捜在機関の面前で視罪が実行された場合には、通常、これを端緒に直ちに腹本が開始される。法は「現に罪を行い。又は現に罪を行い終った者」を「現行犯人」と親定し(法212条1項)、そのほか、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる者について、一定の場合にこれを現存処人とみなしている(同条2項)。現行人逮捕の手続については、後に説明する[第3章Ⅱ 3)
(1)「処罪により書を被った者」すなわち「被害者」が、捜査機関に対しその事実を申告し、かつ犯人の処罰を求める意思表示を「告訴」という(法230条)乱罪による被害の事実を申告するにまり、処を水める意思表示をわないのは「被害届」であり。告訴に関する法定の効果(親告罪の場合の公起の条件、挽察官の事件処理に係る通知・告知を受ける権利[法260条・261条]等)は生じない。しかし、いずれも捜査機関が狙罪を認知する端緒になる点にかわりはない(また後であれば虚告訴等の罪[刑法172条]となる)。も口頭でもよい。口頭の場合は、告訴調書を作成しなければならない(法241条)。代理人による告訴も許される(法240条)。なお、告訴は、公訴の提起があるまで取り消すことができる(法237条)。方式は告訴の場合と同様である(法243条)。もっとも、親告罪に当たらない罪については、告訴の取消しに特段の法的意味はない。親告罪に関する事項については、公訴提起の条件として、別に説明する〔第2編公訴第2章13)。このほか、法は、被害者以外の者であっても、被害者と特定の関係にある者が、独立して告訴できる場合等を規定している(「告訴権者」法231条・232条)。(2) 被害者その他の告訴権者または犯人以外の第三者が、捜査機関に対し犯罪事実を申告し、かつ犯人の処罰を求める意思表示を「告発」という(法 239条)。告発の受理権者及び方式等は、告訴の場合と同様である(法241条・243条)。告発は一般には捜査の端緒にとどまるが、一定の犯罪については、告発が公訴提起の条件とされている場合がある(例,独禁法89条~91条違反の罪について公正取引委員会の告発[独禁法 96条])。(3) 「請求」とは、一定の機関が、捜査機関に対して犯罪事実を申告しその訴追・処罰を求める意思表示である。親告罪における告訴と同様、請求が公訴提起の条件とされる(例,外国国章損壊罪について外国政府の請求[刑法92条]。なお法244 条参照)。(4) 犯人が捜査機関に対し自己の犯罪事実を申告しその処分に服する意思表示を「自首」という。「自首」は「捜査機関に発覚する前」に申告することを要し、刑法上は刑の減免事由とされている(法42条・80条等)。刑事手続法上は捜査の端緒になる。法は自首の方式について、告訴・告発に関する規定を準用して手続を慎重に進めることにしている(法245条)。(5) 司法察員が告訴・告発・自首を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に「送付」しなければならない(法242条・245条)。「事件」の送致という表現ではないが、前記のとおり当該事件につき検察官に捜査の初期段階から関与させて適切な措置を採らせようとの趣意である。法246条の事件送致に関する「特別の定」に当たる。告訴を受理できるのは、検察官または司法管察員である。その方式は書面でも口頭でもよい。口頭の場合は、告訴調書を作成しなければならない(法241条)。代理人による告訴も許される(法240条)。なお、告訴は、公訴の提起があるまで取り消すことができる(法237条)。方式は告訴の場合と同様である(法243条)。もっとも、親告罪に当たらない罪については、告訴の取消しに特段の法的意味はない。親告罪に関する事項については、公訴提起の条件として、別に説明する〔第2編公訴第2章13)。このほか、法は、被害者以外の者であっても、被害者と特定の関係にある者が、独立して告訴できる場合等を規定している(「告訴権者」法231条・232条)。(2) 被害者その他の告訴権者または犯人以外の第三者が、捜査機関に対し犯罪事実を申告し、かつ犯人の処罰を求める意思表示を「告発」という(法 239条)。告発の受理権者及び方式等は、告訴の場合と同様である(法241条・243条)。告発は一般には捜査の端緒にとどまるが、一定の犯罪については、告発が公訴提起の条件とされている場合がある(例,独禁法89条~91条違反の罪について公正取引委員会の告発[独禁法 96条])。(3) 「請求」とは、一定の機関が、捜査機関に対して犯罪事実を申告しその訴追・処罰を求める意思表示である。親告罪における告訴と同様、請求が公訴提起の条件とされる(例,外国国章損壊罪について外国政府の請求[刑法92条]。なお法244 条参照)。(4) 犯人が捜査機関に対し自己の犯罪事実を申告しその処分に服する意思表示を「自首」という。「自首」は「捜査機関に発覚する前」に申告することを要し、刑法上は刑の減免事由とされている(法42条・80条等)。刑事手続法上は捜査の端緒になる。法は自首の方式について、告訴・告発に関する規定を準用して手続を慎重に進めることにしている(法245条)。(5) 司法察員が告訴・告発・自首を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に「送付」しなければならない(法242条・245条)。「事件」の送致という表現ではないが、前記のとおり当該事件につき検察官に捜査の初期段階から関与させて適切な措置を採らせようとの趣意である。法246条の事件送致に関する「特別の定」に当たる。
走行中の自動車を対象とする検問を「自動車検問」と称する。走行中の自動車内に居る運転者等に質問するためには、自動車に停止を求めることが必要となる。法的枠組は基本的に前記通行者に対する検問の場合と同様であり、車体*先行の外観から異常や不着が認められる場合には、警職法2条1項の要件談当や道交法上の停止権限に根拠規範を求めることができる。職法上の職務質間実施のため自動車を停止させる手段・方法は「任意手段」に限られるが、走柿中の自動車を「停止させる」のに必要な限度の働き掛けが可能であろう。これに対し、車体や走行の外観に異常・不審が認められない自動車に対して、普察の貴務(察法2条1項)の範囲内の合理的な目的達成のため検問を行う場合は(例、交通の取締目的。犯罪の予防目的),無差別に一時停車を求めて質問を行う形態になる。この場合は、根拠規範を要しない限度、すなわち、相手方の自由な意思に基づく任意の承諾・協力を求めて停車してもらい、その承諾・協力の範囲内で質問を行う場合に限り許容される。判例は交通取締目的の自動車→斉検問(いわゆる「交通検問」)について、「交通の取締」が、察法2条1項の定める責務の範囲内の普察活動であることを確認した上、「普察官が、交通取締の一環として交通違反の多発する地域等の適当な場所において、交通反の予防、検挙のための自動車税問を実施し、同所を通過する自動車に対して走行の外観上の不審な点の有無にかかわりなく短時分の停止を求めて、運転者などに対し必要な事項についての質問などをすることは、それが相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法なものと解すべきである」と説示している(最決昭和55・9・22集 34巻5号272頁)。他の祭目的達成のための自動車一斉検問も同様の限度で容されよう。「相手方の任意の協力を求める」限度を超え、相手方の意思に反し、走行・移動の自由を侵害・制約する方法・態様の検問は、このような法益侵害を伴う贅察権限行使の根拠規範がないので,違法である。念の為付言するが、組織規範である普察法2条1項が検問の根拠規範になり得ないのは当然である。むしろ検問を同条項の画定する察の責務の範囲に規制・限定するものである(察法2条2項)。
素務質問の一形態として、複数の蕎察官が一定の場所で通行者一般を対象に開する場合を「梅間」という。対象者が普識法2条1項の受件には当する場合は前記量のとおり所定の権限行使が可能である。これに対し、普職法の要件に当しない通行者一般に対して、質問したり所持品の開示・提示を決めることは、①その目的が、警察の一般的責務(贅察法2条1項)の範囲内であること(日本2)を前提に、②相手方の自由な意思に基づく任意の承諾・協力を得て、その承諾・協力の範囲内で行われる限り、法益侵害がないので、特段の根拠規範がなくとも許される。しかし、この範囲を超えて対象者の意思に反しその法当を長書する行為は、根拠規範がないので違法である。なお、相手方の自由な意思に委ねられるべき承諾・協力に応じないからといって、それだけで警職法2条1項の「異常な挙動」に当たるとすることは不当である。
1) 停止させた質問対象者の所持品について,その外表を目視観察することや、所持品の内容等について「質問」することは、当然許容される。また、所持品の内容物を開示・提示するよう求めこれを点検することも、対象者の任意の承諾や協力を得て承諾の範囲内で行われる限り、法益の侵害はないから法的問題は生じない。(2)これに対して、普察官が職務質問の過程で、対象者の承諾がないのにその所持品を開披し内容物を点検・検査する態様の行為(検索型の所持品検査)を現行法の下で適法と見ることは、極めて困難である。その理由は次のとおり。第一,普察官が対象者の意思に反して所持品の開披や内容物を点検・検査する所持品検査は、その行為態様として憲法35条の保障する重要な法益を侵害・制約する「捜索」または「検証」に類型的に該当する「強制」手段というほかないように思われる。例えば、普察官が配送過程にある宅配便の内容物を点検・検査する目的で荷送人・荷受人の承諾がないのにこれをエックス線撮影する行為は、荷物の内容物に対するプライヴァシイを大きく侵害するものであり強制処分たる「検証」に該当するというのが判例である(最決平成 21・9・28刑集 63巻7号 868頁。この判例が所持品検査に関する後掲最判昭和53・6・20[米子銀行強盗事件],最判昭和53・9・7を黙示的に変更したのかどうかは今のところ不明である)。そうであれば、承諾がないのに響察官が配送過程にある無施錠のバッグを開抜して内容物を点検・検査する行為も同様にバッグを対象とした「捜索」または内容物の「検証」というほかないであろう。特別の根拠規定に基づき原則として裁判官の状を要するはずである(憲法35条。法218条)。職務質問の過程で行われる同様の態様の行為を別異に扱う一般的理由は見出し難い(ただし質問者等の生命・身体の安全確保の必要等特段の事由が想定される場合は、後記のとおり別論である)。第二、犯罪捜査の段階に至らない職務質問の過程でこのような重大な法益侵害を伴う察活動を許容する明示的な具体的根拠規範を職法中に見出すことはできない。このような態様の「所持品検査」によって侵害される法益は、憲法が明文で保障している「所持品」に対するプライヴァシイの利益(自己の所持品の内容について意に反してみだりに他人に見られたり知られないという利益・自由)である(憲法 35条)。これは職務質問関連規定が想定している対象者の身体・行動・移動の自由や答弁・応答の自由(管職法2条3項参照)とは性質を異にする別個固有の価値の高い重要な法益であるから、職法2条1項による「職務質問の附随行為」としてその制約が一般的に併せ許容されていると解するのは困難である。所持品検査は、職法2条1項の本来的目的である「質問」を実施・継続する状況を確保するため必要不可欠な手段ではない。(3) しかし最高裁判所は、次のような法解釈により、職法に明示的な根拠規定のない「所持品検査」が許される場合があるとしている。事案は、普察官が職務質問対象者の承諾なしにその所持する施錠されていないバッグのチャックを開扱し内容物を一瞥した行為に係る。「職法は、その条1項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品の検金については明文の規定を設けていないが、所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる場合があると解するのが、相当である。所持品検査は、住意手段である職務質問の時随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であることはいうまでもない。しかしながら、職務質問ないし所持品検査は、狙罪の予防、鎮圧等を目的とする行政響察上の作用であって、流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき行政響察の責務にかんがみるときは、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである」。「所持品について捜索及び押収を受けることのない権利は憲法 35条の保障するところであり、捜索に至らない程度の行為であってもこれを受ける者の権利を害するものであるから、状況のいかんを問わず常にかかる行為が許容されるものと解すべきでないことはもちろんであって、かかる行為は、限定的な場合において、所持品検査の必要性、緊急性,これによって書される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである」(最判昭和53・6・20刑集32巻4号 670頁[米子銀行強盗事件]。同旨前掲最判昭和53・9・7刑集32巻6号 1672頁)。第一に,この判例は、所持人の承諾のない所持品検査が対象者の法益を侵害することを前提にしているから、確立した法理論である侵害留保原則に拠れば、そのような法益侵害を正当化し得る具体的な根拠規範が必要となるはずである。そこで判例は、これを警職法2条1項の職務質問規定に求めて、その「附随行為」と説明する。しかし、「質問」と「所持品検査」との間の「密接関連」性やその「必要性、有効性」は、そのような場合や事茶があり得るという程度にとどまり,例えば法が明記する「停止」と「質問」との間の密接関連性や論理的必要不可欠性とは次を異にする。前記のとおり、警職法には、判例自ら言及する憲法35条に係る基本権侵害を許容する具体的根拠規範はどこにも存在しないというべきである。第二に、この判例は「捜索に至らない程度の行為」としての所持品検査、すなわち「任意手段」としての所持品検査が存在することを前提としているが、前記のとおり、対象者の意に反してその所持品を開披したり、その内容を点横・検査する行為態様の検索型所持品検査であって「捜索」または「検証」に至らない程度の行為などあり得るとは思われない。以上の理由で、この最高裁判所の法解釈は、本来立法府の検計すべき事項(職務質問に伴う所持品検査の法的必要性の有無や必要であるとしてその具体的要件と用いることのできる手段・方法等について検討し、根拠規範となる条文を設計・明記すること)について、法解釈の外形を用いて職法に所持品検査に関する新たな根拠規範を創設したに等しく、賢明であったとは思われない。*判例は前記「米子銀行強盗事件」の事茶について、所持品検査の緊急性、必要性が強かった反面、所持品検査の態様は携行中の所持品であるバッグの施錠されていないチャックを開披し内部を一瞥したにすぎないものであるから、これによる法益侵害はさほど大きいものではなく、相当と認められる行為とする。仮にこの結論を正当化できる要素があるとすれば、対象者が猟銃とナイフを所持した銀行強盗事件の犯人である疑いが濃厚であった事情。すなわち質問を実施する警察官の生命・身体の安全確保の強い要請が認められる事情が重視されるべきであろう。これに対して、前掲最判昭和53・9・7は、普察官が質問対象者に上衣内ポケットの所持品提示を要求した段階で,対象者に覚醒剤の使用ないし所持の嫌疑がかなり濃厚であり、また。職務質問に対する害が入りかねない状況もあったから、所持品検査の必要性、緊急性は認められるが、「承諾がないのに、その上衣左側内ポケットに手を差し入れて所持品を取り出したうえ検査した・・・・・行為は、一般にプライバシイ侵害の程度の高い行為であり、かつ、その態様において捜索に類するものであるから、…...本件の具体的な状況のもとにおいては、相当な行為とは認めがたいところであって、職務質問に附随する所持品検査の許容限度を遊脱したものと解するのが相当である」と説示する。しかし、これを「捜索」そのものと言わず、「その態様において捜索に類する」「捜索に至らない程度の行為」とする説示は、詭弁というほかないであろう。また。最平成795・30月集4巻5号703頁は、質開対象者の乗していた前車について、音察官4名が使中犯灯を用い。座席の背もたれを前に倒しがさいを前後に動かすなどして、自動車内部を丹念に調べた行為を「被告人の承諾がない限り、職務質問に付随して行う所持品検査として許容される限度を超えたもの」と説示し違法と評価している。判例がこのような普察官の検索行為を承諾のない違法な「捜索」と見ているのであれば了解可能であるが(原審は「その態様、実質等においてまさに捜茶に等しいものである」とする)。万一「捜索に至らない程度の行為」であるが、具体的状況のもとで許容限度を超えた相当でない所持品検在であったという意味であるとすれば、到底理解し難い。(4)以上のとおり、所持人の承諾のない検索型の所持品検査を職務質問の附随行為として許容することには疑問がある。立法府による明示的な根拠規範の制定が要請される事項というべきである(もっとも、基本権保障の対象として「所持品」を明記している憲法35条との関係をどのように整理できるかが、さらに問題である)。前記理論的疑問に加えて、判例の説示する一般的判断基準は、「捜索」に当たる行為と「捜索に至らない程度の行為」との区別が何人にも困難であるため、察官に向けられた「行為規範」としても、ほとんど用を成さない。現行職法の解釈論の範囲内で、質問対象者の承諾がなくとも、その所持品に対して有形力を及ぼすことができる場合があるとすれば、対象者が人の生命・身体を加害し得る凶器等を所持している疑いが濃厚である場合に、対象者の身体や所持品の外表に触れてこれを確認する行為であろう。このような外表検査の結果凶器等危険物所持の疑いが高度化した場合には、生命・身体の安全確保のため必要性・緊急性が認められる具体的状況により、凶器の存否確認のため所持品の開披と点検に及ぶことができると解される。質問を実施する警察官に対する加害や質問対象者の自害等を防止し、人の生命・身体の安全を確保することは、察官の一般的責務の範囲内の行為である上(察法2条)、職法が明示的に根拠範を付与した職務質問権限の行使に対する妨害を予防・排除しこれを安全・的確に実施するための大前提であるから。職務質問の目的達成に必要な附随行為として職法2条1項により併せ許容されていると解することができる。そして、このような外表検査型の所持品検査は、所持品に対するプライヴァシイの利益侵害の程度が低く、かつ行為態様としても「捜索」と明瞭に区別可能であるから、察官の「行為規範」としても有用であろう。
1) 職務質問の本来的目的である「質問」を実施・継続するため必要不可欠な、歩行中の人をその場に「停止」させる行為には、様々な態様が想定される。ここで問題となる対象者の法益は身体・行動・移動の自由であるから、原則形態は有形力を用いない口頭の呼びかけで承諾を求める方法であろう。これが法益侵害のない「最小限度」である。他方で、法は「身柄拘束」に該当する手段を禁じているから、「逮捕」と同一視できる対象者の意思を制圧し身体・行動の自由を奪する有形力の行使があった場合や、有形力を行使しなくとも長時間対象者の移動の自由を侵害・制約する状態にあったと認められる場合は、「身柄拘束」に当たり違法である(職務質問を端緒とし、約6時間半以上も対象者を路上に留め置いて任意同行を求める説得行為を継続した事案に関する判例は、「移動の自由を長時間にわたり奪った点において、任意捜査として許容される範囲を逸脱したものとして違法」と評価しているが[最決平成6・9・16刑集48巻6号420頁]、端的に違法な強制処分である身体拘束状態であったというべきである)。前記のとおり、警職法が一定の要件を明示して具体的な手段を採る権限根拠を付与していることから、停止させる手段として強制の程度に至らない有形力の行使、すなわち「任意手段」としての有形力行使も許容される場合があり得ると考えられる。しかし、あくまで対象者の承諾を得るのを原則とすべきであり。有形力の行使は、限定的な場合に留めるべきである。普職法1条が厳格な比例原則を求めていることに鑑み、身体・行動の自由に加えられた侵害・制約の程度と手段の「必要取小」との権街の判定に際しては、特に他のより侵害的でない手段が容易に可能であったかどうかに留意すべきであろう。*停止させる手段の限界について、具体的な基準を示した判例はない。しかし、職務質問に伴う所持品検査の許否につき説示した判例は、その論理に拠れば「任意手段である職務質問の附随行為」である所持品検査について、原則として対象者の承諾を得ること、承諾なき場合、すなわち対象者の意思に反しその法益を侵害する場合については、「限定的な場合において.......【そ]の必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである」と説示しているので(後掲最判昭和53・6・20,前掲最判昭和53・9・7),「質問」実施の前提として不可欠な「停止」手段についても,この説示と同様の「比例原則(権衡原則)」が適用されることを前提にしているはずである。なお、この基準は、任意捜査における有形力行使の適否判断基準〔第1章113]と実質的に同じものと見ることができる。有形力行使を伴う「任意手段」という点で共通する察活動について,大枠として別異の法的基準を立てる積極的理由は見出し難い。**いったん停止させた自動車利用者について、察官がエンジンキーを回転してスイッチを切ったり、キーを一時的に確保するのは、質問対象者が高速で移動可能な自動車を利用していきなり立ち去るおそれを減じ、その場に「停止させ」る状況を確保して「質問」を継続するための合理的な措置として具体的状況のもとで相当な手段と認められる場合もあろう(職務質問を行うため停止させる方法として必要かつ相当な行為とした判例として、前掲最決平成6・9・16,最決昭和53・9・22刑集32巻6号1774頁。ただし、いずれも交通危険防止のため必要な応急措置[道交法67条]にも当たるとされている点に留意すべきである)。***職法の明記する「停止させ」にはおよそ該当しない態様の行為であっても、法の本来的目的である「質問」を実施・継続し得る状況を確保するのに必要不可欠と認められる手段は、職法2条1項により「職務質問の附随行為」として併せ許容されていると解することができる(例えば,ホテル室内に居る対象者に対して職務質問を継続し得る状況を確保するため、部屋の内ドアを押し開け、足を踏み入れて内ドアが閉められるのを防止した警察官の行為を、職務質問に附随するものとして適法とした判例として、最決平成15・5・26刑集57巻5号620頁)。明文のある「質問」の附随行為として醤職法2条1項に「根拠規範」を見出すことができよう。ただし、本来的目的である「質問」との密接関連性・手段としての必要不可欠性は厳格に解さなければならない。この点で、この判例の事案処理は説得的であるが、後記のとおり,「所持品検査」を「職務質問の附随行為」と位置付けて正当化する判例には疑問がある。(2)「同行」を求める方法についても、停止させる行為と基本的に同様に考えることができる。ただし、単なる「その場で」の「停止」とは異なり、対象者の場所的移動、しかも察署等への移動を伴うから。対象者の行動・移動の自由という法益を侵害・制約する程度は一般に停止より大きい。したがって、同行を求めるための任意手段については、一層厳格な権衡に留意しなければならない。意に反する「連行」状態になっていたかどうかの判断においては、同行を求める際の響察官の態度・人数、それらが「同行」に係る対象者の意思決定に対して及ぼした影響、普察署等への到着後の察官の対応状況,察署等における滞留時間等を総合考慮して、対象者の意思を制圧し、身体・行動の自由を侵害・制約する身体拘束すなわち違法な強制手段になっていなかったかどうか、また、そのような程度・態様には至っていなくとも、同行の方法・態様が必要最小限度の合理的権衡を久いた違法な任意手段となっていなかったかを順次検討しなければならない。
(1)「職務質問」とは、察官が、いわゆる挙動不審者等を「停止させて」「質問する」活動をいう。「察官職務執行法」にその要件が具体的に明記され、察官に権限行使の具体的な根拠が付与されている。すなわち、普察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して、①何らかの犯罪を狙したと疑うに足りる相当な理由のある者。②何らかの犯罪を狙そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者、または③既に行われた犯罪について知っていると認められる者、④犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を、その場に停止させて質問することができる(職法2条1項)。その場で質問することが本人に対して不利であり、または交通の動になると認められる場合には、質問するため、付近の察署、派出所または駐在所に同行することを求めることができる(同条2項。職法上の「任意同行)。この要件に現れているとおり、職務質問は、特定の具体的な人と組罪事実について公訴提起と公判遂行を直接の目的とした「捜査」ではない。未だ祖罪が行われていない段階でも、また犯罪が不特定の段階でも、その予防・鎮圧等を目的として実行される察活動である。察官の一般的責務(警察法2条)の範囲内の活動のうち、犯罪捜査すなわち司法察職員としての「司法響察」以外の「行政祭」という範時に属する(職法1条1項)。判例もこの区分に拠り.職務質問を「記罪の予防、鉄圧等を目的とする行政警察上の作用」と位置付けている(後掲最判昭和53・6・20[米子銀行強盗事件])。もっとも、質問することができる対象者を定めたいずれの要件も「罪」に密接に関連することから、響察官が職務質問を行った結果。対象者について特定の具体的な「犯罪があると思料」すれば(法189条2項),警察官の活動は、その時点から直ちに当該罪と狙人に対する「捜査」に転化・移行することになる(例えば、質問対象者前記①について法定の要件が認められれば「被疑者」「犯人」の現行犯逮捕、緊急連捕,あるいは任意捜査としての有形力の行使等に至り得る)。* 司法察と行政響察は、その目的の内容によって区別される。組織規範である「警察法」は、警察の責務を「個人の生命、身体及び財産の保護に任じ,犯罪の子防、鎮圧及び捜査,被疑者の逮捕,交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもってその責務とする」旨定めて察官の一般的職責の範囲を画定しており(警察法2条1項)。このうち、察官が司法察職員として捜査する場合を司法警察と呼び、これ以外の響察目的達成のため活動する場合を行政察と称する。活動目的の内容が犯罪の予防・鎮圧等ではなく、特定の具体的犯罪の公訴提起と公判遂行である場合には、当該犯罪が未だ実行されていないものであっても「捜査」すなわち司法察活動であって、刑訴法の適用がある。前記のとおり、行政警察活動としての職務質問と司法響察活動としての捜査は密接に関連し容易に移行可能であるため、職務質問として開始された察官の一連の活動の適否を事後的・客観的に評価する際には、ある時点で察官の用いた具体的手段は、当該響察官の主観にかかわらず、捜査でもあると見ることができる場合がある。このような場合には、刑訴法の規定も適用すべきである。また、行政管察活動としての職務質問の過程に違法があった場合、これを前提に接着して実行された捜査手続も違法性を帯びると解されている(例えば、警職法の解釈上許容限度を超え違法と評価される所持品検査の結果発見された覚醒剤の所持を理由とする現行犯逮捕と覚醒剤の差押えが行われた場合、捜査手続である逮捕や差押えも違法性を帯びる。最判昭和53・9・7刑集32巻6号1672頁等参照)。(2)職法が響察官に付与する権限の中核は、要件が具体的に明示限定された対象者に「質問すること」であり、このために必要な手段として、対象者を「停止」させること、及び「同行」を求めることができる。他方で、これらの権限行使の対象者については、刑事訴訟に関する法律の規定(例えば適法な連捕手税)によらない限り、身柄を拘束され、またはその意に反して警察署、派出所もしくは駐在所に連行され、もしくは答弁を強要されることはないと定められている(職法2条3項)。ここに禁じられているのは、身体拘束や連行のように人の意思を圧して身体・行動の自由をする行為や、するかどうかの意思決定の自由告行為という明白な「強制」手段であるから、質問の前提となる「停止」や「同行」を求める際に用いることができるのは、非「強制」すなわち「任意手段」でなければならないのは明瞭である。また。職法は、法定された察権限・手段は、法の目的のため必要な最小の限度において用いるべきであるとの厳格な比例原則を明記している(同法1条2項)。*「質問」対象者について、察官が犯罪があると思料し,対象者を特定の具体的な犯罪事実に関する犯人または参考人と考えるに至った場合には、その質問はもはや被疑者または参考人の「取調べ」という「任意捜査」と見るべきである。対象者が「被疑者」と認められれば、質問を続行する際に供述拒否権の告知手続が必要となろう(法 198条2項)。(3) 以上のような警職法の定めとその背後に想定される法理論的枠組から、職務質問に関する法的規律の構造は次のように理解することができる。第一,察官は、察の一般的責務として示された目的(察法2条1項)の範囲内でのみ察活動を行うことができる(同条2項)。職務質問は、察の責務である犯罪の予防・鎮圧等を目的とした行政察活動である。察の一般的責務の範囲外の目的で行われる察官の行為は、もとより違法である。第二、一般的な責務の範囲内の響察活動であっても、それが国民の権利・自由を一定程度侵害・制約する作用である場合には、個別的に察官の権限行使の要件と範囲を定めた法律の根拠(いわゆる「根拠規範」)が必要である(「侵害留保」の考え方。職務質問の要件・手段を具体的に定めた職法2条1項・2項は、そのような「根拠規範」にほかならない。第三、国民の身体・行動の自由をある程度侵害・制約し得る「停止させ」る行為、「同行することを求める」行為は、身体拘束や意に反する連行という「強制」手段に至ってはならない(警職法2条3項)。したがって、「停止」「同行」の方法は「任意(非強制)手段」に限定される。そして、当該手段は、#象者の法益をある程度侵害・制約するものであるから、目的達成のため必要最小限度に留めなければならない(同法1条2項。厳格な「比例原則)。※日、対象者が自由な意思で任意に協力し質問に応じる場合には、その多体・行動の自由や応答の自由に関する法益は放され、またはその制約は後がて微少なものであるから、第二の侵害留保原則の反面として、充来、法律の具体的規規定は不要である。質問の目的が第一の贅の責務の範囲内の正当なるのであれば、普職法2条1項の要件に該当しない者に対しても任意の協力を求めることは許される。他方、察官は、職法2条1項・2項の特別に規定された要件に該当する場合に限り、この「根拠規範」に基づいて対象者の法益をある程度侵害・制約する「任意手段」を行使することができる。
捜査機関が「泥罪があると思料する」きっかけとなる事由を「捜査の端緒」という(法189条2項、犯罪捜査規範59条参照)。法はその一部につき法的効果や手続を定めるにとどまり(例,告訴・告発・自首)、特にこれを制限してはいない(捜査の端緒に係る法規定の多くは、察捜査に始まりその後検察へ「事件」が送致される通常の捜査手続の流れに対して、例外的に検察官の関与を早期化する機能を果たす点に意味がある。法246 条参照)。贅察官は、捜査活動のほか、防犯・交通取締等の行政謷察活動(響察法2条)の過程で、現行犯や他の犯罪の証拠を発見したり、犯人,狙罪の被害者、またはその他の第三者から犯罪についての申告や届出を受ける場合がある。普察官から積極的に働き掛けを行い、歩行中の者に「停止」を求め「質問」を実施するいわゆる「職務質問」については、このような権限行使の根拠を付与する規定が「察官職務執行法」に設けられている。また。犯罪予防その他の行政管察目的を達成するため、一定の業務者や特定の身分を有する者等に対して、普察官に対する特定事項の報告や届出が法律で義務付けられている場合があり、これが捜査の端緒になることもある(例.質屋営業法,火薬類取締法,医師法,道路交通法等)。*報告義務者自身の犯罪事実に密接に関連する事項について報告・届出を義務付け、義務違反に対する制裁でこれを担保している法の規定と自己負罪拒否特権(恋法38条1項「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」との関係については、議論がある(例えば、交通事故を起こした者に対する事故内容の報告義務付け[道交法 72条]や、医療過設に起因する患者の死亡に関与した医師に対する異状死体の届出義務付け【医師法21条] 等)。合理的な行政目的達成のために設けられている当該法令の文面上の合憲性は認められるとしても(合意性について、最大判昭和37・5・2刑集16巻5号 435頁[道交法]。最判平成16・4・13刑集58巻4号247頁[医師法])、個別事案における適用にはなお達意の疑いがあろう。特に検察官の権限として法定されているのは後記「検視」(法229条)である。このほか、「職務質問」のように警察官固有の権限とされている事項以外は、検察官も同様に様々な形で捜査の端緒を得る場合がある。法定されている告新・告発等は直接検察官に対してなされる場合も多い(直受」と称する)。以下では、法に規定のある捜査の端緒について、個別に説明する。
(1) 任意捜査は、捜査機関の判断と裁量で実行することができる。その一般的根拠条文は法 197条1項本文である。捜査機関は、捜査「目的を達するため必要な」捜査手段を用いることができ、特別の根拠規定や状主義の規律なしに、対象者に対して臨機応変の多様な働き掛けが可能である。しかし、このような働き掛けの結果、対象者の法益を侵害する可能性のある場合も想定されるので、「強制の処分」に該当しないからといって、当然に適法とされるわけではなく、法の明記するとおり「目的を達するため必要な」限度においてのみ許される。すなわち、個別具体的事案において特定の捜査手段により対象者に生じる法益侵害の内容・程度と、特定の捜査目的を達成するため当該捜査手段を用いる「必要」との間の合理的権衡が求められる(いわゆる「比例原則(権衡原則)」。それは、裁判所による適否の判断を通じて事後的な統制・制興の対象となり得る。なお、対象者の完全に自由な意思決定に基づく同意・承諾があると認められる場合には、その限度で対象者の法益が放棄されているとみることができるから法益侵害はない。したがってこのようないわば純粋任意の同意・承諾・協力に基づく捜査は当然適法である(例えば、法221条のうち「所有者:所持者若しくは保管者が任意に提出した物」の「領置」。(2)判例は、有形力の行使という法益侵害を伴う任意捜査の適否の判断基準について次のように説示している(前記昭和51年判例(1】)。「【強制]の程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合があるといわなければならない。ただ、強制手段にあたらない有形力の行使であっても、何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから。状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、必要性。緊急性なども考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである」。これは、法 197条1項本文の意味内容についての法解釈を示したものであり、前記「比例原則」の表明そのものである。「具体的状況のもとで相当と認められる限度」とは、当該個別具体的事案における捜査手段により生じた法益侵害の内容・程度と、捜査目的達成のために当該捜査手段を用いる「(広い意味での)必要性」の程度との合理的権衡状態をいうものと解される。「具体的状況のもとで相当と認められる限度」を超えた捜査手段は、許容されない違法な任意捜査であったと評価されることになる。*判例は、「相当と認められる」という表現を様々の異なった文脈で用いているが、有形力行使の態様・程度に対する法的評価が問題とされたこの事案では、法益侵害の内容・程度と「必要性、緊急性など」とを「考慮した」結果、合理的権衡が認められるという結論を「相当」と表示しているに留まり、任意捜査の適否に関して独立の意味内容を伴う基準や要件を示すものではないと解しておくのが適切であろう。裁判所による事後的・客観的評価の局面において、客観的ないし量的な言語化が困難で不明瞭な「相性」ないし「社会通念上相当」といった言葉を独立の評価基準として用いることは、裁判官の判断過程を曖昧化するおそれがあり妥当とは思われないからである。捜査機関に対する行為規範ないし行動準則を設定しようとする局面においては別論であるが、それがどの程度行動準則として現実に機能するかは不明である。(3) 以上の判断枠組を個別具体的事条に適用する際には、次のような点をできる限り具体的に析出して考慮勘案しなければならない。第一、用いられた捜査手段の目的の内容。捜査目的が、当該具体的事案において著しく合理性を欠く場合には、そのような不当目的による捜査手段はもとより違法というべきである。第二、当該捜査手段を用いる広義の「必要性」。判例は当該手段を用いる「必要性、緊急性なども考慮したうえ」と説示する。個別具体的事条において、当該手段を用いる必要性がどの程度あったのか、またそのような手段を用いることが緊急やむを得なかったのか等が具体的に検討されなければならない。また、より侵害的でない他の捜査手段を容易に採り得た可能性も併せ考慮されるべきであろう。このほか、問題とされるのが狙罪捜査目的の手段であることがら、当該具体的事案において捜査の対象となり事茶解明を要請されていた「犯罪」の重大性や罪質も考慮要素になろう。犯罪の重大性については、法定刑のみならず保護法益の質(例えば交通事か財産犯か生命・身体犯か等)も考慮されるべきである。なお、以上のような当該手段の「必要性」は、第一段階の性質決定において、「強制の処分」には該当しない「任意捜査」と判定された捜査手段の適否基準である。前記のとおり、個別具体的状況における当該手段の必要性・緊急性等の要素は、強制捜査の適否の一般的判断基準ではない。第三、当該捜査手段により対象者が現に被った法益侵害の内容・程度。当該捜査手段が「強制の処分」に該当するかどうかの性質決定の局面とは異なり、事後的・客観的に見て、どのような性質・内容の法益がどの程度侵害・制約されているのかを、できる限り個別具体的かつ明瞭に出して考慮勘案すべきである。例えば、単なる「プライヴァシイの侵害」といった程度の言語化では用をなさない。なお、前記判例は、有形力の行使を扱った事案であるが、それに限らず、法益侵害の「程度」を具体的に想定し得る任意手段については、同様の枠組でその適否を判定するのが整合的である。(4) 捜査目的達成のため必要であったか否かという比例原則の適用である以上、用いられた捜査手段に伴う法益侵害の内容・程度が全く同様の行為態様であっても、当該具体的状況のもとでその手段を用いる必要性・緊急性等の程度が異なれば、任意捜査としての適否の結論が変動し得る。また必要性・緊急性の程度が同様であっても、生じた法益侵害の内容・程度が異なれば、同様に適否の結論は変わり得る。(5)「具体的状況のもとで相当」とはめられない合理的権衡状態からの逸脱。すなわち捜査手段の違法性には、「程度」が想定できるから、それが任意捜査権限の重大明白な逸脱と認められる場合には、違法な強制処分が行われた場合と同様に、これを「重大な違法」と評価すべきである(例えば、違法収集証拠排除法則の適用場面)。
(1) 以上のような区別基準により、特定の捜査手段は、それが「強制の処分」を用いた「強制捜査」か、そうでない「任意捜査」かのいずれかに区分される。捜査機関の活動を事後的に評価する適否判断の第一段階は、このような処分の性質決定である。法的判断である性質決定に中間的領域はない。ある特定の捜査手段が、類型的に法定された「強制の処分」に該当することが明瞭な場合には、それが法定の要件・手続(例えば裁判官の審査を経た令状の発付)を充足すれば適法であり、法定要件をくときは、それだけで直ちに違法である。このような法的判断は類型的該当性判断であり、個別事案の具体的状況・場面における当該捜査手段を用いることの必要性・緊急性等の要素は無関係である点に注意を要する。立法府が一般的に法定・明示した捜査機関の強制権限発動要件を、個別事の具体的状況により緩させることが許されないのは当然である。例えば、対象者を制圧してその身体を拘束する逮捕行為の類型的特徴を有する手段が法定の要件(裁判官の令状、緊急連捕の要件。現行犯逮捕の要件)を失いたまま実行された場合には、当該個別事茶において対象者の身体を拘束する必要性・緊急性がいかに認められたとしても、それ故に、要件の如した「強制の処分」が適法と評価されることはあり得ない。(2) 特定の捜査手段の行為態様が、類型的に法定された「強制の処分」と同内容であることが明瞭であり、特別の根拠規定によりその要件・手続が法定・明示されていない場合には、そのような捜査手段を行使することは許されない。もし実行すれば強制処分法定主義に反し直ちに違法である。ここでも、前記のとおり個別事案の具体的状況(当該手段の必要性・緊急性等)によってその適否が左右されることはない。例えば、対象者を適法に逮捕する場合でないのに、令状なくして人の住居や身体・所持品について捜索・差押えを行うことは、いかに緊急の必要性が認められても、直ちに違法である(現行法にはこのような緊急捜索・差押えの要件を定めた根拠規定は存在しない)。また例えば、通信傍受法の定める対象犯罪には該当しない罪の捜査のため、通信傍受法の要件・手続を類推適用して電気通の傍受を行うことは、違法である。(3) 特定の捜査手段が、類型的に法定された「強制の処分」に該当するといえるかどうか直ちに明瞭とはいえない場合(例えば前記写真・ビデオ撮影等)においては、「強制の処分」の意味内容の解釈を通じて性質決定を行うことになるが、その判断を支える基本的な指標は、強制処分法定主義と状主義の趣旨でなければならない。まず、当該捜査手段が対象者に及ぼし得る法益侵害の内容をできる限り具体的に析出し、それが、現行訴法において既に特別の根拠規定により法定され、原則として事前の審査により統制されている「強制の処分」の行為態様及びそこで想定されている法益侵害の内容と同等であるか、又は機能的に同価値であるかを、「類型的」に判断すべきである。ここでも、前記のとおり、個別具体的事案における当該捜査手段の必要性・緊急性や、個別事案において実際に対象者の被った法益侵害の程度は無関係であり、このような類型的判断においては考慮されるべきでない。例えば、前記のとおり、捜査目的で、家宅内に居る対象者の容貌等を写真撮※する捜査手段は、その行為護様及び想定される法益優害の内容において、対殺者のみだりに撮影されない自由に加え法35条が保障する法益をも併せ侵苦し得る処分類型といえるから「強制の処分」である「検証」に該当し得る(もっとも、現行法の想定する「検証」として実行できるか疑問がある(第7章1112)**))。したがって、個別事においていかにそのような捜在手段の必要性・緊急性が認められても。「検証」状なくして行われた場合には、直ちに違法である。また、このような捜査手段を用いたものの。個別事案において対象者の容等が鮮明に撮影できず、結果として対象者の被った具体的法益害の程度が大きくなかったとしても、そのことは、処分の性質決定に影響しない。これが任意捜査ではなく、法定の要件をいた違法な強制捜査であることに変わりはない。* 最高裁判所は、いわゆるGPS 捜査が、状がなければ行うことのできない「強制の処分」に該当すると判断している(最大判平成29・3・15集71巻3号13頁)。性質決定に係る説示は次のとおりである。「GPS 捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握すべく行われるものであるが、その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は、個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るものであり、また。そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。憲法 35条・・・・・・の規定の保障対象には、『住居、書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に『侵入』されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。そうすると、前記のとおり、個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS 捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる(最高裁昭和・・・・・51年3月16日第三小法廷決定・刑集30巻2号187頁参照)とともに、一般的には、現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから、令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである。」前記昭和51年判例(1)を参照しつつ、本件のように対象者に秘して実行される処分(私的領域内の秘密撮影や録音・録画も同様であろう)について、「合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法」が、昭和51年判例にいう「個人の意思を制圧」することになる旨を明らかにした点が注目される。他方、記述されているGPS 捜査の類型的特徴のいかなる点が強制処分該当の判断を導いたのかは必ずしも判然としない。公道上の所在の肉眼把握や撮影が、従前の判例に即して任意捜査と判定されるとすれば(第7章1)、ほとんどは公道上の位置情報把握である車両に対するGPS 捜査との決定的な相違点をどこに見出すかが、本判決の射程と将来の立法の設計にとって重要となろう。
(1) 任意捜査と強制捜査の区別は、法197条1項但書にいう「強制の処分」の意味内容をどのように解釈するかによって決まる。その包摂範囲が広ければそれだけ、捜査機関独自の判断と裁量で臨機に実行可能な任意捜査の範囲は減縮する。他方、ある捜査手段を「強制の処分」と評価することは、国会制定法律による特別の根拠規定と個別具体的場面における裁判官の事前審査という厳格な統制・制禦を及ぼすことを意味するから、過度に捜査機関の活動を制約して捜査目的達成を著しく困難にするものとなれば、現実的でない。捜査は事業解明のために対象者に働き掛けて犯罪と犯人に係る様々な情報を取得する活動であるから、対象者の完全に自由な意思に基づく同意・承諾を得て行われる場合はむしろ稀である。前記のとおり、ある程度対象者の法益を侵害・制約する可能性のある手段であっても、そのような法益侵害を伴う故に、無制約に許容されるわけではなく、「比例原則」に基づく事後的な司法的制に服すべきものであることに鑑みれば、純粋任意の場合のみを任意捜査とし。何らかの法益侵害を伴う手段をすべて「強制の処分」と解して、状主義による事前統制を及ぼすのは、適切でなかろう。他方で、有形力・物理的実力の行使という要素は、客観的に明瞭である上、現に刑事訴訟法に法定されている「強制の処分」の多くに共通する要素であることから(身体拘束を伴う逮捕。証拠物の捜索・差押え等)、重要な指標になることは確かであるものの。①有形力行使の態様とこれによる権利・自由の侵害・制約の程度には様々な段階があり得ること、②現行法は、通信傍受処分(法 222条の2)のように有形力行使を伴わずに憲法の保障する重要な法益を侵害・制約する「強制の処分」類型をも想定しており、整合的説明の観点からも、有形力行使の有無のみを決定的な基準とするのは適切でない。(2) 出発点となるのは、実定刑事訴訟法の個別条文が法定している各「強制の処分」の「行為類型」というべきである。そこに共通するのは、価値の高い重要な法益すなわち対象者の重要な権利・自由を侵害・制約する「類型的特徴」を有する手段という点にある。例えば逮捕・勾留は憲法33条・34条の保障する人の身体・行動の自由を奪し一定期間拘束するという重要な法益の侵害を伴う。また捜索・差押え・検証・通信傍受は、憲法35条の保障する私的領域に侵入し住居・所持品等に対する個人の私生活上の権利・自由や通信の秋密(憲法 21条2項)等価値の高い重要な法益を侵害・制約する。このような高度の法益侵害を伴う行為類型であるからこそ,立法府による特別の根拠規定と個別的状審査を要求してでも厳格慎重に制することが要請されるのである。判例も、察官が対象者の腕を掴んで引き留めた行為の適否を扱った事案において、捜査における有形力の行使と「強制」との関係、及び「強制」手段の意義について次のように説示している。「捜査において強制手段を用いることは、法律の根拠規定がある場合に限り許容されるものである。しかしながら、ここにいう強制手段とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味するものであって、右の程度に至らない有形力の行使は、任意捜査においても許容される場合があるといわなばならない」(新掲設決路和51・3・16月集30巻2号187頁)。ここに適切に指摘されているとおり、有形力行使の有無は、「強制捜査」か「任意捜査」かの決定的な区別基準ではない。強制の程度に至らず任意捜査と位置付けられる有形力行使が想定されている。もしろ、この制約が「強制」手段に該当するかどうかの中校的基準としているのは、対象者の「意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて」捜査目的を達成実現するという熱理的特酸を有する行為という点であることは明瞭である。ここに例示されている身体、住居。財産等は、恋法 33条及び35条が具体的に明示列挙し基本権として保除するような重要で価値の高い法益を意味しているとみることができる。この判例は、捜査の法的規律について、現実の事茶処理に操作可能であり、かつ合理的に説明可能な判断を示したものであり、「強制」手段の意味内容ひいては任意捜査との区別について、実定刑事訴訟法の法定・明示する各種強制処分類型の内容と併せて、基本的な指針とされるべきものである。(3) 判例が指摘するとおり、有形力の行使は、それだけで直ちに「強制」を意味するものではない。しかし、ある捜査手段が、法定された逮捕・捜索・差押え等の処分類型に該当すると評価し得る程度の有形力行使を伴う行為態様であれば、それを法定されている「強制の処分」の類型的特徴を有する手段と評価・判定すべきことは当然である。例えば、対象者の抵抗を制圧して警察署に連行し一定時間そこに留め置く行為や、対象者の承諾がないのにその所持品を無理やり取り上げて内容物を逐一点検する行為等がその例である。これらはいかなる名目で実行されようとも、逮捕や所持品の捜索以外の何物でもない。(4) 他方、前記判例には明示されていないものの、対象者への直接的な有形力行使を伴わなくとも、重要で価値の高い法益を侵害・制約する「類型的」行為態様を有する捜査手段は、「強制の処分」に該当し得る。例えば、対象者の推定的意思に反し、「通の当事者のいずれの同意も得ないで電気通信の傍受を行う」捜査手段は、対象者に直接有形力を行使するものではないが、法はこれを明文で「強制の処分」と位置付けている(法222条の2)。法が通信受処分の内容について特別の根拠規定を設け、状主義の厳格な規を及ぼすべき「強制の処分」とした趣意は、それが、通の秘密(無法21条2項)及びみだりに私的領域における通話を聴取・録音されない自由・期待(無法13条・35条)という極めて重要な法益を併せ侵害する行為態様だからである。したがって例えば、同様の類型的行為態様すなわち会話当事者の「いずれの同意も得ないで」室内会話の内容を聴取・録音する捜査手段もまた「強制の処分」と評価されよう(前記のとおりこのような処分について特別の根拠規定はないから、敢えて捜査機関がこれを実行すれば直ちに違法である)。これに対して、例えば、会話・通信の一方当事者が捜査機関の協力者として傍受・録音に同意している場合には、前記法定の処分類型には該当しない。そして、侵害される法益の観点からは、「事者のいずれの同意も得ない」場合に侵害される通話内容の秘密性という法益は、一方当事者の同意により失われており、私的な会話をみだりに第三者に聴取されないであろうという期待が侵書されるにとどまるので、法はこのような態様の会話傍受を強制捜査ではなく任意捜査と位置付けているものと解される。*対象者に対して直接有形力を行使しない捜査手段として「写真・ビデオ撮影」等がある。その態様と侵害される可能性のある法益が、法定された「強制の処分」に類型的に該当する場合には、然ながら法定の要件・手続に拠らない限り違法である。例えば、運送過程にある宅配便の内容物を調べる目的でエックス線撮影を行うのは、私的領域への「侵入」であり「所持品」に対する個人の重要な法益を侵害・制約する行為類型であるから(憲法 35条),現行法の定める「検証」処分に該当するのは然である(このような事案について「本件エックス線検査は、荷送人の依頼に基づき宅配便業者の運送過程下にある荷物について、捜査機関が、捜査目的を達成するため。荷送人や荷受人の承諾を得ることなく、これに外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察したものであるが、その射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上、内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって、荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵書するものであるから、検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解される。・・・・・・検証許可状によることなくこれを行った本件エックス線検査は、違法である」と説示した判例として、最決平成21・9・28刑集63巻7号868頁)。なお、エックス線撮影を行った結果として、内容物が明瞭に認知できず個別具体的事案において対象者の現に被った法益侵害の程度がそれほど大きくなかったとしても、そのことは、当該処分の類型的な性質決定に影響するものではない。同様に、個人の私生活領域である家宅内に居る人物の容貌等を写真・ビデオ撮影することは、みだりに撮影されない個人の自由という法益(憲法 13条)を侵害することに加えて、私的領域への「侵入」であり、住居の平穏とこれに対する期待という法益(憲法 35条)をも併せ侵害する類型的行為態様であることから、「強制の処分」に該当するというべきである。なお、最高裁判所は、近時、遊法35条について、次のような解釈を明言している(後記載大判平成29・3・15(213)*))。「法35条は、「住居。書類及び所持品について、侵入、捜索及び準収を受けることのない権利」を規定しているところ。この規定の保障対象には、「住居、普類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に『侵入」されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。」これに対して、撮影の方法・態様が私的領域への「侵入」を伴わないものであり、対象者の被る法益侵害が、みだりに撮影されない自由の侵害・制約にとどまる手段である場合には、「強制の処分」には該当しないと解される。例えば、公道上を歩行する者、私的領域とはいえない場所に居る者の容貌等を撮影することは、任意査と評価されよう。判例は、捜査目的で公道上を歩いている人物の容貌等を撮影し、あるいは不特定多数の答が集まるパチンコ店内において容等をビデオ撮影した事案について、「いずれも、通常、人が他人から容ほう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである」ことを指摘して、これを令状が必要な「強制の処分」ではなく任意捜査であると位置付けている(最決平成20・4・15刑集62巻5号 1398頁。なお。公道上をデモ行進する者の容貌等の写真撮影を扱った最大判昭和44・12・24刑集23巻12号1625頁も同様の枠組に立つものと解される)。前記のとおり、捜査手段の類型的行為態様と侵害される可能性のある法益の内容のいずれの側面からも、その結論を正当と説明することができる。
1) 捜査手続については、捜査機関の権限発動の要件・範囲等を定めた法的規律や制度が設けられている(法第2編第1章捜査[法189条~246条。なお、法207条1項・222条等を通じて法第1編総則の条文が準用されるので注意を要する)。法は、捜査目的達成のために、対象者の意思を制圧してでも重要な権利・自由を侵害・制約する「強制の処分」に関し多数の規定を設けて、このような捜査活動に対し厳格な統制を図ろうとしている。それ以外の捜査手段については、一般的根拠規定を置く(法197条1項本文)ほか、手続を明確にするための若手の条文を設けるにとどまる(例えば、証拠の収集・保全に関する法198条・223条等)捜査機関は、犯罪があると思料するとき、事案解明を第1次的な目標として活動する。国民の基本的権利・自由の侵害・制約を伴う可能性のあるこのような捜査機関の活動を、いかにして正当かつ合理的な範囲に統制・制するかが、捜査手続法の最も重要な課題である。その基本枠組ないし「適正手続の保障」という基本的価値判断は、憲法とこれを受けた刑事手続法規に具現されているが、具体的法律問題の解決に際しては、そのような枠組の下で、個別の法制度の趣旨・目的を踏まえ、考慮すべき要因をできる限り具体的に析出し、対象者の被る法益侵害と当該捜査手段の必要性との間の合理的調整を検討すべき局面も多い。(2) 捜査に対する法的規律の基本的な枠組は次のとおりである。第一、「強制の処分」は、刑事訴訟法に特別の根拠規定のある場合でなければ実行することができない(法 197条1項但書)。これを「強制処分法定主義」という。強制の処分の具体的内容とその要件は国会制定法律の形式であらかじめ一般的に定められていなければならないのであり、これは、手続法定原則(憲法 31条)の要請である。第二、法定された「強制の処分」権限の個別具体的事案における発動に際しては、原則として、裁判官が処分の正当な理由と必要性を事前審査して発付する「令状」が要求される。これを「状主義」という。身体拘束処分については憲法 33条、住居等私的領域への侵入や証拠物等の捜索・押収については憲法 35条に基本的な定めがある。状主義の原則は、前記第一の要請に従い。各強制処分の要件・手続として刑事訴訟法に具体的に法定・明示されている(例えば、逮捕について法 199条、捜索・差押え・記録命令付差押え・検証について法218条、通信傍受について法 222条の2及び「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」。第三、立法府による一般的な要件の法定・明示と司法権による個別具体的事案における事前審査によって統制・制される「強制の処分」に該当しない捜活動については、捜査機関の判断と裁量で「その目的を達するため必要」と認められる場合に実行することができる(法197条1項本文。この条項にいう「取調」は、捜査活動一般を意味する)。「強制の処分」を用いる捜査を「強制捜査」と称するのに対して、これに当たらない捜査を「任意捜査」と称するのが一般である。もっともここでいう「任意」とは、「強制」手段を用いないという意味に留まり、後記のとおり、対象者の完全に自由な意思決定に基づく同意・承諾を得て実行される場合(いわば「絶粋任意」の場合)に限定されるわけではない。言い換えれば、対象者の意思に一定の働き掛けを及ほし、また、対象者に対してある程度の法益優害を生じさせる手段も含まれ得る(例えば、警察官が対象者の意に反して腕を掴む程度の有形力の行使。取決昭和51・3・16集30巻2号187頁参照)。このような法益侵害を伴う可能性がある以上、任意捜査については、「強制の処分」には当たらないというだけで直ちに正当化され許容されることはあり得ない。その適法性・許容性は、事後的にではあれ、裁判所の統制に服する。司法判断の根拠規定は法 197条1項本文にいう「その目的を達するため必要」な手段であったかどうかであり、裁判所の事後的・容観的な法的判断に拠って制禦される。なお、捜査機関が、人の身体拘束や証拠の収集・保全の手続過程において、以上の法的規律に反する違法な活動を行った場合には、これに接着接続する手続も違法性を帯び、裁判所の判断でその効力が否定されたり(例えば、達法な速捕手続に引き続く勾留請求の無効判断)、あるいは公判手続において違法な捜査により獲得された証拠の証拠能力が否定されることがあり得る(最判昭和53・9・7刑集32巻6号1672頁)。これは、捜査に対する法的規律の実効性を確保し、将来における違法な捜査を抑制する機能を果たすものである。以上が、捜査に対する法的規律の基本的構造である。次に、その趣旨・目的と機能を具体的に説明する。(3)「強制処分法定主義」は、国民代表たる立法府による事前の一般的な統制である。人の意思を制圧し重要な権利・自由を侵害・制約する国家権力の発動について、いかなる内容・形態の処分類型をどのような要件と手続により正当な捜査手段として設定するかは、国民代表による国会制定法律の形式であらかじめ定め告知することにより。国民の行動の自由を民主的に担保しようという考えに基づく。この統制の名苑人は、立法府以外の国家機関である。行政機関たる捜査機関はもとより、法の解釈適用を担う同法権・裁判所も、このような立法府の判断に服さなければならない。捜査機関が実定刑事訴訟法の条項にあらかじめ明記されていない「強制の処分」を実行することはもとより、裁判所が明文の根拠規定のない「強制の処分」を法解釈の形式を用いて創出・追認することも許されないというべきである。* 例えば、現行法の明定する「通受」(法222条の2・通受法)に該当しないが類似した態様の室内会話傍受について、捜査機関がこれを実行すれば、法 197条1項但書に反するので直ちに違法である。また、最高裁判所が、法定されている「検証」処分の解釈や通信傍受処分に関する条項の類推解釈や準用の形式を用いて、室内会話傍受を許容する判断を示すことにより、立法府の判断を経ることなく実質的に新たな強制処分を創出したとみるべき場合には、そのような裁判所の判断は、法 197条1項但書を基礎付けている恋法 31条の手続法定原則に抵触するというべきである。この場合、司法権の賢明でない判断を変更・制禦できるのは立法府である。強制処分法定主義の眼目は、第一に,捜査機関に向けられた「行為規範」としてその活動の事前統制を行うことにあるが、第二に、実定刑事訴訟法が想定していない強制処分(例えば、電気通信を介さない室内会話の傍受、通言受処分の対象犯罪の拡大,車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する捜査[いわゆる「GPS 捜査」]等)が刑事手続の目的達成に必要と考えられる事態が生じた場合に、裁判所ではなく、立法府が、その処分の具体的内容,犯罪捜査にとっての必要性と侵害される対象者の権利・自由の内容・程度、処分発動の要件・手続等について熟議検討したうえ、これを実定法規として創設するかどうか,またどのような具体的処分類型を造型するかの立法的決断を要するとすることにある。こうすることで、国民の基本的権利・自由に対する「危険物」であると共に法目的達成に必要な国家権力発動に,民主的正当性と予測可能性が付与されるのである。これに対し司法権は、このような立法的決断の合憲性を審査することにより、基本権の擁護者として、立法府の賢明でない活動を制する役割を果たすべきものである。**このような強制処分法定主義の趣旨・目的からすれば,法定されている強制処分の行為類型やその要件・手続について、類推解釈や準用の形式でその内容を対象者の権利・自由の侵害・制約を増大させる方向に解釈適用することは許されないと解すべきである。例えば、連捕に伴う無合状の捜索・差押えに関する条文(注220袋)を類推解釈して、被疑者を「逮捕する場合において」の要件に該当しなくとも、逮捕の実体的要件が認められる場合には、被疑者が不在で逮捕の現実的可能性がない時点であっても被疑者居宅の無状捜索に着手できるとする解釈は不当である。これに対し、法定された強制処分の個別具体的事案における発動場面について、裁判所が対象者の被る権利・自由の侵害・制約の範囲・程度を減縮する方向で強制処分関連規定の解釈適用を行うことは、それが実質的に別個固有の強制処分を創設するのでない限り、許容されよう。最高裁判所は、令状における条件の附加について、次のような法解釈を示している。「身体検査令状に関する[刑]法218条5項[現6項]は、その規定する条件の付加が強制処分の範囲、程度を減縮させる方向に作用する点において、身体検査令状以外の検証許可状にもその準用を肯定し得ると解されるから、裁判官は、[検証としての]電話傍受の実施に関し適当と認める条件、例えば、捜査機関以外の第三者を立ち会わせて、対象外と思料される通話内容の傍受を速やかに遮断する措置を採らせなければならない旨を検証の条件として付することができる」(最決平成11・12・16刑集53巻9号1327頁)。もっとも、この事案における「準用」は、法定された「検証」に条件を附加することにより、実質的には事件当時法定されていなかった通傍受処分を創設・追認したともみられるものであり、疑問であろう。その後、最高裁判所は、いわゆるGPS 捜査に関し次のように説示して、令状における条件の附加と強制処分法定主義との関係について、まことに賢明な見識を示している(後記最大判平成29・3・15(II2(3)*])。「[対象範囲の限定明示、事前の令状星示に代わる公正担保手段の確保等]の問題を解消するための手段として、一般的には、実施可能期間の限定、第三者の立会い、事後の通知等様々なものが考えられるところ、捜査の実効性にも配慮しつつどのような手段を選択するかは、刑訴法197条1項ただし書の趣旨に照らし、第一次的には立法府に委ねられていると解される。仮に法解釈により刑訴法上の強制の処分として許容するのであれば、以上のような問題を解消するため、裁判官が発する令状に様々な条件を付す必要が生じるが、事案ごとに、令状請求の審査を担当する裁判官の判断により、多様な選択肢の中から的確な条件の選択が行われない限り是認できないような強制の処分を認めることは、「強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない」と規定する同項ただし書の趣旨に沿うものとはいえない。以上のとおり、GPS 捜査について、刑訴法197条1項ただし書の「この法律に特別の定のある場合」に当たるとして同法が規定する令状を発付することには疑義がある。GPS 捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば、その特質に着目して恋法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が議じられることが望ましい。」(4)「状主義」は、一般的な形式で法定明示された強制の処分が個別具体的事案において発動される場面で(例えば、個別事件の捜査に際し被疑者を連捕する場合。裁疑者の居宅内を捜索して証拠物を差し押える場合)。司法権がその処分発動の正当な理由と必要性を個別具体的に事前審査する仕組である。捜査に対する「司法的抑制」とも称される。その眼日は、人の身体・行動の自由や住居・所持品に対する権利等重要な権利・自由の侵害・制約を伴う「強制の処分」権限発動を、捜査機関限りの判断と裁量に委ねない点にある。侵害の程度が大きな権限の発動を事案解明を第1次的目標として追求する当の捜査機関の判断のみに委ねることは、極めて危険だからである。憲法は、このような事前審査を「権限を有する司法官憲」すなわち裁判官(「裁判官」と称する)に委ねている(恋法 33条・35条2項)。捜査から中立的な立場にある裁判官が、処分発動の正当な理由とその必要性の有無を、一定の資料に基づき客観的に判断し処分の許否を決することにより,捜査機関の権限行使を合理的な範囲に統制・制禦して不当な権利・自由の侵害・制約が生じるのを防止する趣意である。各強制処分における令状主義の具体的機能については、後に個別的に説明する。*このような状主義の趣旨・目的から、裁判官の事前審査がなくとも対象者の権利・自由の侵害・制約が合理的かつ正当と認め得る事情があり、また緊急に必要と認められる類型的状況においては、無令状の強制処分を例外的に認めることができる。現行法は、現行犯逮捕(恋法33条、法212条・213条)と適法な逮捕に伴う無状の捜索・差押え・検証(憲法 35条1項,法220条)について、それが可能な場合を類型的に「法定」している。このような令状を必要としない「強制の処分」も、実定刑事訴訟法に「法定」された要件に該当する場合にのみ許容されるのは、当然である。憲法の枠内で、刑事手続法にこのような状主義の例外要件を設定するのは立法府の役割であり、裁判所の仕事ではない。**前記〔序【付記】〕のとおり、2024(和6)年の法制審議会答申により、電磁的記録による令状の発付・執行等に関する法改正要綱が示されている(要綱(骨子)「第1-2」)。現行法上、被告人を召喚・勾引・勾留する場合や、捜査機関が逮捕・捜索・差押えを行う場合には、裁判長・裁判官が発する令状を要するとされており(法62条・106条・167条2項・168条2項・199条1項・225条3項・218条等).令状は紙媒体で発付され、処分を受ける者に示さなければならない(法73条・110条・201条1項・222条1項等)。そのため、合を執行する者の所在場所や処分が行われる場所が裁判所等の状を発する者の所在地から遠く離れている場合、令状を発する者による処分の要否・許否についての判断・審査それ自体に要する時間とは別に、令状を裁判所まで受け取りに行き、処分を行う場所まで運ぶという状の物理的な運搬等に長時間を費やすことがあり、処分の迅速な実行に支障を来す一因にもなっていた。法改正要は、召晩状、勾引状、勾留状、鑑定留置状.差押状、連捕状といった状は、電磁的記録によることができるとし、電磁的記録による令状をオンラインにより執行の現場で直ちに利用することができるようにし、令状に記録されるべき事項について規定を整備するものである。なお、現在令状の請求は、刑事訴訟規則により、「書面」でこれをしなければならないとされており(規則139条1項)、これを改正して、状の請求も、オンラインで可能とすることが想定されている。憲法 33条・35条が定める「状主義」の趣旨は、前記のとおり、処分の対象となる人や場所.目的物について、逮捕や捜索等を行う正当な理由が存在することをあらかじめ裁判官に確認させ、対象となる人や場所・目的物を令状に明示させて、その範囲でのみ捜査機関等に処分の実施を許すことにより。捜査機関等の意や裁量の濫用・逸脱等による不当な権利侵害の余地を封じるところにある。電磁的記録により令状が作成・発付される場合でも、書面による場合と同様に、処分の対象について、逮捕や捜索等を行う正当な理由が存在することをあらかじめ裁判官に確認させ、電磁的記録による令状に罪名や差し押さえるべき物等の処分の対象となる物や場所が記録され、その内容が捜査機関等に対して表示されることにより、逮捕の理由となる犯罪や捜索等の処分の対象となる人や場所、目的物が明示されかつ、捜査機関等がその内容を変更できないことが確保されるのであれば、令状主義の趣旨を十分に満たし、憲法33条・35条に反することにはならないと解される。なお,書面による状と電磁的記録による令状の関係について要綱は、現行法の書面による令状と電磁的記録による令状を並列の関係に立つものと位置付け、裁判所はそのいずれも選択できるとしている。電磁的記録による令状を原則とし、書面は一定の要件を満たす場合に限ると、裁判所は令状発付の際にその要件に該当するかの判断も行わなければならず、令状発付をいたずらに遅延させる結果にもなりかねないと考えられたことによる。捜査機関側に書面の令状を必要とする事情が存する場合には、令状請求の際にその旨を裁判所に伝え、それを踏まえて令状の形式が適切に選択される仕組みとすれば足りるであろう。(5) これに対して「任意捜査」は、捜査機関限りの判断と裁量でまず実行できる点に眼目がある。すなわち、ある捜査手段が刑事訴訟法中に類型的に法定されている「強制の処分」に該当しない場合、又は「強制の処分」の実質を有る重要な権利・自由を侵害・制約するような手段とはいえない場合には、特別の根拠規定がなくとも、裁判官の事前審査という令状主義の規律なしに、捜査機関独自の判断で、対象者への様々な働き掛けが可能である。捜査過程に生起する多様な状況に臨機応変に対応し的確な捜査手段を随時選択行使できる軟性がその特色である。しかし、任意捜査であっても前記のとおり対象者の法益を侵害する可能性があるので、そのような法益侵害と手段の必要性との間の合理的権衡が要請される。すなわち捜査「目的を達するため必要」な限度でのみ許容されるという、国家権力行使についての「比例原則(権衡原則)」の考え方が働くのは当然である(法 197条1項本文。後記13のとおり判例はこれを「具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されるもの」と表現している。前掲最決昭和51・3・16)。もっとも任意捜査がこのような許容限度を逸脱し違法というべきであったかどうかは、当該手段が用いられた事案が何らかの形で刑事事件等の裁判手続に進み、その過程で当該捜査手段の適否が争点とされた場合に初めて、裁判所の事後的な審査に付されるにとどまる(例、察官の用いた捜査手段に抵抗して加えられた、行の事実で現行犯逮捕され起訴された公務執行妨害被告事件の裁判で,捜査目的達成のため用いられた被告人に対する察官の有形力の行使の適否が争点とされる場合等)。事前の法的統制・制は存在しない点に注意を要する。(6) 以上の法的規律を踏まえ、任意捜査と強制捜査の手段選択の在り方を捜査機関側から見た場合、対象者に対する侵害が小さく個別具体的事案の諸状況に臨機の対応が容易なのは任意捜査である。特定の捜査目的を強制捜査ではな<任意捜査で達成することが可能であると見込まれる場合には、対象者の法益を侵害する程度の小さい任意捜査を選択するのが一般的には望ましいといえよう。これを「任意捜査の原則」という(普察官に対する「犯罪捜査規範」[昭和32年国家公安委員会規則2号]99条は、「捜査は、なるべく任意捜査の方法によって行わなければならない」との行動指針を定めている)。他方、対象者の自由な意思決定に基づく同意・承諾があったとしても(このような「純粋任意」の場合、対象者の法益は放棄されているから法益侵害はないというべきである),事後的に同意・承諾の有無に争いが生じるおそれが見込まれるときには、厳格な法的規律で統制され状裁判官の関与する強制処分の法形式を用いるのが適切と考えられる場合もあり得よう(例えば、死罪捜査範108条が「人の住居又は人の看守する場を、建造物若しくは船につき捜茶をする必要があるときは、住居主又は看守者の任意の承諾が得られると認められる場合においても、捜索許可状の発付を受けて捜索をしなければならない」と定めているのは、このような趣意であろう)。したがって、前記のような状況でも一緒に任意現金を選択すべきであるとまではいいされない。前記のとおり。特定の捜査手段が、法定されている「強制の処分」に類型的に該当する場合又は実質的にこれと同様の「強制の処分」と評価される場合であるか。それとも任意手段であるかどうかの区別は、特別の根拠規定と状主義の事前統制を受けることなく捜査機関独自の判断と裁量で実行できるかどうかという捜査機関の行為規能を明瞭にするという点において、決定的に重要である。その区別をどのような基準で判断すべきかについては、光にあらためて検討する。