XはYに対し、貸金債権の支払を求めて訴えを提起した。Yはこの訴訟で予備的に、Xに対する反対債権による相殺を主張した。第1審はXの貸金債権の存在は認めつつ、予備的相殺の抗弁を容れて、結論としてXの請求を棄却した。これに対しXは控訴したが、Yはしなかったとき、控訴審における審理の結果、第1審とは逆に、Xの貸金債権はそもそも存在しないと判断した場合、控訴審はどのような判決ができるか。参考判例最判昭61・9・4判時1215号47頁解説1 控訴審の審理構造控訴審の審理対象は、控訴の適否と第1審判決に対する当事者の不服申立ての当否である。控訴審では控訴が不適法でその不備を補正できないときを除き(290条参照)、必ず口頭弁論を開かなければならないが(87条1項)、控訴審の審理対象は不服の当否であるから口頭弁論もその限度で行われる(296条1項)。不服申立てを認めて第1審判決を取り消す場合には(315条・306条)、請求自体について判断することになる。控訴審は第1審の事実審として必要な範囲で独自に事実認定を行う。その資料は第1審に提出された資料に控訴審で新たに提出された資料を加えたものである(続審主義)。ただし、控訴審の裁判は第1審に参与していないので、第1審で提出された資料を控訴審判決の資料とするためには、裁判官が交替した場合と同様に直接主義の要請に基づき、第1審における弁論の結果を当事者が陳述しなければならない(296条2項、弁論の更新)。控訴裁判所は控訴または附帯控訴によってされた不服申立ての限度でのみ第1審判決の当否および変更をすることができる(304条)。上訴による確定遮断および移審の効力は、上訴人の不服申立ての範囲にかかわらず、上訴の対象となった判決全体について生ずるが、上訴人の不服のない部分についてまで裁判所は判断する権限はもたない。この結果、不服申立てのない部分について裁判は確定し(上訴不可分の原則)、この結果の範囲を拡張し、被上訴人が附帯控訴をしない限り一部のみが控訴審の対象とする。控訴人は、被控訴人の利益を害さなく、その一部のみを控訴審の対象とすることができる。例えば被告が500万円の請求を認容し、300万円の一部認容一部棄却判決を得た場合、原告は棄却部分の200万円の限度で控訴することができるが、100万円の限度にとどめることもできる。それを控訴審の口頭弁論終結時までに200万円まで拡張できるとする。これに対応して、被控訴人も審判の対象を自己に有利に拡大することを求めるため、その申立てでは500万円全額が移審しているところで、第1審で認容された300万円の部分について審判対象とするよう求めるのが、附帯控訴である(293条)[→問題73]。2 不利益変更の禁止控訴審の審理の範囲は、控訴によってきた不服申立ての限度に画されるので(304条)、控訴がない限り、控訴審は第1審判決を不利益に変更されることはなく、被控訴人の場合も控訴審の判決が下されるにとどまる。これを不利益変更禁止の原則という。例えば第1審で300万円の支払を命じられ、原告が200万円しか存在しないから心外だとし、被告が原告の請求権は200万円しか存在しないから心外だと判決し、控訴人が300万円の支払を求める訴えを認めて控訴を棄却して300万円の支払を命じるにとどまる。逆に原告が不服を申し立てた場合に控訴審が第1審の500万円認容判決よりもさらに原告に有利に800万円のうち100万円だけを不服として、控訴審が300万円の請求権はあると判断したとしても、100万円円を越えて200万円を認容に変えることはできない。控訴していない部分は不服申立ての対象ではないからである。不利益変更禁止の原則により控訴人の保護が図られるのに対し、被控訴人が自己に有利な(控訴人に不利益な)判決を得たいのであれば、審判の対象を拡張するために前述の附帯控訴をすればよい。不利益変更禁止の原則は、当事者の不服申立てがない限り、それに対応する裁判をすることさえできないということであり、一応は処分権主義(246条)に基づくものとされてきた(これに対し、控訴制度の趣旨に基づくとする説もあり、処分権主義で説明できない場合に不利益変更禁止の原則独自の窮屈を認めるのは、宇野・不利益変更禁止原則の機能と限界(2・完)民商法雑誌103巻4号(1991)601頁)。したがって判例通説によれば、処分権主義と関連させれば、不利益変更禁止の原則は適用されない(最判昭38・10・15民集17巻9号1220頁)。また、職権調査事項についても、例えば一部認容判決に対する原告の控訴において、第1審が判断した請求について不存在と判断し、請求棄却とするのは不利益変更ではない。訴え却下の判決が下される。とされ、訴訟費用の妥当性から、一部認容部分も取り消して、控訴人に不利益訴え却下判決ができるというのである。3 予備的相殺の抗弁控訴審の裁判が申立てに拘束され、控訴人に不利益に変更できないというのは、判決の主文を基準としている。判決理由には既判力が生じない限り、不利益変更禁止は問題ない。そこで、例えば請求を理由とした請求棄却判決を、消滅時効を理由として控訴審がすることは差し支えないとされる。他方、本問の、判決理由中に既判力が生じる相殺(114条2項)について、不利益変更が問題となる。予備的相殺が認められて請求棄却判決を得た被告も原告の利益もそこから[→問題72]、本問はこれに被告が控訴する。この控訴が認められれば控訴審で原告の請求権があると判断されるのであれば、原判決取消、請求棄却となる。控訴審が訴求債権は認めつつ、第1審と異なり反対債権なしと判断した場合、もし請求棄却にすれば、これは不利益変更になるので、控訴審にとどめなければならない。次に、本問の通り、予備的相殺で請求棄却となった原告の控訴が申し立てられ、請求認容と判断された場合に、これと理由とする棄却判決は第1審の判決の認容と判断を認めたことの違い、反対債権の不存在に判決を下したという点で被告への不利益となる。そこで学説としては、その判断内容で、被告への不利益とはならず、請求棄却として控訴棄却を維持するにとどめなければならず、被控訴人が附帯控訴を提起して、請求認容判決を得て、あらためてその請求権なしという理由での棄却判決をするためには、Yの控訴または附帯控訴が必要となる。以上の通り判示するのが、参考判例である。この事案は、XがYに貸金をしたところ、Yは「賭博債務である」ことを知ってXの貸金請求を棄却した(民708条)。仮にそうでないとしても反対債権で相殺すると主張し、第1審は予備的相殺を認めて請求棄却とした。Xが控訴したのに対し、控訴審は、賭博につき反対債権として相殺として原判決を取り消し、請求を認容した。Yが控訴したところ、最高裁は本件貸金債権は民法90条により無効であると判断した。このような場合、最高裁は原判決を破棄するが、すると控訴申立てに対する応答がない状態になるので、原々裁判所に差し戻し(325条)、自ら判決をする(326条)[→問題76]。そしてこの事案では本案は相殺について判断するまでもなく請求棄却であるので、Yがしていない(上告したのはYだが原審被告としては不利益にはならない)ので、控訴審としては、Xに認容してはならず請求を棄却し、Yの控訴を棄却した。4 審判範囲の限定しかし、このように原告のみが控訴した場合、被告が附帯控訴もしない場合は、控訴審は請求権を棄却する部分の当否を審判するのか。控訴審は控訴の対象として、控訴部分である反対債権に絞られ、請求権の存否は審判対象とならず、控訴審は反対債権の存否しか審判判断できないという考え方もある。この説によれば、控訴裁判所は、訴求債権が存在しないと判断するときも、反対債権が存在しないと判断するときは、原判決を取り消し、請求を認容することになる。そもそも請求債権について審理判断すること、自体、許されない。不服を申し立てた原告が反対債権を審判対象としていること、被告が附帯控訴での機会を利用せず、請求債権について審判対象としなかったことを重くみており、当事者の申立てによる審判の範囲を厳格に捉える立場といえよう。この少数説に対しては、控訴審の判断内容に反する処理の落ち着きの悪さが問題とされているほか、次のような批判がある。すなわち、不利益変更を処分権主義から導く立場からは、被告が不服申立てをしなかったのは、判決主文において請求棄却された結論はよしとし、基準時における反対債権の不存在について生じる既判力を争わないという意思にとどまるから、請求を認容することは許されないのであって、控訴棄却にとどめるべき、と。なお、固有的必要的共同訴訟において不利益変更禁止の原則が問題となった判例(最判平22・3・16民集64巻2号698頁)については、同じく合一確定の要請が働く独立当事者参加のところで紹介している[→問題2、3]。参考文献山本=本問表題215頁/瀬崎=百選222頁(安西明子)
地主Xはその土地上に建物を所有するYに対し、建物収去土地明渡しを求める訴えを提起した。訴訟係属後、Yは建物をZに譲渡し、現在は上記建物をZが占有している。XはZに訴訟を引き受けさせることができるか。Zの訴訟承継が認められた場合、その承継以前にYが、少なくとも土地の賃借権の抗弁は成り立つと判断し、Xの土地所有権を自白(権利自白)していたとする。このとき、Zは、Xに無断で建物をYから譲り受けているので、Yの賃借権に頼るのでは不安を感じ(民612条、借地借家19条)、Xの所有権を争うことはできるか。参考判例最判昭52・3・18金法837号34頁最判昭41・3・22民集20巻3号484頁解説1 訴訟承継の効果――実体法上の効果訴訟承継とは、訴訟の係属中に当事者が死亡したり、係争物が譲渡されたりした場合に、それを訴訟手続に反映させ、当事者を交替させて新当事者は旧当事者の訴訟上の地位を受け継ぎ、手続を続行させる制度である。訴訟承継があれば、承継人すなわち新当事者は旧当事者が追行した訴訟の結果を承継し、それに拘束されるものとされている。口頭弁論終結後の承継人には既判力が及ぶのだから(115条1項3号)、その中間過程ともいうべき訴訟係属中に死亡、係争物の譲渡等があった場合にも、既存の訴訟の形成過程である訴訟状態を相続人等に引き継がせるのが合理的と考えられてきた[→問題71]。判決も、訴訟承継の効果として、承継人は既存の訴訟状態を全面的に引き継ぐとしている。参考判例①は、かつて権利承継人には参加承継、義務承継人には引受承継の規定しかなかった旧法下で、権利承継人に引受承継が認められるとした事案である(現在は権利承継人の引受承継、義務承継人の参加承継が明文で認められている、51条)。この判決理由の中で、引受承継が命じられた承継人は被承継人と相手方との間の既成の訴訟状態をそのまま利用することができる地位に立つものであるから、被承継人の訴え提起による時効中断の効力は承継人についても生ずる、と述べられた。しかし、その後、訴訟承継の効果について議論が深まり、旧当事者の訴訟状態を全面的に引き継がなければならないのか、疑問が投げかけられるようになっている。この訴訟承継の効果は実体面と手続面に区別でき、前者については、旧当事者による時効完成猶予、期間遵守の効力は新当事者の下でも維持されることが規定されている(49条)。問題は後者で、訴訟承継の手続的効果として、旧当事者による従前の弁論や証拠調べの結果に、新当事者が拘束されない場合はあるのではないか、と考えられるようになった。さらに特定承継については、参加承継にしても引受承継についても、訴訟承継を認めたからといって、新当事者がそれまでの訴訟状態を全面的に引き継ぐ必要はないとし、承継の範囲と効果の将来を切り離す分離説が出てきている。2 訴訟承継の効果――審理原則本問で、まずはXは承継人となれるか。XはYだけを相手に訴訟していてもZとの間で紛争が残り、Zに対して新たに建物収去請求の訴訟を提起すれば、これまでの訴追行の結果を無駄にすることになる。このような場合、Xの申立てによる引受承継によりZにX・Y間の訴訟にYが参加する承継の効果が生ずると解され、学説による介入訴訟による承継を認めるならば、ZはY(紛争の主体たる地位)を承継した者として、訴訟承継が認められるであろう[→問題71および参考文献]。この場合、引受承継であるから、従前の当事者X・Y間の訴訟に引受申立人と引受人(承継人)Zとの訴訟が共同訴訟の形で追加されたことになる。民事訴訟法50条3項は同法41条および48条を準用しているので、同時審判の申出がなされた共同訴訟と同様の処理が妥当し、分離の分割部判決は禁止されるが、その限りで審理の統一が図られるだけで、基本は通常共同訴訟である。これに対し、Z自身が参加承継した場合にも、参加の方式も参加形態も独立当事者参加になるので、同法47条1項による40条1項から3項の準用により、必要的共同訴訟の手続法理が妥当するとされている。このように、参加のイニシアティブが異なるだけで、一方は合一確定、他方は任意で訴訟資料を規定するのは極端であるので、問題とされている。解釈上、Z・Xの形成した従前の訴訟状態に拘束されるか考えたとき、ZがYの形成した従前の訴訟状態に拘束されるはずで、ZがYの自由に将来されるいのではないかとの疑問がわく。3 訴訟承継の協議従来、原則的には、訴訟承継があれば承継人は前主の訴追行為に基づいて形成された訴訟状態を全面的に引き継ぎ、弁論および証拠調べの結果を含めて、前主の自由に行えるべきである。時機に後れた攻撃防御方法など前主がすでにできなくなった行為はできないとされる。しかし、訴訟状態を承継することの実質的根拠が、承継人の利益が前主によって代弁追求されることに求められるとすれば、この前提を欠く場合に、訴訟状態を承継しない場合があってよいと考えられるようになっている。そこで、例えばX・Y間で馴れ合い的な訴訟が行われたことを知らずに係争物の譲渡を受けたような場合にその第三者の主張を許すとか、係争物の譲渡後、引受けがなされるまでの間に前主がした自白には拘束されないなどとする立場がある。これは訴訟承継の効果は無制限ではないとし、限定的にZの拘束されない場合を認める説である。また、本問のように、自己の争い(自己の所有権の主張やこれを基礎付ける攻撃防御方法の提出は妨げられない。そして、Yは自己の自由に将来される訴訟状態の全面引継ぎに疑問を提示する学説も生まれた。そうして、より一般的に、承継人固有の攻撃防御方法の提出はそれまでの手続形成の状態にかかわらず制約されないことはもちろん、前主によって承継人の利益が十分に反映されていない場合には、承継人に独自の立場から主張・立証の機会を与えるべきであり、承継人がどのような場合にどの程度これまでの手続形成に縛られて新たな手続追行が是認できるかは、当該手続の具体的段階と承継人の紛争内容の実質によって弾力的に判断すべきである。この立場、参加承継・引受承継の性格が特定されて訴訟を引き受けたかどうか、訴訟承継の引継がなされなければならないという(旧法11条1項など)、必ずしも一致せず、当事者が肯定されても被告は部分的にしか肯定されないことを認める学説である。これを受けて、訴訟承継の要件の面では、「紛争の主体たる地位」を承継した承継については手続を混乱させない限り参加引受けも広く認め、参加承継の訴訟状態の承継については完全に否定する学説も現れている(新堂・後掲355頁)。4 本問について本問についても承継人Zは従前の訴訟状態をそのまま引き継ぎ、Xの所有権について自己の権利(権利自白)を争うことはできないという立場である。けれども、本問は訴訟承継の学説が、Yが前訴行為を行う必要のなかった訴訟の承継人Zは拘束されないとして許される、有力な説である(藤永・最判「参加承継と引受承継」三ヶ月章ほか『新民事訴訟法講座3』(有斐閣・1983)47頁)。承継人Z固有の攻撃防御方法は、従前の訴訟状態に拘束されずに提出できる。訴訟承継の根拠が、口頭弁論終結後に係争物の譲渡があった場合、譲渡人のX・Y訴訟追行の結果がZに及ぶ(115条1項3号)、Zに固有の攻撃防御方法がある場合には(執行力が及ぶ)承継人に当たらないとの判断であり、逆にZは承継人に当たり既判力が及ぶとする説もある。固有の攻撃防御方法は既判力に遮断されないと解せる。いずれにせよ譲受人に固有の攻撃防御方法を前の既判力に抵触させず、自由にできるべき根拠はない[→問題99]。ここから訴訟承継の場合、承継人に固有の攻撃防御方法はどうしても許されるところで、前主の自白に拘束されず、承継人Zに固有の攻撃防御方法を認めても、Xの利益を守るため独自の立場から、主張・立証が許されると解するのが支配的である。前主Yを主張・立証の機会があったが、その攻撃防御方法のもつ意味がY・Zで異なる場合である。
YはXから土地を賃借し、その土地上に建物を建築した。その後、YはXに無断で上記建物の2階部分をZに賃貸したため、XはYに対し、賃貸借契約の解除に基づく建物収去土地明渡訴訟を提起した。しかし、第1審係属中にYが死亡した。またYは、第1審係属中、死亡前に建物をZに賃貸しており、いまも上記建物はZが占有していることがわかった。このときX・Y訴訟は手続を続行できるか。できるとすれば、誰がどのような手続をとればよいか。参考判例最判昭41・3・22民集20巻3号484頁解説1 訴訟承継の制度訴訟はその開始から終了まで、それなりの歳月を要するので、訴訟係属中に当事者が死亡したり、係争物の譲渡その他の処分がなされることは、あり得る。本問のように在来の当事者Yとの間で訴訟を続行することはできないし、紛争は残存するであろう。またX・Y訴訟を無にして、相続人または係争物の譲受人に対して新たに訴訟を提起させなければならないとすれば、Xの負担は大きい。また、口頭弁論終結後の承継人には既判力が及ぶのだから(115条1項3号)、その中間過程ともいうべき訴訟係属中に死亡、係争物の譲渡等があった場合にも、既存の訴訟の成果をある程度引き継がせるのが合理的である。そこで、訴訟係属中の当事者の死亡等に訴訟手続に反映させ、当事者を交替させ、かつ新当事者は旧当事者の訴訟上の地位を承継することとして、訴訟の続行を図ったのが、訴訟承継の制度である。訴訟承継には、当然承継と参加/引受承継の2種類がある。前者は、当事者の死亡等の一定的原因により旧当事者の地位を新当事者が包括的に承継し、当然に当事者の変更、訴訟承継が行われる場合である。後者は係争物譲渡等の承継原因が生じたときに(上記の包括承継に対して特定承継という)、譲受人等の承継人となるべき者が訴訟への参加を申し出るか(51条・49条)、またはその者が訴訟を引き受けるよう相手方が申し立てるのではなければ(50条)、当事者の変更すなわち訴訟承継が行われない場合である。狭義の訴訟承継とは後者を指す。特定承継について訴訟係属中にはそもそも係争物の譲渡を禁止する、当事者変更を判決の効力も譲受人に及ぼすと考え方もあり得るが(当事者恒定主義)、係争物の譲渡を自由に反映させ、承継人自身に手続を保障する現行制度(訴訟承継主義)のほうが優れている。他方、それではXとしてはYから第三者への譲渡や賃貸を見過ごしていればならないのではない困るので、訴訟承継主義の下でXには対抗措置として当事者判定のための処分が用いられる。しかし、Yから第三者に係争物が譲渡されないよう処分禁止の占有移転させないよう占有移転禁止の仮処分を申し立てることができる(民保53条・55条〜64条)。訴訟承継があれば、承継するとする新当事者は旧当事者が追行した訴訟の結果を承継し、それに拘束される。時効完成猶予、期間遵守の効力は維持され、係争物の譲渡を証拠調べへの結果は新当事者を拘束する。これは当然承継と参加・引受承継との違いではない。2 当然承継本問のYのように当事者の死亡すると、その地位が相続人に当然に承継される、と解されている。当然に当事者が変動するときは、新当事者の裁判を受ける権利を保障するため訴訟手続を中断させ、新当事者に受継させることになるのだが(124条以下)、訴訟代理人がいるときは中断・受継の手続を踏まなくてよいとされているので(同条2項)、訴訟代理人がそのまま手続を続行するのです当事者変更を申す必要はない。なお民訴規52条)、そのことが当然の承継を表している、というのである。しかし、代理人か当事者が旧当事者の死亡の事実と承継人であることを届け出なければ相手方当事者も裁判所もわかりようがない。当事者が全く届け出なければ訴訟の変更もわからない。このような場合に当事者が誰も届け出ないうちに訴訟が変更も変わっていたとみるのは、不自然である。本問でいうと、Yに訴訟代理人がなくYの死亡が判明すれば、その相続人の訴訟承継をするべく中断と受継を求めるか(124条1項1号)、訴訟代理人がそれをするか(126条)、裁判所が続行を命ずるか(129条)、Yに訴訟代理人があり、Y死亡の事実を知るときは、あらためてZの相続人から受任を受けて、以後は相続人の名で手続を進めるべきである。Zや裁判所が独自にY死亡を知ったときはYの訴訟代理人にそのように促すよう努力ができることであろう。けれどもY死亡と訴訟承継を明らかにするYの訴訟代理人がYの名で手続を進めると、中断・受継その他の手続もとらずに、このまま訴訟代理人が出て処理したことが問題とされている。しかしY死亡とYの名であっても実質を承継人(相続人)に対して判決されたものとみるとみるべき、とされている。3 参加・引受承継――承継人の範囲他方、本問のZについては参加/引受承継が問題となる。Zが自ら独立当事者参加(47条)[→問題70]の形式で追加参加してくるか(参加承継)、Xが訴訟引受けを申し立てることになる(引受承継)。通常、参加承継は、原告勝訴の見込みがなくなったとき(Xが勝てばZに引き渡されることが権利承継人の場合、49条)、本問のように被告側でできる(義務承継人の参加承継、51条)。現行法は、権利承継人の参加承継と義務承継人に対する引受承継に加え、権利承継人にも参加(最判承継人)を認め、権利承継人にも引受けさせることを明らかにした(同条)。しかしそもそもZが参加し、引受けを求める承継人と認められるか参加/引受けの範囲が問題となる。学説は、承継人は訴訟/引受承継の範囲は口頭弁論終結後の承継の範囲(115条1項3号)と同じであるとし、かつては訴訟物内容と連動して承継を解する説(訴訟物承継説)をとっていた。典型的には、建物収去土地明渡請求訴訟中に建物の所有権を取得する場合、当事者適格の移転、承継を認めた。しかしそれは本問のように、XはYに対し契約解除による建物収去土地明渡しを請求するが、Zに対しては契約関係はないので所有権に基づいて、しかし建物を違法占拠する請求という、承継人に対する請求内容と旧請求が一致しない場合には対応できない。本問とした参考判例①の事案では、XがZに対し所有権に基づく建物退去請求を立て、訴訟引受を申し立てたもので、Zは、X・Y請求は債権的請求権、X・Z請求は物権的請求であるから両者は別個で、Zは「訴訟の目的である義務の全部又は一部を承継した」(50条)とはいえず、承継ではないと結論した。しかし、従来、判例は物権的請求権に基づくかどうかで区別していなかった。さらに本問とした参考判例①は、承継人との間の新訴訟と旧訴訟と異なる場合にも訴訟引受けができることを明らかにし、その根拠を実体法的な観点からだけでなく訴訟法的な観点から実質的に考慮するとした。すなわち、Xに対するYの契約終了に基づく地上建物の収去義務は建物から立ち退く(義務も含み、この退去義務に関する紛争は建物の占有を承継するZに移行し、Zは「紛争の主体たる地位」をYから承継したとする。実質的にみても、Zの地位はYの主張と証拠に依存する。Zの訴訟引受けにより紛争の実効的解決が図られ、Xの保護になるので、XがZに新たに訴訟提起する代わりにZにX・Y訴訟を承継させたい、と)。したがって、本問ではZは訴訟引受けの申立てができる(Zから参加承継も可能)。なおここでは承継といっても、旧当事者と新当事者が交替するのではない。X・Z訴訟はZに承継されるとともに、旧当事者Yへの訴訟は前述2の通りYの相続人にも承継され、Y相続人に対しては建物収去土地明渡請求(Yが死亡していなければX・Y請求は残ったまま)、X・Z間では建物退去請求が併存することになる。4 学説の展開学説は、本問のような訴訟物から派生する権利関係に対応できないことを認識するようになり、従来の「訴訟物承継の連続」ではなく、「紛争の主体たる地位」の承継に賛成している(新堂幸司『訴訟物と争点効』(有斐閣・1988)207頁)。さらに一部の学説は、すでに審理を終えた後の口頭弁論終結後の承継人と比べ、これから審理が続く訴訟承継の場合は、関連する新紛争を取り込むことで、承継の範囲が広くてよいと考えるようになっている。また参加承継と引受承継では考慮要素が異なり、前者のほうがより広くてよいという考え方も生じている。参加承継は自発的であるのに対し、引受承継では、自分の関与していない訴訟状態を引き継がされるので、承継人の手続保障をより厳密に考える必要があるがある、というのである。ただし、参加承継にしても引受承継にしても、訴訟承継の効果について旧当事者の訴訟状態を全面的に引き継ぐと考えてよいか、疑問が向けられるようになっている。訴訟承継はあるが、その効果として旧当事者による訴訟記録に反映されない部分があったものではないか、というのである[→問題72]。参考文献重点講義民訴563頁/日比野泰久=争点90頁/厚=百選216頁(安西明子)
XはYからある書画を買ったとして、Yに対し所有権移転登記手続を請求する訴えを提起した。しかしZも、同一家屋をYから買ったというとき(二重譲渡)、ZはX・Y間の訴訟に参加できるか。Zが、Yに対して上記請求を立てただけの参加と、これに加えてXに対しても家屋所有権確認請求を立てている場合とで参加が認められるかどうかには違いはあるか。参考判例最判平6・9・27判時1513号111頁解説1 独立当事者参加の意義補助参加(42条)[→問題67]とは違い、他人間に係属中の訴訟に、自らの請求を掲げて参加する場合を独立当事者参加という(47条)。1つの訴訟に多数の者が関与する訴訟でも、通常は原告被告の二手に分かれる二面訴訟の集合体として把握できるのに対し、参加人が既存当事者らのどちらかに与するのでなく、独立の立場で請求を立てとして、原告の被告に対する本訴請求と併せて矛盾のない統一的審判を求める多面的訴訟が、この形態である。例えばある建物に原告被告がともに自分が所有者であると主張して所有権確認訴訟を係属させているとき、自分こそが所有者だとする第三者にとって、原告勝訴判決の判決効が法的に及ぶわけではない(これとは別に第三者自身の所有権確認訴訟を提起することが可能)。しかしこの場合も前記判決は裁判外、裁判上で不利益に作用すると考えられるので、この第三者は既存当事者から独立した対等の当事者として主張・立証し、原告勝訴判決を阻止することができる。なお参加人が原告と被告の双方に請求を掲げる両面参加だけでなく、片方だけに請求を並立する片面的参加も、現行法により認められるようになった。前記所有権確認の例で、被告が「自分は所有者である原告から借りている」として、参加人と被告の間に争いがないのであれば、参加人は被告だけに所有権確認請求を掲げて独立当事者参加ができる。2 独立当事者参加の参加類型この参加類型は参加の根拠によって、「訴訟の結果によって権利が害されることを主張する場合」(47条1項後段)を詐害防止参加といい、「訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であると主張する場合」(同項前段)を権利主張参加という。これらいずれかの要件を満たす場合には、別訴により自らの権利実現を図るという方法のほかに、他人間の訴訟に設立の当事者として参加できることになる。詐害防止参加は、馴れ合いにより事実上不利益が生ずる場合にできるとするのが今日の多数説であるが、見解の一致をみない。実際例も後者より少ない。権利主張参加は前述の所有権確認の例を典型例とする。本問もこれに含まれるかどうかかが問題となる。権利主張参加は、一般に、訴訟の目的である権利関係が自己に帰属し、またはその上に自己が権利(物権)を有することを主張しての参加である。それは、参加人の請求(およびそれを基礎付ける権利主張)が本訴の原告の請求(およびそれを基礎付ける権利主張)と論理的に両立し得ない関係にあることを意味するとされる。したがって、前述の原告被告の土地所有権確認請求訴訟に、第三者が所有権確認を求め参加する例も、第一審→第二審により本訴原告の所有権主張と第三者のそれが論理的に両立しない関係にある。けれどもここに第三者が地上権確認を求めて参加することはできない。該当しないとされている。3 権利主張参加――請求が論理的に両立しない場合本問に示した不動産二重譲渡の場合については議論がある。実体法上は買主X・Zとも登記完了まで所有権移転請求権への効力を求めることができるので、X・Y請求とZ・Y請求は両立でき、論理的には独立当事者参加は許されないとの考え方もある。しかし多数説と従来の裁判例はこのような場合に独立当事者参加を認めてきた。これは次のように説明されてきた。論理的に両立しないということは、参加人の請求の趣旨レベルで判断し、そのレベルで両立しないということで足り、本来審理の結果、判決において両立することになってもよい。本問でXによるYに対する所有権移転登記手続請求訴訟に、ZがYに所有権移転登記請求を立てて参加することは、権利主張参加として適法である。結果、材料による客体上の権利帰属の相対性から、XのYに対する移転登記請求もZのYに対する移転登記請求もともに認容され、表面上は権利が両立する関係になっても差し支えない。同一不動産の登記はYからZのどちらかにいくのであるから、X・Y請求とZ・Y請求は請求の趣旨レベルでは論理的に両立しない、と(重点講義民訴505頁)。これに対し、参考判例①はYからX・Zへの不動産二重譲渡で、Zの仮登記に先になされたにも当たらないとしてX・Y訴訟にかかわらずYに対して本登記請求、Xに対してもその承認を求めて参加(なお48条)につき、論理的に両立し得る場合として独立当事者参加を許さなかった(訴え却下でなく、別訴の提起も扱われる)。これを契機に、本問の不動産二重譲渡につき独立当事者参加を認めない説も有力になっている。二重譲渡を受けた買主はいずれも登記請求権を有しており、両者の請求が両立することは請求の趣旨と原因において自明である。買主間では所有権の優劣はいずれかの本登記がなされるまではじめて決まる。本登記がなされるまでの所有権が互いに優劣を拝しないことは、やはり請求の趣旨と原因において自明である。したがって請求の趣旨レベルで両立しないことで足りるとする上記多数説の説明は成り立っていない、と(三木浩一「独立当事者参加における統一審判と合一確定」青山善充ほか編『新堂幸司先生古稀祝賀・民事訴訟法理論の新たな構築』(有斐閣・2001)831頁[同『民事訴訟における手続運営の理論』(有斐閣・2013)所収])。4 独立当事者参加の許否の判断視点――本問の考え方論理的に両立しないかどうかについては肯定説がわかりやすいが、多数説のように一方の執行がなされれば他方の執行は不可能になるという意味で両立しないと考えることもでき、この要件では決しない。参考判例によると、ここでもZからXに所有権確認請求が立てられていれば、両請求は両立しないことになるので参加要件をクリアできることになりそうである。けれども所有権確認請求が立てられているかどうかだけで独立当事者参加の許否がされたり許されなかったりするというのなら、紛争の実態は変わらないのにあまりにも請求という形式だけにこだわっているのではないか。そこで独立当事者参加を許すかどうかの視点は、X・Y訴訟の原因はZは介入する必要があるか、ということに求められよう。否定説は、実体法上登記の先後で買主間の優劣が決まり、買主は登記を早く(提起し判決を確定させるべく、各自が(別に)訴え(別訴)にすべきであり、Xが(先に)提起した訴訟にZが関与してその成行きを左右しようとするのは公正ではないとみる。これに対して多数説は、実質として1つの紛争であるから、1つの訴訟の中で両者を調整することに意味があるとする。5 二重参加訴訟への還元参加後、多面的な訴訟関係がなくなり、二者訴訟になることもある。原告の訴え取下げと参加申出があった場合と、在来の当事者が訴訟から脱退する場合である。参加後も、被告は訴えを取り下げることができ、取下げには原告の同意のみならず、参加人の同意も必要とされている。取下げ後は参加人の原告一方に対する共同訴訟となる。参加人は、訴えの取下げに準じて、参加申出の取下げができる。取下げにより原告の当初の訴えが残る。また、在来の原告または被告は訴訟から脱退できる。(48条)。第三者の参加により、従来の原告または被告はもはや当事者として訴訟にとどまる必要を感じなくなる場合、すなわち係争物の譲渡人が参加してきた場合の原告(譲渡人)や、本問ではXとZのどちらが権利者と判断されようがかまわないのでX・Yで争ってくれという場合である。脱退の性質や判決の効力の内容については議論がある。有力説は、脱退は自己の立場を参加人に託すと相手方との間に自己の請求を勝ち負けとして審判を求めることをやめ、この結果について基本的に予見的に、これまたは認識した結果を性質上使える。本問の前訴のようにYが脱退すれば、XはZどちらかが勝訴したように判決の認証をあらかじめしたもので、認証に基づき勝訴者からYへの執行力を生じる。しかし、脱退の性質を条件付きの放棄・認諾と捉えることで判決の(民事訴訟法48条の文言も脱退者に判決の効力が及ぶとされている)や、この説では何ら効力が及ばない空白部分が生じる可能性(本問でZの請求・Z・X所有権確認請求を認容する場合、Z・Y間は請求認諾とみなして認容判決と同じ効果が生じても、X・Y請求棄却の効果は生じない)など、疑問も提示されている。このほか、独立当事者参加についてはその審理のあり方についても複雑な議論がある。ここでは被告と参加人の請求につき必要的共同訴訟に関する民事訴訟法40条が準用されるが(47条4項)、共同訴訟人の足並みを揃える本来の場合と三者相互に対立する独立当事者参加の場合は違うので、その根拠や範囲をどのように考えたらよいか、敗訴した二者のうち一者のみが上訴した場合、自ら上訴を提起しない他方の敗訴者の地位はどう考えたらよいかという問題である[→問題72]。参考文献井上治典『民事手続の実践と理論』(信山社・2003)234頁/三木浩一=争点66頁/山本克己=百選208頁(安西明子)
債権者Xは債務者Zに対して貸金の返還を迫ったが、支払われないので、保証人Yを相手取って保証債務に基づく金銭請求をした。被告とされたYは、敗訴した場合の求償権を確保しようとZに訴訟告知をした。告知は、最初の口頭弁論期日においてXの訴状陳述、Yの答弁書陳述、次回期日を指定したという段階でなされたが、Zはこの訴訟に自ら参加してこなかった。その結果、Yの主張は認められず、Xの請求は認容され、Yの敗訴判決が確定した。その後Yは、Zに対して求償請求の訴えを提起した。この訴訟において、Zは主債務の存否を争うこと(XとZに消費貸借契約はないとの主張)ができるか。この場合、もしZとしては、借金したのは自分ではなくY自身であり、自分は仲介人にすぎない、訴訟告知があった当時も訴訟に参加する必要がないと考え、参加しなかったという事情があるとき、結論に違いはあるか。参考判例最判平14・1・22判時1776号67頁仙台高判昭55・1・28高民集33巻1号1頁解説1 意義と効果訴訟の係属中、当事者からその訴訟に参加できる第三者に対して、訴訟係属の事実を法定の方式によって通知することを、訴訟告知という(53条)。告知がなされる者(被告知者)は、補助参加(42条)できる者が典型であるが、それだけではない。共同訴訟参加(52条)をし得る者である。訴訟告知により、被告知者は訴訟に参加して自己の利益を守る機会を与えられ、告知者も被告知者の訴訟関与を期待できるが、現行制度の主な狙いは、告知者が敗訴後も日を待たないようにすることである(告知のための告知)。すなわち、告知を受けても当然に参加になるわけではなく、参加するかどうかは自由であるけれども、告知があると参加的効力が生ずるとされ、実際に参加しなくとも参加できたことに参加したこととみなされる(53条4項)。当事者(告知者)が敗訴すれば、第三者(被告知者)に損害賠償を請求できる見込みがあるとか、第三者から損害賠償の請求を受けるおそれがあるときに訴訟告知をしておけば、後日の第三者との訴訟で前訴の認定判断がなされることを防止できる。本問でも、Xはこれを狙ってZに訴訟告知をしたのである。しかし訴訟告知には、制度上のそれが残る。独立当事者参加できる者にも訴訟告知できるが、この場合は参加的効力は考えておらず、告知をなし得る範囲より参加的効力が及ぶ範囲は狭い。2 訴訟告知による参加的効力現在の多数説は、訴訟告知により参加的効力が生ずるのは、告知者と被告知者との間に告知を直接の原因として求償関係または賠償関係が成立するような実体法関係がある場合に限定する。このような実体関係がある場合には、被告知者がそれを見越して告知者に協力することが期待されるからである。したがって本問に示した保証人による主債務者への告知が典型である。逆に主債務者が被告である場合には、保証人も補助参加できるのであるからこれに訴訟告知はできるが、保証人は主債務者に協力すべきものでもないから訴訟告知による参加的効力は生じない(もっとも主債務者から保証人への訴訟告知が原因となる)。さらに、訴訟告知の告知を理由として専ら告知者の利益保護の制度と理解する前提に立つのは、反省も生じている。とくに告知者と被告知者が全面的に一致しないケースでは、被告知者が告知者側に補助参加して告知者(被参加人)と抵触する行為ができないので(45条2項)、被告知者(参加人)の利益保護として十分でなく、かといって両手続に補助参加することを無限定に期待できるものでもなく、告知を受けた第三者としては補助参加しないまままさに終わる場合もあり得る。このような場合に訴訟告知を受けたからといって、それだけで判決の効力を及ぼすのは、被告知者の主張を封じるあまりにも被告知者の立場を軽視している。そこで、訴訟告知による効力が及ぶための要件および範囲を厳格に解する必要が認識されるようになっている。3 拘束力の捉え方―主観的範囲と客観的範囲の限定この拘束力を、参考判例①は参加的効力であるとみる。Aの相続人Bによると、もともとAの所有権についてのCに対する移転登記抹消請求訴訟で、Cが「Aは代理人Dとの間で売買があった」と主張したため、甲がDに「代理権はなかった」と主張し、丙に訴訟告知した事案である。このとき、可能性としては丙は当事者のどちらにも補助参加の利益があったが(どちらから訴訟告知を受け得る)、代理人はCに免責が一切関与していないとして甲に参加したのではなく、実際には「代理権はあった」として乙に参加した。その後、「代理権の存在は確定できないが、表見代理にあたる」との甲の敗訴判決が出た。そこで甲が丙に、丙の無権代理行為により所有権を喪失したと、損害賠償請求を提起した。このように現実の訴訟告知による訴訟では、単なる訴訟告知による効力でなく補助参加の効力(呼ばれたことでなく実際に出てきたこと)を考えるべきである。すると、この効力は、参加人丙と被参加人乙(告知書面でなく)の間に生じ、「代理権の存在は確定できない」との判断に及ぶようにみえる。参考判例①は、「代理権はなかった」と主張し、甲の申出の根拠を裏付ける主張をしなかった。そしてその結果「代理権はなかった」との主張は「代理権はなかった」との判断は表見代理が成立するという判断の前歴は「代理権はなかった」でも「主張は認められなかった」でも、Cの主張は前訴における当事者の主張・立証代理でも乙の主張を受けたいとの程度であったと考えられるので、学説は拘束力を認めるべきこの反動か、参考判例①は逆に訴訟告知の効力を肯定した。甲側からの乙に対する代金支払請求訴訟で、乙が「本件商品の買い主は丙である」と主張したが、甲丙に訴訟告知したが、丙は参加しなかったというものである。この訴訟で請求棄却判決が確定し、その理由中に「本件商品の買い主は丙である」とされ、甲は丙に代金請求の訴えを提起した。参考判例①は、告知者の告知が参加利益を有する場合にのみ及ぶところ、参加利益は判決効が参加者の私法上、公法上の法的地位または法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合に認められるとした上で、甲・乙訴訟の結果により丙の代金支払義務が免ぜられる関係にはないため、丙の参加的利益はなく甲・乙訴訟の判決の効力は及ばないとした。参加的効力の客観的範囲については、最判昭45・10・22(民集24巻11号1583頁)[→問題68]を引用し、参加的効力が判決の主文の判断および主要事実に係る口頭弁論の判断に及ぶとした上で、「本件商品の買い主は丙である」旨の甲・乙判決の記載はこれに当たらず、参加的効力は発生しないとした。参考判例①に対しては、学説の反対が多い。まず、契約当事者が乙か丙かという択一的関係から甲が乙に敗訴すれば丙は買い主と認定されて補助参加の利益を肯定する説がある。また、甲・丙間に訴訟追行上の協力を期待する関係があるとして補助参加の利益を肯定する説もあり、少なくとも「本件商品の主は乙ではない」との判・訴訟の判断に協力を求め、丙・訴訟にも共同して行うべきである。4 制度運用の問題点判例を読解する中で、学説では訴訟告知制度の運用のあり方についても検討を深めていった。訴訟告知は、被告知者が実際に参加する利益だけでなく必要がなくても、しかも訴訟告知が現実に参加しても十分な主張・立証を尽くすことが期待できない場合に対処となるべきである。告知をするタイミングは、判決言渡し時までにいつでも学説があるが、この点は問題ない。また実務では、訴訟告知の申出があったとき、裁判所が参加の利益・訴訟告知の適法性につき深く検討することなく、訴訟告知をさせているようである。ただし、本問の後半のような被告知者の置かれた立場の現場は考慮すべきである。被告知者Zはどちらの側に参加しても、主債務者はYではない自分は仲介者という主張が主たる争点(被参加人)の主張と抵触して訴訟上の効力は生じない(45条2項)。ZがYに補助参加して上記の主張をしてもその主張が効力を生ぜず、最新ではZは自分は主債務者でないと主張できるので(民事訴訟法45条の除外例に当たり参加的効力が及ばない)[→問題68]、その意味で補助参加の効力はある。けれどもそれが目的で行わざるを得ず、補助参加を受けて告知者が補助参加(独立当事者参加)申立てをしても、後者の告知について見(訴訟告知に拘束ない訴訟関与の意思あり)を述べ、後の拘束力が及ばないことを明らかにする手続が必要である、とする学説がある。このようにみてくると、本問でZが主債務者であることが前提にされ、認定されていたとしても、Zは自分が主債務者でないと考えている本問後半のような場合、誰が主債務者であるかについて十分争われたかが問題となる。これはZ固有の言い分である以上、主要な争点を形成したとは言えにくく、Zとしてもこちらに補助参加してもうまくいかない事情があるので、結論として訴訟告知による拘束力はなく、あらためて自分は主債務者でないとの主張ができると解するのが妥当であろう。参考文献井上治典『実践民事訴訟法』(有斐閣・2002)201頁/重点講義民訴477頁/松井・百選206頁(安西明子)
あるビルの1室につき、X・Y間に賃貸借契約が成立した。借主Yは、本件建物は貸主Xが所有するものと信じ、Xから本件貸室を賃借していたところ、A社がYを被告として、本件建物の所有権はA社に属すると主張して、本件貸室の明渡しと賃料相当損害金の支払を求めて訴えを提起してきた。Yは、本件建物についてのA所有権を否認し、本件建物はXが所有するものであり、YはXから本件貸室部分を賃借している旨答弁した。Yからこの訴訟について連絡を受けたXは、第2回期日に補助参加の申出をし、以後、本件建物はXの所有であることを主張してYの勝訴のために訴訟行為をした。しかし結果は、本件建物は賃貸当時からAの所有に属するとの判断がなされ、Y側の全面敗訴に終わった。控訴、上告がなされたが、Y側の主張は認められずY側が敗訴し、判決が確定した。にもかかわらず、その後Xは、あらためてAとの間で賃貸借契約を結んだYを被告として、ビルの所有権は終始Xにあることを主張して、X・Y賃貸借契約に基づく賃料と賃料相当損害金の支払を求める訴えを提起した。YはY・A判決の効力によりXの請求は認められないと主張できるか。参考判例最判昭45・10・22民集24巻11号1583頁解説1 補助参加人に対する判決の効力補助参加がなされた訴訟で下された判決は、その訴訟の当事者に効力が及ぶのはもちろん(既判力につき115条1項1号)、一定の要件の下で、補助参加人にも効力が及ぶ(46条)。これは、補助参加として十分に主張・立証を尽くした、あるいは尽くすことが期待できた事項については、補助参加人は自己を当事者とする第2の訴訟で補助参加訴訟で下された判断内容ををもはや争うことができないという趣旨である。そこで本問でも、Yに補助参加したXは、Y側が敗訴した責任をYとともに負い、補助参加した訴訟での判断に拘束されることになる。この判決の効力の性質については諸説がある。かつては判例・学説ともにこれを既判力ととらえる時期があったが、後述のとおり、既判力とは異質の補助参加訴訟に特殊な効力とするのが今日の通説であり、参考判例①もそうした。この効力、すなわち「参加的効力」は、参加人が参加しておきながら訴訟を追行した以上、敗訴の責任を公平に分担すべきであるという禁反言の原則により根拠付けられる。2 補助参加人の地位とその訴訟行為の制限補助参加の効力が生じるには、その前提として十分に訴訟において主張・立証の機会が保障されていなければならない。そこで補助参加人が十分に訴訟行為をすることができなかった場合、補助参加訴訟で敗訴はすでに悪かったり、被参加人の訴訟行為と抵触するなどしたときには参加的効力は生じない(46条)。ここで、補助参加人の地位について確認しておこう。補助参加人は、被参加人を勝訴させることにより自身の利益を守るため、補助参加人の代理人でも補佐人でもなく独自の補助者でもなく、独自に権能をもって訴訟に関与できる。従たる当事者といわれるように当事者に近い側面をもち、攻撃防御方法の提出、異議の申立て、上訴の提起、その他被参加人を勝訴させるに必要な一切の訴訟行為ができる(45条1項)。期日の呼出や訴訟書類の送達も当事者とは別にされなければならない。一方、補助参加人は他人間に係属している訴訟を前提とし、これに付着して訴訟を追行する者であり、自身の請求を持ち込むのではないから、本来の当事者に対して従属的な側面をもつ。まず、参加時までの訴訟状態に従って、被参加人がすでになし得なくなった行為はできない(45条1項ただし書)。例えば、時機に後れた攻撃防御方法の提出、自白の撤回、期権を放棄喪失した行為に対する異議などは、他人間の訴訟を前提に、これに事後的に介入を許すものとして許されない。次に、参加人の訴訟行為と被参加人の訴訟行為とが矛盾抵触するときは、参加人の訴訟行為はその限りで効力を生じない(45条2項)。したがって被参加人が自白していることを補助参加人が争っても否認の効果を生じない。さらに、補助参加人は他人間訴訟を前提として、それに付着して訴訟行為を行う存在であるから、訴訟そのものを発生させたり、変更消滅させる行為はできない。訴えの取下げや請求の変更、反訴の提起、訴訟上の和解、上訴権の放棄などがこれに当たる。もっとも、以上のような補助参加人の独立性と従属性との限界、境界線については、補助参加の機能の捉え方とも関連して、議論が分かれる。3 参加的効力の範囲参加的効力は既判力と異なる補助参加に特殊な効力と捉えられているが、その具体的差異は、①民事訴訟法46条所定の除外例が認められているように具体的事情によっては効力が左右されること、②判決効の存在は職権調査事項でなく当事者の援用を待つことが原則、③判決主文の判断のみならず理由中の判断にも及ぶこと、④被参加人敗訴の場合にのみ問題となり、被参加人・参加人間にしか及ばないことが挙げられている。まず客観的範囲(③)として、既判力とは異なり、判決理由中の事実認定や先決的法律関係についての判断にも効力が及ぶ。本問でいうと、訴訟物たるAのYに対する本件貸室の明渡請求権と賃料相当損害金支払請求権が既判力の及ぶ部分であるが、これの存否につき拘束力を認めたものでも、Xには届くも及ばない。本件建物がAの所有であるという理由中の判断にこそ拘束力を認める意味があるのであり、参考判例①も、X・Y間では本件建物の所有権が上記賃貸借当時にXに属していなかったとの判断に及ぶべきとしている。したがって、YはY・A判決の効力によりXの請求は認められないと主張できることになる。ただし、当事者でさえ効力を受けないとされる理由中の判断に補助参加人を拘束する根拠として、自己に属する請求が当面は審判対象とされていない補助参加人としての立場も当事者と区別すべき事項で、かつ参加訴訟で主張上の一切の制約がなく、将来に向けても効力を認めることで公平な場合等々である必要がある。これを本問でみると、本件建物所有権は、勝敗を決する重要争点であるとともにXにとり重大な利害関与を有する事項で、参加の利益の段階から十分に主張・立証の機会が付与されているところ、参考判例①でも実際、XはYの訴追行為を妨げた事実がみられた。これらところに拘束力を及ぼしてもよいとしている。次に主観的範囲の問題(④)として、通常にいわれる補助参加訴訟、被参加人及び参加人・相手方間では及ばない。したがって例えば、債務者と保証人間の保証債務請求訴訟で主債務者が被告保証人に参加し主債務の不存在を主張したが敗訴した場合、主債務者は、後日保証人から求償請求を受けたときにはもはや主債務の存在を争うことができないのに対し、債権者から主債務請求の訴えを提起されたときは、主債務者は補助参加訴訟の判決は不当として主債務の存在を争えることになる。A間では差し当たりX・Yの敗訴訴訟で補助参加の拘束力が前記のとおり生じれば足りるが、もし後日XがAに対して本件建物の所有権確認訴訟を提起してきたときに、問題が生じる。そこで同時、補助参加訴訟の判決の基準はA・X・Yの三者により固定され、XとA、YとAとの間で主張・立証を尽くす機会が十分保障されたことを根拠として、A・X間でも一定の場合に拘束力を及ぼす場合性も必要性があるとの考え方が示されている(新堂・前掲227頁、重点講義民訴463頁など)。4 参加的効力の判断力以上のとおり、通説・参考判例①は、補助参加訴訟の既判力の拡張力説と異質の差異を強調しているものの、この参加的効力のいう既判力との異質性が果たしてどこまで妥当するのかには疑問が向けられている(井上・後掲381頁)。まず参加的効力の性質につき、既判力は公権的な紛争解決として紛争の蒸し返しを許さない法的安定の思想に由来するのに対し、参加人と被参加人の訴訟追行上の責任分担という公平の見地に由来するといわれる。しかし蒸し返しの禁止という効力の現れ方は既判力と同じであり、主観的範囲についても前述のとおり相手方に対する効力が論じられるようになっている(前述3④)。さらに拘束力の除外例を認める点(3①)も、既判力にも具体的事情を一切考慮せずに画一的に及ぼされるべきでないことが明らかにされているようになっている。当事者の手続保障を前提に論じられることは両者共通と認識されている。また既判力をめぐる議論では、先決的法律関係や請求権の法的性質決定などの理由中の判断についての拘束力も議論されている(→問題9)。この傾向は、既判力そのものを当事者間の実質的公平に支えられた効力、当事者の手続保障を前提にした効力とみて、むしろ参加的効力として説かれている性格および内容のものが、判決効一般に通じる普遍性をもち、既判力の原型であると解しているのである。参考文献井上治典『多数当事者訴訟の法理』(弘文堂・1981)376頁/新堂幸司『訴訟物と争点効』(有斐閣・1988)227頁/伊藤眞=百選204頁(安西明子)
航空機事故で死亡したAの遺族Xは、航空会社Yを相手方に損害賠償請求の訴えを提起した。この訴訟において機体の構造的欠陥が問題となっているとき、機体の製造会社Zはこの訴訟に参加できるか。同じ事故で死亡したDの遺族Eは、この訴訟に参加できるか。参考判例最判平13・1・30民集55巻1号55頁最決平13・2・22判時1745号144頁最判昭51・3・30判時814号112頁解説1 補助参加制度の趣旨補助参加とは、他人間に係属中の訴訟の結果について利害関係を有する第三者(補助参加人)が、当事者の一方(被参加人)を勝訴させることによって自己の利益を守るために訴訟に参加する形態である。補助参加人は、自らの利益を守るために自らの名と費用で訴訟を追行するが、相手方との間に自己の請求を勝ち負けで審判を求める者ではない。例えば債権者が保証人を訴えた訴訟で、被告保証人から主債務者が補助参加するという典型例でいえば、この訴訟の請求の当否は保証債務に関する請求であるが、訴訟物たる保証債務は主債務の存在を前提とする。そこでは、主債務の存否が補助参加の利益を判断する前提問題になっており、訴訟物は保証債務の存否である。主債務者は被告保証人に対する求償権の確保を考えて、訴訟に参加するのである。しかし主債務者は被告保証人を通じて求償を受けるにすぎず、原告債権者から直接求償請求を受けるわけではない。このように被告保証人の勝訴は主債務者にも有利であり、被告保証人から補助参加の申出がなされた場合を念頭におき、被告保証人の勝訴は主債務者に意味がある。2 補助参加の要件―補助参加の利益補助参加するには、他人に係属中の訴訟でなくてはならず(ただし、上告審でもよい)、判決確定後でも参加申出とともに再審の訴えを提起して訴訟を再開させることができる。43条2項・55条1項1号)、何より、参加を申し出る者が補助参加の利益をもたなければならない。ただし、これは当事者(参加を申し出る側でない相手方)から異議が出た場合に問題となるが、参加申出の趣旨および理由を書面または口頭で明らかにし(43条1項)、これに対して当事者の異議があれば、参加理由(補助参加の利益)があるかどうかが決定で下される。補助参加の利益の要件は、条文上「訴訟の結果について利害関係を有すること」(42条)と表現される。この利害関係は、単なる感情的な理由や事実上の利害関係では足りない。当事者の一方と親友であるとか、訴訟を提起されて店の客足が減る少なくなるだろうとか、扶養を受け地位が設定されるという理由も、それだけでは参加の利益としては十分とされる。また第三者利益の効力が及ぶことは、必要条件でも十分条件でもない。前述1のとおり、判決効が及ばなくとも主債務者は保証債務請求訴訟に補助参加が認められる。判決効が参加者に及ぶ場合、すなわち株主代表訴訟(商84条)で被告が敗訴した場合に(同一の株主が提訴した訴訟へは非訟参加が認められる。非訟参加は訴訟に参加できないので)、共同訴訟的補助参加(52条)ができる。これをしないとき補助参加も認められるが、これは民事訴訟法45条2項の解釈によるものであり、共同訴訟的補助参加と呼ばれる。したがって、通常の補助参加は判決効が及ばない場合に認められる。逆に判決効が参加者に及ぶ場合であっても、当該訴訟に参加を認められない(判例、当事者から目録を再所有する資格に関する訴訟。同訴訟42条・115条1項2号)。学説からは、補助参加の利益を認める者もある。3 補助参加の利益に関する判例・学説の展開いかなる場合に補助参加の利益が認められるかは微妙で難しい問題である。判例・学説一名利でない。かつての有力説は、「訴訟の結果」を判決主文と捉え、訴訟物についての判断と参加人の地位との関係を要求してきた。訴訟たる保証人に対する請求への主債務者の参加という典型例では、訴訟物の存否そのものが補助参加の利益を左右するものであり主債務の求償義務に貢献する。逆に主債務者に対する請求で保証人が補助参加するほか、買主が売買目的物の瑕疵等を理由に提供された場合の売主が補助参加する場合でも、売主が製造業者に対して求償関係がある。この方式に当てはまる。これが「判決の結果」を判決理由中の判断にまで広げたのが判例・通説(理由中判断説)である。これでは補助参加の範囲が限定的な狭い。そこで、参加の利益を実質的にみて、訴訟の前提をなす法律関係について利害関係の有無で判定する最近の有力説がある(多数当事者訴訟の研究[改訂]弘文堂・1981)65頁、81頁)。判例は、補助参加が許されるのは申出人が訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合に限られ、法律上の利害関係を有する場合とは当該訴訟の判決が参加申出人の私法上または公法上の法的地位に影響を及ぼすおそれがある場合をいう、と表現している。ただし、それが訴訟に関する利害関係かいかに相互に関連がないのかについては必ずしも明確でなく、「訴訟につい利害関係」を法律上の利害関係と解し、かつ参加申出人の私法上または公法上の地位に影響を及ぼすおそれがある場合に限られないとして申出を却下した原決定を破棄し差し戻した(前述最判平13・1・30)。その程度を検討した上でその許否を決すべきものと解されており、より具体的実質的に参加利益を検討した裁判例が注目される(東京高決平2・1・16判タ754号220頁)。参考判例③も、訴訟告知における会社の取締役への補助参加につき、訴訟の前提となる取締役会の決議の無効が会社の各期の計算等、ひいては会社の信用に影響するとして補助参加の利益を肯定している。この場合の規約をされるとその後に設定された会社法849条1項により、株主代表訴訟における会社の取締役の補助参加も同様に認められた。参考判例②も、一見無関係に見えそうでありながら、それよりも広く求償の密接関連も視野に入れて柔軟に参加利益を認めた判例と評されている。このような流れを踏まえ、本問では補助参加の利益が問題となる典型例を設例とした。まず第1類型は、被参加者が敗訴すれば補助参加申出人が求償、損害賠償、その他一定の法源を提起される関係にある場合である。第2類型は、当事者の一方と同様の地位、境遇にある者が補助参加を申し出る場合である。本問のY・Zには、事故原因が機体の構造的欠陥にあるとの理由でYが敗訴すると、後にYがB・Cに求償できるという意味で、第1類型に当たる(参考判例①〜③もここに含まれる)。本問のEは第2類型である。第1類型は伝統的に補助参加の利益が認められてきた類型とされる。第2類型はかっては参加利益を否定されてきたが、近時の有力説によれば、当事者の一方の敗訴により訴えられるおそれがあり、第2の訴訟で前訴判決の理由中の判断が事実上の拘束を及ぼし、第三者に不利益な認定判断がなされる蓋然性があれば、補助参加が認められる。下級審判例にも肯定例がある。ただし、このように類型に分けたは、それだけが補助参加の利益が認められるわけでもなく、これらに当てはまらなくとも参加利益を肯定した裁判例もある(所在不明の夫を被告とする金銭請求訴訟に妻の参加を許した名古屋高決昭43・9・30高民集21巻4号460頁)。このように、参加要件についての基本的考え方として、統一的基準を立ててそこから演繹的に個別ケースでの参加の許否を導き出すという手法も、単なる類型化も、具体的な事件における多様な第三者の利害状況に対応できない。現在の有力説は、訴えの利益と同様に、補助参加の利益を判断するのに、紛争の性格や事件の流れなどの個別事件の具体的状況を考慮する(井上・前掲69頁、重点講義民訴434頁)。4 補助参加の利益の判断―本問についてそこで、本問を用いて具体的に検討してみよう。前述のとおり、本問のB・Cは第1類型にあたり、一般的には補助参加の利益が肯定されよう。けれども、この訴訟でのパイロットの操縦ミスが問われているときには、機体製造者などには参加の利益はない(井上治典『実践民事訴訟法』(有斐閣・2002)198頁。山本・前掲257頁もそのような事実の認定を求めて参加してくるものにはより慎重になるべきとする)。本問のEは、このように参加を一般的に認めると対抗が効かなくなるなどの懸念から参加利益が否定されてきたと思われるが、主要な争点を共通にする場合には参加を認める説がある(新堂813頁、山本・後掲259頁)。このような参加要件の弾力化を前提として、判決の結果によっていかなる不利益を受けるかという観点よりも、具体的事情において第三者に自己の立場から主張・立証の保障をすべきかどうかという過程志向の必要を説く立場も現れた(井上治典『民事手続の実践と理論』(信山社・2003)167頁。十分な主張・立証が期待できるとして訴訟告知を受けていた者の補助参加を認めた大阪高決平12・5・11金法162巻62号21頁も参照)。この立場はそもそも後段の可能性を問題とせず、その訴訟における補助参加人の攻撃防御の利益を直視する。したがって本問で、訴訟物・訴訟の帰趨の展開や訴訟手続の中での経緯から、Bが製造した機体の構造上の欠陥かX・Yのいずれかにより主張されているか、主張されることが確実に送られる場合には、Bの参加が認められる。YがXに敗訴すれば将来Bはどうなるかという判決結果をもたらす法律関係よりも、X・Y間の訴訟での主張した機体の構造が事故原因となっているかどうかが問題となっているのに、肝心のBにその点について自ら裁判を尽くす機会を与えないでよいかという、手続保障そのものが問題とされる(井上・前掲『民事手続の実践と理論』191頁)。Eに関しても、Xと共通して機体の構造につき主張・立証を展開していこうとしているならば(主観的追加的併合を認めない実務[→問題9]を考慮に加え)、補助参加を認めることになろう。機体の構造が問題となっている訴訟状況では、同一事故の被害者でなくとも、同一構造の機体で同様の事故にあった被害者にも、主張・立証の機会を与えるために補助参加が認められる可能性がある。参考文献山本和彦『補助参加の利益」長谷部由起子=山本弘=笠井正俊編著『基礎演習民事訴訟法〔第3版〕』(弘文堂・2018)263頁(安西明子)
A県は,宗教法人B神社の挙行した例大祭に9回にわたり車騎する玉串料を公金から支出したので,A県の住民X₁~X₃が「政教分離を規定した憲法20条3項などに違反する」として,上記支出相当額の損害賠償の請求をすることをA県知事に対して求める住民訴訟を提起した。その後,A県住民X₄~X₆も,同様の主張をして玉串料の支出相当額の損害賠償を求める住民訴訟を提起した。この訴訟はX₁らの訴訟と別の手続として進行させておいた。X₁らの訴訟とX₄らの訴訟が併合されず,訴訟手続が1つとなった場合,その後X₁が死亡したとすると,訴訟手続はどのような影響を受けるか。第1審はX₁らの請求を認容したが,控訴審はそれを取り消し,請求を棄却した。X₂らは上告したが,X₃のみ上告しなかった。またその後のX₂は上告を取り下げた。X₃抜きの上告,X₂の上告の取り下げは適法か。適法としては上告の利益の帰属などはそれぞれ,なお,なお上告人,X₂とX₃はそれぞれ,なお上告人の地位にとどまるか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 58・4・1 民集 37 巻 3 号 201 頁② 最判平成 9・4・2 民集 51 巻 4 号 1673 頁③ 最判平成 12・7・7 民集 54 巻 6 号 1767 頁[⚫] 解説 [⚫]1 類似必要的共同訴訟共同訴訟 (訴えの主観的併合) には各共同訴訟人 (共同原告,共同被告) につき判決がまちまちになってかまわない「通常共同訴訟」と,判決が合一に確定されることが要請される「必要的共同訴訟」に分けられる。後者のうち,共同で訴えまたは訴えられる必要はないが,そうなった場合は当事者間で合一的に解決されなければならない類型が,「類似必要的共同訴訟」である [必要的共同訴訟のうち,「固有的必要的共同訴訟」とその複合につき→問題63-64]。合一確定とは,同一人に対する判決効の効力の矛盾を避けなければならない法律的要請のある場合を指す。例えば,それは共同訴訟人の1人のみ受けた判決の効力が他の共同訴訟人にも及ぶ場合を指すとする。例えば数人の株主が提起する株主総会決議無効確認または取消しの訴え (会社 830 条・831 条),数人の株主による責任追及訴訟 (同法 847 条) 等がこれに属する。また反対効が生じる場合とされる数人の債権者の債権者代位に基づく訴訟 (民 423 条),数人の債権者の詐害行為取消訴訟 (民執 157 条 1 項),設備の訴訟 (地方自治法 242 条の 2 第 1 項 9 号) も類似必要的共同訴訟とされる。このような場合,ある住民との関係では違法な支出であると損害賠償の必要があるが,他の者との関係ではそうでないといったように,各共同訴訟人について勝敗をバラバラに決めてよいとする。各共同訴訟人自身が自己のつけた判決の効力と他の共同訴訟人に対する判決効から拡張される効力が矛盾衝突して収拾がつかなくなるからである。したがって,請求同一の理論による主張はもちろんのこと,そもそも異なる請求ができないとか (請求の数→複数の被害者への慰謝料請求),対立した利益の調整が必要というべき場合 (数人に対して特定物の引渡請求) があるわけでなく,類似必要的共同訴訟は判決効から論理必然的に要請されるものではないが,各共同訴訟人の訴訟上の利益を制限してでも一律的な解決をもたらさなければならないと考えるからである。以上みたように,本問の住民訴訟は参考判例①~③においても,類似必要的共同訴訟と解されている。X₁ らが欠けていても,X₄ らの訴訟は提起できる(他の住民と一様に訴える訴訟共同の必要はない)。また通常の類似必要的共同訴訟人と異なるので可能であるが,住民訴訟では,いったんX₁らの訴訟が提起された以上はX₄の別訴は許されず,当該地方公共団体の他の住民は当該訴訟を承継して同一請求をすることはできない旨の規定がある (地方自治法 242 条の 2 第 4 項)。2 必要共同訴訟に関する審判合一確定の要請が働く必要的共同訴訟では,通常共同訴訟における訴訟人独立の原則 [→問題63] を修正し,共同訴訟人間に関連を認めて訴訟資料の統一と訴訟遂行の統一を図る必要がある。民事訴訟法 40 条がこれを定めている。まず,共同訴訟人の1人がした有利な行為は全員のために効力を生じるが,不利な行為は全員そろってしない限り効力を生じない (40 条 1 項)。したがって1人でも相手方の主張を争えば全員が争ったことになるが,1人のした自白や請求の放棄・認諾は効力を生じず,固有的必要的共同訴訟の場合には共同でしなければならないが,類似必要的共同訴訟の場合には単独でできる (本問での上告の取下げが問題となる)。また相手方の訴訟行為は,相手の求めため,1人に対してなされても全員に対して効力を生じる (40 条 2 項)。共同訴訟人の1人について手続の中断または中止の原因があるときは,全員について訴訟の進行が停止する (同条3項)。弁論の分離は一部判決を認められず,判決の確定も全員について同時でなければならない。通常の訴訟であれば,X₁ が死亡すると,X₂,X₃ に訴訟代理人がいない限り,X₂ の相続人が訴訟手続を受継するまで手続は中断することになる (124 条) [当事者の死亡による中断と受継につき→問題72]。ただし住民訴訟では,原告の一人が死亡しその者に訴訟代理人がいない場合,他の共同原告が全員のために訴訟を追行するので,訴訟手続は中断しない。X₁ 以外の全体の訴訟は進行していくことになる (最判昭和 55・2・22 判時 962 号 50 頁)。3 共同訴訟人の一部による上訴上訴については諸説があるところ,1人が上訴すれば,全員に対して判決の確定が遮断され,全訴訟が移審し,共同訴訟人全員が上訴人の地位につくと解されている。このことから類似必要的共同訴訟においても,かつて参考判例③は,第1審の原告のうち,現に控訴した者だけを控訴人として表示し,自ら控訴しなかったが控訴審判決をなしえないとした原審判決を,第1審原告全員の利益を却下とすべきであったとして違法とした。しかし非上訴審での共同訴訟人は負担を伴い,一概に他の共同訴訟人に委ねられるものではない。上訴するかどうかは各共同訴訟人の自由な選択に委ねられるべきものであるとのである。そこで学説において,上訴しなかった者の上訴人の地位については現実には上訴した者に限られ,訴訟追行の権限は有するが上訴人としての見解も有力に主張されていた (民訴・1981, 204 頁)。参考判例①においても,上訴人は上告人から意思を表明した上訴人の地位につかないとする。本件裁判の反対意見もある。その後,本問に用いた参考判例②は,非共同訴訟人の1人が上告を取り下げた事案で,共同訴訟人の1人が上告すれば,上訴をしなかった共同訴訟人に対する原判決も確定遮断は生じるが,上告をしなかった者は上告人にはならないと判示し,参考判例①と変更した。続いて参考判例③は,株主代表訴訟につき,上告をしなかった共同原告は上告人にならないとした。したがって本問でも,X₃抜きでX₂らも許され,上告をしなかった X₃ は上告人にならないと考えられる (参考判例③)。上告をしなかった者が上告人と扱わないとすると,上告に関する訴訟費用の負担を負わない,期日呼出状等の送達が不要になる,上告の取下げは上訴人のみで可能である。上訴しなかった者に生じた中断・中止事由を考慮する必要がないなどの利点がある。本問の X₂ も 1 人で上告を取り下げることができ,上告審判決の名宛人となる。4 残された問題自ら上訴しなかった共同訴訟人は上訴人とは扱われないとしても,なお次の2つの問題がある。第1に,この考え方は,個々の住民や株主の個別的利益が直接問題とならない住民訴訟や株主代表訴訟 (参考判例①①②③) にのみ妥当する例外的扱いとして規定すべきか。参考判例②は,合一確定のためには控訴制度の上訴をすれば足り,住民訴訟と異なり,当事者間に利害の対立が生じ,控訴制度が複雑になることを挙げている。度で上訴の効力を生ずれば足る,住民訴訟の性質に鑑みると公益代表者とみるべきである。住民訴訟では共同訴訟人間の減少こそその審理の範囲,審理の態様・判決の効力等に何ら影響はない,という点を根拠にしている。つまり住民訴様や株主代表訴訟では,請求は本来,地方自治体ないし会社のものであり,個々の原告により請求内容が異なるわけでないから,請求は1個と観念することもできる。原告の数が減少しても審判範囲や審理態様等には影響がない,ということであろう。参考判例③も同様に,このような株主代表訴訟の性質を挙げるので,判例の射程はこれらに限定され,私益性の高い債権者代位訴訟が複数の債権者により提起された場合等には及ばないとみられている。一方,学説には,類似必要的共同訴訟一般を対象とするものが多く,さらに簡潔に有力説は必要的共同訴訟全般を視野に収めている。この問題は次の点にもつながる。第2に,このような訴訟で,上訴しない共同訴訟人の地位はどのようなものと考えられるか。参考判例①の木下反対意見は上告しなかった者は脱退し,ただ判決の効力だけを受けるだけの地位となると論じたにとどまり,参考判例②③は,この者がいかなる立場につくか明確にしていない。けれども,上訴している途中の訴訟に移審して確定未確定残存しているとみるみる限り,上訴審は上訴しなかった者の請求をどのように扱えばよいかが問題となる。共同訴訟人は上訴しない者は最終的には上訴した者に自己の請求について訴訟追行を委ねたもの (手続法上の訴訟担当) とみており,1つの理論上の指針となろう。もっとも,最近,類似必要的共同訴訟と解される養子縁組無効確認訴訟において,共同原告の1人の上訴により他の共同被告にも上告となることを前提とする判例が現れている (最決平成 23・2・17 判時 2120 号 6 頁)。[⚫] 参考文献 [⚫]伊藤眞・平成9年度重要判例 (1998) 129 頁/高橋宏志・私法判例リマークス 23 号 (2001) 116 頁/井上治典「多数当事者の訴訟」(信山社・1992) 94 頁(安西明子)
XはYに対し,Y名義で登記されている土地について,それが訴外Aの遺産であることの確認および当該土地の自己の持分の所有権移転登記手続を求めて訴えを提起した。AにはXとYの他に,その死亡によりAのYとAの子らX,B,Cが相続人となったこと,Xの主張によれば,本件土地はAに渡り残されたものだが,便宜上Y名義の所有権移転登記がされていたのであり,本来はAの遺産に属するからXも法定相続分に応じた持分権を有する,という。この場合,XはYを被告として本件土地の遺産確認の訴えを提起することができるか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判平成元・3・28 民集 43 巻 3 号 167 頁② 最判昭和 61・3・13 民集 40 巻 2 号 389 頁③ 最判平成 26・2・14 民集 68 巻 2 号 113 頁[⚫] 解説 [⚫](1) 遺産確認の訴え本問では,遺産に関するXの訴えが,関係者全員が共同で訴えまたは訴えられること (訴訟共同) を必要とする固有的必要的共同訴訟に当たるかどうか問題となる。これが固有的必要的共同訴訟であればY以外の相続人B,Cも当事者にしなければ当事者適格は満たされないX以外の訴訟は却下されることになる。従来,訴訟共同の要否については,実体法的観点と訴訟政策的観点から判断されており [→問題63],判例も同じく共同所有者が原告になる訴訟では,まず実体法的に,固有的必要的共同訴訟となるが [→問題63],過去の共同相続は合有または総有と解され,共同相続財産が合有または総有に帰属している場合には固有的必要的共同訴訟となる [→問題63],通常の共同関係の場合には各共有者は自己の持分権を単独で自由に行使できる。そこで,本問のモデルとした参考判例①は,Xの持分の所有権移転登記請求については,そのみを被告とする訴えを認めて請求棄却の本案判決を下していた。一方,遺産確認訴訟については,共同所有関係そのものをめぐる共同所有者内部の争いとして,その管理処分権は共同相続人の全員に属するという実体法的な観点,その判決の既判力により遺産分割の前問題である当該財産の遺産帰属性につき合一に確定させるという訴訟政策的観点から,固有的必要的共同訴訟に当たるとしたのが参考判例①である。この判例は,遺産確認の訴えの訴訟共同が参考判例②を引用して結論を引き出している。(2) 遺産確認の訴えの利益確認の利益が認められる利益が他の相続人の遺産に属することを確認,過去の事実ないし法律関係の確認として不適切とされないかが [→問題28],参考判例②は次の理由から利益を肯定した。まず,遺産の帰属が対象であり,これは「遺産分割前の共有関係」という現在の法律関係と解しうると,遺産確認の利益は紛争の抜本的解決に役立つ。具体的には,遺産確認の訴えはその後の遺産分割の前提につき当該財産の遺産帰属を争うことができなくなる。後者の後者について述べると,本件のような場合に土地が遺産であるかどうかを確定しないと相続放棄や限定承認の審判 (家事 284 条・191 条以下。同別表第2の12) [→問題28] が定まらない。あるいはその手続は進み,土地が遺産であるとしてなされた分割審判が確定しても,その前提となっている財産の帰属については争いを蒸し返すことができ [→問題111],訴訟による解決手続による終局判断が不可能とされていること [→問題111]。審判や判決に直すことになりかねない。分割土地は遺産でなく,その所有権で争うとした遺産分割手続の前提問題につき,その確定の既判力によって後の紛争を封じておく必要がある。というのである。この場合,X の持分を確認することも考えられるが,X が共有持分を相続したという理由での Y の持分確認がされても確定しても,X がそれを超える部分,本件土地が遺産であると主張して争うことの判決の既判力は生じない。それ以外の部分については争いが残され,結局は共同相続財産全体の遺産帰属の確認をしなければならない。したがって,遺産分割審判の手続においておよびその後の分割後の遺産帰属性に争うことを許さず,紛争の解決を図るには,当該財産が遺産の帰属に属すること,という共同相続の発生原因の具体的内容の確認を求める必要があるというのが判例の理由付けである。2 訴訟政策的判断上記のとおり遺産確認訴訟の手続に争いを既判力により封じるに足りるだけのその手続に関わる共同相続人全員を当事者として争わせ,合一的に確定しておく必要がある,というのが遺産確認訴訟の実際的要請から,参考判例①に示されている。そうすると,Xは,Yに共同相続人のうち原告に加わらない者を被告に加えるなどして,共同相続人のうち原告に加わらない者を被告に加えるなど,共同相続人が全員被告になる必要があるとしており [→問題64],判例に沿うならば,本問では,BとCが原告にならないならば被告に加えるべきことになると考えられる。参考判例③も,同じく遺産確認訴訟と遺産分割後の地位の不存在確認の訴えを固有的必要的共同訴訟とした判例 (平成 16・7・6 民集 58 巻 5 号 1319 頁) も,共同相続人全員が当事者となる必要があるとしており,Y がほかの共同原告と共同で訴えを提起しなければならないと述べてはいない。遺産確認や相続人の地位の確認では争っている共同所有者であるから,共同所有者以外の第三者と訴訟する訴訟共同訴訟と異なり,訴訟を複雑にする。より方法に違和感がない。また最高裁は,遺産確認訴訟での共同所有関係の確認と違い,原告と被告の間で当該財産がAの遺産であることを確認するという結論は主観の共同所有に帰結するもので,共同相続人全員が当事者のどちらかに入っていれば足りるという考え方になじみやすい。さらに参考判例①の事案では,BらがYに加担している状況であったので,このような場合には紛争の総合的解決のため,遺産確認訴訟では常に共同相続人が加わらなくてはならない。この訴えが固有的必要的共同訴訟であることは前提としたうえで,新たなルールを加えたとされるのが参考判例③である。この事案では当初,相続人全員が当事者となっていたが,遺産係属中にその相続人の一部の他の共同相続人に譲渡したことから,原告は譲渡人に対する訴えを取り下げた。固有的必要的共同訴訟である遺産確認の訴えの一部に対する訴えの取下げは認められないが,参考判例③は,相続分全部を譲渡した者は,遺産分割手続等で遺産帰属財産をめぐる判断を前提とすることはなくなり,つまり両者の間で問題である遺産帰属性を確定すべき必要性がなくなる (紛争解決の余地がない) から,遺産確認の訴えの当事者適格を喪失するとして本件訴えの取下げを認めた。3 残された問題以上のとおり,判例は既判力による紛争解決を強調するが,従来の考え方に立てば既判力は被告と原告の間に生じるのであって,請求の立てられていない共同訴訟人間には生じない。Y・B・C間では土地の遺産帰属性が確定しても,Y・B・C間では既判力による確定はなされない (そこで,学説には共同訴訟人間に既判力を生じさせる効果のある提案もある)。[→問題64]。笠井正俊『遺産確認における確定判決の既判力の主観的範囲』[伊藤眞古稀記念論文集『民事手続の現代的使命』(有斐閣・2015) 155 頁等]。また,同じ遺産分割の前提問題であるのに,遺言無効確認訴訟は固有的必要的共同訴訟ではなく通常共同訴訟であるとするのが判例である (最判昭和 5・6・11 民集 35 巻 6 号 1013 頁) [→問題68]。現状では,この種の訴訟につき訴訟共同の必要を強く説く方が有力であるが,このほかにも,原告に加わらない者を被告にすることに,原告被告のどちらにつくか,あるいは消極的な第三者の地位にとどまるかの選択を認めようとする学説もある [→問題62]。他方,被告の判決で同時確定の利益が重視されることは,事案に応じた対処も考えられてよいのではないか。例えば,参考判例①の事案では第1審がYのみを被告とするXの各訴えに請求棄却判決をしたが,控訴審が遺産確認訴訟は固有的必要的共同訴訟であるとしてこの部分の判決のみを取り消し,訴えを却下した。B,Yに利害なしを共通することが現実的でないと判断される却下以上,あえてそのまま実体判決をすることが便宜性を優先するXの申立てに訴えの主観的追加組合せか [→問題60] を認める。Yのみに対する遺産確認訴訟で請求棄却が確定しても,XがBらを相手にさらに遺産確認訴訟を提起する余地は残るが,それに対しておおきな意味がある。Xによる遺産確認訴訟がYに自己の所有権確認訴訟を提起して (Xに対しては反訴,Bらも当事者にする場合,訴えの主観的追加組合せか [→問題60] だが),判例によれば別訴として提起されて併合されるか [→問題60],裁判所の裁量によることになる) 認容判決を確定させればよい。この事態の負担分担もありうる。なお,判例によれば自分による自己の所有権確認で棄却判決が確定した後でも遺産確認の訴えがされることを許している(参考判例③の場合と異なり,その後の訴訟が残る)。その意味で及ぼされる既判力にも疑問がある [→問題68]。笠井正俊「共有物分割訴訟と既判力」 [→問題68]。山本克己「ほか固有必要的共同訴訟の現代的課題——共有物分割手続と民事再生手続の交錯を契機に」[民事訴訟雑誌 62 号] (2017) 25 頁等。[⚫] 参考文献 [⚫]山本克己・ジュリ 946 号 (1989) 49 頁/山本弘「遺産分割の前提問題の訴えの利益に関する一考察――遺産確認の訴えの当事者適格を中心として」同『民事訴訟法・倒産法』(有斐閣・2019) 175 頁/高田・民法7 (有斐閣・2015) 198 頁(安西明子)
X₁~X₁₀ によれば,X₁らと Z₁~Z₁₀ はこの土地を入会地とする入会集団の構成員である。本件土地は,(権利能力なき入会集団の名義では登記できないため) Z₁の名義で登記されていたが,後に Y が,本件土地を Z₁ から買い受けたと主張するようになった。このような事情から本件土地が入会地であるか,Y の所有地か争いがあるため,X₁ らが訴訟を提起して Y に対して土地の入会権を確認しようとした。しかし,Z₁ はもちろん,Z₂~Z₁₀ も訴訟を提起することに同調しない。この場合,X₁ らは自分たちだけで,同調しない構成員を原告に入れずに,入会権を有することの確認を求めて訴えを提起することができるか。できるとすれば被告として相手取ればよいか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判平成 20・7・17 民集 62 巻 7 号 1994 頁② 最判平成 11・11・9 民集 53 巻 8 号 1421 頁[⚫] 解説 [⚫]1 固有的必要的共同訴訟か所有権関係訴訟は固有的必要的共同訴訟かーー実体法的な考え方ですでに問題63で述べたとおり必要的共同訴訟では合一確定のため必要的全員が当事者 (規律 40 条) を受ける「類似必要的共同訴訟でも受ける) 上,関係者全員が当事者となっていなければならないという訴訟共同が必要とされる。そして固有的必要的共同訴訟とされるのは,①他人間との法律関係に変動を生じさせる訴訟の場合 (例えば取締役の解任の訴えでの当該取締役と会社,会社 855 条),②数人で管理処分・職務執行することになっている場合 (例:数人の受託者の信託財産関係訴訟の数人の受託者,同一選定者から選定された数人の選定当事者) と,③共同所有形態における紛争に関する訴訟である。通説は,③の共同所有関係を共有 (持分があり,処分権は共同でなくてよい) と合有,総有に分け,さらに合有における保全行為や処分権・職務といった実体法上の規律と併せて固有的必要的共同訴訟かどうかを決めるようとする。すなわち,総有や合有の場合は権利者が共同して1つの権利を処分しなければならないので,その財産に関する訴訟は原則として固有的必要的共同訴訟とされる。本問の入会権は,一定の村落住民に属するので,入会権確認の訴えは入会権者全員が共同してのみ提起できるとされる (最判昭和 41・11・25 民集 20 巻 9 号 1921 頁)。ただし,団体に当事者能力が認められること (29 条) を前提に,一定の場合に入会集団が原告となれるとした最判がある (最判平成 6・5・31 民集 48 巻 4 号 1085 頁がある [→問題 21])。これに対して,入会権者各人の使用収益権の確認および収益権に基づく妨害排除請求訴訟は,固有的必要的共同訴訟でなく,各入会権者が個別に提起できるものとされている (最判昭和 57・7・1 民集 36 巻 6 号 891 頁)。以上のような実体法上の管理処分権能に従って固有的必要的共同訴訟の範囲を決めようとするものであり,実体法説といえる。2 固有的必要的共同訴訟における訴訟追行本問の入会権確認訴訟は固有的必要的共同訴訟に当たるので,関係者全員が当事者となる訴訟共同の必要がある。こうすると,訴訟に参加しなかったり,訴訟追行の利益に影響を受け,裁判を受ける権利を奪われずにすむし,もし関係者の間でバラバラに訴訟をすること認めた場合の判決の矛盾,相手方の応訴の負担を防ぐことができる,とされる。しかし反面,一部の関係者の関係が漏れていた場合,例えば数百名もの入会権者のうち1人が抜けていたことが判決言渡し直前に判明した場合でも,当事者適格が認められず訴え却下となる。また,本問のように原告側で共同訴訟に賛成しない者がいる場合,訴えが提起できないという問題が生じかねない。そこで学説においては,実体法説 (前述 1) のような総合判断による総合的個別訴訟によって個人の利益を保護し,判例も,訴訟追行を重視して訴訟が提起されても当事者適格があるとみる場合がある。訴訟が提起できず裁判を受ける権利を奪われてはならない。した。そして,①訴え提起に同調する者のみの訴え提起を認めようとする説も主張された。しかし,固有必要的共同訴訟の範囲を広く広げると,本問では Z₂ らのような同調者が訴訟に関与する機会が奪われ,事実上のものであっても,自分たちの関与しない判決の効力,影響を受けることになりかねない。そこで,固有的必要的共同訴訟の範囲を維持し,その手続的メリットを生かしながら,共同原告となることを拒む者は,被告に回して提訴することを許すという考え方が主張されるようになった (重点講義 I 36 頁など)。この考え方によれば,本問では X₁ らは Y のほか Z らも被告に加えることにより訴えが提起できる。被告は全員当事者として手続関与の機会を与えられることになる。このほか,学説においては,構成員それぞれの訴訟の自由を認めようとの立場から,訴訟告知 (53 条) を活用して非同調者に訴訟係属を知らせれば,Xらだけで原告となれるとする説などもある。3 判例の展開——非同調者を被告に加える方法の許容判例は,もともと実体法説 (前述1) によりながら,固有的必要的共同訴訟の範囲を狭め,個別訴訟を許そうとする方向をとっていたが,実体法的に固有必要的共同訴訟に当たるとした類型では,やはり全員が加わなければ原告適格がないとしていた。具体的には,共有地と隣地との境界確定の訴えにおいて,15名の共同所有者のうち1名が行方不明でありかつ被告の兄弟である事案で,この訴えは固有的必要的共同訴訟であり,1名欠く訴えは不適法とした (最判昭和 46・12・9 民集 25 巻 9 号 1427 頁)。しかし後に,同じ共有地の境界確定訴訟で,これが固有的必要的共同訴訟であるとした上で,学説ののように,非提訴共同権利ないし者は被告に回して訴えを提起してよいとした (参考判例②)。ただしこの判例では被告側は形式的形成訴訟である (実質的に行政訴訟で,訴訟ではない) 点が強調されていたため,他の場合にも被告に回す方法が認められるのか疑問がもたれていたところ,最高裁は,本問に即した入会権確認訴訟は固有的必要的共同訴訟であることを前提に,一部の者が原告となった入会権確認訴訟は不適法とした第1審・第2審を覆し,提訴に同調しない者を被告に回すことを認めた (参考判例①)。この判例は,入会集団の構成員のうちに提訴に同調しない者がいる場合でも,入会権の存否について争いがあるときは,民事訴訟を通じてこれを確定する必要があるとして,入会権の存在を主張する構成員の訴権を保護するという見地から,非同調者の被告化を認める。そして,被告であっても構成員全員が訴訟の当事者に加わっていれば,その訴訟の判決の効力を入会集団の構成員全員に及ぼしてもよい,入会権確認訴訟を必要的共同訴訟と解釈した最判昭和 46・12・9 も,非同調者の被告化の方法を否定してはいない,として訴訟政策的観点を鋭く示している。ただし,判例は確認訴訟で被告化を認めただけであり,給付訴訟でどうなるかには触れていない。また非同調者の被告としての地位をどのように捉えるのか,この訴訟の構造について説明しておらず,残された問題は多い。4 被告化された非同調者の地位提訴に同調しない者の被告化は確認訴訟以外に給付訴訟でも認められるか。参考判例①によると,この確認訴訟において,X らにはまず Y に対して入会権確認請求をしているほか,Z らに対しても X らと Y の間の内部訴訟に自分たちが原告権をもっていることを確認しているとみられる。一方,給付訴訟を考えてみると,例えば本問で Y が土地所有権の移転登記を済ませていた場合,X らが Y に対して,その抹消登記手続を求める請求は成り立つが,Z らに対する請求は考えにくい (せいぜい立てれば,X らと Y の間で X らが Y に登記手続請求権をもつことの確認請求)。したがって判例の射程は確認訴あののみとされている。これに対し,学説は,Z らに対して訴訟で判決を立てる必要はないとして,給付訴訟においても同様に Z らを被告に回した訴訟を認め,Z らを「請求なき当事者」と捉える。次に,判決の効力が Y に及ぶの (主観的範囲) も問題となる。Y と Z らの間には請求が立てられていないので,ここには請求認容や棄却ということになるが,それでよいか。例えば本問で X らが勝訴を勝ち取れば,判決が確定した場合,X らと Y・Z 間では入会権の不存在に既判力が及ぶが,後に Z らが Y に対して入会権の確認を過ごすことは既判力によって封じられないのではないか (逆に X らの請求棄却判決確定後の Z らから Y に対する同じ土地の所有権確認も封じられない)。これを避けるため,学説は請求が立っていなくても Y・Z ら間に既判力等の拘束力が及ぶと考え,例えば Y から Z らへ矢印の請求に請求が立っていなくても,1つの中心をもって X ら・Y・Z らが当事者として関与して審理がなされていれば判決効も及ぶとするのである。さらに,提訴に同調しない者の自由をどう考えたらよいか。本問のように集団の中で提訴に同調しない者のほうが多数である場合は提訴すべきでない,という見方もあるかもしれない。しかし,このような多数決による処理は理論的でない。提訴しない者が大きい割合を占めるとする,提訴の可否は単なる反対利益だけではないとみて,学説は1名での提訴 (他の構成員全員を被告に回す) も可能とする。参考判例①も少数派原告による提訴を認めた。ただし,b提訴拒絶者が提訴時期を遅らせる限りはその利益があるとして,このような場合には一部の原告による訴えを却下すべき,としている。そうするとしかし,現段階の提訴が適切かどうかを,原告弁護士でなく裁判所が判断することになるが,それでよいかといった問題も生じてくる。そもそも固有的共同訴訟とせず,個別訴訟を許すべきではないかという問題にさかのぼる。[⚫] 参考文献 [⚫]重点講義II 329 頁/鶴田・争点 70 頁/棚橋・百選・百選 192 頁(安西明子)
XはY₁に対し,Y₁がX所有の土地に権限なく建物を建てて不法に占拠しているとして,所有権に基づく建物の退去と土地明渡しを提起することにした。しかし,この訴え提起の準備中に,Y₁が死亡していて,第1審の被告になったのが,Y₁Y₂の共同相続人Y₁Y₂を被告にした。第1審ではXの請求が認容されたが,Y₂らが控訴したところ,控訴審の口頭弁論終結後,判決言渡しの直前に,Y₃が自分も共同相続人であるとして,弁論の再開を申し立てた。この場合,控訴審は弁論を再開しなければならないか。それも,これを行わずに,控訴を棄却し,X勝訴の判決を下すことはできるか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 43・3・15 民集 22 巻 3 号 607 頁[⚫] 解説 [⚫]1 固有的必要的共同訴訟本問では,共同相続人が被告となる訴訟が固有的必要的共同訴訟に当たるかどうかが問題とされる。共同訴訟には,共同訴訟人 (訴えの主観的併合) には,各共同訴訟人 (共同原告,共同被告) につき判決がまちまちになってもよい「通常共同訴訟」と,判決が合一に確定されることが要請される「必要的共同訴訟」とがある。前者には,合一確定の要請がない。共同で訴えまたは訴えられる必要もない。一方,合一確定が要請される必要的共同訴訟はさらに2つに分けられ,全員が共同で訴えまたは訴えられなければならない「固有的必要的共同訴訟」[→問題63]と,共同で訴えまたは訴えられる必要はないが,そた場合は当事者間で合一的に解決されなければならない「類似必要的共同訴訟」[→問題68] がある。つまり,両者は,後者と同様に合一確定の必要のため審判規律 (40 条) を受ける上,関係者全員が当事者となっていなければならないという訴訟共同が必要とされる「合一確定の必要」「訴訟共同の必要」。したがって,本問の訴訟が固有的必要的共同訴訟とされれば,共同相続人全員を共同被告としなければ被告適格がないとして訴え却下となるから,Y₃ のため弁論を再開しなければならない。固有的必要的共同訴訟でないとすれば,Y₃を欠いたまま,他の被告には判決を下してよい (Y₃とはこれから別に訴訟する) ことになる。そして固有的必要的共同訴訟とされるのは,①他人間との法律関係に変動を生じさせる訴訟の場合 (例えば取締役の責任の訴えでの当該取締役と会社,会社 855条),②数人で管理処分・職務執行することになっている場合 (例:数人の受託者の信託財産関係訴訟の他の受託者,同一選定者から選定された数人の選定当事者) と,③共同所有形態における紛争に関する訴訟である。2 実体法による判断通説は基本的に,③の共同所有関係を所有権 (共有持分があり,処分権は共同でなくてよい) と合有に分け,さらに合有における保全行為や処分権・職務といった実体法上の規律と併せて固有的必要的共同訴訟かどうかを決めようとする。すなわち,原告側については,総有か合有の場合は権利者が共同して1つの権利を処分しなければならないので,その財産に関する訴訟は原則として固有的必要的共同訴訟だが,共有の場合は各共有者の地位の独立性から固有的必要的共同訴訟ではない。民法上の組合・共同相続財産の債務は各自の債務となるから,合有ではあるが固有的必要的共同訴訟ではない。総有に被告でも固有的必要的共同訴訟とはならない。判例は変遷があり,固有的必要的共同訴訟となる場合を制限していこうとする傾向があるが,そうでない例もみられ,錯綜している。実体法によってこう定めようとする点は基本的に通説と同じであるが,実体法理解において異なるため結論も通説と食い違うことがある。原告側では,通説と同じく総有は固有的必要的共同訴訟としたが,その後,入会権に基づく使用収益権については入会権者各自の権能であるから個別訴訟で確認できるとする (最判昭和 57・7・1 民集 36 巻 6 号 891 頁) など,実体法による判断に修正を加えている (入会権確認につき→問題65)。被告側では,総有の判断はないが,共同相続の例が多く,参考判例①がその例である。本問に即してみると,判例によれば,本問の分割前の共同相続財産は共有と解されている。建物の収去土地の明渡請求権も債務とされておらず,参考判例のほかにも類似訴訟が認められる場合には,もっとも請求が認められる場合には,個々の各相続人が各自の持分権割合の限度でしか負うので,XはY共同相続人各自に対して順次請求権を行使でき,必ずしも全員に対して同時に訴えを提起し,同時に判決を得なくてよい,と述べている。このように共同相続に固有の実体法上の性質から固有的必要的共同訴訟かどうかを判断するという方法がとられてきた。3 訴訟政策による判断上記の実体法的観点に加え,参考判例①は,次のとおり訴訟政策的観点からもこの訴訟は固有的必要的共同訴訟ではないとした。すなわち,もし固有的必要的共同訴訟とすると,①建物収去土地明渡請求訴訟が遅延すること (争う意思のない一部被告が訴訟を遅延させ,または原告が他の被告に訴状を送達することができない),②さらに建物の共同相続登記が未了で所有者が誰であるか不明であるとか,一部の所在が不明であるなど,共同相続人すべてを被告とすることを原告に期待することが困難な場合がある。一方これを通常共同訴訟と解すると,①土地所有権者が建物所有者に対し明渡しと損害賠償をすることができ,②各共同相続人各自に対して債務名義を取得するか,その同意を得る必要があるから,被告の権利保護に欠けることはない。参考判例①は,実体法的観点よりもこれら訴訟政策的観点を決め手として判決した。共同相続への訴訟を固有的必要的共同訴訟とはしなかったのでこの最高裁判決であり,多数説と一致する。しかし,このように個別訴訟を許すことに対しては,実質的に1つの訴訟を省略し,一部被告は紛争を完全に解決できないとの批判がある。上記①のとおり,Xが建物収去土地明渡しの強制執行をするには Y₃に対する請求権も必要であり,いままでY₁・Y₂らに請求したとしても,もし Y₃に敗訴すれば執行できず,前の勝訴判決が無意味になりかねない。また,XがY₁Y₂に対する勝訴判決を取得しないうちに Y₃らに対する勝訴判決を債務名義として強制執行をしてきたときに,Y₁Y₂らの債務名義が足りないことが執行裁判所に明らかにならないと,不当に執行されるおそれもある。この批判に多数説は反論して,実際には Y₃らへの勝訴判決が影響して Y₁に敗訴するような複雑な判決矛盾は生じず,もし不当執行が行われた場合は Y₁から第三者異議の訴え (民執 38 条) をして防げばよい,とする。けれども,そうだだとすれば Y₁が欠けたまま Y₂に事実上少なからぬ影響を与える訴訟を許すことになり,それでよいかという再反論もある。結局,抽象的な訴訟政策としては,固有的必要的共同訴訟の範囲を限定して個別訴訟を許す判例・多数説が妥当であるが,問題も残っている。4 個別訴訟への柔軟な対応の必要具体的な事案の処理としてはどうすればよいか。判例は,全員だと思って訴えたところ被告の一部が欠けていた場合の処理として妥当である。とくに,本問に用いた参考判例①の実際の事案では,当初の被告 (X によれば不法占拠者) が多数であった上,Y₁ が外国人であったために相続関係が調査困難であった (さらに,訴訟係属中に Y₁ が死亡し,さらに Y₁ の訴訟代理人が辞任したために,共同相続人による訴訟手続の受継が問題となった。この訴訟手続の受継については問題が複雑になるのでこちらでふれない) など,相続人や他にも存在していたことが不明確であった。ここまででなくとも,X のほうから不法占拠者である Y₃ らを把握できない事情があり,X の被告選択に責任がないというような事案では,不利な判決を受けた後,あるいは受ける直前に Y₃ が欠けていたことを主張することは,X との関係で公平とはいえない。この後,X は新たに Y₃ に対する訴訟を提起し,勝訴しなければならないが,これに Y₁Y₂ に対する勝訴判決が X に事実上有利に影響を及ぼすとしても,あなたが公平ではない。以上のような考慮も踏まえ,学説においては,全員を相手に訴えることが困難でなく,かつ将来の再訴可能性が高い場合には全員を相手にすべきであるとの説や,共同訴訟となった以上は類似必要的共同訴訟 (訴訟共同の必要はないが合一確定の必要はある) と解すべきであるとの説,通常共同訴訟,類似必要的共同訴訟,固有的必要的共同訴訟の境界を流動的に捉え,個別事案にあった柔軟な処理を唱える説なども主張されている。つまり近時の学説においては従来のように,訴訟共同の必要性があるかないかの問題に置き,後者に固有の必要的共同訴訟では1人欠けても却下であり,後者の通常共同訴訟ではまったくの個別訴訟を許す,というような両極端の発想では足りないと考えられている。固定的な枠組みにとらわれない柔軟な思考,弾力的な処理の必要性が認識されるようになっているといえよう。[⚫] 参考文献 [⚫]重点講義II 329 頁/中島弘・百選 196 頁(安西明子)
XはY₁から350万円借り入れた際,X所有の本件土地の登記をY₁に移転した。Xは弁済の提供をしたが,Y₁は土地を返さない。そこで,Y₁への登記移転は担保目的であり,所有権の移転の意思によるものではなかったとして,Y₁に対する所有権移転登記の抹消登記を提起した。ところが,Xの新訴提起直前に,Y₁はY₂(本件土地を使用し所有権移転登記をした。そのため,Xは,主位的にY₁に対して所有権移転登記を請求するとともに,仮にその請求が認容されない場合にはY₂がXの権利行使を妨げ,Xに損害を被らせたことになるとして,Y₂に対して予備的に1400万円(土地代金から借入金債務を引いた額)の損害賠償請求をした。このようにXがY₁・Y₂に対して順位を付け,主位的被告Y₁に対する請求認容を解除条件として,予備的被告Y₂に対する請求で訴えを求めることはできるか。[⚫] 参考判例 [⚫]① 最判昭和 43・8・8 民集 22 巻 8 号 551 頁[⚫] 解説 [⚫]1 主観的予備的併合の意義数人のまたは数人に対する請求が論理上両立し得ない関係にあって,いずれが認められるか判定し難い場合に,共同訴訟の形態をとりつつ,それぞれの請求に順序を付けて審判を申し立てることを,訴えの主観的予備的併合と呼ぶ。例えば,代理人 (代表者) と契約したが無権代理の疑いがあるときに,第1次的に本人 (会社) に請求し,これが棄却される場合に備えて予備的に代理人 (代表者) に対する請求をも併合提起する場合 (民訴 117 条 1項),土地の工作物の瑕疵による請求を第1次的に占有者に,第2次的に所有者に対して請求する場合 (民法 717 条) などである。この併合形態をとらず,両被告を別々に訴えることはできるが,別訴だと一方では代理権がないとして本人に対する請求を棄却,他方では代理権ありとして代理人に対する請求を棄却されて両方で敗訴するおそれがある。被告側のみならず原告側に順位付けがなされる場合も含まれるが,ここでは本問のとおり前者をおもな対象としていく。2 この併合形態の問題点同一当事者の請求の複数に順位を付ける,訴えの客観的予備的併合は問題なく認められるのに,主観的予備的併合については議論が分かれている。否定説の理由は主に,①予備的被告の地位が不安定であること,②審理の統一が保障されているわけでないことの2点にまとめられる。すなわち,①この併合形態は,第1次被告に対する請求が認められれば予備的被告に対する請求の判断がされないので,第2次被告の地位が極めて不安定であること,②第1次被告に対する請求認容判決が確定すれば,予備的被告に対する訴訟は遡及的に訴訟係属を消滅させられ,予備的被告の地位が不安定なものになること,と。③この併合形態には共同訴訟人独立の原則 (39 条) [→問題61]が適用される結果,いずれか一方に対し勝訴できるという原告の保護の統一の保障は必ずしも図られず,この併合形態を認めるメリットはあまり大きくないこと,とくに原告との関係では,第1次被告に対する請求が認容されれば,判決は第1次被告との間でしか言われず,控訴審ではじめて第1次被告で敗訴となり,被控訴審にいくのに主観予備的併合だけでできる。また第1次被告につき請求棄却,予備的被告に対し請求認容となるも通常共同訴訟であって,原告が控訴したとき予備的被告にいくのは第1次被告に対するとおりであり,結局,どちらにも負けることを防止するという趣旨が害される危険がある。参考判例①は主観的予備的併合の当否について初めて明示し,否定説に立つことを明示したが,その後も下級審においてはこれを認容する判例が報告されている。3 肯定説からの反論肯定説は,上記問題点は致命的なものではない。①は,通常共同訴訟における独立原則を修正して必要的共同訴訟の規定 (40 条) を準用すれば,主張の問題だけでなく,攻撃防御方法の提出や自白,和解を含めて一応解決できる。もともとこの併合形態を否定するより肯定するほうが,より統一的裁判を保障できる。①についても,両立しない請求の関係から,主位的請求認容判決は同時に予備的請求棄却を意味し,両者が確定すれば申立ての趣旨の再判断を迫ること解消すると解すればよい。これらは技術的問題として,クリアできるのである。ただし,根本問題につながる①については,もう少し検討しておこう。①は,主位請求が認容されると予備的請求は棄却判決を受けることなく消滅するという判決脱漏での不利益のほかに,⑥原告申立ての自分に対する請求に審理に入るのか不明で,終始訴訟に関与していなければならず,しかも主位請求に対する請求の審理中はほとんど何もできない,という審理過程での不利益がある。③④前述のとおり技術的にクリアできた。⑥も,予備的被告に対する請求に関する弁論,証拠調べは第1次被告に対する請求が棄却されてから始めるという条件付きにできる。請求である以上,2つの同時並行的に審理されると考えられ,予備的被告がいつ自分に対する審理が始まるか不明という不安定な地位に置かれるというより,むしろ終始弁論の機会があることは否定も考えられる。4 肯定説の展開と本問への対応問題なのは,原告が「択一的に」両被告を相手にしている状況において,なぜ両被告,とくに予備的被告に不利益をかけるのか不満な原告の申立てで許してよいか。この不利益の根拠を,両請求が両立し得ないという請求の実体的関係に求める考え方もある。しかしそうではなく,訴訟主体間の関係を重視し,予備的被告が異議を述べずに応答している場合や,紛争の経緯から両被告がともに1人に絞る責任がない場合に,この併合形態を認めようとする考え方が主張されている。以上によれば,本問では,厳密な意味で両請求が両立し得ない関係にあるのか若干疑義もあるが,Y₂に対する請求はXに所有権が存在することを前提とし,Y₁に対する請求はXに所有権がないことを前提とする点で法的に両立し得ない関係にあると考えられ,Y₂に対する損害賠償請求が本件土地の代物であるから,実質的経済的にみても主観的予備的併合を許す方向へ傾く。また何より,原告がこのような併合形態をとらざるを得なくなったのは,係争物処分 (土地の売買) という Y₁の行為によるものであり,この場合 Y₂は係争物処分という問題の根拠を承継した,本問ではXが訴えを提起しようとした直前に,Y₁は土地を処分し始めたと想定したことから,もっぱら参考判例①の事案のように,土地は登記は無効であった,実際の売買のほうY₂のほうがより安い値段で買い取ったとすると,いずれにせよ X の所有権が真実にもとづいてその処分を許さず,かつ Y₂が原告からより安い値段で買い取ったわけではないのである。このようなY₂の行動からも,Y₂は被告にされること当然ともいえるし,Xとしては土地を返してもらいたいのが第1であるから,まずY₁に対する所有権移転登記請求,それが認められなかったらY₂に損害賠償請求という順序付けがあるので,このうに紛争の経緯,当事者間の関係からみて,主観的予備的併合が自然であり必要でもある。5 同時審判申出現行民事訴訟法では,主観的予備的併合を巡る議論の意見は相対的に縮小した。法律上併存し得ない2人 (以上) の被告に対する訴訟につき,原告が申出があれば,弁論および裁判を分離しないで行う共同訴訟の申出があったとは (41 条)。そこで前述の民法 117 条や 717 条の例は,原告が申し出れば両被告に対する請求の審理判決は同一手続でされるので,事実上裁かれる,両共同被告が届け出られる。なお,この裁判の形態は,通常共同訴訟として,共同訴訟人独立の原則が適用される。主観的予備的併合のニーズは,この同時審判申出によってもかなり吸収されうるだろうが,今後も主観的予備的併合を必要とする立場も有力である。まず,共同訴訟への訴訟を請求が法律上併存し得ない場合 (法律上排他) で,請求が両立しないこと。前述の本人と無権代理人ケースでは代理権を授与したとの真実が本人に対する請求原因事実,無権代理の主張は抗弁になり,主観的予備的併合の請求で両立しないと仮定すると,本問のような場合が認められるか微妙になる (ただし前述のとおり,請求は両立しない関係にあるこを前提とし,Y₁に対する請求はXに所有権がないことを前提とする点で法的に両立し得ない関係にあるとの説もある)。加えて,事実上被告をどちらにしてよいかわからないような場合 (契約相手や不法行為の加害者が確定できない等) が取り残されてしまう。また,この条文では複数の被告に対する請求の同時審判を原告が申し出た場合にしか規定されていないが,逆に原告が複数で単一被告に対する請求が両立できない場合も,主観的予備的併合の領域とされてきた。そこで,これらにも条文を類推すべきであろう。さらに,同時審判申出では,当事者が請求に順位を付けることができないし,手続を分離しないというだけで完全に通常共同訴訟であれば,統一的審判の問題は弱い,とくに上訴審では,2つの控訴がされた場合には当事者が併合される (41条3項),控訴するかどうかは各自の自由なので,片方だけが上訴された場合には審判の統一はない,例えば「代理権なし」として X が Y に敗訴,X が Y₁ に勝訴という場合,負けた Y₂ は控訴したが X は Y₁ に控訴しないで,控訴審では判断が逆転して「代理権あり」となったとすると,控訴審でXはY₂に勝訴し,結局Xは両方に敗訴する。これを防ぐには,X は,Y₂に対して勝訴しある程度の利益を確保していても,常に控訴しておかなければならず (Y₂が控訴してくるかどうかわからなくても,控訴期間経過直前に控訴してくることもあり得,Y₂の控訴提起を知ったときには間に合わないことにならないように),制度上の不備とされている。[⚫] 参考文献 [⚫]井上治典『多数当事者の訴訟』(信山社・1992) 3頁/重点講義I 94 頁(安西明子)