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公判手続き|公判手続の関与者|被告人|被告人の保釈及び勾留の執行停止

公開:2025/10/21

保釈と勾留の執行停止は、いずれも勾留の執行を停止して、被告人の身体拘束を解く制度である。なお、2023(和5)年の法改正により、保釈等をされた被告人の逃亡防止と公判期日への出頭を確保するための規定が整備・導入された。その概要は(5)*で説明する。(1)「保釈」とは、一定額の保証金の納付を条件に勾留の執行を停止することである。保釈請求権者すなわち勾留されている被告人,弁護人,法定代理人,保佐人、配者,直系親族,兄弟姉妹は、保釈を請求することができる(請求による保釈[法88条1項])。なお、この請求は、勾留の取消請求と同様,現実の身体拘束が解かれたときは、その効力を失う(法 88条2項・82条3項)。裁判所は、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる(職権による保釈[法 90条])。勾留による拘禁が不当に長くなったときは、前記のとおり、裁判所は、保釈請求権者の請求または職権により、勾留を取り消すか、保釈を許さなければならない(法91条1項)。いずれの場合でも、裁判所が保釈許否の決定をするには、あらかじめ検察官の意見を聴かなければならない(法92条1項)。*2016(平成 28)年の法改正により、職権による裁量保釈について、「適当と認めるとき」の判断に当たっての裁判所の考慮事項が次のとおり明記された。「裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上。社会生活上又は防の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる」(法90条)。ここに列記された考慮事項は、従前から被告人の身体拘束の許否に関する裁判所の判断(例、勾留の必要性・相当性[法60条]。勾留の必要[法87条]。裁量保釈の許否[法90条])において考慮勘案されていた要素を確認的に明記したものである。(2)保釈の請求があったときは、原則として、これを許さなければならない。これを必要的保釈または権利保釈と称する(法89条柱書)。第1審で有罪判決があるまでは無罪の推定があるとされる被告人の地位を考慮したものと説明されている。それ故、第1審で拘禁刑以上の刑に処する判決の宜告があると、必要的保釈の適用はなくなり、保釈の許否は裁判所の裁量となる(法344条)。もっとも。権利保釈には、次の除外事由が定められている。この場合には、保釈請求があっても、裁判所はその裁量により許否を定めてよい。これを任意的保釈または裁量保釈と称する(法 89条1号~6号・90条)。なお、単なる逃亡のおそれは、除外事由とはされていない。①被告人が死刑または無期もしくは短期1年以上の拘禁刑に当たる罪を狙したものであるとき(法 89条1号)。「したものである」とは、現にそのような罪の訴因で起訴されているという意味である。また、罪に当たる訴因と勾留の根拠とされた罪とは同一でなければならない(身体拘束に関する事件単位原則)。勾留の基礎となっていない罪を考慮することはできない。例えば、強盗致傷罪と恐喝罪で起訴されている被告人について、勾留の基礎となっているのが恐喝罪だけである場合には、1号に該当しないことになる。②被告人が前に死刑または無期もしくは長期 10年を超える拘禁刑に当たる罪につき有罪の告を受けたことがあるとき(同条2号)。③被告人が常習として長期3年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき(同条3号)。④被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき(同条4号)。罪証隠滅のおそれの判断方法や判断要素は、手続の発展段階に応じて変動し得る。捜査段階に比し、事案解明のための証拠収集自体は通常完了しているから、隠滅のおそれは一般的には減少している。その上で、公判手続の進行に伴い。例えば、被告人が冒頭手続で公訴事実を認め、検察官請求証拠のすべてに同意し、その取調べが終了するに至れば、罪証隠滅のおそれは著しく減少したと認められる場合が多いであろう。なお、後記公判前整理手続が実施された事件では、第1回公判期日前であっても、整理された争点と当事者の立証計画を前提として、被告人を釈放した場合に、なお客観的に罪証識行為の余地があり得るか:被告人になお罪証減行為に及ぶ意図が認められるか等を具体的・実質的に検討すべきである。4号に当たる場合において、保釈を許可した原々決定を取り消し保釈請求を却下した原決定を違法として取り消し、保釈決定を維持した事例として、取決平成26・11・18刑集68巻9号1020頁,最決平成27・4・15判時2260号129頁がある。⑤被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者もしくはその親族の身体もしくは財産に害を加え、または、これらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき(同条5号)。なお、裁判員の参加する裁判の場合には、裁判員補充裁判員または選任予定裁判員に、面会、文書の送付その他の方法により接触すると疑うに足りる相当な理由があるときも、本号に該当する(裁判員法 64条1項)。⑥被告人の氏名または住居が分からないとき(法 89条6号)。前記のとおり、これらの除外事由に当たる場合でも、職権による裁量保釈(法90条)が可能であるが、その際には、勾留の基礎とされていない被告人の他の犯罪事実を考慮することができる。判例は、「[勾留状が発せられている]事実の事案の内容や性質、あるいは被告人の経歴、行状、性格等の事情をも考慮することが必要であり、そのための一資料として、勾留状の発せられていない・・・事実[被告人の他の公訴事実]をも考慮することを禁ずべき理由はない」と説示している(最決昭和44・7・14刑集23巻8号 1057頁)。13)保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない(法93条1項)。保証金額は、狙罪の性質、情状、証拠の証明力。被告人の性格、資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない(法 93条2項)。正当な理由なく出頭しないときは保釈を取り消して保証金を没取する(法86条)という心理的強制により被告人の逃亡を防止して出頭を確保しょうとするのが保釈制度であることから、このような考慮事項が定められている。また。保釈を許す場合には、被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を付けることができる(法93条3項)。この条件も、被告人の出頭を確保する趣意であるから、それと無関係な条件を付けることは許されないというべきである(例.もっぱら再犯防止のための条件は不可)。なお、2023年の法改正により、裁判所の許可を受けないで指定された期間を超えて制限された住居を離れてはならない旨の条件を付して保釈を許す場合を想定した規定が付加された(法93条4項~8項)。被告人が当該条件に係る住居を離れ、許可を受けず正当な理由なく当該期間を超えて住居に帰着しないときは、2年以下の拘禁刑で処罰される(法95条の3)。保釈許可決定は、保証金の納付があった後でなければ、これを執行することができない(法 94条1項)。裁判所は、保釈請求権者でない者に保証金を納めることを許すことができる(法 94条2項)。裁判所は、有価証券または裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書をもって保証金に代えることを許すことができる(法94条3項)。保釈の保証書には、保証金額及びいっでもその保証金を納める旨を記載しなければならない(規則 87条)。保証金の納付がなされると,裁判所はその旨を検察官に通知し,検察官の執行指揮により被告人の身体拘束が解かれ釈放される(法472条1項本文・473条参照)。(4) 裁判所は、適当と認めるときは、職権による決定で,勾留されている被告人を親族、保護団体その他の者に委託し、または被告人の住居を制限して、勾留の執行を停止することができる(法95条1項)。保釈と異なり保証金の納付は不要である。勾留の執行停止には、その期間を指定し、終期となる日時に出頭すべき場所等を指定することができる旨が 2023年改正により明文化された(法95条2項~5項)。期間を指定されて勾留の執行停止をされた被告人が、正当な理由なく終期として指定された日時に指定された出頭すべき場所に出頭しないときは、2年以下の拘禁刑で処罰される(法95条の2)。なお、執行停止は裁判所の職権によってのみなされるので、被告人や弁護人の申出は、裁判所の職権発動を促すものにとどまる(裁判所に応答義務はない。最判昭和24・2・17州集3巻2号184頁)。勾留の執行を停止するには、原則として検察官の意見を聴かなければならない(規則88条)。委託による勾留執行停止の場合には、委託を受けた親族、保護団体その他の者から、いつでも召喚に応じ被告人を出頭させる旨の書面を差と出させなければならない(則90条)。(5) 裁判所は、次の場合には、検察官の請求または職権により、決定で、保釈または勾留の教行停止を取り消すことができる(法96条1項)。いずれも被告人の身体物を期間・継続する合理的理由と必要性が生じた場合である。①被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。②被告人が逃亡しまたは逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。③被告人が罪証を隠滅しまたは罪証を隠減すると疑うに足りる相当な理由があるとき。④被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者もしくはその親族の身体もしくは財産に害を加えもしくは加えようとし。または、これらのものを怖させる行為をしたとき。なお、裁判員の参加する裁判の場合,裁判員、補充裁判員または選任予定裁判員に、面会、文書の送付その他の方法により接触したときも本号に該当する(裁判員法 64条1項)。⑤被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。⑥被告人が、正当な理由なく、後記「報告命令」(法95条の4)の規定による報告をせず、または虚偽の報告をしたとき。保釈を取り消す場合,裁判所は、決定で保証金の全部または一部を没取することができる(法 96条2項)。保釈された者が、刑の言渡しを受けその判決が確定した後、執行のため呼出しを受け正当な理由がないのに出頭しないとき、または逃亡したときは、検察官の請求により、決定で、保証金の全部または一部を没取しなければならない(法 96条7項)。保証書が提出されている場合は、検察官が保証書を差し出した者に納付命令を出して執行する(法 490条)。没取されなかった保証金は、保釈の取消しまたは失効により被告人が刑事施設等に収容されたとき、これを還付する(規則91条1項2号・305条)。勾留の取消し、失効、再保釈等の場合も還付する(規則91条1項1号・3号、2項)。勾留の執行停止の期間が満了したときは、勾留の執行停止は、当然にその効力を失う。また、拘禁制以上の刑に処する判決の質告があったときる、保釈または勾留の執行停止は、その効力を失う(注343条)。保釈もしくは部の執行停止について、その取消しまたは失効があったときは、新たに保釈もしくは勾留の執行停止がなされない限り,検察事務官,司法察職員または刑事施設職員等は、検察官の指揮により、勾留状の謄本とこれらの取消決定の謄本または期間を指定した勾留の執行停止の決定の謄本を被告人に示して、これを刑事施設等に収容しなければならない(法98条1項・3項・71条・343条後段、刑事収容施設法286条、規則92条の2・305条)。急速を要する場合には、検察官の指揮により、被告人に対し、保釈または勾留の執行停止の取消しがあったことなどを告げて刑事施設等に収容することができるが、その後できる限り速やかに前記の書面を示さなければならない(法98条2項、刑事収容施設法 286条)。2023年改正により、検察官は、保釈等を取り消す決定があった場合または拘禁刑以上の刑に処する判決の賞告により保釈等がその効力を失った場合に、被告人に対し、指定する日時及び場所に出頭することを命ずることができるとされた(法98条の2・343条の2)。出頭命令に違反して指定された日時・場所に出頭しないときは、2年以下の拘禁刑で処罰される(法98条の3・343条の3)。*「公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備に関する諮問第110号」法制審議会答申(2021年10月)に基づき制定・公布された 2023年法改正(和5年法律28号)対応部分の概要は、次のとおりである。本文中に記載したものや未施行の規定も併せてその内容と趣旨を説明する。諮問第110号は「近時の刑事手続における身体拘束をめぐる諸事情に鑑み、保釈中の被告人や刑が確定した者の逃亡を防止し、公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法の整備を早急に行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい。」というもので、刑事法(逃亡防止関係)部会における審議を経て、11項目からなる要綱が法制審議会により答申され、令和5年第211回国会において下記の条項として立法化された。その第一は、裁判所が、保釈中または勾留執行停止中の被告人に対し、逃亡のおそれの有無の判断に影響のある住居や労働または通学の状況など、生活上または身分上の事項やその変更の報告を命じ得るとする報告命令制度の創設である(法95条の4・96条1項5号)。裁判所が保釈中の被告人の生活状況等を適時に把握し、逃亡のおそれの程度を適切に判断して、保釈の取消しなどの必要な措置を講じることができるようにするものである。第二は、裁判所が保釈中または勾留執行停止中の被告人を監督する者を選任する監督者制度の創設である(法98条の4・98条の8・98条の9・98条の11等)。具体的には、裁判所が、保釈中の被告人の逃を防止し、公判への出頭を確保するために、被告人を監する「監督者」を選任することができるとし、裁判所は、この監督者に対して、被告人と共に出頭することや、被告人の生活上または身分上の事項について報告することを命じることができ、監督者がその義務に違反した場合や、被告人が逃亡するなどしたことによりその保釈が取り消された場合には、監督者が付した監保証金を没取し得るものとする。この制度については、監督者としての法的責任を引き受ける者は限られるのではないかとの指摘もあったが、保釈中の被告人の逃亡を防止するための選択肢として有益な場合があるとして、新設された。第三は、公判期日への出頭等を確保するために必要な処罰規定の新設である。次のとおり手続の各段階に応じて罰則を設ける。①保釈中の被告人が、召喚を受けて正当な理由なく公判期日に出頭しない行為(公判期日への不出頭罪・法278条の2)。②制限住居を離れた保釈中の被告人が、裁判所の許可を受けないで裁判所の定める期間を超えて帰着しない行為(制限住居離脱罪・法 95条の3)、③保釈を取りされた被告人が、検察官から出頭を命ぜられたにもかかわらず正当な理由なく出頭しない行為(出頭命令違反の罪・法98条の2・98条の3・343条の2・343条の3),④勾留の執行を停止された被告人が、執行停止期間の満了時に指定された場所に正当な理由なく出頭しない行為(勾留執行停止期間満了後の不出頭罪・法 95条の2),⑤死刑拘禁刑または拘留が確定した者が、検察官から出頭を命ぜられたにもかかわらず正当な理由なく出頭しない行為(刑の執行のための呼出を受けた者の不出頭罪・法 484条の2)。これらの罪の法定刑は、犯人蔵匿等の罪(刑法103条)の法定刑の上限が3年とされていることなども踏まえ、いずれも「2年以下の拘禁刑」とされた。これらの罰則の新設については、被告人が公判期日に出頭しなかった場合などには、保釈の取消しや保釈保証金の没取という既存の制裁で対処すれば足りるといった意見もあったが、それらの制裁が必ずしも十分な抑止力として機能しない場合もあるため、逃亡の防止や出頭確保の観点から、罰則を設けることが必要かつ相当とされたのである。第四は刑法の改正である。現行法の逃走罪及び加重罪の主体を、「法令により拘禁された者」に統一・拡大するとともに、逃走罪の法定刑を、現行の「1年以下」から「3年以下の拘禁刑」に引き上げる。改正前の刑法の逃走罪(刑法 97条)の主体は、「裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者」とされているために、例えば、逮捕状により逮捕されて刑事施設に収容中の者や、勾留状の執行を受けて身柄を拘束されたものの、刑事施設に収容されるに至っていない者が禁から脱して逃走したとしても、この罪は成立しないものとされていた。その上、その法定刑は1年以下の拘禁刑とされており、主体の範囲及び法定刑のいずれの観点からしても、法令により拘禁された者の逃亡を防止する上で十分なものとは言い難い状況にあった。そこで、令状の種類の違いや刑事施設への収容の前後により犯罪の成否を分ける合理性はなく、法令上認められる身体拘束は等しく保護されるべきと考えられることから、その主体を「法令により拘禁された者」に改めるとともに、逃走罪の法定利について、犯人蔵密等の罪の法定刑なども踏まえ、その長期を3年とするものである。第五は、裁判所の命令により、保釈中の被告人にいわゆる GPS端末を装着させ、一定の区域に侵入した場合には速やかにその身柄を確保することで国外への逃じを防止する制度を新設するものである(法98条の12~98条の24)。この制度については、対象となる被告人の範囲をめぐって、国外逃亡の防止に限らず。国内における逃亡の防止や、被害者を含む証人等への接触の防止のためにも活用できる要件にすべきであるといった意見もあったが、国外に逃亡すると我が国の主権が及ばないため、公判への出頭確保が事実上できなくなることからこれを阻止する必要性が特に高く、また、海空港への接近を探知して身柄を確保するなど、GPS端末を有効に活用する方法も明らかであること、制度を円滑に導入し定着させていくためには、特に活用の必要性が高く、効果的に活用することができ、連用に伴う困難も少ないと見込まれる国外逃亡の防止が必要な場合に限定するのが適切であることから、国外逃亡の防止を目的とした制度として、新設された。第六は、拘禁刑以上の実刑判決の宜告後における裁量保釈の要件の明確化である(法344条2項)。拘禁刑以上の実刑判決が宜告された後の裁量保釈(法90条)については、判決の食告前と比較してより制限的に適用されるべきであるとするのが法の趣旨と解されていることから、その趣旨を明確化するものであり、拘禁刑以上の実刑判決があった後の裁量保釈は、法90条に規定する保釈されない場合の不利益その他の不利益の程度が著しく高い場合でなければならないものとし、ただし、実刑判決後でも、保釈された場合に被告人が逃亡するおそれの程度が高くないと認めるに足りる相当な理由があるときは、この限りでないものとする。第七は、保釈中または勾留執行停止中の被告人に対し,控訴審の判決宣告期日への出頭を義務付け、原則としてその出頭がある場合にのみ、判決を宣告する制度を新設するものである(法 390条の2・402条の2)。現行法上、控訴審においては、被告人に公判期日への出頭義務がないため、保釈中の被告人に拘禁刑以上の実刑判決が宣告されて保釈が失効しても、その場で直ちに収容することができるとは限らず、それによって逃亡の機会を与えてしまうことのないように、判決告期日への出頭を義務付けるなどして、保釈が失効した場合の収容を確保するものである。第八は、拘禁刑以上の実刑判決の宣告を受けた後に保釈された者が逃亡した場合には、必ず保釈を取り消し、保釈保証金の全部または一部を没取しなければならないとするものである(法96条4項・5項)。これは、保釈の取消しや保釈保証金の没取の威嚇力による逃亡抑止力を、より一層高めることを目的とする。第九は、拘禁刑以上の実刑判決の賞告を受けた者や罰金の裁判の告知を受けた者の国外を防止し、刑の執行に困難を来すことにならないようにするために、裁判所の許可なく出国することを禁止し、これに違反した者の身体拘束ができる出国制限制度の創設である。拘禁制以上の実刑判決の管告を受けた者は、その判決自体の効力として裁判所の許可なく本邦から出国してはならないものとし(注342条の2)。開金の裁判の管知を受けた被告人やその裁判が確定した者のうち、開金を完納できないこととなるおそれがあるときは、裁判所の許可なく出国することを禁止する命令を裁判所が発することができるものとする(法345条の2等)。第十は、裁判の執行に関する調査として、裁判官の発する令状により差押えや検証等の強制処分ができるとするものである(法508条1項・509条~516条)。従前裁判の執行に関する調査については、公務所や公私の団体に必要な事項の報告を求めることができる旨の規定(改正前法 508条)などがあるのみで、捜査・公判段階であれば可能な差押えや検証などの強制処分も、裁判の執行の段階においては行うことができず、刑が確定した者の収容や罰金の徴収等に支障を来す例が少なくないという実情に対処するものである。第十一は、刑の言渡しを受けた者が国外にいる期間、刑の時効を停止するものである(刑法33条2項)。公訴時効については、現行法上も犯人が国外にいる場合、その期間。時効の進行を停止することとされているが、刑の時効については、時効を停止する仕組みがないため、刑が確定した者が国外に逃亡しても、時効は進行し、刑の執行ができなくなるという状態が生じる。そのようなことがないようにするため、国外にいる間は、時効の進行を停止するとしたものである。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判手続の関与者|被告人|被告人の出頭確保-召喚・勾引・勾留

公開:2025/10/21

(1)前記のとおり、被告人が出頭しなければ公判手続を行うことができないのが原則である(第1率1(3/4)。それ故、被告人の出頭を確保するための強制処分として、被告人の召喚・勾引・勾留が認められている。以下、その意義と要件等について説明する。(2)「召喚」とは、特定の者に対して、一定の日時に一定の場所に出頭すべきことを命ずる裁判である。被告人(法57条)のほか、証人、鑑定人。通訳人翻訳人、身体検査を受ける者に対しても行うことができる。正当な理由がないのに召喚に応じない被告人は、後記のとおり、これを引することができる(法58条2号)。ただし、被告人に出頭義務がない場合(法283条・284条・285条)の召喚は、出頭の機会を与える意味しかないので、これに被告人が応じなくても、勾引することはできない。裁判所は、規則で定める相当の猶予期間を置いて、被告人を召喚することができる(法57条・275条)。公判期日には被告人を召喚しなければならない(法273条2項)。召喚状の送達と出頭との間の猶予期間は、原則として最少限度12時間(規則67条1項)であるが、第1回公判期日については、簡易裁判所の場合3日、その他の裁判所の場合5日である(規則179条2項)。もっとも、この猶予期間は被告人の利益のために設けられているのであるから、被告人に異議のない場合は、これを置かなくてもよい(規則67条2項・179条3項)。召喚は召喚状を発して行う(法 62条)。召喚状には一定の事項を記載し(法63条、規則102条),原本を送達する(法65条1項)。ただし、次の場合には、召喚状の送達があった場合と同一の効力が認められる。①被告人から期日に出頭する旨を記載した書面を差し出したとき(法65条2項)、②出頭した被告人に対し、口頭で次回の出頭を命じたとき(法65条2項)、③裁判所に近接する州事施設等にいる被告人に対し、刑事施設職員等を介して通知したとき(法65条3項、刑事収容施設法 286条),④裁判所の構内にいる被告人に対し、公判期日を通知したとき(法 274条)。また。裁判所は、必要があるときは(例、検証の立会い[法113条3項・11条)、指定の場所に被告人の出頭または同行を命ずることができる。召喚状によらず、猫子期間を要しない。召喚によるべき場合を出頭命令で代えるのは許されない。出頭命令・同行命令について、被告人が正当な理由がないのにこれに応じないときは、その場所に引することができる(法88条)。急速を要する場合には、裁判長または受命数判官も、召喚、出頭命令、同行命令をすることができる(法69条、則71条)。(3)「勾引」とは、特定の者を、一定の場所に引致する裁判及びその執行をいう。被告人のほか、証人や身体検査を受ける者に対しても行うことができる。裁判所が被告人を引することができるのは、被告人が、①住居不定のとき、②正当な理由がなく召喚に応じないとき、または応じないおそれがあるとき、③正当な理由がなく出頭命令、同行命令に応じないとき、のいずれかに当たる場合である(法58条・68条)。急速を要する場合には、裁判長または受命裁判官も引をすることができる(法69条、則71条)。勾引は、一定の事項(法64条、規則102条・71条)を記載した勾引状を発して行わなければならない(法62条)。なお、裁判所は、勾引を他の裁判所の裁判官に嘱託することができる(法66条・67条、規則 76条)。勾引状は、検察官の指揮により、検察事務官または司法察職員が執行する(法70条1項本文・71条)。その場合、勾引状を発した裁判所または裁判官は、その原本を検察官に送付する(規則 72条)。なお、急速を要する場合には、裁判官も執行を指揮することができる(法 70条1項但書)。被告人の現在地が分からないときは、裁判長は、検事長にその所在捜査及び勾引状の執行を嘱託することができる(法72条)。勾引状の執行は、これを被告人に示した上、できる限り速やかに、かつ直接、指定された裁判所その他の場所に引致しなければならない。受託裁判官が発した場合は、その裁判官に引致しなければならない(法 73条1項)。急速を要する場合には、被告人に公訴事実の要旨と勾引状が発せられている旨を告げて、その執行をすることができるが、その後できる限り速やかに、勾引状を示さなければならない(法73条3項)。勾引状の執行を受けた被告人を護する場合において必要があるときは、仮に最寄りの刑事施設に留置することができる(法 74条、刑事収容施設法286条)。被告人を勾引したときは、直ちに被告人に対し公訴事実の要旨を告げ、弁護人がないときは、弁護人選任権と国選弁護人選任請水権があることを告げなければならない(法76条1項)。この告知は、受命裁判官または裁判所書記官にさせてもよい(法 76条3項・4項)。勾引された被告人は、弁護人がないときは、裁判所または刑事施設の長もしくはその代理者に弁護士、弁護士法人または弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる(法78条1項、刑事収容施設法 286条)。なお、この旨も被告人に教示しなければない(法76条2項)。被告人の申出を受けた前記裁判所等は、直ちに被告人の指定した弁護士、弁護土法人または弁護士会にその旨を通知しなければならない(法78条2項)。勾引状による身体拘束の持続時間は、指定の場所に被告人を引致した時から24時間であり(法59条・67条3項・68条後段)。その間必要があれば、被告人を刑事施設等に留置することができる(法 75条、刑事収容施設法286条)。この時間を経過すると勾引状の効力は消滅するので、それまでに勾留状が発せられない限り、被告人を釈放しなければならない(法59条)。(4) 被告人の出頭を確保するため一定期間その身体を拘束する「勾留」の要件・手続等は次のとおりである。なお、捜査手続で行われる被疑者の勾留〔第1編捜査手続第3章Ⅲ〕との相違点にも留意する必要がある。(a) 勾留の意義と要件「勾留」とは、被告人の身体を拘束する裁判及びその執行である。「未決勾留」とも称する(法495条、刑法21条)。もとより、刑罰ではないが、被告人の身体拘束はその事実上の効果において自由刑の執行に類似するから、一定の場合にこれを本刑に算入すべきものとされている(本刑通算という)(法495条、刑法21条)。勾留の第1次的目的は、被告人の公判出頭を確保し、証拠隠滅を防止するという公判審理に係るものである。このほか、有罪判決確定の場合に備えて自由刑の執行を確保する目的をも併有する側面がある(最決昭和25・3・30 刑集4巻3号457頁参照)。裁判所が被告人を勾留することができる要件は、被告人が罪を狙したことを疑うに足りる相当な理由がある場合であって、かつ、被告人が、①住居不定のとき、②罪証を隠減すると疑うに足りる相当な理由があるとき、③逃亡しまたは逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき、のいずれかに該当する場合で、さらに勾留という長期間の身体拘束を行う必要性・相当性が認められる場合である(法60条1項)。なお、一定の軽徴な犯罪については、被告人が住居不定の場合に限り、勾留することができる(法60条3項)。急速を要する場合には、裁判長または受命裁判官も勾留を行うことができる(法69条)。前記、勾留の必要性・相当性については明文がないが、身体拘束処分を行わなければならない積極的必要性と拘束により生じるであろう被告人の不利益とを衡量勘案して、前者が微弱である場合や後者が著しく大である場合には、勾留の実質的必要性を欠き、勾留は相当でないと判断すべきである。当該犯罪の重大性と嫌疑の程度、狭義の必要性たる逃亡・罪証隠滅のおそれの程度等という勾留の積極的必要性の程度が衡量要素に含まれることになる。家出中で住居不定に該当する被告人について、確実な身引受人によりその公判出頭が確実と認められる場合や、勾留の理由はあるものの、被告人の年齢・健康状態を勘案して長期間の身体拘束が相当でないと認められる場合等がその例である。*狭義の勾留理由すなわち「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断は、手続の発展段階等その判断時点における諸般の事情により変動し得るはずであり、理由ありとされる嫌疑の程度は、手続段階等判断時機により異なり得る。それは、例えば、捜査段階において通常逮捕の理由と被疑者勾留の理由の文言が同じであっても、捜査の進捗により、勾留段階ではより高度の嫌疑を要すると解されているのと同様である。被告人の勾留について、裁判所は、法60条の要件があり、かつ、その必要性があるときは、職権で被告人を勾留することができ、その時期には特段の制約がないから、例えば、控訴審裁判所が、第1審の無罪判決の賞告により勾留状が失効した被告人(法 345条参照)を法60条で再留することも可能である(最決平成 12・6・27刑集54巻5号461頁)。しかし、被告人が第1審で無罪判決を受けたという事実を尊重すべき手続段階においては、法 60条の「相当な理由」の判断は、「無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされなければならず,嫌疑の程度としては、第1審段階におけるものよりも強いものが要求されると解するのが相当である」(最決平成19・12・13刑集61巻9号843頁)。また、必要性・相当性についても慎重な判断を要する(最決平成23・10・5刑集65巻7号977頁)。(b)勾留の手続身体不束のまま起訴された被告人を勾留する場合の手続は、のとおりである。なお、被疑者段階において検察官の請求により勾留された者が、同一の犯罪事実で勾留期間中に起訴された場合には、起訴と同時にそれまでの被疑者勾留が被告人留に切り替わり、特別の手続なしに被告人勾留が開始されることになる(法208条1項・60条2項)。蔵疑者勾留との大きな適いは、被告人の幻間が、すべて職権によるものであり、検察官に勾留請求権が認められていない点である(実務上、検察官が起訴に際して用いる「求状」という語は、身体不束の被告人について、裁判所または裁判官の職権発動すなわち勾留の裁判を促す申出である)。身体不拘束の被告人を勾留するには、逃亡している場合を除き、被告人に対し、被告事件を告げこれに関する陳述を聴く「勾留質問」を行わなければならない(法61条)。なお、逮捕留置中の被疑者に対して公訴提起があった場合には(このような逮捕中の起訴に際して検察官が裁判官に対し被告人としての勾留の職権発動を求めることを「逮捕中求状」と称する),「裁判官」が、速やかに,被告事件を告げ、これに関する陳述を聴く。裁判官は勾留状を発しないときには、直ちに被告人の釈放を命じる(法 280条2項)。被告人に弁護人がないときは、弁護人選任権と国選弁護人選任請求権があることを告げなければならない(法77条1項)。この告知に当たっては、法78条1項に定める弁護人選任に係る事項〔前記(3)」の教示をしなければならない(法77条2項)。この告知等は、受命裁判官または裁判所書記官にさせてもよい(法77条4項・76条3項)。実務上は、勾留質問の際にこの告知と後記勾留通知先の指定聴取等を行うのが通例である。被告人が逃亡していた場合には、勾留後直ちに弁護人選任権と公訴事実の要旨とを告げるとともに、前記弁護人選任に係る事項の教示をしなければならない(法 77条3項)。勾留は、一定の事項(法 64条、規則70条・71条)を記載した「勾留状」を発して行わなければならない(法62条)。勾留状の執行方法は、前記引状の場合とほほ同様である(法70条1項・71条・72条・73条3項・74条、規則72条)。勾留状を執行するには、これを被告人に示した上、できる限り速やかに、かつ、直接、指定された刑事施設等に引致しなければならない(法73条2項、刑事収容施設法 286条)。刑事施設等にいる被告人(例、別件で身体拘束中の者、刑の執行中の者)に対して発せられた勾留状は、検察官の指揮により、刑事施設職員等が執行する(法70条2項,刑事収容施設法 286条)。被告人を勾留したときは、直ちに弁護人にその旨を通知しなければならない。被告人に弁護人がないときは、弁護人選任権者である被告人の法定代理人、保佐人、配者、直系の親族及び兄弟姉妹のうち被告人の指定する者1人にその旨を通知しなければならない(法79条)。これらの者がないときは、被告人の申出により、その指定する者1人(例,友人、雇主、住居管理人等)にその旨を通知しなければならない(規則79条)。なお、検察官は、裁判長の同意(移送の同意という)を得て、勾留されている数告人を他の刑事施設等に移すことができるが、このような勾留場所の変更は、直ちに裁判所と弁護人に通知しなければならない。被告人に弁護人がないときは、勾留したときと同様に、被告人の指定する者1人に、この旨を通知しなければならない(規則 80条・305条)。裁判所(裁判官)は、移送により生ずる被告人の利益・不利益と公判への支障の有無・程度等を考慮して、職権で移送決定(命令)を発することもできると解される(最決平成7・4・12集49巻4号 609頁)。(c) 勾留中の被告人との接見・交通身体拘束された被告人は、自ら公判準備・防禦準備を行うことができないので、とくにその補助者となる弁護人との接見・交通を保障しなければならない。勾留されている被告人は、弁護人と立会人なくして接見し、または書類その他の物の授受をすることができる。弁護人選任権者の依頼により弁護人となろうとする弁護士及び裁判所の許可を得て選任された特別弁護人に対しても同様である(法 39条1項)。なお、この接見・授受については、法令で逃亡,罪証隠滅,戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができる(法 39条2項,規則30条等)。捜査段階の被疑者勾留とは異なり被告人の被告事件について捜査機関が接見指定をすることはできない(法 39条3項)。前記弁護人等以外の者とも、被告人は、法令の範囲内で、接見・授受ができる(法80条)。ただし、裁判所は、被告人に逃亡または罪証隠滅のおそれがあるときは、検察官の請求により、または職権で、弁護人等以外の者との接見を禁じ,またはこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁じ、もしくはこれを差し押えることができる(法81条)。これを接見等禁止決定という。勾間によっては防止できない程度の逃亡・罪証隠滅のおそれが必要であり、実務上行われている接見等禁止のほとんどは、罪証隠滅のおそれを理由とするものである。勾留理由である罪証隠滅のおそれの審査と同様、具体的・実質的な検討・判断が必要である。(a) 勾貿期間と勾留更新勾留状による身体拘束の効力が継続する期間を勾留期間という。被疑者勾留のまま起訴された被告人の勾留期間は,公訴提起があった日から2ヶ月である(法 60条2項)。公訴提起後はじめて勾留された被告人の勾留期間は、現実に身体拘束が開始された日、すなわち勾留状の執行により被告人を指定の刑事施設等に引致した(法73条2項)日から起算すべきである。身体拘束は被告人に対する不利益処分であるから、期間計算については、時効期間に関する規定を準用して、初日を算入し、末日が休日でも期間に算入する(法 55 条参照)。2ヶ月の勾留期間が満了しても、とくに継続の必要がある場合には、裁判所は、具体的にその理由を附した決定で、1ヶ月ごとに勾留期間を更新することができる。これを勾留更新という。更新は原則として1回に限るが、次の場合は更新回数に制限がない(法 60条2項)。①被告人が死刑、無期もしくは短期1年以上の自由刑に当たる罪で起訴されているとき、②被告人が常習として長期3年以上の自由刑に当たる罪で起訴されているとき、③被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき、④被告人の氏名または住所が分からないとき。なお、被告人に拘禁刑以上の実刑判決の食告があった場合には、勾留更新回数の制限は適用されなくなる(法344条)。未確定ではあっても有罪判決賞告によりそれまでの。いわゆる無罪推定状態が失われ、逃亡のおそれが判決宜告前より高まり、刑の執行のため身体を確保する必要性が強まるからである。(e) 勾留の効力の消滅勾留状が失効した場合、または、勾留の取消しがあった場合には、勾留状による身体拘束の効力が消滅する。次の場合,勾留状が失効する。①勾留期間が満了したとき、②無罪、免訴刑の免除、刑の全部の執行猶予、公訴棄却(法338条4号の場合を除く)、罰金または科料の裁判の告知があったとき(法 345条)。これらの場合,一般に被告人の逃亡のおそれは減少し、刑の執行確保のため身体拘束をする必要性も乏しくなるからである。③前記以外の終局裁判が確定したとき。被告人の勾留は当該事件の審判と刑の執行確保のためであるから、終局裁判の確定と共に勾留状は失効する。その場合、勾間の取消しの裁判がなされる。①間の理由または必要がなくなったとき(法87条1項)、②勾留による拘禁が不当に長くなったとき(法91条1項)。これらの場合。裁判所は、被告人、弁護人、法定代理人、保佐人、配構者、直系の親族もしくは兄弟姉妹の請求(①の場合は検察官も含む)により、または職権で、決定をもって何間を取り着きなければならない。ただし、講来は、後記の保釈や勾留の執行停止等により現実の身体拘束が解かれたときは、その目的を達したものとして、その効力を失う(法87条2項・91条2項・82条3項)。勾留の取消決定をする場合には、原則として検察官の意見を聴かなければならない(法 92条)。なお、勾留の理由の開示制度については、被疑者勾留に際して説明したとおりである〔第1編捜査手続第3章5(2)〕

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判手続の関与者|被告人|被告人の意義と訴訟法上の地位

公開:2025/10/21

(1) 刑事手続において公訴を提起された者を「被告人」という。他の被告人の事件と併合審判される場合は、それらの被告人を「共同被告人(相被告入)」と称する。起訴状には、被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項が記載され(法 256条2項1号),公訴の効力は、検察官の指定した被告人以外の者には及ばない(法249条)。被告人の特定については、既に説明したとおりである〔第2編公訴第2章112)。(2) 刑事訴訟において、一般的にその当事者になり得る地位を想定することができる。これを「当事者能力」という。検察官について問題はないので、これは被告人になり得る一般的適格の問題となる。刑事訴訟は刑罰権の具体的適用実現の可否を判断することを目的として起動される制度であるから、およそ受刑の可能性が全くあり得ない者は被告人となり得ない。それ以外の主体には、当事者能力がある。自然人であれば、年齢、国籍を問わず、一般的には当事者となり得る。法人及び法人格のない社団・財団等については、実体法に処罰規定がない場合、処罰の可能性がないが、法は、起訴後に被告人が死亡したときまたは法人が存続しなくなったときは、決定で公訴を棄却すべきものとしており(法 339条1項4号),既に死亡している者や存在しない法人に対して公訴提起があったときも同様に扱われるのが適切であろう。このような主体には当事者能力がないとして公訴棄却すべきである。これに対して、法は、実在の自然人及び法人等にはすべて当事者能力を認めているものと解される。当事者能力は、起訴状の内容に立ち入る前に、公訴事実と関係なく一般的に判断すべき事項であるから、刑事未成年者の起訴や処罰規定のない法人等の起訴の場合は、実在している当該被告人に当事者能力はあるが、罪となるべき事実が記載されていないものとして公訴棄却すれば足りるであろう(法339条1項2号)。(3)個別の刑事手続において、被告人としての重要な利害を別し、それに従って相当な防禦活動をすることができる能力のことを「訴訟能力」という(最決平成 7・2・28集49巻2号481頁)。法は被告人が「心神喪失の状態」すなわち訴訟能力をく状態にあるときは、原則として。公判手続を辞止しなければならないとしている(法314条1項)。なお、訴訟能力が回復する見込のない袋疑者・被告人に対する対応措置については既に説明したとおりである(第2編公訴第2章12(3/6))。もっとも、訴訟能力(意思能力)のない場合でも、法定代理人に訴訟行為の代理をさせて手続を進行できる事件もある(法28条)。また。被告人が法人である場合は、訴訟能力がないから、自然人であるその代表者が訴訟行為について法人を代表する(法27条)。これらの場合に、法定代理人または代表者がいないときは、特別代理人を選任して訴訟行為を行わせる(法29条)。(4)被告人は訴訟の当事者すなわち訴訟の主体として、裁判所、検察官と共に公判手続を進行させる重要な関与者である。防側当事者として、弁護人依頼権(法 30条),証拠調べの請求権(法298条1項),証人尋問権(法304条2項)等の手続上の重要な権利が法定されているほか。裁判所が一定の処分・判断をするに際して,被告人の意見を聴かなければならないとされている場合がある(例,法158条1項・276条2項・291条の2等)。訴訟の主体である被告人は、他方で,証拠方法となる場合もある。公判期日において被告人は自ら任意に供述をすることができるが(法311条2項・3項)、その供述は、自己に不利益な証拠ともなりまた利益な証拠ともなり得る(規則197条1項参照)(なお、被告人の最も重要な権利である黙秘権[自己負罪拒否特権]については、第1編捜査手続第9章II,証拠としての被告人の供述については、第4編証拠法第4章を参照)。また。被告人の身体は検証(身体検査)の対象となり得る(法129条)。被告人は、公判手続の過程で、勾引、勾留等の強制処分の対象となり得る。タ引・勾留は、後記のとおり第1次的には被告人の公判期日への出頭を確保するための処分である。

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公判手続き|公判手続の関与者|検察官|公判手続における検察官の役割

公開:2025/10/21

(1) 事者追行主義の公判手続において,検察官は、能動的当事者として、受動的事者である被告人(及び弁護人)と対抗し、第1次的には、起訴状において主張する罪となるべき事実と量刑にとって重要な事実の立証、すなわち有罪判決の獲得を目標に活動する。もっとも、検察官の訴訟手続上の地位・役割は民事訴訟における原告の地位に比して、はるかに複雑な要素を含んでおり、「事者」という地位のみで、その役割をすべて説明することは困難である。「第1次的には」と述べたのは、有罪判決獲得のみが目標というわけではないという意味である。被告人と最も対立するであろう犯罪の被害者は、刑事手続においては間接的な役割を与えられているに留まり、検察官は一被害者に対する配慮措置や利益保護に資する活動を行う場合であっても一被害者の「代理人」ではない。検察官の訴追活動は、国家川間様の「適正」な具体的実現という。公的性格を有している(法1条)。検察庁法の定める「法の正当な適用を請求」する権限には、純粋原告としての勝訴すなわち被告人の有罪判決・処罰を求めるだけではなく、「公益の代表者」として、被管人の利益をも考慮し、適正公正な刑事裁判手を維持・実現する国法上の義務を伴うものというべきである(検察庁法4条)。法が、検察官については、被告人の利益のために上訴をし、時を請求しまたは非常上告をすることを認め、場合により、検察官が無罪または公訴棄却を求める論告をすることがあるのは、このような「法の正当な適用」の請求を使命とする検察官の地位の顕れである。また、被告人側の防準備にとって必要・重要な意味を有し得る検察官手持ち証拠の事前開示を行う法制度やいわゆる任意開示の運用も、このような刑事裁判手続の適正公正性維持・実現を使命とする検察官の責務を背景とするものである。(2) 公判手続において、当事者追行主義の訴訟が円滑・的確に作動してその目的を達するためには、第1回公判期日前の段階における両当事者の綿密な準備が不可欠である。事件の争点と証拠を整理する公判準備として導入された公判前整理手続(法 316条の2以下)には、その前提となる被告人側の防準備にとって必要・重要な検察官手持ち証拠の開示制度や、検察官がまず公判手続における立証事項を設定する証明予定事実の呈示等が盛り込まれているが、そこに顕われている基本的な発想は、事者主義刑事訴訟の健全な作動にとって普遍的なものであり、能動的・攻撃側当事者として、公判手続で成されるべき訴設活動の前提を設定し、手続を推進する検察官の役割は決定的に重要である。この意味で,検察官の職務には、捜査と事件処理。公判期日における訴訟追行に加えて、「公判の準備」という法律家としての知力を傾けるべき今ひとつの重要な領域があることに留意すべきである。

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公判手続き|公判手続の関与者|検察官|検察機構

公開:2025/10/21

(1) 「検察庁法」は、検察官の権限として、①犯罪の捜査(検察庁法6条),②刑事について、公訴を行い,裁判所に法の正当な適用を請求し、かつ、裁判の教行を監替すること、③裁判所の権限に属するその他の事項について、職務上必要と認めるとき、裁判所に通知を求めまたは意見を述べること、④公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務(同法4条)を定めている。このうち、検察官が犯罪捜査に全面的に深く関与するのはアングロニアメリカ法圏にもヨーロッパ大陸法圏にも例のない日本独自の特色である。他の権限はフランス・ドイツ等ヨーロッパ大陸法圏の検察制度に由来する。これらの権限を総称して検察権と称し、それは国家の行政作用に属する。他方。①②の刑罰権実現のための活動は、刑事裁判権と密接に関連し司法作用と深く係わるので、後記のとおり、検察官については通常の行政官とは異なる地位・権能が認められている。捜査機関としての検察官(法191条1項)及び公訴提起に係る検察官の役割・活動(法247条・248条・256条)については既に説明したとおりである。前記②の「公訴を行い」には、事件処理、及び起訴した場合にこれを維持して終局裁判を得るまでその遂行に当たることや、公訴の取消し(法 257条)を行うことが含まれる。刑事について「裁判所に法の正当な適用を請求」する権限には、論告・求刑(法 293条1項)。被告人の保釈に関する意見(法92条),上訴(法351条),専審請求(法439条),非常上告(法454条)等がある。「裁判の執行」に関しては、勾引状または勾留状の執行指揮(法70条)、有罪判決の刑の執行指揮(法 472条)等の権限がこれに当たる。(2) 検察官は、検察権を行使する権限を有する官庁である。個々の検察官が国家意思を決定・表示する独立の官庁として自ら検察権を行使するのであり(例、自己の名で起訴状により被告人を起訴する)、通常の行政官のように上司・大臣の権限を官庁・大臣の名で行使するのではない。このような検察官の職権行使の独立性が顕著な特色である(「独任性官庁」と称する)。検察官の職務送行を他からの圧迫・影響から守るため、検察官には強い身分保障が認められている。すなわち、次の場合を除き、その意思に反して、その官を失い。職務を停止され、または体給を減額されることはない(検察庁法25条本文。定年(開法22条)。②熱成処分(同法25 条但書)。③検察官適格審査会の議決による免官(同法23条)、④利員(同法241条)。法上の保障でない点で裁判官と異なるが、任命権者である内閣や法務大臣の裁量的判断による罷免や不利益処分はできない。(3)検察官の行う事務を続話するところ(官署)を検察庁という(検察庁法1※)。官署としての裁判所に対応して、最高検察庁(最高裁判所に対応)。高等検察庁(高等裁判所に対応,東京,大阪、名古屋,広島、福岡,仙台、札幌,高松の8、支部6),地方検察庁(地方裁判所・家庭裁判所に対応,都道府県庁所在地のほか函館、旭川、釧路に計50庁、支部 203),区検察庁(簡易裁判所に対応。2023年2月現在438庁)が置かれている(同法2条)。検察官には、検事総長・次長検事・検事長・検事及び副検事の5種類がある(同法3条)。検察官はいずれかの検察庁に所属する。検事総長は取高検祭庁の長として庁務を楽理し、次長検事は最高校察庁に属して検事総長を補佐する(同法7条)。検事長は高等検察庁の庁務を楽理する(同法8条)。地方検察庁の長として庁務を掌理するのは検事正で、検事がこれに充てられる(同法9条)。副検事は区検察庁の検察官の職のみに補される(同法16条2項)。なお、検察庁には、検察官のほか、検察事務官等の職員が配置されている。検察官は、他の法令に特別の定めのある場合を除き、その所属検察庁に対応する裁判所の管轄に属する事項について、検察権を行使する。その職務執行区域も,所属する検察庁に対応する裁判所の管轄区域である(同法5条)。しかし、捜査についてはこのような制限はなく、捜査のため必要があるときは、管轄区域外で職務を行うことができる(法 195条)。(4) 前記のとおり検察官は各自が独立して職権を行使するが、裁判官の職権の独立とは異なり、国家意思の発動である検察権の行使が全体として統一性を確保されるように、上司の指揮監督権(検察庁法7条~10条)、上司の事務引取・移転権(同法12条)が定められている。これを背景に、個々の検察官は所属検察庁の上司の決裁を経て意思決定・行動をする(例,個別事件の起訴・不起訴の決定)。これを検察官同一体の原則という。また、検察権は行政作用に属するので、その行使は内閣が国会に対して責任を負うべき事項であるから(恋法66条3項)、内閣構成員である法務大臣は、所管事項として、検察官に対して指揮監者権限を有することが必要である。他方で、検察権は前記のとおり司法作用に密接に関連し公正・独立性の要請があるから、政党内閣の構成員たる法務大臣を介して政治的勢力から検察権の行使に対する圧力・干渉が及ぶおそれを排除する必要がある。この調髪のため、法務大臣は、検察権の行使について、検察官を一般的に指揮監することができるが(例、訓令、通達、会議等の方法による一般的指揮),個々の事件の取調べまたは処分(例、個別事件捜査の具体的方針等)については、検事総長のみを指揮することができるとされている(検察庁法14条)。個別事件の処理については、検察官は検事総長の指揮のみに従えば足りる。法務大臣の検事総長に対する具体的指揮権が発動されれば(いわゆる造船疑獄事件に際し法務大臣が与党幹事長の逮捕を見合わせるよう指揮した実例がある),それについては、政治的批判の問題が生じ得る。そして、政治的批判に、その機会を与えるのが、まさにこの規定の目的である。*検察官及び検察組織は、刑事司法過程において強大な権限を有する。一般国民からの言頼を維持・確保するためには、法令を守し、厳正公平・不偏不党を旨として、公正誠実に職務を行わなければならないのは当然である。検察官に対する頼を失墜させた恥ずべき不祥事発覚の後、2011(平成 23)年に、検察長官会同において、検察の使命と役割を明確にし、検察職員が職務を遂行するに当たり指針とすべき基本的な心構えを定めた「検察の理念」が策定されている。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判手続の関与者|検察官

公開:2025/10/21

検察官は、公判手続における能動的当事者である。刑事訴訟は、検察官の公新提起により起動され、公判において検察官は、攻撃側当事者として起訴状に記載・主張した罪となるべき事実と量刑にとって重要な事実の立証を第1水的な目標として活動する。ここでは、検察官の所属する検察機構の概要と、訴訟当事者としての検察官の役割について説明する。                      

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判手続の関与者|裁判所|訴訟指揮及び法廷諬察

公開:2025/10/21

公判手続の円滑・適正な進行を続するのは訴訟を主宰する裁判所の責務である。このために裁判所には訴訟指揮権と法廷察権が与えられている。(1) 現行法は、訴訟の進行方法として当事者追行主義を採用し,事者に訴訟追行の主導権を付与しているが、両事者の活動が円滑・適正に行われるためには、これを公平・中立な立場から的確に制する裁判所の活動が不可である。これを裁判所の「訴訟指揮権」という。訴訟の指揮は、裁判所の職務権限の発動という形式を採るが、これを直ちに職権審理主義の発現と見ることは誤りである。むしろ、両当事者が訴訟目的達成のため十全に活動するための基盤を確保するという意味で、何ら当事者追行主義訴訟と矛盾するものではない。また。このような目的達成に資するため臨機応変の活動を要するから、裁判所の訴訟指揮は、法規の明文または当事者追行主義という訴訟の「基本的構造」に反しない限り、特段の明文の根拠規定がなくとも、訴訟の具体的状況に応じた合目的的措置をとることができると解すべきである(訴訟指揮権に基づく証拠開示命令が可能であることを説示した最決昭和44・4・25集23巻4号248頁参照)。(2)訴訟指揮権は,本来。訴訟を主宰・進行させる「裁判所」に属する権限であるから、重要な事項、例えば、証拠調べの範囲等の決定・変更(法297条)、弁論の分離・併合・再開(法313条)。公判手続の停止(法314条・312条7項)、新因変更の許可または訴因変更命令(法312条1項・2項)。公開法廷における被害者特定事項の秘匿決定(法290条の2)。証人等特定事項の秘密決定(法280条の3)等の権限は、明文で裁判所の権限とされている。その余の多様な訴訟指揮については、性質上臨機迅速性を要するため、法はこれを包括的に「裁判長」に委ね、「公判期日における訴訟の指揮は、裁判長がこれを行う」と定めている(法294条)。この場合も裁判長は合議体の権限を代行しているのであるから、権限行使に当たり合議体構成員と見解を異にした場合は、合議により裁判所としての意思を決してこれに従わなければならない。(3) 法規に明文のある訴訟指揮のうち、典型の第一は、訴訟関係人の尋問・陳述に対するものである。裁判長は、訴訟関係人のする尋問または陳述が既にした尋問または陳述と重複するとき、または事件に関係のない事項にわたるとき、その他相当でないときは、訴訟関係人の本質的な権利を書しない限り、これを制限することができる。訴訟関係人の被告人に対する供述を求める行為についても同様である(法 295条1項)。訴訟関係人の本質的な権利とは、検察官については有罪立証に向けた訴訟追行上の利益であり、被告人側については、防禦上の利益とくにそれに必要不可穴な権利(例、証人審問権等)を意味する。事案の具体的状況により、それらの権利行使が本来的目的を逸脱し、訴訟遅延目的等に濫用されている場合、これを制限できるのは当然である。事件に関係のない事項とは、事件の審理について、実体法上も訴訟手続上も重要な意味を有しない(関連性のない)事項にわたるものをいう。関連性のない事項の尋問・無意味な主張の陳述は、時間の空費であると共に、心証形成を混乱させ不当な影響を与えるおそれもあるので、制限される。なお。反対尋問では、ときに一見関連性がないようにみえて、実は証人の用性弾劾にとって重要な事項を尋問している場合もあり得るので、判断は慎重を要する。もっとも、従前、事件との関係が不明な尋問が延々と続けられ、裁判所もこれを制不能といった不健全な公判の実例が認められた。連日的開延による集中審理、とくに裁判員裁判における審理において、手点に集中した分かりやすい尋問の必要性が求められたことから、2005(平成17)年規則10号により、証人尋問に際して訴訟関係人は、その関連性を明らかにしなければならない義務が明記されている(規則199条の14)。このような裁判長による尋問・陳述の制限に従わなかった場合、裁判所は、検察官については当該察官を指報監督する権限を有する者に、弁慶士については、当該弁護士の所属する弁護士会等に通知し、適当な処置をとるべきことを請求することができる(法295条5項・6項)。この処置請求は、訴訟指揮権の実効性担保措置の一環として 2004(平成16)年法律62号により設けられたもので、前記出頭在延命令等に違反した場合(法278条の3)と同趣旨であるが(第11(6).週料の制裁はなく、処置請求は任意的である。典型の第二は、裁判長が、必要と認めるとき、訴訟関係人に対し、釈明を来め、または立証を促すことができる権限である(規則 208条1項)。階席裁判官も.裁判長に告げてこの措置をすることができる(規則208条2項)。釈明とは、当事者が自らの訴訟活動について、その不備を補い。またはその意味・趣旨をより一層明確にすることをいう。このような裁判官による求釈明や立証を促す行為は、訴訟指揮権の発現形態と位置付けることができる。事者は、訴訟指揮に関する裁判長の処分に対しては、法令の違反があることを理由とする場合に限り、裁判所に異議を申し立てることができる(法 309条2項・3項,規則 205条2項)。(4)「法廷察権」とは、法廷における秩序を維持するための裁判所の権限をいう。裁判所法及び法廷等の秩序維持に関する法律がこれを規定し、また刑訴法にも一部定めがある(法 288条2項後段等)。訴訟指揮権と異なるのは、権限行使の目的が具体的事件の審理内容と無関係である点、その作用が訴訟関係人に限らず,傍聴人を含め在延者全員に及ぶ点である。法延察権は、裁判長または開延をした1人の裁判官が行使する(裁判所法71条1項)。訴訟指揮権と同様、法廷察権も、本来「裁判所」の権限であるが、その性質上臨機応変の処置が要請されることから、裁判長の権限とされている(法 288条2項後段)。事項によっては、裁判所の権限として定められている場合もある(例、公判廷における写真撮影等の許可[規則215条]。法廷等の秩序維持に関する法律に基づく制裁[同法2条1項])。権限行使の実効性確保のため、法廷察権の行使を補助する機関として、法延備員。法廷替備に従事すべきことを命ぜられた裁判所職員(法廷等の税庁維持等にあたる裁判所職員に関する規則1条)、及び管察官がある。警察官は、裁判長等が、法廷の秩序維持のため必要があると認めるときにその要請を受けて派出され、裁判長等の指揮監督を受け、裁判長等の命ずる事項またはとった処置の執行にあたる(裁判所法71条の2)。法廷察権の及ぶ時間的・場所的範囲については、開廷中の法廷が主たる範囲となるが、その目的から開延中の法廷内には限定されず、それに接着する前後の時間帯及び近接する場所等、裁判所が秩序を攪乱する妨害行為を直接日撃または知できる場所に及ぶ(最判昭和31・7・17刑集10番7号1127頁)。例えば、開廷前に糖人等が入延したときの法廷。裁判官が合議室で合議中の法廷一時休中の法廷。閉延後に関係者が退廷するまでの法廷。法廷に近接する廊下・窓外・出入口等にも法廷察権は及ぶ。なお、開廷中の法廷内を除く裁判所構内には、裁判所の庁舎管理権が作用するので、法廷外の場所で妨害行為に及ぶ者に対しては、庁舎管理権者は、その者に対して庁外退去を命ずる等の措置をとることができる。例えば、法廷察権により退延命令を受けた不心得者が法廷外の裁判所構内でも騒ぎ続けるときは、庁舎管理権の作用により庁外退去を命ぜられる次第となる。法廷察権の作用としては、妨害予防,妨害排除、及び制裁がある。妨害予防作用としては、傍聴人に対する種々の規制(裁判所聴規則1条)、裁判長等による察官の派出要請(裁判所法71条の2),公判廷における写真撮影・録音・放送についての裁判所の許可(規則 215条)がある。写真・ビデオ撮影については、報道機関の取材について、開延前の若干の時間に限り、被告人や裁判員不在廷の状態で法廷内の撮影を許可する扱いが行われている。法廷内の録音や放送が許可された例はない。取材・報道・表現の自由(憲法21条)との関係においても、不合理な制約とは解されていない。傍聴人のメモについて、判例は、特段の事情がない限り、メモをとることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないと説示している(最大判平成元・3・8民集43巻2号89頁)。妨害排除作用として、裁判長等は、法廷における裁判所の職務の執行を妨げ、または不当な行状をする者に対し、退を命じ、その他法廷における秩序を維持するのに必要な事項を命じ、または処置をとることができる(殺判所法7条2項、法288条2項後段)。例示された退延命令のほか、人延命令、入延禁止命令、発言禁止命令。在建命令等があり得る。これらの法廷察権による処分は、「裁判長の処分」に当たり、異議の申立てが可能と解される(法309条2項)。制裁作用については、「法廷等の秩序維持に関する法律」に定められている。法廷察権による命令に違反して裁判所または裁判官の職務の執行を妨げた者は、審判妨害罪で処罰し得るが(裁判所法 73条)、不当行状を現認した裁判所が、刑事手続を経ず期光で制を料し得るとするのが、この出律である。アングロ=アメリカ法圏の法廷侮辱の制裁を参考に設けられた。同法により、秩序維持のため裁判所が命じた事項を行わずもしくはとった措置に従わず、または暴言、暴行、喧噪その他不隠当な言動で数判所の職務の執行を書し、もしくは裁判の威信を考しく書する行為があったときは、裁判所は、その場で直ちに行為者の拘束を命ずることができ(法延税庁法3条2項)、20日以下の監置もしくは3万円以下の過料または両者を併科することができる(同法2条)。なお、裁判所が法廷外の場所で職務を行う場合(例.裁判所外の証人尋間。検証)において、裁判長または1人の裁判官は、その場所における秩序を維持するため、その職務の執行を妨げる者に対し、退去を命じ,その他必要な事項を命じ,または処置をとることができる(裁判所法72条)。法廷の秩序維持と同趣旨である。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判手続の関与者|裁判所|公平な裁判所

公開:2025/10/21

(1) 「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の・・・・・裁判を受ける権利を有する」(憲法37条1項)。「公平な裁判所」とは、その組織や構成からみて、偏頗・不公平な裁判をするおそれのない裁判所をいう(最大判昭和23・5・5刑集2巻5号447頁,最大判昭和 23・6・30刑集2巻7号773頁等)。公平な裁判を担保する裁判所の組織・構成については、司法権・裁判官の独立(憲法76条)が根幹となる。とくに刑事事件については、旧法時代と異なり。裁判所が行政府から完全独立して、裁判官と検察官が別個の組織に属していることが公平性の制度的・組織的担保となっている。また、具体的事件を審判する訴訟法上の意味の裁判所の構成については、公平性担保のため、裁判官の除床・品避・回避の制度が設けられている。さらに、地方の民心。訴訟の状況その他の事情により、裁判の公平を維持することができないおそれがあるときは、検察官または被告人が、管轄移転の請求をすることができる(法17条1項2号・2項)〔第2編公訴第2章Ⅱ 4(6)〕。以下では、このうち裁判官の除斥•忌避・回避について説明する。   (2)「除斥」とは、外形的に見て不公平な裁判をするおそれのある事情を類型化し、これに該当する裁判官を、当然に、すなわち当事者の申立てを待たず、職務の執行から排除する制度である(法20条)。除斥事由は、次のとおり。①裁判官が被害者であるとき。②裁判官が被告人または被害者の親族であるとき、またはあったとき。③裁判官が被告人または被害者の法定代理人,後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人または補助監人であるとき。④裁判官が事件について証人または鑑定人となったとき。⑤裁判官が事件について被告人の代理人(法29条・284条)、弁護人または補佐人となったとき。⑥裁判官が事件について検察官または司法察員の職務を行ったとき。⑦裁判官が事件について付審判決定、略式命令。前審の裁判,控訴審もしくは上告審から差し戻し、もしくは移送された場合における原判決またはこれらの裁判の基礎となった取調べに関与したとき。ただし、受託裁判官として関与した場合は除く。「前審の裁判」とは、審級制度における上級審から見た下級審の終局的裁判,すなわち、控訴審においては第1審、上告審においては控訴審及び第1審,抗告審においては原審の終局的裁判をいう。判例は、前審の範囲について一貫して限定的な解釈を示している。例えば、次の場合いずれも除斥事由に当たらないとしている。前審の判決宜告のみに関与(大判大正15・3・27刑集5巻3号125頁),前審に関与した裁判官が判決の宣告のみに関与(最決昭和28・11・27刑集7巻11号 2294頁),勾留・保釈等身体拘束処分のみに関与(最大判昭和 25・4・12州集4巻4号535頁),第1回公判期日前の証人尋問に関与(最判昭和30・3・25刑集9巻3号519頁),共者の裁判に関与(最判昭和28・10・6刑集7巻10号1888頁),少年法20条の逆送決定(最決昭和29・2・26刑集8巻2号198頁)、再起訴前の公訴棄却の判決とその審理に関与(最決平成 17・8・30刑集59巻6号726頁)。終局的裁判には関与せず審理のみに関与した場合は、それが「裁判の基礎となった取調べ」に当たるとき除斥される。例えば、第1審裁判官として証拠の取調べをし、その証拠が第1審判決の罪となるべき事実の認定に用いられたときは、「裁判の基礎となった取調べ」に関与した場合に当たる(最大判昭和41・7・20刑集20巻6号 677頁)。除斥事由のある裁判官が判決に関与した場合は絶対的控訴理由となる(法377条2号)。その他の訴訟手続に関与する場合も法令違反に当たり、判決に影響を及ぼすことが明らかであれば控訴理由となる(法379条)。なお、裁判官自らが除床事由があると考えるときは、回避(規則13条)の手続ないし事件事務分配上の手続により職務の執行に関与しないのが通例である。(3) 「忌避」とは、当事者の申立てにより裁判官を職務の執行から排除する制度である。裁判官に除事由があるとき、またはその他の不公平な裁判をするおそれがあるとき、当事者はこれを忌避することができる(法21条1項)。弁護人は、被告人のため忌避の申立てをすることができるが、被告人の明示の意思に反することはできない(法21条2項)。不公平な裁判をするおそれがあるとは、除床事由に準ずるような事情の認められる場合をいうと解すべきであり、事案により、前記判例で除斥事由には当たらないとされた場合でも(例,被告人の勾留や保釈に係る判断に関与、第1回公判期日前の証人寿間に関与、共犯者の裁判に関与、逆送決定をした等),忌避の理由には該当する場合があり得よう(判例は、忌避理由にも当たらないとするものが多い。最決昭和47・7・1刑集26巻6号 355頁,最決昭和48・9・20 刑集27巻8号1395頁参照)。他方、例えば、裁判官の訴訟指揮の結果が当事者の一方に不利益であるということ自体は、その性質上,忌避の理由にはならない(最決昭和48・10・8刑集27番9号1415頁参照)。忌避申立ての時機には制限があり、当事者が事件について請求または陳述をした後には、不公平な裁判をするおそれがあることを理由とした忌避申立てをすることはできない(法 22条本文)。これは、事件について請求または陳述をしたときは、その裁判官の裁判を受ける意思が黙示的に表明されたとみられるからである。故に、事件の実体に係わらない人定質問に対する陳述や、管轄違いの申立てのようにその意思が認め難いものは含まれない。なお、後になって忌避事由の存在を知ったときや、後に忌避事由が生じたときは、あらためて思避申立てが可能である(法 22条但書)。忌避申立てに対しては決定をしなければならない。簡易裁判所以外の裁判所の裁判官が温避されたときは、忌避された裁判官所属の裁判所が、合議体で決定する。簡易裁判所の裁判官が忌避されたときは、管轄地方裁判所が、合議体で決定する(法23条1項・2項)。忌避された裁判官はこの決定に関与することはできない(法23条3項)。なお、忌避された裁判官が忌避申立てに理由があるとするときは、その決定があったものとみなされ、決定の必要はない(法23条2項但書)。訴訟遅延目的等での忌避申立ての濫用に対処するため、法は簡易却下の手続を設けている。すなわち、訴訟を遅延させる目的のみでされたことの明らかな忌避の申立て、前記申立て時機の制限後の申立て、規則で定める手続に違反してされた思避申立てが、合議体の裁判官の1人に対してなされたときは、その裁判官も加わった合議体が、決定で却下できる(法24条1項)。また。1人の裁判官に対して、そのような申立てがなされたときは、その裁判官が単独で申立てを却下することができる(法 24条2項)。息避申立てを却下する決定・命令に対しては、即時抗告・準抗告をすることができる(法25条・429条1項1号)。性質上、忌避に理由があるとする裁判に対しては不服申立てはできない。(4)「回避」とは、自己に忌避の原因があると考えた裁判官が、自ら所属の裁判所に申し立て、その裁判所の決定により職務の執行から退く制度である(規則 13条)。実務上は、分配された事件の交換等により事実上回避と同様の措置で対処する例もある。(5) 以上の裁判官の除斥・忌避・回避の制度は、法20条7号〔(2)の⑦〕の場合を除き,裁判所書記官にも準用されている(法 26条、規則15条)。*裁判所書記官は、官署としての判所において裁判官を補助する様々な職員のなかでも、訴訟上とくに重要な役割を果たす関与者である。裁判所書記官は、裁判所の事件に関する記録その他の書類または電磁的記録の作成及び保管の事務をつかさどる(裁判所法 60条2項,規則37条)。「公判調書」の作成は、とくに重要な職務である(法48条、規則46条)[第4章X。一般に裁判所書記官は、その職務を行うについては、裁判官の命令に従うが(裁判所法60条4項)、口述の書取その他書類または竃磁的記録の作成または変更に関して裁判官の命令を受けた場合において、その作成または変更を正当でないと認めるときは、自己の意見を書き添え、または併せて記録することができる(裁判所法60条5項)。このように、一定の職務行使の独立性が認められているので、職務執行の公正に疑いを生じる事情があるときは、除斥・忌避・回避が認められているのである。なお、裁判所書記官は、このほか、書類の発送・受理や、訴訟関係人その他の者に対する通知などを行う(裁判所法 60条2項,規則 298条)。(6)裁判員については、当該事件について不公平な裁判をするおそれのある事情を不適格事由として類型化し、その事由に該当する者は当然裁判員になることができないとされている(裁判員法17条)。また、裁判所が不公平な裁判をするおそれがあると認めた者は、裁判員になることができない(同法18条)〔第6章2(2)。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判手続の関与者|裁判所|裁判所の構成

公開:2025/10/21

(1) 裁判機関としての裁判所の活動は、1人または数人の裁判官によって行われる(裁判員が関与する場合については後記(4)。1人の裁判官による場合を単独体、数人による場合を合議体という。最高裁判所と高等裁判所はすべて合議体で裁判する(裁判所法9条・18条)が、地方裁判所と家庭裁判所は原則として単独体であり、特別の場合、3人の合議体で裁判する(同法26条・31条の4)。簡易裁判所は常に単独体である(同法3条)。刑事事件の第1審管轄は、原則として地方裁判所及び簡易裁判所に分配されているので、刑事事件の第1審は単独体で審理・裁判される場合が多い【第1審の事物管轄について第2編公訴第2章14)。単独体の場合。1人の裁判官が同時に裁判機関としての「裁判所」を構成していることから、その活動・訴訟行為が裁判官としてのものか、裁判所としてのものかの区別に留意する必要がある(例、公判期日の指定[法273条1項]は裁判官、公判期日の変更[法276条1項]は裁判所としての行為)。(2)地方裁判所の刑事事件で、合議体で審理すべき事件は、次のとおりである。①法定刑が死刑。無期または短期1年以上の拘禁刑に当たる罪に係る事件(裁判所法26条2項2号。ただし、強盗罪や盗犯等防止法の常習盗罪等を除く)。②刑事訴訟法において合議体で審判すべきものと定められた事件(裁判所法 26条2項4号)。これには、忌避申立てに対す決定(法23条1項・2項)。準起訴手続の審判(法 265条1項),裁判官の処分に対する準抗告の決定(法429条4項)等がある。③合議体で審判する旨の決定を合議体でした事件(裁判所法26条2項1号)。①②を法定合議事件、③を裁定合議事件と呼ぶ。特段の法的基準はないが、事案複雑等で合議体による審理・裁判にふさわしいと考えられる場合に裁定合議決定がなされている。(3) 合議体は裁判長と階席裁判官で構成される。裁判長は合議体の機関として、訴訟指揮権(法 294条・295条等),法廷響察権(法288条裁判所法71条・71条の2等)等の権限を行使し〔後記4),急速を要する場合は、被告人の召喚・勾引・勾留(皿2)を行うこともできる(法69条)。これらの権限は、合議体としての裁判所の本来的権限を裁判長が代行するものである。これに対し、証人尋問,被告人に対する質問等は、陪席裁判官も行うことができる(法304条・311条)。なお、開廷後合議体の構成員が代わった際に公判手続の更新(法315条)〔第5章V〕をしなければならない事態を避けるため、合議体の審理が長時日にわたることが予見される場合には、「補充裁判官」が審理に立ち会い,その審理中に合議体の裁判官が審理に関与することができなくなった場合において、あらかじめ定める順序に従い、これに代わって、その合議体に加わり審理及び裁判をすることができる(裁判所法 78条)。(4) 裁判員裁判対象事件、すなわち、①法定刑が死刑または無期禁刑に当たる罪に係る事件及び②法定合議事件であって、故意の処罪行為により被害者を死亡させた罪に係るものについては、前記の定めにかかわらず、裁判員の参加する合議体で審理することとなり(裁判員法2条1項)。合議体の員数については、職業判官3人、表判員6人が原則である(同法2条2日木)(第6第1(1)。合議体構成員である裁判員は、証人尋問(同法56条)、被告人に対する質問(同法59条)等を行うことができる。また、前記補充裁判官と同趣旨で補充裁判員を置くことができ、審理中に我判員の員数に不足が生じた場合に、これに代わり補充裁判員が裁判員に選任される(同法10条)〔第6章Ⅰ(2)〕。15)合議体の全員が参加しなくとも可能な検証や裁判所外における証人尋問等については、合議体の構成員に行わせることができる。その裁判官のことを「受命裁判官」という(例.法12条2項・43条4項・125条・142条・163条・171条・265条等)。また、他の裁判所の裁判官に証人尋問等の嘱託をすることができる。その嘱託を受けた裁判官を「受託裁判官」という(法43条4項・125条・142条・163条・171条・265条等)。

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公判手続き|公判手続の関与者|裁判所|裁判所の意義

公開:2025/10/21

(1) 刑事裁判権、すなわち犯罪事実を認定し、犯人に対して罰その他の処分を決定する国家の権限は、司法権の一部であり、裁判所に属する(憲法 76条1項、裁判所法3条1項)。なお、わが国の刑事裁判権の及ぶ範囲については、前記のとおり〔第2編公訴第2章Ⅰ 1(3)(e)〕。(2)裁判所には、最高裁判所のほか、法律の定める下級裁判所として、高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所がある(裁判所法1条・2条1項)。下級裁判所の設立、所在地、管轄区域は、「下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律」で定められている。最高裁判所(東京に1つ)は、最高裁判所長官及び14人の最高裁判事により構成される(恋法79条1項、裁判所法5条)。高等裁判所(東京、大阪,名古屋、広島。福岡、仙台、札幌、高松の8)は、高等裁判所長官と相応な員数の判事で構成され(裁判所法 15条),地方裁判所・家庭裁判所(都道府県庁所在地のほか商館、旭川、釧路に計50庁)は、相応な員数の判事及び判事補で構成される(同法 23条・31条の2)。簡易裁判所(2023年3月現在 438庁)には、相応な員数の簡易裁判所判事が置かれる(同法32条)。なお、高等裁判所及び地方裁判所・家庭裁判所には、それぞれ支部(高裁6、地裁・家裁各 203)と出張所(家裁77)が直かれている(同法22条1項・31条1項・31条の5)・このように裁判官によって構成された裁判所は「国法上の意味の裁判所」と称され、司法行政権の主体としての意味を有する。司法行政権は表判所を構成する裁判官で組織される裁判官会議に属する(同法12条・20条・29条・31条の5)。国法上の意味の裁判所が訴訟法上の機能を持つ場合がある(約、法23条規則187条1項にいう「裁判所」)。なお、裁判官だけでなく職員全部及び施設を含めた「官署」(役所)としての裁判所には、裁判所書記官,家庭裁判所調査官。裁判所事務官等の多数の職員が置かれている。これに対して、裁判所が、裁判機関として裁判権を行使し活動するとき、これを「訴訟法上の意味の裁判所」と呼ぶ。法に「裁判所」とあるのは、原則として訴訟法上の意味の裁判所を指す。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8

公判手続き|公判手続の関与者

公開:2025/10/21

訴訟は、裁判所と検察官・被告人の三者の間の継続的相互作用により進行する。これら訴訟に不可な三者を、訴訟の主体という。このうち。検察官と被告人とは、「当事者」と称される。訴訟の主体以外にも、当事者たる被告人を補助する弁護人・補佐人や証人・鑑定人等が公判手続に関与する場合があり、法は、当事者及びこれら訴訟上一定の正当な利害関係を有する関与者について「訴訟関係人」という語を用いている(例.法46条・53条2項・277条・295 条等)。以下では、公判手続に関与する訴訟の主体、被告人の補助者、及び犯罪の被害者について説明する。

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公判手続き|総説|公判手続の諸原則|迅速な裁判

公開:2025/10/21

(1) 刑事・民事を問わず、紛争・事案解決を目的とする訴訟の迅速性は欠くことのできぬ要請であり、訴訟の不合理な著しい遅延は、その本来的制度目的を阻害する。とりわけ刑事訴訟においては、刑事被告人は国家からの訴追に対【防活動を強いられ、事案によっては身体期間が長期化するほか、事実上も有形無形の社会的不利益を被る可能性があるので、刑事被告人の地位からの早期解放が要請される。それ故、憲法は、「迅速な・・・・・・裁判を受ける権利」を刑事被告人の基本権として保障している(憲法37条1項)。他方で、刑罰法令の適正・迅速な具体的適用・実現という法目的(法1条、規則1条)の観点からも、訴訟の遅延は、被告人や証人の記憶の減退・喪失,関係者の死亡,証拠の散逸等を来してその目的達成を害するおそれがあるから、迅速な刑罰権存否の確定が要請される。もとより、刑事訴訟が迅速を欠いた状態かどうかを遅延の期間のみから一律・定量的に決することはできない。事案の性質、遅延の原因,被告人側の応訴態度等の事情、遅延により書される諸利益の内容・程度等諸般の事情を勘案して、個別的に判断せざるを得ない。他方,迅速裁判の実現は、刑事被告人の迅速な無罪放免に直結するとは限らず、むしろ迅速な処罰に導くことも多いのが実情である。このため被告人の「権利」の側面には翳りが生じ,被告人・弁護人側からは迅速過ぎる裁判を批判し、迅速一辺倒ではなく審理の充実・徹底を求める要望が生じて、これと裁判所の訴訟促進要請とが衝突する事態もあり得る。しかし、訴訟の関係者が、自らも関与して策定された審理計画に従うこと、不当不合理とはいえない裁判所の訴訟進行に協力することは、訴訟制度の健全・円滑な作動にとって当然の前提というべきである。なお、「充実した公判の審理を続的、計画的かつ迅速に行う」ための公判前髪理手続においては、訴訟関係人は、「相互に協力するとともに、・・・・・裁判所に進んで協力しなければならない」(法316条の3第2頂)。また。訴訟関係人は、裁判所による公判の審理予定の策定に協力し(規則217条の2第2項),策定された審理予定の進行に協力しなければならない(規則217条の30第2項)。これらの法規は、当然の事理を明記したものといえよう。なお、訴訟の迅速・円滑な進行に関係する期日指定については前記のとおりである〔I(2),(6)〕(2) 法及び規則には、次のとおり、迅速な裁判を実現・保障するための様々な制度・措置が設けられている。①公訴提起後2か月以内に起訴状謄本が送達されないときの公訴の失効(法271条2項),②公判前整理手続(法316条の2以下。規則217条の2以下),③事前準備(規則178条の2以下),④期日間整理手統(法 316条の28,規則217条の29)、⑤公判期日の厳守を担保する規定(法277条、規則 182条・179条の4以下)、⑥継続審理の原則(法281条の6),⑦簡易公判手続(法291条の2),⑧即決裁判手続(法350条の16以下、規則222条の11以下),⑨検察官上訴と費用補償(法 188条の4),10検察官及び弁護人の訴訟遅延行為に対する処置(規則 303条)。このような個別事件処理に際しての制度的担保とは別に,刑事司法制度全体の作動を支える人的・物的資源の適正配分や法曹三者の相互理解とこれに基づく緊密な協力体制の確立が、迅速かつ充実した刑事裁判の実現には不可欠というべきである。重大事犯について、裁判員制度の導入が契機となり、一般国民の負担過重を避けるために、公判の実審理期間が従前に比して著しく短縮化されたのはその一例である。また、2003(平成15)年には、「裁判の迅速化に関する法律」(平成15年法律107号)が制定・施行されている。同法は民事・刑事ともに、第1審の訴訟手続を2年以内のできるだけ短い期間内に終局させることを目標とし、また、最高裁判所が裁判の迅速化について検証し、その結果を公表するよう義務付けている。既に数次にわたり「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」が公刊され、裁判の迅速化を巡る人的・物的態勢や社会的背景に関する分析が示されている。(3)被告人の迅速な裁判を受ける基本権が侵害された状態が生じていると認められるとき、どのような救済措置をとるべきか。最高裁判所は、第1審の審理が中断して15年が経過していたいわゆる「高田事件」について、次のように説示して憲法規定を直接の根拠に手続を打ち切るべきであると説示している(最大判昭和47・12・20刑集26巻10号631頁)。「憲法37条1項の保障する迅速な裁判をうける権利は、憲法の保障する基本的な人権の一つであり、右条項は、単に迅速な裁判を一般的に保障するために必要な立法上および司法行政上の措置をとるべきことを要請するにとどまらず。さらに個々の刑事事件について、現実に右の保障に明らかに反し、審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判をうける被告人の権利が害せられたと認められる異常な事態が生じた場合には、これに対処すべき具体的規定がなくても、もはや当該被告人に対する手続の続行を許さず、その審理を打ち切るという非常救済手段がとられるべきことをも認めている趣旨の規定である」。「審理を打ち切る方法については現行法上よるべき具体的な明文の規定はないのであるが、前記のような審理経過をたど[り、憲法 37条1項の迅速な裁判の保障条項に明らかに違反した異常な事態に立ち至っていた]本件においては、これ以上実体的審理を進めることは適当でないから、判決で免訴の言渡をするのが相当である」。その後,迅速裁判の保障が問題とされた事案において手続打切りを認めた最高裁判例はない(最判昭和48・7・20刑集27巻7号1322頁,最判昭和50・8・6刑集29巻7号393頁,最決昭和53・9・4刑集32巻6号 1652頁、最判昭和55・2・7刑集34巻2号15頁、最判昭和58・5・27刑集37巻4号474頁等)。いずれも、審理の遅延が高田事件の事案のような「異常な事態」に立ち至っているとまではいえないとしている。もっとも、「異常な事態」とまではいえないが著しい遅延が認められ、希理手続のさらなる続行が被告人の被る有形無形の社会的不利益と防上の不利益を拡大し、実体審理・裁判をする利益を駕すると認められる場合には、迅速裁判保障条項の趣旨に反する手続の違法状態が生じたとして、公訴を棄却する(法338条4号)途もあり得よう。

「『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日」 ISBN978-4-641-13968-8
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