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債務不履行における損害賠償の範囲

公開:2025/10/20

2024年5月9日、絵画のコレクターであるXは、Yとの間で、若手の画家Aの油彩画甲を代金300万円でXに売却する契約を締結した。この契約においては、同年9月10日に代金全額の支払と引換えに甲の引き渡しが行われるものとされた。また、この代金は、契約締結時の中の相場に合わせて設定されたものであった。2024年8月中旬、某有名アーティストによる称賛の意をきっかけに、Aは、テレビや雑誌などで頻繁に取り上げられるようになった。そのため、Yは、絵画が上野するかもしれないと手を尽くしたが、見つからなかった。同年9月25日、Xに対して、代金の額が支払われない限り甲の引渡しには応じられない旨を一方的に通告した。これを受けて、Yは、Xと交渉しようとしたが、Yは、これに応じようとせず、同日以降、Xとの連絡を絶った。甲の価格は、Aの評価が上がるにつれて遅れ2024年9月上旬から上昇を始め、判例下では、甲の価格は450万円程度に、同年11月上旬頃には900万円程度にまで上がった。ところが、同年12月中旬に、Aのハラスメントを告発する記事が公表されたため、Aの作品に対する評価も下落し始めた。その結果、2025年1月末頃には、甲の価格は、500万円程度にまで下がった。現在の甲の価格も、これと同程度であるが、わずかに下落することも考えられる状況にある。このような事実関係のもと、Xは、Yに対して、Yの債務不履行を理由に、どれだけの額の損害賠償の支払を求めることができるか。なお、問答は、2025年2月1日にあるものとする。●参考判例●① 大判大正5・22民集5巻386頁② 大判大正7・8・27民録24輯1656頁③ 最判昭和37・11・16民集16巻11号2281頁④ 最判昭和47・4・20民集26巻3号520頁●解説●1 履行に代わる損害賠償の請求債務者は、債務者が債務の本旨に従った履行をしない場合、債務者に対して損害賠償を請求することができる(415条1項)。そして、債務者には、債務の履行が不能であるとき、債務者に履行可能なことはあるが、この履行が履行遅滞であるものとみなし履行可能であるものがあるか、両者にならない。契約が解除されたとき、契約の履行が遅れたときには、債務の履行に代わる損害賠償を請求することができる(同条2項)。ここで、債務の履行に代わる損害賠償請求は、債務者が債務の履行をしたとしてもなお損害が残るような場合でも請求することができるとされている。なお、債務者は、債務の履行不適合および契約の解除の場合を除き(412条の2第1項・545条を参照)、本来の債務の履行をすることもできる。したがって、債務者は、債務者に損害賠明および契約の解除の場合、債権者には、本来の債務の履行に代わる損害賠償を請求権が附与していることになる。以上の前提によると、本問において、Xは、Yによる明確な履行拒絶があることはもちろん、甲の引渡しを求めることはできるが、XはYに対して債務の履行に代わる損害賠償を請求できる。XとYに対して債務の履行に代わる損害賠償を請求する場合、本問では、契約の目的物である甲の価値が上昇するために、Xがこれを求めることができるか、あるいは、甲の引渡しをすればXが得られたであろう利益の額をどのように定めるべきかといったことが問題となる。(1) 判例の立場債務の履行に代わる損害賠償額の算定の基準時については、債務不履行がなければ債権者が有していたであろう利益の額とする民法416条2項との関係で問題となる。(2) 判例の発展従来の判例は、債務の履行に代わる損害賠償額を履行不能時の目的物の価格に相当する損害とし、それぞれの類型を構成して議論されてきた。ところで、民法416条は、債務不履行から通常生ずべき損害の賠償の対象になること(同条1項)、特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときには、賠償の対象になること(同条2項)を規定し、債務不履行による損害の賠償の問題を担っている。そして、判例は、損害賠償の範囲について因果関係によって決せられるとして、この規定を基本的に当てはめて因果関係の内容を定めた規定として理解する(相当因果関係説)。したがって、これらの問題は、契約の目的物の価格に上下動があった場合に損害賠償の範囲をどのように設定するかという民法による損害賠償の範囲の問題として扱われる416条の適用が問題の1つ、相当因果関係説の問題として扱われることになる。(2) 判例の法理参考判例①に掲げた判決は、(1)の立場を前提に、契約の目的物の価格に上下動があった場合における損害賠償額算定の基準時を問題とし、以下のような論理を展開する。まず、①契約の目的物の価格に上下動があった場合には、債務者は、履行不能時の目的物の価格に相当する損害の賠償を負う。つまり、履行不能時の目的物の価格が通常損害として評価される。つまり、履行不能時の目的物の価格が通常損害として評価される。また、参考判例②も、契約の目的物の価格が通常損害として評価されることを前提に、損害賠償額を10・10民集26・10・判例百選128号136頁)、これらの解釈は、2017年改正民法では、債務の不履行または契約の解除により本来の債務の履行に請求権が相当因果関係にある損害賠償請求権に代わるため、その時点での目的物の価格の通常損害という理論構成が打ち立てられた。もっとも、2017年改正民法のもとでは、本事案について履行不能による損害賠償請求権と債務の不履行から生じた損害の賠償請求権とを併存する場合を認める(415条2項2号・3号)。この規定を参考に、以下のようなことが言える。すなわち、債務の履行に代わる損害賠償の範囲は、原則として、民法416条各号の解釈によって定まる。つまり、債務の不履行から通常生じた損害の賠償額が目的物の価格の通常損害として、この解釈の結果、目的物の価格の通常損害が上昇している場合、この価格の上昇は特別事情であり、上昇した目的物の価格は評価損として構成される。この上昇した目的物の価格が損害として評価されるかどうかについて、判例は、この上昇した目的物の価格が損害として評価可能であるか、そして、この可能性があることは、予見すべきであったかどうかによって結論が左右される。この目的物の価格の上昇した目的物の価格は予見可能な特別事情にあたるか、そして、①上昇した目的物の価格の通常損害が債権者にとって予見可能なこと、②目的物の価格の上下動があった場合に契約の目的物の価格が通常損害と評価されるために、契約締結に、転売などによりその利益を確定する営業を営む者であることが必要となる。最後に、③契約の目的物が相当に値上がりした場合において、その価格が支払われないままに、転売利益の途中で目的物の価格が通常損害と評価される。同様に、債務不履行に陥った場合に、その後の価格の大半が暴落して債務者が賠償請求権を請求する場合、債権者が有していたであろう利益の額とする(大判大正11・14民集28巻2号1260頁)。これらの解釈は、損害賠償を支払う債務者が、債務不履行(大判昭和36・11・28民集15巻11号1687頁)、これらの場合には、目的物を判例でいうところによって得られたであろう利益の賠償を求めることはできない(大判昭和37・17民集6巻464頁)。判例によれば、本問においてXが請求することができる損害賠償の額も、①②の判断基準に基づき、上記①から③までの原則によって算定されることになる。3 判例とは異なる考え方→損害賠償算定の基準時としての位置づけ(1) 問題の把握と位置づけ判例の考え方に対しては多くの批判がなされている。これらはある考え方を示している。そこで、以下では、判例との違いを明確にしつつ、本問の解決に必要となる範囲で、代表的な見解の思考プロセスを紹介する。まず、①債務者レベルで賠償されるべき損害は、賠償状態の克服のためにではなく、②どのレベルで把握する(ただし、事後として把握する方の有力性が強まる)、次に、③債務者に生じた損失の回復が問題とされるべきであるかを確定する、④金額賠償の原則のもとでは、⑤「賠償されるべきもの」として確定された金額を算定する。この考え方によれば、⑥賠償されるべき損害の範囲を画する(べきではないか)という問い、どう把握されるべき損害かの問いは、性質を異にする個々の問題として位置づけられることになる。そのうえで、⑦、問題は、債務不履行による損害賠償の範囲を民法416条により処理され、⑧その問題は、損害賠償の範囲は契約の目的から切り離された抽象的なものになりがちだったため、同条からは切り離して処理される。以上に基づき、従来のプロセスに従えば、契約の目的物の価格が通常損害と評価される場合に損害賠償をどのように決定するかという問いは、⑨、問題の把握として位置づけられる。判例とは異なり、ある時点における目的物の価格に相当する損害賠償の額との間に、別に損害を生じることはない。この場合にも、損害は1つしか存在しない。ここでは、民法416条の適用により、契約の目的物を損害として得ることができるにかかわらず損害賠償が通常損害に含まれることを前提としたうえで、この損害について、いつの時点を基準として評価的に評価するかという。時で、関連問題のように、債権者が目的物を第三者に売却することをもってした場合などについては、損害の額をどのように算定するべきか、まず、⑨の問題として、民法416条の適用により、契約の目的物を損害として得ることにかかわらず、当初の賠償の対象に含まれるか否かを評価し、次に、これが肯定されるときには、①の問題として、当該損害について転売価格に照らした評価的評価がされることになる。(2) 損害賠償算定の基準時の設定契約の目的物の価格が上下動する場合に、契約の目的物を損害賠償として得ることができたことにかかわる損害について、その後の価格の変動があった場合に、その賠償額を算定する基準時をどのように設定するかという点に関しては、さまざまな見解が示されている。たとえば、①損害賠償算定の準備を事実審口頭弁論終結時に行うとの視点(たとえば、2017年改正民法が契約の目的物に関して2017年改正民法の準備にいう、民法415条2項の要件が充たされる履行に代わる損害賠償請求権が免責された時点での価格の通常損害と評価し、履行不能時の目的物が引き渡されていれば債権者が得たであろう利益という観点から、口頭弁論終結時の価格を基準とする)に加えて、②、契約の目的物の危険の負担の議論、契約の種類、履行の拒絶の様態、当事者の属性なども考慮して総合的に判断されるべきとの見解(たとえば、本問のように債務不履行に陥った場合に損害賠償として選択可能であったとの評価のもとに、2017年改正民法が契約の目的物の価格を基準として評価的に評価した)、その中から債権者による選択が認められるべきとの考え方がある。4 2017年改正民法による契約の解除時の効果2017年改正民法416条1項の適用により、契約の目的物を損害として得ることができたことにかかわる損害について、その後の価格の変動があった場合に、その賠償を請求することができることになっていたが、判例は、2017年改正民法によって、①債務の履行に代わる損害賠償請求権が免責された時点での価格の通常損害と評価し、②その事情を予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる」という表現を、「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる」という表現に修正している。2017年改正民法416条2項の予見可能性については、一般的に、これを事後的に評価するのではなく契約的に評価すべきものと理解されていたため、2017年改正民法416条2項は、このことを明文化したものにすぎない。したがって、民法416条の文言の変更によっても、その判断および3の学説、さらに、債務不履行による損害賠Dの範囲をめぐるさまざまな議論は、その後のPとの間の部分に基づき若干の修正を経たことを前提に(たとえば、判例の射程の判断については、その記述を参照)、2017年改正後民法のもとでもほぼそのまま妥当することになると考えられる。●関連問題●本問の事案に加えて、さらに以下の事実があった場合、Xは、Yに対して、Yの債務不履行を理由に、どれだけの利益の損害賠償の支払を求めることができるか。(1) 2024年12月1日、Yは、Bとの間で、総額甲900万円で売却する契約を締結した。そして、その翌日、Yは、Bに対して、甲を引き渡した。(2) 2024年9月9日、Xは、同じく絵画のコレクターであるCにYから絵画甲を購入した旨を伝えると、Cから、価格はいくらでもよいので譲ってくれないかと懇願された。そこで、同年9月15日、Xは、Cとの間で、甲を代金1000万円で売却する契約を締結した。この契約においては、XがYから甲の引渡しを受けた日の翌日に、代金の全部の支払と引換えに甲の引渡しがされるものとされた。同年11月5日、Xは、Cに対して、Yから甲の引渡しを拒絶されている旨を伝えたところ、Cから契約を解除したいとの申し入れを受けた。そこで、その翌日、Xは、Cとの合意により、甲の売買契約を解除した。なお、Xは、Yとの間の契約を締結する際に、Yに対して、自分は絵画のコレクターであるが、コレクター仲間との間で絵画を取引することが頻繁にあるため、甲についても転売する可能性がある旨を伝えていたものとする。●参考文献●潮見佳男・18頁/I B 印・18頁/I B 印・18頁/久保井之・20頁(白石友行)

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

履行補助者の行為と債務不履行を理由とする損害賠償

公開:2025/10/20

A市は、かつて市内で生活し、60年前に亡くなった画家Pの遺品の絵画2枚(以下「甲」「乙」という)の寄贈を受けていた。Pは中央画壇の大家であった。その絵画の署名の下にPの落款印(以下「P印」という)が押されており、Pの作品にはすべて押されていたことから、A市は市の所蔵庫に収蔵していた。A市は、市の文化センターでPの回顧展を開催することとし、Bは、Pの回顧展の開催に際して、甲乙の絵画の修復作業をA市から依頼され、これを引き受けた。その後、Bは、甲乙の絵画の修復作業を、その弟子であり、この種の絵画の修復に習熟したCに依頼し、その旨をA市に伝えた。A市は、これを了承した。Cは、甲乙の絵画の修復作業を完了させ、その報酬を受け取った。その後、A市はPの回顧展に甲乙の絵画を出品したところ、これがPの真作かどうかについて疑問が呈された。これをきっかけに、A市が調査したところ、甲乙の絵画はPの真作ではない可能性が高いことが判明した。A市は、Cに問い合わせたところ、Cは、甲乙の絵画にP印が押されていなかったので、自分でP印を複製して押したことを認めた。A市は、Bに対して、甲乙につき、契約不適合を理由に損害賠償を請求したい。予想されるBの反論を踏まえて、A市の請求の当否を検討しなさい。●参考判例●① 最判昭58・5・27民集37巻4号477頁●解説●1 債務不履行を理由とする損害賠償と債務者の免責(1) 民法415条1項の基本的な構造と帰責事由債務の履行がなされなかった場合、債務者は、債権者に対して、これによって生じた損害を賠償することができる。ただし、その債務の不履行が「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない(415条1項)。契約から生じる債務の履行を理由とする損害賠償を例にとれば、民法415条1項は、次のように考えられている。すなわち、債務者が履行を遅滞したり、履行不能に陥ったりすることを理由とする損害賠償請求をするとき、この請求は、「契約の不履行」(合意は遵守されるべきである)というようなことがおよそあることを前提としており、債務者に帰責事由があることを要する。すなわち、債務者が契約において負うべき内容を契約を締結した。これにより生じる債務は債権者に契約された場合に、契約を守らなかったために、契約を守らなかったことから、損害賠償責任を負うものとされる。このような契約のもとで債務を負担した債務者は、その契約に拘束され、このとき「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」債務者の責めに帰することができない事由」に該当することを理由として、その債務の不履行を理由とする損害賠償債務の発生を免れることはできない(債務不履行の免責を主張する側が免責事由の不存在を証明する必要がある)。この免責事由とは、民法415条1項で「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」債務者の責めに帰することができない事由をいうものである。債務者が負うべき義務の内容は、契約の解釈によって定まるものであるが、民法415条1項では、債務不履行の免責事由として、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」債務者の責めに帰することができない事由をいう。その免責事由の主張・立証責任は債務者が負うこととなり、債務不履行の免責が認められるための要件は厳格に解されている。(2) 履行補助者の行為の帰責債務者が債務の履行のために第三者を使用した場合(履行補助者)に、債務不履行を理由とする損害賠償責任の成否を判断するにあたって、履行補助者の帰責事由も考慮される。すなわち、債務者の履行のために第三者を使用した場合、債務不履行を理由とする損害賠償責任の成否を判断するにあたって、履行補助者の帰責事由も考慮される。債務者が、契約上の債務の履行のために、第三者を使用した場合には、その第三者の行為についても、債務者自身の行為と同一の注意をもってその善し悪しを判断すべきものと解するのが相当である(参考判例①)。本問では、BはCを履行補助者として使用しており、Cの故意による行為によって、A市に損害が発生している。したがって、Bは、Cの行為について、自己の行為と同一の注意をもってその善し悪しを判断すべきであると解するのが相当であるから、Bは、A市に対して損害賠償責任を負う。本問では、A市がCの使用を承諾しているが、この事実はBの帰責事由の判断に影響を及ぼすだろうか。A市がCの使用を承諾したからといって、Cの故意による行為についてまで、Bが免責されると解するのは相当ではない。(3) 履行の利益の評価本問では、A市はBに対して契約不適合を理由とする損害賠償を請求している。この請求が認められるためには、A市は、Bの債務不履行によって損害が発生したこと、その損害額を主張・立証する必要がある。本問では、A市は、Bとの間で、Pの絵画の修復契約を締結している。この契約において、Bは、A市に対して、Pの絵画を修復する義務を負っている。この修復義務には、絵画の価値を維持・向上させる義務が含まれていると解される。Cが行った行為は、Pの絵画にP印を押すというものであり、この行為によって絵画の価値は毀損されたといえる。したがって、A市は、Bの債務不履行によって損害を被ったといえる。問題は、損害額である。A市は、Bに対して、どのような損害の賠償を請求できるだろうか。A市は、Bの債務不履行によって、Pの絵画の価値が毀損されたことによる損害の賠償を請求できる。この損害額は、Pの絵画の価値が毀損されなかった場合に有していたであろう価値と、毀損された現在の価値との差額となる。また、A市は、Bの債務不履行によって、Pの回顧展の開催が不可能になったことによる損害の賠償も請求できる可能性がある。この損害額は、Pの回顧展が開催されていれば得られたであろう利益となる。3 履行補助者の行為と不法行為責任本問では、A市は、Cに対しても、不法行為を理由とする損害賠償を請求することができる。Cは、A市に対して、Pの絵画を毀損する行為を行っており、この行為は、A市の所有権を侵害する不法行為にあたるからである。4 BのCに対する求償BがA市に対して損害賠償責任を負った場合、Bは、Cに対して、その賠償額を求償することができる。BとCとの間には、修復作業の請負契約が締結されており、Cは、Bに対して、修復作業を適切に行う義務を負っている。Cがこの義務に違反して、Bに損害を与えた場合、Bは、Cに対して、債務不履行を理由とする損害賠償を請求できるからである。2017年改正民法の下での学説・判例では、債務不履行と第三者(履行補助者)の問題は、次のような枠組みで語られてきた。すなわち、⑦債務者が債務不履行を理由とする損害賠償の責任を負うには、債務者に帰責事由がなければならない。⑧ここでの帰責事由とは、「債務者自身の故意・過失および信義則上これと同視すべき事由」である。⑨「債務者の故意・過失と信義則上同視されるこれと同視すべき事由」である。⑩2017年改正前の民法では、この枠組みをもとに、契約上の債務の不履行につき、帰責の根拠を語る際にも、契約上の根拠を語る際にも、それらが契約として判断されていることが、法律構成にあらわれていなかった。他方で、本問に即していえば、「債務不履行であっても、債務者と履行補助者に過失がなければ免責される」ということが語られてきた。民法のもとでは、繰り返し述べたように、契約に即して、①債務内容を確定し、②債務不履行の事実を確定し、③「契約及び取引上の社会通念に照らして」の債務者の帰責事由を判断するというプロセスを基礎に据えて、ここでの問題を処理すべきである。3 異なる観点からの設問設定本問では、以上に述べたほか、別の観点から、個別具体的な契約に即してみたときに、債務者であるBに対して次のような義務が課されているかどうかについても、検討するに値する。これらは、いずれも、本件における修復をすること自体が債務不履行となることを意味するものである。第一は、そもそも、A・B間の契約において、B自身が――たとえ自己と同レベルの技能を有する修復職人がいたとしても――甲・乙の修復をすることに合意されていた場合には、Bは、他人を使用しない義務(自己執行義務)を負っていたのではないかということである。そうであれば、BがCを使用してこのことを自身が債務不履行となることになる。それであれば、BがCを使用してこのことを自身が債務不履行となることになる。第二は、甲・乙を修復する作業を行うためにBが手配してこれをAへ組織し、修復作業に臨んだときに、その組織編成・人的システム構築が不十分であったために、納期に遅れたり、完成した結果に不備があったりしたときに、Aは、(履行遅滞・契約不適合とは別に)Bの組織編成・人的システム構築面での義務違反(これも契約解釈を経てその存否・内容が描かれる)を理由として損害賠償責任を追及することができるのではないかということである。●関連問題●本問をもとに、仮に、AのBに対する損害賠償請求が認められるとしたならば、その場合における損害賠償の可否について、どのような思考の枠組みが考えばよいかを検討しなさい。検討に当たっては、いわゆる相当因果関係説からどのような議論展開になるか、また、いわゆる保護範囲説からはどのような議論展開になるのかを視野に入れつつ、あわせて、契約の内容を確定するという作業が損害賠償の内容を判断するうえでどのような意味をもつのかを考慮しながら、本問の答案に結びつけて整理しなさい。●参考文献●滝沢・393頁

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

種類債務の履行の提供と受領遅滞

公開:2025/10/20

2022年6月10日、X会社はY会社との間で、Xが製造するICチップをYが7月から向こう6か月にわたって1000枚ずつ、毎月25日にXがYの倉庫に搬入し、Yが代金総額600万円を各月の納品後12月25日にまとめて支払う旨の契約を締結した。その後に製品価格が急落していたところ、7月25日にXが製造したICチップをYの倉庫まで運送したが、Yは、製品価格の急落を理由に荷引き取りをすることができないので、7月分を8月と一緒に8月25日に引き取ることを申しいれた。やむなく、Xは当該製品を自社の倉庫に戻して、8月25日になって再度、Xは、取引先のA会社に納入する同種製品と一緒になってYの倉庫まで製品を運んだが、Yからは、XがYに不良品質の契約を製造しているにもかかわらず、Yはそのことができないので、Yは受け取りを拒絶した2か月分の製品とその日にA社に入荷する同種製品3000枚をトラックで、それぞれの会社を仕分けせずに、A会社に納品するために進んでいたところ、対向車線を走っていたトレーラーが突如車線をはみ出して、半回転して衝突した。それからトレーラーが発生した火災によって運搬中の製品のすべてが焼失した。XはYの不誠実な対応に失望していたため、Yとの今後の取引をとりやめたい。あるいは、Yとの取引を継続しうるとしても2か月分の製品代金200万円を請求したい。XはYにどのような根拠に基づき主張が可能であるか。●参考判例●① 最判昭30・10・18民集9巻11号1642頁② 最判昭40・12・3民集19巻9号2090頁③ 最判昭46・12・16民集25巻9号1472頁●解説●1 受領遅滞と契約解除(1) 受領遅滞の意義以下では、まず、Yとの売買契約をとりやめることができるのかどうかを検討しよう。債権者は、債務の履行に向けた自身の果たすべきすべての準備を終えて、その旨を債務者に通知すれば、債務の履行のために必要なすべてのことを終える。これが履行の提供といわれる(493条参照)。債務者は、原則として、債務者のもとで給付結果を提示しなければならないが(現実の提供)、債務者の協力を要する場合に債務者の準備をすれば足りる(口頭の提供)。債務の履行が提供されたにもかかわらず、債務者が債務を受領しないことによって生じる責任を負わない(492条)。その反面、債務者が債務の履行を怠った場合には、その後に債務者に責任が生じることになる。これが受領遅滞と呼ばれる(413条)。債権者に受領する義務を負うと考えれば、債務者の受領遅滞に応じないのは、債務者による受領義務の不履行を意味する(債務不履行責任説)。しかし、債権者に受領する義務を科すかには、問題に受領する義務を負う)との明確な定めがあるため、債務者の受領義務の違反を観念しがたい。したがって、受領遅滞は、債権者が理由なく受領しない事実がある場合に、履行の実現しないことによって生じる不利益を債務者から債権者に転嫁する法定の責任を意味するとされる(法定責任説)。もっとも、債権者にとって目的物の保管が莫大な負担となるため、あるいは、債権者が債権者に対する信頼を呈したため、契約関係を解消することを望む事態も想定できる。たとえ受領が権利であって義務でなくとも、目的物の給付の移転に応じる行為を「引渡」と「引渡」から区別した上で、目的物の引取りが重大な問題となりうる売買契約である。この見解によれば、引取りは義務であるから、引取りに応じなければ、買主は受領遅滞に陥ることはもちろん(413条)、それに加えて同時に、信義則上の引取義務の不履行に基づく責任も負担しなければならない。この場合、売主や引取人は買主や受注者に対して、債務不履行に基づく損害賠償はもちろん(参考判例②)、契約を解除することもできる(541条以下)。本問において、Yは不当に目的物の引取りに応じようとしなかったため、Xは、Yの引取義務の不履行に基づいて、契約全部を解除することができる(542条)。Xは併せて、Yに対して引取義務の不履行に基づいて発生した損害(売買代金額と目的物の時価との差額:参考判例③参照)の賠償を求めることもできる(415条1項)。2 種類債務の特定と危険負担(1) 種類債務の特定の効果次に、XがYとの売買契約を継続しつつ焼失した2か月分の商品代金の支払を求められるのか、検討しよう。本問におけるXのICチップの引渡義務のように、一定種類に属する一定数量の引渡しを内容とする債務を種類債務という(401条参照)。XはYとの売買契約に基づいて、定められた品質のICチップを定める義務を負うが、履行日にYに引き渡すべき債務を負う。その後に品質保証価格といったリスクは、すべて売主が負担しなければならない。しかし、売主がいつまでも買主への引渡義務に拘束され、その目的価格の下落ないしは商品の品質低下といったリスクは、売主にとっては過酷な状況となるうる。そこで、売主が市場から商品を仕入れ、あるいは自から商品を生産する場合に、当該製品をBの引取りに向けて、それ以後も売主の市場の商品に代え、その危険ないしは費用が債務者の負担に移転される時点(401条2項)は、当事者が契約によって目的物を特定する場合、当事者が契約で債務者に特定できる権利を付与する場合(401条2項後段)のほか、債務者が「給付をするのに必要な行為を完了」することによっても認められている(同項前段)。問題となるのは、種類債務の特定をもたらす「給付に必要な行為の完了」が何を意味するのかである。(2) 種類債務の特定の効果と危険負担債務者がその履行のためにするべきすべての行為を行えば履行の提供をしたことになるため、履行の提供と種類債務の特定の時期が問題となるが、成立債務(種類債務を履行するための具体的な行為は何か)を別に分析し、①債務者が準備を完了し、②債務者が分離して、③債務者が引渡場所まで運搬して給付の準備を完了したこと、をそれぞれ意味するとされる。このような見解によれば、債務者が特定の準備を完了するため、持参債務であれば引渡場所で準備を完了した時点で、本件と異なり取立債務の場合には、送付場所で債務者が準備を完了すればよい。これに対し、債務者が債務者の住所地で現実の引渡をするという(大判大正11・11・4民集1巻629頁)。このように、持参債務であっても、現実の提供に必ずしも目的物の分離は必要とされないのであるから、現実の提供があっても、なお種類債務の特定の時期が生じない事態も生じうるはずである。(3) 種類債務の特定の効果と危険負担種類債務の特定と、それ以後、その目的物だけが引渡債務の対象となるため、その時点から、原則として特定物債務のためのルールが適用される。したがって、特定された目的物について契約に従った善良な管理者の注意義務が発生し(400条)、その特定された目的物の所有権が買主に移転する(最判昭30・6・24民集9巻8号1528頁)。もっとも、種類債務の特定によって危険が買主に移転するか否かが問題となる。たとえば、取立債務であれば、売主が目的物を分離・通知して種類債務が特定しても、いまだ引き渡されていなければ、危険は買主に移転しない(567条1項後段)。売主は、当該目的物が滅失した場合にも、もはや目的物の調達をする必要がなくなるにすぎない。これに対して、従来、目的物の支配の移転と同時に危険が移転するのであれば(→本節2節)、種類債務は引渡しによっては特定物と解するとの見解も主張されてきた。しかし、引渡後に目的物が偶然燃焼によって滅失したときにも危険も移転するとされてきた(567条1項前段)、引渡後の場合はこれに基づく論述も可能である。もっとも、特定後に目的物が滅失した場合にもなお履行が請求できるとする見解もある。したがって、引渡後に目的物が偶然燃焼によって滅失しても、売主は引渡債務を免れる。(4) 受領遅滞と危険の移転引渡によって種類債務が特定するとすれば、売主が引渡しを履行したにもかかわらず、買主がその受領を拒絶した場合にはどうなるのであろうか。この場合に売主が危険を負担するというのでは不合理であるから、引渡後は、目的物の引渡しだけでなく、受領遅滞によっても債権債務の特定が生じるとする。たとえば、履行期間内に売主が引渡しを申し出たところ、買主がその受領を拒絶し、その後に商品が不可抗力で焼失したとすれば、やはり受領遅滞によって種類債務が特定し、危険は買主に移転するというのである。しかし、本問においては、Yが運送していたYのための製品は、Aに引き渡すべき製品から仕分けされずに一緒にされていた等の事情がないため、現実の提供が行われて受領遅滞が生じていてもなお種類債務の特定は生じていない。履行の提供によっても、目的物の分離がなく、種類債務は特定されていない以上、もし買主に受領するにいたる危険が移転する可能性があるならば、善管注意義務にも反して特定された商品の危険を考えなければならない。しかし、民法567条2項は、目的物が「特定」されていることを要件としており(同法567条2項後段)、受領遅滞による危険の移転を認めることから、目的物が分離・特定されていない本問には適用できない。したがって、本問では、より一般的に受領遅滞による危険の移転を定める民法413条の2第2項、536条2項によって、受領遅滞がある売買に買主が危険を負担すべきであるであろうか。結局、本問において、Xは7月・8月分の製品について、8月25日にYが受領を拒絶して受領遅滞に陥った後、Xの責めなく当該製品が焼失したため、受領遅滞に基づく危険の移転を根拠に、Yに対して当該2か月分の製品代金200万円を請求することができる。●関連問題●2022年6月10日、X会社はY会社との間で、Xが製造するICチップをYが7月から向こう6か月にわたって1000枚ずつ、毎月25日にYがXの倉庫に引取りに来ることで製品をYが納品し、Yが代金総額600万円を各月の納品後12月25日にまとめて支払う旨の契約を締結した。その後、7月25日の引渡に備えて、Xは製造したICチップを当社倉庫に投入して、他の会社に納入する同種のICチップと一緒に保管していたが、その後に製品価格の急落した際、7月25日にYが引取りに来ないので、翌日、Yに連絡をとった。Yは、製品価格の急落を思うと当面は思わしくないため、7月分と8月分を一緒に8月25日に引き取ると返答した。8月25日になってYが引取りに来ず、Xが翌日にYに連絡をしたところ、Yはそもそも当初より契約内容に納得しておらず、無効であると主張した。その後、8月27日に、Xの倉庫が不可抗力により製品とともにすべての製品が保管とともに燃焼してしまった。XはYの不誠実な対応に失望していたため、Yとの今後の取引をとりやめ、あわせて焼失した2か月分の製品代金200万円を請求したい。XはYにどのような主張が可能か。●参考文献●滝沢・38頁/宇野=45頁/宇野=1112頁/中田=47頁/43頁/村田=16頁「民法でささえる法」(有斐閣、2021)143頁/村田=43頁/滝沢=43頁「ケースで考える民法改正」(有斐閣、2022)283頁(大澤)/(北居功)

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

特定物売買と手付

公開:2025/10/20

2024年6月1日、AはBとの間で、B所有の土地(以下、「本件土地」という)を800万円で買う契約(以下、「本件契約」という)を締結した。本件契約の当時、本件土地上にはB所有の木造建物が建っており、Bが自己の費用でこの建物を収去して更地にしたうえで、同年8月末日までにAに引き渡すこととされた。売買代金は、本件土地の引渡しと引換えに支払うこととされた。また、本件契約の締結に際して、AはBに手付金200万円を交付した。この手付に関して、売買契約書には次のような条項(以下、「本件手付条項」という)があった。「売主が本契約を履行しなかったときは、買主に既払手付金を返還すると同時に、手付金と同額を違約罰として支払うものとする。」この契約書は、市販の契約書書式をBが作成したものであり、本件契約の締結の際、Aは、手付金について協議はしたが、本件手付条項の内容には特に注意していなかった。以下の11および2について、それぞれ独立した問いとして答えよ。(1) 本件契約締結の初日、Aは、売買代金を返還するのを定期預金を期間満期前に解約した。ところが、2024年6月31日、Bは、本契約を解除したい意向をAに伝えた。Aはこれに異議を唱え、手付の倍額(400万円)を持ってきても受け取らないと述べた。Bは400万円を用意し、これをAに返すとともに、本件手付条項に基づき本件契約の解除を通知した。AはBに対して、売買代金の支払と引換えに本件土地の引渡しを求めることができるか。(2) 本件契約締結の初日、Bは、木造建物の収去を業者に依頼し、2024年6月9日に収去作業が始まった。ところが、同月14日、Aは、転勤が決まったことを理由に、本件手付条項に基づき手付の放棄と本件契約の解除をBに通知した。BはAに対して、同年8月31日に本件土地の引渡しと引換えに売買代金の支払を求めることができるか。●参考判例●① 最判昭24・10・4民集3巻10号437頁② 最判昭40・11・24民集19巻8号2019頁③ 最判平6・3・22民集48巻3号859頁●解説●1 手付の性質売買契約において、契約締結の際に買主が売主に対して、手付として一定額の金銭を交付することがある。このような手付の授受は、不動産売買においてしばしば行われる。手付には一般に、証約手付、解約手付、違約手付という3つの性質のものがある。証約手付は、契約成立の証拠としての性質を有するものである。すべての手付は、証約手付の性質を有している。解約手付とは、契約当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、一方的に契約を解除することを認めるものである(557条1項)。民法が規定しているのは、この種の手付である。このことから、判例・通説は、当事者に別段の合意がない限り、手付は解約手付としての効力を有するとしている(最判昭29・1・21民集8巻1号64頁)。違約手付については、さらに2種類のものがある。損害賠常額の予定と、違約罰である。前者は、買主に債務不履行があった場合には損害賠償金として手付が売主により没収され、売主に債務不履行があった場合には損害賠償金として手付の倍額を買主が支払うというものである。他方、後者は、当事者の一方に債務不履行があった場合に債務を履行する点では前者に同じであるが、民法の規定に従い算定された債務不履行に基づく損害賠償を別に支払う必要がある点に、大きな違いがある。違約手付が合意された場合、損害賠償額が予定されたものと推定される(420条3項)。これらの手付は、損害賠償額の予定と違約罰を除けば、同一的な関係に立つのではなく、1つの手付に複数の性質が併存することがありうる。前述のとおり、すべての手付は証約手付を性質に有するため、1つの手付が、証約手付と解約手付の双方の性質、証約手付と違約手付の双方の性質を有するのは、ごく普通のことである。さて、本件手付条項は、文言上は違約手付(損害賠償の予定)のようにみえる。このような問題となろうか。前述のとおり、手付は原則として解約手付としての効力を有すると解されるが、民法557条1項は任意規定であるため、当事者が別の合意をすればそれが優先する。言い換えれば、手付条項から解約手付の性質を排除するためには、その旨の意思表示が必要となる(大判昭7・2・19民集11巻1552頁)。このような意思表示が認められない場合には、たとえ違約手付の合意があったとしても、これと両立して解約手付も認められる。すなわち、後者の手前においては解約手付として機能し、その後に債務不履行があった場合には違約手付として機能するという理解である。このように、両者が併存する場面は異なっているのであるから、両者が併存しても矛盾は生じない。そして、解約手付の性質を排除する旨の合意があったか否かについては、当事者の認識の齟齬がある場合には、諸事情から合理的に判断することになる。本問では、Bが市販の契約書書式をBが作成したこと、Aはこれについて条項の内容について気にとめていなかったことが明らかだろう。2 手付解除の方法本件手付が解約手付の機能を有しうるとすれば、次に問題となるのは、小問(1)でのAの解除、小問(2)でのAの解除が民法557条1項の要件を満たしているか否かである。本問では、A・B間における売買契約の成立、解約手付の合意、手付の授受が明らかであるから、解除の意思表示もされている。さらに、手付解除をするには、売主は手付の倍額を現実に提供し、買主は手付の返還請求権を放棄する必要がある。Bはこのような対応をしたが、Aは手付の倍額の提供をしなければならないのは、手付解除の方法の厳格性を表すものであるか。判例・通説は、買主が手付の倍額の受領をあらかじめ拒んでいるときでも、手付解除の効力が発するためには、手付の倍額が現実に提供されることを要するとしたうえで、これが現実に提供されることと解する(参考判例①)。すなわち、口頭の提供で足りるとする。Bが手付解除をする場合には口頭の提供で足りる。どの時点で解除の効果が生じたのか。Aが明確な準備態勢に入っても、手付解除をすると、その履行の意思表示を不要とする効果も発生しうるが、買主による手付解除の意思表示を不要とする効果も発生しうるが(557条2項)、などと解釈するのが通例である。この区別は客観的なものであるので、買主による解除の意思表示がなされたか否かを判断するのも、A・Bは手付解除の表示をしており、この点は問題とならない。3 履行の着手手付解除をしうるのは、相手方が履行に着手する前に限られる(557条1項ただし書)。なぜなら、相手方は、履行に着手するまでに手付解除の意思表示がなされなければ、契約が履行されるとの期待を抱き、履行の着手によって多くの費用を要する。もしその後でも手付解除を認めると、相手方は手付相当額では補えない不測の損害を被ることになってしまうからである。このような観点から、手付解除の時期限界を画する「履行の着手」は、「債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に認識し得るような形で履行行為の一部をなし、又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合」と解されている(参考判例②)。その例は、当事者の一方、履行の提供、履行の遅延などである(最判平5・11・16民集47巻9号308頁)。本問では、解除の意思表示がなされた時点より、小問(1)では、Aが銀行の定期預金を期限前解約しており、小問(2)では、Bが建物の収去を業者に依頼しているが、これが「履行の着手」に当たるか否かが問題となる。Aが代金を調達する行為は準備行為にすぎないことから、履行の着手にはあたらないと解されるが、Bが建物の収去を行っている場合、履行の提供をするために欠くことのできない前提行為といえるかどうかによって結論が分かれる。他方、BがAにおける本件建物収去の作業は、引渡期限になされてはいないものの、本件土地の引渡義務を履行するための準備行為であることも、本件契約のBの引渡義務の履行とみることができよう。この評価が妥当する。●関連問題●(1) 本問において、本件土地の引渡期限前に、Bは手付の倍額を現実に提供して契約を解除することができるか。(2) 本問において、本件契約の締結後にAが本件土地の測量を実施したうえで、その結果を基に坪100万円にして代金額を確定することになっていた場合において、Aが測量を実施した後に、Bは手付の倍額を現実に提供して契約を解除することができるか。●参考文献●後藤=28頁/田村=33頁/奥田=25頁/田村=33頁

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

安全配慮義務違反

公開:2025/10/20

Aは呉服屋を営むB会社に就職して1か月の新人社員であった。ある晩、AはB会社よりB社の寮のアパートでの新人研修のために食事を準備するため同僚Cの部屋を訪れていたところ、寮の1階でたむろしていたD、Eに、「見ないで、Cの部屋に行く」と告げてアパートに入ると、突然、Cに羽交い絞めにされてAの部屋に連れ込まれ、従業員の名前を名乗る2人から、Aは顔面を殴られ、甲歯車数本を折るなどの傷害を負い、現金約5000万円相当が盗まれてしまった。Aは運ばれた救急病院での警察官の尋問の際に上記の事情を話したが、警察の調べでは、従業員全員にアリバイがあり、連絡がついたのを偽って乱入したらしい。Aは傷が深く、病院に運ばれた際に翌日に死亡した。警察の捜査にもかかわらず、上記事件から3年半経っても本件の犯人は捕まっていない。なお、Bが設置した甲建物には、訪問者を確認できるようなインターホン施設や防犯チェーン、防犯ブザーなどは設置されていなかった。AはB社を継いだC母以外には親族はいない。この場合、DがB会社に損害賠償請求するとしたらどのような法的構成が考えられるかについて、相手方から予想される反論も踏まえつつ、検討しなさい。●参考判例●① 最判昭50・2・25民集29巻2号143頁② 最判昭55・12・18民集34巻7号888頁③ 最判昭56・2・16民集35巻1号56頁④ 最判昭59・4・10民集38巻6号557頁(2) Cは、隣家または契約不適合を視野に、Aとの甲地の売買契約、Eとの乙建物の建築請負契約およびDとの融資契約の取り消しまたは解除を求めることができるか。●参考文献●角田美穂子・吉満正道10頁(参考判例①坪田)/竹濱修・平成15年最重判117頁(参考判例②神田)/久保井之・平成15年最重判70頁(参考判例③判田)●解説●1 責任の発生及び法的構成生命・身体等の被害が発生した場合、判例は、戦前の大審院判決(大判大正15・2・16民録5巻159頁)以来、死亡に至っていれば、債務不履行責任に基づく損害賠償請求を相続人が構成するという構成をとっている。そこで、本問では、死亡したAに発生した損害賠償請求権を唯一の相続人である母親Dが相続することになる(896条1項)。人が、Aを殺した犯人に対して、民法709条の不法行為を理由とした損害賠償を請求するのは明らかである。また犯人への使用者責任(715条)を本問で、甲建物に侵入した者の身元が判明していないため、犯人がB社の従業員であるか、Bの被用者といえるかなどの議論がなされていた。その犯人の加害に加わった者にも共同不法行為責任(719条1項後段)が発生する可能性もある(共同不法行為については→本書参照)。しかし、犯人はAを殺した犯人ではないのだから、この損害賠償請求権はすでに犯人に届いた賠償請求権に基づいている。また、犯人が本件取引の時点で、B社の従業員であれば、Bに使用者責任に基づく損害賠償を請求することも考えられる(使用者責任については→本書参照)。しかし、犯人はB会社の少なくとも現在の従業員ではないため、使用者責任の請求は困難である。そこで、考えられるのが、B社は従業員Aに対して雇用契約関係上の信義則に基づき、その生命・身体・健康等の安全に配慮すべき義務を負っており、この安全配慮義務違反によって生じた損害に対して債務不履行責任に基づく損害賠償責任を負うという安全配慮義務違反である。安全配慮義務は、日本で1960年代半ばから、労災・職業病事をめぐる損害賠償訴訟において認められた義務概念である。始めて安全配慮義務を認めた判例(陸上自衛隊事件)、その後、最高裁は「国は、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っている(国家公務員安全配慮義務)。その設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務遂行に当たる上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負っているものと解すべき」であるとした。最高裁が安全配慮義務を債務不履行の問題と捉えたのは、右のような事案において、当該法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係にある当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの(上述①)からと説明した。以後、安全配慮義務概念は、労災・職業病を中心に、学校事故その他で広く議論されるようになった。本問のCもBが負うとする安全配慮義務違反を理由とした債務不履行に基づく損害賠償請求を締結したとして、Bに損害賠償請求しようとの場合、問題となる安全配慮義務の内容と義務違反の事実、信頼関係、すなわちAを相続したので、使用者責任、債務不履行に求められるべき事由がそもそも証明困難であること、その証明は債務者であるが(参考判例①)、Bは従業員でもない犯人がしたことには責任は負わないなどとして争うことが考えられる。しかしながらこうしたような事案で、最高裁は、従業員を宿泊させるならばその安全を確保するために、ドアを強く叩くなどの侵入者の存在を認識できるインターホンやドアチェーン、防犯ブザーなどの安価で設置できる安全配慮義務がある。これらを怠ったとして、安全配慮義務違反を理由とする債務不履行責任を使用者側に認めた(参考判例③)。本問でも、Bには宿泊者の安全配慮義務違反の相手方として、BはCに損害賠償請求を行う。この場合、AはBに損害賠償請求するにあたって、B社の建物に侵入した犯人が誰であるかを特定する必要はない。この場合、本件の状況とB社が負うべき安全配慮義務の内容を踏まえて、B社の建物に侵入した犯人の行為がAの死亡と因果関係があると主張立証できれば足りる。なお、犯人が誰であるか特定できないため、本件のような犯人が誰であるか特定できないことは、安全配慮義務を負うことはない。なお最高裁は、安全配慮義務の「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触関係」に生じる義務として、その成立を肯定するが、そこでの裁判例は、契約関係にない第三者に対する安全配慮義務などは、現在までの判例では認められていない。そこで刑事訴訟法など、契約関係にない第三者に対する安全配慮義務の成否も問題となる。2 安全配慮義務違反の債務不履行責任の法的効果ところで、本件で、DはCに生じた生命侵害を理由とする逸失利益の賠償請求権の相続を前提とするのであるが、これらの請求の根拠は民法711条の不法行為を理由とする損害賠償請求権であるだろうか。この問題に対して、判例は、安全配慮義務違反は債務不履行であるから、使用者契約関係にある労働者に対して負う責任であって、遺族は使用者と契約関係にないから、安全配慮義務違反を理由に、遺族の慰謝料を請求することはできないとし、また、一定の期間の慰謝料の請求を認める民法711条は不法行為責任に適用される規定であって、債務不履行責任については適用できないとして、遺族の慰謝料請求を否定する学説の一部が見解を否定した。他方で、債務不履行に基づく損害賠償請求の場合、一般的に、弁護士費用を損害として認める裁判例もあるが、最高裁は、安全配慮義務違反を理由とした債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟でも弁護士費用を損害と認めるという判断について、それが相当因果関係の範囲内であれば認められるとしている(最判平24・2・24判時2144号89頁)。3 民法改正との関係安全配慮義務は判例・学説で認められてきた概念であって、民法に明文の規定はない。2017年改正民法でも、安全配慮義務は民法に加えられなかった。安全配慮義務は、2007年に成立した労働契約法5条で使用者が労働契約に付随し、労働者にその生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする義務」と規定されているため、民法の安全配慮義務をあえて入れる必要はない、労働法との調整も必要となるため、民法の条文には置かれないままになったという。ところで、安全配慮義務違反による債務不履行構成は、同一の事象について不法行為責任も成立しうる場合でも、後者に基づく損害賠償請求権が短期消滅時効期間の満了から3年の消滅時効にかかる(2017年改正民法724条の2)に対して、前者は、債務を履行することができる時(同法166条1項)から10年(同法167条1項)といういわゆる「時効メリット」があることが指摘されてきた。本問でも、Aが死亡した以上はBの従業員であることが使用者責任を構成した場合には、上述のように、民法715条の使用者責任を理由とした損害賠償も考えられるが、本問では、すでに事件から3年以上が経過しているとの記述もあり、この短期消滅時効が完成していることになる。この場合に、安全配慮義務違反であれば、なおBに損害賠償請求できるのである。民法改正では、債務の一般的消滅時効期間が長期に重点化され、従来の権利を行使することができる時から10年の時効期間(166条2項)に加え、権利を行使することができることを知った時から5年の短期時効期間が導入された(同項1号)。従来は、安全配慮義務違反の債務不履行を理由とした損害賠償請求権を行使することができることをもって10年の時効期間だったのが、半分の5年になってしまうのだから、時効メリットは大きく失われたことになる。他方で、改正民法は、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効期間について長期時効期間として20年とし(人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権の短期消滅時効については、3年から5年に伸ばした(724条の2))。また、生命侵害の場合の損害賠償請求権については、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から5年の短期消滅時効期間も適用され、また、これを知らないうちは、いずれにせよ権利を行使可能な時ないし不法行為の時から20年の長期消滅時効が適用されることになった点に注意を要する。なお、2017年改正法の施行日(2020年4月1日)以前に債務を生じた場合には、なお従前の例による(附則10条4項)。●関連問題●窃盗罪で罪に問われ懲役2年の刑となったAが刑務所に収容されてから1年後に行った労働作業で、使用していた機械が故障したことによる誤作動で、Aは指を切断する負傷を負った。Aが出所してから3年後にAは国を相手どり安全配慮義務違反の不履行責任ないし、国家賠償法上の責任に基づく損害賠償請求をした場合、この請求は認められるか。●参考文献●北原功・吉満正道『補訂/浦川/土屋セミナー963号』(1985)135頁/北原功・平成25年最重判74頁/高見1169頁

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

契約締結の際の「説明義務違反」

公開:2025/10/20

Aは所有する工場増築の計画をすべく建築業者B社に仲介を委託していたところ、BはAが設計業者Dを推薦したので、Dが紹介した「信頼できるので購入したら」と勧められ、Bを介してAから申込金を受領し、Bも購入を促した。その後、Aは建築士CにBから土地の有効活用を目的として建築計画を勧められ、Cは土地に十分な地質調査分析からなる建物を建設して賃貸部分の賃料収入でDからの融資を返済するプランをDから提案され、後に、そのプランを前提にした建築計画をDから同時に、設計料をCから受け、Cは、増築の建築費用をDからさらに借り受け、CとDとの建物建築業務契約を締結した。ところがその後、甲土地の土壌に化学物質による汚染が判明していると判明し、その除去に巨額の費用がかかることを認識して、Bは専門の技術者を投入してAにB自らにお金がかかると伝え、仲裁判断時に、Cに損害賠償の相談も受けなかった。また、当プランでは、Cの建築計画をDに提出した後、甲地の一部を競争相手のEに売却して自己の資金の一部を回収する予定であったため、この方法では内部の購入者がCに同様に巨額の建築費用がかかる可能性があり、結局、そのような内部の事情はCは建築確認後、実現しなかった(EはCの建築基準法上の問題を認識していた)。CはA・B・DおよびEに対してどのような損害賠償を請求することができるか。●参考判例●① 最判平23・4・22民集65巻9号1405頁② 最判平18・6・12判時1941号94頁① 最判平15・9・12民集57巻11号1887頁④ 最判平16・11・18民集58巻8号2225頁●解説●本問の争点は、①甲地の土壌汚染について、原告の売主Aおよび不動産仲介業者Bに説明義務があるか、②建築基準法上の問題について、原告の建築士Dに説明義務があるか、③甲地の売買と乙建物の建築に関して融資したDからみてAとBに説明義務を負うか、④Eに説明義務がある場合にどのような損害賠償が認められるかである。1 説明義務とは契約当事者は、自己の利益の原則から、契約の締結を左右する判断に必要な情報を提供することを相手に求める権利がある。しかし、とりわけ消費者に情報格差が生じることがあり、自己決定の前提として実質的な対等性を確保する観点から、相手方に情報を提供する義務が信義則上課せられることがある。これとは別に、契約上の給付義務に付随する説明義務としての説明義務もある(最判平17・9・16判時1912号8頁)。説明義務(情報提供義務ともいう)は、情報がまったく提供されていない場面だけでなく、正しい情報を提供すべきであるという意味で、不正確な情報が提供された場面でも観念される。裁判例では、保険会社の担当者が顧客に対して損害賠償責任を定めた条項を説明すべきであったにもかかわらず、フランチャイズ取引、不動産取引等で問題とされ、平成29年民法改正では当初、説明義務の明文化が検討されたが、コンセンサスを得られずに見送られた。2 法的性質および要件・効果説明義務違反が契約上の過失の1つと位置づけられてきた経緯もあり、これを契約上の義務と構成する見解もあるが、不法行為法上の注意義務と構成する見解もある。また、かつては、主として契約締結上の注意義務を重視するに足り、契約締結前から、信義則における信頼関係の法理という立場に立って、それを対人的な信頼関係に基づくものと構成した判例もある。しかし、近時、判例は契約交渉のその間接的な性格を否定し(すなわち、この義務の発生が契約の締結を前提としないことを明示)、それを不法行為法709条(民法100条)が適用される信義則上の注意義務と位置づけ、他方で、これを媒介した不法行為責任については(最判平23・3・22)「契約準備段階における一方の当事者の過失によって他方に損害を被らせた」との理由から不法行為責任を肯定するにとどめ、信義則上の注意義務違反を理由とする損害賠償請求権については契約締結に至らなかったようなケースで、むしろ今日、実際に重要なのは、その対人的な性質・効果である。(1) 要件説明義務違反の対象事実は、「契約不適合」(562条1項)に限定することができうるような契約の「目的」の内容に関わる事項であり、契約(目的)の内容を構成するに足らない事情も、適切な説明であれば契約を締結しなかったであろうと認められる事情であればその対象となる。ただし、そうした事情でも、①事前の契約の不等性や曖昧性という説明義務の趣旨から、自らで容易に調査できる場合や、当事者の間で特に説明を期待しない合意がある場合には対象とならない。本問において、AとBの説明義務に違反するとの主張が認められるかは、このような観点による。(2) 結果以上によれば、説明義務違反の対象となるのは、信義則上の注意義務違反に信義則上の説明義務違反を負うと認められる者であって、AとBであるから、土壌汚染の事実をCに説明しなかった点に説明義務違反が認められると主張することが考えられるが、それに加えて、Eの銀行がDに融資した経緯からAとBに説明義務違反が認められるかという点も、対象となることになるのは前述のとおりである(上述①)。3 結果A・B・DおよびEに説明義務違反があると認められた場合、判例の定式に従うと、Cは説明義務違反と因果関係にある損害の賠償をそれぞれに請求することができる。具体的には、①被告について説明義務違反の有無、②その帰責事由の有無、および、③被告による説明義務違反の事実と相当因果関係に立つ原告の損害の賠償を請求することができる。Cは、説明義務違反により、こうした機会を失ったこと自体を損害ととらえ、適切な契約を締結する機会を失ったこと自体が損害であるという問題である。Cは、会社の経営をよくするために必要な保険に加入しなかったため、会社が倒産により失った機会利益を請求する。さらに、契約当事者以外の第三者が信用義務を負う場合、DはAに金銭を貸し付けた。本問では、売買契約および請負契約のそれぞれの契約当事者関係にあり、融資実行は「特段の事情」がない限り、不動産について説明義務を負うことは原則としてない(最判平15・11・7判時1854号58頁)。この点、参考判例③も、融資契約と個別独立の契約である請負契約の成立に影響を与える事実について、それは融資銀行は説明義務を負わないのが原則であるとしつつ、しかし、建築建物の健全な一体となったプランの作成会社とともに深く関与して、しかも当プランを前提に返済計画を審査した融資銀行は、本問と同じ方法による顧客の自己資金の投函について確実に実現できるとの見通しを積極的に抱いていた等の「特段の事情」があれば、その建築基準法上の問題について、担当者個人に認識がなくとも、調査のうえ顧客に説明する義務を信義則上負うとの例外を示している。そうすると、本問において、Dが甲土地の土壌汚染についてAとBおよびCに説明義務を負うかどうか、また、提案されたプランの収益基準法上の問題についてもEと同じように説明義務を負うかは、結局、この「特段の事情」の有無いかんによる(上述①)。財産的利益に関する意思決定の場合、「特段の事情」がない限り、説明義務違反を理由とした慰謝料請求は認められないと判示していた。自己決定権を前提とした慰謝料請求は、近時の裁判例において同様に上述の判例にもかかわらず(最判平12・22民集54巻2号582頁)、財産的取引の領域においてそれが問題として予定され、財産的損害に関する意思決定が侵されても、財産的損害の回復に尽きないような人格的利益を失わせしめる点で、別途の法益侵害が考慮されるからである。ただし、参考判例①が指摘したように「特段の事情」があれば、財産的損害に関する意思決定の侵害も慰謝料請求が認められる可能性はある。例えば、参考判例①は、意図的な情報の隠蔽を「信義則的に看過しがたく違反するもの」の1つとして、財産的損害の有無にかかわらず被害者に精神的苦痛を生ぜさせるような違法性の高い悪質な情報隠蔽を伴う場合を挙げる。なお、説明義務は本来与えられるべき情報収集の機会を担保するもので、独立の財産的価値を有するものとして、身体の他の機能を損なった場合に通説(722条2項)、裁判例は、自己責任がより強く求められる金融商品取引の場面が例外であり、他方、不動産取引では、複数の不動産業者が取引に関与し得た上で、誰かが説明責任を負うのが通常である。以上より、本問において、この請求できる人格的利益の侵害の内容を判断するには、財産的利益かどうかの区別、さらには逸失利益の有無について検討することになろう(上述②)。●関連問題●本問を踏まえ、次のことを検討せよ。(1) 仮にCが甲土地の情報をEに話さず、AおよびBにも土壌汚染について番組でそれでも、Eが建築基準法上の問題についてCから説明義務違反は否定されるか。(2) Cは、隣家または契約不適合を視野に、Aとの甲地の売買契約、Eとの乙建物の建築請負契約およびDとの融資契約の取り消しまたは解除を求めることができるか。●参考文献●角田美穂子・吉満正道10頁(参考判例①坪田)/竹濱修・平成15年最重判117頁(参考判例②神田)/久保井之・平成15年最重判70頁(参考判例③判田)

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

契約交渉の一方的破棄

公開:2025/10/20

A会社は、工作機械メーカーであるB会社と工作機械の製作および設置に関する契約交渉を行い、2月1日に「Bは9月30日までにA機械用の工作機械を製作してAの工場に設置する。代金(品質管理の費用100万円を含む)は1100万円とし、支払は機械引渡しの2週間後とする」との内容で基本的な合意に達した。ところで、この契約を正式に締結するには、A・Bとも、交渉担当者レベルでなく、役員会の決裁を要することになっていたが、時期的にお盆期間中のため、Bとしてはただちに作業にかかる必要があり、Aの交渉担当者と打ち合わせをした後、Bは製造業者から部品の調達費用として300万円を借り、購入した部品のすべてを使って、3月10日までに組立作業の4割を仕上げた(以下、「この仕掛り品」を「本件機械」という)。しかし、3月初旬のAの役員会では、工場の拡充は景気の動向を見極めてからすることになり、Bとの契約はとりやめ、工場も改造しないことにし、3月10日にAからその連絡を受けたBはただちに準備作業を中止した。この場合、BはAに対してどのような請求をすることができるか。なお、Bは会社設立時に、知恵も合せて305万円を弁済しており、また本件機械は汎用性がないため、他に転売することはできず、スクラップにするにも費用がかかるものとする。●参考判例●① 最判昭59・9・18判時1137号51頁② 最判平元・9・4判時1949号30頁③ 最判昭52・2・22民集31巻1号79頁④ 最判昭48・12・16民集25巻9号1472頁●解説●1 契約交渉の一方的破棄における責任の要否契約を締結するかどうかは当事者の自由であり、契約の準備段階として、本来、交渉の当事者は自由に契約を締結しない権利を有し、業務委託者自身が負担した費用を除き、契約が成立しなかった場合に、相手方に費用を請求することはできない。しかし、①一方の当事者が契約成立に向けて確実に締結できると信頼し、相手方もまた、その信頼を抱かせたと認められる場合 (最判昭59・9・18判例)、②契約が確実に行われると期待し、その期待に正当な理由がある場合 (最判平元・9・1992年判例)、③契約交渉が成熟し、当事者が契約が成立するものと信頼するのが当然と見なされる段階に達した場合、その信頼を裏切る形で交渉を打ち切ることは信義則に反し、違法と評価されることがある。そのため、その正当な理由がないながら、いずれの類型と構成しても大差なく、また、①②の信頼の発生は一般に正当な期待に当たらないとされる(東京高判昭和2・10・6民集30巻4号385頁、参考判例①もこれを前提とする)。なお、誤認ないし信頼を惹起した以上はAの交渉担当者であるから、この行為をAに帰責する法的構成も問題となり、これは交渉の際における契約上の責任として信義則上の注意義務が課される契約と見なせる。すなわち、不法行為責任ないしは民法715条を介してAに帰責され、他方、契約責任と解して契約責任類似の責任が問われた場合、履行補助者の証明によることになる。契約責任について、従来、判例は当事者の主張そのまま認める傾向にあったが、最判平22・4・22(民集63巻1465頁)は、契約締結前の説明義務違反事例(その他、契約的射程された契約)につき、これを不法行為責任と明示した。以上は当事者の行為態様に着目した分析だが、交渉担当者に契約を締結する権限は与えられていないが、準備行為にかかわる費用負担の取り決め(これも1つの「契約」である)を結ぶ権限が与えられていることもある。交渉途上で結ばれるこのような契約を「その内容は契約に当たらない」は「中間的合意」と呼ばれ、その拘束力が認められた例もある(最決平16・9・30民集58巻6号1833頁)。もっとも、本問のように単に契約条項を確認したにすぎない場合、当事者に法的拘束力のある「中間的合意」を締結する意思があったかどうかは疑わしく、そのような意思が認定できないときは、交渉破棄の問題として解決するしかない。2 契約交渉の一方的破棄に対して課される責任・責任の効果判例によれば、交渉破棄者とされる責任は、契約の履行責任でなく、損害賠償責任である。履行責任が認められないのは、契約が締結されていないからであるが、同様の理由から、損害賠償にあっても、原則として、履行利益の賠償は認められず(ただし、破棄された者の要求水準が高く、かつ、信頼利益の算定は困難だが、履行利益の証明は容易である場合には、例外的に履行利益の賠償が認められよう(東京高判平9・10・31判時1526号26頁参照))、誠実ないし信頼に基づいてした浪費の賠償、すなわち、信頼利益の賠償にとどまっている。すると、本問の場合、100万円の賠償は認められないことになる(もっとも、本問の場合、設置費用の実費は信頼利益からされる。履行利益は最大でも100万円であろう)。次に、信頼利益の算定にあっては、信頼利益の算定が問題となり、本問では、Bが「契約締結は確実である」と信じたなければ、組立作業にかかることはなかった。すると、金融業者から融資を受け、部品を払うこともなかったであろうから、305万円が信頼利益に当たるとは言えるであろう。また本件機械は他に転売することができず、スクラップにするにも費用がかかるといいうのであるから、部品代価も含まないであろう。しかし、組立てのために費やされた労力も、誠実ないし信頼に基づいて生じた損害である。本件機械の評価が400万円であるなら、部品費用の300万円を差し引いた100万円は「労力+利潤」の額と考えられる。「利潤」は履行利益に当たるので賠償の対象とならないが、実際に費やした労力(たとえば組立作業した従業員に支払った賃金)は信頼利益であり、さらにスクラップにするための付随的費用があるなら、その費用も信頼利益に当たるであろう。なお、信頼利益の賠もあって、民法416条が妥当する。同条は「債務の不履行」との文言からわかるように、一般には履行利益の賠償を想定しているが(改正民法416条2項も参照)、賠償範囲を合理的なものに限定するとの観点から、不法行為においてさえ、判例では民法416条が類推適用されており、ここでも同条の妥当すると解すべきであろう。さらに信頼利益の算定に当たっては、過失相殺等も考慮されるが、Aから連絡を受けたBはただちに作業を中止しており、この点で過失相殺がされることはないであろう。3 賃貸が認められる場合の損害賠償の範囲・所用の帰趨AがBに信頼利益を賠償したとき、本件機械の所有権は誰に帰属するのか。通常契約が締結されていない以上、Bに帰属するはずだが、スクラップにするための費用までAに負担させるなら、むしろ、機械の所有権をAに帰属するとした方が社会的経済的に合理的のようにみえる。しかし、賠償責任者(422条)にも似たこの解決方法は妥当ではないであろう。なぜなら、これではAがBに前述の「利潤」を支払うことなく、機械の所有権を得てしまうようであるから。けれども、そうであるならさらに、AがBに400万円を支払うなら、機械の所有権をAに帰属させても公平ではないか。また4億円に当たる「利潤」しか補償されない点で、契約締結後に注文者が任意解除した(641条)場合の残業ほど強いものではなく、その意味でもバランスがとれているようにみえる(←本郷参照)。A・B間の事後的な交渉により自ずから解決できる問題であろうが、AがBに400万円を支払うという合意は、本件機械の引渡しをAが受けるというのと交換に考えるべき価値もある。●関連問題●(1) 本問で、2月1日の時点で、AとBは役員会の決裁を経て、請負契約を締結したが、その後、AがBとの契約をやりたくなったとする。Aが3月10日にBへの契約をやめると連絡した場合、あるいはやりやめるというわけではないが、機械を安全に完成させるため設置工事をするため、4月30日以降、Aに何度も工場の改造を求めたが、Aが改造しないため、Bが機械を設置できないまま5月15日を過ぎた場合、BはAに対して、またはAはBに対して、それぞれどのような請求をすることができるか。(2) 本問で、Bは工作機械の製作をさらにCに請け負わせ、Bは設置工事のみを行う予定であったので、AとBの交渉時にCも同席を求め、2月1日にCと基本的な合意に達した後、Cが組立作業を開始することについて打合せをし、これに基づきCは金融業者から融資を受け、機械を4割仕上げたが、3月10日、AからBおよびCに交渉の打切りを伝えてきたとする。この場合、CはAに対してどのような請求をすることができるか。(注)(1)と(2)は、独立した問いである。●参考文献●滝沢・126頁/中田=112頁/中田=加藤=道徳=22頁/滝沢=126頁/山本=337頁(2008)102頁/池田=22頁/民集58巻137号9頁(2007)85頁/池田=22頁/池田=22頁/池田=22頁(池田清治)

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

事情変更の原則

公開:2025/10/20

精密機器メーカーであるA社は、2021年4月に、B社との間で、同年6月から5年間にわたり、A社の製品で使用する部品をB社より固定価格で毎月5000個購入する契約を締結した。 同年6月以降、契約で定められたとおりに、B社は自社の工場で製造した部品を納品し、A社は納品の翌月末に代金を支払っていた。B社は、本件部品の製造に不可欠な希少金属をS国から輸入していたが、2021年11月、S国は、突如として、自国の産業振興を優先させるという政策のもと、S国外への輸出を原則として禁止する措置をとるに至った。B社は、T国産のCにかえ買えなどの対応をしたものの、世界的な価格の高騰もあり、2022年2月の時点で、本件部品の原材料コストは契約締結時と比べて約5倍にまで上昇した。2022年3月に、B社は、A社に対して事情を説明したうえで、同年4月から本件部品の代金を従前の4割増の額にしてほしいと申し入れた。A社は、部材原価においてB社の要請に応じることができなきを検討したが、すでに本件部品を使用する機器の需要層が形成されていることもあり、4割もの増額に応じることはできないと判断し、その旨をB社に回答した。返答を受けたB社は、2022年4月以降、A社に対する部品の納品を停止した。その結果、A社は、機器の製造を続けることができなくなり、製造ラインの停止を余儀なくされた。A社は、B社に対して、被った損害の賠償を請求したいと考えている。A社の請求は認められるか。B社としては、どのような反論をすることができるか。1 A社による損害賠償請求A社としては、B社による債務不履行を理由として、損害賠償を請求している (415条)。そのためには、A社は、①債務の発生原因 (A社とB社の間の契約の締結)、②「契約に基づいて発生した」債務の本旨に従った履行がなこと、③損害が発生していること、を主張・立証しなければならない。本問においては、要件①②は充足されていると考えられる。要件③について、B社がA社に負った債務の不履行によってA社に損害が発生したかどうかが問題となる。A社は、B社に負った債務の内容を具体的に主張する必要がある。本問では、B社がA社に対して負担した債務の内容はどのようなものか、B社がその内容に従った履行をしたといえるのか、といった点を検討しなければならない。本問では、A社とB社の間で締結された契約の解釈・補充を通じて、その範囲が明らかにされることとなる。具体的には、納品されるべき部品がA社の製品に用いられることが予定されていたことを踏まえると、A社が当該製品を売却することによって得られたであろう利益も、賠償されるべき損害に含まれると判断される可能性がある。当該損害の賠償請求が「債務の履行に代わる損害賠償の請求」に該当する場合、415条2項の定める追加的要件も充足する必要がある。本問では、債権者であるB社の履行拒絶 (同項2号)、契約の解除、または、解除権の発生 (同項3号)が問題となるだろう。また、B社としては、同時履行の抗弁 (533条) の存否も問題となる。上記の要件①から③までが充足された場合、B社は、債務不履行が不可抗力 (415条2項) に基づくものであることを主張して、損害賠мを免れることはできないか。同時履行の抗弁が存在しないことも主張・立証しなければならないと一般的に考えられている。このような理解の問題点についてはここで立ち入ることはできないが、こうした理解に従うならば、A社としては、同時に履行の抗弁が存在しないということ、具体的にはB社がその債務を先に履行する義務を負っていることなどを主張・立証しなければならない。以上を踏まえて、B社としては、損害賠償責任を免れるために、どのような反論をすることがでるのかを検討していこう。2 B社の免責の可否まず、B社は、債務の履行を自らの責めに帰することができない事由によるものであるとして、免責を主張することが考えられる(415条1項ただし書)。2017年改正前民法の下での広範な通説は、債務者の責めに帰すべき事由(「帰責事由」)は債務者の故意・過失または信義則上これと同視すべき事由を指すと解してきた。このような理解に立って本問におけるB社に帰責事由が認められるかを検討すると、一方で、B社には自らの意思で債務の不履行をしているのであるから、帰責事由が認められるという判断が考えられうる。他方で、B社の不履行の理由となったのがS国によるSの輸出禁止の措置であることに着目し、当該事由の下で、B社としては、債務を履行するために同種の地位にある者に一般に要求される程度の注意を尽したことを主張するアプローチも考えられる。以上に対して、近時の債務者の故意・過失が債務不履行の要件であるという理解に批判的な見解が有力になっている。つまり、伝統的通説が債務者の帰責事由を故意・過失のことであると単純に把握した背景には、民法が不法行為責任の類型を基本として債務不履行責任の根拠を探っていたという歴史的な経緯が存在するところ、債務者の帰責事由の判断に当たっては、契約内容、当事者の属性、債務不履行に至る経緯などを考慮したうえで、債務者の帰責が認められるかどうかが判断されるべきだとされる。したがって、債務者の帰責事由とは、不法行為法のように主観的に非難されるような心理的・抽象的な過失のことではなく、当事者が締結した契約に基づいて課される義務に違反したことを意味すると考えるのである。2017年改正民法415条1項ただし書は、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由」に該当することによって債務不履行責任を免れる旨を規定しているが、その趣旨は、債務者間の契約においてどのような危険を負担しているのかが責任の基準になるということを示しているのである。この点を踏まえて本問をみると、債権者であるB社は、A社に部品を引き渡すという結果を実現する債務を負っていると考えられる。このような結果債務の場合、債務者が結果債務を履行できなければ、それが債務不履行となる。約束された結果が実現されていなければ、債務者は債務不履行責任を免れないのが原則である。 もっとも、 債務者が結果債務を負っている場合であっても、債務者が契約において引き受けていない事由によって不履行が生じたと評価されるときには、債務者は損害賠償責任を負うことはない。 そのような場合、 債務者は当該事由を克服して履行を行うことを契約において義務づけられていないからである。 本問では、 S国による輸出禁止措置がそのような事由に該当するかを評価できるかが問題となる。3 事情変更の原則の適用B社としては、事情変更の原則の適用を主張することも考えられる。事情変更の原則とは、①契約の成立時にその基礎となっていた事情の変更すること、②事情の変更が当事者の予見したものではなく、予見できたものではないこと、③事情の変更が当事者の責めに帰することができない事由によって生じたものであること、④事情の変更の結果、当初の契約内容に当事者を拘束することが著しく不当と認められることを要件として、契約の解除、または、改訂を認める法理である。近時の学説では、事情の変更に直面した契約当事者に、新たな暫定条件をめぐって相手方と再交渉をすべき義務を課すことが有力に主張されている。この法理は、一般論としては、判例・学説において広く承認されており(参考判例①)、2017年民法改正の際にも最終段階まで立法化することが検討されていた。もっとも、最高裁は、事情変更の原則の適用に対して謙抑的であるといえる。最近において同原則の適用が認められた裁判例は、平常時におけるものは存在すらしない(大阪高判昭19・12・8民集23巻63号)。参考判例①は、ゴルフ場の予約会員権によって保障した事業に隣接するものであったが、自然の地形を変動してゴルフ場を造成するゴルフ場経営会社としては、特段の事情がない限り、のり面に崩壊が生じることについて、予見不可能であったとも、帰責事由がなかったともいえないと判示している。ここで注目されるのは、ゴルフ場の経営に際して周辺環境を講じる必要が生じることは予見し得ないことではないという形で、一般的・類型的な判断がされている点である。このような最高裁の態度を踏まえると、本問においても、部品メーカーであるB社としては、部品の原材料コストが高騰したことだけを理由として、事情変更の原則の適用を主張することは難しいかもしれない。仮に同原則の適用が認められるとすると、B社としては、契約の解除または改訂によって部品の引渡義務を免れることができる可能性があり、さらには、増額された代金の支払をA社に求めることができる可能性もある。なお、ここでも事情変更の原則の適用要件としての予見可能性および帰責事由の有無を判断し、2で検討した、債務不履行による損害賠償に関する債務者の免責事由の判断は、どのような関係に立つつのだろうか。この点については、論者によって見解が分かれると思われる。債務不履行による損害賠償の要件をめぐる議論の変遷を意識しつつ、2と3の判断の間に相違があるのか、あるとすればそれはどのような理由によるのか、検討してみてほしい。関連問題(1) 2022年4月以降も、希少金属Cの価格は高騰を続け、同年末には、部品の原材料コストは契約締結時と比べて約10倍となった。この場合、A社はB社に対して部品の引渡しを請求することができるか。B社としては、どのような反論をすることができるか。(2) 2022年4月以降、A社は、契約で合意された価格で部品を納品するように主張し続けており、現在に至るまでA社の製造ラインは停止したままである。この場合、A社は、製造ラインの停止によって生じた損害のすべてを賠償するようB社に請求することができるか。B社としては、どのような反論をすることができるか。

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

定型約款の拘束力

公開:2025/10/20

弁護士Xは自己の事務所にコピー機を設置して弁護士業務に使用するため、 業務用コピー機のリース業務を行っているYとの間でコピー機のリース契約 (月額2万円) および、 同コピー機の保守契約を締結した。 保守契約は、 Yから 「本契約の詳しい内容は約款に定められております。 約款は当社のインターネットサイトに掲載しておりますので後で覧になってください」といわれたが、 Xは多忙であったため、 約款の内容をよく読んでいなかった。 契約締結から1年が経過後、 Xは最近の郵便役務サービスを検討する際に、 トナーとコピー用紙を1枚数円で購入するよう、 Yから求められた。 Xがこれを拒絶しようとしたところ、 Yから 「当社の約款に、保守契約を締結した者は、毎月トナーとコピー用紙を1万円分購入すること」 を義務づける条項が入っております」 といわれた。 納得がいかないXはYに対して本リース契約と本保守契約を解除したい旨を主張したところ、 Yから 「リース契約、 保守契約ともに最低1年間は契約すること、 および、 1年以内にリース契約および保守契約を解除した場合にはXはYに対して違約金として残期間の賃料を支払う」旨が定められた条項が約款に定められていると主張された。 Xはコピー用紙とトナーの購入を義務づけられるのか。 また、 Yとの間の本件リース契約および本件保守契約を解除することはできるのか。解説1 約款とは何か・約款の拘束力をめぐる従来の学説約款とは、一般に、 契約の一方当事者が多数の相手方との契約に用いるためにあらかじめ定式化された契約条項の一群のことをいう。 約款は契約の一方当事者のみ (本問ではYのみ)によって定められ、 相手方 (本問ではX)はそこに含まれる契約条項の内容の決定に修正に関与しないところが、個々の契約の契約条項を内容とし、吟味することが困難なままに契約を締結することも多い。その結果、 相手方が思いもよらないような契約内容の条項に一方的に不利な内容の契約条項が約款に含まれていることがある。そこで、学説では、 約款に含まれる個別の条項の内容に当事者が合意し、それらが契約の内容に組み入れられるためにはどのような場合にのみか、および、約款に相手方にとって不利益な内容の条項が含まれていた場合に、当該条項の効力はどのようになるのかについて、議論が展開されてきた。 最近の学説によれば、 約款が契約内容に組み入れられるためには、 約款が相手方に開示され、 それによって相手方が約款の内容について検討する機会が確保された状態にあること、 および、 約款を組み入れる旨の当事者の合意が必要である。そのうえで、約款の個別条項が組み込まれたとしても、 当該約款に定める個別条項の内容が不当なものである場合には、当該個別条項の適用が制限される。 これが不当条項規制であり、民法の規定であれば公序良俗規定などによる条項無効や内容の解釈による実質的な内容規制、消費者契約については消費者契約法8条以下が規定による内容規制がなされる。 また、 条項作成者の相手方にとって不利益な条項が約款に含まれている場合には、 約款に含まれる個別の条項について、 信義則に反するような場合には、 条項作成者の相手方にとって予期できない内容の契約条項が約款に含まれている場合も、 不当条項の排除という考え方も存在している。民法では約款のうち、 「定型約款」において、 「契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」 を定型約款の定義に合致したものとみなしたうえ (548条の2第1項本文)、 当事者の定型約款の個別内容の合意をしたものとみなされる場合を規定している (同項1号・2号)。 定型約款の当事者が拘束される場合を明文で定めている (同条1項・2項)。 また、 定型約款の中に不当な内容の条項が含まれている場合には、 当該条項がそもそも契約の内容として組み入れられないという効果が発生するため、 不当な内容の条項を実質的に排除することが可能である (548条の2)。本問でYがXをはじめとする顧客向けに使用している約款が民法の「定型約款」に当たる場合には、 本件約款がXを拘束するための要件を満たしているか否かが民法の定型約款の規定によって判断されることになる。 これに対して、「定型約款」には当たらないのであれば、以上に述べた学説の考え方に基づいて当該約款の拘束力の有無が判断されることになる。2 定型約款とはそこで、本間ではまずXをはじめとする顧客に対して用いている約款が「定型約款」に当たるか否かが問題となる。民法548条の2によると、 定型約款とは、 「定型取引において、 契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」である。要件は以下のとおりである。(1) 要件① 「定型取引において」 用いられるものであることまず、「定型取引において」 用いられるものでなければならない。当該取引が「定型取引」に当たるか否かは、次の2つの要件のもとで判断される。第1に、「ある特定の者が不特定の者を相手方として行う取引」でなければならない。ここでは「多数」ではなく「不特定多数」であることが要件とされているが、これは相手方の個性にに着目した取引か否かが問題とする要件であると理解されている。このことから、相手方の個性に着目して締結される労働契約は「定型取引」ではない。もっとも、一定の範囲に属する「特定多数」の者との間での取引であっても、相手方の個性に着目せずに行う取引であれば、この要件を満たしうる。第2に、その内容の全部または一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なものであることが要求されている。すなわち、当事者が交渉によって契約条項を修正することにまったく予定されていない場合や、交渉作成者の都合(大量取引の定型性や迅速性)や事実上の力関係の差から交渉が想定されていないという場合ではなく、その取引の客観的な様相及びその取引に対する一般的な認識を踏まえて、契約相手方の交渉を待たずに一方当事者が準備した契約条項の総体をそのまま受け入れることが合理的であるといえる場合、言い換えれば、多数の人々に対して物やサービスが平等な基準で一律に提供される取引が、「定型取引」として想定されている。この場合に、当事者が事業者か消費者の区別はない。リース契約および保守契約はコピー機を日常的に利用したいと考える不特定多数の顧客を対象として、それらの顧客の個性を問わずに一律に締結される契約である。そのうえで、これらの契約が顧客ごとに討論等を重ねることなく一律の内容で提供されるものであることが通常ということができるかどうかかが問題となる。(2) 要件② 「契約の内容とすることを目的として」 特定の者により準備された条項の総体「契約の内容とすることを目的として」、すなわち、契約内容に組み入れることを目指して、当該定型取引を行うその特定の者により準備された条項の総体であれば、「定型約款」に当たる。本問のように、一方当事者 (Y) が複数の条項を掲載した約款をあらかじめ準備しているような場合がこれに当たる。(3) 民法の定型約款に関する経過措置定型約款に関する民法の規定については、原則として、2017年改正民法(以下、「改正民法」という)の下で締結された契約に係る定型約款についても全体としてこれを適用する (附則33条1項)。 ただし、改正前民法の規定によって生じた効力は妨げられない。 また、施行日の前日までの間に当事者の一方が準備または電磁的記録によって反対の意思(すなわち、同法の規定を適用しない旨の意思)を表示した場合に限り、当該契約については引き続き改正前民法によるが (附則33条2項・3項)、 「契約又は法律の規定により解除権を現に有する」 ことによって民法の規則を望まる場合に当該契約から離脱することができる者は、反対の意思を表示することができない (同条2項第一段後段部分)。3 定型約款のみなし合意(1) 問題の所在本問のように、約款に含まれる個別の条項の内容を相手方(X)が認識・理解していたとはいえない状態で契約が締結された場合に、Xはこれらの条項の条項に拘束されるのだろうか。従来の学説によればXが約款の内容を認識することができるよううえで、当該約款に合意したことが求められるかが民法の解釈としてどうなるのだろうか。(2) 定型約款へのみなし合意が認められる場合民法548条の2第1項によれば、以下の2つの場合には、定型約款準備者の相手方が定型約款の個別の条項に合意したものとみなされる。第1に、 定型取引を行うことの合意 (「定型取引合意」) をしたが、 定型約款を契約の内容とする旨の合意をした場合である (548条の2第1項1号)。合意は明示または黙示はもちろん、 黙示の合意もこれに当たる。第2に、 昔のような定型約款を契約に組み入れる旨の合意がない場合であっても、 あらかじめ (すなわち、 契約締結前に)、 「その定型約款を契約の内容とする」 旨を相手方に表示 (548条の2第1項2号) していた場合にも同様に定型約款に含まれる個別条項に合意したものとみなされる。 「約款に基づいて作成した」 旨を記載した契約書面もしくは契約に用いるために準備した者も含まれる。民法548条の2第1項では、 約款の内容そのものを契約締結時までに事前に相手方に示すことや、 相手方が合理的な行動をとれば約款の内容を知ることができる状態が確保されていることは要件とされておらず、 同項2号のように、定型約款を準備した者が 「その定型約款を契約の内容とする」旨を相手方に表示していた場合にも、 相手方の約款に含まれる個別条項への合意があったとみなされる。 本問では、 XとYがコピー機のリース契約と保守契約という定型取引を行う旨の合意をしていることを前提として、 Yの 「本契約の詳しい内容は約款に定められております。 約款は当社のインターネットサイトに掲載されておりますので後でご覧になってください」という言葉が、 本件契約に約款を契約の内容とする旨を相手方 (X) に表示したものと判断できるかどうかが問題となる。しかし、これでは定型約款準備者の相手方からすれば、 何が契約内容になるかをあまりたどらない状態の約款に拘束されるおそれがある。特に、 民法548条の2第1項2号については、 相手方の定型約款への 「ここにでは個別の条項まで具体的に定型約款を準備する者と合意する」 との合意までない場合は、 相手方は合意していない定型約款に拘束されるおそれがある。 これについて、 同号についても、 定型約款準備者が定型約款による旨を表示したことに対して、 相手方が異議をとどめずに定型取引についての合意をした (すなわち、 黙示の合意があった) という点に定型約款の拘束力の根拠を求めるものであるとの見方が有力に主張されている。しかし、 約款の表示が相手方に対する契約内容についての情報提供の機能を も果たすべきことを踏まえると、 以上の要件だけではこの機能が十分に果たされないおそれがある。そこで、民法548条の3が 「定型約款が契約の内容とされる」 という条文の前に 「定型約款準備者が定型約款を契約に組み込む旨の意思表示をしたとき」 あるいは 「定型約款準備者が定型約款の開示義務を負う」 といった文言を挿入して解釈したうえで、 「相当な方法としては、 定型約款準備者が契約条項を記載した書面を現実に相手方に渡したり、 定型約款準備者が運営するホームページで表示するといった方法が考えられているが、 相手方に契約上の権利義務の記録が確保できるよう、 契約締結後も可能な限り相手方の定型約款の記録が確保できるのが望ましいとの見方も有力に主張されている。ただし、定型約款準備者がすでに相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、 またはこれを記録した電磁的記録 (CDの交付やメールでのPDFファイルの送信など) を提供していたときは、 相手方の手元に定型約款があっていつでも相手方が内容を確認できる状態となっていることから、 その後の請求を認める必要がない (548条の3第1項ただし書)。民法548条の2が適用されない、 当初定型約款の契約に組み入れは、 一方的、 通信販売等が発生した場合その正常な場合がある場合には、この限りでない。その一方で、 定型取引の請求が円滑さを著しく害するおそれがある場合には、信義則上、許容の限度で当該表示の規定が適用されることもある。 開示の正当な理由なき場合は継続した役務の提供の記録・残存物の返還請求権に関する損害賠償請求、 残存物の価額に相当する額の支払を請求することができると考えられる。以上の視点に基づけば、 約款の内容の開示請求があった場合の、 定型約款の開示が円滑性に著しい支障が生じるおそれがあるため、 定型約款の開示請求権が認められると解される。 したがって、 定型約款準備者は、 契約の締結後においても相手方からの請求があったときには、 定型約款の内容をいつでも情報提供できるよう準備しておく必要がある。 少なくとも約款使用者が相手方の約款の内容についての認識をできるだけ容易に結論に同意を得ているといえることが、 約款の拘束力を肯定するうえでも求められるのではないだろうか。4 みなし合意の例外規定以上のように、 民法所定の規定によれば定型約款へのみなし合意が比較的緩やかに認められるが、 定型契約内の個別の条項の内容によってはみなし合意が否定されることがある。 民法548条の2第2項によると、 同条1項の各号の場合のうち、 「相手方の権利を制限し、 又は相手方の義務を加重する条項であって、 その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」 については、 合意をしなかったものとみなされる。本条は、緩やかな要件で合意したとみなされる定型約款に紛れ込んでいる不当条項や不意打ち条項を契約から除外するものである。 もっとも、 消費者契約法10条の同法の公序良俗規定による不当条項規制は、 問題となる条項に対する合意が成立していることを前提としたうえで不当な条項を無効とする規定であるのに対して、 民法548条の2第3項はこの要件に該当する不当条項については合意はしなかったものとみなすという規定である。(1) 要件① 「相手方の権利を制限し、 又は相手方の義務を加重する条項」みなし合意が否定される条項は、 「相手方の権利を制限し、 又は相手方の義務を加重する条項」である。 具体的には、 当該条項がなければ認められるであろう相手方の権利範囲が制限・加重されている場合には、 この要件を満たす。本問では、 毎月トナーとコピー用紙を購入させるという条項の内容、および、 最低1年間の契約期間を定め、 途中で解除する場合には違約金を課すという条項の内容が、 相手方の権利義務を制限・加重したものといえるかどうかが問題となる。(2) 要件② 「その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」当該「定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念」 を考慮したうえで、 当該条項が信義則に反して相手方の利益を一方的に害するといえるかが問題となる。具体的には、まず、 「定型取引の条項」 は、条項が記載された書面性や定型約款の条項が予測しない条項が存在する可能性があるという点で、契約の相手方を考慮するための要件であること、 相手方にとって予測し得ない内容が定型約款に存在場合には、 信義則に反することとなると判断される可能性がある。 また、 「定型取引の実情」 は 「取引上の社会通念」 という要件では、 当該条項そのものが取引の慣習に合致することができない事情によるものであるとか、 産業界の慣行に合致するなど、 様々な取引慣行や取引全体にわたる実態を考慮して判断することが予定されている。本問では、 トナーとコピー用紙を毎月購入すること及び、 違約金条項が定型取引の相手方 (X) にとって予測し得ない条項であったり、 コピー機のリース取引における慣行等を考慮した結果、 信義則に反する条項といえるかどうかが問題となる。 なお、 仮に本条に基づいてみなし合意が否定されたとしても、民法の公序良俗規定に照らしてこれらの条項が無効となるかどうかも検討する必要がある。5 定型約款の変更民法の定型約款の規定には、 定型約款準備者が個別に相手方と合意をすることなく定型約款の変更ができる場合の要件を定めた規定が存在する。 本章であれば、 契約内容を変更する場合には相手方との合意によらなければならず、 これは民法契約による契約の場合も同様である。 しかし、 定型約款のように相手方が契約内容を熟知せずに契約に個別的に相手方との合意を得ることは困難ではないことから、 民法において契約の変更に関する規定が設けられた。具体的には、 民法548条の4によれば、 「定型約款の変更が、 相手方の一般の利益に適合するとき」 または、 「定型約款の変更が、 契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」 (同条1項2号) には、 定型約款準備者は個別的に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる (変更の効力発生時期の定めをおく必要がある)。 ただし、 定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、 「定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により」 (548条の4第2項)、 効力発生時期到来までに周知しなければならない (同条3項、 定型約款の内容変更のための手続的要件)。関連問題本問で、Yが保守契約を締結した顧客が支払う毎月のメンテナンス料金を値上げするために定型約款の内容を変更することは法的に可能か。可能な場合、どのような要件に基づいて認められるか。 メンテナンス料金の値下げのために変更することは可能か (548条の4)。

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9
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