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公判手続き|公判期日の手続|証拠調べの実施(その4)被告人質問

公開:2025/10/21

法は、被告人に対して、終始沈黙しまたは利益であると不利益であるとを問わず供述をするかどうかの自由(黙秘権)を付与すると共に、旧刑訴法の被告人説間の制度を廃止し、新たに「被告人質問」の手続を設けた(送311条)。被告人質問において、被告人は「終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる」が(法311条1項),被告人が任意に供述をする場合には、裁判長はいつでも必要とする事項につき被告人の供述を求めることができる(法 311条2項)。陪席裁判官、検察官、弁護人、共同告人またはその弁護人裁判員も裁判長に告げてその供述を求めることができる(法 311条3項,裁判員法59条)。被告人が質問に答えて任意に供述をすれば、その供述は有利・不利を問わず証拠となるので(規則197条1項)。被告人質問も証拠調べの性質を有する。他方、被告人質問には、公判期日において、訴訟当事者たる被告人に事件についての弁解・意見を十分尽くさせる機会を与えるという側面もある。このため被告人の供述内容は、供述証拠の側面と、主張ないし意見陳述の側面が混在する上、供述証拠としては、証人と異なり、無宜誓かつ反対尋問による吟味が不可能であるため、用性の担保の重要部分を欠く〔第4編証拠法第4章Ⅳ 2〕被告人質問の内容は、被告人が犯罪事実を争っている否認事件の場合には、検察官の立証に対する反論や弁解が中心となり、犯罪事実を認めている自白事件の場合には、被告人に有利な情状の顕出が中心となるのが通例である。被告人質問の時機について特別の定めはないので、証拠調べに入った後は、審理の具体的な状況に応じ、いつでもよい。実務では主な証拠調べが終わった段階で行われるのが通例である。なお、被告人の自白調書がある場合に、従前の実務は、自白調書を先に取り調べていたが、裁判員裁判では被告人質問をまず行い。それで足りれば自白調書を採用しないという扱いが一般化しており、裁判員裁判以外でも同様の扱いがなされるようになっている。直接主養・口頭主義の本旨に則した適りな運用といえよう質問の方式は、証人尋問の場合と同様に交互に質問するのが通例である。弁護人がまず質問し、これに対し検察官が反対質問をし、さらに必要に応じて裁判官や裁判員が質問をする。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判期日の手続|証拠調べの実施(その3)証拠書類・証拠物の取調べ・検証|検証

公開:2025/10/21

裁判所は、事実発見のため必要があるときは、検証をすることができる(法128条)。裁判所が一定の場所、物や人の身体の状態等を五官の作用で認識する強制処分であるが、裁判所自ら行うので状は不要である。検証には、公判延におけるものと公判延外におけるものとがある。公判廷における検証は、人の身体の状況(例、傷痕の部位・程度等)の認識や、一定の状況(例、可燃物の燃焼状況等)を把握するための簡易な実験の実施などがその例である。公判延における検証の結果は、公判調書に記載される(規則44条1項32号)。実務上は、犯行現場の検証などのように公判外で行われる場合が多い。これは公判期日外の証拠調べとなる。なお、前記のとおり、証拠物の取調べについては特別の規定があるので(法306条・307条)検証と称しないが、その法的性質は公判延における検証であり。したがって展示のほかに、必要な場合には破壊等の処分もできる(法129条)。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判期日の手続|証拠調べの実施(その3)証拠書類・証拠物の取調べ・検証|証拠物の取調べ

公開:2025/10/21

証拠物とは、物体の存在または状態が証拠となるものをいう(例.北罪に使用された器、血の付着した害者の衣服、被告人が所持していた覚醒剤等)。証拠物の取調べ方法は、その請求者が法廷でこれを展示する(法306条)。「展示」とは、裁判所及び訴訟関係人に対し、その存在や状態等を示すことをいう。なお、検察官が法廷で犯罪の凶器等を被告人に示し、それが犯罪に使用されたものであることを確認するのは、後記の被告人質問を通じて証拠物の同一性や起訴事実と証拠物との関連性を明らかにする立証活動である。「証拠物中書面の意義が証拠となるもの」すなわち、書面の存在または状態そのものが証拠となると同時にその記載内容も証拠となる書面(例,脅迫罪に使用した脅迫状,公文書造罪を組成した造公文書等)を、「証拠物としての書面」と称する。その取調べ方法は、朗読と展示の双方を必要とする(法 307条)。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判期日の手続|証拠調べの実施(その3)証拠書類・証拠物の取調べ・検証|証拠書類の取調べ

公開:2025/10/21

証拠書類とは、その記載内容が証拠となる書面をいう(例.被害者作成の被害届、医師の作成した診断書、被告人や参考人の司法書察職員や検察官に対する供述調書、被告人の前科調書等)。犯罪事実に争いのない自白事件では、犯罪事実の立証のために必要な証拠は、北明の行われた現場の親要を記載した証・実況見分開封等のほか、機害者などの第三者の供述や被告人の供述も、司法察職員または検察官に対する供述調書として証拠書類の形で証拠調べ請求されるのが通例である。これらの証拠書類の全部が換察官及び被告人の同意等により証拠能力を認められ(法326条1項)、秋利所の証拠決定を経てその取調べが行われると、検察官の立証は願期として終了する。もっとも前記のとおり、近時は、直接主義を重視して、犯罪事実の重要部分の立証を証人尋問により行う動きが生じている〔Ⅲ 1(2)〕証拠書類の取調べ方法は、法廷における「朗読」である。裁判長は、証拠書類の取調べを請求した者にこれを朗読させるのが原則であるが、自らこれを期読し、または階席裁判官もしくは裁判所書記官にこれを期読させることもできる(法 305条1項)。法290条の2の規定による被害者特定事項の秘匿決定がなされた場合には、朗読は被害者特定事項を明らかにしない方法で行う(法 305条3項)。法290条の3の規定による証人等特定事項の秘匿決定がなされた場合も同様である(法305条4項)。なお、裁判長は、訴訟関係人の意見を聴き、相当と認めるときは、朗読に代えて、取調べの請求者,陪席裁判官もしくは裁判所書記官にその要旨を告げさせ、または自らこれを告げることができる(規則203条の2第1項)。これを「要旨の告知」と称する。要旨の告知は、かつて証拠書類の全文朗読が時間等の制約により困難で、しばしば朗読をすべて省略しょうとする傾向が認められたため、朗読を実行可能な限度で的確に実現できるよう配慮して、1950(昭和25)年に導入された。しかし、裁判員裁判においては、裁判員に後から証拠書類を読み込んでもらうことはできず、公判で直接心証を採ってもらうため、朗読に適した証拠書類を作成し、その全文期読を原則とする運用が定着しつつある。ビデオリンク方式による証人尋問の録画(記録媒体)がその一部とされた調書の取調べは、期読に代えて、その録画を公判廷で再生する。裁判長は、相当と認めるときは、この再生に代えて、記録された供述内容を告知させる等の方法で取り調べることもできる(法305条5項)。記録媒体を生する場合に、必要と認めるときは、その映像を被告人または修購人またはその双方が見ることができないよう遮蔽指置をとることができる(同条6項)。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判期日の手続|証拠調べの実施(その2)鑑定・通訳・翻訳|通訳・翻訳

公開:2025/10/21

裁判所では日本語を用いるので(裁判所法74条)、日本語に通じない者に練述をさせる場合には、通訳人に通訳させたり、外国話を翻訳する必要が生じる(法175条・177条)。また、耳の聞こえない者または口のきけない者に陳述させる場合にも、手話などの通訳をさせることができる(法 176条)。通訳や翻訳は、言葉についての鑑定の性質を有するので、鑑定についての規定が準用される(法178条。規則136条)。*法制審議会は、通訳を映像と音声の送受情により実施する制度の拡充として次のような要綱((骨子)「第2-3」)を示している。(1)裁判所は、通訳人(国内にいる者に限る。以下同じ)に通訳をさせる場合において、相当と認めるときは、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、同一構内以外にある場所であって適当と認めるものに通訳人を在席させ、映像と音声の送受により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、通訳をさせることができるものとする。(2) 裁判所は、通訳人に通訳をさせる場合において、やむを得ない事由があり、かつ、相当と認めるときは、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、同一構内以外にある場所であって適当と認めるものに通訳人を在席させ、裁判所、検察官並びに被告人及び弁護人が通訳人との間で音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって通訳をさせることができるものとする。この要綱(骨子)の趣旨は次のとおり。通訳人の確保をしやすくする観点からは、可能な限り柔軟な通訳方法を認めることが望ましく、音声のみの送受によっても実施できるとすることが考えられるものの、通訳人が通訳を行う際には発話者の口の動きから発話内容を読み取ったり、表情等を見て通訳を理解しているかどうかを確認したりすることもあるので、正確性の観点からは、同一構内以外にある場所に通訳人を在席させて通訳をさせる方法は、可能な限りビデオリンク方式によるべきであり、音声のみの送受信による方法は、やむを得ないと認めるときに限るのが適切と考えられたので、裁判所は、相当と認めるときは、ビデオリンク方式によって通訳をさせることができるとし、やむを得ない事由があり、かつ、相当と認めるときは、音声の送受信による方法によって通訳をさせることができるとしたのである。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判期日の手続|証拠調べの実施(その2)鑑定・通訳・翻訳|鑑定

公開:2025/10/21

(1)裁判所が、裁判上必要な経験則等に関する知識・経験の不足を補充する目的で、特別の知識・経験を有する者が認識し得る法則または事実、及び事実に法則を当てはめて得られる結論・意見を提供させる一連の手続を鑑定という(法165条)(最判昭和28・2・19集7巻2号305頁)。裁判所に鑑定を命じられた者を「鑑定人」という。鑑定人は、特別の知識・経験に基づき裁判所の判断を補充できる者であれば誰でもよく、この点において、証人が、その人に固有の体験に基づき記憶する事実または推測する事項を供述するのと異なり、代替性がある。召喚に応じない証人について引が許されるのに対し(法 152条・162条),鑑定人について勾引が許されないのは(法171条)、この相違による。(2)鑑定は、特別な知識・経験により裁判所の知識・経験の不足を補充するものであるから、特別の知識・経験がなくとも判断できる事項については、裁判所が自ら判断すべきであり、鑑定を命じるのは相当でない。また、法律学という特別の学識経験に基づく法的判断は、本来裁判所の職責であるから、鑑定人に法律上の判断を求めるべきでない。例えば、被告人の犯行時の精神障害の有無やその犯行に及ぼした影響の有無・程度に係わる機序は、特別の知識・経験を有する精神科医からの補充を要する鑑定事項となり得るが、被告人が心神耗弱か心神喪失かといった責任能力に係る判断すなわち法的判断を鑑定人に水めるのは不当である。実務上、鑑定事項となるのは、被告人の犯行時の精神状態(精神鑑定)、被告人に対するアルコールや覚醒剤等の薬物の影響の有無・程度、被害者の死因や創傷の部位・程度等、医学に関するものが多い。ほかに、銃砲や剣の性能、火災の原因や燃焼過程、区器等に付着した血痕のDNA型や血液型の判定また、交通関係事件では、事故原因の判定のため工学等多様な度からの鑑定が行われることもある。                            鑑定は裁判所の知識・経験の不足を補うものであるから、これによって得られた結果は裁判官の事実認定を補充する一資料に過ぎず、その証明力は裁判官の自由心証に委ねられる(法318条)。最高裁判所は、責任能力判断の前提となる生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度について、専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には、鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり、鑑定の前提条件に問題があったりするなど、これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り、裁判所は、その意見を十分に尊重して認定すべきである旨説示している(最判平成20・4・25 刑集62巻5号155頁)。るとより、鍵定人の意見の尊重は、裁判所の自由心証に基づく合理的事実認定を制約するものではない。(3) 裁判所は事者の請求または職権で証拠決定としての鑑定決定をした上、裁判所が鑑定人を選定して鑑定を命じる(法165条)。鑑定人には、鑑定をする前に宣誓をさせなければならない(法166条、規則128条)。鑑定は裁判所外でなされるのが通例であり(簡単な筆跡鑑定などは公判廷でなされることがある),この場合には、鑑定に関する物を鑑定人に交付することができる(規則130条)。なお、検察官及び弁護人は、鑑定に立ち会うことができる(法170条)。鑑定人は、裁判所の補助者としての性格を有することから強い権限が与えられており、鑑定について必要がある場合には、裁判所の許可状により(法168条2項・4項、規則133条),人の住居等に立ち入り、身体を検査し、死体を解剖し、墳墓を発掘し、または物を破壊することができる(法168条1項、規則 132条)。また,裁判長の許可を得て,書類及び証拠物を閲覧・勝写したり、被告人質問や証人尋問に立ち会って、自ら直接に問いを発することもできる(規則134条)。なお、裁判員の参加する事件については、公判審理が中断するのを避けるため、鰹定手続のうち。鑑定の経過・結果の報告以外のものを公判前に行うことができるようにする「鑑定手続実施決定」に係る規定が設けられている(裁判員法 50条)。なお、被告人の精神または身体に関する鑑定をさせるについて必要があるときは、裁判所は期間を定め病院その他の相当な場所に被告人を留置することができる。これを「鑑定留置」といい(法167条1項)、身体拘束を伴うので鑑定留置状が必要である(法167条2項、規則130の2)。勾留中の被告人に対し銀定留置状が執行されたときは、被告人が留置されている間。勾留はその執行を停止される(法 167条の2)。起訴前の捜査機関の嘱託による鑑定留置については、既に説明した〔第1編捜査手続第6章 112)。(4) 裁判所外で行われた鑑定の結果の報告には、口頭による方法と書面(無定書)による方法がある。口頭の方法による場合は、証人尋問と同様の方式で報告が行われる。これを鑑定人尋間と称する(法 304条)。実務では、鑑定書による報告の方法が多く用いられるが、この場合でも鑑定人は鑑定書に記載した事項について公判期日に尋問を受けることがある(法 321条4項)。特別の知識・経験に基づく鑑定結果について正確な報告を期するという観点からは、鑑定書による方法に利点があるものの、詳細な鑑定書の作成には多大の労力と時間を要するので、近時は、口頭による鑑定結果の報告の方法を併用するなどの動きもある。とくに裁判員裁判においては、裁判員に対し鑑定の結果を分かりやすく伝達する方法が重要な課題であり、そのための工夫(例.公判前整理手続段階での鑑定人と裁判所・訴訟関係人との事前カンファレンス)が試みられている〔第6章3(4)〕。*法制審議会は、鑑定を命ずる手を映像と音声の送受により実施する制度の拡充について、次のような要網((骨子)「第2-3」)を示している。裁判所は、鑑定を命ずる際に鑑定人(国内にいる者に限る。以下同じ)を尋問し、または鑑定人に宣誓をさせる場合において、相当と認めるときは、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、同一構内以外にある場所であって適当と認めるものに鑑定人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、尋問し、または宜誓をさせることができるものとする。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判期日の手続|調べの実施(その1)一証人尋問|証人に対する配慮・保護措置

公開:2025/10/21

(1)証人の公判出頭と証言は、刑事裁判の目的である正確な事実認定にとって極めて重要であり、真実の供述を得るためには、できる限りその心情に配慮し、証言をするに際して不安・懸念が生じないための保護的措置が要請される。体験した事実が出頭・証言に不安・懸念を生じさせる性質・内容である場合や、証人が処罪被害者である場合には、その観点からの配慮が必要である。以下では、これらの証人に係る配慮・保護措置について説明する。(2) 裁判所は、証人を尋問する場合において、証人が被告人の面前(後記遮蔽措置やビデオリンク方式による証人尋問の場合を含む)では圧迫を受け十分な供述をすることができないと認めるときは、弁護人が出頭している場合に限り、検察官及び弁護人の意見を聴き、その証人の供述中被告人を退廷させることができる。この場合には、供述終了後に被告人を入廷させ、証言の要旨を告知し、その証人を尋問する機会を与えなければならない(法 304条の2)。また,裁判長は、証人等が特定の傍聴人の面前で十分な供述をすることができないと思料するときは、その供述をする間,その傍聴人を退延させることができる(規則 202条)。(3) 証人等やその親族の身体、財産への加害行為等がなされるおそれがあり、これらの者の住居その他通常所在する場所を特定する事項が明らかにされると、証人等が十分な供述をすることができないと認められる場合,裁判長は、当該事項についての尋問を制限することができる(法295条2項本文)。ただし、検察官の尋問を制限することで犯罪の証明に重大な支障を生じるおそれがあるとき、被告人・弁護人の尋問を制限することで被告人の防に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは、制限することはできない(法 295条2項但書)。また、これらの加害行為等がなされるおそれがあると認められる場合、検察官または弁護人は、法 299条1項の規定により相手方に証人等の氏名及び住居を知る機会を与えるに当たり、相手方に対しその旨を告げて、当該証人等の住居、勤務先その他通常所在する場所を特定する事項が被告人を含む関係者に知られないようにすること。その他これらの者の安全が脅かされることがないように配慮することを求めることができる(法299条の2)。公判前理手続における氏名・住居の事前告知についても同様である(法316条の23第1項)。                 ✳︎2016(平成 28)年法改正により証人に対する一層の配慮・保護措置として、次のとおり、公開の法廷における証人の氏名等(証人等特定事項)を秘匿する措置、及び検察官による証人の氏名・住居の事前告知を制限できる措置が導入された。裁判所は、次の場合には、証人等から申出があり、相当と認めるときは、証人等の氏名及び住居その他当該証人等を特定させることになる事項(証人等特定事項)を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。①証人等特定事項が公開法廷で明らかにされることにより。証人等またはその親族に対し、身体・財産への加害行為または畏怖・困惑させる行為がなされるおそれがあると認められる場合:②証人等特定事項が公開法廷で明らかにされることにより、証人等の名誉または社会生活の平穏が著しく書されるおそれがあると認められる場合(法290条の3)。前記秘匿決定があったときは、①起訴状及び証拠書類の期読は、証人等の氏名等を明らかにしない方法で行い(法291条3項・305条4項)、②証人尋問・被告人質問が証人等の氏名等にわたるときは、犯罪の証明に重大な支障を生じるおそれ、または被告人の防に実質的な不利益を生じるおそれがある場合を除き、尋問・陳述等を制限することができる(法295条4項)。検察官は、証人等の氏名・住居を知る機会を与えるべき場合において、その証人等またはその親族に対し、身体・財産への加害行為または長怖・困惑させる行為がなされるおそれがあるときは、被告人の防に実質的な不利益を生じるおそれがある場合を除き、条件を付する措置(弁護人には氏名・住居を知る機会を与えた上で、これを被告人には知らせてはならない等の条件を付する措置)をとることができる。また、検察官は、前記条件付与措置では加害行為等が防止できないおそれがあると認めるときは、被告人の防禦に実質的な不利益を生じるおそれがある場合を除き、被告人及び弁護人に対しても、証人等の氏名・住居を知る機会を与えないことができる。この場合には、氏名に代わる呼称、住居に代わる連絡先を知る機会を与えなければならない(法 299条の4第1項・3項)。証拠書類・証拠物の閲覧機会を与えるべき場合についても、そこに記載のある検察官請求証人等の氏名・住居について、同様の匿措置をとることができる(同条6項・8項)。法299条の4が定める証人等特定事項に係る条件付与措置や呼称等の代替開示措置には、裁判所による裁定を求めることができる(法 299条の5)。このような制度について最高裁判所は、次のように説示して合憲と判断している。被告人の防に実質的不利益が生ずる場合は条件付与等措置・代替開示措置をとることはできないが、被告人・弁護人は代替開示措置がとられても証人等と被告人その他の関係者との利害関係の有無を確かめ、予想される証人等の供述の証明力を事前に検討することができ、被告人の防興に実質的不利益を生ずるおそれがない場合はある。また。代替開示措置は条件付与等措置では加害行為等を防止できないおそれがあるときに限られる。被告人・弁護人は裁定請求により裁判所に各措置の取消しを求めることができ、その場合、検察官は、法299条の5第1項各号不該当を明らかにしなければならず、裁判所は、必要なときには被告人・弁護人の主張をくことができ、裁判所の決定に対し即時抗告も可能である。したがって、法299条の4及び法299条の5は憲法37条の2項前段の証人審間権を侵害しない(最決平成第3編公判手続30・7・3刑集 72巻3号 299頁)。**2023(令和5)年の法改正により、証拠開示等における個人特定事項の秘密措置がさらに付加されることとなった。検察官から「起訴状抄本等」の提出があった事件(法271条の2第2項)(第2編公訴第2章11(2)**】については、検察官が法299条1項により証人の氏名及び住居を知る機会または証拠書類もしくは証拠物を関覧する機会を与えるべき場合において、次のような措置をとることができる旨が定められた(法299条の4第2項・4項・5項・7項・9項・10項)。①弁護人に対し、当該氏名及び住居を知る機会または証拠書類もしくは証拠物を関覧する機会を与えた上で、当該氏名もしくは住居または個人特定事項を被告人に知らせてはならない旨の条件を付し、または被告人に知らせる時期もしくは方法を指定すること。②被告人及び弁護人に対し、当該氏名もしくは住居を知る機会を与えず、または証拠書類もしくは証拠物のうち個人特定事項が記載されもしくは記録されている部分について閲覧する機会を与えないこと。ただし、このような措置がとられた場合。裁判所は、被告人の防票に実質的な不利益を生ずるおそれがあるとき等一定の事由に該当すると認めるときは、被告人または弁護人の請求により、前記措置に係る個人特定事項の全部または一部を被告人に通知する旨の決定または当該個人特定事項を被告人に知らせてはならない旨の条件を付して個人特定事項の全部または一部を弁護人に通知する旨の決定をしなければならないとされている(法 299条の5第2項・4項)。(4)2000(平成12)年の法改正により、犯罪被害者に対する配慮と保護を図るための諸措置が導入されたが、証人尋問については、狙罪被害者や配慮・保護を要すると考えられるその他の者が証言する場合の不安・緊張を緩和し、精神的負担を軽減して証言できるようにするための措置が盛り込まれている。第1は、証人への付添いである(法 157条の4)。裁判所は、証人の年齢、心身の状態その他の事情を考慮して、証人が著しく不安または緊張を覚えるおそれがあると認めるときは、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、その不安・緊張を緩和するのに適当であると認める者を、証人の供述中。証人に付き添わせることができる。この証人付添人は、裁判官・訴訟関係人の尋問や証人の供述を妨げたり、供述内容に不当な影響を与える言動をしてはならない。無人の修らに着席してその様子を見守り安心感を与えられる者(例証人の心理カウンセラーや証人が年少者である場合の保護者等)が想定されている。第2は、証人の遮蔽である(法 157条の5)。裁判所は、証人を尋問する場合に、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、証人が被告人の面前で供述するときは、圧迫を受け精神の平線を著しく害されるおそれがあると認める場合に、相当と認めるときは、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、被告人と証人との間で、一方からまたは相互に相手の状態を認識することができないようにするための遮蔽措置を採ることができる。ただし、被告人から証人の状態を認識することができないようにするための措置をとることができるのは、弁護人が出頭している場合に限られる。また、裁判所は、犯罪の性質、証人の名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、傍職人と証人との間を遮蔽する措置をとることもできる。性処罪の被害者などが被告人や職人の面前で証言する際に、他者から見られていること自体により著しい心理的圧迫を受けて心情や名誉が害されるのを防ぐため、法廷内に衝立を設置するなどして証人の姿を遮蔽し、このような圧迫を軽減しようとする趣意である。第3は、ビデオリンク方式による証人尋問である(法157条の6)。訴訟関係人の在席する公判延という場で証言することに伴う心理的圧迫を軽減するため、証人を法廷外の別室に在席させ、別室と法延を回線で接続して、テレビモニターを介して尋問する方式である。裁判官及び訴訟関係人は法廷に在席し、同一構内の別室にいる証人を、映像と音声の送受により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって尋問する。この方式を採ることのできる証人の類型は2つあり、第一は、性犯罪及び児童に対する性的犯罪の被害者である。このような犯罪の被害者は、法廷という場で被害体験を証言すること自体が苦痛・精神的圧迫になるので、裁判所は相当と認めるとき、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、この措置を採ることができる。第二は、罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、裁判官及び訴訟関係人が尋間のために在席する場所で供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者である(例、組織的犯罪の被害者、年少被害者等)(法157条の6第1項)。以上の付添いと,遮蔽及びビデオリンク方式の尋問は組み合わせて実施することができる。なお、ビデオリンク方式による尋問が相当な類型の証人に、同一事実(たとえば性迎罪の被害体験)に関する証言を繰り返させるのは酷であるから、裁判所は、ビデオリンク方式の証人尋問を行う場合に、その証人が後の刑事手続で同一事実につき再び証人として供述を求められる可能性があり、証人の同意があるときは、証人尋問の状況を録画して記録することができる(法157条の6第3項)。この証人尋問の録画(記録媒体)は、公判調書の一部とされ(法157条の6第4項).別の事件等の公判期日にこれを再生し、訴訟関係人に供述者に対する尋問の機会を与えれば、証拠として用いることができる(法321条の2)〔第4福証拠法第5京22)*)。当該記録媒体は、証人の名誉・プライヴァシイ等を保護する観点から、検察官及び弁護人がこれを勝写することはできない(法40条2項・270条2項・180条2項)。遮蔽措置及びビデオリンク方式による証人尋問と憲法上の証人審問権(恋法37条2項前段)との関係について、最高裁判所はこれを合憲と判断している(最判平成17・4・14刑集59巻3号259頁)。憲法上の証人審問権が証人との直接対時まで要請しているとは解していない〔第4編証拠法第5章(4)*)。* 2016(平成28)年法改正により裁判所が相当と認めるとき、証人を裁判官等が尋問のために在席する場所と同一構内以外の場所(例,別の裁判所の庁舎内[規則107条の3参照])に在席させてビデオリンク方式の尋間を行うことができるようにする制度が追加導入された(法 157条の6第2項)。対象となる証人は、①犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態,被告人との関係その他の事情により、同一構内に出頭すると精神の平穏を著しく害されるおそれがある者、②同一構内への出頭に伴う移動に際し、身体・財産への加害行為または怖・困惑させる行為がなされるおそれがある者、③同一構内への出頭後の移動に際し尾行その他の方法で住居、勤務先その他通常所在する場所が特定されることにより、自己またはその親族の身体・財産への加害行為または長怖・困惑させる行為がなされるおそれがある者、④遠隔地に居住し、年齢。職業、健康状態その他の事情により、同一構内に出頭することが著しく困難である者である。**法制審議会は、証人尋間を映像と音声の送受信により実施する制度の拡充を答申している(要網(骨子)「第2-3」。その内容は次のとおりである。(1) 裁判所は、証人(国内にいる者に限る。以下同じ。)を尋問する場合において、※に掲げる場合(後述~ウ)であって、相当と認めるときは、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、同一構内(裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所と同一の構内をいう。以下同じ。)以外にある場所であって適当と認めるものに証人を在席させ。映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、尋問することができるものとする。証人に鑑定に属する供述を求める場合であって、その職業、健康状態その他の事情により証人がその寿間の日時に同一構内に出頭することが著しく困難であり。かつ、証人の重要性、審理の状況その他の事情により当該日時に導問することが特に必要であると認めるとき。イ証人が傷病または障害のため同一構内に出頭することが著しく困難であると認めるとき。ウ証人が刑事施設または少年院に収容中の者であって、次のいずれかに該当するとき。(T)その年齢、心身の状態、処遇の実施状況その他の事情により、同一機内への出頭に伴う移動により精神の平穏を著しく書され、その処遇の適切な実施に著しい支障を生ずるおそれがあると認めるとき。(1)同一構内への出頭に伴う移動に際し。証人を奪取しまたは解放する行為がなされるおそれがあると認めるとき。(2) 裁判所は、証人を尋問する場合において、裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所以外の場所であって適当と認めるものに証人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって尋問するについて、検察官及び被告人に異議がなく、証人の重要性当該方法によって尋問をすることの必要性その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、当該方法によって、尋問することができるものとする。この(2)は、検察官及び被告人の双方が証人に対面して尋問する利益を放棄しており、かつ,手続を主宰し、証人尋問の結果に基づいて判断を行う責任を負う裁判所において支障がないと判断する場合であるから、検察官及び被告人に異議がなく、裁判所が相当と認めるときは、証人尋問をビデオリンク方式により実施することができるとされたのである。なお、令和4年法律48号による改正後の民事訴訟法204条においても、裁判所は「事者に異議がない場合」であって、相当と認めるときは、ビデオリンク方式による証人尋問をすることができるものとしている。なお、対象を国内にいる証人に限定したのは、証人が偽証をしたとしてもその所在国に存在する証拠の収集を我が国の捜査・訴追機関が行うことが困難であり、偽証の立証に困難を生じる上、仮にそれが可能となったとしても、その者が我が国に入国するか、条約等に基づいて引き渡されるなどしない限り、我が国での公判への出頭や裁判の執行を確保できないので、偽証罪による訴追・処罰は現実的に困難であり、そのことを認識している在外証人には、修証罪による訴追・処罰の威嚇力が劣るため、類型的に虚偽供述の誘引が強く働きやすく正確な事実認定の確保の観点から適切でないと考えられたからである。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判期日の手続|証拠調べの実施(その1)一証人尋問|証人の取り調べの方式

公開:2025/10/21

(1) 証人は、各別に尋問しなければならない。後に尋問する予定の証人が在延するときは、退延を命じなければならない(規則123条)。これは、後に尋問される証人が先に尋問される証人の証言により不当な影響を受けるのを防ぐ趣旨である。なお、必要があるときは、証人と他の証人または被告人とを対質させることができる(規則 124条)。証人が耳が聞こえないときは書面で問い。ロがきけないときは、書面で答えさせることができる(規則125条)。(2)法は、証人に対して裁判長または陪席裁判官がまず尋問し、これが終わった後、検察官,被告人または弁護人が尋問するのを原則と規定しているが(注:304条1項・2項)、実務ではこの順形を逆転し(法304条3項、当事者が「交互尋問」の方式で尋問した後、裁判官・裁判員(裁判員法56条)が必要に応じ補充的に尋間する方法が定着している。起訴状一本主義の下で裁判官によるる間を先行させるのは事実上不可能であり、また当事者追行主義の観点からも事者の立証活動たる尋問を先行するのが適切・合理的な運用である。交互尋問とは、証人尋問を請求した当事者側がまず尋問し(主尋問),次に相手方が尋問し(反対尋間)、その後も必要な範囲で交互に証人を尋問する(再主尋問、再反対尋間)方式をいう。再主尋問までは、権利として当事者に認められるが、再反対尋問以降は、裁判長の許可が必要である(規則199条の2)。この過程を通じて、事実認定者の面前で証人の口頭供述の信用性が吟味され、ひいては正確な事実認定に資するのである。交互尋問が円滑・的確に進行するよう、規則 199条の2から 199条の14まで詳細な準が設けられており、検察官・弁護人にはこれを前提とした尋問技術が、裁判官にはこれに基づく的確な訴訟指揮が、要請される。(3)①「主尋間」は、立証すべき事項及びこれに関連する事項について行う(規則 199条の3第1項)。その際には、誘導尋問をすることは原則として許されない(規則 199条の3第3項)。「誘導尋問」には、尋問者の期待する応答を暗示する尋問(例,その人は20歳くらいでしたね=肯定問),はい」「いいえ」で答えることのできる尋問(例,その人は20歳くらいでしたか=認否問),争いのある事実またはいまだ供述に現れていない事実を存在するものと前提しまたは仮定してする寿間(例,その20歳くらいの人は、どんな服装でしたか=前提問)等がある。誘導尋問が原則として許されないのは、主尋問をする側と証人とが敵対的関係にはないため、前記の例のように証人が尋問者の希望・期待に添う迎合的な証言をする危険があるからである。したがって、準備的な事項や争いのない事項については積極的に誘導し、争点に絞った尋問をすることはむしろ有益であり(規則199条の3第3項1号・2号・198条の2),また,証人の記憶が明らかでない場合や証人が主尋問者に対し敵意または反感を示す場合など,誘導尋問によらないと供述が得難く、誘導尋問の弊害が乏しいと考えられる一定の場合には、不相当な誘導とならない限り、誘導尋間は許される(規則199条の3第3現3号~5号)。また、証人が尋問者の子期に反するをした場合には、その「証人の供述の証明力を争うために必要な事項」についても尋問することができる(規則199条の3第2項・199条の3第3項6号)。証人の供述の証明力を手うために必要な事項の尋問とは、証人の観察、記憶または表現の正確性等証言内谷の信用性に関する事項、及び証人の利害関係、偏見、予断等証人の信用性に開する事項についての尋間をいう。ただし、みだりに証人の名を書する事項に及んではならない(規則199条の6)。誘導尋問をするについては、書面の期読その他証人の供述に不当な影響を及ほすおそれのある方法を避けるように注意しなければならない(期間19条の3第4項)。裁判長は、誘導尋問を相当でないと認めるときは、これを制限することができる(規則199条の3第5項)。②「反対尋問」は、主尋問に現れた事項及びこれに関連する事項ならびに証人の供述の証明力を争うために必要な事項について行われ、必要があれば誘導尋問をすることも許される(規則199条の4)。反対尋間の目的は、主尋間において述べられた相手方証人の供述の証明力・借用性を減殺し、可能であれば自己の側に有利な供述を引き出すことにある。しかし、効果的な反対尋間を行うには周到な準備と技能が必要であり、無能故に主尋問の上塗りをし主尋間を補強する壁塗り尋問に堕する例も少なくない。法律家には臨機の目的合理的決断を要する。情勢により反対尋間をしないという判断もあり得よう。なお、連日的開廷による集中的な審理を実現する趣旨で、2005(平成17)年の規則改正により、反対尋問は、特段の事情のない限り,主尋問終了後直ちに行わなければならない旨の規定が追加されている(規則 199条の4第2項)。主尋問とは別の期日に行われる例のあった従前の不健全な運用を改めるものである。反対尋問をする者は、反対尋問の機会に自己の主張を支持する新たな事項についても裁判長の許可を得て尋問することができ,この場合、その事項については主尋問とみなされる(規則199条の5)。③「再主尋問」は、反対尋問に現れた事項及びこれに関連する事項について行うもので、主尋問の例によるが、裁判長の許可を受けたときは、その機会に、自己の主張を支持する新たな事項についても尋開することができる(規則199条の7)。(4)証人の尋問は、できる限り個別的かつ具体的で簡潔な尋問(一問一答方土)によるべきであり、威嚇的または侮辱的な尋問をすることは許されない。また、既にした尋問と重複する尋問、意見を求めまたは議論にわたる尋問。証人が直接経験しなかった事実についての尋問も正当な理由がない限りしてはならない(規則199条の13)。裁判長は、訴訟指揮として、訴訟関係人のする尋間が既にした尋間と重複するとき、または事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは、尋問を制限することができる(法295条1項)。なお、2005(平成17)年の規則改正により。訴訟関係人は、立証すべき事項または主尋問もしくは反対尋問に現れた事項に関連する事項について尋問する場合には、尋問自体やその他の方法によって、裁判所にその関連性を明らかにしなければならない旨の規定が追加された(規則 199条14)これは、関連性の不明確な専間が延々と続くような不相当な事態を改善し、事実認定者に尋問の意図が分かりやすく伝達されるようにする趣意である。また。証人等やその親族の身体・財産に害を加えたり、これらの者を畏怖させ、困惑させる行為がなされるおそれがあって、これらの者の住居、勤務先その他通常所在する場所が特定される事項が明らかにされると証人が十分な供述をすることができないと認めるときは、住居等が特定される事項についての尋問を制限することができる(法 295条2項)[証人等に対する配慮・保護の措置については、5)。(5) 尋問するに当たっては、書面または物や図面などを利用することもできる。ただし、証人に不当な影響を及ぼす危険があり得るので、証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるときに書面または物を提示する場合と、証人の供述を明確にするため必要があるときに図面、写真,模型、装置等を利用する場合には、裁判長の許可が必要である。記憶喚起のためであっても、供述録取書を提示することはできない(規則199条の10・199条の11・199条の12)。*専間に際しての図面等の利用(規則199条の12)は、供述の明確化・表現伝達の正確性確保のために認められているが、利用されるものには、それ自体独立の証拠とならないものも含まれる。当該事件に関して作成された資料については、証人に不当な影響が及ばないような配慮が必要であり、証人の具体的供述を得て記憶の存在を確認した後、その明確化のために写真等を示す運用が行われている。判例は、被害者の証人尋間において、検察官が証人から被害状況等に関する具体的供述が十分にされた後に、その供述を明確化するため、証拠として採用されていない段階で撮影された被害者による被害再現写真を示すことを求めた場合において、写真の内容が既にされた供述と同趣旨のものであるときは、規則199条の12に基づきこれを許可した裁判所の措置に違法はないとしている(最決平成23・9・14刑集65巻6号 949 頁)。**規則199条の10ないし199条の12に基づいて専間に際し示された図面・書画等は、規則49条により公判調書に添付することができるが、それによって図面等が直ちに証拠となるわけではない。証言内容と独立の証拠にするには、別途証拠調べ請求、採用決定、証拠調べが必要である。判例は、被告人質問において被告人に示され、公判調書中の被告人供述調書に添付されたが、これとは別に証拠として取り調べられていない電子メールは、その存在及び記載が記載内容の真実性と離れて証拠価値を有するもので,被告人に対してこれを示して質問をした手続に違法はなく,被告人がその同一性や成立の真正を確認したとしても、それが独立の証拠または被告人の供述の一部となるものではないと説示して、この点を明らかにしている(最決平成 25・2・26刑集67巻2号143頁)。もっとも、独立した証拠として採用されていなかったとしても、証人が示された書面等の内容を実質的に引用しながら証言した場合には、引用された限度においてその内容が証言の一部となり、そのような証言全体を事実設定の用に供することはできるであろう。前記判例(最決平成23・9・14)は、証人に示された被害再現写真が独立した証拠として採用されていなかったとしても、証人がその写真の内容を実質的に引用しながら証言した場合について、この旨を説示している。(6) 以上のとおり、証人尋問は両当事者の主導で進行し、裁判官の尋問は交五尋問が行われた後に補充的になされるのが通例である。しかし、当事者の主導に委ねたままでは審理が不正常・不健全な状態に陥ることもあり得るので、訴訟指揮権を有する裁判長が必要と認めるときは、何時でも、訴訟関係人の証人等に対する尋問を中止させ、自らその事項について尋問することができる(規則 201条1項)。これを裁判長の介入権と称する。もっとも、この介入権限があることをもって、訴訟関係人が法 295条の制限の下で証人等を十分に尋問する権利のあることを否定するものと解釈してはならない(規則 201条2項)。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判期日の手続|証拠調べの実施(その1)一証人尋問|証人の権利義務

公開:2025/10/21

(1)証人の権利として、証言拒絶権と旅費・日当・宿泊料の請求権とがある。なお、証人を保護するための各種措置については後述する〔5〕。証言拒絶権が認められる場合は、次のとおり。①自己が刑事訴追を受け、または有罪判決を受けるおそれのある場合(法146条)。これは憲法の保障する自己負罪拒否特権に基づく(憲法 38条1項)。なお、共犯関係等にある者のうち一部の者に対して刑事免責を付与することにより自己負罪拒否特権を失わせて証言を強制する制度について、かつて最高裁判所は、わが国の憲法がこのような制度の導入を否定しているものとまでは解されないものの、採用するのであれば明文の規定によるべきであり、現行法はこれを採用していないと説示していた(最大判平成7・2・22集49巻2号1頁)。なお、 2016(平成28)年法改正により証人尋問の請求及び実施に際して刑事免責制度が導入されたこと(法157条の2・157条の3)及びその概要については、前記のとおり〔第1編捜査手続第9章Ⅱ 4(3)〕②自己の配偶者、親兄弟その他一定の近親者等が刑事訴追を受け、または有罪判決を受けるおそれのある場合(法147条)。これは恋法上の自己負罪拒否特権とは無関係の政策的規定である(最大判路和27・8・6刑集6巻8号974頁)。共または共同機告人の1人または数人に対してこのような身分関係がある者でも。他の共犯または共同告人のみに関する事項については、証言を拒絶することはできない(法148条)。③業務上委託を受けて他人の秘密に関する事項を知り得る機会のある一定の職業に従事する者が、委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについて証言を求められた場合。法は、医師、歯科医師。助産師、看護師,弁護士(外国法事務弁護士を含む)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者またはこれらの職に在った者を列記している(法149条)。これは、証言絶を認めることで、他人の秘密保持を要請される職業に対する頼を保護しようとする政策的規定であり、主体は限定列挙と解されている(新聞記者に取材源につき証言拒絶権を類推適用することはできないとした判例として、前記最大判昭和 27・8・6)。もっとも、列記されていない職業の証人について、業務上知り得た他人の秘密の保持に憲法上重要な価値(例。表現の自由、取材・報道の自由)が係わる場合には、裁判所は、刑事司法の目的達成すなわち公正・正確な事実認定のため当該秘密事項を公開法廷で証言させることの必要不可欠性と、これにより生じ得る憲法上の価値の制約の質・程度等を衡量勘案して、証言義務を負わすことが適用違憲とならぬよう,その相当性(事前の証拠決定や証言拒絶があった場合の制裁の負荷)について慎重な考慮を要する(取材フィルム等の押収に関する、最大決昭和44・11・26刑集23巻11号 1490頁,最決平成元・1・30刑集43巻1号19頁,最決平成2・7・9刑集 44巻5号421頁参照)。証人に対しては、尋問前に証言拒絶権のあることを告げなければならない(規則121条1項)。証言を拒絶する者は拒絶の理由を示さなければならない(規則122条1項)。前記法改正により導入された証人尋問開始前における免責決定(注157条の2第2項)及び証人尋問開始後における免責決定(法157条の3第2頭)がなされた場合には、証人は自己負罪拒否特権を行使できず。自己が事訴追を受け。または有罪判決を受けるおそれのある証言を拒むことができない(法157条の2第1項・157条の3第1項)。この場合でも、前記近親者の刑事責任(法147条)や業務上秘密(法149条)に関する証言拒絶権を行使することは可能である(規則121条2項~4項参照)。拒絶の理由を示さないときは、過料その他の制裁があることを告げて、証言を命じなければならない(規則122条2項)。なお、正当な証言拒絶権を有する者が、これを放棄して証言することは差し支えない。(2)証人は、旅費・日当・宿泊料を請求することができる(法164条1項)。これらの費用を証人に支給した場合は訴訟費用となる(刑事訴訟費用等に関する法律2条1号)。(3) 証人は、出頭、宣誓、証言の義務を負う。証人尋間とは、法的義務を負わすことにより真実の供述を強制する法制度である。証人が正当な理由なく召喚に応じないとき、または応じないおそれがあるときは、これを勾引することができる(法152条)。従前、法は、証人の召喚につき直接の明文をいていたので、2016(平成 28)年法改正の際に「裁判所は、裁判所の規則で定める相当の猶予期間を置いて,証人を召喚することができる」旨の規定が新設され(法 143条の2),急速を要する場合を除き、24時間以上の猶予期間を置かなければならないとされている(規則 111条)。また、不出頭による期日の空転を防ぐため、召喚に応じない証人の勾引要件を緩和する法改正が行われて、前記のとおり正当な理由なく召喚に応じないおそれがあるときも勾引できるとしたのである。正当な理由なく出頭しない証人に対しては、過料、費用賠償(法150条1項)及び刑罰(法151条)の制裁を負荷することができる。なお、出頭拒否及び後記宜誓または証言拒否に対する刑罰(法151条・161条)の制裁については、その実効性を向上させるため法定刑の引き上げが行われ、1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金とされた。証人の召晩・勾引については、被告人の晩・幻引に関する規定が多く準用される(法153条、規則112条)。裁判所は、指定の場所に証人の同行を命ずることもでき、正当な理由がないのに同行命令に応じない証人は幻引することができる(法162条)。証人が裁判所構内にいるときは、召喚をしないでも、専門することができる。これを在延証人と称する(規則113条2項)。証人には、宣誓の趣旨を理解できない者の場合を除き、宣誓をさせなければならない(法154条・155条110。証人に対しては、まず人違いでないかを確認する人定尋問を行い(規則115条),次いで、証人尋問の前に宣誓を求める(規則117条)。その際、証人が宣誓の趣旨を理解できる者であるかを確認し、必要なときは宜部の趣旨を説明しなければならない(規則116条)。宣誓、良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、また何事も付け加えないことを誓う旨を記載した「宣誓書」を証人に朗読させたうえ、これに署名・押印させる方式で・起立して厳粛に行われる(規則 118条)。貧替した証人には専間前に修証の罰及で証言権が告知される(規則120条・121条)。証人が正当な理由なく含を拒絶したときは、過料・費用賠償・刑罰の制裁がある(法160条1項・161条)。なお、宣誓をく証言には供述の真実性を担保する重要な要素が欠落するので、原則として証拠能力がない。もっとも、宜書の趣旨を理解することができない者の宣誓を欠く証言は別論である(法155条1項)。この者に誤って宣誓させたときでも、その供述は、証言としての効力を妨げられない(法155条2項)。証人には、証言拒絶権がある場合を除き、証言義務がある。正当な理由がないのに証言を拒絶したときは、過料・費用賠償・刑罰の制裁がある(法 160条1項・161条)。

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公判手続き|公判期日の手続|証拠調べの実施(その1)一証人尋問||証人適格

公開:2025/10/21

(1)「裁判所は、・・・・・何人でも証人としてこれを尋問することができる」(法143条)。原則として、証人適格はすべての者にある。ただし、法律上ないし解釈上、一定の例外がある。(2) 公務上の秘密を保護するため、公務員または楽議院議員・参議院議員・内閣総理大臣その他の国務大臣等が知り得た事実について、法は明文で証人適格を制限している(法144条本文・145条1項)。しかし、いずれの場合も国の重大な利益を害する場合を除いては、その監督官庁、院、内閣は証人として尋問することの承諾を拒むことができない(法 144条但書・145条2項)。これらは相対的な欠格事由にとどまる。(3) 証人は、裁判のための証拠を提供する第三者であるから、当該事件の訴訟手続に現に関与している裁判官及び裁判所書記官は、その地位のままでは証人適格がない。担当を離れれば証人となり得るが、それ以後は職務の執行から除される(法 20条4号・26条)。検察官も,現に訴訟当事者の地位にある限り証人となることはできない。しかし、除床の制度はないので、公判立会の職務を他の検察官に委ねて証人となった後に再び元の職務を行うことは可能である(例,被告人を取り調べた検察官と公判立会検察官が同一人物である場合に、その検察官が作成した供述調書の任意性を立証するための検察側の証人として証言し、尋間終了後、再び公判立会検察官に復帰する場合)。(4)被告人については、法が包括的黙秘権・供述拒否権を付与していることから(法311条1項)、原則として証言義務を負う証人の地位とは相容れず、その証人適格を否定すべきものと解されており、実務上も被告人が自己の事件につき証人となることを認めていない。当人が宣誓証言を希望する場合も同様である。もっとも,黙秘権は放棄可能であるから、法改正により被告人に証人適格を認め、被告人が自己のために供述証拠を提供する方法を、被告人質間ではなく、宣証言すなわち証人尋問の方法に純化することは可能であろう[第4編証拠法第4章Ⅳ 2]。弁論が併合され審理されている場合の共同告人の証人適格についても同様であるが、共同被告人は弁論を分離し、当該訴訟手続における救告人の地位を離脱させれば、分離前の相談告人の事件につき証人として雰間することができる(最決昭和31・12・13集10巻12号 1629頁)〔第4編証拠法第5章V2(2)〕。(5)年少者や精神障害害者であっても。証人適格はある。ただし、年少や精神の障害のため、これらの者が直接体験した事実を正確に知覚・認識し、記憶し、これに基づき口頭で表現・叙述する能力を著しくいている場合には、前提として証人に要求される証言能力がないから、証人とすることはできない。また。証言したとしてもその供述に証拠能力を認めることはできない。これは裁判所が、個別的・具体的に判断すべき事項である(年少者の証言について、最判昭和23・4・17刑集2巻4号364頁等、精神障害者の証言について、最判昭和 23・12・24集2巻14号 1883頁参照)。

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公判手続き|公判期日の手続|証拠調べの実施(その1)一証人尋問|証人の意義

公開:2025/10/21

(1)「証人」とは、裁判所または裁判官に対し、自己の直接経験した事実またはその事実から推測した事実を供述する第三者をいい。その供述を「証言」という。自己が直接経験した事実であれば、それが特別の知識・経験によって知ることのできた事実に関するものでもよい(法174条)。この証人をとくに「鑑定証人」と称する(例。医師が自分の診察した患者の当時の症状について供述する場合)。証人が直接経験した事実のみならず、その事実から推測した事実を供述することも差し支えなく(法156条1項)。その場合には特別な知識・経験に基づく推測も許される(法 156条2項)。しかし、直接体験に基づかない単なる想像や個人的な意見の陳述には証拠能力がない〔第4編証拠法第2章Ⅱ 1(5)〕     直接主義・口頭主義は、事実体験者の公判期日における口頭供述を最良証拠とみる原理であり(注320条1項前段)、この意味で証人は最も重要な証拠というべきである。憲法は、刑事被告人に対し、「すべての証人に対して問する機会を充分に与へられ」ることと、「公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する」ことを保障している(意法37条2項)。刑事事実認定における証人の重要性に鑑み、その十分な吟味の機会を基本権として保障したものである。(2) 検察官は、当初から起訴事実を証人の証言により立証しようと,証人尋問の請求を行う場合もある。しかし、従前は、大部分の証人尋問は、目撃者や被害者等の第三者(いわゆる参考人)の司法察職員または検察官に対する供述調書(被害届や告訴調書なども同様)の取調べ請求に対し,証拠とすることについての被告人の同意(法 326条)が得られなかった場合、すなわち、捜査段階で作成された書証の内容に争いがある場合に行われていた。この場合、検察官はその書証(不同意書面と称する)の取調べ請求を撤回し、不同意書面に代えて、原供述者である目撃者等の第三者を証人として取調べ請求するという経緯をたどって証人尋問が行われるのである。もっとも、量刑に関連して、弁護人が請求するいわゆる情状証人の尋問はこのような経緯をたどらずに行われている。近時は、直接主・口頭主義の要請を重視し、両当事者に争いがなく書証に法 326 条の同意が見込まれる場合であっても、事茶の核心となる重要事実(外、被害状況、犯行目撃状況)については、証人で立証する運用が行われている。事実認定者にとって最良・高品質の証拠は、書証ではなく事実を直接体験した者の公利証言であるから、充実した審理と正確な事実認定に金する的確な週用というべきである(第1章Ⅱ 2)。前記いのない事の立証に関する規則の定めは(規則198条の2)このような事の核心部分に関するものではない。このような運用は、むしろ「当該事実及び証拠の内容及び性質に応じた適りな証拠調べ」の実施といえよう。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判期日の手続|公判期日における証拠調べー総説|証拠調べを終わった証拠の処置

公開:2025/10/21

証拠調べを終わった証拠書類または証拠物は、遅滞なくこれを裁判所に提出しなければならない。ただし、裁判所の許可を得たときは、原本に代えてその謄本を提出することができる(法 310条)。提出された証拠書類は、訴訟記録に綴じて保管し,証拠物は領置するのが通常の扱いである。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8
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