(1) 裁判所は、冒頭手続(法291条)において、被告人が起訴状に記載された訴因について有罪である旨を陳述したときは、検察官,被告人及び弁護人の意見を聴き、その訴因に関して簡易公判手続によって審判をする旨の決定をすることができる。対象事件は、比較的軽微なものに限られ,死刑または無期もしくは短期1年以上の拘禁刑に当たる事件は除かれる(法 291条の2)。この決定により証拠調べ手続が簡易化され,検察官の冒頭陳述(法 296条),証拠調べの順序等(法 297条),証拠調べ請求(法300条~302条),証拠調べの方式(法 304条~307条)の規定は適用せず、「適当と認める方法」で行うことができる(法 307条の2)。また、伝聞法則による証拠能力の制限も、当事者が異議を述べない限り適用されない(法320条2項)。有罪である旨の陳述とは、単に訴因として記載された事実を認める旨の陳述では足りず、違法性阻却事由または責任阻却事由の不存在についても認めることが必要である。裁判長は、被告人に対し簡易公判手続の趣旨を説明し,被告人の陳述が自由な意思に基づくかどうか、及び、法の定める有罪の陳述に当たるかどうかを確かめなければならない。ただし,裁判所が簡易公判手続によることができず、またはこれによることが相当でないと認める事件については、この限りでない(規則197 条の2)。(2) 裁判所は、簡易公判手続による旨の決定をした事件であっても、その事件が簡易公判手続によることができないものと認めるとき(不適法の場合。例事件が対象事件でないことが判明した場合、訴因変更後の訴因について有罪の陳述がない場合、被告人が有罪の陳述を撤回して否認に転じた場合)。またはこれによることが相当でないと認めるとき(不相当の場合。例、有罪の陳述の真実性に疑いが生じた場合、訴訟条件の久如が判明した場合)は、決定を取り消さなければならない(法291条の3)。決定が取り消されたときは、公判手続を更新しなければならない。ただし、検察官及び被告人または弁護人に異議がないときは、この限りでない(法315条の2)。この場合の更新は、その性質上、原則として冒頭陳述以降の手続を通常の手続によりやり直す必要があろう〔V(1))。(3) 現行法の制定過程においては、アングロ=アメリカ法圏のアレインメント制度(被告人の有罪答弁があれば、罪責認定のための公判手続を省略し直ちに量刑手続に進む制度)の採否が検討されたものの,被告人が有罪であることを自認する場合でも補強証拠を必要とすることで、結局、その導入は封じられた(法319条2項・3項)〔第4編証拠法第4章Ⅲ 1(2)*〕。このため、被告人が全面的に事実を認めている場合でも、一律に公判手続を実施せざるを得ず、かえって、証拠調べ手続を事実上簡略化する弊が生じたことなどから、1953(昭和28)年の法改正で導入されたのがこの簡易公判手続である。軽微な自白事件の証拠調べを簡略化して、対象外の重大事件の審理を充実させようというのが制度導入の趣意であった。しかし、現在、その利用頻度は高くない。その理由として、証拠調べ手続に一般事件と大差はなく(一般の自白事件の証拠調べでも証拠書類の取調べが要旨の告知で足りる等の簡略化が進んだ),判決書を書く労力もほとんど同じであり、被告人に「簡易」な手続で処理されているとの悪印象を与えるなどの事情が指摘されていた。犯罪事実に争いのない自白事件の処理を、どの様な方式で、どの程度まで、特別の手続を設けて簡略化するかは、捜査手続をも含む刑事司法制度全体に課されている負担の省力化や人的資源の効率的配分という観点から、極めて重要な制度設計上の課題である。後記のとおり、自白事件の簡易・迅速処理を目的として、2004(平成16)年には、あらたに「即決裁判手続」が導入された(ⅠI)。もっとも、この手続にも、制度的徹底を欠く点や捜査の省力化には必ずしも直結しない難点があり、立法的課題が残されている(捜査の省力化を目的とした公訴取消し後の再起訴制限の緩和について、第2編公訴第1章Ⅱ 2(4)*)。
公判調書の記載の正確性を担保するため、検察官被告人または弁護人からの異議申立てができる(法51条)。その前提としての公判調書の閲覧について、検察官及び弁護人には、公判調書を含む訴訟記録の全面的な閲覧権が認められているので問題がない(法 270条・40条参照)。弁護人がないときは、公判調書に限り被告人に閲覧等の権利が与えられている(法 49条)。異議の申立てがあったことは、調書に記載しなければならない。異議申立ての期間は、原則として最終の公判期日後14日以内とされている。なお、調書が未整理で証人の供述の要旨の告知を受けた場合も、その正確性に対する異議申立てができる(法50条)。についても同様とされている。なお、終結前の事件の電磁的記録である訴訟に関する書類等の関覧・勝写については、次のような要綱が示されている((骨子)「第1-1・2」)。ア 弁護人による裁判所における関覧・勝写(ア)法40条1項の訴訟に関する書類または証拠物の全部または一部が電磁的記録であるときは、当該電磁的記録に係る同項の規定による閲覧は、当該電磁的記録の内容を表示したものを閲覧し、またはその内容を再生したものを視聴する方法によるものとし、当該電磁的記録に係る同項の規定による謄写は、当該電磁的記録を複写し、若しくは印刷し、またはその内容を表示し若しくは再生したものを記載し若しくは記録する方法によるものとする。(1)(7)による電磁的記録を複写する方法及びその内容を表示しまたは再生したものを電磁的記録として記録する方法による謄写については、裁判長の許可を受けなければならないものとする。イ 弁護人による電磁的方法による閲覧・勝写法40条1項の訴訟に関する書類または証拠物がファイルに記録されたものであるときは、弁護人は、同項の規定によるほか、公訴の提起後は、裁判長の許可を受けて、{磁的方法(子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法をいう。)であって裁判所の規則で定めるものにより、これを閲覧し、または謄写することができるものとする。また。被告人が公判調書を閲覧する場合についての要網は、次のとおりである。被告人に弁護人がないときは、公判調書は、裁判所の規則の定めるところにより、被告人も、その内容を表示したものを閲覧し、またはその内容を再生したものを視聴することができるものとし,被告人は、読むことができないとき、または目の見えないときは、公判調書の内容の朗読を求めることができる。
公判期日における訴訟手続については、公判調書を作成して、その経過及び内容を明らかにしておかなければならない(法 48条1項)。作成者は公判に列席した裁判所書記官である(規則37条・46条参照)。調書には、「公判期日における審判に関する重要な事項」が記載される。記載すべき事項は規則により定められている(法48条2項、規則44条)。そこには、証人や被告人の供述等審理の具体的内容に関する事項も含まれる。調書には、書面、写真その他裁判所が適当と認めるもの、及び供述の速記や録音等を引用し、訴訟記録に添付して、調書の一部とすることができる(規則49条・52条の20)。公調書は、各公判期日の後、速やかに整理しなければならない。遅くとも判決宣告までに整理することが原則とされている(法 48条3項。同条同項但書は、連日的開廷が主となり、判決告期日も比較的早期に設定される裁判員裁判を想定したものである)。「整理」とは、裁判所書記官が調書を作成して署名押印し、さらに裁判長が認印してその正確性を確認することをいう(規則46条)。整理が次回公判期日に間に合わなかったときは、裁判所書記官は検察官。被告人または弁護人の請求がある場合は、前回の公判期日における証人の供述の要旨を告げなければならない(法50条1項)。また、前回の公判期日が被告人及び弁護人の出頭なしに開廷されたものであるときは、その期日の審理に重要な事項を告げなければならない(法 50条2項)
判決の宣告は、裁判長が公判延で主文及び理由を朗読し、または主文の朗読と同時に理由の要旨を告げる方法によって行う(法342条,則35条)。被害者特定事項・証人等特定事項の秘匿決定があったときは、これらを明らかにしない方法で判決告を行う(規則35条3項・4項)。有罪の判決を宣告する場合には、被告人に対し、上訴期間及び上訴申立書を差し出すべき裁判所を告知しなければならない(規則 220条)。保護観察に付する旨の判決の宣告をする場合には、裁判長は被告人に対し、保護観察の趣旨その他必要と認める事項を説示しなければならない(規則220条の2)。裁判長は、判決の宣告をした後、被告人に対し、その将来について適当な訓戒をすることができる(規則221条)。
弁護人の最終弁論が終わると、続いて被告人が最終陳述を行い。審理手続は終了する。判決の告手続だけが残ることになる。これを弁論(審理)の終結または結審と称する。
論告に引き続き、微告人及び弁護人も、意見を開することができる(法293条2項)。実務では、先に弁護人が練述し、最後に被告人が練述する。前者を弁護人の弁論または最終弁論と称し、後者を被告人の最終陳述と称する。被告人または弁護人の陳述に対して検察官が反論した場合には、その反論に対する意見を述べる機会を被告人側に与える。最終の陳述の機会は被告人側に与えなければならない(規則211条)。弁論の内容は、論告の内容に対応して、事実に関する主張、法律上の主張、情状に関する主張を被告人・弁護人の立場から行う。公訴事実に争いがない事件では、防側の関心は量刑に集中するのが通例であり、かっては弁論で具体的な量刑意見が述べられることはほとんどなかったものの,裁判員裁判においては、被告人に有利な情状事実を裁判官・裁判員に説得的に示すことが弁護人の弁論の要となる。検察官の情状に関する評価・意見に対応しつつ、前記量刑検索システムをも意識した量刑評議における争点が明瞭に星示されることが望ましい。論告及び弁論は、公判廷において口頭で行われるが(口頭主義,法43条1項),複雑な事件や争点の多岐に渉る事件では、陳述の要旨、すなわち論告要旨・弁論要旨を書面に記載して裁判所に提出することも行われている。裁判長は、必要と認めるときは、本質的な権利を害しない限り,論告または弁論に使用する時間を制限することができる(規則 212条)。なお。2005(平成17)年の規則改正により,検察官,被告人または弁護人が証拠調べの後に意見を陳述するに当たっては、証拠調べ後できる限り速やかに、これを行わなければならない旨が定められた(規則 211条の2)。また,論告・弁論において、争いのある事実については、その意見と証拠との関係を具体的に明示しなければならない(規則 211条の3)。いずれも裁判員裁判をも想定した迅速・的確な評議・判断の道筋を示す趣旨である。論告・弁論において争点と証拠との関係の具体的明示ができるためには、公判前整理手続段階からの十分な争点整理と、これを踏まえた的確な公判審理が当然の前提となろう。
証拠調べが終わると、検察官は論告を行う。これは、事実及び法律の適用についての検察官の意見の陳述である(法293条1項)。論告において、検察官は、公訴事実の認定及び情状について意見を述べるほか、刑罰法令の適用についても蔵見を述べ、その際、併せて料すべき具体的な刑間の種類及びその量についても言及するのが慣行である。これを求刑と称する。論告は、取り調べられた証拠に基づく公訴事実の認定、情状、適条、求刑の順学で行われるのが通例である。事実に争いのない事件では、「本件公訴事実は、当公判延において取開べみの関係各証拠により、その証明は十分である」などと述べられるに留まるが、争いのある場合は、証拠の証明力を明らかにし,事実の証明に至る推論の過程を事案の性質に応じて具体的に述べると共に、被告人側の主張・立証に対する反論も行う。情状についての陳述は、求刑の根拠を明らかにするため。犯行の動機・日的・手段・方法、被害の程度、社会的影響、被告人の前科・前歴の有無。被告人の性格、罪後の事情(政後の情の有無、被害弁償の有無等),共犯者間の役割など量刑事情と同じ要素について陳述する。法令の適用は本来裁判所の職責であるから、とくに法令の解釈に争いのある場合のほかは、「相当法条適用のうえ」とだけ述べられるのが通例である。求刑は、事件に対する検察官の最終的な評価であり、法的には裁判所を拘束するものではないが、裁判所は、求刑意見をも参考に量刑判断を行うことになる。裁判員裁判においては、裁判員も量刑判断に関与するため(裁判員法6条1項3号・66条1項),求刑意見とその前提となる情状に関する陳述は、引き続く量評議の道筋を示すものとして極めて重要な機能を果たす。なお、裁判員裁判の量刑評議は、最高裁判所が整備し検察官及び弁護人も利用可能な量刑検索システムを使用して行われるので、情状及び求刑についての意見もこれを意識して述べられることがある。論告において、検察官は公益の代表者として被告人に有利な事情も考慮すべきであり、審理の経緯により場合によっては無罪判決を求める論告が行われることもあり得る。なお、前記のとおり、検察官の意見の陳述の後に、被害者参加人またはその委託を受けた弁護士は、裁判所が相当と認めるとき、事実または法律の適用について意見を陳述することができる(法316条の38第1項)〔Ⅶ 3(3)〕。
(1)裁判所が、公判期日外において証人尋問や検証を行う場合がある。その果は書面に記載されて、公判期日に証拠書類として取り調べなければならない。また。裁判所自らが公判期日外に行った押収及び捜索の結果を記載した書面や押収物も。公判期日において証拠書類または証拠物として取り調べなければならない(法 303条)。これら公判期日外の活動は、公判期日における証拠調ペの準備行為すなわち公判準備の性質を有する。また。裁判所は、当事者の請求によりまたは職権で公務所等照会をすることができる(法279条)。このうち、検証、押収、捜索、公務所等照会は、性質上、公判期日外で実施されるのが当然であるから。必要と認められる限り、裁判所が公判準備として行うことに特段の問題は生じない。これに対して、証人尋間は、直接主義・口頭主義の観点から、本来、公判期日において行うべき性質の活動である。例外的にこれを公判期日外で実施すると、その調書から心証を形成することとなるので、法は、必要最小限度において公判期日外の証人等間ができる場合を認めている。*裁判所は、検証としての身体検査のため、対象者を裁判所または指定の場所に出頭させることができる。被告人については,召喚または出頭命令(法57条・68条),被告人以外の者については召喚(法132条)による。勾引(法58条・68条)、再度の召喚(135条)、間接強制と制裁(法133条・134条・137条・138条),直接強制(139条)等の手段が定められている。(2)公判期日外の証人尋問には、①裁判所外で行う場合(法158条)(例、証人が病気入院中で裁判所への出頭が困難な場合にその証人の現在場所の病院で行う尋問)と、②公判期日外に裁判所において行う場合(法281条)(例、証人が急な海外渡航等のやむを得ない事情で予定の公判期目に出頭することができない場合に、裁判所内で行う尋問)とがある。いずれの場合も、証人の重要性、年齢、職業,健康状態その他の事情と事案の軽重とを考慮した上、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、必要と認めるときに限らなければならない(法158条・281条)。検察官、被告人及び弁護人は、証人を尋問する権利があるから、証人尋問に立ち会うことができる。このため、公判期日外の証人尋問の日時場所は、あらかじめ立会権者であり尋問権者である検察官,被告人及び弁護人に告知しなければならない。ただし,あらかじめ裁判所に立ち会わない意思が明示されたときはこの限りでない(法157条)。公判期日外の尋問をする場合、裁判所は、あらかじめ尋問事項を知る機会を与えなければならず(法158条2項,規則109条1項)。検察官、弁護人及び被告人は、尋問事項の付加を請求することができる(法158条3項,規則109条2項)。裁判所は、検察官、被告人または弁護人が公判期日外の証人尋間に立ち会わなかったときは、立ち会わなかった者に、証人の供述内容を知る機会を与えなければならない。場合により、新たな追加間の請求も認められる(法159条,規則 126条)。なお、裁判所外で行う証人尋問は、受命裁判官または受託裁判官によることができる(法163条)。裁判所における期日外尋間の場合は、公判裁判所が行わなければならず、受命裁判官によることはできない(最決昭和29・9・24刑集8巻9号1519頁)。前記のとおり、公判期日外の証人尋間の調書は、後の公判期日において職権で取り調べなければならない(法303条)。この調書は、無条件で証拠能力を有する(法321条2項前段)。裁判所または裁判官の検証の結果を記載した書面も同様である(法 321条2項後段)〔第4編証拠法第5章Ⅳ 5,Ⅳ 1〕*公判期日外の証人尋問は、公判期日における尋問が不可能か著しく困難な場合のみならず、性犯罪被害者や年少者等施弱な証人について,被告人・傍聴人から見られることによる圧迫や、公開法廷で証言する心理的圧迫を軽減して証言し易くするために用いられる例があった。しかし、そのような圧迫を軽減し弱な証人を保護するための、付添い,遮蔽、ビデオリンク方式の尋問等が整備されたので〔Ⅲ 5〕,第1次的には、これらの証人保護措置を検討すべきであろう。期日外尋問は、調書が証拠となり直接主義・口頭主義の例外となるので、原則として公判期日における尋問を行うべきである。
(1) 被害者参加制度とは、一定の罪の被害者等や被害者の法定代理人が、裁判所の許可を得て、「被害者参加人」として刑事裁判に参加し、公判期日に出席すると共に、証人尋問。被告人質問等の一定の訴訟活動を自ら行うものである。2007(平成19)年法改正により導入された。被害者参加人は、刑事訴訟の当事者ではない。犯罪被害者等の刑事手続への関与に対する適切な要望の実現には、当事者たる検察官との緊密な連携が要請される。(2)裁判所は、①故意の狙罪行為により人を死傷させた罪、②不同意わいせつ及び不同意性交等の罪、監護者わいせつ及び監護者性交等の罪,業務上過失致死傷・重週失致死傷の罪、逮捕及び監禁の罪、略取誘拐及び人身売買等の罪③その犯罪行為に②の罪を含む罪、④過失運転致死傷罪等、⑤①ないし③の罪の未遂罪に係る被告事件の被害者等もしくは当該被害者の法定代理人またはこれらの者から委託を受けた弁護士から、被告事件の手続への参加の申出があるときは、被告人または弁護人の意見を聴き、北罪の性質、被告人との関係その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、決定で、当該被害者等または当該被害者の法定代理人の被告事件の手織への参加を許す(法316条の33第1項)。参加を許された者を「被害者参加人」と称する。手続参加の申出は、あらかじめ検察官にしなければならず、検察官は、意見を付して、この申出を裁判所に通知する(法316条の33第2項)。裁判所は、被害者参加人が当該被告事件の被害者等に該当しないことが判明したとき、罰条が撤回・変更されたため当該被告事件が対象事件に該当しなくなったとき、または犯罪の性質、被告人との関係その他の事情を考慮して手続への参加を認めるのが相当でないと認めるに至ったときは、参加の許可を取り消さなければならない(法316条の33第3項)。* 被害者参加人の委託を受けた弁護士は、被害者参加人と同様の権限を有する。被害者等は、一般に法的知識が十分でないため、公判審理の状況を的確に把握し、有罪立証を目標に活動する検察官と緊密に連携しつつ適切に刑事手続に参加するためには、専門家である弁護士の援助が必要な場合があると考えられたためである。また、参加を希望しながらも、自ら参加することが困難な状況にある被害者等に代わって、その希望に即した活動をする役割が弁護士に期待される場合もある。なお、被害者参加人の資力が乏しい場合であっても弁護士の援助を受けられるようにするため、裁判所が被害者参加弁護士を選定し、国がその報酬及び費用を負担すると共に、日本司法支援センターが被害者参加弁護士の候補者を裁判所に通知する業務等を行うこととされている(犯罪被害者保護法11条~18条)。(3) 被害者参加人またはその委託を受けた弁護士(以下「被害者参加人等」という)は、次のような権限を有する。①公判期日への出席被害者参加人等は、公判期日に出席することができる(法316条の34第1項)。法廷内の検察官席隣に着席するのが通例である。ただし、裁判所は、審理の状況、被害者参加人等の数その他の事情を考慮して、相当でないと認めるときは、公判期日の全部または一部への出席を許さないことができる(法 316条の34第4項)。②検察官の権限行使に対する意見被害者参加人等は、検察官に対し、北該被告事件についての刑訴法の規定による検察官の権限の行使(例,控訴、訴因の設定・変更等)に関し、意見を述べることができる。この場合。検察官は、当該権限を行使しまたは行使しないこととしたときは、必要に応じ,当該意見を述べた者に対し、その理由を説明しなければならない(法316条の35)。③証人の尋問裁判所は、証人を尋問する場合において、被害者参加人等から、その証人を尋問することの申出があるときは、被告人または弁護人の意見を職き、審理の状況や申出に係る尋問事項の内容等の諸事情を考慮し、相当と認めるときは、被害者参加人等の尋問を許す。ただし、尋間は、犯罪事実に関するものを除く一般情状に関する事項(例.被告人やその親族による示談や謝罪の状況等)について証人が既にした供述の証明力を争い借用性を減殺するために必要な事項に限られる(法316条の36第1項)。証人尋問の申出は、検察官の尋問が終わった後(検察官の尋問がないときは、被告人または弁護人の尋問が終わった後)直ちに、尋問事項を明らかにして、検察官にしなければならず、検察官は、当該事項について自ら尋問する場合を除き、意見を付して、尋問の申出を裁判所に通知する(法316条の36第2項)。④被告人に対する質問裁判所は、被害者参加人等から、その者が被告人に対して質問をすることの申出があるときは、被告人または弁護人の意見を聴き、被害者参加人等が意見の陳述(被害に関する心情その他の意見陳述〔法292条の2〕・事実または法律の適用についての意見陳述〔316条の38])をするために必要があると認める場合であって、審理の状況、申出に係る質問事項の内容等の諸事情を考慮し、相当と認めるときは、被害者参加人等の質問を許す(法316 条37第1項)。前記証人尋問と異なり、質問内容は情状に関する事項に限られない。被告人質問の申出は、あらかじめ、質問事項を明らかにして、検察官にしなければならず、検察官は、当該事項について自ら質問する場合を除き、意見を付して、質問の申出を裁判所に通知する(法316条の37第2項)。⑤事実または法律の適用についての意見の陳述裁判所は、被害者参加人等から、事実または法律の適用について意見を陳述することの申出がある場合において、審理の状況等の諸事情を考慮し、相当と認めるときは、公判期日において,検察官の意見の陳述(論告・求刑)の後に、因として特定された事実の範囲内で、被害者参加人等の意見の陳述を許す(法316条の38第1項,裁判長による陳述の制限について同条3項参照)。この意見陳述(その意義は、前記1の心情・意見の陳述とは異なり、後記論告・弁論と同様である)は,検察官の論告や弁護人の弁論と同様に意見であるから、証拠とはならない(法316条の38第4頭)。意見陳述の申出は、あらかじめ、陳述する意見の要旨を明らかにして、検察官にしなければならず、検祭官は、意見を付して、意見陳述の申出を裁判所に通知する(法316条の38第2項)。*刑事事件に巻き込まれた被害者等が、当該事件の刑事手続の帰越に深い関心を有するのは当然であり、その心情・意見を公判手続において直接示す機会を設け、また当事者追行主義訴訟の枠内で一定の権限行使を認めるのが、被害者関与の諸制度の趣意である。このような被害者の正当な心情・意見等を適切に考慮勘案した裁判体によって、適正な手続を経て罪を認定された被告人に対し、その所業に相応しい刑が言い渡されることに何ら不当なところはない。故に,被害者関与が厳罰化に繋がるとの短絡的批判には理由がない。(4) 裁判所は、被害者参加人が公判期日等に出席する場合において、一定の要件の下,被害者参加人への付添い。被害者参加人と被告人との間の蔽及び被害者参加人と傍聴人との間の遮蔽措置をとることができる(法316条の39第1項・4項・5項)。
(1) 被害者参加制度とは、一定の罪の被害者等や被害者の法定代理人が、裁判所の許可を得て、「被害者参加人」として刑事裁判に参加し、公判期日に出席すると共に、証人尋問。被告人質問等の一定の訴訟活動を自ら行うものである。2007(平成19)年法改正により導入された。被害者参加人は、刑事訴訟の当事者ではない。犯罪被害者等の刑事手続への関与に対する適切な要望の実現には、当事者たる検察官との緊密な連携が要請される。(2)裁判所は、①故意の狙罪行為により人を死傷させた罪、②不同意わいせつ及び不同意性交等の罪、監護者わいせつ及び監護者性交等の罪,業務上過失
(1) 被害者等の情報を保護するための制度として、既に説明した証拠等事前告知の際における被害者特定事項の秘匿要請(法 299条の3・316条の23)のほか〔II5(3),公判手続における被害者特定事項の秘匿がある。裁判所は、性犯罪に係る事件や、犯行態様、被害状況その他の事情により、被害者特定事項(氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項)が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉または社会生活上の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件を取り扱う場合において、当該事件の被害者等もしくは当該被害者の法定代理人またはこれらの者から委託を受けた弁護士から申出があるときは、被告人または弁護人の意見をき、相当と認めるときは、被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる(法280条の2第1項)。この裁判所に対する申出は、あらかじめ検察官にしなければならず、検察官は、意見を付して、申出を裁判所に通知する(法 290条の2第2項)。 (2)また、裁判所は、前記のような事件のほか、事情により被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者もしくはその親族の身体・財産に害を加えまたはこれらの者を畏怖・困惑させる行為がなされるおそれがあると認められる事件を取り扱う場合において、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる(法290条の2第3項)。(3) 裁判所による前記の秘匿決定があったときは、起訴状及び証拠書類の期読は、被害者特定事項を明らかにしない方法で行う(法 291条2項・305条3項)。例えば、被害者実名の代わりに仮名を用いたり、単に「被害者」と呼称するなどの方法が用いられる(規則 196条の4)。また、裁判長は、秘匿決定があった場合において、訴訟関係人のする尋問または陳述が被害者特定事項にわたるときは、これを制限することにより、狙罪の証明に重大な支障を生ずるおそれがある場合、または被告人の防禦に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合を除き、当該尋問または陳述を制限することができる(法 295条3項)。* このほか、刑事手続に付随する被害者等関連法制には次のようなものがある。①被害者等の公判手続の傍聴事件の係属する裁判所の裁判長は、当該事件の被害者等または当該被害者の法定代理人から、当該事件の公判手続の傍聴の申出があるときは、傍聴席及び傍聴を希望する者の数その他の事情を考慮しつつ、申出をした者が傍聴できるよう配慮しなければならない(犯罪被害者保護法2条)。②係属事件の訴訟記録の閲覧・謄写 事件の係属する裁判所は、第1回公判期日後当該事件の終結までの間において、当該事件の被害者等もしくは当該被害者の法定代理人またはこれらの者から委託を受けた弁護士から、訴訟記録の閲覧または写の申出があるときは、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、関覧・謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して閲覧・謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き、申出をした者に閲覧または謄写をさせる(犯罪被害者保護法3条1項)。勝写をさせる場合、裁判所は、謄写した訴訟記録の使用目的を制限し、その他適当と認める条件を付することができ(同法3条2項)、また、関・勝写をした者は、これにより知り得た事項を用いるに当たり、不当に関係者の名誉もしくは生活上の平穏を書し、または捜査・公判に支障を生じさせることのないよう注意しなければならない(同法3条3項)。なお、関覧・膣写に関する裁判所の措置は、司法行政上の措置と位置付けられるので、これに対して刑事訴訟法上の不服申立てをすることはできない。 ③刑事和解 被告人と被害者等は、両者の間の民事上の争い(当該被告事件に係る被害についての争いを含む場合に限る)について合意が成立した場合には,当該被告事件の係属する裁判所に対し、共同して当該合意の公判調書への記載を求める申立てをすることができ、その合意が公判調書に記載されたときは、その記載は裁判上の和解と同一の効力を有するものとする(犯罪被害者保護法 19条)。④損害賠償命令故意の犯罪行為により人を死傷させた罪(例,殺人、傷害致死,傷害)等に係る刑事被告事件の被害者またはその一般承継人は、当該被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に限る)に対し、その弁論の終結までに損害賠償命令の申立てをすることができる(犯罪被害者保護法 24条1項)。「損害賠償命令」とは、当該被告事件に係る訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づく損害賠償請求(これに番する損害賠償請求を含む)について、その民事賠償を利事被告人に命ずることをいう。刑事被告事件について有罪の言渡しがあった場合(当該言渡しに係る罪が前記の罪に該当する場合に限る)には、裁判所は、原則として、直ちに、前記申立てについての期日を開かなければならない(同法35条1項)。そして、特別の事情がある場合を除き、4回以内の審理期日で審理を終結する(同法35条3項)。裁判所は、最初の審理期日において、刑事被告事件の訴訟記録の取調べをしなければならない(同法35条4項)。当事者は、損害賠償命令の申立てについての裁判に対し、異議の申立てをすることができるが(同法 38条1項),適法な異議申立てがない場合は、損害賠償命令の申立てについての裁判は、確定判決と同一の効力を有する(同法38条5項)。他方,適法な異議申立てがあった場合は、通常の民事訴訟の手続に移行する(同法39条1項)。こうして,被告人すなわち加害者側に異議がなければ、被害者は、刑事手続の結果をそのまま利用し、別途損害賠償請求訴訟を提起することなく、民事上の救済を得ることが可能となる。
(1) 犯罪被害者に対する配慮と保護を図るための2000(平成12)年法改正により、被害者等による心情その他の意見の陳述手続が導入された(法292条の2)。被害者は訴訟の当事者ではないが、当該事件の刑事手続の帰趨に深い関心をもつ被害者やその遺族の立場に配慮して、公判手続の場で主体的に意見を陳述する機会を設けたのである。意見陳述ができるのは、被害者またはその法定代理人で、被害者が死亡した場合またはその心身に重大な故障がある場合には、その配供者,直系親族もしくは兄弟姉妹である(「被害者等」法201条の2第1項1号参照)。裁判所は、被害者等から被害に関する心情その他の被告事件に関する意見の陳述の申出があるときは、原則として公判期日に意見を陳述させる(法292条の2第1項)。被害者の申出はあらかじめ検察官に対して行い、検察官が、意見を付してこれを裁判所に通知する(法 292条の2第2項)。検察官を介する申出の方式は、検察官が裁判所に意見を付した通知をする前提として、被害者等との意思疎通を一層充実させる機能を果たすであろう。また,意見陳述とは別に行い得る検察官による被害者等の証人尋問内容との調整にも資する。裁判所は、審理の状況等諸般の事情を考慮して、意見の陳述に代えて書面を提出させたり、意見の陳述をさせないことができる(法292条の2第7項)。(2)被害に関する心情その他の被告事件に関する意見とは、被害者の抱く被害感情や被告人に対する処罰感情。事件に対する評価などをいう。犯罪事実自体は厳格な証明の対象であるから[第4編証拠法第1章718)、犯罪事実自体に関する被害者の陳述内容を犯罪事実の認定のための証拠とすることはできない第3編公判手続(法292条の2第9項)。もっとも、裁判所は被害者の意見を量刑の資料として考慮することはできる。(3)意見陳述は証人尋問ではないから、性質上、その有用性を弾動する反対尋問はあり得ない。しかし、陳述内容の趣旨を明確にしたり確認する必要性はあるので、裁判官と訴訟関係人は、意見陳述の後に被害者等に質問することができる(法292条の2第3項・4項)。裁判長は、被害者の意見陳述や訴訟関係人の質問が、重複したり事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは、これを制限することができる(法292条の2第5項)。なお、意見を開する機害者等が心理的圧迫から精神の平想を害されないようにするため。証人保護に関する。付添い・遮蔽・ビデオリンク方式に関する規定〔Ⅲ 5 (4)〕が準用される(法292条の2第6項)。この意見陳述の時機について特別の定めはないが、証拠調べではないから、証拠調べ手続が終了し弁論手続に入る前の段階,すなわち両事者の立証が終了し,被告人質問が実施された後の時点で行われるのが適切であろう。