・関連性・重要性の程度を考慮勘案し、とくに立証趣旨を同じくする複数の証拠については、そのすべてを請求する必要性があるか十分に吟味することを要する。裁判員裁判では、このような運用が定着してきており、証拠の厳選に向けた知的努力は,他の事件においても訴訟当事者としての当然の責務であるといえよう。(c) 被告人側の請求被告人または弁護人は検察官の証拠調べ請求が終わった後、必要な証拠の取調べを請求することができる(規則 193条2項)。公判前整理手続に付された事件について、証拠調べ請求の時期に制限があることは、検察官の場合と同様である(法316条の32第1項)。また、証明すべき事実の立証に必要な証拠の厳選についても検察官の場合と同様である(規則189条の2)。(a) 証拠調べ請求の方式証拠調べの請求は、証拠と証明すべき事実との関係、すなわち「立証趣旨」を具体的に明示して行わなければならない(規則189条1項)。立証趣旨の明示が要求されるのは、裁判所が証拠の採否を決定する際の参考とすると共に、攻・防の無点を明らかにするうえで重要だからである。立証趣旨の陳述は、口頭でもよいが、書面の提出を命じてもよい(規189条3項)。立証趣旨を陳述しないか、書面を提出しないときは、証拠調べの請求を却下することができる(規則189条4項)。特定の立証趣旨に基づいて証拠調べが行われた場合に、証拠の証明力(事実の認定に役立つ証拠の実質的な価値)が当初の立証趣旨の範囲に限定されるかどうか(立証趣旨の拘束力の存否)について議論があるが、事実認定者である裁判所の証拠に基づく自由な心証形成(法318条)を当事者の意思で拘束することはできないというべきである。もっとも、一定の立証事項に関して証拠とすることができるとして取り調べられた証拠が、他の立証事項との関係ではその性質上証拠能力を有せず、その結果、他の立証事項の認定に用いることができない場合はあり得る。証拠の証明力を争うために提出された証拠(法 328条)を犯罪事実の認定に用いることができないこと、共同被告人の一部に限定して提出した証拠を他の被告人について用いることはできないこと、情状事実の立証のために提出された伝聞証拠を狙罪事実の認定に用いるのは許されないこと、等がその例である。証拠調べを請求するについては、あらかじめ証拠の内容を相手方に知らせ、防禦準備の機会を与えることが必要である。すなわち、相手方に異議のない場合を除き,証人等の尋問を請求する場合にはその氏名及び住居を知る機会を、証拠書類または証拠物の取調べを請求する場合にはこれを閲覧する機会を、与えなければならない(法 299条1項、規則178条の7・178条の6第1項・2項)。なお、証人等の個人特定事項の秘匿措置等については、後記(皿5(3)*,**)参照。証拠調べの請求は、その証拠を特定してしなければならない。証人等の尋問を請求するときは、その氏名及び住居を記載した書面を差し出さなければならない。また証拠書類その他の書面の取調べを請求するときは、その標目を記載した書面を差し出さなければならない(規則188条の2)。書面の一部の取調べを請求するには、特にその部分を明確にしなければならない(規則189条2項)法 321条ないし 323条または326条の規定により証拠とすることができる書面が捜査記録の一部であるときは、検察官はできる限り他の部分と分離してその取調べを請求しなければならない(法 302条)。裁判所は取調べを請求する部分を口頭によって明確にさせるだけでなく、書面の提出を命ずることもできる(製則189条3項)。書面の提出をしないときは、証拠調べの請求を却下することができる(規則189条4項)。以上のような法規の定めのもとで、現在の実務では、当事者が、将来公判調書の一部となる「証拠等関係カード」と同じ様式の書面を提出して証拠調べの請求を行うこととされており、裁判所書記官は、この書面の記載を利用して証拠等関係カードを作成するという取扱いがなされている。このカードを参照することで、立証趣旨の範囲、証拠調べ請求の有無やこれに対する相手方の意見。証拠調べの結果等が一覧できる。
(1) 冒頭手続が終了すると、証拠調べ手続に進む(法292条)。証拠調べのはじめに、検察官は、証拠により証明しようとする事実を日頭で明らかにしなければならない。これを検察官の冒頭陳述という(法296条本文)。検察官が証明予定事実の全貌を明らかにし,公判における立証方針の骨子を示す。裁判所に対しては証拠調べに関する訴訟指揮に指針を与え、また被告人及び弁護人に対しては起訴状における公訴事実の記載より一層具体的に防禦の対象・範囲を提示する機能を果たす。冒頭陳述の内容は、事案の性質や捜査段階での自白の有無などにより具体的事件ごとに異なるが、狐罪自体とこれに密接に関連する犯情に関する事実、犯罪と被告人との結び付きに関する事実、量刑上重要な情状に関する事実を中心とし、かつてはこれらを歴史的順序に従い物語式に述べられるのが通例であった。裁判員裁判導入後においては、前記立証対象となる事実とこれを証明するために用いる証拠との関係を具体的に明らかにして(裁判員法55条),審理に臨む裁判員が、その後に実施される証拠調べの意味・位置付けを的確に把握できるようにするための道筋を示す内容となるべく、意識的工夫が試みられている。翻って、この要請は刑事裁判一般にも妥当するであろう。ただし、証拠能力のない資料または取調べを請求する意思のない資料に基づいて裁判所に事件について見または予断を生じさせるおそれのある事項を述べてはならない(法 296条但書)。(2)検察官の冒頭陳述の後に、被告人または弁護人も冒頭陳述をすることができる。検察官の場合と異なり、養務ではない(税期198条1項)。かっては、検察官の冒頭陳述の直後か、検察官側の証拠調べが終わった段階で、事案が複雑で争点が多岐にわたるような場合に、弁護人により行われる例があった。これに対して、前記のとおり、公判前整理手続に付された事件については、被告人または弁護人は、検察官の冒頭陳述に引き続き必ず冒頭陳述を行わなければならない(法316条の30)〔第3章I5(c)〕(裁判員裁判対象事件では公判前整理手続が必要的である[裁判員法 49条])。裁判員裁判における被告人側冒頭陳述の機能と重要性は、前記検察官の場合と同様である。両事者の証明予定事実がまず提示されることにより、具体的な争点と審理の道筋が、公判における口頭陳述を通じて、浮き彫りとなるのである。なお、公判前整理手続に付された事件については、被告人側の冒頭陳述が終わった後、前記。公判前整理手続の結果顕出が行われる(法316条の31第1項)。これは非公開で実施された手続結果を公開法廷で口頭で明らかにする趣意である〔第3章II5(d)〕。
(1 公判開始後、証拠調べ手続に入る前の段階を「冒頭手続」という。冒頭手続のはじめに、裁判長は、被告人として出廷している者と、起訴状に記載されている被告人とが同一人物であることを確認するための質問をする。これを「人定質問」と称する(規則 196条)。起訴状には、通常、被告人の氏名・生年月日・本籍・住居・職業などが記載され(法 256条2項1号、規則164条1項),検察官が起訴の対象とした被告人は特定・表示されているから、公判廷では、これらの事項を被告人として出廷している者に対して質問・確認する形で進行するのが通常である。被告人が公判延で氏名等を黙した場合には、検察官に被告人の顔写真の提出を求めるなど他の適切な方法によって人違いでないことを確かめることを要する。人違いが判明したときは、出廷している者は被告人ではないので、これを事実上排除し、真の被告人を出頭させ手続をやり直すこととなる〔第2編公訴第2章Ⅱ 2〕。(2)人定質問が済むと、検察官が起訴状を読する(法291条1項)。起訴状の記載事項のうち。被告人の特定に関する事項は人定質問で明らかになるから、「公訴事実」と「罪名及び罰条」(注256条2項2号3号・3項・4項)だけを期読するのが慣行である。その際、起訴状の記載に不分明な事項があれば、裁判長、階席裁判官は検察官に釈明を求めることができ、被告人及び弁護人は、裁判長に対し、釈明のための発問を求めることができる(規則 208条)。裁判所として、審判対象の画定や被告人の防興の観点から必要と判断し、また、被告人及び弁護人が引き続き被告事件について陳述を行う上で必要または有用な事項であると判断すれば、検察官に釈明を求めることがある〔第2編公訴第3章Ⅲ〕裁判長等の求釈明があれば、検察官には釈明する訴訟法上の義務が生じる。*法290条の2による被害者特定事項を明らかにしない旨の決定〔Ⅶ 2)や法290条の3による証人等特定事項を明らかにしない旨の決定〔II5(3)*】がなされた場合、起訴状の期読は、被害者特定事項または証人等特定事項を明らかにしない方法で行う。氏名に代えて「被害者」としたり、規則 196条の4または規則196条の7により定められた呼称を用いることなどによる。この場合には、被告人に対し、被害者または証人等の氏名等が記載されている起訴状を示さなければならない(法291条2項・3項)。なお、2023(和5)年改正による「起訴状抄本」等の送達措置〔第2編公訴第2章II1(2)**〕がとられた場合(法271条の2第4項)には、被告人に対する起訴状の星示は例外的場合に限られる(法 291条4項)。(3) 起訴状読に引き続き、裁判長から被告人に対し、終始沈黙し、または個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨、陳述をすれば自己に有利な証拠となることもあるが、不利益な証拠となることもある旨が告げられた上で、被告人及び弁護人の双方に,被告事件について陳述する機会が与えられる(これを罪状否と称することがある)(法291条5項、規則197条)。これは、被告人が、裁判所に対し、起訴事実について、直接、口頭で主張・意見を述べることのできる最初の機会であり、裁判所としては、事件の争点を把握し、公判運営の指針を得る機会となる。陳述は、起訴事実そのものの認否や正防衛・心神耗弱等法律上の犯罪阻却事由ないし刑の減免事由の主張等に関するものが通例であるが、訴因の不特定や公訴権濫用を理由とする手続打切りの主張など手続的事項に関しても、この段階で意見が示されることがあり得る。管轄違いの申立て(法331条2項)や移送の請求(法19条)は、この段階までにしなければならない。被告人が起訴事実をそのまま認める陳述をしたときは、これを自白とみて、有罪認定の証拠とすることができる旨の判例があるが(最判昭和26・7・26刑集5巻8号1652頁)。陳述の法的性質に鑑みると疑問であろう。陳述は被告人の「意見」・「主張」であり。証拠ではない[第4編証拠法第4辛W2(2】。被告人の醸述内容に不明瞭な点があり、認否が不明の場合、裁判長がその趣旨を明確にするため被告人に釈明を求めることは可能であるが(規則 208条),その範囲を超えて事件に関する供述を求めることは証拠調べに当たり(法311条参照)、冒頭手続段階で行うべきことではない(法292条参照)ので違法である。なお、被告人の有罪である旨の陳述によって、一定の要件を満たすときには、証拠調べ手続の簡略化された簡易公判手続〔第5章Ⅰ〕や即決裁判手続〔第5章Ⅱ〕に移行する場合がある。
第1回公判期日後においても、審理の経過によっては、事件の争点及び証拠を整理する必要が生じることがあるので、第1回公判期日後に、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として、期日間整理手続が設けられている(注316条の28第1項)。裁判所の職権によりまたは当事者の請求で、この手続に付する決定で実施される。期日間整理手続における手続については、公判前盤理手続の規定が準用される(同条2項前段)。検察官、被告人または弁護人が期日間整理手続に付する決定の前に既に請求済みの証拠については、期日間整理手続において取調べ請求した証拠とみなされる(同項後段)。期日間整理手続が終わった後は、公判前整理手続が行われた場合と同様に、原則として、新たな証拠調べ請求を行うことはできない(法316条の32第1項)。
(1)裁判所は、第1回公判期日後は、公判期日外でも証人尋問。検証、押収及び捜索を行うことができる。また。鑑定、通訳、翻訳を命ずることができる。ただし、公判期日外の証人尋間は、裁判所が法 158条に掲げる事項を考慮した上、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、必要と認めた場合に限る(法281条、規則108条・109条)。公判準備としての証拠調べについては後記のとおり〔第4章Ⅷ)。公判前整理手続に付されなかった事件について,検察官。被告人または弁護人は、第1回公判期日後は、公判期日前にも証拠調べの請求をすることができ(法298条1項、規則188条)。裁判所は、公判期日前に証拠調べ許香の決定をすることができる(規則190条・191条)。証人、鑑定人、連人または翻訳人を尋問する旨の決定があったときは、その取調べを請求した訴訟関係人は、これらの者を期日に出頭させるように努めなければならない(規則 191条の2)。(2)裁判所は、検察官、被告人もしくは弁護人の請求により、または職権で、公務所または公私の団体に照会して、必要な事項の報告を求めることができる(法279条)。被告人の本籍地の市町村に対し被告人の身上調査を求める身上照会がその例である。事件につき予断を生じさせるおそれのない事項については、第1回公判期日前でも、照会をすることができる。
第2回以降の公判期日についても、その指定。通知。変更と被告人の召喚は、第1回公判期日の場合と同様である。第2回以降の公判期日の場合は、召喚状の送達との間に、最小限12時間の猶予期間を置けば足りる(法275条。規則67条1項参照)。公判期日に証人尋問等を行うときは、その期日に、証人等を召喚しなければならない(法 152条・153条)。召喚を受けた者が、病気その他の事情で公判期日に出頭できないときは、規則の定める診断書その他の資料を提出しなければならない(法278条、規則183条~186条)。喚を受けた者が、正当な理由がないのに出頭しない場合、被告人に対しては勾引、保釈の取消し等、証人等に対しては勾引、過料または刑罰等の処置を執ることができる(規則179条の3)。なお、2023(和5)年の法改正により、保釈または勾留の執行停止をされた被告人が、召喚を受け正当な理由がなく公判期日に出頭しないこと自体が犯罪化され、2年以下の拘禁刑に処されることとなった(法278条の2)。
公判前理手続が実施された事件については、次のとおり、公判期日の手続に関していくつかの特例がある。(a) 証拠調べ請求の制限公判審理において新たな証拠調べ請求を無制限にすることができるとすれば、新たな主張を誘発して争点整理の実効性が損なわれ、相手方の反証準備のために公判審理を中断せざるを得なくなるなど、策定した審理計画の実現が困難になる。そこで法は、公判前整理手続に付された事件については、検察官及び被告人または弁護人は、やむを得ない事由によって請求することができなかったものを除き、手続の終了後には、証拠調べを請求することができないとする(法316条の32第1項)。この制限は、裁判所が必要と認めるときに、職権で証拠調べをすることを妨げるものではない(法316条の32第2項)。当事者が公判前整理手続で請求しなかった証拠の取調べを請求するには、やむを得ない事由で取調べ請求できなかったことを疎明しなければならず(規則217条の32),請求は、やむを得ない事由がやんだ後、できる限り速やかに行わなければならない(規則 217条の33)。「やむを得ない事由」とは、例えば、公判前整理手続の段階で証拠の存在自体を知らなかったことがやむを得なかったといえる場合,証人が所在不明であった場合等、証拠調べ請求が現実的に不可能であった場合のほか、公判前整理手続における相手方の主張や証拠関係等に照らし、その時点においては証拠調べ請求の必要がないと考えたことについて十分な理由があると認められる場合等が想定される。なお、公判前整理手続終了後の「新たな主張」を制限する規定はないが、前記判例(4(d)*】の説示するように、制度目的・趣旨から、これが制限されることはあり得る。(b) 必要的弁護前記のとおり、公判前整理手続においては、弁護人が必要的であり、それに引き続く公判手続においても、弁護人が必要的となる(法316条の29)。(c) 被告人側の冒頭陳述公判前整理手続に付された事件については、被告人または弁護人は、証拠により証明すべき事実その他の事実上及び法律上の主張があるときは、検察官の冒頭陳述に引き続き、これを明らかにしなければならない(法316条の30)。被告人側主張の内容を公判期日における被告人側の冒頭陳述として明らかにし、その後の証拠調べの争点を明確にするため、被告人側の冒頭陳述が必要的とされているのである。(a) 公判前整理手続の結果の顕出その他公判前整理手続は非公開であるが、これに付された事件については、裁判所は、公判期日において被告人側の冒頭陳述が終わった後、公判前整理手続の結果を明らかにしなければならない(注316条の31第1項)。結果の顕出は、公判前整理手続調書の期読または要旨の告知によって行われる(規則217条の31)。なお、裁判所は、公判審理を公判前整理手続において定められた予定に従って進行させるよう努めなければならず,訴訟関係人は、公判審理が公判前整理手続において定められた予定に従って進行するよう。裁判所に協力しなければならない(規則 217条の30)。
手続は次のように進行し、争点及び証拠の整理と段階的な証拠開示が行われる。(a)検察官による証明予定事実の明示とその証明に用いる証拠の取調べ請求十分に争点及び証拠を整理するとともに、被告人側が防葉の準備を整えることができるようにするための前提として、まずは検察官が主張・立証の全体像を明らかにする。検察官は、公判期日において証拠により証明しようとする事実(「証明予定事実」という)を書面で裁判所及び被告人または弁護人に明らかにするとともに(「証明予定事実記載書面」と称する),証明予定事実を証明するために用いる証拠の取調べを請求しなければならない(法316条の13)。証明子定事実の記載については、事件の争点及び証拠の整理に必要な事項を具体的かつ簡潔に明示し(規則 217条の20第1項),事実とこれを証明するための証拠との関係を具体的に明示する等の適当な方法で,争点と証拠の整理が円滑に行われるよう努めなければならない(規則 217条の21)。無用詳細な記載は有害無益である。裁判所は、検察官が証明予定事実記載書面を提出すべき期限と証拠調べを請求すべき期限を定めることができ(法316条の13第4項),検察官はその期限を厳守しなければならない(規則 217条の23)。(b) 検察官請求証拠の開示さらに,検察官は、被告人または弁護人に対し、取調べを請求した「検察官請求証拠」を、次の方法で開示しなければならない(法316条の14)。①証拠書類または証拠物については、これを関覧及び勝写する機会を与えること(被告人の場合は関覧の機会のみ。以下同じ。法316条の14第1項1号)。②証人、鑑定人、通訳人または翻訳人については、その氏及で住居を知る機会を与えるとともに、その者の「供述録取等」(「鉄書、述を録取した書面で供述者の署名着しくは押印のあるもの又は映像若しくは音声を記録することができる記録媒体であって供述を記録したものをいう」[法290条の3第1項])のうち、その者が公判期日において供述すると思料する内容が明らかになるものを閲覧及び勝写する機会を与えること(法316条の14第1項2号)。②の場合。供述録取書等が存在しないとき、またはこれを関覧させることが相当でないと認めるときは、その者が公判期日において供述すると思料する内容の要旨を記載した書面を閲覧及び謄写する機会を与えなければならない。このように、証人予定者の氏名・住居のみならず(法 299条1項参照)。予定供述内容も併せ事前開示される。* 検察官請求証拠開示の後、被告人側の請求により「検察官が保管する証拠の一覧表」を交付する手続が2016(平成 28)年改正により導入された。その内容は次のとおり。検察官は、法316条の14第1項による請求証拠の開示をした後、被告人または弁護人から請求があったときは、速やかに、被告人または弁護人に対し、「検察官が保管する証拠の一覧表」を交付しなければならない(同条2項)。一覧表の記載事項は、①証拠物の品名及び数量、②供述録取書の書面の標目,作成年月日及び供述者の氏名、③証拠書類(②を除く)の標目、作成年月日及び作成者の氏名とする(同条3項)。ただし、一覧表に記載することにより①人の身体もしくは財産に害を加えまたは人を怖させもしくは困惑させる行為がなされるおそれ、②人の名誉または社会生活の平穏が著しく書されるおそれ、③犯罪の証明または罪の捜査に支障を生ずるおそれがあると認めるものは、記載しないことができる(同条4項)。この一覧表交付制度は、被告人側が後記の類型証拠等の開示請求を行うに際し、請求対象を想定・識別するのに資する趣意で導入された。証拠そのものの開示ではなく、検察官が通常保管する証拠について知識経験が乏しい被告人・弁護人であっても開示請求を円滑・的確にできるようにするための配慮である。検察官保管証拠の個別具体的内容を被告人側に伝達するためのものではない。故に、この点についての求釈明(規則 208条)は想定されていない。他方、「証拠書類」について、弁護人が対象を想定・識別するのに資する程度の具体的表示(例.どのような事項に係る「捜査報告書」か推知可能な程度の表記)が望ましいといえよう。(c)検察官請求証拠の証明力を判断するために重要な一定類型の証拠の開示(a/b)の手続により、検察官の主張・立証の全体像が明らかになるので、これに対し、被告人側が防としていかなる主張・立証をするか決めるのに資するため、数告人個が検察官舗光証拠の証明力を適切に判所できるようにする趣旨で、被告人側は一定類型の証拠の開示を請求することができる。これを、「類型証拠の開示」と称する(法316条の15)。類型証拠開示の要件は、次のとおり。①法の定める証拠の類型に該当すること。すなわち、証拠物(法316条の15第1項1号)、裁判所・裁判官による検証調香(同項2号)、捜査機関による検証・実況見分調書またはこれに準ずる書面(同項3号)、鑑定書またはこれに準ずる書面(同項4号)、証人等の供述録取書等(同項5号)。検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しょうとする事実の有無に関する供述を内容とする被告人以外の者の供述取書等(同項6号),被告人の供述録取書等(同項7号)、身体拘束を受けた被告人等の取調べ状況記録書面(同項8号)のいずれかに該当すること。なお、後記のとおり 2016(平成 28)年改正により類型証拠の範囲が拡張されている(*」。②それが(b)で開示された「特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認められる」こと(法 316条の15第1項柱書)。③②の重要性の程度その他の被告人の防郷の準備のために開示をすることの必要性の程度ならびに開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、開示が相当と認められること(法316条の15第1項柱書)。④被告人または弁護人から開示の請求があること。被告人または弁護人が開示請求をするときは、証拠の類型及び開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項、ならびに事案の内容、特定の検察官請求証拠に対応する証明予定事実開示の請求に係る証拠と検察官請求証拠との関係その他の事情に照らし,開示の請求に係る証拠が検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であることその他の被告人の防の準備のために開示が必要である理由を明らかにしなければならない(法316条の15第3項1号)。被告人側の開示請求を受けた検察官は、以上の要件を検討して開示が相当と認めるときは、開示をしなければならない。まずは検察官が、証拠の重要性の程度その他被告人側の防禦準備のための必要性の程度と、例えば罪証隠滅、証人成迫。関係者の名誉・プライヴァシイの侵害など開示により生じるおそれのある弊害の内容・程度を勘案して、開示の相当性を判断することになる(法316条の15第1項)。なお、証人等を保護するための規定は、公判前整理手統における証拠開示についても準用される(法316条の23)。また。検察官は、必要と認めるときは、開示の時期・方法を指定し、または条件を付することができる(法316条の15第1項・2項)。例えば、即時または無条件の開示をすると弊害が生じるものの。これを特定の時期まで開示しないものとすることにより、または一定の条件を付することによって、弊害の発生を防止することができると認められる場合に、開示の時期を指定し、あるいは、一定の条件を付するなどである。開示請求のあった証拠について、検察官がこれを開示しない場合には、その理由を被告人または弁護人に告げなければならない(規則 217条の26)。*類型証拠開示の規定の趣意は、捜査過程を経て検察官のもとに集積・保管される事件に関する多様な資料のうち,一般的・類型的に被告人側の反証準備にとって重要と認められ、他方。具体的弊害が一般的にきしく、防準備に資するため被告人側に配分するのが相当と認められるものを第一段階の開示対象として列記したものである。2016(平成28)年に類型証拠開示の対象を拡大する法改正が行われた。付加されたのは、被告人の共犯として身体拘束されまたは起訴された者であって、検察官が証人尋問請求する予定の者の取調べ状況を記録した書面(法 316条の15第1項8号),検察官請求証拠である証拠物の押収手続記録書面(捜査機関が職務上作成を表務付けられる書面で、証拠物の押収に関し、その押収者、押収年月日、押収場所その他押収の状況を記録したもの)(同条同項9号),類型証拠として開示すべき証拠物の押収手続記録書面(同条2項)である(これについては、開示請求に際して、当該書面を識別するに足りる事項、ならびに開示すべき証拠物と特定の検察官請求証拠との関係その他の事情に照らし、当該証拠物により当該検察官請求証拠の証明力判断のために当該開示が必要である理由を明らかにしなければならない[同条3項2号])。**捜査機関が自ら知覚した内容を踏まえての考察、意見等を記載した捜査報告書については、知覚・認識された事実の報告部分は類型証拠たる「被告人以外の者の供述録取書等であって、検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」(法316条の15第1項6号)に該当し得る。また、捜査機関が被告人以外の者から聴取した結果を記載した捜査報告書も。捜査機関の「供述書」であり、「述録取書等」の定義(供述書。供述を鉄期した書面で供者の署名若しくは押印のあるもの又は映像若しくは音声を記録することができる記録媒体であって供述を記録したもの」[法290条の3第1項])に当たる。類型証拠開示の目的は、「事実の有無に関する供述」の存在とその供述内容を被告人鯛に伝達して防界準備に資することにあり、犯罪事実認定に係る証拠法則である伝開法則とは無関係である。故に、このような捜査報告書に記載された被告人以外の者の供述は、伝開法則の観点からは証拠能力の認められないものであっても。前記6号には該当し開示の対象となり得ると解すべきである。これに対し、6号の「供述」には伝開は含まれないとする裁判例がある(東京高決平成18・10・16判時1945号166頁、大阪高決平成 18・10・6判時1945号166頁)。***実務上、手続の早い時点(前記。証明予定事実記載書面の提示と検察官請求証拠の取調べ請求の前後の段階)において、検察官が請求証拠以外の類型証拠や後記の主張関連証拠に該当するであろうと思われる証拠を開示して、被告人側の防禦準備を促進させる運用がしばしば行われている(「任意開示」と称される)。任意開示の対象となる典型的な類型証拠としては、請求証拠以外の実況見分調書(法316条15第1項3号),重要証人の供述録取書等(同項5号),被告人の供述録取書等(同項7号)などがあり、事案により被告人等に係る取調べ状況記録書面(同項8号)などが想定される。弁護人は、このような任意開示された証拠及び検察官保管証拠の一覧表(法316条の14第2項・3項)の検討をも踏まえて、さらに類型証拠等の開示請求の要否を検討することになる。公判前整理手続全体の迅速化に資する適切な運用といえよう。(a) 被告人側の主張の明示と証拠調べ請求等このようにして被告人側には、あらかじめ検察官の主張・立証の全体像が具体的に示されるのみならず。検察官請求証拠の証明力を判断するために重要な一定類型の証拠の開示を受けることができる。そこで法は、これらの手続終了後であれば、被告人側に、あらかじめ公判でする予定の主張等を明らかにするよう求めても、防の利益を損なうものではないことから,被告人側に一定の応答を義務付けている。検察官による証明予定事実の明示,その証明に用いる証拠の取調べ請求及びその開示、検察官請求証拠の証明力を判断するために重要な一定類型の証拠の開示が行われた後、被告人または弁護人は、次の応答をしなければならない。①検察官請求証拠について、法326条の同意をするかどうかなどの証拠意見を明らかにすること(法 316条の16第1項)。②証明予定事実その他の公判期日においてすることを予定している事実上及ご注律上の主張があるときは、裁判所及び検察官に対し、これを明らかにすること(法316条の17第1項、規則217条の20第2項・217条の21)。「事実上の主張」とは、裁判所による認定を要する事実に関する被告人側の主張であり、積極的な事実主張のほか、検察官が明示した個別の証明予定事実に対する否認の主張も含まれる。「法律上の主張」とは、法令に関する主張であり、刑覇法令の解釈,合憲性、法令の適用等に関する主張をいう。③被告人側に証明予定事実があるときは、その証明に用いる証拠の取調べを請求すること(法316条の17第2項)。④被告人側の請求証拠を検察官側に開示すること(法 316条の18)。被告人側請求証拠の開示の方法は、検察官請求証拠の場合と同じである。検察官は、被告人側請求証拠の開示を受けたときは、これに対する証拠意見を明らかにしなければならない(法316条の19)。裁判所は、被告人側の主張明示や証拠調べ請求の期限を定めることができる(注316条の17第3項)。また、当事者双方に対し、相手方に対する証拠意見を明らかにすべき期限を定めることができ(法316条の16第2項・316条の19第2項),訴訟関係人は期限を守らなければならない(規則217条の23)。もっとも裁判所は、期限までに意見や主張が明らかにされず,または証拠調べ請求がない場合でも、公判の審理を開始するのを相当と認めるときは、公判前整理手続を終了することができる(規則 217条の24)。なお。最高裁判所は、法が被告人に対し主張明示義務及び証拠調べ請求義務を定めていることについて、「被告人又は弁護人において、公判期日においてする予定の主張がある場合に限り、公判期日に先立って、その主張を公判前整理手続で明らかにするとともに、証拠の取調べを請求するよう義務付けるものであって,被告人に対し自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について認めるように義務付けるものではなく、また、公判期日において主張をするかどうかも被告人の判断に委ねられている」ことから、自己負罪拒否特権(憲法 38条1項)に違反しないと判断している(最決平成25・3・18刑集67巻3号325頁)〔第1編捜査手続第9章II.3(1]。*最高裁判所は主張明示義務と公判期日における被告人質問の制限の可否との関係について、のように説示して、公判期日での新たな主張が制限される場合があり得る旨指摘している(最決平成 27・5・25刑集69巻4号636頁)。「公判前塾理手続は、充実した公判の審理を継続的。計画的かつ迅速に行うため、事件の争点及び証拠を整理する手続であり、訴訟関係人は、その実施に関して協力する義務を負う上、被告人又は弁護人は、刑訴法316条の17第1項所定の主張明示義務を負うのであるから、公判期日においてすることを予定している主張があるにもかかわらず、これを明示しないということは許されない。・・・・・・公判前整理手続終了後の新たな主張を制限する規定はなく、公判期日で新たな主張に沿った被告人の供述を当然に制限できるとは解し得ないものの、公判前警理手統における被告人又は弁護人の予定主張の明示状況(裁判所の求釈明に対する釈明の状況を含む。)、新たな主張がされるに至った経緯、新たな主張の内容等の諸般の事情を総合的に考慮し、前記主張明示義務に遊反したものと認められ、かつ、公判前整理手続で明示されなかった主張に関して被告人の供述を求める行為(質問)やこれに応じた被告人の供述を許すことが、公判前整理手続を行った意味を失わせるものと認められる場合(例えば、公判前整理手続において、裁判所の求釈明にもかかわらず、「アリバイの主張をする予定である。具体的内容は被告人質問において明らかにする。」という限度でしか主張を明示しなかったような場合)には、新たな主張に係る事項の重要性等も踏まえた上で、公判期日でその具体的内容に関する質問や被告人の供述が、刑訴法 295条1項により制限されることがあり得るというべきである。」(e) 被告人側の主張に関連する証拠の開示さらに法は、(d)で示される被告人側の主張に関連する証拠の開示について定める。これは、被告人側が具体的に明らかにした主張によって生じた争点に関連する証拠を開示することにより、さらなる争点整理や被告人側の防準備を可能にする趣旨である。「主張関連証拠の開示」と称される。主張関連証拠開示の要件は次のとおり(法 316条の20)。①被告人または弁護人が明らかにした事実上及び法律上の主張に関連すると認められる証拠であること。主張との関連性は抽象的なものでは足りない。②その関連性の程度その他の被告人の防の準備のために該開示をすることの必要性の程度と開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、開示が相当と認められること。③被告人または弁護人から開示の請求があること。開示は、他の場合同様、閲覧・謄写の機会を与える方法による。検察官が、必要と認めるときは、開示の時期・方法を指定し、または条件を付することができる点も同様である。*最高裁判所は、捜査機関が取調べ等捜査の過程で作成したメモについて、それが当該事件の捜査の過程で作成され、公務員が職務上現に保管し、かつ、検察官において入手が容易なものは、被告人側主張との関連性・必要性が認められる場合、証拠開示命令の対象になり得るとの判断を示している。(最決平成19・12・25刑集61巻9号895頁,最決平成20・6・25集62巻6号1886頁、最決平成20・9・30刑集62巻8号 2753頁)。被告人側の具体的主張と反証準備に資する素材の発見・伝達を通じて一層の争点理を進めるという法目的から、開示対象の範囲が、1現に検察官の手中に在るかを問わず、贅察官等が保管し、入手・伝達が容易であるものにも及ぶこと、2)事業の背景事情によっては当該被告事件の捜査と密接に関連する他事件の捜査過程で作成された取調べメモ等も対象となる場合はあり得よう。もっとも、それらの内容は争点の「事実」に係る記載であることが前提であり、捜査・訴追側の事実の評価。法的見解、捜査方針等に係る意見(ワークプロダクト)は開示対象にはならないというべきである。(f) 証拠開示に関する裁定以上のような証拠開示の要否の判断をめぐって、検察官と被告人側との間で争いが生じた場合には、公判前整理手続を主宰する裁判所がこれを裁定する次のような制度・手続が設けられている。①開示時期の指定等。前記のとおり,検察官,被告人・弁護人は、取調べ請求する証拠を開示しなければならないが、裁判所は、開示すべき事者の請求により、開示の必要性の程度ならびに弊害の内容及び程度等を考慮し、必要と認めるときは、決定で、開示の時期・方法を指定し、または条件を付することができる(法 316条の25)。②開示命令。裁判所は、法の規定により当事者が開示すべき証拠を開示していないと認めるときは、相手方の請求により,決定で、当該証拠の開示を命じなければならない。その際、開示の時期・方法を指定し、または条件を付することもできる(法316条の26)。なお、前記のとおり、検察官は、証拠開示に際して開示の時期・方法を指定したり条件を付することができるが、これに対して被告人側は、検察官が付した条件等に不服があれば、開示命令の請求をすることができ、裁判所は、その条件等が不当であると判断した場合、無条件の開示や新たな条件等のもとでの開示を命ずることもできる。以上のような裁定のための裁判所の決定に対しては、即時抗告をすることができる(法316条の26 第3項)。裁判所は、裁定をするため必要と認めるときは、請求に係る証拠の提示を命ずることができる。また、裁判所は、被告人側から開示命令の請求があった場合に、検察官に対し。その保管証拠のうち裁判所の指定する範囲に属するものの標日を記載した一覧表の提示を命ずることもできる。ただし、この証拠の提示命令や一覧表の提示命令は、裁判所が裁定を的確に行うことができるようにする趣意であるから、提示された証拠及び一覧表は、何人にも閲覧または勝写をさせることができない(法316条の27)。*即時抗告の提起期間は3日であり(法422条)。原決定が告知された日から進行する(法 358条)。初日を算入しないので、期間の起算日は決定告知の翌日である(法55条1項)。従前、原決定謄本が被告人と弁護人の双方に日を異にして送達された場合の抗告提起期間は、被告人に送達された日から進行するという判例があったが(例、上告棄却決定に対する異議申立てについて、最決昭和32・5・29刑集11巻5号1576頁、保釈請求却下決定に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告について、最決昭和43・6・19刑集 22巻6号 483頁),最高裁判所は、証拠開示命令請求棄却決定に対する即時抗告の提起期間について、弁護人に同決定謄本が送達された日から進行するとした(最決平成23・8・31 刑集65巻5号935頁)。裁定請求の主体は弁護人であり、弁護人が、被告人ではなく弁護人自身に対して証拠を開示することを命じる旨求めているという請求の形式等がその理由とされている。** 証拠開示制度は、法の欠落を埋め、事件の争点整理を促進させる公判前整理手続の目的に関連付けて設計・導入されたものである。これに対して、公判前整理手続に付されない事件については、従前の事前準備に関する規律と、公判審理に入ってから裁判所の訴訟指揮権に基づく証拠開示命令の途を認めた最高裁判例が存するところであるが(判例は、裁判所は、証拠調べの段階に入った後、弁護人から具体的必要性を示して一定の証拠閲覧の申出があれば、その訴訟指揮権にもとづき、事案の性質,審理の状況、閲覧を求める証拠の種類及び内容、閲覧の時期、程度及び方法などを考慮し、それが被告人の防興のためにとくに重要であり、かつこれによって罪証隠滅,証人威迫などのおそれがなく、相当と認めるときは、検察官に対し、その所持する証拠を弁護人に閲覧させるよう命ずることができるとする[最決昭和 44・4・25刑集23巻4号248頁]),第1回公判期日前ないし審理中に証拠開示をめぐる当事者間の争いが顕在化した場合には、公判審理の継続性・迅速性が阻害されるおそれがあるので、裁判所は事件を公判前整理手続(法316条の2)または期日間整理手続(法 316条の28)に付する決定を行い、完備された証拠開示制度を利用できるようにするのが適切であろう。なお、実務では、整理手続に付さない場合でも、規則178条の6第1項1号の規定に係わらず、当事者間で類型証拠開示や主張関連証拠開示に準じた任意の証拠開示が行われる例もあり、これが、争点整理や被告人側の防票準備を促す役割を果たしている。***検察官による証拠開示は、現に係属する被告事件について、十分な争点整理と被告人側の防準備に資することを目的とする。開示証拠の複製等が第三者に交付されるなどすれば、罪証隠減、証人成道、関係者の名誉・プライヴァシイの侵害等の弊害が拡大するおそれがある。また。開示証拠の目的外使用が無制約に行われると。検察官及び裁判所は証拠開示の要否の判断において、目的外使用による弊害の可能性をも考慮しなければならず、かえって、開示の範囲が狭くなるおそれがある。そこで、法は、開示証拠が本来の目的にのみ使用されることを担保し、開示がされやすい環境を整え、ひいては証拠開示制度の適正な運用を確保する趣旨で、被告人または弁護人等による開示証拠の目的外使用を禁止する旨を明記している。被告人、弁護人またはこれらであった者は、検察官から被告事件の審理の準備のために開示された証拠に係る複製等を、当該事件の審理など被告事件に係る裁判のための審理のほか法所定の手続またはその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、提示し、または電気通信回線を通じて提供してはならない(法281条の4)。目的外使用には刑事罰も設けられており(法 281条の5)、また目的外使用の禁止と併せ、弁護人は開示証拠の複製等を適正に管理し、その保管をみだりに他人にゆだねてはならない旨定めがある(法281条の3)。不適正管理が弁護士倫理に反し懲戒に価するのはもとよりである。(g) 当事者双方による主張・証拠請求の追加・変更(a)から(e)までの手続の後、検察官。被告人または弁護人は、必要があるときは、同様の方法で主張の追加・変更を行うとともに,追加の証拠調べ請求、請求に係る証拠の開示等をしなければならない(法316条の21・316条の22)。当事者双方が、必要に応じ,その主張・証拠請求の追加・変更等を繰り返すことにより、争点・証拠の整理が、一層具体化してゆくことが想定されている。(h) 手点及び証拠の整理の結果の確認以上のような手続を経て、公判前整理手続を終了するに当たっては、裁判所は、検察官及び被告人または弁護人との間で事件の争点及び証拠の整理の結果を確認しなければならない(法316条の24)。具体的には、①両当事者が公判においてする予定主張の内容,②双方の予定主張を照合した結果明らかとなった争点、③公判において取り調べるべき証拠及びその取調べの順序、方法等の事項について、裁判所から当事者に結果を提示し、確認をする。実務上は、この際に、裁判所が公判審理の実施に備え、両当事者と認識を共有しておくのが有用と思われるその他の審理計画に係る事項等、争点及び証拠の整理の結果以外の事項についても、併せて確認される。*法制審議会は、竜磁的記録である証拠の開示等について、大要、次のような法改正要綱を答申している(網(骨子)「第1-4」)。1 電磁的記録である証拠の閲覧等の機会の付与(1)法299条1項の証拠書類または証拠物の全部または一部が電磁的記録であるときは、当該電磁的記録に係る同項の規定による関覧する機会の付与は、相手方に対し、当該電磁的記録の内容を表示したものを関覧し、またはその内容を再生したものを視聴する機会を与えることによりする。(2)ア法316条の14第1項1号の証拠書類または証拠物の全部または一部が電磁的記録であるときは、当該電磁的記録に係る同号の規定による閲覧する機会の付与(被告人に対するものに限る。)は、当該電磁的記録の内容を表示したものを閲覧し、またはその内容を再生したものを視聴する機会を与えることによりするとし。当該電磁的記録に係る同号の規定による閲覧し、かつ、勝写する機会の付与は、その内容を表示したものを関覧し、またはその内容を再生したものを視聴し、かつ、当該電磁的記録を複写し若しくは印刷し、またはその内容を表示し若しくは再生したものを記載し若しくは記録する機会を与えることによりする。イ 法316条の14第1項2号の供述録取書等の全部または一部が電磁的記録であるとき(当該供述録取書等を閲覧させることが相当でないと認めるときを除く。)は,当該電磁的記録に係る同号の規定による閲覧する機会の付与(被告人に対するものに限る。)は、当該電磁的記録の内容を表示したものを閲覧し、またはその内容を再生したものを視聴する機会を与えることによりするとし、当該電磁的記録に係る同号の規定による閲覧し、かつ、謄写する機会の付与は、その内容を表示したものを閲覧し、またはその内容を再生したものを視聴し、かつ、当該電磁的記録を複写し、若しくは印刷し、またはその内容を表示し若しくは再生したものを記載し若しくは記録する機会を与えることによりする。ウ法316条の14第1項2号の規定による証人、鑑定人,通訳人または翻訳人が公判期日において供述すると思料する内容の要旨を記載した書面を閲覧する機会の付与(被告人に対するものに限る。)は、これに代えて、当該要旨を記録した電磁的記録の内容を表示したものを閲覧する機会を与えることによりすることができるとし、同号の規定による閲覧し、かつ、謄写する機会の付与は、これに代えて、その内容を表示したものを閲覧し、かつ、当該電磁的記録を複写し、若しくは印刷し、またはその内容を表示し若しくは再生したものを記載し若しくは記録する機会を与えることによりすることができる。エウの場合、法316条の14第1項2号の規定による開示をしたものとみなす。(3)法316条の15第1項または316条の20第1項の規定による開示をすべき証拠の全部または一部が電磁的記録であるときにおけるこれらの規定による開示についても、(2)アと同様とする。(4)ア法316条の18第1号の証拠書類または証拠物の全部または一部が竜磁的記録であるときは、当該電磁的記録に係る同号の規定による閲覧し、かつ、謄写する機会の付与は、当該電磁的記録の内容を表示したものを関覧し、またはその内容を再生したものを視聴し、かつ、当該電磁的記録を複写し、若しくは印刷し、またはその内容を表示し若しくは再生したものを記載し若しくは記録する機会を与えることによりする。イ法316条の18第2号の供述録取書等の全部または一部が電磁的記録であるとき(当該込録取書等を関覧させることが相当でないと認めるときを除く。)は、当該電磁的記録に係る同号の規定による関覧し、かつ。膣写する機会の付与は、当該電磁的記録の内容を表示したものを関覧し、またはその内容を再生したものを視感し、かつ、当該電機的記録を複写し、若しくは印刷し、またはその内容を表示し若しくは再生したものを記載し若しくは記録する機会を与えることによりする。ウ法316条の18第2号の規定による証人、定人。通訳人または翻訳人が公判期日において供述すると思料する内容の要旨を記載した書面を閉覧し、かつ、膣写する機会の付与は、これに代えて、当該要旨を記録した電磁的記録の内容を表示したものを閲覧し、かつ、当該電機的記録を複写し。若しくは印刷し、またはその内容を表示し若しくは再生したものを記載し若しくは記録する機会を与えることによりすることができる。この場合,同号の規定による開示をしたものとみなす。2乱施的記録をもって作成された証拠の一覧表の提供等(1)検察官は、法316条の14第1項の規定による証拠の開示をした後、被告人または弁護人から請来があったときは、速やかに、被告人または弁護人に対し、検察官が保管する証拠の一覧表であって電磁的記録をもって作成したものを提供し、またはこれを印刷した書面を交付しなければならない。(2)検察官は,(1)による提供または交付をした後、証拠を新たに保管するに至ったときは、速やかに、被告人または弁護人に対し、当該新たに保管するに至った証拠の一覧表であって電磁的記録をもって作成したものを提供し、またはこれを印刷した書面を交付しなければならない