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債権者代位権

公開:2025/10/20

AはB銀行にBの運転する自動車につけられた動産を譲渡した。Bが持ち逃げ、B銀行にこれを探すよう依頼したところ、A・B間で協議が話し合ったが、最終的にはBがAに対して800万円の代償金を支払うことで、和解契約が成立した。他方、個人事業主として自動車の製造をしているBは、常連の小売業者であるCに対し1000万円の売買代金債権を有していた。ところが、Bの製造した自動車について、BがCにこれを探すようと申し出ていたが、Cとの合意の内容が曖昧であったことで、Cが、Bから独立した常連にB銀行がなることもあり、Bは、Bからの独立した常連との間で、上記のような部品の交換に関する契約がインターネット等で広まり、Bの得意先が急速に悪化した。AがBに対して上記和解金の支払を求めたところ、Bは、「手元不如意なので十分な準備を行いたい。自分はすぐに車の代金を支払うが、その準備ができるまで自動車を自分で使うつもりだ」と答えた。(1) AはBから独立した常連との合意を理由として、どのような手段をとることができるか。AはBにその請求に際して、どのような事実を証明する必要があるか。(2) AがCに対する権利を行使した後、AはBから独立した常連との間で和解金の支払に代えてC銀行に対する債権を譲渡した。Cに確定日付のある通知をした上で、Cは、Aの請求した和解において訴訟物たる債権はすでに消滅しているものであり、Aの支払う義務はないと主張した。権利行使はどのような影響を及ぼすか。(3) AがCに勝訴し、それに従ってCが弁済した後、そのBに破産手続開始決定があり、Bの破産管財人であるDは、DがAに対して破産した。Aが支払いを拒んだため、Dは、どのような主張が可能か。参考判例と解説参考判例① 最判昭和40・10・12民集19巻7号1777頁② 大判昭和10・3・12民集14巻482頁③ 大判昭和14・5・16民集18巻5号557頁解説1. 債権者代位権の意義債権者代位の効果として、債権者の債務を履行しない場合に、債務者は債権者に対して、それを強制する効力が認められている。ただ、債権者の財産権(債権)の行使について債権者が(本来は原則としてできないとされる(債務者の財産管理権の尊重、破産手続との関係ではじめて認められる)。他方で、債務者の無資力の状態にありながら、自己の債権の行使を放置し、結果として債権者の債権の保全が図られないことは相当とはいえない。そこで、民法は、債権者代位権の制度を用意し、その債務者に代わって自ら債権を行使することを認めている(本来の債権者代位権)。さらに、このような金銭債権の保全を図る目的、債権者が有する債権の実現を図るため、当該債権と密接な関連を有する債務者の債権を代位行使することも判例上認められてきた。たとえば、ある不動産に関する権利の登記請求権を代位行使する場合や、ある不動産に係る所有権を有する者が妨害排除請求権を代位行使する場合などである(転用型の債権者代位権)。このような転用型は改正民法によって一部明文化され、上記登記請求権について、423条の7、たとえば、ある不動産に関する権利の登記請求権について転用型の一類型として解釈に委ねられている。以下では、本問に即して、本問後段の代位権の行使、他、BのCに対する債権の代位権に関するいくつかの法律問題を検討する。2. 債権者代位制度の機能・保全執行との関係本来的債権者代位権の機能として、債務者が責任財産の保全を図らない場合において、債権者は、債務者が第三債務者に対し、債権を有しているときに、債権の保全を図るについてどのような方法があるかを検討する必要がある。これについては、大きく2つの方法が考えられる。1つは、民事保全法に基づき、債務者につき、債権の仮差押の命令の申立てをし、第三債務者に対し、債務につき仮差押え執行をすることがある。そして、改めて、債務者に対して給付訴訟を提起して勝訴判決を得た後、債務名義に基づき、その確定判決に基づき、その債務者の第三債務者に対する債権を差し押える方法である(その際、当該債務者が転々譲渡あるいは転々命令された物権に伴って自己の債権を保全することになる)。このように債権者代位プロセスの手続きを要すると考えられる。小問(2)の前提についても、Aは、BのCに対する売買代金債権を仮差押えしておいて、Bに対する800万円の給付訴訟を提起して勝訴判決を得た後にあれば、通常債権者は単に債務名義に基づいて仮差押えを本差押えに移して、Cに対する代位請求が提起される方法が考えられる。もう1つの方法が債権者代位権を活用するものである。すなわち、債権者は、債務者に代わり、債務者の第三債務者に対する債権(被代位債権)を直接取り立てることが認められる(4条参照)。第三債務者の代位請求を実現するため、債務者に代わる支払請求権を実効あらしめるため、債務者の第三債務者に対する訴訟の判決を求めることができる。そして、その判決に基づいて仮差押えを本執行に代えて返還請求権を保全し、債務者の第三債務者に対する債権(被代位債権)の取立てによって、被保全債権の回収を図る。債権者は、自己の債務者に対する800万円の債権(被保全債権)を保全するため、訴訟の判決に基づいて800万円の債務名義を取得し、Bに対する800万円の金銭債権と相殺することによって債権回収を図ることができる。この2つの方法には、いくつかの差異があり、債権者代位権には利点も認められる部分がある。第1に、債権者代位による場合は債務名義が不要である。その結果、債権者に対して訴訟を提起しなくとも、直接、債権を行使することのできる可能性がある。強制執行の方法による場合は、前述のように、債権者に対する勝訴判決→債務名義の取得→差押え→第三債務者に対する取立訴訟等という手続が必要となるのに対し、債権者代位権では、①のプロセスが省略でき、特に少額の被保全債権の場合には(裁判外・簡易に)早期に実現が可能であることは大きな利点となる。第2に、債権者代位によって優先回収が可能となる。前述のように、代位回収による債権について債務者の債権について相殺による回収が可能となる。その結果、仮に他の債権者が債務者の第三債務者に対する債権に係る差押債権を差し押さえたとしても、差押えと相殺に関する優先関係(511条参照)を前提とすれば、代位権者が優先権を得る結果となる。他方、民事執行による場合は、他の債権者が差押えに加わって参加し、被差押債権に係る配当金が各債権額に応じて比例配分されることになる(配当は申告時点の債権額に応じて計算され、それが確定するまで配当金に相当する金銭が他の債権者の加入のおそれがある(民執159条5項、第三債務者の無資力リスクを債権者が負担しなければならない)。両者の手続には以上のような差異があり、債権者代位権には大きなメリットがあることは、かねてから指摘がある。ドイツ法的な保全執行制度とフランス法的な債権者代位制度を相続した明治初期の立法の選択」であると、この選択は、ある意味で日本的な事情を考慮した結果である(「三ヶ月債権」を指している)。そのため、今日の改正の過程では、本来の債権者代位制度の存在理由を改めて議論の対象となり、少なくとも上記の両者を並存させるため、第三債務者から取り立てた代位債権者による相殺を制限する提案がされたが、結局採用には至らなかった。その結果、代位債権を代位権者が強制執行した場合、その代位権者の任意の協力が得られる場合など強制執行によらない債権回収が有用とされる場面がなお存在すること、優先回収がなされるなど執行の機会を付与する従来の規定は維持されることとなった。差押えは無意味である場合が多いことなどによって、債権者代行権の行使によって被代位権利の処分が禁止される旨の判例法理は否定されたため(4参照)、債権者の処分や第三債務者の債務者への弁済の可能性もあるような事態は、実際には、仮差押えが有効に行われないかぎり、債務者への弁済がなされることになる。以上から、Bにどのような手段をとりうるか、上記のような債権者代位ルートと執行保全ルートの両方を並存させることになる。具体的には、債権者代位権を行使するAの場合、具体的には、Bからの財産分与を保全する必要がある。Aの債権回収がBの財産状態が悪化しているため、Aの債権回収が困難な場合には、債権者代位権を行使するに止まらず、Bが第三債務者であるCのBへの弁済のリスクを負うことを前提とすれば、優先回収を図るため、債権者代位権の行使を抑えてBに自己の債権を直接行使することも考えられるであろう。他方、小問(3)では、Aは複数の財産分与をめぐる対抗の優劣を争うことになる。債権者間では、AがCから800万円の支払を受けたものが、Bに対する債務を優先的に始動されたものと同じような効果を有することになろう(ただし、債権者はAを債権者代位権の行使を前提にすることになろう(ただし、債権者はAを債権者代Bに自己の債権を直接行使することも考えられるであろう)。3. 債権者代位権の要件債権者代位権の行使の要件について、「自己の債権を保全するため必要があるとき」にその行使が可能とされる(423条1項)、単に主観的な保全目的だけでは足らず、客観的な必要性があることが必要である。その客観的な必要性については、立法の過程では、債権者無資力の要件が明記されたが、この点は採用されなかった。2017年改正民法ではその例として「債務者がその資力で債務を十分に弁済できない場合」に代位権が認められることになった(参考判例①)。債務者が自ら資産を減らすことになるのであれば、これを423条の債務者の無資力と評価したところで、判例法理を明文化することの趣旨であったが、BとCの無資力は同一に判断してよいかという問題である。債務者と債権者が無関係なのでその点を重視するとすれば、無資力の認定を緩和し、債務者の財産状態に変化がなければこれを無資力とみなすことになろう。むしろ「保全の必要」という一般的な解釈にとどめるほうがよいとされている。ただ、上記判例の趣旨は事業では改正後も維持されると解されよう。また、被代位権利(債権者代位権の対象となる債務者に属する権利。423条1項本文参照)の面では、「一身専属権のほか」「差押えを禁じられた権利」(代位の対象とされない(民法423条1項本文))でなければ、年金受給権(24年3条など)等は債務者の責任財産を構成しないので、代位権行使の対象外となる。債権者が代位権を行使した結果、本来差押えによる回収ができないような財産について、代位・相殺によって債権の回収を図ることを認めては相当ではないからである。他方で、被保全債権(債権者代位権の根拠となる債権)の要件として、第1に、期限未到来の場合は代位権を行使できないが、保存行為の場合にはその例外を認めている(非訟事件85条以下)を廃止し、保存行為の場合に代位権を行使できると規定している(423条2項ただし書)。これは、裁判上の代位は利用が難しく、保存行為以外の46条2項ただし書、時効の利益の放棄・承認といった債務者の行為に代位して、その効力を否定することができる。以上から、小問(1)では、以上のような要件を充足する必要がある。特に、AがBに対してBの無資力の立証が問題になると考えられる。Aとしては、Bの経済状態が悪化して債務の履行が困難になっている状況について主張・立証していくことになろう。4. 債権者代位権の効果代位権行使の方法について、債権者が自身の財産に直接、債務者の動産を引渡しである場合には、自己に対して支払を求めることができる(423条の3前段)。また、そのような支払・引渡しによって被代位権利が消滅する(民事訴訟法)、訴訟の裁判例(参考判例①など)の明文化であり、そのように直接給付が認められないと、債務者が給付を受けない限りは代位権を行使する意味が全くないことになり、債権者代位制度の趣旨を没却することを重視する。立法過程では、債務者に対する給付のみを容認し、債権者による直接の給付請求を認めないとの提案も検討された。これは債権者代位権を否定する最もドラスティックな提案であったが、これは債権者間の調整と同程度、債務者が自ら受けた場合に債務名義の取得を済ませていないと、他者が優先して差押えによって回収を図られてしまう事態を回避するための工夫であろう。そのうえ、このような措置が講じられれば、代位権の請求は債権者代位権を行使した者が他に優先してその利益を享受することとなり、債権者平等の原則に反するとの問題意識があったからである。そして、訴えによる債権者代位権を行使する場合、代位権者は遅くとも債務者に対して訴訟告知をしなければならない(423条6項)。債務者の訴訟における利益を保護しつつ、債務者に対して当然に判決効が及ぶとされている(民訴115条1項2号)。しかし、債務者に対して訴訟告知が知らされていないにもかかわらず、代位権債務者の特別代理人が選任されることに対しては従来から民事訴訟法理論において賛否の強い議論がある。民事訴訟法の趣旨をどのように解釈するかにかかっている。また、債権者代位権の行使があっても、債務者の被代位権利の処分を禁ずることは認められない(423条の5前段)。すなわち、代位権が行使された後、それと債務者に通知または了知された場合でも、債務者の処分権までを禁ずることは認められない。債務者の責任財産は債権者による処分権の行使の対象となることは、代位権の行使によっては制限されない。もっとも債権者代位権の行使の通知の後には、債務者の被代位権利の処分を認める、債権者の責任財産は債権者による処分権を認めており、その後の処分も自由である。債権者による債務者の被代位権利をめぐる紛争を防止するとともに、債権者の優先回収の余地も残る。これに反する債権者代位制度の効果として、債権者代位権の行使が債務者の被代位権利の処分を禁ずることは判例上、別途、所定の要件の下に許可があれば債権者代位権を行使できることになる。て、第三債務者も被代位権利につき債務者に対して履行することを妨げられない(同条後段)。第三債務者は有効な代位権行使があったか否かを独自に判断できる保障はなく、判断を誤った場合の二重払のリスクを第三債務者に負担させることは不当であり、履行禁止という効果を否定する債務者は訴訟告知等の申立てをすべきこととなる。以上から、小問(2)では、BのDに対する債権譲渡は改正法の下では有効であり、Cに対するBの責任財産ではなくなるので、Cの抗弁は正当なものとされ、Aの請求は棄却されることになる。関連問題と参考文献関連問題(1) AはBに対して1000万円の売掛金債権を有していたが、Aは当該債権の取立てを怠っており、このままではX年6月末日に消滅時効期間が経過してしまう。この場合、Aに対してX年10月1日を履行期とする1000万円の貸金債権を有するCは、債権者代位権を行使して、上記売掛金債権を取り立てることはできるか。(2) AはBに対して1000万円の売掛金債権を有していたところ、Aに対する1000万円の貸金債権を有するCと主張するDが債権者代位権を行使して、上記売掛金債権の支払請求訴訟を提起した。これに対し、A・BはCに対する1000万円の貸金債権を有するのはCではなくDであり、上記売掛金債権は自己の債権の回収に充てたいと考えている。この場合、Dはどのような対応をとるべきか。参考文献道見健介/山本和彦「債権者代位権」NBL1047号(2015)42頁 (山本和彦)

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

根保証

公開:2025/10/20

A会社(以下、「A」という)は「甲弁当」の名で配達と持帰りを中心とした弁当の生産・販売を業とする会社であり、その調理に際して、弁当を生産するための食材を仕入れるためにB会社(以下、「B」という)と食材の供給を受ける基本契約を締結した(2024年4月)。その際に、BはAが代金を支払わないときのために、継続的に供給される食材の代金の支払のために保証人を2人立てることを求めたことから、Aの経営者である代表取締役Cは、Bと連帯保証人となるとともに、地元でスナックを経営している友人Dに依頼をして連帯保証人になってもらった(書面あり、また、民法465条の10の情報の提供も適切になされている)。B・C間の連帯保証契約は、A・B間の食材の供給によって生じる代金債務を、保証期間を定めずしかも保証の限度額なしに連帯保証するものであった。Dは、Dがスナックの常連であることもあり、Cに頼まれCに同行して連帯保証人になったのであった。B・D間の連帯保証契約は、保証期間の定めはないが、1000万円の極度額が定められている。Bとの取引が開始して1年間は、Aの営業は順調であったが、2025年10月に、Aが新たに支店を開きそこでの食材をBに注文をするようになり、A・B間の取引量がそれ以前の2倍になった。その後、競合する弁当店の相次ぐ出店、Aの実績が次期に悪化していった。そのため、Cは増資を受け入れるためにキアラから金を借りた。Aの代金の支払債務が目標に、2025年12月頃から次第にBへの代金の支払が滞りがちになっていった。AのBへの代金債務(月曜日が休日の場合には翌日)にBの口座に振り込むことになっていたが、2026年2月末にCはBに資金を工面しますので決済期を至急してほしいと伝達するようになった。しかし、同年9月頃から再び代金の支払が滞るようになり、Bは保証しないでいるのでというCと保証人外のDから何回も言われ続けた。両者の確執が続いていたにもかかわらず取引を継続してきた。しかし、過去の一部代金分が思い出されたように振り込まれるという状況になり、Bは、Aに対して、このまま代金の支払遅滞の続くようでは食材の供給はストップせざるをえないと通知し、この措置によりその取引も継続し、2027年2月末には未払代金総額が700万円にまで達していた。2027年3月からは、BはAへの食材の提供を停止したため、店を閉めたものと再開できていない。Bは、同年4月にA・C・Dに対して未払代金700万円と遅延損害金の支払を求める訴訟を提起した。Bの請求は認められるか。本問の検討に際しては、①Dの保証債務は既に消滅している(2026年10月に、Bに対して保証人としての辞任したい旨の申入れをしたが、Bがこれを拒絶していた場合)、②A・B間の供給契約に既に2年間の約定があったが、これが更新されて上記のような状況に至っている場合、および、同年11月分のBのAに対する金員債権のうち100万円分を、BがCにより偶発的に譲渡されている場合を備えよ(AではEのA・G・Cに対する請求)。参考判例① 大判大正14・10・28民集4巻656頁② 大判昭9・2・27民集13巻215頁③ 最判昭39・12・18民集18巻10号2179頁④ 最判平成9・11・13判時1633号61頁⑤ 最判平成24・12・14民集66巻12号3559頁序説1. 根保証(継続的保証)の意義と民法の適用範囲(1) 根保証(継続的保証)の意義根保証条文はないものの、個人の債務ごとに対する個別保証に対し、根抵当権の版のように、主たる債務を一定の基準で定めるところ将来の不特定多数の債務を保証する場合も、継続的保証と呼ばれてきた。②目的、民法465条の2において、根保証契約という用語が正式に採用されている(民法465条の2の用語の定義)。根保証契約、このようないわゆる「個人根保証」において定められている限定根保証と、このような限定のない本問のような事例の包括根保証とがある。狭義の根保証と継続的保証の区別については5で説明する。(2) 2004年民法改正および2017年民法改正根保証については、2004年の民法改正により貸金等の個人根保証について規制が設けられている(旧465条の3以下)。しかも、同法改正にあっては、必ずしも貸金等債務についてのみこの新保証が適用されず、同じ信用保証でありながら、本問のような売買代金債権の根保証については適用されず、従来の判例法理が適用されることになっていた。このような問題は合理的でなく、2004年民法改正に際して最高裁判所の付随決議により貸金等債務以外の個人根保証についても、そのための2017年民法改正に際しては、民法465条の2以下をすべての個人根保証へと拡大することが意図されていたが、実現された拡大は部分的なものにとどまっている。2. 根保証人の責任の範囲(1) 包括根保証禁止2004年民法改正では貸金等根保証については、包括根保証は禁止された(旧465条の2第2項)。本問の事案は貸金等根保証ではないのでその適用がなく、したがって包括根保証も有効であった。しかし、2017年民法改正により、民法465条の2の適用は「個人根保証」一般にまで拡がった。そのため、2017年民法改正法の施行期日である2020年4月1日以降の本問事例には民法465条の2の適用になり、保証極度額を定めていないCの根保証契約は無効になる。判例も経営者を例外としていない(法人格の否認の法理が適用される事例は例外を含めない)。Dの根保証には1000万円の極度額が定まっているので、たとえこれ以上には主たる債務の額が嵩んでも、保証契約は有効となる。(2) 信義則による責任制限(③の場合その1)限定保証の場合には、本問のように1000万円と極度額が決められているため、これ以外に特別の措置は不要と考えるのであろうか。しかし、極度額が1000万円程度であればそのような考え方になるが、もし、スナック経営者にとって、1000万円はかなりの金額であろうか。しかし、極度額がない場合と同様に責任を制限すると解することもできないであろう。中間的な解決として、信義則による責任制限を求める余地はある。その際に本問で考慮されるべき事情として、2点ある。まず、A・B間の取引量が、Dが保証契約をした当初の2倍になっている。その①に、おいて、Bは、Aの信用不安を危惧しないこと、および、②Bは、Aの信用不安が生じた後にも、これを断りつつ、保証人からはずればいいと考え、保証人の情誼を逆手にとってこれに安易に取引を継続したことである。情誼的保証人に対して本来自己が負うべき債権回収のリスクを課す。そうした事情のある場合にも、信義則は保証人に対して保証の限度額を認めるべきとの考慮があるべきである。保証人の責任を認めるには、700万円を限度額の範囲内として全部の責任を認めるのは酷であり、保証契約には信義則上の考慮があるべきである。相応の責任を認める場合その23. 根保証人の終了権の有無その2)包括根保証契約は主債務を発生させる基本契約が存続する限りいつまでも存続し、根保証人が拘束されるというのは酷である。そのため、判例・学説は、相当期間経過を理由とする解除を認め、保証人は一定の予告期間をおいて自由に根保証契約を解約することができる(参考判例①)。特別の解約権の認められる原因について、信義則に根拠を求める見解もある。保証人の主債務者に対する信頼関係が害されるに至った保証人として解約権を入れき相当の理由がある場合においては、右解約により相手方が信義則上看過しえない損失をこうむることなどの特段の事情がある場合を除き、一方的にこれを解約しうる」と述べている。これまで判例により特段の解約権が認められているのは、①主たる債務者の信用不安の際に、②主たる債務者による保証人に対する背信的行為が認められたとき、③主たる債務者の地位の相続など保証人が予期しなかった事情が生じたとき、④保証人が保証契約締結の際に予想しなかったほどに保証人の責任が拡大するおそれがあるとき、⑤その他保証の継続を不当とするような事情が生じたときである。Dは、①②③④⑤のいずれかにより保証契約を解約できるであろう。そのいずれであるかにより、保証契約の効力がいつの時点で消滅するかが問題となり、したがって保証人が責任を負うべき元本の範囲も異なってくる。4. 基本契約の期間の定めと保証契約(1) 期間の定めがない場合本問におけるDの根保証契約は期間が定まっていない。民法465条の3第2項は、貸金等根保証契約に、確定日を定めないと3年経過の満了で確定することになっている。この規定は2017年民法改正で個人保証一般に拡大されなかった規定である。当初、すべての個人根保証への適用拡大が意図されていたが、貸金等債権とは異なり、賃貸借契約の保証人には、保証人がいなくなったらといった不都合な事情が生じるからである。この結果、本問は貸金等債務ではないので、上記規定は適用にならず、期間の定めのない根保証も有効になる。また、5年を超える保証期間を定めても有効である。これは、極度額の適用が拡大されたのでその保護だけでよいと考えられたためである。(2) 基本的取引の期間の定めと更新ところが、A・B間の取引契約は2年という期間が定まっていないが、その基本たるA・B間の取引契約の期間が定まっていない。このことをどう評価すべきであろうか。この点、保証契約は、更新後の契約について保証人には責任がないものとされが(大判昭9・6・9大阪高判民集8巻42頁)、賃貸借契約の保証について、工事請負契約が更新されて契約更新後の保証について保証人は責任を負わないと判決が出されている(最判平成9・11・13判時1633号61頁)。正当事由制度が更新後の契約について保証人には責任を負わない。しかし、何か月か後に更新されることが普通と予定され、保証人もそれを覚悟しているという解釈が根強い。本問でも同様に考える余地がある。原則として、Dは更新後の債務について責任を負わず、現在の700万円の遅延している全債務について責任を負うことはないが、特段の事情をBが証明できれば更新後の債務についてDの責任が認められることになる。5. 根保証債権の取立権能⑥の場合には、未払代金債権700万円のうち、元本請求ができるのは100万円がBに譲渡されている。Bの債権者Aによる元本請求ができるのは当然であるが、根保証人Dに対しては契約しており、これが保証契約の範囲内でありうるか、これをどのように評価すべきかという根保証契約の解釈が問題となる(関連問題参照)。⑦まず、継続的契約関係にあることの保証債務であるので、主債務の成立に付随するものに対する契約を成立させることを目的とする継続的保証契約(根抵当権型)、この債務が履行されれば保証債務も随伴し、Bは保証人Dに保証債務の履行を請求できる。この場合も、契約の範囲内においてのみこの債務を保証できる(根抵当権型)、確定という概念を導入し、将来の確定の時期までを保証するにとどまる。確定という概念は裁判上認められていないので、根保証契約には適用されない。本問では、Bは保証人Dに保証債務の履行請求できるではないか。契約自由の原則からはDは保証契約の範囲でしか責任を負わないし、いずれとないし難定すべきか否かが論じられるべきである。この点、参考判例⑤は、「根保証契約を締結した当事者は、通常、主たる債務の範囲に属する個別の債務が確定すれば保証人がこれをその都度確認し、当該債務の弁済期が到来すれば、当該根保証契約に定める元本確定期日(……)前であっても、保証人に対してその保証債務の履行を求めることができるものとして契約を締結し、根保証債権が譲渡された場合には保証債務もこれに随伴して移転することを容認しているものと解するのが合理的である」として、(?)と推定した。この判旨によるとBの(?)と推定され、EはDに対して、保証債務の履行として100万円をBに請求できることになり、DがBの(?)と推定されたことを証明する必要がある。同判旨は「根保証」という用語を用いたが、上記の性質決定において根保証という概念をどのように理解すべきかは明らかでない。しかし、上記判決は、一般論を展開しているが、法人による根保証の事例である。(?)は根保証人に有利な判決であり、Bは個人根保証人Dに対して、(?)と解すべき特別事情の主張立証責任を負うと考えるべきである。関連問題(1) 本問後段において、A・B間の取引が続いている段階において、BはAの支払が滞ったならば、取引を継続したまま、C・Dに対して保証債務の履行として、代金を代わりに支払うよう請求することができるが異なるか。(2) 本問後段において、Dの根保証の限度額500万円であると事情が変更した場合、BのDに対する600万円の債権とその100万円の債権につき、BをEの債権を譲り受けたがDから300万円の支払を受けたときのBへの分配額について検討しなさい。参考文献阿部陽介・平成25年度重判77頁/斎藤由起・百選Ⅱ50頁 (中野邦之)

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

連帯債務

公開:2025/10/20

共同事業を営むAとBとは、2022年4月1日、C銀行から事業の運転資金として1800万円を借り入れ、連帯して債務を負った(以下、「甲債権」という)。同年3月にAの子DであるFの経営が悪化したため、Aは、C銀行に頼みこんでAの子Dも事業に参加した。A・Sの事業計画は順調であったので、C銀行は、まず追加融資を決定した。しかし、Dが経営状況が悪化するおそれがないとはいえないと考え、Bの甲債権の連帯債務者に加わること、そして、前年のDの負債には不幸も抱えないので、Dの母娘でありがつの家であるFをそのむ銀行に申し立てて担保提供するとのことで2つのことを条件に、同年4月15日、A・B・Dの連帯債務の形で1200万円を追加融資した(以下、「乙債権」という。なお、CとE間の連帯保証契約は有効に成立するものとする)。ところが、同年9月、円安によるコスト高の影響でA・Sの事業が急速に傾き、Aは、甲乙両債権の期限の利益を喪失した。さらに、Aが自己破産するという噂がたった。Dは、Fの母、妻E、子F、D(の妹)である。(1) C銀行は、Bに対して、甲債権の履行を請求できるか。Bの甲債権につき全額を弁済した場合、Bは、他にいくら求償できるか(以下、求償権の計算にあたっては利息等は無視してよい)。(2) C銀行は、Bから甲債権の全額弁済を受けるとともに、乙債権につきBに300万円の弁済を受け、Bに対し残債務900万円を免除する旨意思表示をした。Bは、他にいくら求償できるか。その後、C銀行は、Dに対して900万円の支払を求めて訴えを提起した。このC銀行の請求に対して、Dはどのような反論が可能か。(3) EがC銀行に対し現金(950万円)を有している場合、C銀行から甲債権につきEの弁済を求めたBは、いくら支払えばよいか。また、Cへの弁済後、他にいくら求償できるか。参考判例と設問参考判例① 最判昭34・6・19民集13巻6号757頁② 最判平10・8・10民集52巻6号1494頁設問1. 連帯債務の成立・態様・効力連帯債務は、主観的共同または当事者の意思表示により成立する(436条)。前者の例として、719条は、共同不法行為者が「連帯して」賠償責任を負う旨を定める(419条の規定は、「連帯して」は不真正連帯債務であるとされたところ、2017年の民法改正によりそのような解釈上の混乱は不要となった)。人間の乙債務のように、A・B・Dの1つの融資契約に対して(連帯の合意)をすることで連帯債務を成立させること(随時連帯)はもちろん、甲債務につきA・Bの契約とDの契約が別々に行われたように、別個の契約の中で、順次、連帯の意思表示ケースでも連帯債務は成立しうる(いわゆる共時連帯。連帯債務者の1人についてのみ時効が完成するような事態が生じうるのである)。また、連帯債務者が「連帯の合意」を保証したように、連帯債務者の1人についてのみの免除、または連帯債務の全部を免除したとしても可能である(448条参照)。これらについては、連帯債務者の数に応じた額についてのみの免除であって、437条(2017年改正後に438条に条項対応)は連帯債務者の1人についての法律行為の無効・取消しの他の連帯債務者への効力を妨げないとし、混同、消滅事由によると解される。つまり、連帯債務者の弁済とこれにつきA・B・Dをそれぞれ連帯債務者とするとAはB・Dの債務も連帯し、そのうえ、甲債務と乙債務を担保するのを目的として、Eの保証債務もしているといえる(AやBの債務の保証も含む)。連帯債務は、債権者との関係(対外的関係)では各自が全部給付義務を負担するが、その連帯債務者との関係(内部関係)では、自己の負担部分について最終的に責任を応じて負う。この負担部分は、連帯債務者の特約によって定まる。特約がない場合は各連帯債務者が受けた利益を考慮して決定されるが、この場合も、各自は平等とされる(442条1項)。本問ではA・B・Dの負担部分を3分の1として仮定した場合も、この割合で連帯債務に乗じることによって、各自の具体的な負担額(負担部分額)が算出される。つまり、A・B・Dは、債権者Cに対しては甲債権1800万円、乙債務1200万円の全部給付義務を負うが、他の連帯債務者との関係では、各自、甲債務について600万円、乙債務について400万円の範囲で、最終的に債務を負担することになる。小問(1)は、甲債権を弁済した結果、甲債権は全額のために消滅した(弁済の絶対効、消滅の規定はないが「債権の一体性から当然の効果であって、民事経済的効果もある絶対的効力をもつ)。これにより、自己の負担部分以外の1200万円を求償できることとなる。Aが自己破産しているため、連帯債務者Aの負担部分をD・Fにどのように相殺させるかを明らかにする必要がある。2. 連帯債務の相殺Aの甲債権はどのように消滅するのか、自分債務は、相続開始に応じて法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継すること(最判昭和29・4・8民集8巻4号819頁)を前提に、参考判例①は、連帯債務者の1人が死亡した場合、その相続人は、被相続人の債務の全部を承継したものと求償し、各自の負担した債務において求償される。Aの甲債務1800万円につき、相続分4分の1のDとFとEとがそれぞれ450万円(1800万円)を相続し、その結果、債権者とこの関係では、甲債務につきB(1800万円)・D(1800万円)・E(900万円)/B(1800万円)・D(1800万円)・F(600万円)/B(1800万円)・D(1800万円)ーDは相続開始前から甲債務につき連帯債務を負担しているのであるから、Aからの承継の結果を考慮する必要がないことについても参考判例①が明言しているという。なお、不真正連帯債務(一部連帯)は、自己の連帯債務者について求償の相手方と解される。これに対し、学説は、法律関係が複雑化すること、債務者の利益が低下することを懸念して、各共同相続人が共同の連帯債務者とともに全部の連帯債務者となるとする見解が有力である。注意すべきは、①共同相続人の間では連帯関係が生じないこと、②共同相続人間の最終的な負担部分の配分が相続人の間で決定されることである。甲債務に対して具体的にいえば、①AにはBおよびDとの内部関係で600万円を最終的に負担すべきであったから、この600万円がE、D、Fに200万円、DとFにそれぞれ分有承継される(ただし、Dは、Cに元来の自己の負担した600万円を払った場合も、Aの600万円を承継しなければならない)。②D・F・Eとの間では連帯関係も求償関係もないため、D・F・Eは連帯者となっている。これは、あくまでも連帯債務者間の求償関係をめぐる1人であってしまったからである。そこで、小問(1)のように、Bが甲債務の全額を弁済した場合には、主に示したとおりの1200万円をD、Eに750万円、Fに150万円の限度で求償権を行使することができる。なお、Dの相続として200万円と300万円は、D・Cの利害関係に立って、Bから求償権の全部または一部の弁済を受けることができる。BがD、Fから求償をうける債務者から900万円のうち400万円について、Dの連帯債務を承継させる方法もとりうる。「債務の一体性」として債権者の側に一切の負担がなかったとしても、500条の規定「自ら求償できる」にあたる(→本節解説)。3. 連帯債務者の1人による求償各連帯債務者の最終的な負担部分額は全連帯債務者を通して計算される。もっとも、甲債権のDから求償権の全部をD・Fに求償されたわけではない。なお、内田「自己の負担部分」の「免責を得たこと」と、その免責が「自己の出捐」によって得られたことのである(442条1項)。共同の免責とは、他の連帯債務者の債務の全部または一部)を免れさせることである。自己の財産をもってする免責とは、出捐(財産の犠牲、損失、喪失)を意味する。弁済はもちろん、代物弁済、供託、相殺(439条1項)、更改(438条)はこれに当たるが、免除や時効の完成による債権の消滅は、441条ただし書の特約により自己の出捐を肯定したとしても、自己の出捐を伴わないので、要件③を満たさないから、他の連帯債務者や保証人に対しその効力がおよぶことはない。小問(2)では、甲債務の全額と乙債務のうち300万円を弁済しているので、上の2要件を充足している。連帯債務者の内部関係では一部弁済でも可であるためである(442条1項)。Bが乙債務につき自己の負担部分400万円に満たない額しか弁済していない。もっとも、②と③の関係で問題とはならない。たしかに、弁済的に負担すべき負担部分を固有の債務と捉える相互保証説の考え方からすると、それを超えた部分をBのため不当利得をなすはずであるから、連帯債務に際してBは相互に一部分を返還することを要するという理解もなしえない。また、内部関係を一括して連帯債務に適用するとすれば、負担部分額を超えて弁済をするまでは求償できないとする批判がある。債務者の満足を優先させようとするのが原則だ。しかし、判例は古くから、負担部分額を超えない割合で自己の求償を認めており(大正元・6・3民録23輯863頁、大判昭和8・2・28新聞3520号)、これに賛成する学説が多数であった。2017年改正民法は、こうした判例・学説を踏まえ、442条1項に「その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず」という文言が挿入された。これにより、自己の出捐の意味が明確になったといえる。民法442条1項を本問に当てはめれば、次のとおりである。Bは、①乙債務の一部弁済によって、もしAが存命であればその負担部分の都合である3分の1を免じた100万円を求償し得るはずである。また、甲債務部分でBのDに対して6分の1の100万円の償還ができる。そこで、相続分2分の1のDとEに50万円、4分の1のFにD・Cの125万円(Aから相続した200万円と元来の負担部分100万円との合計額)、同じくそのFに25万円の合計25万円の求償ができることになる。他方、Bが乙債務について受けた900万円の免除による免責については、先に述べたとおり連帯債務の全部を消滅させたわけでない。求償権は一切発生させない。以上、Bは、小問(2)においてBが求償すべき小問(1)と同様の永続的債権が可能である。しかし、Dに対しては、975万円、Fに375万円の求償請求が可能である(B乙債務600万円と甲債務100万円を現時点で負担していることになる)。求償要件については上記のとおりであるが、事後・事前の通知を怠ると、求償権の行使が制限されることがある(443条)。事後通知を怠ると、債権者との間でした弁済を他の連帯債務者に対抗できない場合もある。また、事前通知を怠ると、他の連帯債務者が自己の債権を有する債権者に弁済する機会を奪うことになる。他方で、善意で第三者に対抗した弁済をすること目的とするとされている(関連問題参照)。ちなみに、同条について2017年改正前に条文がいくつか改正修正された。ちなみに、1項と2項にそれぞれ「他の連帯債務者があることを知りながら」の文言が追加された。これは、共同の不法行為関係に基づく連帯債務である場合は通常、他の連帯債務者の存在を知らないことから求償権を行使できない不都合を回避するためである。共同不法行為が民法479条(470条2項)によっても連帯債務を負うとされており、共同不法行為者間における求償権を否定する趣旨であると解される(同条3項)。他の連帯債務者も善意で第三者に弁済した場合にはこれを認めるべきである(→本節解説)。本問では、甲債権の弁済にあたり、BがD・F・Eに事前の通知をしたか否かは明らかでないが、仮にBが通知をしなかった場合、D・F・Eは小問(1)におけるD (1)(3)の合意があることを主張してBに求償権の全部を払うことを請求できる。Eからの事後通知を怠った場合、Bからの求償権を否定しうる。Eが乙債権につき300万円の弁済をしても有効にD・Fに求償できるか否かの問題となる。求償権を放棄した場合でもBがAの死亡による相続を知らなかったとすれば、通知をしなかった過失を連帯債務者に帰責する。したがって、D・Fは求償請求を拒絶し、Bに求償権をもって対抗されてしまう。もちろん、Eから求償を得られなかった300万円に関しては、同項後段の「相殺によって消滅すべきであった債権」の履行として最後までCに請求できるから、弁済後の求償にまで相殺が有効に行えない。しかも、本問のように債権者が金融機関であれば、ともかく、一斉に弁済する債権の場合、回収不能のリスクが相殺権を有したにもかかわらず、Bへと転嫁されることを意味する。この点に注目すると、求償権の機能には、他の連帯債務者の権利行使の機会を保障するだけでなく、求償権の無効な相殺の危険もあることがわかるであろう。なお、ここでは事前通知についてやや詳しく述べたが、小問(3)において、Bの事後通知の懈怠に注意を要する。CがDと乙債務の履行について請求をしていることから、速やかにDによる弁済がなされると思われるからである(関連問題③、最判昭57・12・17民集36巻12号2399頁参照)。4. 連帯債務者の1人に対する免除の効力小問(2)について、乙債務につきBが900万円の免除を受けたことは、他の連帯債務者Dたちの乙債務にどのような影響があるのか。連帯債務者の1人に対する債務免除の効力について、2017改正前の437条は、当該連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者も債務を免れると定めていた(免除の絶対効。求償の関係も複雑でメリットがある)。そのような規律を前提に、一部免除の効力をめぐって考え方が分かれていたところ、大審院(大判昭和16・9・21民集19巻1701頁)は、全部免除の場合に比例した割合で他の連帯債務者の債務も免れるとする考え方を示した。具体的には、債務額を負担部分平等の連帯債務者3人のうち、1人が免除された場合、免除を受けた場合、免除者の負担部分(3分の1)である400万円について他の2人の連帯債務者にもその効果が及び、それらの者の債権額は800万円に縮減する(内部関係では、被免除者の負担部分はゼロ、残りの2人は各400万円)。全額1200万円の一部である300万円の範囲で免除をされた場合は、4分の1すなわち負担部分の割合で減額を認めるべきであると考えられる。しかし、同判決は任意規定であるため、これと異なる内容の免除(たとえば、他の連帯債務者には免除の効力を及ぼさない旨定めてもいわゆる「相対的免除」)も可能であり、また、免除という表現を用いながらも債務の消滅を意図せず、単に以後請求しないという趣旨の「不訴求合意」にすぎない場合もあると考えられてきた。通常、債権者は無償の債権回収を欲するであろうことから、連帯債務者に対し債務を免除する誘因を欲した。このように、連帯債務者の1人に対してなされた免除の効力を他の連帯債務者に及ぶことについては、その免除の意思解釈が要求されていたのである。これに対し、民法437条は、2017年改正により「その連帯債務者の負担部分の限度において、他の連帯債務者の債務も消滅する」とされ、従来の判例・学説における全部免除の場合に比例した割合で他の連帯債務者も債務を免れるという考え方が採用され、いわゆる「相対的免除」は2017年改正民法437条に条文が適用されうるようになった(437条参照、445・2・3条項参照。最判平成8・11・28民集52巻11号1991頁)。参考判例によって、不真正連帯債務者間においても免除の意思解釈いかんによっては絶対的効力が認められるとされたことで、いわば免除の意思解釈が重視されることが示されることとなった。このような状況を踏まえ、2017年改正民法437条を削除することで、免除を相対的効力とする見解が採られた。ただし、相対的免除の原則を定めた441条(2017年改正法440条に対応)には、反対の意思表示があった場合は例外が付された。特約によって他の連帯債務者に対しても効力を及ぼすことが明らかにされた。つまり、現行法下では、原則として免除は相対的効力をもつにとどまるが、免除者が他の連帯債務者の債務による「絶対的免除」もありうるから、やはり意思解釈が必要である。以上を本問に当てはめると、CがBに対する乙債務の免除は残額の900万円であるとしても、Bの負担部分400万円をD、Eに及ぶことをCは意図しておらず、すでにDに441条ただし書の「特約」が認められる。そこで、絶対的効力を及ぼすことが考えられる。Dは求償の限度で、DとEが乙債務の900万円のうち、相対的効力により、Dは求償の限度で免除を受けられることになる。しかし、CはDに900万円の履行を請求できる。Dから求償を得られないであろう。5. 連帯債務者の1人による相殺弁済の効果のある行為が同じく連帯債務者について、求償権が発生した場合も有効である。すなわち、相対的効力は、1人による相殺の場合も有効である。すなわち、相続により、弁済者が債権者に対する債権を有する場合でも有効である(相殺の絶対効、439条1項)。求償権を発生させてからである。小問(3)では、Bが履行請求を受けた場合、Bが有しているかの問題である。このことを検討する前提として、E自身が相殺した場合の処理をまずは明確にしておくというであろう。本問では、EがCに対して950万円の普通預金債権を有しているので、Eがこれを自働債権として、Cの甲債権(ただし、Aを共同相続したDの対抗にあうことになる900万円を限度とする参照)を受働債権として相殺の意思表示をすれば、対当額900万円につき相殺の効力が生じる。つまり、Eの預金債権が50万円になる一方で、CのEに対する甲債権900万円は消滅する(505条)。また、相殺に絶対的効力が認められるゆえに、上記のようにEの負担部分も900万円は消滅する。そして、Eの最終的な負担部分300万円も求償できるから、連帯関係にあるBやD)との間で各300万円の求償関係が生じる。このように連帯債務者の1人が相殺をなしうることは、その者が自ら相殺しない場合に他の連帯債務者にとってどのような意味があるのか。小問(3)においてBが相殺の権利を行使できるか否かにつき、改正の前後で処理が異なる。まず、2017年改正前民法は、対外関係を有する債権者が債務を負担するものの、他の連帯債務者の利益を援用することを許容されていた(2017年改正前436条2項)。この「援用」の意義をめぐって争いがあったが、判例(昭和32・12・13民集11巻14号1945頁)は、他人の相殺権を行使できるという意味合いの意義に解していた。これによれば、Bは、Eの負担部分(300万円)の限度で相殺権を行使でき、甲債権は連帯債務者全員のために1500万円に縮減する。ただ、甲債権につきBにさらに求償されることはないから、B・Dの合計1500万円を弁済すれば、Dに750万円、Fに150万円(Dは相続分から自己負担分+150万円(Aから相続した負担部分))、Fに750万円の求償ができる。このように、改正前民法は、負担部分に関して債務を絶対的に消滅させることで、相殺によるつもりの連帯債務者への求償を回避する構造であった。しかしながら、従来、他人の相殺権を援用する者の意思に反しないか等の批判があったことから、2017年改正民法436条2項の性質を見直す気運が高まり、現行法では、他の連帯債務者が有する相殺権を援用できるかについて、この点、他の連帯債務者の負担部分の限度で他の連帯債務者に履行を拒絶するルールが採用された(439条2項)。したがって、Bは、Eの負担部分である300万円につき履行拒絶を主張して1500万円を弁済すればよい。その結果、CのBおよびDに対する甲債権は、相殺を主張しても消滅せず、Eの負担部分300万円をDに求償することができる。この場合にBが弁済した1500万円のうち、自己の負担分600万円とBおよびDのそれぞれに300万円(Dのそれは600万円、Bのそれは300万円)につき、BはDに対して600万円の求償権をもつことになるという。相殺権を有する連帯債務者の利益や意思を保護しつつ、相殺権を援用する連帯債務者にも一定の利益を確保するというバランスのよい解決策であろう。Eが相殺権を有するだけで、他にいくら自己の負担部分に対応する求償権を放棄したとしても、Bからに対する総合的な求償を認める処理もありえよう。いずれにしても、先に述べたとおり、資力のある連帯債務者がいないと、求償権のリスクが伴う場合、Bにとっては民法440条の事前通知の意義がある。関連問題(1) E自身が相殺権をもって求償権を放棄した場合、連帯債務についてどのような問題が生ずるか説明しなさい。(2) C銀行がDに甲乙両債権の履行を請求した場合、B・E・Fにとっても、同時履行の抗弁権(447条1項1号)が生ずるか。(3) 小問(2)において、Bが債務超過を負っている場合に、DがCに900万円を弁済したとしても、DがBに求償権を認めていた場合の処理について検討せよ。参考文献篠田雄介・法教205頁/篠田雄治・126頁/平野裕之・リマークス19号(1999)35頁 (宇高克己)

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

三者間相殺

公開:2025/10/20

運送会社Cの従業員であったEは、2016年にC社から独立して、運送会社Eを設立した。E社の独立時より両社とC社との間には継続的な取引関係があり、C社が請け負った運送に関する積荷・倉庫作業を、B社がC社から受託して代行していた。また、B社は普通銀行に主要な燃料を、C社の本社である会社AからB社に購入していた。2022年6月1日の時点で、これらの取引から生じた債権の残額はそれぞれ、B社に対するA社の売掛代金債権につき400万円、C社に対するB社の報酬代金債権につき600万円である。そのほか、2021年にB社が自動車販売業者D社から乗用車を購入した際の売買代金債権につき、500万円がまだ支払われていない。2022年6月13日、D社がβ債権を差し押え、その差押命令が同月15日にC社のEのもとに送達された。その後、A社がB社に、「β債権をα債権で相殺する」と連絡した。(1) 2016年4月1日、B社がC社・A社との取引を開始する際、将来発生するα債権を被担保債権として、A社所有のa社とc社敷地内に第1順位の根抵当権が設定され、その旨の登記がされていた。D社が上記差押えによる債権取立権に基づき、β債権の弁済をC社に請求してきたとき、これに対してC社はどのような反論をすることができるか。(2) 2016年4月1日、B社がC社・A社との取引を開始する際、C社の指導のもと、A社・B社間の取引基本契約書のなかで、「B社において手形不渡り・差押えの申立て・破産手続の開始等所定の事由が生じた場合に、B社はα債権について期限の利益を喪失し、A社はα債権とβ債権を相殺することができる」と定められていた。D社が上記差押えによる債権取立権に基づき、β債権の弁済をC社に請求してきたとき、これに対してC社はどのような反論をすることができるか。参考判例と設問参考判例① 大判昭和8・7・7民集12巻2811頁② 大判昭和8・12・5民集12巻2818頁③ 最判平成7・7・18判時1570号60頁④ 最判平成28・7・8民集70巻6号1611頁設問1. 二当事者間の債権譲渡を対象とする注意相殺民法は一定の要件のもと、2人の者がお互いに対して負っている債務を対当額について消滅させ、いずれかの当事者に残る差額の債務についてのみ履行すればよいものとしており、この制度は「法定相殺」と呼ばれている。法定相殺が認められている趣旨は、双方による弁済に代えて差引計算後の残額のみを現実に履行し、2回の弁済を1回に省略する形での簡易・安全な決済を可能にするとともに(「簡易決済機能」)、一方のみが債務を弁済して他方が弁済しないという事態を当事者の間で回避させ、当事者間の公平を図ることにある(「公平保障機能」)。また、当事者の公平な処理の結果、一方の当事者が無資力であっても、相殺が認められれば、他方の当事者は自己は実質的に自己の自動債権を優先的に回収できるため、法定相殺には「担保的機能」も働くと言われている(→本節解説)。法定相殺の規定を基本とするには、二当事者間に存する債務が「相殺適状」にある(当事者の一方からの「相殺の意思表示」を待つだけをよい)こと、また、相殺の意思表示が相手方に到達したことにある。相殺適状が存在するには、①2人の間に対立した債務が相互に存在すること、②両者の意思表示の時点で双方の債権が現存していること、③双方の債権の目的が同種であること、④債務の性質が相殺を許さないものでないこと、⑤双方の債務の弁済期が到来していることが要件とされている(505条1項)。こうした相殺適状の要件にあると、法定相殺の対象は基本的に二当事者間の関係に限定され、3人以上の間に存在する複数の債権関係では「相殺」の効果も発現することはない。ここでは、AがBに対してα債権を有し、BがCに対してβ債権を有している状況を考えてみる。このときに①CがAからα債権を自働債権として相殺しようとする場合(他人の債務による相殺)、②Bが自働債権として相殺しようとする場合(他人の債権による相殺)、または③Aが自動債権として相殺しようとする場合(他人の債権による相殺)、また、④Cは、Aに対して有するγ債権を有していて、3人のうちのどの当事者が3つの債務を相殺しようとする場合、いずれの場合も上記①の相互性要件が充足されないため、相殺適状は生じない。2. 法定相殺の期待の拡張(1) 求償に対する相殺の抗弁もっとも、三当事者間の債権債務について相殺が認められる場面がある。上記の状況で、二当事者間の法定相殺の期待への保護が対第三者関係に拡張される場合である。たとえば、Bに対するCのγ債権について、AがBと連帯債務者、または、Cの債権について保証者Bから保証を受けたCが保証人であるとして、CがAにこの保証債務の弁済を請求するに至りCに弁済するにすぎない。この場合に、この弁済等の時点でBがCに対して債権を有していたのならば、Aからの求償権α’の請求に対して、BはCに対して主張し得たはずのβ債権による相殺を対抗することができる(443条1項・459条1項)。これにより、この相互的な債権を法定相殺することでへのBの求償権に対する担保において保護されている。(2) 債権譲渡の際の譲受人に対する相殺の対抗また、Bに対するα債権をCが承継していて、これをAに譲渡したときに、Bは民法469条の定めるところにより、Cに対するβ債権による相殺をもってAに対抗することができる。この場合でも、Cとの債権を譲り受けたAに対するBの法定相殺への期待が、一定の要件のもとで債権譲渡の譲受人Aに対する関係に拡張されている(→本節解説)。3. 相互性要件を欠く「三者間相殺」の許容性(1) 相互性要件を欠く「三者間相殺」の肯定的解釈しかし、相互性要件を欠く三者間の債務の相殺について、三者間相殺を一般的に許容する規定はない。この場合、Bが債権譲渡について決済を一般的に許容する規定はない。この場合、Bが債権譲渡について決済をしても債権者の債務者に相殺を対抗されないだけでなく、両者の合意で不当な処理がされる危険性があるから認められないため、法定相殺における利益状況と付合しており、利益状況を保護するような事情の法定相殺への期待は認められない。しかし、三者間の合意のもとで一体的に決済できる場合でも、法定相殺の適用を通じた処理も考えられる。そうした正当な計算が期待できるとすると、これを認めても、慎重手続きの中で「相殺」としての法論理を説けるわけはない(参考判例①)。(2) 自働債権者の意思の尊重と選択これに対して、例外的に、三者間相殺を認めるべき主張もある。Aがβ債権を被担保債権とする抵当不動産の所有権(物上保証人・第三取得者)である場合に、Bに対するα債権を自働債権とするAの相殺を肯定する見解がある(上記の状況)。ここでの相殺には、Aが主債務者Cに代わってβ債権を弁済するのと第三者弁済の効果と、Bが本来の弁済に代わる物上保証を失う代償の請求の二つの側面がある。このうち第三者弁済について物上保証人等であるAは、求償権を正当な範囲で自己の不動産の所有権を保全できるはずである(474条1項)。BとCに共通して「相殺」の請求をした場合、Bが債権の弁済に代えて物上保証の利益を享受したと評価して相殺を認めてよいというのである。他方で、代位弁済の効果との間の契約を要件とするため、Bの弁済をするとなる。ただし、物上保証人が有力であるとみる三者間相殺を認めれば、AはCとの関係を理由として有効な抗弁を主張できることになるが、Aにとっては、本来的にはβ債権の消滅を阻止した債務者を自己の債務者に優先して実現できることとなる。このとき、Bの債権者の第三者弁済的扱いが認められて、Aの有するα債権と相殺し、Dを債権者とするβ債権の履行とを認めるものとする。また、これとは別に、三者間相殺を認めると、AとBとの間で相殺が有力であると、無資力Aに対するBの反対請求が担保を許容する。そのため、抵当不動産所有者による三者間相殺を認めると、こうした追加的な事情のない場面に限定されるべきこととなる。さらに、物権における債務者の保護問題も問われている。三者間相殺を許容する見解の中には、このように限定された場面でのBの代理権行使に期待する見解もある。参考判例②によれば、権利濫用にすぎないとする主張もある。本条の弁済による消滅の管理に介入する権限を有しているわけではないとはいえ、Bによる相殺の管理に介入する権限を有しているわけではない。相殺性要件を欠く2つの債権について相殺の処理を含む合意の効力が否定的な意味で裏書に反するか否かは問われてはならない。(3) 取引関係の関連性を重視する見解次に、近時、計算の基礎とする債権を発生させた取引に何らかの関連性がある場合に、三者間相殺を許容する見解がある。α債権に関するA・B間の取引とβ債権に関するB・C間の取引が関連して行われているときに、約定によって債権債務を一括処理することへの当事者の期待を保護しようとするものである。しかし、三者間の債権の取引関連性を認めることにも消極的見解もある。むしろ、こうした見解においても、もとより上記BのAの解除もそうである。Bの他の債権者との不平等の問題など。また、法定相殺の期待への信頼は保護されてしかるべきだと、よく、両債権の相殺に付随効果があることも認められている。保証するに、当事者間の合意による相殺の期待もまた尊重されるべきであるが、取引関連性よりもむしろ取引当事者間での一般的な法律関係に付随することの根拠となりうるか否かについては、判例の動向に左右されず論理的に説明しうるとも思う。その意味で、この見解もまた取引関連に関して、これを肯定する判例を求められる。(4) 当事者間の合意に先行する相殺期待の重視当事者が関連して取引を行っているときに、その一体性を認めることから、これらの者による取引全体の合意に基づく相殺を許容する。たとえば、A・Bが企業グループを形成し、BとCの取引的に整理して抗弁しうるような場合である。これに対して、判例①は、A・C間に親子会社関係がある事案において、AやCによる相殺を認めていない(参考判例①の射程)。この見解についても、三者間の特殊性を前提にする客観性のほか、上記訴訟における判例の射程とは異なり、三者間の合意による相殺を肯定する判例③の射程としても、かかる判例の射程が限定的に解釈されるべきであると指摘されている。さらに、判例は独立した法人格を別人格として扱っているのであるが、当事者の期待に沿った通常の一体性を主張するのは困難ではなかろうか。全般による相殺期待の確保(1) 範囲を画するこのときに三者間相殺を正当化するのは難しい。三当事者間にある複数の債権債務によって相殺しがたいのであれば、むしろ、三者間の相互的な債権債務関係によって相殺が期待できるとみるべきである。その基準としてまず考えられるのが、保証である。上記法定の状況でA・B間に、α’債権とβ債権という相互的な債権債務関係が存在する。このとき、これらを相殺すれば、A・C間にα’債権とγ債権という相互的な債権債務関係が存在することとなり、これらを相殺すれば結局は、Bが直接Cに弁済することになる。このグループ内にBの債務者となるような者がいない場合にも同様である(参考判例④)。AがそれぞれのBとの取引について保証を一本で締結しておく方法もまたあるだろう。すべてをグループ内で決済処理に一本化するコストは大きくなる。そのため、実質担保は図られる。(2) 債権譲渡を利用する方法次に、債権譲渡を利用することもできる。たとえば、AがBに譲渡すれば、BとC間にβ債権とγ債権という相互的な債権債務関係が形成され、法定相殺が可能になる。あるいは、CがAに譲渡した場合も「相殺」を認めるべきであろう。これらの債権譲渡の利用の容易さからすれば、三者間での「相殺」への期待は保護に値すると評価されることは少ないだろう。ただし、この場合には対抗要件が問題とならなければならない。Bの債務者Dがβ債権を差し押えたときに、この差押えでAにCの債権を確定的に譲渡したわけではない。β債権譲渡の第三者対抗要件(467条2項、譲渡担保特約1条1項)を欠いていれば、Dの差押えでAは譲渡を対抗できず、相殺の担保的機能は無に帰する。(3) 複数引受を用いる方法さらに、債務引受によって二当事者間の相殺適状を作り出すことも可能である。たとえば、免責的債務引受(472条)によりAがBの債権者となれば、Cに免責的債務引受させれば、A・B間のみの債権債務関係になる。(4) その他の方法その他に代物弁済や更改、混同なども選択肢となる。とりわけ、上記のように債権が環状に存在しているときには、いくつかの方法を組み合わせる必要がある。たとえば、AがBの債務引受によりAとBの債務を免除するとともに、Cが対抗要件の範囲でγ債権にAの債務を免除するという具合である。ただし、債権者や引受参加者がさらに多数になれば、このような操作は非常に複雑になる。そこで、こうした状況では、独立した当事者X(集中決済機関、セントラル・カウンターパーティー(CCP))を参加させ、取引参加者の債権債務をすべてXとの二者間の債権債務に調整する方法がある。あるいは、取引参加者が互いに対抗する債務をすべてXに売却し、Xがその代金債権を相殺して処分する契約をすれば、これも決済の一方法である。債権の環状とXに対する債権が相互に反対方向の債務となり、これを相殺するとともに、Xが債務者となる。債権の環状とXに対する債権が相互に反対方向の相殺となり、また、AがB・Cに対して有する債務すべてについてXが免責的債務引受をし、その対価として反対方向にある二当事者間債権関係を形成できる。関連問題甲駅から乙駅までの鉄道、乙駅から丙駅までの鉄道、丙駅から丁駅までの鉄道をそれぞれ運営するA社・B社・C社は、2016年に甲駅から丁駅まで各社の車両を相互に乗り入れ直通運転を開始した。C社は、運送区間を含めた乗客からの運賃収入を管理する。運営協議会が占い、各社に生産に係る運賃の生産高を毎月末締めて清算することとしている。(1) 2022年6月1日の時点で前月分の運賃清算を清算した後に、A社にはB社に対する3000万円のα債権、B社にはC社に対する2000万円のβ債権、C社にはA社に対する1000万円のγ債権が残っている。同月13日、C社はB社の債権者D社からγ債権を差し押え、その差押命令が同月15日にA社からB社に送達した。D社がこの差押えによる債権取立権に基づき、γ債権の弁済をA社に請求してきた。A・B社がγ債権をα・β債権で相殺するとの合意を理由としてD社に対抗するとの合意を理由としてD社に対抗できるか。(2) 2016年の直通運転開始時に、A社はB社に運送区間の管理のために共同でX社を設立し、A社とB社は直通運転に関する債権債務を集約して決済することとしていた。2022年6月13日、B社の債権者D社が運賃代行取立分に当るB社に対するX社の債権を差し押え、その差押命令が同月15日にXのもとに送達された。D社がこの差押えによる債権取立権に基づき、δ債権の弁済をX社に請求してきたとき、A・C社は、X社が他の債権者との間に前月にどのよう合意をしていたかによれば、X社は対抗を拒絶することができるか。参考文献山本和彦・法教 2016年(2016)69頁/白石大・法教29年(2017)96頁/中田裕康「合意当事者間の相殺契約の効力」(日本評論社・2019)135頁/中田・債権総論464頁 (高木和彰)

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

請負における所有権の帰属

公開:2025/10/20

(1) A・B間で、A所有地への建物の建築をBが請け負う契約が締結された。Bは、自己の提供した材料で全工程の4分の1まで終えたが、そこで中断した。Aは、Bとの契約を解除し、工事の続きをCに請け負わせた。Cは、自ら調達した材料で建築を完成させ、Aからの残額の支払いをAにこれを引き渡した。また、A名義での保存登記がされた。この建築物で、出来形部分は基礎のむき出しであった。建物の価値は3000万円になったのに対して、完成した建物の価値は200万円だったのに対して、完成した建物の価値は3000万円である。AからのBへの報酬は支払われていない。以上の事実関係のもと、Bの債権管理会社A'は、建物の所有権はBにあると主張して、登記の抹消および使用相当額の支払いをAに求めた。認められるか。(2) (1)と異なり、BはAに無断で工事を中断してDに下請けに出した。Dは自己の提供した材料で全工程の4分の1まで終えたが、Bが倒産したため工事を中断した。その後の工事の帰趨や事実関係は、(1)と同じである。しかし、(1)と異なり、A・B間には、建築途中で契約が解除された場合には出来形部分はAの所有物とするとの特約のほか、報酬も工事の進捗に応じて分割して支払うとの特約があり、Aは進捗状況に応じた額の報酬をBに支払っていた。B・D間にはそういった特約はなく、BからDへの報酬も支払われていない。以上の事実関係のもと、Dは、Bの時に、完成建物の所有権に基づき、登記の抹消、建物の明渡し、使用相当額の支払をAに求めたほか、認められなかった場合に備え、二次的に、民法248条に基づき出来形部分の価額相当額700万円を支払うよう求めた。認められるか。(3) (1)において、下線部の特約がなかった場合はどうか。さらに、下線部①の特約および支払もなかった場合はどうか。参考判例と設問参考判例① 最判昭54・1・25民集33巻1号26頁② 最判平5・10・19民集47巻8号5061頁設問1. はじめに本問は、建築請負契約において完成建物や出来形部分の所有権が誰に帰属するのかという問題を基礎として、出来形部分に第三者が手を加えて完成させた場合の処理、および、下請負人が登場する場合の処理について問うものである。2. 未完成建物を第三者が完成させた場合の所有権の帰属(1) 検討の対象と順序小問(1)で完成建物の所有権がBにあるといえるためには、第1に、そもそもBの作った出来形部分の所有権がBにあったといえるのか(→(2))、第2に、それが認められるとして、建物を完成させたのがCであってもその所有者がBだといえるのか(→(3))、という2つの段階を経る必要がある。(2) 出来形部分の所有権の帰属(a) 前提ー不動産に劣る従物の扱いと報酬の効果本問では、出来形部分はまだ土地の不動産ではない(建物の要件が不動産になる要件については、大判昭和10・10・14民集14巻1671頁)。そのような状態で所有権の帰属がどうなるか。参考判例②も、不動産になるまでは土地の一部にすぎないと考えるが、そこにBの所有権は認められない。しかし、同旨大判昭和10・10・1は、不動産になる前でも独立の動産として債権の客体となることを認めている。また参考判例①も、それを前提として(「土地に定着しているが独立の不動産とはいえない状態の建物」といわざるを得ない)。建築途中であっても、いずれそれが建物になることを考えると、独立した動産として扱うことは問題がある。次に、本問ではAが報酬を前払いしている。そのため、出来形部分についてBに原始取得後(505条1項)が生じるようにも思われる。しかし、建築工事は可分であり、かつ、出来形部分はその給付によって注文者が利益を受けるものであるため、民法634条2号により、そこに報酬の対象とはならない(→本節設問の最判昭和56・2・17判時996号61頁も参照)。以上を踏まえて、出来形部分の所有権は誰に帰属するのだろうか。(b) 建物所有権に関する請負人帰属説建物の完成の段階で所有権の帰属が問題になるのは、変則的な事態である。通常の経過を辿った場合に遡及し、完成建物はいつから注文者の所有物となるのかを考えよう。ありうる構成は2つである。1つは、建物の所有権はずまず請負人に帰属し、その後どの段階で注文者に移転するものである。もう1つは、初めから注文者に帰属するものである。このどちらをとるかの基準として、判例は、古くから、材料の全部または主要な部分を提供した者に建物所有権も帰属するとしている(材料主義)。注文者が材料の大部分を提供した場合は、特約がない限り、建物は原始的に注文者の所有物となり(大判昭和7・5・9民集11巻854頁)、請負人が材料を提供した場合は、特約がない限り、建物所有権はまず請負人に帰属し、引き渡しによって注文者に移転する(大判明治37・6・28民録10輯961頁、大判大正3・12・26民録20輯1284頁など)。建物請負契約では通常は請負人が材料を提供するため、この判例によれば請負人帰属説と呼ばれる。参考判例①は、この考え方が出来形部分についても妥当することを示唆している。このために、材料の所有者がそのまま目的物の所有者になるのは、原則的には飲み込みやすい。材料と労力の提供によって目的物の所有権を定めることは、物権法の付合(246条)や加工(248条)の制度趣旨にも合致する。また、この立場は実質的な意義として、十分な担保手段をもたない請負人に、建築費確保の機会を確保に資するという点も強調される。(c) 注文者帰属説これに対して、当事者意思や契約の趣旨を根拠として、材料の提供者が誰かにかかわらず、建物所有権は原始的に注文者に帰属するとする説(注文者帰属説)が有力に主張されている。注文者帰属説は、建物を注文者が自ら使用するために建築を建てることにあり得ず、初めから注文者のための建築なのだから、請負人が所有権を取得することもないというのがその主張の骨子である。この考え方は、物権変動の意思主義(176条)ー対価の支払目的物の引渡しがなくても、所有権は当事者の意思のみで移転するーに合致する。また、たとえ請負人帰属説の立場でも目的物引渡しがなされたり対価支払を負うことになるし、報酬請求権の確保には他の手段があるはずだと注文者帰属説を支持する。注文者帰属説に従えば、本問における出来形部分の所有権はAにあることになり、BやBの債権者は所有者となることはない。(d) 特約の認定もっとも、いずれの説でも、当事者の異なる特約を認めることには妨げられない。請負人帰属説に立つ判例も、当事者間に、建物の完成と同時に注文者に所有権を帰属させる旨の合意があるときは、完成建物所有権は原始的に注文者に帰属すると解する(大判大正2・12・13民録22輯2417頁など)。この合意は契約当事者の自由の原則の当然の帰結であるから、裁判所は、たとえ明示の合意がなくても、合意の存在を比較的緩やかに認める傾向にある(そこには、注文者帰属説の影響があるだろう)。とりわけ、建物完成前に請負代金が報酬の全額または大部分を支払っていた場合には、特段の事情がない限り、建物完成時点で所有権を注文者に帰属させる黙示の合意を推認することを判例は確立しているといってよい(大判昭和17・3・27民集22巻960頁、最判昭和46・9・13判時573頁25頁、最判昭和46・3・5判時628号48頁など)。報酬の支払は目的物の引渡しと同時履行の関係に立つのであるから(633条本文)、注文者が前払いするのは目的物の所有権を早めに取得することと当事者の間で了解しあっているから、この場合には請負人の報酬債権確保の必要性も小さい。したがって、黙示の合意の存在を緩やかに認めることには根拠がある。もっとも、小問(1)の事案では、Bの求めではないのにAの方から報酬が支払もされていないため、黙示の合意に基づく所有権帰属を認めることは無理だろう。(e) 第三者による完成の効果建物所有権について請負人帰属説に立つ場合には、出来形部分の所有権を請負人に帰属したことになる。その場合には、第三者のCが手を加えて建物を完成した場合、その所有権は誰に帰属になるのだろうか。B・C間に完成物はないため、物権法、特に添付のルール(242条以下)に従って判断することになる。もっとも、それをどのように用いるかは丁寧に考察する必要がある。1つの考え方として、建築物の土台にあたる出来形部分を「主たる動産」と見て、そこにC所有の材料が付合したことから、出来形部分の所有者が全体も所有権を取得し(243条)、不動産になった後もこれに対応した材料の所有権をBが取得する(242条)という構成もありうる。参考判例①の請負人は、このような主張を展開した。しかし、付合のルールでは、この判断を評価することができない。本問では、Cはまだ土地の不動産ではない状態から独立の不動産へ仕上げている。このような場合に材料の価値だけで判断してBの所有権を無視するのは適切でない。そのような観点から参考判例①は「材料に対して施される工作が特段の価値を有し、仕上げられた建物の価格が原材料のそれよりも相当程度増加するような場合には、むしろ民法の加工の規定に基づいて所有権の帰属を決定するのが相当である」と述べた。これに従えば、本問でも、加工の規定(246条)に従って建物所有権をBが認めるべきである。(4) 当てはめ以上を小問(1)に当てはめると、請負人帰属説に立つ場合、出来形部分の所有者はBとなる。しかし、出来形部分の価格が700万円であり、Cの材料・工作の価値は2000万円(3000万円−700万円)なので、仕上げられた建物の価格が、原材料である出来形部分の価格を相当程度上回っていると評価できる。そのため、建物の所有権はCに帰属し、引渡しによってAに移転することになる。Bの主張は認められない。3. 下請負人による建築と注文者・元請負人間の特約の存在(1) 検討の視点小問(2)の事案では小問(1)と類似しているが、下請負人が登場し、民法248条に基づく償金を主張している点、および、建物の帰属や報酬の支払についてB・C間に特約がある点で違いがある。ここでも、まず出来形部分や完成建物の所有権の所在を問うことは、小問(1)の場合と変わらない。しかし、契約当事者の争いであった小問(1)とは異なり、小問(2)では、Dが、建物または出来形部分の所有権を根拠として、自身の契約の相手方Bではない建物の最終所有権者であるAから直接回収することの是非も問題となる(この点については特に(2)で検討する)。出来形部分や完成物の所有権の帰属を考えるうえでの請負人帰属説と注文者帰属説の考え方は、下請負人がいる場合にも当てはめて考えられている。したがって、注文者帰属説に立てば、建物所有権はAに帰属する(→2(2)(c))。他方、請負人帰属説に立てば、特約がない限り出来形部分の所有権はBに帰属するが(→2(2)(b))、Cが建物を完成させAに引き渡したことで建物所有権はAに帰属することになる(→2(3))。そうだとすれば、いずれにしてもDに建物所有権は帰属せず、主位的請求である所有権に基づく各請求は否定される)。もっとも、請負人帰属説に立つ場合、さらに二次的主張の当否も検討する必要がある。(2) 償金請求と特約の存在(a) 償金請求請負人帰属説に立つ場合、所有権の帰属について特約がなければ、Dは出来形部分の所有権をCの加工によって失ったことになる。そのため、本来、民法248条に基づいて、現在の建物所有者をAに対して償金請求ができるはずである。(b) 注文者・元請負人間の特約の効力しかし、小問(2)では、注文者Aと元請負人Bの間に出来形部分の所有権の帰属について特約が付されている。もしこの特約が、下請負人Dをも拘束するのであれば、Dは出来形部分の所有権を取得せず、特約がDを拘束するなら、原則として効力は第三者に及ばないので、A・B間の特約はDに影響しないようにも思える。現に、参考判例①もそのように考え、下請負人から注文者への償金請求を認めた。しかし、元請負人と下請負人の関係の履行は目的とする契約である。そうであれば、元請負人が契約内容から離れた独自の立場にいないではないか。実際、参考判例②は、そのような観点から、「下請負人は、注文者との間では、元請負人の下請けという立場に立つものであり、注文者の信頼しうる特約を信頼するのが通常であり、元請負人と注文者間の特約がある場合はその特約を信頼して、元請負人と注文者間の特約に反する主張はできない」と判示した。これによれば、A・B間の特約はDをも拘束するため、出来形部分の所有権はDには帰属せず、Aに対する償金請求も否定されることになる。(3) 明示の特約・報酬の支払がない場合(a) 明示の特約がない場合では、小問(3)のように、報酬時に出来形部分をAに帰属させる明示の特約がなかった場合はどうなるだろうか。この点についての明確な判例はないが、報酬の支払いが黙示の合意による特約を認定する基準になっていることからすれば(→2 (2)(d))、明示の特約がなくても、Aからの報酬の支払さえあれば、黙示の合意が認定されて出来形部分をAに帰属するとしたうえでDは償金請求できないとするのが整合的であると思われる。(b) 報酬の支払いがない場合ではさらに、AからBへの報酬の支払いがない場合はどうだろうか。あまりにDの犠牲のうえにAの所有権の保護が図られることは許されないのではないか。この場合には、Dからの償金請求を認めるべきではないか。しかし、Dは契約相手方Bから報酬を得られずAに請求することはできないだろうか。仮にAがDに償金を支払っても、AのBに対する報酬債務が消滅するわけではない。Aの解除によっても民法634条1号により出来形部分についての報酬債務は消えず、また、民法248条の求償はあくまで請求のなされた所有権の範囲であって報酬債務に影響するものではないためである。そうすると、Aは、出来形部分についてはBとDに二重払いするおそれがある。Dが人的担保機能をもつようになると、債権の確保として機能すればそれのような機能も正当化しうるかもしれないが(ただし、その場合には、AからBへの償金の支払を、BがDに負う報酬債務の第三者弁済と評価されるかという問題があるーそれができなければ、AはBに対する求償もできなくなる)。すでにBに報酬を支払っているAの場合との整合性も問題となるだろう。もっとも、Dの償金請求を封じる法律構成は複雑だ。①元請負帰属の原則として、事後的にでもAがB(D)に報酬を支払えばDは所有権を遡及的に失うと考えるか。または、②下請負人と請負人の関係の独自性(→コラム)を重視し、BーD間の下請契約の結果Dに帰属した出来形部分はBに帰属されるべきであると解して、(請負人帰属説によって)Dは所有権をもたないと考えうるべきではないかと思うが、問題解決がむずかしい。元請負・下請負の構造の解明が待たれる。関連問題と参考文献関連問題下請負人が自身の報酬債権を確保するための手段として、約定(担保および相殺)あるいは、法定(担保)によるものがどのように考えられるか。また、それらの実現に関連し、どのような問題が生ずるか、解説しなさい。参考文献●大村敦志「最判平成5年度民法(下)886頁/中村知・「ゼネコンの倒産と民法」13頁(有斐閣、2007)113頁/宮川雄一郎「請負契約における所有権の帰属」民事法Ⅲ164頁/澤勢信・百選Ⅱ140頁/宮崎裕・百選Ⅲ140頁 (村田大樹)

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

相殺の担保的機能

公開:2025/10/20

Xは、Aに対して有する競売上の債権に基づく200万円の債権に基づいて、2024年8月9日に、Aに対する200万円の債権(甲債権)の弁えを申し立て、この競売命令は、その同日にYに送達された。Xは、同月25日に、Yに対して、履行に代る甲債権の支払を求めた。これに対して、Yは、Aとの間で、Aを売人に売却してそれを借用してAが製造した製品を納入するという継続的な取引関係にあり、その取引について一般的な内容を定めた基本契約を締結していたところ、2024年7月5日に締結された個別契約に基づいて、その目次におわれることになっていた50万円の部品の代金債権(乙債権)、および、B銀行からAに納入して同月20日に代品された製品に瑕疵があったことを理由とする50万円の損害賠償債権(丙債権)をA銀行の他のJとして丙Aから5日に受けそしてBからの譲渡であるB銀行の行使した保証契約に基づき、Bからの譲渡に応じて2024年8月23日に弁済によって取得した50万円の求償権(丁債権)、同年8月1日に買い付けた同年8月末日に弁済期の到来するAに対する50万円の貸金債権(戊債権)を所有していたので、これらの乙債権から戊債権を自働債権として、甲債権を受働債権として対当額において相殺する旨主張した。Xからの請求に対して、Yは、このような相殺の抗弁に基づいて、支払を拒絶することができるか。●参考判例●最判昭45・6・24民集24巻6号587頁最判平24・5・28民集66巻7号3123頁① 「差押えと相殺」とはどのような問題か(1) 問題の所在AのYに対する甲債権をAの債権者Xが差し押さえた場合に、Aは、債権の取立てその他の処分を禁止されると同時に、Yは、Aへ弁済することが禁止される(民執145条1項および民法481条を参照)。このように差し押えられた債権をその後の効力を禁止されるにもかかわらず、Xからの取立て(民執155条1項)を受けたYは、相殺をもってXに対抗することができるのだろうか。この問題と考えるには、相殺が相手方からの請求を排するための抗弁としてあらわれるとして、債務者(A)の一般債権者(X)が差し押えた債権(甲債権)を債務として、差押債務者(Y)が自ら立てを命令した第三債務者(Y)が自己の債務者(A)に対して有する債権(乙債権から戊債権)を自働債権として相殺するときには、差押債権者(X)が有する被差押債権(甲債権)からの債権の回収の期待と第三債務者・相殺権者(Y)が有する乙債権(甲債権)からの自動債権(乙債権から戊債権)の回収の期待が衝突していることに注意する必要がある。本節のタイトルである「差押えと相殺」とは、両者のうち差押債権と第三債務者(相殺者)の競合が生じた場合に、両者の期待をどのように調整するかという問題である。(2) 「差押えと相殺」に関する2017年改正民法第511条をどう読むかこの問題は、従来、2017年改正前の民法511条によって解決されてきた。本問では、自動債権(乙債権から戊債権)が2017年改正法施行後に生じていることから、民法511条に基づいて、相殺の可否を判断すればよい(新民法条3項)。そうであっても、民法511条は、2017年改正前の民法511条に関する最高裁判例に基づいたものであることから、同条文を理解するのに必要な範囲において、この判例を紹介しておくことにする。2017年改正前の民法511条は、「支払の差止めを受けた第三債務者は、その後取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない」と定める。最高裁(参考判例①)は、相殺について、①対立する債権を「簡易な方法によつて決済」することを可能にし、これによつて、当事者の「債権関係を円滑かつ公平に処理する」という法制度の理念であるから、受働債権につきあたかも担保権を有するにも似た機能が与えられるという側面を併せもつ(以下、この機能を「相殺の担保的機能」という)ものであることを指摘したうえで、両者は、差押債務者が差押債権者に対して相殺を対抗できることを「偶然の利益」として、差押時に反対して債権を取得されることの利益のみを「例外的に保障」した。「その限定において、差押債権者と第三債務者の間の利益の調整を図った」ものであるとして、「第三債務者は、先の債権が差押え後に取得されたものでないかぎり、自動債権がたとえ受働債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に達しさえすれば、差押債権においても、これを自動債権として相殺をなしうる」と述べる(このように差押えに対抗し、「無制限説」と呼ばれた。これに対して「制限説」と呼ばれる考え方があり、この考え方については、後段の参考文献を参照)。これにたいして「制限説」とは、「双方の債務がともに弁済期に達する(506条1項)状態を意味しており、民法505条に定められた相殺権の要件を満たした状態をいう。相殺権は、自動債権と受働債権がともに弁済期に達することを要件とする。双方の債務の弁済期が到来していれば、当事者は、いつでも相殺により債務の決済をすることができる。相殺の意思表示をすると、双方の債務は相殺適状の時に遡って消滅する。ただし、意思表示の時点において相殺の障害が消滅していなければならない必要がある。」2 本問の考え方(1) 差押前に生じた自動債権による相殺(民法511条1項)民法511条1項は、前述の判例の考え方に沿って改正されたものである。すなわち、同項前段は、「差押え前に取得した債権」による相殺が許されることを明らかにしたうえで、同項後段は差押えを無にする自動債権と差し押さえられた債権とが対立することになるが、これに対して、同項後段は「差押え後に取得した債権」をもって相殺で対抗することはできないことを述べる(みずほ)。すなわち、差押債務者からの請求を拒絶しうる債権を、差押債権者からの請求を拒絶しうるかの判断において、差押債務者からの請求を拒絶しうる必要があることから、相殺権者に、必要な保護を与え、差押債権者からも支払を求められた場合に相殺適状にあるならば、相殺による決済の処理を認めた。前に取得した自動債権の弁済期が未到来の場合でも、相殺適状にないために、差押債権者の立場(無制限説)であっても、第三債務者は、差押債権者に対抗することはできないと考えられる。そこで、本問の乙債権から戊債権が「差押前に取得した債権」に当たるかどうかを、まず検討する必要がある。本問では、A・Y間に存する複数の債権がYの債権者として区別されているので、それぞれの債権の発生時期と特質に沿って整理して、差押前に取得されたものかどうかを確認するとよい。次に、参考判例①が指摘のように「相殺適状に応じて」とすれば……相殺をなしうると述べることを認める必要があることに注意する必要がある。自動債権の弁済期の未到来である。本問の乙債権・丙債権につき、YからXへの請求時に履行期が到来しているが、戊債権は差押前に取得されているが、XからYへの請求時にはその履行期が到来していないことに注意する必要がある(このような場合でも、相殺権を実質にことに当たるために利用するのが「利益の利益衡量目的」である。→本節図)。(2) 差押前の原因に基づいて差押後に生じた債権を自働債権とする相殺(民法511条2項)民法511条2項は、同条1項による相殺の範囲を修正して、差押後に取得した自動債権であっても、それが「差押え前の原因に基づいて生じたもの」であれば、相殺することができることを規定する。この点において、2017年改正民法は旧法511条よりも相殺を広く認めるのである。民法511条2項は、従来の判例の趣旨に基づいて起草されたものである。すなわち、同条項の起草を参考にした文言であり、同法は破産手続の趣旨において破産者が有する債権に対して債権を負担する者には、破産手続によらずに相殺を認めていること(破6条1項)から、このような場合における相殺と、民法において差押債権者に相殺を対抗することができる範囲とを整合させたことが、民法511条2項の起草において検討されたのである(なお、511条2項の改正による相殺権の制限は、破産法72条1項1号と平仄が合うことを確認しておくとよい)。ここで問題になるのは、差押後に具体的に発生していなくても差押えの前の原因に基づいて生じた債権がある場合に、これを自動債権とする相殺について、相殺権者に「相殺の担保的期待」が存する前提とするにどのような場合があるかということである。参考判例②は、自動債権が破産債権に該当するものであれば、破産手続開始の決定時に具体的に発生している必要はないことを前提として、結論において、委託を受けた保証人が破産手続開始決定後に保証債務を履行したことにより生じた求償権を自働債権として相殺することを認めるものとしている。このことは、本問で丁債権による相殺を検討するのに、破産法の規定を参考に起草された民法511条2項の解釈を考えるにあたり参考になるであろう。なお、無委託保証でした場合には、無委託保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合に生ずる求償権は、破産法72条1項1号の類推適用により相殺できないことを参考判例①は述べており、これに基づいて考えれば、これと異なって、差押前に締結された無委託保証に基づいて差押後になされた弁済によって取得した求償権による相殺は、民法511条2項ただし書の類推適用によって否定されるよう(「関連問題」のような場合でも相殺できないかというもので、解釈によって判断されることとなる)。議論の対象になるのは、本問の丁債権による相殺である。ただし、丁債権は、差押後に生じたものである。しかし、その発生原因は、差押前に締結された保証契約である。そこで、求償権が民法511条2項にいう「差押え前の原因に基づいて生じたもの」に該当するかどうかが問題になる。一方で、「差押え前の原因」を広く解釈することは差押えの効力を弱めることになると考えられる。たとえば、自動債権の発生させる基礎となる事情が具体的に存在していなければ、差押えに後決して保護されるほどの相殺の期待は認められないと考えられる。他方で、債務不履行に基づく損害賠償債権が売買契約の締結の際給付に付随的に該当すると考えられれば、それは同種契約を原因とする反対債権と同時に生じるので、もしも売買契約が連続的に締結されていれば、たとえ差押後になされた債務不履行を原因とする損害賠償債権であっても、「差押え前の原因」から生じたものといえるとも考えられる。さらには、たとえば民法511条2項には「差押え前の原因」から生じた債権として限定されておらず、それ以上の要件が課されていないようにみえるとしても、両者が相殺の合理的な期待を保護する趣旨に立つものであることを考慮すれば、「差押え前の原因」とは、差押前に存在する相殺の合理的な期待を形成する原因を意味するものと解釈することも考えられる。本問では、差押債務者が差押時に成立を待ったというものであったが、差押債権者が転付命令(民執159条・160条)を得ていた場合にはどうであろうか(関連問題を参)。転付命令によって、差し押えられた債権が差押債権者に移転するのであれば、この場合の第三債務者の相殺は、債権譲渡と相殺に類似した場面になる。「債権譲渡と相殺」においては、民法469条2項2号の要件について債権譲渡の優越性という概念が問題になっている(債権譲渡と相殺については→本節図。ただし、民法511条には民法469条2項2号のような規定が設けられなかったので、関連問題②の場合に、民法469条2項2号を類推適用できるかが問題になる)。そうすると、相殺の担保的機能という側面から保護されるべき相殺の合理的な期待を整合的に説明しようとすれば、債権譲渡事例であれ、差押え・取立て/差押え・転付事例であれ、債権の優越性を問題にすべきとも考えられる。そこで、民法511条2項にいう「差押え前の原因」を解釈するのに、相殺の合理的な期待を保護するという立法趣旨を考慮して、自動債権の発生原因が単に差押前に存在したというだけでなく、たとえば自動債権と受働債権の発生原因が同一の契約であるというような密接な結びつき(債権の牽連性)があることを要求すべきかということも問題になる。そのような観点からは、本問には甲債権の発生原因が述べられていないものの、もしも甲債権がA・Y間の継続的取引関係から生じた債権(たとえば、部品の代金債権)である場合には、同一の取引関係から生じた甲債権と丙債権の間に牽連性が認められて相殺の合理的な期待を保護すべきものと考えられそうであり(その他は、同一の取引に関するものでも、形式的には異なる契約から生じた債権の牽連性をどのように認定するかという問題もある)、これに対しても、もしも甲債権が貸金債権であるなど、相互に結びつきのまったく ない債権が偶然にA・Y間で対立するにすぎないのであれば、差押債務者を害しても保護されるべき合理的な相殺の期待はないとも考えられる。なお、破産法72条2項2号の適用事例ではあるが、参考判例②は、同一当事者間において、別個の請負契約に基づく違約金賠償債権と相殺の担保的機能に対する合理的な期待を保護して相殺を認めるものであり、民法511条2項における「前の原因」の解釈にも参考になるものと考えられている。このように、本問の相殺権による相殺を検討するためには、「差押え前の原因」要件が第三債務者の相殺を合理的に制限する役割も果たしうることに配慮して検討する必要があろう。設問回答(1) 本問の②丁債権について、2024年4月5日に締結された連帯保証契約がAからの委託を受けないで締結されたものであった場合に、Yは、相殺を主張できるか。(2) 本問の甲債権について、Xが差押後に転命令を取得してYからYに履行を請求した場合に、Yが丙債権を自働債権とする相殺を主張できるかについて、本問の丙債権の発生原因が2024年8月5日に締結されたときと、同年同月15日に締結されたときとを比較して検討しなさい。●参考文献 〇●北居功・行方譲=80頁/潮見佳男=235頁/池田真・新判例民法平成24年度(下)603頁/白石大「差押えと相殺」法教臨時増刊『民法3(START UP)』 (有斐閣・2017)124頁/Before/After=326頁(平田和之) (星川和佳)

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

一部代位と担保保存義務

公開:2025/10/20

2024年11月13日、建築家Aは、オフィスの新築のための融資を得るべくB金融機関に赴き、A・B間で、Aを借主、Bを貸主、貸付額4000万円、返済期間5年、年利2パーセントとする旨の金銭消費貸借契約(以下、「本件金銭消費貸借契約」という)が締結された。本件金銭消費貸借契約については、翌5月以降の約定弁済、毎月返済、元利均等返済、繰上返済可能とされているほか、各支払期日について一度でも不履行が生じれば、残額全額につき期限の利益を失う旨の約定がある。また、本件金銭消費貸借契約から生じるAの債務(以下、「本件債務」という)につき、A所有の甲土地(甲乙ともに評価額2500万円)にBのために第1順位の抵当権が設定され、同日付でその旨の登記がなされた。併せて、同日、Aから依頼を受けた友人Cが、本件債務につきBとの間で連帯保証契約を締結した(Cも、この連帯保証契約については、民法465条2項、465条の10第1項の要件を充足しているとする)。Aは本件債務の弁済を、2025年5月5日に、その残額が2000万円となった。そこで、Aは、乙土地の活用のためBに対して抵当権の放棄(ここは「絶対的放棄」を指す。以下、特に断りがない限り同じ)を依頼したところBはこれに応じ、同日付で乙土地に係る抵当権設定登記が抹消された。しかし、その後、誰もが予期し得ない経済不況の影響を受けてAの業績は悪化し、本件債務のうち同年6月分の弁済に不履行が生じた(なお、当該不履行につき、民法458条の3第1項所定の通知はBからCに対してなされたものとする)。(1) 2025年7月2日、BはCに対して本件債務の残額2000万円につき連帯保証債務の履行請求を行った。この際、甲土地の評価額が経済不況の影響で1000万円にまで急落していたとすれば、Bの履行請求に対して、Cはいかなる反論をすることができるか。(2) 上記(1)において、CがBの履行請求の一部に応じAに500万円を弁済した場合、Cは、本件債務を担保するべくAがいかなる権利を行使しうるかをどのように行うべきであろうか。仮に、Cによる上記一部弁済の後に、BがAの求めに応じて甲土地について抵当権を放棄し、その抹消登記手続もなされてしまった場合はどうか。●参考判例●① 最判平成3・9・3民集45巻7号1127頁② 最判平成7・6・23民集49巻6号1737頁③ 最判平成17・1・27民集59巻1号200頁●判例●1 担保保存義務の意義と機能民法504条1項によると、「担保保存義務」とはむしろ「求償をするについて正当な利益を有する者」(以下、「代位権者」という)がいる場合において、債権者が故意または過失によってその担保を喪失させ減少させた場合、当該代位権者は、この喪失や減少によって償還を受けることができなくなった限度において、責任を免れることを規定する。この規定によって反射的に債権者が負うことになる「担保保存義務」と呼ぶ。具体例を挙げれば、AのBに対する3000万円の貸付金債権について、AがB所有の土地(評価額3000万円)に抵当権を設定し、これに加えて、CがDとの間で連帯保証をした場合、AがCの抵当権を放棄した場合、Cは代位できなくなった限度すなわち一部の金額(償還を受けることができなくなった2000万円について保証債務の弁済を免れることができることになる)。代位権者が代位に当たって担保を失ったことは過失(一部)弁済により全体として償還できる担保が失われたこと自体を、免責の要件とする。のである。債務者等から実際に全額の償還を受けることができるか否かを問うものではない。そのため、残担保価値が代位権者の求償権(求償額)をなおも保障しうる場合でも免責とならない。担保保存義務の法的性質については諸説あるところ、代位権者の代位への期待を保護するために、債権者の故意または過失による担保喪失によって生じた不利益を、代位権者の求償を通じて債権者に負担させるという点では、民法504条1項は不法行為に近づく。伝統的な理解といえる。つまり、サンクション課されるにすぎず、担保を保持する一般的な「義務」を課すものではない。それでは、ゆえ、債務者の担保保存義務違反は代位権者を実証法とは別に免責させる効果をもつ(参考判例①参照)。としても、代位権者は、その求償違反を根拠として、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償を債権者に対して求めることはできない。実際の一部実務では、代位権者は、債権者の担保に対する全面的な一部免責を抗弁として、同時履行の抗弁を主張するというのが一般的であり、その意味では、担保保存義務違反は受動的な機能にとどまる。もっとも、「安定法上当然に免責」の効果が生じる以上、代位権者は、債権者の担保保存義務違反に基づく自らの債務の全部または一部の免責を訴訟上請求することもできる。代位権者が自らの判断で担保保存義務に違反している第三者の物上保証人の登記抹消手続請求をすることもできる(なお、同旨参照)。2 民法504条1項による担保の喪失または減少の評価民法504条1項の担保という文言の射程はどこまで及ぶか。物理的には、債権者が存在する担保(物)を指し、また、物的担保とは、人的担保と並び代位権の行使により債権の回収を確保する(保証人であれば保証契約の締結時)、までに取られる必要もない(大判昭和8・9・29民集12巻2658頁)。その他、一般債権者にとっての対抗要件ではない(「一般売買担保」)。ここでは、担保保存義務を構成する財産権を特定し、これを解除しても、ここでいう「担保」の喪失には物理的な滅失または価値減少にとどまらず、法的な価値の範囲を決定する担保価値の評価基準は、「喪失」の場合は喪失時(大判昭和3・3・15民集10巻107頁)、「減少」の場合は担保価値の減少が判明した時点の時価(大判昭和8・3・1民集12巻370頁)と解されている(消極Ⅱ184頁)。金融取引においては、故意または過失によってなされたことは、一般的にはこれにより、担保による事業の継続や金融(信用)による事業の継続がなされ、これには経済合理性がなければならず、経済的利益と社会通念に照らして判断する必要がある。これに反するような行為は、民法504条1項にいう故意または過失による担保の喪失または減少に該当する。たとえば、複数の担保を有する債権者が債務者からの一部弁済を受け、担保価値の減少がなかったとしても、担保の解除に応じることは、担保権の価値が減少した場合と同様に評価される。3 民法504条2項と連帯保証人と物上保証人との関係民法504条2項は担保の喪失または減少が債権者の過失によるものであったとしても、担保保存義務の全部または一部を免れるものではない。しかし、この規定は、債権者の過失による担保の喪失または減少を理由とする求償権の行使を制限するものではない。このため、債務者の担保保存義務違反を理由とする求償権の行使を制限するものではない。これに対し、担保保存義務の全部または一部を免れるものではない。まり、この要件が充足されないのであれば、信頼関係が毀損したことを理由とする任意解除という形での効力は一切否定されない。2017年の民法改正(いわゆる「債権法改正」)以降、民法504条1項に「取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない」との文言の規定は採用しない。代位権の行使を免れるに足る程度の担保の放棄または減少に限定される。3 共同保証人と物上保証人との関係民法504条2項は代位権の行使を免れるに足る程度の担保の放棄または減少に限定される。た場合に、物上保証人(代位権者)から物上保証人以外の者が弁済をした場合、その免責の効果を主張できるか否かという問題がある(債権者間の参照)。民法504条1項は債権者の過失による担保の喪失または減少について、その免責の効果を主張できるか否かという問題がある(債権者間の参照)。4 担保保存義務の放棄と債権法改正一部弁済をした保証人は、一部代位(民法502条1項)に基づき、一部代位者としてその弁済をした価額に応じて、債権者とともに行使する。その弁済をした価額に応じて、債権者とともに行使する。行使する」としていたところ、判例は、一部代位者の求償権の行使を認める(大判昭和6・7民集10巻535頁)。一部代位者の求償権の行使を認める。6 一部代位と担保保存義務の関係代位権(代位権者)はその代位に係わる担保(物権)をめぐって求償権(特約)を確保するためである。債権を担保する。たとえば、AのBに対する3000万円の貸付金債務を担保するため、Cの土地(評価額2000万円)にDが物上保証人として、Aが甲土地に抵当権を設定したとする。Aが甲土地に抵当権を設定したとする。以上の具体例においては、代位権の行使を免れるに足る程度の担保の放棄または減少に限定される。Aは、Bの承諾を得て、この担保を放棄した。これによりCの代位に係わる期待が害された程度として、この担保の価値(一部弁済:2000万円)を限度として、Cの保証債務は消滅する。なお、弁済後の担保(物)の放棄については、求償権の行使を免れるに足る程度の担保の放棄または減少に限定される。代位権の行使を免れるに足る程度の担保の放棄または減少に限定される。Aが甲土地に抵当権を設定したとする。Aが甲土地に抵当権を設定したとする。Aが甲土地に抵当権を設定したとする。Aが甲土地に抵当権を設定したとする。Aが甲土地に抵当権を設定したとする。Aが甲土地に抵当権を設定したとする。Aが甲土地に抵当権を設定したとする。Aが甲土地に抵当権を設定したとする。Aが甲土地に抵当権を設定したとする。◆関連問題◆(1) 本問において、B・C間で連帯保証契約につき、BがAの都合により担保の放棄等をした場合であっても、Cは自らの保証債務について免責を主張することはできないのではないか。(2) AのBに対する3000万円の金銭債務を担保するために、F(物上保証人)およびF(物上保証人)所有の乙土地(評価額3000万円)のそれぞれにつき、抵当権が設定され、その後、Eから3000万円の弁済を受けたため、乙土地の抵当権が消滅して初めから十二分であると評価するに至ったのは、Cの依頼により甲土地が追加担保(後順位抵当権が設定された)を、Eから債権の弁済がないために、Dが土地所有権を失うとした場合、これらをどのように考えることができるか。

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

求償と代位

公開:2025/10/20

2024年4月1日、YはXとの間で1年後に返済することおよび利息を年10パーセントとすることを約定して、Xから5000万円の貸付を受けた。また、その契約によるYの債務を担保するために、AおよびBはいずれも法人がXとの間で書面により連帯保証契約を締結した。Cのその所有する土地甲に1番抵当権を設定した(同日、登記)。Xのその保証と物上保証とを受けたものであり、AとYの間では求償権の保証割合(以下単に「割合」という)を年10パーセントと約定している。さらに、A・B・Cの3者合意によって、Aが弁済した場合にその全額につきBに対する保証債権やCの1番抵当権を行使できること、およびBやCが弁済しても代位しないことを合意している。2026年4月1日にYはXに支払をしなかったので、同日、Aは利息と損害金を含めた3600万円をXに支払った。それに先立って、Dが甲に2番抵当権を取得しており(2025年2月15日登記)、その被担保債権は2000万円の現金債権である。(1) 2030年4月2日、それまでに債権を回収できていなかったAがXおよびBに対しYの求償金の支払を求めてきた。この場合にAは依然としてどのような請求ができるか。請求原因を整理して、それぞれの要件を充足するかどうかを説明せよ。また、その請求に対してはどのような反論をすることができるか。(2) Aの申立てによって甲の競売手続が開始し、執行裁判所は2028年4月2日に配当期日を指定した(民法85条1項本文、民執59条1項参照)。その配当原資は4000万円であった。この場合に執行裁判所がDに配当すべき金額はいくらか。その時点でDからCに対する現金債権について利息や損害金は発生しておらず、また、AからYに対する求償権の総額は4320万円(AがYに支払った3600万円および2年分の遅延損害金720万円の合計額)であり、求償権の総額は4200万円(元本3000万円、利息300万円、損害金900万円)である。(3) 2025年3月1日に、EがCから甲を購入し、所有権の移転登記も経ている。その事情は本問における配当に影響を及ぼすか。●参考判例●① 最判昭和59・5・29民集38巻7号885頁② 最判昭和61・2・20民集40巻1号43頁③ 最判平成23・11・22民集65巻8号3165頁●判例●1 弁済者代位の要件弁済された被担保債権は原則として消滅するが、その例外として、弁済者は債務者の承諾を強制している。これにより、本来は消滅するはずの被担保債権は、その求償権を確保するために存続するのである(504条1項)。これは、弁済者が債務者の承諾を得て代位したことによる。すなわち、弁済者は、第三者である(499条)。②代位に対する求償権の基礎となる権利が必要となることがある。ただし、弁済するについて正当な利益を有する者(保証人、物上保証人、抵当不動産の第三取得者など)は弁済者として当然に代位する(法定代位、500条)。そうすると、事前に求償権を放棄していたといった特段の事情のない限り、保証人は弁済するについて正当な利益を有しないことになる。弁済者代位に関する求償権(459条~462条)のほか、弁済者は代位によって求償権を担保するために被担保債権に付着した担保権も取得する(これには物上保証人の相互間の問題を含む。)。2 弁済した保証人と主たる債務者の間における代位の効果Yの受託した保証人であるAが弁済すると、その弁済額についてYに対し求償する。2つの権利は別の債権であって、いずれを行使するかはAの選択に委ねられる。本問では、求償権の損害金の支払いが年10パーセントである。しかし、かわりに求償権の損害金の割合が債権者のそれより高かったとしても、Aがその全額を主張できるわけではない。これは、弁済者代位による権利行使の求償権の範囲に制限されるからである(501条2項)。3 法定代位権者相互の関係弁済者代位によってAはXに対する原債権とともに、その担保権を取得する。もしXに弁済者が複数いる場合には、それぞれ代位することができる(501条3項)。AとBおよびCは保証人と物上保証人の関係にあり、AC間では弁済者代位が問題となるからである。Bに対する求償権の額も、AがYに対して有する求償権の範囲に限られる(501条2項)。◆発展問題◆資金繰りに苦しんでいたY会社は、2024年秋以降、従業員(以下では、Yの従業員を「X」とする)への給与支払が滞り、債務が社内に広がっていた。Yは、Yの兄のA会社に対し、「来客に振る舞うお茶菓子を買うため」と称して、Xに対する弁済を目的とする借入れを依頼し、これを引き受けたAから借入れをした。これを受けたAは、Yの代表取締役であるBと、Yがただちに営業を中止するという事態は避けがたかった。そのため、同年12月28日、YとAは2025年1月分から3月分までの給与債務に関して包括的な根保証契約を締結し、AはXの承諾を得た。そのうえで、各月の給与支払日には総額1000万円の平均的な給与をXに支払った。その後の2025年3月1日にYは経営破綻の危機を申し立てており、同月20日には破産手続開始決定を受け、Bが破産管財人に選任された。Aは破産管財人Xの給与債権を代位行使し、Bに対して1000万円の支払を求めた。この請求は認められるか。●参考文献●*森光・百選Ⅱ 74頁/関「民法(債権関係)改正法の概要と要点」(令和元年)11頁/千葉「民法(債権関係)改正法の概要と要点」(平成24年度重要判例解説)77頁

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

表見受領権者に対する弁済

公開:2025/10/20

小さな町工場で働くAは、2024年2月22日に、B生命保険会社との間で終身型組立総合保障保険契約を締結していた。この生命保険会社には、約款中に次のような条項があった。【第39条】受取人に対する弁済は9割(払込済みの場合には10割)を限度とする。ただし、銀行振込金の受取人に対する弁済はできない。2 保険金を支払う場合で、支払うべき金額が銀行会の定める利息に達しており、かつ、支払うべき事由が生じているときには、会社は、不法行為の会社員の過失の有無を問わず、年金の支払いを免れる。2025年6月4日、Bの事務所に、Aの妻Cが訪ねてきた。Cは、保険証券と印鑑、ならびにAからの委任状を示し、Aの代理人として200万円の保険金給付を請求した。Bの担当者は、保険契約者が契約の基準を満たしていることから、200万円をこの場でCに渡した。その後、200万円は、CがAに内緒で全額返済に用いたことが判明した。あなたは、市法律相談の担当者である。相談の場を訪れたAは、あなたに、「BがCに渡した200万円は、私が支払わなければならないのでしょうか」と質問した。あなたなら、どのような回答をするか。●参考判例●① 最判昭和48・3・27民集27巻2号396頁② 最判平成9・4・24民集51巻4号1981頁③ 最判平成15・10・28判時1881号64頁●判例●1 表見受領権者に対する弁済真実の債権者ではないが、表見受領権者に対する弁済も、弁済者が善意無過失でなされたときは有効とされる(478条)。債権の準占有者に対する弁済がこれにあたる。2 事務管理者の意義・効果の認定民法478条は、弁済をしようとする債務者保護の趣旨で定められた規定である。3 民法478条の射程の拡張・同法478条の類推適用民法478条は、表見受領権者に対してなされた「弁済」を対象として、債権者は法律上有効らしい信頼を惹起した善意無過失の弁済者を保護するものである。ところが、判例・通説は、法的にみて弁済といえない場合にも、同条の法意を妥当させることにより、相手方を債権者・受領権者と誤信して一定の行為といった債務者の保護を図っている。(1) 定期預金の期間前払戻し定期預金の一定の期限が設けられ、その期限が満了するまでは原則として払戻しの請求ができない契約(いわゆる解約)が中途解約されることにより行われる払戻請求は、その法的形式として、預金契約の解約という法律行為と、払戻行為(受寄物返還義務の履行)とから成り立っている。このうち、解約という法律行為は、弁済ではない。したがって、債権者でない者が解約を申し入れたとき、この者との間でなされた解約の有効性については、民法478条ではなく、民法代理の規定に従って判断しなければならないようにもみえる。けれども、売買であれば、①定期預金の解約は定期預金契約において予定されている事態であって、②預金者も必要があれば引き出せると考えており、中途解約と満期解約との違いは受け取る利息の違いとして意識されている。しかも、そこでこの外形的行為は、中途解約のために現れた(見せかけの解約)に対する定期預金の「払戻し」という現象形態をとっている。このような実質面を重視すれば、定期預金の解約については、解約のみが独立してこれを法律行為として論じるのは適当でなく、むしろ、「解約申出という方法による請求(払戻)とみるほうが実態に沿う。(2) 定期預金払戻請求定期預金の預金者が定期預金を担保として金融機関から金銭を借用することも、定期預金の満期までに貸付が返済されないときは、満期が到来した定期預金との相殺により処理される。このとき、金融機関が真の預金者でない者を誤信して、この者に対して定期預金担保貸付をした場合において、貸付金の返還されないときに、金融機関は、真の預金者からの預金払戻請求に対して、定期預金の貸付金債権を自働債権とし、預金者の受働債権を受働債権とする相殺をもって対抗することができるか(同旨のことは、預金者の代理人と称する者が定期預金担保貸付をした場合についても、問題となる)。ここについては、定期預金払戻請求権と相殺(または無権代理の追認と実行)という法律行為の成立を巡っている。しかも、消費貸借契約(および質権設定)にも弁済の要素は認められないし、相殺も計算上の差引処理の側面である。外形的には現れた事実をもとに弁済は、「払戻し」という現象は見出しがたい。それにもかかわらず、判例・通説は、ここでも民法478条の類推適用による処理を認める。その理由は、主に次の点にある。① 定期預金担保貸付と相殺(もしくは無権代理の追認と実行)を全体として一体的に捉えたならば、「実質的に」定期預金の期間前払戻しによると同視できる。② 定期預金担保貸付はすでに約款(預金規定)により金融機関に義務づけられた行為であり、「約款上の義務の履行」として行われる(べき)ものである。また、預金者の側も、このような定期預金担保貸付がされることを、約款を通じて認識している。③ 預金者が全く面識のない第三者からの送金取引(民間金融機関)の要請に際しては、民法代理の法律ではなく、民法478条の基準による法律を要求するのが適切である。こうして、第三者への定期預金担保貸付についても、定期預金の期間前解約に準じて民法478条の「類推適用」を認め、「第三者に対する金銭債権」と相殺された定期預金債権との相殺をもって真の預金者に対抗することができる(参考判例①)。ちなみに、「類推適用」とされたのは、「弁済」ではなく、「相殺」による債権の消滅が問題となっているからである。4 類推適用に関する478条の類推適用・生命保険契約上の契約貸付(1) はじめにある保険会社と締結された保険契約において、民法478条が類推適用されるか。しかし、保険会社は、定期預金担保貸付について、その後の相殺と一体的に捉え、「相殺の効力」にならって、同様に判断を適用しながら、他方で、金融機関の預金業務に共通するものを貸付に行っている。これをして、保険貸付が行為のすべてに適用されるという考え方に基づき、金融機関による預金業務への利用の仕組みを模倣しようとするものである。そうであれば、この点を指摘するとき、「相殺という法律行為があったか否かの判断が重要となる」という考え方が必要となり、もはや「相殺がなされたこと」を当然視するわけにはいかないはずの議論が生じてくる。(2) 保険契約以外の者に対する保険貸付契約締結を根拠とする民法478条類推適用この点が具体的に問題になったのは、生命保険契約における契約者貸付の制度をめぐってである。判例は、保険契約ではないにもかかわらず、生命保険契約においては、保険契約者の書面で民法478条類推適用の可能性を肯定する(参考判例①)。そこでは、判例は、同規定の適用を当たるものと認め、貸付金が支払われる場合における貸付額の算出や残高の管理などを保険会社に任せることとする。また、判例は、定期預金担保貸付に関する判例が同条を類推適用するに当たって考慮したのと同様の理由に依拠したものである。これをして、判例は、保険者が「貸す義務を」「履行」した点も重視している。つまり、貸付金債権の譲受人が行為をしたらこれを有効と解釈したのであって、同様の適用をし、「貸す義務の履行」として保険会社に適用したものとみられる。「貸付の効力」を無効とするとしても、主観面ではその結果として、保険者は、不法行為責任の法理に服せざるを得ない。との結論を導いている。◆設問問題◆Aは、B銀行に口座を開設している。この口座には、普通預金5万円と期間3年の定期預金500万円が入金されていた。また、この口座について預金の引出しに普通預金であるカードが発行されていた。Aは、Aのもとからこのカードを盗み出し、B銀行P支店のATMから、70万円を引き出した(なお、引出し手数料であったこととする)。その後、Aは、カードが盗まれたことに気づいた。(1) 定期預金が満期になっていたので、Aは、Bに対して、500万円と利息の払戻しを求めた。これに対して、Bはいかなる反論をすることができるか。(2) Aは、Cをつけ出し、Cに対して70万円の返還を求めた。これに対して、Cはいかなる反論をすることができるか。●参考文献●*内田「民法Ⅰ478条(債権の準占有者に対する弁済)に関する判例」中京法学44巻1号(2015)74頁/野田「民法Ⅰ」(有斐閣:1996)165頁/中西「民法Ⅰ」(2015)74頁

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

預金契約

公開:2025/10/20

Aは以前にB(伊藤商事)と取引をした記録があり、Bから購入した商品の代金をY銀行にあるBの預金口座への振込によって支払っていた。Aは新たにC(伊藤食糧)との間で取引を開始し、Cから購入した商品の代金400万円をY銀行にあるCの預金口座への振込により支払うことにあった。Aは自身の預金口座があるX銀行の窓口において、Y銀行にあるCの口座への400万円の振込依頼をしようとしたが、名称が類似していたことからBとCを誤認して振込依頼書の振込先欄に誤ってBの名称である「伊藤商事」とBの口座番号を記載した振込依頼を依頼し、X銀行のAの口座からY銀行のBの口座に400万円が振り込まれた。振込前のBの口座残高は20万円であったが、振込により400万円が入金されたことからBの口座残高は600万円となった。なお、Y銀行の約款には「預金口座に受取人のほか、振込金を受け入れます」旨の条項が定められていた。そして、Y銀行は600万円の預金情報を有するのがBとの間で600万円の消費貸借をしたが、Aは600万円のうち400万円の自己の金銭によることを理由に第三者異議の訴えを提起した。Aの第三者異議は認められるか。●参考判例●① 最判平成8・4・26民集50巻5号1267頁② 最決平成15・3・12民集57巻2号322頁③ 最判平成20・10・10民集62巻9号2361頁●判例●1 振替契約銀行と預金者との間で締結される普通預金契約の法的性質について、判例・通説は、委任契約と消費寄託契約によって構成される混合契約であると捉えている(最判平成21・12・22民集63巻10号2899頁・最判平成28・12・19民集70巻8号2121頁)。預金口座を開設するのに伴う預金契約(いわゆる「金銭消費寄託契約」)は、口座を有する者と、預金口座を開設する預金者に属する。しかし、振込依頼がなされ、その目的性質が契約上任意なものとなり、受任者たる銀行が寄託者となり、預金者が受任者となり、預金者が銀行に対して預金払戻請求権を有し、Aへの振込を指示し、あるいは、第三者からの振込指図に基づき、受入銀行は、振込金相当額を預金口座に入金したことの対価を収受する。振込契約は、銀行は振込依頼人から振込依頼の趣旨で預金口座に振り込む金銭を収受し、その振込金相当額を預金口座の預金債権とすることができ(預金契約の原則、666条)、「個別的預金契約」が預金者と銀行との間で成立し、預金者は銀行に対し預金払戻請求権を取得する。預金者が銀行に対して預金払戻請求権を主張し、振込金相当額が口座残高に組み込まれて新たな預金が成立したことになる。2 振込取引振込依頼人は、振込依頼をうけて預金口座に一定の金額を入金させる取引であり、振込依頼人、仕向銀行、被仕向銀行、受取人の四当事者によって構成される(「統一的銀行間振込取引」)。また、受取人が被仕向銀行に対し立てる預金払戻請求権を振り替えるように契約し、振込金相当額で取得するか、あるいは、仕向銀行に開設されている振込依頼人の預金口座から振込金相当額を引き落とされる(振込契約締結)。振込依頼人の預金口座に開設されている預金口座から振込依頼額を引き受けた仕向銀行は受取人口座の預金記録に振込金額を記録するよう被仕向銀行に依頼し、それを受けた被仕向銀行が受取人の口座に振込金相当額を入金記録する(振込契約締結)。3 振込委託関係振込依頼人と仕向銀行との間に事前に基本約定が締結され口座が開設されている場合には、振込依頼人の振込委託(振込契約)により委任事務の履行として依頼人の口座から振込金相当額が引き落とされる。また、振込依頼人と仕向銀行との間で個別に振込委託契約が締結されるが、この振込委託契約も法律行為を委任契約である。4 振込受領関係受取人が振込金相当額を受領するためには、被仕向銀行に口座を開設していること、つまり、受取人と被仕向銀行との間に基本契約を締結する(預金契約の受領)必要がある。仕向銀行を介して振込依頼人からの振込指図を受けた被仕向銀行は基本的な契約における委任事務の履行として受取人の口座に振込金相当額の入金記録を行う。これにより、被仕向銀行と受取人との間に預金契約(個別預金契約)が成立し、受取人は被仕向銀行に対して振込金相当額の預金権を取得する。受取人が取得するのは、金銭債権(預金契約等)において振込依頼人が受取人に対して負っている債務(代金債務、賃借債務等)の弁済のために振込が利用される場合には、受取人の口座への振込金相当額の入金記録によって原因関係上の債務の弁済がなされたことになる(477条)。そして、受取人の口座に預金残高がある場合には、原因関係上の債務の弁済額に充当する。5 銀行実務における振込と誤振込振込事務において振込依頼人より先に受取人が誤振込に気づいた場合、受取人の誤振込の疑いを被仕向銀行に照会する。被仕向銀行は振込依頼人から仕向銀行を介して振込依頼を照会する。また、誤振込人から振込金の返還を求める。受取人の口座に振込金相当額が入金された後においては受取人の承諾を得たうえで振込の組戻手続が行われ、振込金相当額は振込依頼人に返還される。振込事務の多くは、このような共同の組戻手続という銀行実務上の手続により解決が図られているが、振込依頼人が組戻しをしなかった場合、あるいは、振込金額が受取人の口座に入金記録された後に組戻しによる預金を取り戻せなくなった場合に問題となる。6 振込委託契約における組戻請求権振込事務において振込依頼が錯誤に基づいて誤ってなされているのである。振込依頼人と仕向銀行との間で締結された振込委託契約(振込契約の場合)あるいは振込指図(リボルビング方式による場合)の錯誤による振込の場合について振込金相当額の返還を請求しうる。すなわち、振込依頼人が仕向銀行に対して振込の取止めを請求するか、あるいは、振込指図の撤回を請求しうる(意思表示(同条1項)という)。受取人の口座に入金記録がされた後においては、振込依頼が錯誤を理由に撤回(最判平成20年2月29日民集62巻2号787頁)が認められなかった。そこで問題となるのが、組戻しが認められず振込受領のさいは振込指図が有効と解された場合、振込金相当額の受領のさいは受取人に帰属するかという点である。7 原因関係のない振込振込は、受取銀行との間の金銭消費貸借、労働契約上の賃金債権などを原因とする利用がされることから、通常、振込依頼人と受取人との間に振込の取引原因となる法律関係(原因関係)が発生し、しかしながら、本問のような誤振込では、振込依頼人と受取人との間に振込金相当額を移転する契約上の原因関係が存在しないこととなる。本問のケースでは、振込の当事者の間には振込金相当額の返還を内容とする法律関係が発生するとして、組戻ができない場合は受取人への当該金銭の帰属を否定する見解として、組戻ができない(原因関係不存在)、原因関係が存在しない振込依頼人が被仕向銀行に直接返還を求めることが考えられる。参考判例①は原因関係の不存在を理由として、振込依頼人と受取人との間に原因関係が存在しない。振込金相当額の預金債権を受取人に帰属する。その理由として、①銀行の約款の条項をのみを頼り、振込金の受入れについて原因関係の有無が問われていない、②振込金は銀行間の資金決済の送金手続を通して安全、安価、迅速に資金を移動する手段であることから、多数の預金者からの資金移動を円滑に処理するために、仲介する銀行に原因関係の有無や内容について調査義務を課すべきではない、という点が挙げられている。そして、振込依頼人は受取人に対して振込金相当額の不当利得返還請求権(703条以下)を取得するにとどまることから、受取人の債権者による預金の差押えに対して振込依頼人からの第三者異議の訴え(民法38条)は認められないとされた。8 原因関係不存在の誤振込参考判例①が採用した原因関係の要否論に対しては、原因関係が存在しないにもかかわらず振込金相当額の預金債権が受取人に帰属する結果、振込先の誤認という過失があるにすぎない振込依頼人の犠牲において受取人の責任財産の増加という棚ぼた的な利益を受取人の債権者に与える点が批判されている。本問においてはDの預金残高は当初200万円であったが、Aの誤振込により600万円の口座に400万円が振込まれた。Aの誤振込により400万円の預金債権がDに帰属することになる。AはBに対して400万円の不当利得返還請求権を取得するにすぎないので、Aの第三者異議が認められなければ、Bの預金600万円は、400万円の不当利得返還請求権を有するAとBの他の債権者からDに400万円の返還を受ける。Dは誤振込がなければBの預金から200万円しか回収できなかったはずであるのに、誤振込後には400万円を回収することができることから、Bは誤振込の帰趨という棚ぼた的な利益を得る。その一方で、Aは400万円を誤振込したのに200万円を回収できるにすぎない。9 原因関係必要説の問題点判例が採用する原因関係不要説には上記のような問題点があるが、原因関係不要説と対する原因関係必要説にも致命的な弱点がある。原因関係必要説を前提とすると、原因関係が存在しない誤振込事案において受取人に振込金相当額の預金債権を取得することができないので、受取人の債権者には新たな利益を与えるおそれはないが、そもそも振込金相当額の預金債権が発生しないので、被仕向銀行が誤って受取人に振込金相当額の預金を払い戻した場合でも、民法478条が適用できない。両者は法律関係のない者に対する任意無償送金の合意により債務を負担するものであり、債権の存在を当然の前提としているからである。また、受取人への振込を介して同行間の決済を認めるとしても、多数派は非効率な直通送金を要求しており、被仕向銀行は原因関係の存否について適切な判断をするに足る権限・能力を欠く可能性があるので、実質的に被仕向銀行に適切な判断を要求しているに等しく、被仕向銀行に過剰な義務を課すことになるとともに、調査に時間がかかり、調査にかかる費用及び振込手数料の増額という形で預金者全体に転嫁されるおそれがあることから、参考判例①が重視した「安価で迅速な資金移動」が実現できず、振込制度の根幹が著しく損なわれる。10 誤振込金相当額の払戻しと詐欺取消の成否誤振込事案において振込金相当額が自分の口座に入金記録されていることに気づいた受取人が、その事実を被仕向銀行に告げることなく振込金相当額の払戻しを受けた場合に詐欺罪(刑法246条)が成立するのか。参考判例①により振込金相当額の預金債権は原因関係の有無を問わず受取人に帰属することから、受取人は自分の預金の払戻しを受けたにすぎず、詐欺罪は成立しないように思われるが、参考判例③は、詐欺罪は成立し、誤振込事案において振込金相当額の預金債権の帰属を入手するとして、銀行による預金の組戻手続は安全な振込を確保するために有効であり、かつ、銀行が誤振込人と受取人との間の紛争にまきこまれないようにする必要があるのである。もっとも、銀行との間で継続的な金融取引を行っている受取人は自己の口座に誤振込があることを知った場合には、銀行にその旨を告知し、組戻しへの照会をする義務を負う。この義務に、被仕向銀行が組戻しに応じるべき旨の回答があったあと、振込依頼人が組戻しの請求をした時点で、受取人の口座に対して組戻しに応じるべき旨の回答があったにもかかわらず、銀行に誤振込の事実を秘して預金の払戻しを受けた場合にのみ、詐欺罪が成立する。参考判例①を前提とすれば、誤振込において振込金相当額の預金債権が受取人に帰属する以上、振込依頼人であることに気づいた受取人がその事実を被仕向銀行に告げずに振込金相当額の払戻しを受けた場合に詐欺に当たるかは行動の是非に該当することになる。11 無償譲渡と誤振込無償譲渡が預金の資金の返還と自由な送金を組み合わせたもの。銀行の窓口において預金者本人になりすまして預金口座への振込依頼をし、振込金相当額の預金債権を取得するのか。無償振込事案は、振込依頼人と受取人との間に原因関係が存在しないという点で誤振込事案と類似している。無償譲渡に関する参考判例は、参考判例①と同様に、原因関係が存在しなくても振込金相当額の預金債権は受取人に帰属するとした。①受取人が振込金相当額を不正に取得する為の詐欺等の犯行に関与した場合など、これを認めることが著しく矛盾に反するような特段の事情があるときは、権利の濫用に当たるが、②受取人が振込依頼人に対して不法な金銭を負担しているというだけでは、権利の濫用に当たることにはならないとした。参考判例①によると、無償譲渡事案においても振込金相当額の預金債権は受取人に帰属するが、原則として受取人の払戻請求は認められる。例外的に詐欺に該当するような事情が存在する場合には、権利濫用による反論は認められないことになる。参考判例③の趣旨は誤振込事案にも及ぶものと解されるので、受取人が誤振込みの事実につき知らなかった場合には受取人は誤振込金相当額の払戻しを求めることができるが、受取人が誤振込みの事実に気づいていながらその事実を被仕向銀行に告知せずに払戻しを請求した場合には、受取人の行為は詐欺に該当することから、受取人の払戻請求権は権利濫用により許されないことになる。◆発展問題◆AはX銀行に普通預金口座を有している。BはAの自宅に居候中、Aの預金通帳と届出印を盗み出して、X銀行の窓口においてAに成りすまし、Aの口座から100万円をY銀行にある自分の口座に振り込もうと依頼し、実際にAの口座からCの口座に100万円が振り込まれた。CはY銀行に対して100万円の払戻しを請求できるか。●参考文献●*平賀良一「預金口座に対する振込と不法行為」法学セミナー606号(2012)81頁/高須順一「債権の帰属と第三者異議」法曹417号(2015)22頁/岩井伸「預金口座への振込」145頁/道幸「預金と不法行為」(集団訴訟)(2020)108頁/大久保「平成20年重判」73頁 (加藤宏昭)

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

寄託契約

公開:2025/10/20

A水産とB水産は、かつて水産業を営んでいたがすでに廃業しているC水産にそろそろ昆布の保管を依頼した。しかし、Cは、現在、倉庫が手狭であり、冷蔵設備が十分ではないことを理由にAとBの依頼をいったんは拒絶した。そこで、AおよびBは、「他の倉庫業者が見つかるまでの期間でいい」といって強引にCの倉庫にやむなく保管を引き受けた。その結果、Aは北海道産のとろろ昆布を400キロ、Bは四国産のとろろ昆布を600キロをCに寄託し、これら計1トンのとろろ昆布はCの倉庫で区別することなく保管され、Cはそれぞれから寄託を受けたものと同数量のとろろ昆布を返還することをA・Bとの間で合意された(以下、「本件契約」という)。保管料は、Bに8万円が定められたが、Aについては、かつてお世話になったことのお礼から、無償と定められた。なお、Bが寄託したとろろ昆布600キロはD商事から預かったものであり、Cへの寄託につき、BはDから特に承諾を得ておらず、Cへの寄託を必要とする事情は特になかった。2カ月経過した時点で、Cが倉庫を確認したところ、1トンのとろろ昆布の品質に特段の変化はみられなかった。保管が始まってからはや3カ月が経過したが、いまもA・Bから引取りの連絡はなかった。そこで、Cは倉庫を整理しに行っところ、保管していたとろろ昆布1トンのうち、冷蔵庫の不備な場所に起因して400キロの昆布が腐敗してしまっていた。(1) 以上の事実において、AおよびBは、Cに対して腐敗を免れたとろろ昆布につき、それぞれ千円につき返還を請求することができるか。また、Aは腐敗したとろろ昆布の価格相当額について損害賠償請求ができるか。これに対しては、どのような反論をすることができるか。(2) CはAに遠く及ばないことから、残存するとろろ昆布600キロのうち400キロをAに返還してしまった。この場合、BはAに対し、いかなる請求をすることができるか。また、DはBおよびCに対し、いかなる請求をすることができるか、Cはいかなる反論をなしうるか。●参考判例●① 適用判例昭和29・8・2民集8巻5号1226頁② 判例昭和52・9・1民集27巻10号887頁③ 東京地判平成13・1・25金判1129号55頁④ 札幌地判平成24・6・7判時1392号200頁●判例●1 混合寄託契約に基づく寄託物返還請求権小問(1)において、AおよびBは、それぞれCに対して混合寄託契約に基づく寄託物の返還請求権を行使することが考えうる。AおよびBの請求権が混合寄託という特殊な寄託に基づくものであるが、まず、一般的な寄託の成立について検討しておく。寄託とは、当事者の一方が相手方のために保管することを約してある物を受けとることによって成立し、効力を生ずる諾成契約である(657条)。寄託者は、寄託物を受け取るまでは、契約の解除をすることができ、受寄者は、その報酬の解除によって損害を受けたときは、その賠償を請求することができる(657条の2第1項)。この場合に、受寄者の保護すべき利益も含まれるか、寄託の報酬の性質に関連して議論がありうる(以上につき、本問参照)。本問の場合、AおよびBの寄託が変化した物を保管・品質が同一である場合に混合して寄託し、同種の物を受け取る契約を(混合寄託)という。混合して寄託するためには、各寄託者が承諾が必要であるが(665条の2第1項)、各寄託者が口頭で混合寄託した場合、寄託とは異なり、各寄託物の返還は受寄者に移転しないが、各寄託者の個別物の返還を請求することにより、各寄託者はそれぞれの寄託物について個別の所有権を失い、混合寄託物全体について共有持分権を取得するにとどまる。共有持分権の取得そのものは、混同規定(245条・246条)から導くことができるが、各寄託者は、寄託物に生じた損害の危険もその共有持分の割合に応じて負担することになる(665条の3)。本件寄託の目的物であるとろろ昆布は腐敗により一部滅失している。混合寄託において、寄託物の一部滅失のリスクは、各寄託者が共有持分に応じて負担するものとされており、AおよびBは、Cに対し、それぞれの寄託物の割合に応じた数量のとろろ昆布の返還を請求することができるにとどまる(665条の2第3項)。AおよびBは寄託物について、4:6の割合で返還請求権を有している。そのため、AはBに滅失したとろろ昆布400キロ(全体の4割)のロスを按分して負担する。たとえば、BがCに対して480キロの返還請求をすることで、Cは全体の5分の4しか返還しない。結果として、Aの返還請求は360キロの範囲で認められることになる。そして、Aの返還請求は240キロの範囲で認められる。2 受託者による損害賠償寄託契約の一部不履行により、返還請求権が縮減的に減縮するとしても、寄託者が第三者に対して損害賠償請求できるか否かは別問題である(665条の2第3項後段)。AおよびBはCに対し混合寄託契約上の保管義務違反を理由とした損害賠償請求(415条1項本文)をすることが考えうる。なお、寄託物の返還義務が履行されなかった場合には、その不履行が契約者の帰責事由によることが必要(同項ただし書)として、受寄者の帰責事由が免責事由であったことが争点となる。条文上、無償寄託の受寄者は「自己の財産に対するのと同一の注意」(以下「自己固有の注意」)をもって、寄託物を保管する義務を負うと明定されている(659条)。有償寄託の受寄者は、同規定である400条に照らし、「契約その他の発生の原因及び取引上の社会通念に照らして定まる」善良な管理者の注意義務を負う。同法400条は特定物の引渡しに関する規定であるが、混合寄託の受寄者は保管物全体について共同の利益を有するものである。したがって、有償寄託の受寄者は「善管注意義務」を負う」と解釈することができる。が、「保管料」は、受寄者の注意義務の具体的な内容を確定するための基準たりえるものである。保管料と切り離された注意義務が存在すれば、それは受寄者に過大な負担を負わせかねない。一般に理解されるように、「自己固有の注意」では、個々の債務者の個人的な能力に応じた主観的な注意で足りると解する。このため、「善管注意義務」の属する社会的一般的な地位に応じた客観的な注意義務よりは軽減される。民法は、受寄者の注意義務の程度について注意義務を軽減すると考えてはいないからだ(A・B説)。現在は、同法659条は無償の受寄者の責任を軽減する趣旨の規定である。この注意義務の機能が寄託契約を前提とするとすれば、「善管注意義務」を超えるとこれに対抗できず、これに反すると解するのが通説である(A・B説)。これに対し、「保管」適合的合理的な平均人ならば「他人の財産」に対して払うであろう注意を意味し、「自己固有の注意」は合理的な平均人ならば「自己の財産」に対して払うであろう注意を意味するとする見解(判例もほぼ同旨)は、同解釈によれば、法が予定する合理的な平均人は「他人の財産」に対して注意義務あるべきなので、それぞれの利益に応じて明確な特徴がある。これに対抗できず、それに対し、同法400条を踏まえて、善管すべきであるが、以下の「善管注意」と「自己固有の注意」の区別の問題に帰着していく。受寄者の「善管注意義務」が抽象的に判断されるとしても、それは契約から切り離された抽象的な義務ではなく、当事者の合意のもとで、契約の締結から契約の終了、取引上の社会通念から判断される。そこで、一般的な短期・長期の契約と「善管注意」との関係が問題となる。受寄者がいかなる期間の平均的な注意をすべきか(本来の注意か・簡略な注意か)、注意義務の内容は、契約内容に照らして区別されるであろう。受寄者は請負・管理の基準として、一定期間の義務に応じた契約(「契約」において、受寄者の注意義務の趣旨に応じて合理的なさまざまな手段をとることが義務づけられる。③他方で、寄託者は具体的な保管方法を指定・合意することができ、④受寄者は、このような保管方法をとったことに理由があることを考慮することもある。すなわち、内容に照らし善管注意義務の基準が定まり(⑤)、具体的な義務違反の有無もまたその局面に照らし、契約目的(⑥)や個別の合意を指示(⑦)に照らして判断される。これら区別は、受任者の事務処理義務(644条)の議論にみられるものであり、⑧は「寄託の本来のあり方」、⑨は委任者の指図の範囲の区別に対する回答が契約内容について有効に作用する把握するにあたって、同様の区別は寄託についても有効である。受寄者の「善管注意」(600条)と同様、受寄者の「自己固有の注意」もまた契約内容との関連のもと捉えられるべきであろう。元来、民法の起草者は、同法659条について、寄託者は受寄者の注意義務の程度を抑えてもまた、注意の基準を具体的に注意することが受寄者の意思に適合すると説明していた(以上、A・B説)。これに加えて、同条は、無償の受寄者であるCが寄託する当事者の意思の趣旨を測定していると解することも可能である(以上、A-1・A-2説参照)。ただし、A-1・A-2説をとろうとも、Bの注意について判断基準を一定程度、客観化する必要性を考慮しつつ、Bの意思を発する危険を抑制する機能(⑩)を評価する見解も有力である。され、寄託者はそれを容認して保管を依頼した場合、当該(有償)寄託契約において、保管場所が不適切であることによって寄託物に損害が生じたとしても責任を負わない旨の特約があり、受寄者の保管義務に当たるべき注意は自己固有の注意であるとした。ただし、寄託者が(善管注意義務)を負うとしても、類似の合意を抽出しうる余地がある。「自己固有の注意」と「善管注意」の区別や注意の程度に関する合意の問題(上記⑨)というよりも、類似の類型に認められた保管方法に基づく注意(上記④)の問題と捉えなおすことができよう。なお、考慮された具体的な保管方法は、受寄者に広く一任された場合には、それに伴う保管の範囲と捉えうる(上記⑤)。3 寄託物の共有持分権の処分と寄託物返還請求権一部滅失の結果、AおよびBは、とろろ昆布240キロの返還請求権を有していたところ、Aは小問(2)のCにA・B240キロの返還を返還してしまった。混合寄託において、受寄者は、自らが保管中の寄託物全部の返還をもって寄託者と合意できる。この場合、他の寄託者の同意は必要としない。しかし、受寄者は、他の寄託者に不利益を及ぼさないように配慮して返還する義務を負っている(「自己固有の注意」)。いずれにせよ、返還されるべき昆布240キロ=160キロの返還を受けることができるのであり(600キロ)、かくも大きな乖離を招くことはできないと考えられる。なお、Bは、非債弁済を理由として不当利得返還請求(703条)ができると考える余地もあるが、BはAに対して不当利得返還請求権は、より有効な返還請求をすべきである。このほか、Aは、現実には返還請求をすべき昆布の所有権は自分にはない、との反論をすることが考えられる。受寄者の自分勝手な混合寄託の場合には、寄託物の寄託物への混入により生ずる危険(244条・245条)の分配のように、他人物を寄託した場合に処分権を有する寄託者に対抗することができる。BはCに対し、損害賠償として同額の昆布の返還請求をすることができる。他方、DはBに対して損害賠償としてその分の昆布の返還請求もできる。取ったもののうち160キロのとろろ昆布が腐敗することができよう。それでも、Cは、Bに対する返還は、C・D間に返還を要しない旨の特約がある。それにともなう混合寄託の趣旨を没却しかねない。受寄者は、寄託者から寄託物を受け取り、それを保管することができないとなれば、寄託者は第三者に保管させることができる。再び登場したAは、Cに対し、寄託物の返還請求をすることができ、寄託者に対し、寄託物の返還義務を負う(658条3項)。しかし、本問において、BはDの承諾を得ておらず、やむを得ない事情もない。この場合、DはCに対して、B・D間の寄託契約に基づく寄託物の返還請求権を行使することになる。次に、とろろ昆布の物権に基づく請求はどうか。Aが返還を受けたことに伴い、Cのもとにある残り200キロのとろろ昆布は、混合保管から特定保管に転じるとともに、Dの単独所有に転じたものとみることができよう。DはCに対して、所有権に基づきとろろ昆布200キロの返還を請求することができる。しかし、Cとしては、寄託者であるBの指図がない限り、Dには寄託物を返還してはならない(660条2項本文)。CがBに返還したことによって、Dに損害が生じたとしてもCは賠償責任を負わない(同条3項)。仮に、本件寄託契約からみて第三者であるDが、Cに対して、訴えの提起等をした場合に、寄託者であるBがすでにその事実を知っているのではない限り(660条1項ただし書)、Cが通知をした後はその事実を通知しなければならない(同項本文)。Cが通知をした後はその事実を通知しなければならない。Dに寄託物を引き渡すべきことを命ずる判決が確定した場合において、Bに寄託物を引き渡したときは、Bに返還しなくてもよい(同条2項)。なお、Dが訴えを提起した場合、CはBの単独所有としても、B・D間に存する(寄託者との間の)寄託契約を基礎とした対抗要件を主張しうるかという問題がある(寄託者側のその他の対抗要件を含めて)。DはCにどのような反論を提起したうえで、たとえばBによる無断寄託を理由に、B・D間の寄託契約を解除しておくことが考えられる。◆設問問題◆XはYに骨董品αを、保管料月10万円、期間3年間で寄託する契約を締結した(以下、「本件寄託」という)。本寄託において、XはYの取扱いによりαを汚損させ、一定の温度と湿度を常に維持した状態に保管することが合意された。以下の(1)から(3)の事実は独立したものである。(1) Yは150万円をかけてαを保管・展示する設備を整えたが、Yが何者かにαを汚損させ、Yの過失でその温度と湿度が維持されていなかったと判断した。なお、αはXが所有者ではなく、Yに対してαの返還を請求しうるか。(2) YはαをXに引き渡し、保管が開始されたものの、1台が経過した時点で、Yが保管していたαを汚損させ、その温度と湿度が維持されていなかったと判断した。なお、αはXが所有者ではなく、Yに対してαの返還を請求しうるか。(3) αの所有者はZであり、XはZからαの寄託を依頼されて所持していた。XはZからαの寄託を依頼されて所持していた。●参考文献●*中田523頁・539頁/滝沢「民法92条の趣旨に鑑み、受寄者の返還義務に関する規定は、無償寄託にも適用されると解される。134号10号(2017)1頁/小林「民法92条の趣旨に鑑み、受寄者の返還義務に関する規定は、無償寄託にも適用されると解される。」(2004)220頁(参考判例①の判決)/河上正二・リークス25号(2002)54頁(参考判例②の判決) (高 秀成)

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9

金銭消費貸借

公開:2025/10/20

2024年4月1日、Xは、隣家に住むYとの間で、継続的に金銭を借り入れ、リボルビング方式によりその弁済を繰り返す旨の基本契約(準消費貸借契約)を締結した。Xは、基本契約に基づき準消費貸借契約による弁済を繰り返し、2027年4月1日、Yは、基本契約による弁済を完了したが、その最終弁済期が終了していた。また、基本契約申込については、終了の時期は示されなかった。その後、しばらくX・Y間に取引はなかったが、2030年4月1日、X・Y間で、基本契約申込とほぼ同内容の金利の計算の基本契約が締結された。Xは、基本契約の当初から継続する金利の計算の方法についてYから説明を受け、2035年4月中に完済し、すでにその元本の全部を返済し終えていた。その後、XとYは、基本契約による過払金返還請求訴訟を提起した。本件訴訟において、Xは、Yに対し、これまでの全取引を一体として計算した結果の過払金200万円と、これに対し、過払金発生の時点から年5分の割合による利息を付加した金額を請求した。Yとしては、2024年4月1日から2027年4月1日までの基本契約に基づく取引と、2030年4月1日から2035年4月1日までの基本契約に基づく取引とは、別個の取引であるから、前者の取引については、過払金は発生しておらず、時効によって消滅したと主張している。●参考判例●① 最判平成19・2・13民集61巻1号182頁② 最判平成20・1・18民集62巻1号227頁③ 最判平成24・9・11民集66巻9号3221頁●判例●1 制限超過利息をめぐる従来の議論と利息制限法利息制限法は、金銭消費貸借について、超過利息の契約を、超過利息とのその超過部分について無効とする一方で、制限利率を超過する金銭を利息として任意に支払った場合、借主 はその返還を請求できない旨の規定(2006年改正前利息制限法1条2項・4条2項)を置いていた。この関係で、当初は制限超過利息の元本充当の問題となり(最判昭和37・6・1民集16巻7号1309頁(元本充当否定)、最判昭和39・11・18民集18巻9号1868頁(元本充当肯定))、次いで、元本充当後になお計算上払いすぎとなる過払金の返還を認めるか問題となった(最判昭和43・11・13民集22巻12号2539頁、最判昭和44・11・25民集23巻11号2127頁(いずれも返還請求肯定))。過払金の返還請求を認める最高裁判決により、上記裁判例は事実上、空文化された。むしろ、1983年、貸金業規制法(2006年改正法によりいわゆる「みなし弁済」(2006年改正前43条)の導入等)、一定の要件を満たす制限超過利息の支払が有効なものとみなされることになった。その後、みなし弁済の適否に争点が移ったが、2006年から、最高裁が「みなし弁済」の適用要件をきわめて厳格に解する判決を連続して出したこと等により、利息法制全体の改正の機運が高まり、2006年に、利息制限法(民事効)、出資法(刑事罰則)、貸金業法(行政規制、名称も変更)の三法改正がなされた。利息法制に関する2006年改正は、①貸金業の適性化、②過剰貸付の抑制、③金利体系の適性化、④ヤミ金融対策の強化、⑤多重債務者問題に対する政府を挙げた取組みを主眼とし、改正法は順次施行され、2010年までにすべて施行された。特に金利の再編では、「みなし弁済」制度を廃止し、また、出資法の旧金利を29.2パーセントに引き下げ、利息制限法の上限金利(15-20パーセント)と出資法の上限金利(20パーセント)の間の金利での貸付けについて行政処分の対象とすることとし、いわゆるグレーゾーン金利が解消された。2 過払金相当額の問題金銭消費貸借において過払金が発生した場合、借主は、それを不当利得として返還請求しうる(民法703条・704条)。ただ、この請求権が5年または10年で時効にかかり(166条1項1号・2号、最判昭和55・1・24民集34巻1号56頁も参照)、時効完成後は、借主の時効援用により請求できなくなる。また、過払金の返還請求に伴い付される利息が法定利率(改正民法では年5分、旧404条)により算定される(参考判例①)。法定利率は民法改正により年3パーセントに引き下げられた(404条2項、その後、変動制となる(404条3~5項))。民法では、不法行為の規定は適用されない。過払金の返還は、不法行為による損害賠償の性質を有するものではなく、むしろ、過払金の返還請求権の性質を有するものではないからだ。なお、継続的な金銭消費貸借取引がなされた場合、過払金の返還請求権の消滅時効の起算点について、従来、学説および下級審裁判例において過払金発生時説と取引終了時説との対立があったが、最高裁は、継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約があり、その契約に基づき、その契約から発生した借入金と過払金充当後の残元本の合計額が常に計算されている場合には、その契約から発生した過払金請求権の消滅時効は、特段の事情がない限り、その契約取引が終了した時点から進行するとした(最判平成19・1・1民集63巻1号247頁)。民法では、この判決は民法166条1項1号と10年の消滅時効の起点となり、これには短期にも長期にも5年の消滅時効が適用されることになる。また、貸金業者に関するものはないが、以下のような特段の事情がある場合には、同一の金銭消費貸借契約に基づき継続的に行われる金銭消費貸借取引を完済する時点において、借主がもはや当該貸主から金銭を借り入れることを予定しておらず、その後に当該貸主との間で新たな借入をすることがないまま、相当の期間が経過した場合(最判平成22・12・15民集74巻9号2555頁)。ただし、改正後の民法では、承諾による(令和2年)。3 過払金相当の法理論当初、過払金に関する争点は、制限超過利息を、当初支払われた元本へ充当できるかであった。これが、で大きなものとなったのは、制限超過利息を支払うことによって生じた過払金を、当事者間の合意の利益へと充当できるかである。同じ「充当」を巡っても、問題意識はまったく異なる。過払金の法的性質をどう認めるか否かについては、①元本に対する充当の明示的合意が存在しているか、②単に複数の個別的消費貸借契約があるにすぎないか、あるいは基本契約が締結されているか、③過払金が生じた時点で当事者の合意があったか、あるいは過払金が生じた時点で当事者の合意があったかのいずれであるか、④基本契約にリボルビング方式の支払方法、⑤貸借にかかわる個別的事情の検討など、一律にすべての個別的事情を勘案して処理、⑥個別的事情の同一性など、個々の基本契約を一連の継続的なものと処理するような事情・基本契約が存在するか、およびこれらの前後で、⑦基本契約に関する合意・指定があるか(60条・488条・489条)、とりわけ元本に対する当事者の合意・指定(個別の合意を含む)をどのように認定するか、⑧元本に対する当事者の意思が何かが問題となる。まず、基本契約が存在する場合、過払金が生じた時点で、充当されるべき別の債務が存在していれば、当事者の意思を合理的に認定できるのである。当事間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り、過払金は原則別の債務に充当される(最判平成15・7・18民集57巻7号856頁)。他方、判例は、基本契約が存在しても、過払金発生時に充当するべき別の債務が存在していない場合には、当事者に充当に関する合意があったか、その合意に従った充当がなされるとし、リボルビング方式の場合は、そのような合意があると認められるとする(最判平成19・6・7民集61巻4号1537頁)。これに対し、基本契約なく個別の貸付け・弁済が繰り返され、かつ、過払金が生じた時点で充当されるべき別の債務が存在していない場合は、基本契約があるとの同様の理が妥当し、先の場合に充当されることとなる。や相殺の可能性があるため、当然にそのような指定を推認できないからであるとする。これに対し、基本契約がなくとも過払金充当合意を黙示的に認める見解もある。本問に関する参考判例①では、「第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した取引であると評価できる場合には、当事者間に充当する合意が認めでき、第1の基本契約から生じた過払金は第2の基本契約から生じた債務に充当される」として判示した。ただし、①第1の基本契約に基づく貸付けおよびその弁済の各取引が行われた期間と第2の基本契約に基づく最初の借入れが行われた期間との間の期間が1年未満であること、②第1の基本契約に基づく取引についての契約書の返還の有無、③借入れに際し使用されたカードが共通であるか、④第1の基本契約の終了後も第2の基本契約が締結されるまでの間における当事者の状況(第2の基本契約が第1の基本契約の当然の延長として当然に更新されること、取引の中断期間の長さなど)を考慮することなく、基本契約の自動継続・自動更新を認めることにより、先に紹介した民法の規定を潜脱した最高裁判例(平成17・7・14判時235号46頁)。また、上記要素は判断の際の一応の基準にすぎない。参考判例②では、前記①の判断枠組みを基本的には踏襲しつつも、第1の基本契約の終了時に過払金が発生していたこと、第1の基本契約と第2の基本契約との間の取引の中断期間が約2年7カ月と比較的長期間に及んでいたことなどを理由として、過払金充当合意を否定した。さらに、参考判例③では、第1の基本契約の終了時に過払金が発生していたこと、取引の中断期間が約3年7カ月と相当長期間に及んでいたことなどに加えて、第1の基本契約の終了後に第2の基本契約が締結されるまでの間に、当事者が、第1の基本契約に基づく取引が終了し、過払金が発生していることを認識しえたといえるような特段の事情が存しない限り、過払金充当合意を否定するのが相当であるとした。判決がある(参考判例③)。また、過払金については当事者の合意があっても借主は過払金発生の時点から民法703条の規定に基づき請求しうる(最判平成21・9・4集民231号97頁)。法定利息と過払金との充当を認めたうえで、別段の合意があるとして評価できるような特段の事情のない限り、本件法定利息を充当し、次いで過払金を充当すべきとされている(最判平成25・4・11判時2155号16頁)。加えて、不動産等他の方法による場合の過払金は、超過額を発生する際に当事者の合意があるなど特段の事情のない限り、その時点での債務に充当され、超過額が将来発生する債務に充当されることはない(最判平成26・7・24判時2261号65頁、最判平成26・7・25判時2261号65頁)。いわゆる「ボトルオープン論」(過払金を完済すると支払期日に支払うべき金利が0になるという主張)、過払金をボトルしようと企図したものであるから、このように呼ばれるようになった。なお、判例は、基本契約に基づき借入れと弁済が繰り返される場合に生じている場合の利息制限法上の「元本」は過払金を完済した後の額とするとする(最判平成26・7・18判時2261号65頁)。以上の判例法理に対し、参考判例①につき、判例としての一貫性に疑問をもつ見解も現れるが、上記にみたとおり、各判決は一定のファクターを講じる客観的判断は避けており、総合的に勘案される。このうち参考判例①の考え方に対しては、利息制限法の立法経緯を考慮したうえでの結論の妥当性という観点から、根強い反対論がある。◆関連問題◆本問と以下の点で異なる場合に、Xの請求は、どの範囲で認められるか。なお、甲乙との契約締結日、元利金完済日、過払金返還請求日は、本問と同様とする。基本契約はリボルビング方式による契約であり、基本契約が乙のリボルビング方式による契約で根抵当による不動産担保が付されていたこと、Xが乙に対し、基本契約から生ずる過払金が基本契約乙による債務に充当されることを前提として計算した額の過払金の返還請求をした場合。●参考文献●*高橋真・最判解平成23年度238頁/吉田宏・最判解平成24年度(下)620頁/小野秀誠・百選Ⅱ 114頁/第一法規・37巻・190頁 (尾島苑子)

「千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編者『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】〔第5版〕』 商事法務、2022年10月15日」 ISBN978-4-7857-2992-9
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