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共同訴訟人独立の原則

公開:2025/10/20

Y₁はある土地をその所有者であるXから譲り受け,その上に建物を所有していた。その後,本件建物の所有権は Y₁ から Y₂,Y₂から Y₃ へと移転し,Y₂とY₃がそこに居住していた。Xは本件土地所有権に基づき,Y₃に対しては建物退去・土地明渡しを,Y₂に対しては建物退去・土地明渡しを,Y₁に対しては本件建物を所有していた期間の賃料相当額の支払を,それぞれ求める訴えを提起した。この訴訟でY₁・Y₃は本件土地の占有の適法性を主張し,本件土地の賃借権を有するとの答弁を提出したが,一方,Y₂はXに対する権原の存在を争った上で上記の請求はせず,口頭弁論を欠席し,答弁書も提出しなかった。このような審理状況において,Y₁・Y₃が,Y₂が賃借権を有することを推認させる間接事実として,Y₂が本件建物を取得して以降,自分たちがXに賃料相当額の支払を続けてきたことを主張し,裁判所は,Y₂が賃借権を有するとの理由でY₁・Y₃に対する請求を棄却しようとしているとき,Y₂に対する請求についてはどのように処理したらよいか。Xも上記 Y₁・Y₃の共同訴訟の支払の主張を明らかに争わなかった場合に,Y₂が建物を所有権を有していた期間,Y₁・Y₃が賃料相当額を支払っていたという事実を認定してXのY₂に対する請求を棄却することはできるか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 43・9・12 民集 22 巻 9 号 1896 頁[⚫] 解説 [⚫]1 共同訴訟本問は,共同訴訟のうち通常共同訴訟に当たる場合である。このような訴訟において共同被告となった Y らの地位はどのようなものか,互いに関係するかどうかが,ここでの問題である。共同訴訟とは,1つの訴訟手続の当事者の一方または双方に数人の当事者がいる訴訟形態であり,訴えの主観的併合とも呼ばれる。共同訴訟は,各共同訴訟人 (共同原告,共同被告) につき判決がまちまちになってかまわない「通常共同訴訟」と,判決が合一に確定されることが要請される「必要的共同訴訟」に分けられる。共同訴訟のうち圧倒的多数は通常共同訴訟である。この訴訟では,合一確定の要請が働かず,共同で訴えまたは訴えられる必要さはない。一方,合一確定が要請される必要的共同訴訟はさらに2つに分かれ,全員が共同で訴えまたは訴えられなければならない「固有必要的共同訴訟」[→問題63] (合一確定の必要+「訴訟共同の必要」がある)と,共同で訴えまたは訴えられる必要はないが,そうなった場合は当事者間で合一的に解決されなければならない「類似必要的共同訴訟」[→問題68]とがある。2 通常共同訴訟この類型では,各当事者と相手方の間で一挙に勝敗を決する必要がなく,もともと別の訴訟で処理されても差し支えない性質の事件が1つの手続に併合されているにすぎない。そこで共同訴訟人は各自独立して係争権利ないし利益を処分する権能を認められ,訴訟追行上も各自独立の地位が与えられている。ただし,共同訴訟には,併合して審理するだけの妥当性・合理性が必要である。民事訴訟法はこの主観的併合要件として,各共同訴訟人の請求またはこれに対する請求が相互に一定の関連性・関連性がある場合を,次のとおり3つ示している (38 条)。① 訴訟の目的たる権利義務が共通であるとき (例:数人の連帯債務者に対する支払請求,数人に対する同一物の所有権確認)② 訴訟の目的たる権利義務が同一の事実上および法律上の原因に基づくとき (例:同一事故に基づく数人の被害者の損害賠償請求,主たる債務者と保証人に対する請求)③ 訴訟の目的たる権利義務が同種であって,事実上および法律上同種の原因に基づくとき (例:同種の売買契約に基づく数人の買主への代金支払請求),なお,当事者が複数になるということは請求も複数になるから,共同訴訟=訴えの主観的併合の前提として,請求の併合=訴えの客観的併合の要件を満たしていなければならない。すなわち各請求が同種の訴訟手続で処理されるものでなければならないし,共通の管轄権がなければならない (ただし上記①②の場合,請求相互に関連性が強い場合には,1人について管轄のあるところにも併合して提起できる。7 条ただし書)。以上をみると,本問では Y₁・Y₂ と Y₃ の関係は上記①②③に当たると考えられる。3 共同訴訟人の地位通常共同訴訟では,各共同訴訟人は他の共同訴訟人に制約されずに独立に相手方に対する訴訟を追行する。共同訴訟人の1人の訴訟行為,共同訴訟人の1人に対する相手方の訴訟行為は他の共同訴訟人に影響しない (39 条)。これを「共同訴訟人独立の原則」という。通常共同訴訟では共同被告 (または共同原告) が各訴訟につき単独で当事者の地位に立つことができて有利であるからである。そこで例えば,各自独立に請求の放棄・認諾,和解,訴えの取下げ,上告,自白などができ,その効果はその行為者と相手方との間にしか及ばない。1人についての中断・中止の事由が生じても,他の者には影響はない。裁判所は,ある共同訴訟人の訴訟についてだけ弁論を分離し (152条),一部の者につき判決をすることもできる (32 条 2 項)。1人の共同訴訟人が上告しても,他の共同訴訟人は上告人とみなわけでなく,上告の効果も及ばない。このように,通常共同訴訟では裁判の統一の保障上の保障はない。しかし,弁論および証拠調べが共通の期日に行われるので,一種の共同審理的に効力行為はしない限り,同一の合議体による統一的な裁判が期待され,事実上は裁判の統一がもたらされる。4 共同訴訟人間の主張共通・証拠共通上記の事実上の統一の帰結を,より実質化しようと,判例・通説は共同訴訟人間に「証拠共通」の原則を認めている。すなわち,共同訴訟人の1人が提出した証拠はこれに対して他の共同訴訟人が意識しなくても,他の共同訴訟人に関連する係争事実につき,とくに使用されなくても他の当事者の主張事実を認定する資料とすることができる,とする (ただし本問では証拠・証明の問題となる主張が出ていないことが問題となっている。前提を欠いているので,証拠共通の適用はない)。この原則は「自由心証主義の歴史的所産」といえる事実認定のあり方そのものを根拠として生まれたもので,そこから「当事者が自覚していない事実をも裁判の基礎資料とすることができるか」 (心証形成の基礎資料をすべて弁論に顕出させること) の当否など弁論主義との相克も問題となりうる (弁論主義の第1テーゼ。自己に不利益な事実の承認「裁判上の自白」もしかり得ない) と裁判官の心理に事実認定を委ねることによる弊害を指摘する声もあるが,共同訴訟人全体の証拠資料を統一的に一体処理をしなければならないという点では,現在ではその合理性が認められている。そこで,理論的には,共同訴訟人の一方が提出した証拠は証拠能力を有するものとして他の共同訴訟人にも有利に斟酌されうるが,他方で不利に斟酌されることはない。このような証拠共通の原則を認めることから,一方の共同訴訟人の主張を他の共同訴訟人の主張と共通に扱うこと (「主張共通」) ができるかどうかについてである。この点につき,かつて判例は,主張共通の原則を認めたが (大判大正10・7・4民録7輯1302号),その後,否認するかどうかも各共同訴訟人に任せられるべきである,として主張共通の原則を否定した (最判昭和41・3・22民集20巻3号547号)。しかし,この最判は,必要的共同訴訟の事案であり,通常共同訴訟について判断したものではないとして,このほか,通常共同訴訟においても共同訴訟人間で主張事実が認められることを要件として「当然の補助参加」を認める学説がある。当該補助参加の認められるときの主張共通の原則を認めるのは,上記の判例と異なり,後者が主張の食い違いに寛容であることと対照的である。本問に用いた参考判例①は,当然の補助参加を否定した。すなわち第1審 (名古屋地判昭和 42・4・12 判時 481 号 18 頁,民集 22 巻 9 号 1912 頁参照) が第2審 (名古屋高判昭和42・4・28判時481号18頁) において,Y₂はいわゆる共同訴訟人間の補助参加関係にある,自己の利益を守るために Y₁ を補助させるといった形で,補助参加を認めたて参加している関係にあるため [補助参加については→問題65],Y₂ と Y₁・Y₃ 間の資料相当額の支払の事実について X の自白 (明らか争わない以上,自白成立) は Y₂・X 間にも妥当するとして Y₂ の請求を棄却した。これに対して,参考判例①は,通常共同訴訟では,たとえ共同訴訟人に共通の利害関係がある場合も,共同訴訟人独立の原則が働くのであって,共同訴訟人の1人の行為はその相手方との間のみで効力を生じ,他の共同訴訟人との関係で効力を生ずることはない。Y₁・Y₃ が支払の事実を主張しても Y₂ がこれを援用しない限り Y₂ のための補助参加とみることはできない,として原判決を破棄した。参考判例①は Y₂ について補助参加を認めても,Y₁・Y₃ の主張と X の自白を Y₂ のための補助参加人の主張として,その効力を認めた原判決を否定したものである。参考判例①についてはそもそも,Y₁・Y₃ が Y₂ に補助参加する利害関係を有するのかどうかが,疑問視する見解もある。この点,主張共通ではなく補助参加関係がなくても,Y₁・Y₃ の主張の資料が X の自白で認められれば Y₂ にも有利な事実が得られるという意味で共同訴訟人間で利益に働く同一の事実主張といえ,Y₂ が積極的に反しない限り,この事実の認定に影響を及ぼすとして X は Y₁・Y₃ に対して自白をしないとして,欠席した Y₂ に対しては,Y₁・Y₃ の弁論の利益を自白して請求棄却を導くこと (新堂・後掲 53 頁以下)。しかし,学説の多くも,当然の補助参加や主張共通を認める少数説に対し,共同訴訟人の一部がした訴訟行為が他の者に「利益」かどうかは単純に決められないとし,その訴訟行為に対して積極的に積極的に行動をしないからといって,その者の訴訟行為に自動的に同調させてしまうことはできない,などと批判している (判例と結論は同じく,本問では Y₂ の主張がない以上 Y₁・Y₃と X 間の自白を用いて当然の補助参加は認められない)。ただし,少数説により,通常共同訴訟だから当然の補助参加は認められないとして,共同訴訟人独立の原則を形式的に一律に判断することに対する疑問,問題提起がなされていることは同様に認識されなければならない。[⚫] 参考文献 [⚫]新堂幸司『訴訟物と争点効』(有斐閣・1991) 33 頁/三ケ月章・百選 188 頁(安西明子)

「山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』商事法務、2024年」 ISBN978-4-7857-3092-5

主観的追加的併合

公開:2025/10/20

AはY₁ とある土地の所有権の帰属につき訴訟で争っていたが,Aが 7000 万円支払うときは,Y₁ はAに所有権を移転し,移転登記を行う旨の裁判上の和解が成立し,これに従ってAは全員を支払い,本件土地所有権を取得し移転登記を経由した。上記和解金算定の重要な資料となったのは,Y₂ 銀行に勤務する不動産鑑定士作成の鑑定評価書であったが,この評価書は本件土地を宅地見込地として評価していたところ,その後,本件土地は和解当時保安林指定(※注)されていたことが判明した。このため,Aの債権者であるXはAに代位して,Y₁に対し,購入した土地に瑕疵があったとして損害賠償を求める訴えを提起した。この損害賠償請求訴訟の第1審で,XはY₂を新たに追加で追加する旨の申立てをした。その理由は,第1審でのY₂の不動産鑑定士を証人尋問したところ,Y₂の従業員である不動産鑑定士が土地の時価を鑑定するに当たり不法に瑕疵を隠蔽したために代金額が算定されたことがわかった。Y₂ がその顧客である Y₁ の利益を図ったもので,Y₂ は Y₁ と連帯して支払え,というものであった。この訴訟において,被告Y₂の追加は認められるか。(※注) 保安林とは,水源のかん養,土砂の崩壊その他災害の防備,生活環境の保全,形成等,特定の公共目的を達成するため,農林水産大臣または都道府県知事によって指定される森林[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 62・7・17 民集 41 巻 5 号 1402 頁[⚫] 解説 [⚫]1 訴えの主観的追加的併合の必要性と許容性係属中の訴訟において当事者を追加することを,主観的追加的併合という。訴訟の当初から共同原告として訴えまたは共同被告として訴えられていなかった(当初は主観的併合でなかった)が,後に第三者自ら当事者として訴訟に加入したり,在来の原告または被告が第三者に対する訴えを併合することが,ここに広く含まれる。この主観的追加的併合には,明文の根拠がある場合とない場合がある。明文があるもののうち,第三者自ら参加してくる場合として共同訴訟参加 (52 条) や参加承継 (51 条) が,原告が第三者に対する訴えを併合提起する場合として引受承継 (50 条・51 条),被告による同様の引受承継がある。このほか,取立訴訟の原告が債権者を引き込む場合 (民執 157 条 1 項) も含めてよいであろう。ここでの問題は,明文の規定がなくても,当事者の機能として主観的追加的併合を認めうるかどうかである。2 判例による主観的追加的併合の否定判例・実務は,明文の規定がない場合にこのような併合形態を認める必要はないとしている。実務では,係属訴訟への追加でなく,別訴として訴え提起したもの (本問ではXからY₂への訴え) を,裁判所が裁量で係属中の訴訟 (本問ではXからY₁への訴え) と弁論を併合するという扱いをしてきた。それで間に合うと考えてきたからか,判例も少ない。上記の併合形態のうち,本問の,原告が訴訟係属中に第三者を新被告に追加する場合をみると,下級審判例には肯定例もあったが,上記の参考判例①が否定的立場をとった。すなわち,原告はY₁に対する別訴を提起した上で,Y₁に対する訴訟と口頭弁論を併合 (152 条) してくれと裁判所に促し,裁判所が併合判断をするのを待つべきである,仮にY₁に対する訴訟とY₂に対する訴訟が併合要件 (38 条) を満たしていたとしても,Y₂への新訴が裁判所の判断なく当然に併合されるという効果を認めることはできない,としたのである。主観的追加的併合が認められない実質的な理由としては,「かかる併合を認める明文の規定がないのみでなく,これを認めた場合でも,新被告の訴訟状態を当然に利用することができるかについては問題があり,必ずしも訴訟経済にかなうものでもなく,かえって訴訟を複雑化させるという弊害も予想され,また,軽率な提訴ないし濫訴が増えるおそれもあり,訴訟の提起の時期いかんによっては新訴訟の遅延を招きやすいこと」などが指摘されている。この内容をさらに説明すると,被告の追加を許しても係属中の訴訟 (本問の X・Y₁ 間の訴訟) の訴訟の資料を当然に流用できるとは限らないという訴訟経済の観点と,原告が訴訟に慎重に臨んで被告を選ぶということをしなくなり,被告や被告に追加しようとする関係者に迷惑だという当事者の公平の観点にまとめられるだろう。3 学説による主観的追加的併合の許容 (判例への批判)これに対して学説では,古くから主観的追加的併合の理論が立てられ,被告から第三者を引き込む形態を含めて追加的な共同訴訟の理論が広く唱えられてきた。主観的併合については併合要件があり (38 条),追加的な併合もとくに差し支えないと考えられるし,被告や第三者からも,原告の訴えが提起された機会に,その訴訟手続を利用して,広く紛争の終局解決を図ることは望ましい (ただし第2審での追加は追加された者の審級の利益を奪うので,第1審係属中に限るとされる)。現在では,一定の要件の下,在来の当事者が第三者を訴訟に引き込んで,その第三者と共同訴訟人として訴訟を続けることを認めるのが有力となっている (後掲・121 頁)。とくに原告が被告を追加する本問の形態は,主観的追加的併合の中で最も許容しやすい基本的形態で,学説では当然承認済みであったのに,上記のとおり判例が別訴の提起と弁論の併合によれば足りるとし,併合審判も裁判所の裁量に任せて (併合するかどうかは裁判所次第で併合される保障がない),当事者の地位としては認めることに批判が強い。このような併合形態を認める学説も,共同訴訟の要件 (38 条) を満たせば常に後発的併合を認めてよいとはしておらず,一定の要件を提示し,それについて裁判所の審査を経ることを前提としている。訴訟併合を裁判所の裁量に委ねるのでなく,その指針と申立権者の権限を明確にしようとしているのである。判例のように弁論の併合で目的を達することができるとして訴えの主観的追加的併合に消極的な学説 (裁判所の裁量に任せ,その裁量をコントロールしようという立場) もある。しかし,有力説は,軽率な提訴ではなく訴訟遅延を招くおそれもない場合で,新被告に対する訴えを併合する方が一定程度認められる紛争についても一挙に当事者は別訴提起しか認めず,この併合判断を否定する点は被告がたとえ訴えているのである。そこで学説においては原告による追加的併合の要件が議論され,まず,民事訴訟法条文前段にある場合に主観的追加的併合を認め,同条後段の場合には認めない立場が生まれた。その後,主張および証拠の共通性が高く,原告が当初から共同被告としなかったことに重大な過失がなかった,かつ従前の訴訟手続に著しく遅延しないことを要件とする立場などが主張されるようになった。たしかに学説の議論はいまだ十分とはいえないが,前述の参考判例①で示された訴訟経済と当事者間の公平の観点からいえば,近時は後者に重点を置く学説がいくつも主張されている。4 主観的追加的併合の要件,許否を見極める指針では,当事者によるこのような併合の申立てを一律に否定するのでなく,判例の指摘するデメリットを避ける要件,指針はどのようなものか。訴訟経済や紛争の1回的解決という観点もあり得るところだが,やはり当事者の公平の観点,戦争の具体的状況における当事者の関係の重要性だろう。つまり引き込む側,ここでは原告が当初から共同被告とせず,後に引き込むことが本当に始まる第三者と従来被告に対して公平か,が問題となる (民訴・後掲122頁以下)。本問では,第1審の終盤からY₂が紛争に関係することがはじめて明らかになった。Y₁と直接の契約関係になかったこともあり,当初にY₂が被告に加えるべき状況にはなかったとすれば,追加的併合を許す意義と認めることができよう。けれども逆に,証人尋問の結果から紛争申立ての契機を得るという状況の疑いもあり,遅延によっても被告の側の防御権が合併訴訟さえ許されない可能性があるし,このような状況による追加的併合を許容する根拠も十分でない可能性がある (高橋宏志・法学協会雑誌 106 巻 11 号 [1989] 154 頁)。いずれにせよ個別事件の具体的な状況,訴訟の経過の中で,原告が最初からその者 (本問ではY₂) も被告にしなかったことに責任がなく,後から被告を加えることが関係者間で必要であり,かつ公正でない証拠を示すことができれば,原告による追加的併合を許してよいと考える。この併合形態が認められる場合には,以後の訴訟は通常共同訴訟となる (共同訴訟人独立の原則については→問題 61)。従前の訴訟の資料が,追加された X・Y₂ 間の訴訟には影響を及ぼすかどうかについては,通常は,旧訴訟の訴訟状態の利用は当然ないとされ,証拠については X・Y₂ 訴訟と X・Y₁ 訴訟で共通とされる。判例のように (追加を許さず) 別訴を併合した場合にも訴訟の資料は流用される。ただし,有力説はこの原則自体を問題にしており,まずは X や Y₁ の援用を待ち,当事者双方の立場を考慮して旧訴訟の資料を利用しない場合もあり得るともしている。なお上記の問題とともに,本問とした参考判例①では,別訴の提起,弁論の併合という方法をとる場合,新被告に対する訴えについて新訴と同様の手数料を納めなければならないかが問題となった。参考判例①の第1審は,新訴としての手数料の納付命令にXが応じないとして訴えを却下し,この判断が控訴審,最高裁でも維持された。しかし,もし判例と逆に主観的追加的併合を適法とするのであれば,二重訴訟の経済的利益が共通するので追加の納付は必要ないとされる。[⚫] 参考文献 [⚫]井上治典「多数当事者の訴訟」(信山社・1992) 115 頁/安西明子・百選 190 頁(安西明子)

「山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』商事法務、2024年」 ISBN978-4-7857-3092-5

訴えの変更

公開:2025/10/20

XはYとの間で,Yの所有する甲家屋についての売買契約を締結したが,履行期になってもYから甲家屋が引き渡されないので,甲家屋の引渡しおよび所有権移転登記を求める訴えを提起した。Yは本件売買契約には要素の錯誤があり無効であるとしてXの主張を争い,争点整理の結果,契約の有効性が争点であることが確認されたが,証拠調べの前に,甲家屋は焼失してしまった。Xは,甲家屋の焼失はYの帰責事由によるものであるとして,従前の請求を履行不能による損害賠償を求める訴えに変更する旨の申立てを書面で行った。Xによってなされた訴えの変更は認められるか。また仮に,Xによる訴えの変更がその要件を満たしているとして,裁判所は従前の請求をいかに扱うべきか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 32・2・28 民集 11 巻 2 号 374 頁[⚫] 解説 [⚫]1 訴えの変更訴えの変更とは,原告が,すでに係属している訴訟手続を維持しつつ,当初申立てていた審判対象 (訴訟物) を変更することをいう。これによって,原告は当初提起していた審判対象では被告との間での紛争解決にとって有効適切でないことに気づいたような場合であっても,あらためて別訴を提起する必要はなくなり従前の審理を無駄にすることなく利用することができる。しかし他方で,これが無制約に認められるとすると,被告にとっては防御・応答の困難等の不利益が生じ,また審理も長期化・複雑化するといった弊害が生じることから,民事訴訟法は,①請求の基礎に同一性があること,②著しい訴訟遅滞をもたらさないこと,という要件の下に訴えの変更を認めている (143 条 1 項)。(1) 請求の基礎の同一性 この要件は,従前の請求とまったく関係のない請求が既存の手続に持ち込まれることによって生ずる被告の防御の困難を防ぐため,すなわち被告の利益保護のために設けられたものである,と解するのが一般的である。いかなる場合に請求の基礎に同一性があるといえるのか,という点については諸説唱えられているが,判例・実務は,請求の基礎の同一性を,「旧訴訟物的な利益給付請求」におけると同一性,新旧両請求の主要な事実が「その間において共通する関連性」などと解し実体的関連性を重視する立場と,② 「新訴と旧訴の事実資料の間に審理の継続的施行を正当化する程度の同一性を有し,両者が肯定できる」場合といった,裁判資料の利用可能性に重点を置く立場,さらに,③両者をもとに考慮する立場 (併用説),などがあるが,具体的帰結においては必ずしも大差は生じていないとも言われている (上田 82 頁など)。また,併用説をさらに進めて,訴えの変更の時期が後になるほど①の側面 (実体的側面) からの請求の基礎の同一性を限定的に解すべきとする見解も存在する (谷口安平『民事訴訟法』〔改定2版・1987〕 183 頁)。(2) 著しい訴訟をもちきたさないこと 請求の基礎の同一性という要件に加え,民事訴訟法はさらに,訴えの変更を認めることによって著しく訴訟手続を遅滞させないことという要件 (143 条 1 項ただし書) を付加している。これは,訴えの変更を認めることによって生ずる訴訟経済の要請に対処するために設けられた要件とされる。よって,現実の訴訟追行の見地は,この要件を,被告の利益保護を図るためのものではなく,訴訟経済や審理の迅速性の防止といった公益保護を図るためのものであると捉え,この要件の判断は具体的状況に応じて裁判所が裁量で判定すべきとされ,また,被告の同意等があってもその判定には無関係とされる。ただし,ここでいう訴訟遅延が生じることによってもたらされる公益の侵害というものは,当該訴訟が長引くことによる抽象的な意味合いでの公益的要請(司法資源の無駄) といった点が考えられるが,上述の通説的見解も,訴訟手続に著しい遅滞が生ずるとして訴えの変更が認められないときでも別訴提起の余地は認められることからすると,限られた司法資源の有効利用という問題の解決には資さないようにも思われる。2 訴えの変更の態様訴えの変更には,次の2つの態様があるとされる。1つは,従前の請求 (旧請求) を維持しつつ,新たな請求 (新請求) を追加する場合であり,訴えの追加的変更と呼ばれる。これに対し,旧請求と交換して新請求を定立する場合を訴えの交換的変更と呼ぶ。訴えの交換的変更を,独自の類型として捉えるかどうかについては争いがある。多数見解は,訴えの追加的変更と,訴えの追加的変更と旧請求についての訴えの取下げとが結合したものと捉えている (複合行為説)。もっとも判例は,相手方が異議なく応答すれば旧請求の取下げについて黙示の同意ありとする (最判昭和41・1・21 民集 20 巻 1 号 94 頁)。一部の学説はこの考え方を支持し,訴えの変更の態様としては追加的変更のみを認めれば足り,訴えの変更の一態様としての交換的変更という独自の概念を定立する必要はないとする (三ヶ月 139-140 頁など)。他方で,学説の多くは,旧請求の訴え提起による時効の完成猶予の効果の新請求変更後における持続や,新請求の審判のために旧請求についての従前の審理 (裁判資料) の流用を説明するためには,訴えの交換的変更を独自の類型として位置付けるべきとする (独自類型説。新堂 771 頁,伊藤 646-647 頁,松本=上野 727 頁,上田 530 頁など)。この両説の実際的相違は,旧請求の訴訟係属が消滅するためには,訴えの取下げ,とりわけ被告の同意を要するかという点に現れてくる。しかしながら,独自類型説に基づく見解も,被告の利益保護という観点から,交換的変更の場合には被告の同意 (261 条 2 項類推) を要すると解している (独自類型説のうち,被告の同意を不要とするのは,伊藤 647 頁)。ことに鑑みると,結論において両説に大差はないともいえる。3 本問の検討本問の訴訟については,Xによってなされた訴えの変更の申立てが,訴えの変更の要件を満たしているかどうかが問題となる。まず,甲家屋の引渡請求という従前の請求と履行不能による損害賠償請求という新たな請求との間には,請求の基礎の同一性があるといえるかについて検討する。従前の請求原因は,X・Y間での売買契約の成立でありその有効性が争われていたところ,新請求における請求原因においても,Yについて本来の債務 (甲家屋の引渡義務) が成立していることが前提となることから,実体法的にみれば,両請求の基礎の同一性があるといえる。また,手続法的な側面に着目しても,売買契約の有効性に関する審理が有る程度まで進んでいたのであれば,これを新請求にも流用する実益は大きく,同様に請求の基礎の同一性が肯定されやすいといえよう。もっとも,旧請求についての審理が裁判をするのに熟するにいたり,新請求の審理のために新たな裁判資料の収集を必要とするといった,訴訟手続を著しく遅滞させると判断される場合には,訴えの変更は認められないことになる。このような場合には,Xとしては履行不能による損害賠償請求の訴えを提起せざるを得ないことになるが,1 注でも指摘したように,果たしてこのような区別によらせることが真に訴訟経済に適うことになるかについては疑問の余地があろう。本問の後段については,Xによる訴えの変更がいわゆる訴えの交換的変更に当たるものであることから,その同意の要件が問題となる。この点,複合行為説に立つと,訴えの交換的変更という独自の概念を認めないことから,旧請求については訴えの取下げがなされない以上,単に追加的変更として扱われることになり,旧請求についても本来判決を求める対象(判決事項)となる。他方,独自類型説に立つと,これが訴えの交換的変更を許容するに際しては訴えの取下げは必要とはされないものの,独自類型説の多くも被告の利益保護の観点から,交換的変更の場合であっても被告の同意を要すると解していることを踏まえると,Yの同意がないかぎり X による訴えの変更は単に追加的変更として扱われることになる。[⚫] 参考文献 [⚫]沢津浩・百選 66 頁(畑 宏樹)

「山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』商事法務、2024年」 ISBN978-4-7857-3092-5

訴えの変更

公開:2025/10/20

XはYに対して売買代金ならびに遅延損害金の支払請求訴訟 (前訴) を提起しこれが係属していたところ,第1審の口頭弁論期日において以下の内容の訴訟上の和解が成立し,これによって訴訟は終結した。「Yは、Xに対する売買代金の支払義務が存在することを認める。」「Xは売買代金の代わりに、Yの有する甲土地をXに引渡す。」「Xは、Yの遅延損害金支払債務については免除する。」しかし、甲土地の引渡期日が経過したにもかかわらず、YはXに対し一向に甲土地の引渡しを履行しようとしないので、XはYに対する履行の催告を行った上で上記の和解を解除し、あらためて売買代金の支払を求める訴え (後訴) を提起した。これに対し、Yは、本案前の抗弁として、和解契約が解除されたのであれば、訴訟上の和解による前訴終了の効果も遡及的に消滅しているはずであるから、前訴はいまだ訴訟係属状態にあり後訴は二重起訴に当たると主張した。後訴裁判所としては、Xにより提起されたこの後訴をいかに扱うべきか。また、Xとしては、後訴提起という手段以外にどのような方法でもって和解の解除を主張し得るか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 43・2・15 民集 22 巻 2 号 184 頁[⚫] 解説 [⚫]1 訴訟上の和解の解除の可否本問のように,和解の内容についてその後に不履行があった場合に,Xが和解契約の解除をせず,和解条項の内容の履行を求めて強制執行 (甲土地についての引渡執行) をすることは,訴訟上の和解の効力として執行力が認められている (民執 22 条 7 号) ことから,問題なく認められる。それでは,X としては,私法上の和解契約を法定解除し得ること (異論はない) として,さらに訴訟上の和解をも解除することができるであろうか。訴訟上の和解に私法上の和解としての要素を認め (二元論),既判力を否定する立場に立つ場合には,当然に債務不履行に基づく解除は肯定される。他方,訴訟上の和解の効力につき既判力肯定説ないし制限的既判力説に立つ場合であっても,その後の不履行に基づく解除権の行使は,基準時 (訴訟上の和解の効力発生時) 後に生じた新たな事由といえ既判力によっては遮断されないことから同じく解除は肯定される。問題なのは,解除権行使の効果として,和解によって生じていた訴訟終了効も消滅する (民訴 267 条 1 項参照) のか否かという点についてであり,解除の訴訟法上の主要方法の問題とも相まって議論のあるところである。2 解除の主張方法この問題は,理論的には,解除権行使の効果として訴訟上の和解により発生していた訴訟終了効が遡及的に消滅するのか否か,という点に関わってくる問題である。解除により訴訟終了効も消滅すると捉えるならば,前訴はいまだ終了していないということになることから,当事者としては期日指定を申し立てるということになる (期日指定申立説)。これに対して,訴訟終了効はやはり消滅せず別個の新たな紛争が生じたと捉えるならば,当事者としては新訴を提起するということになる (新訴提起説)。 以下,両説の長短を検討するとともに,この2説以外の考え方についても検討する。(1) 期日指定申立説 期日指定申立によると,和解の解除により訴訟終了効も消滅し,前訴が復活し審理が続行されることになる。これにより,前訴の訴訟状態を利用することができる,申立手続が簡便である,不履行の有無の判断の前提としての和解条項の解釈には前訴において訴訟に関与した裁判所が適任である,といった利点がある。他方で,不履行の有無 (=解除の有効性) は,和解自体に付着していた瑕疵ではなく新たな紛争と捉えるべきであるにもかかわらず,場合によっては審級の利益が保障されないという難点がある。(2) 新訴提起説 新訴提起説では,和解が解除されても訴訟終了効は消滅しない。この立場によると,和解を解除した上で新たに訴えを提起する考えは,前訴とは別個の新たな紛争ということにあたり,審級の利益が保障されるという利点があるが,他方で,前訴の訴訟状態を利用できず不便であるという難点を伴う。参考判例①はこの立場に立っており,和解を解除した当事者が前訴と同じ訴訟物をあらためて後訴という形で請求しても,二重起訴の禁止 (142 条) にはふれないとしている。(3) 選択説 訴訟終了効の消長とは別に,解除主張者に期日指定申立てと新訴提起のいずれかを選択させるという立場 (選択説) も有力に唱えられている。解除主張者の意思を尊重した考え方といえるが,相手方の利益や審理を実体的に進めるためには,Xとしては前訴についての期日指定の申立てをすべきことになる。3 本問の検討和解が解除されることにより訴訟終了効も消滅すると捉えるという期日指定申立説の立場からは,前訴がいまだ訴訟係属中にあることになり,後訴は二重起訴の禁止にふれて違法な訴えとして却下される。この立場に立つ場合には,X としては前訴についての期日指定の申立てをすべきことになる。他方,参考判例①の新訴提起説のように,訴訟上の和解が解除されても前訴についての訴訟終了効は消滅しないという理解を前提とすると,X により提起された後訴は二重起訴の禁止にはふれないことになる。また,訴訟終了効の消長とは別に解除主張者の訴訟追行の便宜を認める選択説の立場からは,Xによる後訴の提起以外にも,前訴についての期日指定の申立てという手段を認めることになる。[⚫] 参考文献 [⚫]近藤隆司・百選 186 頁(畑 宏樹)

「山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』商事法務、2024年」 ISBN978-4-7857-3092-5

和解契約の解除

公開:2025/10/20

XはYに対して売買代金ならびに遅延損害金の支払請求訴訟(前訴)を提起しこれが係属していたところ、第1審の口頭弁論期日において以下の内容の訴訟上の和解が成立し、これによって訴訟は終了した。「1. Yは、Xに対する売買代金の支払義務が存在することを認める。2. Xは、上記売買代金のかわりに、Yの有する甲土地をXに譲渡する。3. Xは、Yの遅延損害金支払債務については免除する。」しかし、甲土地の引渡期日が経過したにもかかわらず、YはXに対して一向に甲土地の引渡しを履行しようとしないので、XはYに対する履行の催告を怠った上で上記の和解契約を解除し、あらためて売買代金の支払を求める訴え(後訴)を提起した。これに対し、Yは、本案前の抗弁として、和解契約が解除されたのであれば、訴訟上の和解による前訴の終了効果も遡及的に消滅しているはずであるから、前訴はいまだ訴訟係属状態にあり後訴は二重起訴に当たると主張した。後訴裁判所としては、後訴提起されたこの提訴をどのように扱うべきか。また、Xとしては、後訴提起という手段以外にどのような方法でもって和解の解除を主張し得るか。●参考判例●最判昭和43・2・15民集22巻2号184頁●解説●1 訴訟上の和解の解除の可否本問のように、和解の内容についてその後に不履行があった場合に、Xが和解契約の解除をせず、和解条項の内容の履行を求めて強制執行(甲土地についての引渡執行)をすることは、訴訟上の和解の効力として執行力が認められている(民執22条7号)ことから、問題なく認められる。それでは、Xとしては、私法上の和解契約を法定解除し得ること(異論はない)として、さらに訴訟上の和解をも解除することができるであろうか。訴訟上の和解に私法上の和解としての要素を認め(→問題57)、既判力を否定する立場にある場合には、当然に債務不履行に基づく解除は肯定される。他方、訴訟上の和解の効力につき既判力肯定説に基づく判決の代用立つ場合であっても、その後の不履行に基づく解除の訴えは、基準時(訴訟上の和解の効力発生時)後に生じた新たな事由といえ既判力によっては遮断されないことから同じく解除は肯定される。問題なのは、解除に伴って生じた訴訟終了も消滅する(民545条1項参照)のか否かという点についてであり、解除の訴訟上の主張方法の問題とも相まって議論のあるところである。2 解除の主張方法この問題は、理論的には、解除権行使の効果として訴訟上の和解により生じていた訴訟終了効が遡及的に消滅するのか否か、という点に関わってくる問題である。解除により訴訟終了効も消滅すると捉えるならば、前訴はいまだ終了していないことになることから、当事者に対しては期日指定を申し立てるということになる(期日指定申立説)。これに対して、訴訟終了効はもはや消滅せず別個の紛争が新たに生じたに捉えるならば、当事者としては新訴を提起することになる(新訴提起説)。以下、両説の長短を検討するとともに、この2説以外の考え方についても検討する。(1) 期日指定申立説期日指定申立によると、和解の解除により訴訟終了効も消滅し、前訴が復活し審理が続行されることになる。これにより、前訴の訴訟状態を利用することができること、申立手続が簡便である、不履行の有無の判断の前提としての和解条項の解釈には前訴において関与した裁判官が適任である、といった利点がある。他方で、不履行の有無(=解除の有効無効)は、和解自体に付着していた瑕疵ではなく新たな紛争と捉えるべきであるにもかかわらず、場合によっては審級の利益が保障されないという難点がある。(2) 新訴提起説新訴提起説では、和解が解除されても訴訟終了効は消滅しない。この立場によると、和解を解除して新たに生じたと見なされるうえ、前訴とは別個の新たな紛念というになり、審級の利益が保障されるという利点がある。他方で、前訴の訴訟状態を利用できず不便であるという難点を伴う。参考判例①もこの立場に立っており、和解を解除した当事者が前訴と同じ訴訟物をあらためて後訴という形で請求しても、二重起訴の禁止(142条)にはふれないとしている。(3) 選択説訴訟終了効の消長とは別に、解除主張者に期日指定申立てと新訴提起のいずれかを選択させるとする立場(選択説)も有力に唱えられている。解除主張者の意思を尊重した考え方といえるが、相手方の利益や審理を実効的にするためには合理的な主張方法を定めておくべき、との指摘も他方ではなされている。3 本問の検討訴訟上の和解が解除されることにより、前訴について生じた訴訟終了効を消滅するという見解を前提とすると、本問のようにXが前訴と同じ訴訟物を後訴で提起することは二重起訴の禁止にふれた不適法な訴えとして却下されることになる。この立場に立つ場合には、Xとしては、前訴についての期日指定の申立てをすべきことになる。他方、参考判例①の新訴提起説のように、訴訟上の和解が解除されても前訴についての訴訟終了効は消滅しないという見解を前提とすると、Xにより提起された後訴は二重起訴の禁止にはふれないということになる。また、訴訟終了効の消長とは別に、前訴についての期日指定申立てと後訴のいずれかを選択可能とする選択説の立場からは、Xによる後訴の提起以外にも、前訴についての期日指定申立てという手段を認めることになる。

「山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』商事法務、2024年」 ISBN978-4-7857-3092-5

訴訟上の和解の効力

公開:2025/10/20

XはYに対して売買代金ならびに遅延損害金の支払請求訴訟を提起しこれが係属していたところ、第1審の口頭弁論期日において以下の内容の訴訟上の和解が成立し、これによって訴訟は終了した。「1. Yは、Xに対する売買代金の支払義務が存在することを認める。2. 上記売買代金のかわりに、Yの有する甲土地をXに譲渡する。3. Xは、Yの遅延損害金支払債務については免除する。」なお、この和解の和解の成立に際し、Yは甲土地上にテナントビルを建設する予定である旨をXに明示し交渉を行っていたが、実は、甲土地については、建物を建ててもこれを維持しなければならないという行政上の規制があったにもかかわらず、Yがその事実を隠してXとの和解交渉を行っていたために、Xは予定どおりのテナントビルを建てることができなくなってしまった。この場合、Xは上記訴訟上の和解の効力を否定することができるか。また、その主張方法としてどのようなものが考えられるか。●参考判例●最判昭和33・6・14民集12巻9号1492頁最判昭和33・5・5民集12巻3号381頁●解説●1 訴訟上の和解訴訟上の和解とは、訴訟の係属中に口頭弁論等の期日において、両当事者が裁判所の面前で訴訟を終了させるために訴訟物について互いに譲歩し、その合意の内容が調書に記載されることによって確定判決と同一の効力が生ずることとなる(267条)。この「確定判決と同一の効力」として、訴訟上の和解は訴訟終了効、執行力(民執22条7号)、形成力を含むことは学説上も異論はない。議論があるのは、これに加えて既判力をまで含むかどうかという点についてであり、学説上古くから対立がみられる。訴訟上の和解に既判力が認められるかこの問題による当事者の自主的な紛争解決であることから、訴訟上の和解は当事者において錯誤や詐欺を介する可能性がないところ、その取扱いをどのように主張・立証することになるか、といったことを考える際に意義を有する。この点について、大別して、①既判力肯定説、②既判力否定説、③制限的既判力説という3つの異なる立場がある。既判力肯定説は、民事訴訟法267条の文言に最も忠実な立場で、判決による紛争解決機能を重視するとともに当事者による訴訟であるべきことを含め、訴訟上の和解の成立には裁判所が一定程度関与しており、その紛争処理機能を重視すべきであることを根拠とする。この説に対しては、取消しの主張は再審事由に準じる場合(338条1項)以外には認められないこととなり、当事者の意思であったという批判である。他方、既判力否定説は、訴訟上の和解が当事者による自主的な紛争解決であることを重視する立場であり、その取消についても再審手続を経由することなく主張することができるとする。この立場は、現在の学説における多数説を形成しているものの、民事訴訟法267条の文言や、和解の成立過程における裁判官の関与を軽視している、と批判されている。この両者のの中間に立つといもいえるのが、制限的既判力説である。これは、訴訟上の和解の紛争解決機能を確保すべく、基本的には既判力肯定説に立つものであるが、訴訟物に実体法上の瑕疵がある場合には訴訟上の和解は取り消され得ることによって無効となりはする見解である。(1) 訴訟上の和解に要素の錯誤がある場合①は裁判上の和解に要素の錯誤がある場合にはこれを無効とすることから、制限的既判力説に立っているものと一般には評されている(なお、当時の裁判所である東京地判平成15・1・21判時1828号59頁は、明らかに制限的既判力説を採用する)。この判決に対しては、既判力肯定説および否定説のいずれの立場からも、既判力の及ぶ対象をどのように判断するかについても批判がなされている。(2) 訴訟上の和解に詐欺がある場合この問題は、訴訟上の和解の法的性質の議論との関係において論じられてきた当面の争点であった。すなわち、訴訟上の和解における実体法上の和解契約と捉えこれを無効とすることは公序良俗に反する。これに対し、民事訴訟行為説の立場からは、訴訟上の和解は訴訟行為と私法上の和解との二重の性質をもつとする両説、あるいはこの2つの契約の性質を併有することから、既判力説も否定しないし、訴訟上の和解の無効を主張することから、既判力説も否定しない。これに対し、訴訟上の和解行為に結びつきやすいのに対して、訴訟上の和解行為と私法上の和解行為との二重の性質をもつとする(合同行為説)とすると、訴訟行為である訴訟上の和解に結びつきやすい。といった議論がかつてなされていたのである。しかしながら、実際には訴訟行為であるか否かが問題となるため、既判力の性質の問題とも必ずしも理論的に直接に結びつくものではなく、今日の法解釈論としては、法律関係の性質の問題というよりもむしろ、法律行為の性質の問題というよりもむしろ、実体法上の法律関係に基づく訴訟行為がなされているといえるであろう(新堂375頁、民事訴訟法〔有斐閣・2009〕342頁、重点講義1772頁、上田452-453頁など)。2 訴訟上の和解について無効の主張の方法(1) 錯誤による和解本問においては、まず、Xの意思表示に錯誤(「要素」の錯誤(民95条)。本問においては、和解の目的物について錯誤があったにすぎない。これに対し、当事者の同一性については錯誤があったわけではなく、物の性質に錯誤があったにすぎない。これには契約の「内容」の錯誤であったとした場合(基礎とした事情〔動機〕に錯誤があるにすぎない)とはいえない。動機、動機の内容が相手方に表示されていた内容と、かつそれが取引上重要なものであれば錯誤の契約要素となり、取消しの対象となる(民95条2項)。本問では、Xは甲土地へのテナントビル建設予定という動機をYに明示しており、しかも当該テナントビルを建てられるか否かは甲土地取得に当たって重要なポイントとなることから、要素の錯誤に該当すると考えてよいであろう。(2) 訴訟上の和解の錯誤による無効①によると、錯誤による訴訟上の和解の錯誤による無効を主張する場合、一般論として、既判力を有する確定判決の取消は、基準時においてYに生じていた錯誤の存在の無効(訴訟上の和解の効力発生時)の前に当たることから、Xが錯誤取消しを主張して本問の訴訟上の和解の効力を否定することができるか否かについては、訴訟上の和解の効力として既判力まで認めるか否かに係ってくることとなる。既判力肯定説に立つ場合には、基準時前の事由であるXの錯誤を主張して当該訴訟上の和解の効力を争うことは遮断効にふれることとなり、再審事由に該当する事由がある場合に限ってその効力を争うことができるにすぎない(再審の訴えに準ずる訴えが肯定される)。他方、既判力否定説に立つ場合には、私法上の和解について錯誤による取消しを主張できるのはいうまでもなく、実体法上の取消原因であることから訴訟上の和解について無効であり、既判力の取消原因は生じないから、原則肯定説と同じく、私法上の和解の錯誤取消しを主張して、訴訟上の和解の効力を争うことができることになる。(3) 当事者の救済方法既判力否定説ないし制限的既判力説に立ち、和解の効力を争うことができるとして、その手続方法にはどのようなものがあるか。和解が無効とされることにより、訴訟上の和解によりなされた訴訟終了もまた無効とされるのか、という理論的な問題とも相まって、議論されているところである。和解の無効により訴訟上の和解の訴訟終了効も同時に消滅するとする議論は、的確な立場を前提とすると、従前の訴訟(前訴)はいまだ終了していないということになり、期日の指定をあらためて提起すべきこと(期日指定申立説)となろう。期日指定の申立てをめぐると、旧訴の訴訟記録がすでに廃棄されているなどの手続上の困難を生ずることができ、手続として、旧訴の訴訟状態をそのまま継続することができ、和解の無効を前提とする訴訟を提起し、これが有効であれば請求棄却、無効であれば請求認容という判断がなされるべきであるとの見解(訴訟の再開を求める訴訟を提起し、これが有効であれば請求棄却、無効であれば請求認容という判断がなされるべきであるとの見解も有力である。しかしながら、この説に対しては、①和解した以上、訴訟が終了することについて当事者の意思が形成されており、②期日指定申立てができるまでの期間が長いと旧訴の訴訟記録が廃棄されるおそれがあり、③和解が有効か無効以外の法律関係や訴訟の第三者を含んでいたような複雑な場合にも対応できる、といった批判も挙げられている。他方、別訴提起説による場合には、和解の有効か無効かの主張が③で提起された場合に限ってその判断がなされることになる。なお、訴訟上の和解において和解が無効と確認された後の処理については、①旧訴は依然として係属を継続すると解すると期日指定の申立てによることとなり、②旧訴が和解の効力によって終了した場合には争いが解消されることになる。しかしながら、この説によると、①新たな訴訟を提起しなければならず、②旧訴が和解の効力によって終了した場合には争いが解消されることになる。このような学説では、訴訟期日指定の申立が認められるか、いずれかによってしか救済する方法はない(選択説が有力である:大判大14・4・24民集4巻195頁(和解無効確認の訴え)など)。近時の学説においても、救済を求める者の救済要求をどのような方法で取り上げるのが最も適切であるかという点が重視されるべきとして選択説は有力であり、当事者の救済方法の選択が不適切な場合には、釈明や移送(17条)によって調整し得るとする。この選択説に対しては、和解無効を主張する者の利益を重視しており(例えば、訴訟当事者の結束に訴訟上の和解が選択された場合、相手方としては、和解の有効無効を旧訴で回復させた元の訴訟物を着けたということであるのか)、理論としては、原則的な方法として期日指定申立てを考えておき、単純な旧訴続行で処理しきれない場合には和解無効確認の訴えを肯定するという見解も存在する(重点講義1785頁など)。

「山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』商事法務、2024年」 ISBN978-4-7857-3092-5

訴え取下げと再訴の禁止

公開:2025/10/20

Yに対する貸金債権(甲債権:1000万円)を有する債権者Xは、Yを相手どって同貸金の返還を求める訴え(前訴)を提起した。審理の結果、第1審では請求認容判決が下されたのに対し、Yは控訴を提起したが、控訴審係属中、Yは「即座に1000万円全額を支払うことはできないが、全額の6割にあたる600万円の支払をしたら『い』旨をXに申し出、Xもこれを了承する旨の裁判外の和解が成立したので、XはYの同意を得てこの訴えを取り下げた。上記の裁判外の和解に従い、Xは前訴の取下げ後6か月間、Yに対する支払を求めなかったが、同期間を過ぎてもなおYはXに対して甲債権の履行をしなかった。そこでXは、Yに対し甲債権の履行を求めたが、Yは上記のような裁判外の和解は成立していないと主張して甲債権の支払を拒んだことから、甲債権の支払を求める訴えをあらためてYに対して提起した。裁判所は、この再訴をいかに扱うべきかについて検討しなさい。●参考判例●最判昭和52・7・19民集31巻4号693頁最判昭和55・1・18判時961号74頁●解説●1 訴えの取下げの要件・効果訴訟終了に関する処分権主義より、判決が確定するに至るまでのいつでも訴えを取り下げることができる(261条1項)。ここに、訴えの取下げとは、訴えによる審判申立ての全部の撤回を内容とする原告の意思表示をいう。これがなされると訴訟係属の遡及的消滅という効果が生じる(262条1項)。訴えの取下げ自体は原告によってなされる行為であるが、相手方が本案について準備書面を提出し、準備的口頭弁論において申述し、または口頭弁論(以下、「本案についての主張」という)後においては、相手方の同意を要しなければ取下げの効力を生じない(261条2項)。この相手方の同意という要件が加重されている趣旨については、原告の訴えの取下げの自由が認められる一方で、被告についても請求棄却判決を得て原告の請求権について本案についての主張をした後には、被告についても請求棄却判決を得て原告の請求を認めないことをもって確定するという利益を有しており、これを保護する必要があるためと理解されている。また、本案について終局判決が言い渡された後に訴えの取下げがなされた場合、当事者は同一の事件について再度訴えを提起することができなくなる(262条2項)。これを再訴禁止効という。2 再訴禁止効(1) 再訴禁止効の趣旨本案について終局判決が言い渡された後にする訴えの取下げに「再訴禁止効」が生じるとされる趣旨については、従来より大別して取下濫用制裁説と訴訟費用追求防止説という2つの考え方が唱えられている。取下濫用制裁説とは、訴えが取り下げられることにより、本案の審理に関与し判決までした裁判所の労力を徒労に帰せしめたことに対する「制裁」と捉える立場であり、学説上は多数説に立つといえる(兼子一『新民事訴訟法体系(増訂版)』〔酒井書店・1965〕297頁、三ヶ月・前掲355-356頁、松本=上野559頁など)。これに対し、再訴費用追求防止説は、訴えの取下げが繰り返されることにより裁判所が翻弄されるとともに、相手方にとってもその訴訟追行の紛争の解決を図ろうとする利益を不当に害することから訴えを提起するのは訴権濫用に当たると説く(上告棄却〔著〕「民事訴訟法(第2版)」(弘文堂・2011)152頁〔長谷部恭男〕、竹下=藤田『民事訴訟法(第4版)』〔有斐閣・2009〕991頁など)。取下濫用制裁説に対しては、終局判決後の取下げ行為が非難の対象であるにもかかわらず、取下げ行為自体を法が認めていることとの一貫性を欠くといった批判が挙げられる。他方、再訴費用追求防止策に対しては、訴えの取り下げが濫用と評価されるに当たっても、実体的な権利であることも否めないが、相互に矛盾するものである。なお、この点について参考判例①は、民事訴訟法262条2項は、「終局判決を得た後に訴えを取り下げた者に対する制裁的な規定であり、同一の紛争を蒸し返して訴訟制度をもてあそぶような不当な事態の再発を防止する目的に出たものにほかならない」として、両者の折衷的な立場に立つといえる(参考判例②も同様)。(2) 同一の訴え再訴禁止効が生じる「同一の訴え」の範囲については諸説あるが、その適用範囲については、取下濫用制裁説、再訴費用追求防止説のいずれの立場に立つか、これを限定的に解すべきとの傾向でなされている。例えば裁判所の判断が成立したことによる訴訟経済の要請も合致し、当事者もすでに本案判決を考慮して裁判所の訴訟追行の方向が定まっておらず、そこで、近時では、取下濫用制裁説、再訴費用追求防止説という立場の違いにかかわらず、前訴と後訴の同一性を判断するに際しては、当事者の同一性・訴訟物の同一性のみならず、原告に再度の訴えを提起を正当化できる新たな利益がある場合には、再訴の利益を正当化できる新たな利益がある場合には、再訴の利益を正当化できる新たな利益がある場合には、再度の審理をしてもよい。訴えの取下げがなされる態様については、実質的な理由が存する場合と敗訴濃厚となりその後の訴訟の再度の審理をしてもよい。再訴の利益を正当化できる事情の一例として、再訴の取下げの実現に即した妥当な解決が図られること。3 再訴を提起された裁判所の対応再訴の利益を正当化しうる事情の1つであることから、再訴の裁判所は、被告からの指摘がなくても自らのイニシアティブによって調査し、そこで、近時では、取下濫用制裁説、再訴費用追求防止説という立場の違いにかかわらず、前訴と後訴の同一性を判断するに際しては、当事者の同一性・訴訟物の同一性のみならず、原告に再度の訴えを提起を正当化できる新たな利益がある場合には、再訴の利益を正当化できる新たな利益がある場合には、再訴の利益を正当化できる新たな利益がある場合には、再度の審理をしてもよい。訴えの取下げがなされる態様については、実質的な理由が存する場合と敗訴濃厚となりその後の訴訟の再度の審理をしてもよい。再訴の利益を正当化できる事情の一例として、再訴の取下げの実現に即した妥当な解決が図られること。

「山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』商事法務、2024年」 ISBN978-4-7857-3092-5

反射効

公開:2025/10/20

Xは、Yに対し金3000万円を貸し付ける旨の金銭消費貸借契約をYとの間で締結し、同時に、この貸金債権の担保としてYの債務者であるZとの間において連帯保証契約を締結した。その後、Xは、弁済期が到来したにもかかわらず上記貸金債権が履行されていないとして、Yを相手どって貸金返還請求訴訟(前訴)を提起したが、同訴訟においては、Yが抗弁として主張した弁済の事実が認められたことから、Xの請求を棄却する旨の判決が言い渡された。前訴判決の確定後、さらにXはZに対して保証債務の履行を求める訴え(後訴)を提起した。この場合、前訴確定判決の効力は、後訴に対して、いかなる作用を及ぼすことになるであろうか。●参考判例●最判昭和51・10・21民集30巻9号903頁最判昭和53・3・23判時886号35頁最判昭和31・7・20民集10巻8号965頁●解説●1 既判力の相対性の原則と反射効理論既判力の主観的範囲については、原則として当事者間にのみその効力が及ぶとされている(既判力の相対性の原則。115条1項1号)。したがって、本問のように、債権者Xが主債務者Yを相手どって提起した金銭の支払請求訴訟において、Xが請求棄却判決を受けたとしても、この判決の効力は、Y・Z間の関係が民事訴訟法115条1項2号から4号に定める例外に該当しない以上、相手方Zに対しては及ばないのが原則である。それゆえ、Xは別途Zを相手どって保証債務の履行を求める訴訟を提起することが可能であり、紛争解決の趣旨を重視するとする以上、後訴においてXが勝訴判決を得る可能性もある。しかしながら、このような事態は、前訴において主債務の不存在が確定されていながら、後訴では保証債務のみが存在するといった結論が、裁判を通じて生み出されたことを意味し、保証債務の付従性(民448条1項参照)を定める実体法関係においては不可解な事態ともいえる。このような問題を解決する1つの理論として、「反射効理論」というものが存在する。2 反射効理論反射効とは、第三者が直接に既判力を受けるわけではないが、第三者の法的地位が判決当時の当事者の法的地位に実体法上依存する関係がある場合に、当事者間に既判力が拘束力を有するが、第三者に対しても反射的に利益または不利益な影響を及ぼす効力があるとする考え方である(兼子一『新民事訴訟法体系(増訂版)』〔酒井書店・1965〕353頁参照)。この理論は、当初、既判力の本質論に関する実体法説(確定判決は実体法上の法律要件事実の一種と捉え、判決に基づいて実体法関係が変更された以上、当事者はもちろん裁判所もこれに服さざるを得なくなる(とする見解)を背景に、主債務者勝訴の確定判決により、たとえ存在していた主債務も消滅するとする更改契約が成立したものとみなし、主債務の消滅により保証債務も消滅させることが根拠となる。保証人に対する保証債務履行請求の棄却も要請される。しかしながら、既判力の水際論に関する訴訟法(既判力を訴訟法的な判断の統一要求という訴訟法上の効力であるとする見解)が一般的な理解につれ、反射効は既判力とは異なる効力として、実体法上の効果(保証債務の付従性など)を根拠として、保証人は主債務者勝訴の確定判決を援用すれば請求を免れる結果を導きうるとされるに至る。このように、今日では反射効は、既判力といった確定判決の本来の内在上の効力ではなく無関係に扱われる反射的な付随的効力であり、既判力とは異なり職権調査事項ではなく後訴当事者の援用を待って認められる反射効として、本問のような学説の発展に伴い、反射効は、たうえで、債務の連続性・付従性が実体法上承認される場合に限り、反射効を肯定する(山本・基本問題173頁以下、松本=上野683頁以下も同旨)。なお、判例は、反射効が問題となりそうな事例において、最高裁として反射効理論を正面から認めるものはない。参考判例①では、賃貸人の賃借人に対する請求棄却判決の反射的効力を否定した結果を裏返すことになった。参考判例②では、不正競争債務者の1人にすぎないことになり、その反射効は肯定し、参考判例③については被告はそもそも無関係である。4 反射効理論に対する評価反射効理論の学説上の評価については、最近では、本問のような保証人事例において反射効肯定説の説く帰結に対して、これに賛成する見解が有力である。これは、前訴債務の名について争い主債務が存在しないと判断を受けた債権者が、その後保証人を被告とする保証債務履行請求において主債務の不存在という蒸し返しを禁じられたとしても、債権者にとっての手続保障が尽されているとはいい難い点にある。加えて、債権者によるかかる蒸し返しを許すと、保証人は主債務者に対する求償の可能性が閉ざされるかもしれず、実体法上保証人の地位の悪い状況が悪化することから、紛争解決の相対性の原則を修正してまでもこれを回避すべき、といった要請が働くためである。かくして、反射効肯定説は別として、反射効否定説ないしそれに積極的な態度を示す学説においては、X・Y間の確定判決の結果として、X・Z間の後訴の問題において反射効によっても解決によっては、XとZとは別の関係であるから、XとZとの関係で前訴の判決の結果が有利に働くことはないという見解もある。しかし、この見解はXとZとの関係では反射効が生じないとするにとどまり、後訴でZが敗訴した場合のな保証債務の付従性(民448条1項)を根拠とする主債務者・保証人間の場合以外にも、相続の絶対効(民法439条)を根拠として債権者の1人が提出した相殺の抗弁を理由とする債権者敗訴の判決と他の債務者との間、持分会社の無限責任社員の責任(会社580条1項)を根拠として持分会社に対する請求認容または棄却判決と社員との間などに反射効が認められるとされている(その他この例については、伊藤606頁参照)。いずれの例についても共通の根拠とされるのは、当事者の一方と第三者の間に存するとされる「実体法上の依存関係」である。このような考え方が提唱された背景には、裁判所の負担回避、紛争解決の一回性といった訴訟経済的な要請もさることながら、多数の主体間の紛争につきその解決結果がまちまちになるのを回避し、実体法上の規律を判決に有力に結果に一致させようとする意図があるものと意識され、かつては有力に説かれた見解である。3 反射効理論に対する評価もっとも、反射効理論に対しては、その基準とする「実体法上の依存関係」が曖昧な上に、それだけでは判決が第三者に及ぶことの正当化根拠としては不十分というという批判をうける。といった指摘がなされるところでもある。かくして、反射効理論を支持する見解は次第に少なくなり、むしろ、反射効の効力は第三者に対する既判力の拡張と異ならいとして、禁反言的な性格をもつにすぎない。このような見解の背景には、明文の規定のない反射効の拡張は認められるべきではないとする反射効否定説(三ヶ月章『民事訴訟法』〔第3版〕〔弘文堂・1992〕41頁、伊藤607頁など)や、反射効として論じられてきた効力を第三者への既判力の拡張として処理すべきとする既判力拡張説(前掲・兼子267号[1971]28頁以下など)などが存在する。また、反射効の射程や効力の内容を第三者に有利な反射効については敗訴当事者による紛争の蒸し返しの防止を考慮する見解(新堂744頁以下、重点講義11749頁以下など)も、反射効理論と親和的な立場も、反射効を実体法的な効力と位置付けたうえで、債務の連続性・付従性が実体法上承認される場合に限り、反射効を肯定する(山本・基本問題173頁以下、松本=上野683頁以下も同旨)。なお、判例は、反射効が問題となりそうな事例において、最高裁として反射効理論を正面から認めるものはない。参考判例①では、賃貸人の賃借人に対する請求棄却判決の反射的効力を否定した結果を裏返すことになった。参考判例②では、不正競争債務者の1人にすぎないことになり、その反射効は肯定し、参考判例③については被告はそもそも無関係である。

「山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』商事法務、2024年」 ISBN978-4-7857-3092-5

口頭弁論終結後の承継人

公開:2025/10/20

本件土地はAの所有名義に登記されていたが、これはXが本来所有する不動産でありAとの間で登記原因証明書によってなされた登記であった。Xは本件土地が自らの所有に属すると主張して、Aを相手どって異なる登記原因のために本件土地の所有権移転登記手続請求訴訟を提起し、この訴訟はX勝訴の判決が言い渡され確定した(前訴)。その後、Yは、前訴の事実審の口頭弁論終結後に、Aから本件不動産の贈与を譲り受け、Y名義の所有権移転登記を了した。X・A間での登記原因証明書の存在については後訴で争った。Yに対し、Xは、Yに対して所有権に基づく本件土地の所有権移転登記請求手続請求訴訟(後訴)を提起したところ、Yは、自らは民法94条2項の第三者に該当するので請求の無効は対抗されないと主張した。前訴確定判決の既判力は、後訴においてどのように作用することになるであろうか。●参考判例●最判昭和48・6・21民集27巻6号712頁最判昭和41・6・21判時464号25頁●解説●1 既判力の主観的範囲・原則と例外既判力の主観的範囲については、原則としてその訴訟に関与した者にのみその効力が及ぶとされている(既判力の相対性の原則、115条1項1号)。これは、民事訴訟が権利または法律関係につき当事者の私的な権限に属する手続である以上、既判力が主たる当事者間の私的な権限に属する手続である以上、既判力が主たる当事者間の私的な関係に関してのみ関与して十分であることに加え、処分権主義・弁論主義の下で自らが訴訟を追行した当事者がその判決に服すべきよう求め、訴訟に関与する機会の与えられなかった第三者に判決の効力を及ぼすことは第三者の利益を不当に害することになるからである。もっとも、この原則に対しては例外もあり、訴訟担当の場合の本人(同項2号)、口頭弁論終結後の承継人(同項3号)、請求の目的物の所持者(同項4号)に対しては既判力が及ぶとされており、主観的範囲の拡張が法定されている。2 口頭弁論終結後の承継人民事訴訟法115条1項3号にいう「口頭弁論終結後の承継人」とは、前訴における当事者の事実審の最終口頭弁論期日以後(すなわち基準時以後)における、当事者(および訴訟担当の場合の権利帰属主体)からの承継人を指す。この拡張が認められるのは、判決の紛争解決の実効性の維持のため(権利関係の安定のため)とされる。すなわち、仮に承継人に既判力が及ばないとすると、例えば、前訴原告から目的物を譲り受けた者が被告との間で再訴訟をしなければならないことにもなりかねないが、それでは勝訴原告から目的物を譲り受ける者はまずいなくなるであろうし、逆に、敗訴した被告は係争権利関係自体を第三者に処分したり係争物に関する占有を第三者に移転することによって、既判力の拘束を回避でき、前訴確定判決を無に帰せしめることになるといった弊害が生じること、これを防ぐために承継人への既判力の拡張を認めたものである。とはいえ、一般に既判力の正当化根拠は手続保障に求められるところ、既判力の拡張をうける承継人(とくに前訴が訴訟係属していたことについて、判決による権利関係については必ずしも十分ではない(判決による権利関係については必ずしも十分ではない。このような趣旨からすると、承継人とは、まず訴訟物たる権利・法律関係を承継した者を意味することは争いはない。問題なのは、訴訟物たる権利・法律関係そのものではないが、確定判決の紛争解決の実効性の観点から承継人と認めるべき場合があるか、そのような場合にについて承継の対象をどのように理論的に位置付けるかについては考え方が分かれる。承継につき訴訟法上に新たな地位に着目する考え方としては、当事者の適格承継と捉える見解(適格承継説)もかつては有力であったが、前訴と後訴とで訴訟物が異なる場合の説明に窮することもあり、近時では前訴で解決された紛争およびそれから派生した紛争の主体たる地位を承継の対象と捉える見解(新堂705頁、重点講義690頁など)が有力である。この立場によると、既判力の拡張を受ける承継人は、勝訴当事者の手続保障によってすでに押されているとする。他方、訴訟法上の地位ではなくむしろその基礎にある実体法上の権利関係を承継の対象として把握する立場(係争物説。上掲675頁、伊藤581頁など)も存在し、この立場からは承継人の実体法上の地位が訴訟当事者(被承継人)と依存する関係にあることをもって既判力の拡張の正当化根-拠と求める。3 承継人の固有的地位の主張確定判決の紛争解決の実効性の要請から承継人の基準時後の承継人に既判力を拡張する要請があるとしても、本問のようにその承継人が民法94条2項の適用を主張として善意無過失によるものである(本問では、民法94条2項にいう「善意の第三者」)にも、一律に既判力の拡張を認めてよいものであろうか。この点につき、後訴においてYの善意が認定される場合には、民事訴訟法115条1項3号にもかかわらずYを勝訴とすべきではないかという問題は、その理論構成をめぐってであり、口頭弁論終結後の承継人の場合には一律に既判力の拡張を認め、それによって固有の法的な地位の主張が遮断されるわけではないとする形式説(新堂708頁、重点講義180頁など)と、既判力の拡張が認められるような場合には当事者にすぎず、既判力の拡張は受けないとする実質説(道1860頁、三木浩一ほか編「条解民事訴訟法〔増補版〕」〔講談社・1965〕345頁、上田510頁など)とが対立している。学説では形式説が多数説といえるが、判例は参考判例のいずれについても実質説によるものであると評価されている。これに対し、判例がどの場合にどのような判断をするのかは明らかではないとする立場(中野1・219頁など)もある。もっとも、実質説、形式説のいずれの立場に拠ろうとも、結論自体には大差はないとされ、ただ、口頭弁論終結後の承継人に対する既判力の作用の仕方を、既判力理論との関係で整合的に説明できるという点においては、形式説のほうに利がある。められるとしても、前訴判決で確定された権利関係自体を争う(本問において、X・A間の売買契約は有効とする)ことで、X・A間の所有権移転登記請求をすることはできないといったように、もはや前訴の判決により許されない(既判力の積極作用)が、固有の法的な地位を主張することは、基準時後の新事実として遮断されない(既判力の消極作用)。第2に、実質説では、後訴当事者の主張が基準時後の固有の法的な地位が認められるかどうかによって、既判力が拡張されるかどうか(民事訴訟法115条1項3号の「承継人」に当たるか否か)が決することになるが、これは既判力の趣旨を没却することになるかねない。第3に、実質説によっても、前訴当事者(本問におけるA)が敗訴した場合にAからの承継人であるYへの既判力の拡張を認めることになるが、形成による、前訴当事者間(本問におけるA)の勝訴・敗訴にかかわらず一律に既判力の拡張を認めることを一貫して説くことが難しい。4 執行力の拡張と承継人の固有的地位口頭弁論終結後の承継人に対する既判力の作用という問題は、実際には、前訴の訴訟物を判断すると後訴とで訴訟物が問題となるのであり、これも同一の行為である。これに対し、本問とは異なりXが、前訴確定判決を債務名義としてYに対し強制執行に及んだ(具体的には、承継執行文の付与の申立て〔民執27条2項〕)に、固有的地位を有する人に対する執行力の拡張という問題が生じる。かつては、既判力と執行力の主観的範囲は一致するとの前提の下、執行力が及ぶ承継人は、既判力が及ぶ承継人と同一とするのが一般的な理解であった。しかしながら、既判力の拡張をうける承継人が、既判力を覆すに足る積極の事由の不存在を後訴で争えないのにすぎないのに対し、執行力の拡張を受ける承継人は自己の財産に対して執行がなされるのか否かの利益状況は著しく異なることを理由に、既判力と執行力の主観的範囲を必ずしも一致しないとする今日では有力である(上述の形式説は、既判力の及ぶ承継人であっても執行力が及ばない承継人の不存在を正面から認める)。そこで、執行力の拡張の局面において、承継人が固有の法的な地位を有する場合には、誰のイニシアティブでどのような手続段階で審査すべきかという問題が生じるが、この点については、権利確認説と訴訟責任転換説という考え方が分かれる。前者の見解は、第三者に固有の法的な地位が成立し第三者に対する請求権が存在しない場合には、この者に対する執行力の拡張は及ばないし、第三者に請求する請求権の存在が少なくとも義務的に確認できる場合にのみこの者を承継人として執行文を付与することができるとする立場にある。この立場によると、執行債権者は、承継の事実と第三者に固有の法的な地位が成立しないことを当然的に書面で証明する証拠を提出した場合を除いて、承継執行文の付与(民執27条2項)を受けることができ、これができないときは執行文の付与を訴え(民法33条)を提起しなければならないことになる。この判断に対しては、固有の法的地位の存否という実体権に関わる判断を、裁判官ではなく承継執行文付与機関(裁判所書記官)に委ねるのは妥当でない、という批判がある。これに対し、後者の見解は、債権者の承継執行文の付与を円滑にするとともに債務者の反対を平等に保護するという趣旨である(もっとも、反対債務者の見解は、債権者に固有の法的な地位がないにもかかわらず執行文が付与された場合でも、訴訟を提起できるのであって、その意味では、執行債権者は、承継の事実を証明することによって執行文の付与を受けることができ、承継人の固有の法的な地位の主張は、承継人からの請求異議の訴え(民執35条)によらなければならない。

「山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』商事法務、2024年」 ISBN978-4-7857-3092-5

将来給付の増額請求(確定判決の変更の訴え)

公開:2025/10/20

Xが取得した本件土地の一部として、以前よりYの所有する本件建物(マンション)がその敷地の一部として存在していた。そこで、XはYに対し、建物収去および土地明渡しをした。2019年1月1日から本件土地の明渡しに至るまでの賃料相当損害金(月額20万円)の請求訴訟を提起した(前訴)。この前訴はXの全面勝訴に終結し、判決は確定した(参考・受領の日弁連・2020年4月2日、判決確定日)。Yは本件土地の明渡しに応じなかったことから、Xとしては最新の確定判決を債務名義として建物収去および土地明渡しの強制執行を求めようと考えたが、本件建物の入居者の退去がなかなか進まずに手ができない状態にあった。Yもその後本件土地の不法占拠を続けていたが、前訴の口頭弁論終結以後、本件土地の近隣に鉄道の駅ができたことから、本件土地の2022年4月1日における相当賃料額は月額50万円に達した。そこで、XはYに対し、前訴確定判決後に生じた経済事情の変更によりその認容額が著しく不相当となり、当事者間の衡平をはなはだしく害するような事情があることを理由として、2021年2月1日から明渡しに至るまでの間、相当賃料額と前訴認容額との差額の追加請求を求める訴えを提起した(後訴)。この後訴は、前訴判決の既判力との関係で許されるであろうか。●参考判例●最判昭和61・7・17民集40巻5号941頁●解説●1 将来の給付と増額請求本問における事実審の口頭弁論終結日から本件土地の明渡しに至るまでの間の賃料相当損害金の給付を求める訴えは、将来給付の訴え(135条)であり、「非行給付の訴えの評価については→問題18)。将来の給付の訴えが提起された場合、請求は、現在給付の訴えと異なり、将来の損害の発生の予測の基礎となった価格価価価物価価価物価変動など口頭弁論終結時には予測しえなかった事情の変更により、損害の増減をきたすことがある。この点、確定判決の既判力にかかわらず、口頭弁論終結後の事情の変更を理由に増額の請求をすることができるであろうか。本問のような将来給付の訴えは、将来の履行の可能性について前訴の口頭弁論終結時において主張・立証が可能であるため、口頭弁論終結後の価額を基礎にせざるを得ないところ、被告が不法占拠を継続しているにもかかわらず、実際には支払うことなく、実体法上も地代支払請求権(借地借家11条)が許されていることも鑑みて将来給付の訴えは、一般に認められるといえる。同様に、これについては見解が分かれる。2 一部請求的な訴訟物理論伝統的な「訴訟物=既判力」という図式を維持し、同一の不法行為に基づく損害賠償請求権は1個である(最判昭和48・4・5民集27巻3号419頁参照→問題50)。ことを前提とするならば、本問における後訴請求は前訴判決の既判力の範囲において許容されないこととなる。この点、参考判例①は、前訴の基準時後の物価価価価や土地価格の高騰といった通常事情により、前訴における認容額が適正賃料額に比較して不相当なものとなった場合に生じる差額相当損害金については、前訴の段階において主張、立証することが不可能であり、これを請求から除外する趣旨のものであることが明らかであるとみるべきであり、これに対する判決もまたそのような趣旨のもとに右請求について判断したものというべきであって、その後の訴訟で請求できるものと解するのが相当であるとして、前訴判決の既判力には抵触しないと判示して、前訴の請求は将来の損害額について明示的に一部請求と捉えることができるものとした。これより、「訴訟物=既判力」という図式は維持しつつも、前訴が一部請求であったと判断されるところにおいては、後訴における差額請求は認容されることとなることから(最判昭和37・8・18民集16巻8号1720頁参照→問題50)、増額請求を求める後訴は前訴の既判力には触れず適法な訴えとして認められることとなる。判例理論の採用する明示的一部請求肯定説は、一部請求が後訴請求を認めるという点に正当性を見出すことができるとするところ、本問も訴え提起がなされた時点での経済事情の変化によって高騰した部分を一部請求として主張する。その後の経済事情の悪化によって減額した部分については、後訴提起を予見すべきというもとになろう、というわけでは、後訴は全く同一の判決の許容性について問題視しており(例えば、最判昭和48・7・16民集21巻6号1559頁など)、(→問題50)、本問のような訴訟を用いることは一連の判例理論と整合性を欠くと評価しえ、反面、将来給付の減額といった事態に対しては、一部請求論を用いた対応は不可能であり、かかる事態への対応については本問の議論があるといわざるを得ない。3 その他の一理由構成判例が採用する一部請求論による理論構成としては、前訴が一部請求であった旨の何らかの窺えるような事情があることを前提とせざるを得ない。一部請求論は請求の趣旨の拡張の申出を本来のすべてのすべての額であり、また訴え提起がなされている。学説においては、これが、本来の給付の訴え、つまり、債権の全部額について判決を求める訴訟では、前訴の基準時までに保障されていた経済事情に基づくものと、強行法規の違反による無効であり、前訴において有効・無効を争うことができない場合にも既判力は及ばない、との見解が有力である。また、端的に、将来を予測してなされる将来給付の損害賠償額における認容額の既判力は柔軟性をもって、既判力の積極面から、将来の給付請求訴訟における認容額の既判力は柔軟性をもって、既判力の積極面と正面から認められる見解も有力である(道1860頁注18など)。さらに、口頭弁論終結前に生じた損害につき、定額金による賠償を命じた判決が確定した後に、損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる旨を定める民事訴訟法117条の類推適用を説く見解も存在する(伊藤眞544頁、松本=上野699-700頁など)、元来同条は、①家庭裁判所の判決によると、②口頭弁論終結前に生じた損害についての定期金判決による賠償に限る)変更の訴えを許すことを想定しており、将来継続的に発生する損害賠償を命じた判決について、同条の適用対象とされているが(法務省民事局参事官編「一問一答新民事訴訟法」〔商事法務研究会・1996〕132頁参照)、この立場は、本問のような場合であっても、前訴の基準時後の事情の変更によって金額が不相当になるという点では、同条の想定する現在の給付の訴えとしての定期金賠償請求の場合と共通性が認められ、同条の類推適用の余地がある。

「山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』商事法務、2024年」 ISBN978-4-7857-3092-5

既判力の時的限界

公開:2025/10/20

X・Y間の土地売買契約に基づき、買主Yが売主Xを被告として、土地所有権移転登記手続を求める訴えを提起した(前訴)。前訴ではY勝訴の判決が確定し、XからYへの所有権移転登記もなされた。ところが、その後Xは、この売買契約がYの詐欺によるものであったとして、訴状において取消しの意思表示をし、Yに対し所有権移転登記の抹消登記を求める訴えを提起した(後訴)。取消権の行使によりX・Y間の売買契約は効力を失ったとするXの主張は、前訴判決の既判力によって遮断されるであろうか。●参考判例●最判昭和55・10・23民集34巻5号747頁最判昭和40・4・2民集19巻3号539頁最判平成7・12・15民集49巻10号3051頁●解説●1 既判力の時的限界(1) 既判力の基準時民事訴訟の対象となる権利・法律関係は、時間の経過とともに常に変動する可能性がある。したがって、既判力が生じる範囲についても、いつの時点での権利・法律関係についてのものかを明らかにしておく必要がある。この「いつの時点」を明らかにするのが、既判力の基準時(または標準時)である。当事者は事実審の口頭弁論終結時までにおける裁判資料を提出することができることから、既判力の基準時は事実審の最終口頭弁論終結時ということになる(民執35条2項参照)。(2) 遮断効当事者は、後訴において、基準時以前に存在した事由(例えば、基準時以前になされた債務の弁済など)に基づいて前訴で確定した既判力ある判断を再度争うことは許されず、仮に当事者がこのような事由を提出したとしても、裁判所はそのまま審理に入らずにこれを排除しなければならない。これを既判力の遮断効という。このことは、当事者が基準時以前の事由が存在していたことについて、当事者が知っていたか否か、知らなかったことに過失があったか否かにかかわらない(過失)。2 基準時後に形成権の行使と遮断効基準時以前にすでに生じていた事由を基礎として生ずることを前訴判決の既判力により遮断されるが、基準時後に発生した新たな事由は前訴判決で確定された判断内容を争うことは既判力によって妨げられることはない。このことから、基準時後にする形成権行使の可否という問題が生じてくる。すなわち、前訴の基準時よりも前に成立していた取消権や解除権といった形成権を、基準時後にはじめて行使して前訴判決の内容を争うことができるか、という問題であるが、そもそもこれが問題とされるのは、仮に基準時前に形成原因が発生していたとしても、形成権これを行使してはじめて新たに実体法的な法律関係の変動が生じるものであるという形成権の性質に起因する。この問題について、今日の判例理論は、個々の形成権の制度目的やその発生原因たる事実の発生原因の発生原因との結びつきの有無などに応じて結論を異にする。すなわち、形成権による自己の自白権を基礎にするについては、請求権自体に付着する瑕疵であるとして基準時までに行使するのが(参考判例①)、最判昭和57・3・30民集36巻3号501頁など)、相殺権については、自己の債権を積極的に行使して相手の請求の消滅を図るものである以上、前訴でこれを行使するか否かは相殺権者の自由であり、当然なすべき基準時であるとはいえないという点で、取消権の場合とは異なるとして基準時後の行使を認めている(参考判例③)。また、建物買取請求権や借地権の行使を認める(参考判例②)。学説においては、基準時後に形成権行使の効果の差異は既判力によりもたらされるものに過ぎないとする見解も有力である(中野1・243頁以下)。もっとも、この見解は既判力制度が目指す安定的な効果を強調して、基準時前に形成権が成立していた以上、前訴において形成権を行使し権利変動を生じさせておくべきであり、後訴における形成権行使は既判力によって遮断されると解する立場と、個々の形成権ごとに個別的に判断を認めるというとするものと、その理論構成についての選択肢は与えられている。例えば、提供責任説という考え方がある(上田徹一郎『判決効の範囲』〔有斐閣・1985〕235頁以下)。これは、形成権の遮断を伝統的な既判力の時的限界の問題として捉えるのではなく、①一方で、形成権を基準時前に提出しておくべき責任を強化する方向に働く要因として、当事者が内包するあらゆる攻撃防御方法が展開されたことを条件として生じる既判力が存在するが、他方で、②その事由を訴訟上主張・立証することがその者の実体法上の地位の否認として客観的に期待できない場合には、たとえその事由が基準時前に存在していたとしても、後訴でその提出が認められるべきであるとの要請が認められ、これを実体関係的に手続保障と称する。また、形成権行使責任説という考え方(河野正憲『民事訴訟法』〔有斐閣・2009〕384頁以下)は、既判力の遮断効を訴訟手続上に当事者に要求された攻撃防御方法の懈怠による自己責任(形成権行使責任)に求めた上で、形成権の遮断については、実体法において解除権や取消権の行使の催告権(民547条)や追認による取消権の消滅(同122条・125条)の規定があり、またこのような明文の規定がなくともこれらの場合と同視できる事情があれば、形成権者に対して形成権行使責任を負わせてもよいとする。さらに、形成権について一般的に遮断を肯定する多数説の立場の中にも、前訴において形成権の行使を主張することが期待できない特別な事情がある場合には、既判力による遮断効も生じないとして、期待可能性による調整を認める見解も存在する(道1614頁など)。3 個別的考慮判例がさらに多数説の立場に立つと、取消権、解除権、手付の白紙撤回権などの形成権は、請求権自体に付着する瑕疵であるとして基準時後の行使を否定することになる。とりわけ本問のような取消権については、取消しなくとも重大な瑕疵であるため裁判所が調査されることの対象が広いことも理由として挙げられる。他方、相殺権や建物買取請求権については、遮断を否定する。その理由としては、相殺権の場合は別個独立の債権に付着する瑕疵ではなく、訴訟係属中の請求権とは別の債権として行使すべきであって、相手の請求の対象の瑕疵であるからである。相殺権の行使については他の形成権以上に被告の判断の自由を尊重すべきであるといった点が、また建物買取請求権については、これもまた建物収去土地明渡請求権に付着した瑕疵ではなく別個独立した権利であり、基準時後の行使を認めることで借地人の保護にも資し、被告が原告の主張する借地権の不存在ないしは消滅を争うときに予備的抗弁として建物買取請求権を行使できることとする。これに対し、取消権については既判力の遮断効を肯定した参考判例①では、「当事者が右売買契約の詐欺による取消権を行使することができたのにこれを基準時前に行使しなかったものと認められる」旨の判示がなされているが、この判示の読み方につき、既判力の遮断効が認められるか否かの基準に期待可能性の観点をも取り入れたものと理解すべきか否かについては見解が分かれる。これに対し、遮断効否定説の立場からは、本問における取消権の場合についても後訴における行使は遮断されることになる。その理由としては、多数説の挙げる当然無効の主張をするについては、ある法行為を無効とするか取り消し得るものかは立法目的の違いであって期待可能性としては民事訴訟法をもとに加え、多数説のように既判力が既判力の範囲を逸脱し基準時後の行使を否定することは、取消権者に認められている取消期間(民126条)を奪うことになり実定法上の規定に抵触するといったことが挙げられる。次に、提供責任説の立場からは、形成権を基準時前に行使するか否かは、上述の①と②の2つの要素の緊張関係の中に論点を見出すべきであり、①の要求が②の要求に比べて圧倒的に強ければ提出責任は無条件に肯定(遮断効肯定)されるが、逆に②の要求が優先する場合には提出責任は否定(遮断効否定)されるとする。具体的には、相殺権の場合に被告にあたり提出責任は否定されるとする。他方、取消権については、取消権者が原告(債権者)の場合には、本来の履行を求めることも取消権を行使して原状回復を求めることもできる実体法上の地位にあり、前訴で債権者が取消権を行使しないで本来の履行を求めていた場合には、取消権につき前訴での提出責任は否定されるが、取消権者が被告(債務者)の場合には、本来の履行を求め得る実体法上の地位にないことから、取消権について前訴での提出責任が認められる(解除権についても同様)。最後に、形成権行使責任説の立場は、取消権・解除権・建物買取請求権についても取消権と同様の防御権能をもち、前訴においてその行使についての決断が促されているとする)については形成権行使責任が肯定され、遮断効が肯定されるのに対し、相殺権については、これが早期に行使すべきとする規定は存在せず、遮断効を認めることは自動債権の強制徴収機能を阻害し相殺権者に過度の要求になるとして形成権行使責任を否定する。

「山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』商事法務、2024年」 ISBN978-4-7857-3092-5

残部請求と信義則違反

公開:2025/10/20

XはYとの間で、Yの所有する別荘を代金1億円で購入する旨の売買契約を締結したが、履行期に別荘が引き渡されるまでの間に、同別荘は焼失してしまった。Xは、同別荘の焼失はYの責めに帰すべき事由によるものであり、Yの債務不履行(履行不能)による損害賠дося 3000万円であり、そのうち一部として500万円の支払を求める旨を明示して損害賠償請求訴訟を提起した(前訴)。裁判所において、Yは自らに帰責事由はなかったとしてXの請求を争ったが、審理の結果、裁判所はYの過失の存在は認定できないとして、Xの請求を棄却する判決が言い渡され確定した。その後、Xはあらためて上記損害額の残部である2500万円の支払を求める損害賠償請求訴訟を提起した(後訴)。この後訴は、認められるであろうか。●参考判例●最判平10・6・12民集52巻4号1147頁●解説●1 一部請求に対する残部請求の可否数量的に可分な請求権につき、当事者(原告)が、その一部についてのみ訴求すること(一部請求訴訟)については、処分権主義の観点からも当然に認められる。しかしながら、一部請求を認めて原告の利益のみを図ろうとすることは、他方で、実質的には同一の紛争についての応訴の負担や重複審理による非効率といった被告側や裁判所の不利益も大きいことから、一部請求後にする残部請求が一般に許されるか否かという点が、古くから論じられている。この点について、学説上はさまざまな見解が存在するが、大別して、全面肯定説、全面否定説、中間説といった見解が見られる(→問題50)。他方、判例は、明示的一部請求肯定説の立場に立っているとされ、黙示の一部請求の場合には、訴訟物は債権全体であり残部請求はもはや許されないが(最判昭32・6・7民集11巻6号948頁)、明示の一部請求の場合には、訴訟物は明示された部分に限定され残部請求は許されるとする(最判昭和37・8・10民集16巻8号1720頁)。このように従来の判例理論は、「訴訟物=既判力」といった枠組みを前提としたものといえる。2 一部請求棄却の場合の残部請求本問のように、前訴における残部請求が棄却された場合の後訴請求の可否について、学説上の考え方に従うと、全面肯定説の立場では当然に残部請求は認められるのに対して、全面否定説の立場では当然に残部請求は認められないことになる。また、中間説の立場からは、一部請求が棄却の場合には残部請求を認めないとする見解が多いといえる。明示的一部請求肯定説に立つ判例理論による場合には、どのように考えるべきであろうか。本問のように一部請求である旨を明示していた前訴において請求が棄却された場合であっても、従来の判例理論に従う限りにおいては、明示がなされている以上残部請求は許容されることになりそうではある(なお、従来の判例はいずれも前訴で一部であるか否かが問題となった)。しかしながら、前訴で請求棄却という結論にまで至った理由としては債権全体の不存在という判断(もっとも、これは判決理由中の判断ではあるが)がなされたからであり、そうだとする残部請求を許容したところで結局は同じような審理経済の繰り返しを招来することになりかねない。そこで、参考判例①に掲げた最高裁は、全損害額の数量的一部請求を棄却する旨の判決は、債権の全部について行われた審理の結果に基づいて、当該債権がまったく現存しないかまたは一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって、後に残部として請求された部分が存在しないと判断を示すものにほかならないと前提したうえで、「一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、特段の事情がない限り、信義則に反して許されない」と判示し、信義則による残部請求の 後訴を制限する。これをどう理解するかについては、金融債権の数量的一部請求であってもおのずから債権全体の審理判断が必要となり、当事者の主張立証の範囲・程度も通常は全額請求の場合と変わらないこと、一部請求を棄却する判決は残部不存在の判断を示すものであるから、蒸し返し的後訴について被告の応訴についての被告の報告に理由がない、主張立証の負担を強いること、といった点が挙げられている。残部請求を既判力によって遮断することに対して疑問が呈され、一部請求の 後訴部分の矢櫃の可否が問題となり、信義則に基づく訴訟物の枠を超えた 失権効の一種であるとする見解も学説上では有力に唱えられているところで あり、信義則による残部請求の後訴を遮断する最高裁の考え方は、このよ うな有力説にも面する(ものでなく)。しかしながら、最高裁の論理は、債権全体の存否が一度は審理の対象とな りその不存在についての判断がなされたにもかかわらず、後訴においてこれ をあらためて主張することは蒸し返しであり信義則に反するとするもので あって、あたかも判決理由中の判断に拘束力を認めたともとられかねない。 そもそも従来の判例理論が、明示の一部請求に限り残部請求を許していたの は、一部請求訴訟を認めた場合に残部を証明すること可能性とを両方に 通じ、相手方当事者が前訴における訴訟において得ること期待した紛 争の全面的解決の幅をあらかじめ限定する場合にほかならない。したがって、 原告が一部請求で全部請求した場合に下した結論と矛盾が生じないことになり、それにもかかわらず前訴で一部請求が功を奏さなかったから あらためて残部請求をするというのは信義則(権利失効の原則)に反する、 と捉えるのであろう。3 信義則による残部請求の遮断参考判例①により用いられた信義則による残部請求の遮断という手法は、 従来の判例理論により構築された残部請求の可否を認める「訴訟物= 既判力」という枠組みを維持するものであるが、前訴における審理の対象が実質的には債権全体に及んでいるものであることから、従来の「訴訟物=既判力」の枠組みを超えて、実質的には紛争の蒸し返しと思われる後訴を信義則により遮断するという手法は、すでに最高裁自身も認めていたところであり(最判昭和51・9・30民集30巻8号799頁など)、参考判例①で示された最高裁の考え方は、一連の最高裁判例の延長線上にあるものともいえる。もっとも、信義則によって後訴が遮断されるのは、①後訴が実質的に前訴の蒸し返しであって、②前訴において後訴請求をすることに何ら支障がなかったのに、③後訴提起に至る時間経過により、被告の地位を不当に長く不安定な状態に置くことになること、といった要件を満たすことが求められるが、個別的に判断されるものである。これに対し、参考判例①の示す信義則による残部請求の遮断という手法は、一部請求の前訴の棄却判決となるためには、審理の範囲が債権全体に及ぶことになるところ、債権の存否が否定された部分については被告に紛争解決の合理的期待が生じているにもかかわらず、これに反して残部請求することは信義則に反するという理論に基づくものであることから、信義則の不遵守への「特段の事情」がごく例外的にしか当てはまらないとすれば、もはや信義則の個別適用の結果ではなく、制度的な効力に近いものとなるともいえ、信義則による残部請求の遮断を認める一連の判例理論よりもさらに踏み込んだものとなっている。それゆえ、参考判例①のいう残部請求が認められるための「特段の事情」がどのような場合に認められるか問題となる。この点については、棄却された理由として、事実認定を誤って事実を否定するものであり、この場合、請求棄却された損害項目についての残部請求は妨げられないとする(最判平20・7・10判時1463号4頁はその一例といえよう)。

「山本和彦編著、安西明子、杉山悦子、畑宏樹、山田文著『Law Practice 民事適当法〔第5版〕』商事法務、2024年」 ISBN978-4-7857-3092-5
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