1) 勾留の請求を却下する裁判に対しては検察官から、勾留状を発する裁判に対しては被疑者・弁護人から、それぞれ簡裁の裁判官が行った場合は管轄地裁に、他の裁判官が行った場合はその裁判官所属の裁判所に、その取消しを請求することができる。このような勾留に関する裁判に対する不服申立てを、勾留に関する「準抗告」と称する(法429条1項2号)。請求を受けた裁判所は合議体で不服申立てに関する裁判を行う(法429条4項)。勾留期間延長に関する裁判に対しても同様に準抗告をすることができる。*被疑者側から勾留の裁判に対する準抗告を行うに際して「犯罪の嫌疑がないこと」を理由にすることができるかについて、法420条3項が準用されているため(法429条2項)形式的には否定的に読めるが、これは嫌疑の有無自体を審判する公判手続の対象とされた「被告人」の勾留を想定したものとみられるので、事情を異にする被疑者勾留理由の核心部分たる嫌疑の存在についても審査できると解すべきである。**勾留請求却下の裁判があれば、その時点で、それまで勾留請求の効果として持続していた逮捕による被疑者の身体拘束の継続状態は目的を達して法的根拠を失い,当然に被疑者は釈放されなければならない。法 207条5項にいう被疑者の「釈放命令」はこれを確認し手続的に明らかにするものであり、裁判官の命令によってはじめて釈放の効果が生じるのではないと解すべきである。しかし、実務では法 432条が法424条の裁判の執行停止に関する条文を準用していることから、勾留請求却下の裁判があると、検察官は準抗告を申し立てると共に釈放命令の執行停止を求め、これにより被疑者の身体拘束状態を維持したまま準抗告裁判所の判断を待つとの解釈運用が行われている。しかし、かりにこの見解に拠っても、勾留請求却下の裁判があった時点から準抗告申立てまでの身体拘束を続ける法的根拠を見出すことはできない。(2) 勾留された被疑者は、裁判官に対して勾留理由の開示を請求することができる(法82条1項)。越法34条後段の「何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない」に基づく。これを「勾留理由開示」という。請求権者は被疑者に加え、その弁護人,法定代理人,保佐人,配者、直系親族、兄弟姉妹その他利害関係人(法 82条2項)と,勾留取消請求権者より広い(検察官は除かれる)。勾留理由の開示は、公開の法廷で行われる(憲法 34条、法83条1項)。法廷には裁判官及び裁判所書記官が列席し,被疑者及び弁護人が出頭しないときは原則として開廷することができない(法83条2項・3項。検察官の出席は要件でない)。請求があると、裁判官は開示期日を定める。原則として期日と請求日との間に5日以上をおくことはできない。開示期日は、検察官,被疑者、弁護人及び補佐人ならびに請求者に通知される(規則 82条~84条)。裁判官は、法廷で勾留の理由を告げなければならない。検察官,被疑者、弁護人,その他の請求者は意見を述べることができる(法84条)。なお、口頭による意見陳述の時間は一人10分を超えることはできない(規則 85条の3第1項)。また裁判官が相当と認めるときは、意見陳述に代えて、意見を記載した書面の提出を命ずることができる(法84条2項)。開示すべき「勾留の理由」とは、身体拘束の基礎とされた被疑事実と法 60条1項各号所定の事由をいうと解される。これを具体的に告げることを要するが、証拠資料の存否内容まで示すことはこの制度の目的の範囲外である。また、被害者等の個人特定事項の秘匿措置がとられ、勾留状に代わるものが発せられた事案では、その趣旨に従い特定事項の記載のない被疑事実を開示すべきである。勾留理由開示手続の結果、勾留の要件の消滅が判明することはあり得る。その場合には、勾留の取消しに結びつくであろう。(3)開始された勾留からの解放を求める手続として、「勾留の取消」請求がある。被疑者は、勾留の理由または必要がなくなったことを主張して、裁判官に対し、幻間の取消しを請求することができる。請求権者は、このほか検察官、被疑者の弁護人、法定代理人。保佐人、配偶者、直系親族、兄弟姉妹である(法87条)。裁判官は、勾留の理由または必要が消滅したと認めれば、勾留取消しの裁判をする。裁判官が職権で取り消すこともできる。勾留取消しの裁判をするには、原則として、検察官の意見を聴かなければならない(法92条2項)。勾留取消請求に関する裁判に対しては、さらに準抗告をすることができる(法429条1項2号)。なお、勾留の理由または必要があっても、勾留による拘禁が不当に長くなったときは、裁判官は勾留を取り消さなければならない。請求により、または職権によるが、請求権者に検察官は含まれない(法91条)。(4)前記のとおり、被疑者の留について保釈の制度は適用されない(法207条1項但書)。身体拘束からの一時的解放として、「勾留の執行停止」がある。裁判官は、適当と認めるときは、勾留されている被疑者を親族等に委託し、または住居制限を付して、勾留の執行を停止することができる。被告人の保釈と異なり保証金は不要である。勾留の取消しとは異なり被疑者、弁護人等の請求権はなく、職権によってのみ認められる。実務上、病気治療のための入院、返親者の葬儀等の場合に認められている。執行停止の期間や旅行制限等の条件が付加されることもある(法 95条)。法定された教行停止の取消事由が生じた場合には、裁判官は、検察官の請水により、または職権で、勾留の執行停止を取り消すことができる(法 96条】項)。取り消されると被疑者は刑事施設に収容され再び拘束される。取消事由や手続は、被告人の保釈の場合と同じである(法98条)。*2023(令和5)年の法改正により保釈中の被告人の出頭確保と併せて勾蜜執行停止中の被疑者・被告人の出頭確保のための措置が整備された。その詳細については【第3編第2章I3(5)*】参照。被疑者につき、法208条の3~208条の5参照。
1) 勾留の法定期間は、検察官が「勾留の請求をした日」(勾留状発付の日や執行日ではない)から10日間である(法208条1項)。この法定期間中は、捜査機関は被疑者の逃亡及び罪証隠滅を阻止した状態で起訴・不起訴の決定に向けた捜査を続行することができる。身体拘束は重大な基本権侵害処分であるから、期間は被疑者に利益に計算され、通則である初日不算入、休日除外等は適用されないと解釈運用されている。すなわち、勾留請求の日は、時間を問わず1日とし、曜日にかかわらず10日の期間は終了する(公訴時効期間の計算と同じ。法55条参照)。検察官は、この期間内に公訴を提起しないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。*10日は法 208条1項の文言上法定期間であり、裁判官が10日未満の勾留期間を設定して勾留することはできないと解される。立法論としても10日より短期間の勾留を可能とする法制度が相当か疑問がある。しかし、裁判官は職権で勾留の理由または必要がなくなったと認めるときは期間満了前に勾留を取り消すことができる(法 87条)。また、1人の被疑者に複数の勾留が行われる場合や、同一事実による再勾留の場合に、先行する身体拘束期間とその間の捜査状況等を勘案して、裁判官が、勾留の残存期間を示すことは可能であろう。**検察官も、起訴・不起訴の決定に向けて捜査する勾留請求権者として、被疑者の身体拘束を継続する正当な理由が維持されているか常に配慮すべき責務を負うというべきであるから、勾留の理由または必要がなくなったと判断すれば、裁判官に対し勾留の取消しを請求することができるほか(法 87条),取消しの裁判なしに自らの判断で期間満了前に被疑者を釈放することができると解され、そのように運用されている。法 208条1項の文言からもこのような検察官の措置は支持されよう。12)前記期間は、検察官の請求により、裁判官が「やむを得ない事由があると認めるとき」は、延長することができる。期間の延長は、通じて10日を超えることはできない(法208条2項。なお、208条の2参照)。延長請求手続は書面により、やむを得ない事由があることを認めるべき資料の提供が必要である(規則 151条・152 条)。前記法定期間とは異なり、検察官が10日の範囲内で延長を請求し裁判官は裁量で必要と認める日数だけ延長することができる。検察官は通算して10日を超えない限り,やむを得ない事由を疎明して再度延長請求を行うことが可能である。「やむを得ない事由がある」の判断に際しては、事案の複雑・困難,証拠収集の困難、法定期間満丁時における起訴・不起訴決定の困難等が考慮される。被疑者の身体拘束を継続した捜査をしなければ起訴・不起訴の決定が困難であり,10日の法定期間では捜査が尽くせないと認められ、勾留期間を延長すれば捜査の障害が除かれる見込みがあることが示されなければならない。
(1) 裁判官は、勾留質問の結果及び疎明資料等に基づき勾留の理由があると判断するときは、速やかに「勾留状」を発しなければならない(勾留は裁判官の裁判[命令]であるから、速やかな判断を要請されている点を念頭におきつつ、「事実の取調」をすることができる。法 43条3項,33条3項)。勾留状については、被疑者の氏名及び住居(不明の場合について法 64条2項・3項参照),罪名,被疑事実の要旨、法60条1項各号に定める事由,勾留すべき刑事施設,その他一定の記載事項が定められている(法64条1項,規則70条)。罪名及び被疑事実の要旨の記載は、逮捕状の場合と同様に,裁判官が身体拘束の正当な理由を認めた「罪」。すなわち対象事件を手続上明示顕在化する機能を果たす。勾留状が発せられたときは、検察官の指揮により、検察事務官。司法響察職員、又は刑事施設職員がこれを執行する(法70条)。勾留状を執行するには、これを被疑者に示した上(なお、被疑者は勾留状の本の交付を請求することができる。その弁護人への交付請求等について規則の定めがある。規則150条の4~150条の8,できる限り速やかに。直接。勾留状に指定された刑事施設に引致しなければならない(法 73条2項)。(2)勾部の場所は、刑事施設及びこれに代わる留置施設(刑事収容施設)である(刑事収容施設法3条・14条・15条)。被疑者を勾留状に記載されている刑事施設から別の制事施設に移すこと(移送)もできるが、そのためには殺利育の同意が必要である(規則80条1項)。勾留の場所は勾留裁判の内容として定められるものであるから、勾留裁判官が職権で移送命令を発することもできる(最決平成7・4・12刑集49巻4号609頁)。(3) 長期間身体を拘束されることになる被疑者にとって、勾留される旨やその所在を外部に知らせておくことは、極めて重要である。また、身体を拘束されて自ら防製活動をすることができない被疑者にとっては、弁護人の援助を受ける権利の保障が特に重要である。そこで法は、被疑者を勾留したときは、表判官は直ちに弁護人にその旨を通知しなければならず、弁護人がないときは、被疑者の法定代理人、保佐人、配用者、直系親族及び見弟姉妹のうち疑者の指定する者一人にその旨を通知しなければならないとしている(法79条)。これは被疑者のため独立して弁護人を選任できる者であり(法 30条2項参照)、法的援助に結びつくことを期したものであろう。法定代理人等がないときは、被疑者の申出により,その指定する者一人にその旨を通知する(規則79条)。実務では、裁判官は、被疑者に弁護人がないときは、勾留質問の際に通知先に関する被疑者の意向を確認している。勾留場所の変更(移送)をした場合も通知を要する(規則80条2項・3項)。なお、逮捕段階については、このような外部への通知制度はない。* 法制審議会は、電磁的記録による勾留状等の発付・執行に関する法改正要網を答申しており(要網(骨子)「第1-2・1」),その大要は次のとおりである。(1) 召喚状,勾引状,勾留状及び鑑定留置状は、書面によるほか、電磁的記録によることができるものとする。(2)(略)(3)電磁的記録による勾引状または勾留状には、被告人の氏名及び住居、罪名。公訴事実の要旨、引致すべき場所または勾留すべき刑事施設、有効期間並びにその期間経過後は執行に着手することができず状は検察官及び検察事務官または司法察職員(法 70条2項の規定により刑事施設職員が執行することとなる場合には、検察官及び刑事施設職員)の使用に係る竜子計算機から消去することその他の裁判所の規則で定める措置をとり、かつ、当該措置をとった旨を記録した電磁的記録を裁判長または受命裁判官に提出しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記録し、裁判長または受命裁判官が、これに裁判所の規則で定める記名押印に代わる措置(令状に記録された事項を花子計算機の映像面、書面その他のものに表示したときに、併せて当該表判長または受命製判官の氏名が表示されることとなるものに限る。)をとらなければならないものとする。(4) ア(略)イ 電磁的記録による勾留状を執行するには、裁判所の規則の定めるところにより(3)の事項及び(3)の記名押印に代わる措置に係る裁判長または受命裁判官の氏名を電子計算機の映像面、書面その他のものに表示して被告人に示した上、できる限り速やかに、かつ、直接、指定された刑事施設に引致しなければならないものとすること。ウ竃磁的記録による勾引状または勾留状について、・・・・・イによる表示をすることができない場合において、急速を要するときは、被告人に対し公訴事実の要旨及び状が発せられている旨を告げて、その執行をすることができるものとし、ただし、令状は、できる限り速やかにこれを示さなければならないものとする。
1)被疑者の勾留は、逮捕された被疑者の身柄送致を受けまたは被疑者を逮捕した検察官の請求による(法 205条1項・204条1項)。検察官以外の捜査機関に請求権はない。勾留の請求をするには勾留請求書という書面によらなければならない(規則139条1項・147条)。また、勾留の理由が存在することを認めるべき疎明資料等を提供しなければならない(規則148条)。(2)勾留請求は、法定の時間制限内に行われなければならない。やむを得ない事由に基づく正当なものと認められない勾留請求の遅延は身体拘束に関する重大な手続違反であり、裁判官は勾留状を発することはできず、請求を却下し直ちに被疑者を釈放しなければならない(法207条5項但書・206条2項)。なお、法206条2項にいう「やむを得ない事由」は、事案の性質や捜査の必要を含まず、天災による交通・通の途絶・混乱等客観的に見てやむを得ないものであったことが必要と解されている。法定の制限時間違反以外の違法手続に引き続く勾留請求の効力については、Ⅳ 1(3)で説明する。(3)勾の請求を受けた裁判官は、被疑者に対し被疑事件を告げ、これに関する陳述を聴く。これを「勾留質問」という(法61条)。勾留質問は,通常,裁判所庁舎内の勾留質問室で行われ、逮捕され勾留請求された被疑者は,裁判官の面前に引致され、この段階で初めて,裁判官に直接被疑事実に対する弁解・陳述をする機会が与えられる(なお、法定の時間制限内に適法な勾留請求があれば、請求を受けた裁判官による勾留の可否の判断があるまでは逮捕による拘束の効力が継続するので、勾留質問や勾留状発付の時期が逮捕時点からの制限時間を超えても拘東は適法である)。疑事件の告知と被疑者の陳述の聴取は、身体拘束処分の継続という基本権長害を受ける被疑者に対し適正・公正な手続保障を行う(告知と感間の機会付与。※法31条)と共に、裁判官が勾留要件の存否を判断するために行われるのであるから、被疑事件は被疑者が弁解意見を陳述できる程度に具体的に告知すべきである。勾留質問において被疑者が供述した内容は調書に録取される(規則 39条)。被疑者の供述を録取した書面は証拠になり得るから、明文はないが、勾留質問に際して、供述拒否権の告知を行うのが公正である。また、勾留請求段階で被疑者には国選弁護人の選任請求権が生じるので(法37条の2第2項),裁判官は、勾留質問の際に,被疑者国選弁護人選任請求権の告知と、選任請求の手続に関する教示を行う(法207条2項・3項・4項)。被疑者国選弁護人の選任手続については、別に説明する〔第9章Ⅲ 2〕*なお、検察官は、一定の者の個人特定事項について、勾留請求と同時に、裁判官に対し、勾留質問において、当該個人特定事項を明らかにしない方法により被疑者に被疑事件を告げることを請求することができる(法 207条の2)。その趣意は、逮捕状・勾留状の被疑事実の要旨の記載についての秘匿措置〔前記Ⅱ 1(3)*参照〕と同じである。**法制審議会は刑事施設等との間における映像と音声の送受による勾留質問・弁解録取の手続規定の整備について次のとおり答申している(要綱(骨子)「第2-1」)1 裁判所と刑事施設等との間における映像と音声の送受信による勾留質問の手続裁判所は、刑事施設または少年鑑別所にいる被告人に対し法61条の規定による手続を行う場合において、被告人を裁判所に在席させてこれを行うことが困難な事情があるときは、被告人を当該刑事施設または少年鑑別所に在席させ。映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、これを行うことができるものとし、この場合においては、被告人に対し、あらかじめ、裁判所が同条の規定による手続を行うものである旨を告げなければならないものとすること。2後素庁と刑事施設との間における映像と音声の送受付による弁解録取の手続検察官は、被疑者をその留置されている刑事施設に在席させ。映像と音声の送受宿により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって法205条1項の規定による弁解の機会の付与を行うときは、萩疑者に対し、あらかじめ、検察官が同項の規定による弁解の機会の付与を行うものである旨を告げなければならない。勾留質問について「被告人を裁判所に在席させてこれを行うことが困難な事情があるとき」との特別な事情が要件とされているのは、対象者を刑事施設等の外に出し、捜査機関の完から裁判所の庁舎内という別の場に移し、かつ、捜査機関ではない中立の判断者たる裁判官と直接対面して実施するのが来の形態であり、そのこと自体が対象者に対する公正と重要な権利保障でもあると考えられたことから、裁判所に移動せずかつ非対面の形態を例外的な場合にとどめる趣旨である。例えば、質問対象者が感染力の高い感染症に罹患している場合や、災害等により対象者の収容場所と裁判所との間の交通が一時的に途絶した場合等やむを得ない場合に限られると解すべきであろう。また,裁判官(裁判所)と質問対象者との間を映像と音声の送受情による方法で結んで陳述の聴取を行う場合には、裁判官(裁判所)との対面が画面越しになることで、質問対象者にとって、画面越しに映し出された人物が裁判官(裁判所)であって中立的な立場で陳述を聴取するものであることを認識することが相対的に困難となる状況が生じ、そのことが被疑事件・被告事件に関する陳述に影響する余地が生じ得る。そこで、前記のとおり、要綱(骨子)「第2-1・1」は、後段において、裁判所は、被告人に対し、あらかじめ、「裁判所が同条の規定による手続を行うものである旨」を告げなければならないものとしている。具体的には、質問対象者に対して、例えば「私は裁判官であり、あなたが起訴された事件の裁判を担当する裁判所として、当該事件について勾留の裁判をするかどうか判断するに当たり、これから、あなたに被告事件を告げ、その事実に関するあなたの陳述を聴きます。」などと告げることが考えられよう。これに対して、2検察庁と刑事施設との間における映像と音声の送受による弁解録取の手続については、確かに検察官が裁判所とは異なり捜査機関であるものの、第一水的捜査機関の活動に対して、法律家としてその適法性維持のための重要かつ独立の責務があることから、明文は設けられていないが、やはり場所的移動を原則とする運用に努めるべきであろう。被疑者を刑事施設に在席させたままであることに加え、被験者と検察官との間を映像と音声の送受倍による方法で結んで弁解録取を行う場合には、微疑者と検察官の対面が画面越しになることで、被疑者にとって、画面越しに映し出された人物が検察官であって警察関係者とは別の立場の者であることを認識することが相対的に困難となりやすくなると考えられる。そこで、要綱(子)「第2-1・2」は、被疑者をその留置されている刑事施設に在席させ、映像と音声の送受情により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって法205条1項の表定による弁鮮の機会の付与を行うときは、検察官が被疑者に対し、あらかじめ、「検察官が同項の規定による弁解の機会の付与を行うものである旨」を告げなければならないものとしている。被疑者に対して、例えば、「私は検察官であり、あなたは連捕され響察官から検察官に送致されたので、これから、検察官として、あなたに、弁解をする機会を与える手続を行います。」と告げることが考えられよう。
(1) 勾留の要件は、①被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること、及び,②(1被疑者が定まった住居を有しないとき、(i)被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき、(被疑者が逃亡しまたは逃とすると疑うに足りる相当な理由があるとき、の一つに当たることである(法60条1項。ただし軽徴な罪については、(日)に限られる。同条3項)。逮捕の要件と対比すれば、①が狭義の勾留理由すなわち嫌疑の存在、②が勾留の必要である。両者を併せて「勾留の理由(広義)」というのが一般である(法87条1項等)。逮捕の場合と異なり、②で逃亡のおそれと罪証隠滅のおそれが身体拘束を行うための積極要件とされ、裁判官による慎重な認定が要請されている。(2) ①の犯罪の嫌疑の文言は通常連捕と同じであるが、逮捕段階より捜査が進展していること、拘束期間が長いこと、直接被疑者の陳述を聴いた上で判断する[2(3)]ことから、通常連捕の「相当な理由」より高度の嫌疑が必要である。②(i)「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」については、その具体性をどの程度要求するかが勾留の可否に決定的な影響を及ぼし得る。捜査段階は起訴後に比して流動的な状況が大きいが、もとより一般的抽象的な可能性では足りず、被疑者の身体拘束を行わなければ、勾留請求の対象となった被疑事実に関する証拠を隠滅する活動が相当程度に見込まれることをいい,起訴・不起訴の決定に向けた捜査の続行に支障が生じる具体的根拠が必要というべきである。②曲「逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由」は、被疑者を釈放すると所在不明となる可能性が相当程度見込まれることをいう。なお、逃亡のおそれの一類型である②(i)「住居不定」には住居「不明」は含まれないと解すべきである。*最高裁判所は、60条1項各号の事由の程度を、資料に基づいて具体的、実質的に検討して判断することを要請している。例えば、罪証隠滅・逃亡の現実的可能性の程度が高いとはいえないと判断して勾留請求を却下した原々裁判を取り消して勾を認めた原決定を取り消した最決平成 27・10・22集刑318号11頁参照。また、罪証隠滅の現実的可能性の程度について言及したものとして、朝の通勤通学時間帯に電車内で発生した痴漢の否認事件被疑者の勾留請求を却下した裁判に対し準抗告がなされた事案において、被疑者が前科前歴のない会社員であり、逃亡のおそれも認められないとすれば、勾留の判断を左右する要素は罪証隠滅の現実的可能性の程度であるところ。被疑者が被害者に接触する可能性が高いことを示すような具体的事情がうかがわれないことからすると、準抗告審が、被害者に対する現実的な働き掛けの可能性もあるとするのみで、その可能性の程度について勾留裁判官と異なる判断をした理由を何ら示さずに勾留を認めたことには違法があるとした最決平成26・11・17判時 2245号129頁参照。(3) 法60条1項が明記する「勾留の理由」に加えて、「勾留の必要性・相当性」が独立の要件となると解されている。法は、既に開始された勾留について、裁判官は「勾留の理由又は勾留の必要がなくなったとき」勾留を取り消さなければならないとしているから(法87条1項)、勾留の開始時点においても、裁判官は「勾留の必要」の有無についても審査できるとみるべきである。実質的に見ても、法60条1項に該当する場合でも諸般の事情を考慮勘築して長期間の拘束を行うのが相当でないと認められる場合が想定できる(例、事案軽微で起訴の可能性が乏しいと見込まれる場合、さらに身体拘束を継続しなくとも直ちに起訴することが可能と認められる場合、住居不定であるが身元が明らかで確実な連先があり明らかに逃亡のおそれがないと認められる場合、高齢・病気等で拘束が相当でないと認められる場合等)。このような場合には、裁判官は勾留の要件をくとして請求を却下すべきである。
以上のとおり、逮捕された被疑者について検察官が留置の必要を認めた場合。裁判官に勾留の請求が行われる。被疑者の勾留は、身体を拘束する裁判官の裁判及びその教行であり、法は被疑者の勾留について、被告人の勾留を定める総則の規定を準用してその要件・手続を示し、逮捕に比して長期間に及ぶ身体拘束について厳格な規律を行っている(法207条1項「勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない」との条項は、保釈に関する規定を除き、総則の定める裁判所が行う被告人の勾留に関する規定を、裁判官の行う被疑者の勾留に準用することを意味する。以下皿I及びWにおける条文の引用に際しては、法207条1項は略す)。後記のとおり、裁判官によって勾留がなされた場合、検察官は、法定の期間内に公訴を提起しないときは、被疑者を釈放しなければならない(法 208条・208条の2)。このように、被疑者の勾留は、逮捕された被疑者について、身体拘束処分によりその逃亡と罪証隠滅を防止しつつ、検察官による起訴・不起訴の決定に向けた捜査を続行することを目的とした制度と理解することができる。法定の拘束期間制限内に起訴・不起訴の決定ができなかった場合、捜査機関は被疑者を釈放して、身体拘束なしに捜査を続行することはできる。
1) 以下のとおり,法は、逮捕の効力として被疑者を一定時間留置することができるとしており、その間,捜査機関は被疑者の逃亡と罪証隠滅を防止した状態で捜査を続行することができる。憲法34条はこのような「抑留」について、理由の告知と弁護人に依頼する権利を保障している。法はこれを受け、憲法上の権利保障と留置時間の制限規律を設けて、身体拘束された被疑者保護のための手続を設定している。このような逮捕後の手続については、通常連捕に関する法 202条から 209条までの規定が法211条及び法216条に拠り準用されるので、緊急逮捕後及び現行犯逮捕後の手続は通常逮捕後の場合と共通である。*逮捕された被疑者を留置する場所について、刑事訴訟法上特段の制限はない。管察官が逮捕した被疑者については、察署の留置施設(刑事収容施設法14条2項1号)に留置されるのが通常である。なお、刑事施設に留置することもできる(法209条)。幻留の場合(3(2)]とは異なり、逮捕された被疑者の留置場所について裁判官による統制権限はない。(2) 響察官による逮捕が行われた場合の手続は次のように進行する。司法巡査が被疑者を逮捕したときは、直ちに、これを司法警察員に引致しなければならない(法202条)。司法察員が自ら被疑者を逮捕したとき、または逮捕された被疑者を受け取ったときは、①被疑者に対し直ちに犯罪事実の要旨を告げ、②弁護人を選任することができる旨を告げた上、③被疑者に弁解の機会を与えなければならない(法 203条1項)。前記のとおり①②は憲法上の要請である。②について、被疑者に弁護人の有無を尋ね、弁護人があるときは告知を要しない(法203条2項)。身体拘束された被疑者の弁護人選任権とその実効性を担保促進するための法制度、とくに被疑者と弁護人との接見交通及び身体拘束された被疑者に対する国選弁護の制度等については、別途説明する〔第9章Ⅲ 1,2)。法は②の告知に際して、弁護人選任申出に関する教示及び国選弁護人選任請求権がある旨とその請求手続について教示することを義務付けている(法 203条3項・4項)。③の弁解の機会を与えるのは、身体拘束された被疑者に対する聴問の機会付与(憲法31条)であるとともに,被疑者の言い分を聴いた上でその後留置を離続する必要性を判断するためであり、被疑者の供述を得るための取調べではないから、供述拒否権の告知(法198条2項)は要しないと解されている。しかし、弁解の機会に質問して述を得る場合は「被疑者の取調べ」(法198条1理)というべきであるから告知を要する。弁解の内容を録取した書面(弁解録取書)は証拠となり得るので(法 322条1項「被告人の供述を録取した書面」に当たる)。その旨を告知するのが公正であろう。被疑者の弁解を聴いた結果、司法響察員が留置の必要がないと判断したときは直ちに被疑者を釈放しなければならない(法 203条項)。後記のとおり、これている点が重要である。こに逮捕後、捜査機関限りの判断で被疑者の釈放を認める余地・機会が設定さ部置の必要があると判断したときは、被疑者が身体を拘束された時(引数の時ではない)から48時間以内に、書類及び証拠物と共に被疑者を検察官に送致する手続をしなければならない(時間制限内に検察官のところに到達する必要はない。法203条1項)。これを「身柄送致」という。察から検察への事件送致手続に関する特則である(法 246条)。この時間制限内に身柄送致の手続をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない(法 203条5項)。司法察員から身柄送致された被疑者を受け取った検察官は、弁解の機会を与え、留置の必要がないと判断するときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。留置を継続する必要があると判断したときは、被疑者を受け取った時から 24時間以内で、かつ、被疑者が身体の拘束を受けた時から72時間以内に、裁判官に勾留の請求をしなければならない(法205条1項・2項)。この制限時間内に公訴を提起したときは、勾留請求の必要はない(同条3項。必要があれば裁判官の職権による「被告人」の勾留が行われる。法 280条2項参照)。検察官が勾留請求も公訴提起も行わないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない(法 205条4項)。*被疑者に犯罪事実の要旨を告げることについて,秘匿に関する特段の法備は行われていない。これは、運用上、個人特定事項の秘匿が可能と考えられたことによるものであり、法 201条の2第1項に掲げる者(記1(3)*参照】の個人特定事項を被疑者に対し秘匿する必要があると認めるときは、告知の際に留意を要する。(3) 検察官または検察事務官による逮捕が行われた場合の手続は次のように進行する。検察事務官が被疑者を逮捕したときは、直ちにこれを検察官に引致しなければならない(法202条)。検察官が自ら被疑者を逮捕したとき、または検察事務官に逮捕された被疑者を受け取ったときは、直ちに犯罪事実の要旨を告げ、弁護人の有無を尋ねて弁護人がないときはこれを選任できる旨を告げた上、弁解の機会を与えなければならない(法 204条1項・5項。なお、弁護人選任申出に関する教示及び国選弁護人選任請求権と手続の教示も行う。同条2項・3項)。被疑者の弁解を聴いた結果,検察官が留置の必要がないと判断したときは直ちに被疑者を釈放しなければならない。留置の必要があると判断したときは、被疑者が身体を拘束された時から48時間以内に、裁判官に勾留の請求をしなければならない。ただし、この時間制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求を要しない(同条1項)。検察官が勾留請求も公訴提起も行わないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない(同条4項)。
(1) 現行犯逮捕は、憲法33条の明記する状主義の例外であり、身体束の開始から勾留請求までの間に裁判官による審査手続が介在することはない。「現行人」については、類型的に、裁判官による審査・判断を経るまでもなく被疑者の身体を拘束する正当な理由が明白であり、不当不合理な基本権侵害の危険が乏しいからである。(2)「現行乳人」とは「現に罪を行い。又は現に罪を行い終った者」をいう(注212条1項)。このような要件に当たる被疑者を直接認識した者にとっては、加入であることが明白である上、直ちに身体を拘束する高度の必要性・緊急性が認められるので、裁判官の審査を不要としたのである。「現に罪を行い終った者」については、兆行から時間が経過し、また場所的移動があると、兆人であることの明白性が急速に減退するので、時間的・場所的近接性は厳格に解しなければならない。*犯人であることの明白性は、罪の明自性を前提とする。逮捕を行う者にとって犯罪が行われたことを直接知り得ない場合には、現行犯逮捕はできない。もっとも、隠密に行われる犯罪について、一般人には判断できなくとも察官が内偵等によって得た客観的資料に基づく知識により犯罪の存在を知り得る場合には(例えば、賄路罪における金銭の授受や梱包された禁制薬物の取引),そのような察官が現行犯速捕することはできる。(13)法は前記現行犯人には該当しないが、次の要件に該当する者が「罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるとき」。これを現行犯人とみなすとしている。①人として追呼されているとき、②販物または明らかに犯非の用に供したと思われる器その他の物を所持しているとき、③身体または装服に犯罪の顕著な証跡があるとき、④誰何されて逃走しようとするとき(準現行犯人。法212条2項)。「罪を行い終ってから間がないと明らかに認められる」という犯行との時間的正接性を前提として、犯人であることの明白性を支える類理的事情を付加したものである。現行人とは異なり犯行自体の現認がなく、また犯行場所からの移動が伴っている場合があるので、「間がない」との時間的近接性要件は厳格に解さなければならない。とりわけ④は、犯人であることの明白性を示す程度が強力とはいえないので,①②③に比して、犯罪との時間的・場所的近接性が高度に要求されるというべきである。各号に重複して該当する場合には、犯人であることの明白性が強化されるので、時間的・場所的近接性の程度は緩和されることがあり得よう(法212条2項2号ないし4号に当たるとされた事例として、最決平成8・1・29刑集50巻1号1頁)。(4)「現行犯人」は、捜査機関であると私人であるとを問わず、何人でも逮捕状なしに逮捕することができる(法 213条)。私人が現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを捜査機関に引き渡さなければならない(法214条)。司法巡査が現行犯人を受け取ったときは、速やかにこれを司法察員に引致しなければならない。司法巡査は、逮捕者の氏名、住居及び逮捕の事由を聴取し、必要があれば逮捕者に対しともに官公署に行くことを求めることができる(法 215条)。一定の軽微な犯罪については、人の住居もしくは氏名が明らかでない場合か、または犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、現行犯逮捕ができる(法217条)。軽微犯罪について、逮捕の必要性である逃亡のおそれ等を積極要件とし現行犯逮捕の要件を厳格化したものである。なお明文はないが、現行犯であっても、身元が確実で明らかに逃亡のおそれがなく、かつ罪証隠滅の可能性もないと明らかに認められる場合はあり得るか5,このような「逮捕の必要」は現行犯逮捕においても要件であると解すべきである。
◼️緊急逮捕 (1)憲法は文面上「現行」だけを令状主義の例外としている(憲法33条)。これに対して刑訴法は、通常逮捕と現行犯逮捕以外に,緊急逮捕の制度を設けている(法210条)。要件は、①法定刑の比較的重い罪について(死別又は無期若しくは長期3年以上の拘禁用に当たる罪)。②その犯罪の嫌疑の程度が「罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある場合で」。③急速を要し、あらかじめ裁判官の速捕状を求めることができないときである。この場合、捜査機関は被疑者に「その理由を告げて」(前記①②③をいう。②のみではない) 逮捕することができる(法210条1項前段)。逮捕後、直ちに裁判官の逮捕状を請求する手続をしなければならない(迅速な状請求が要請されるので、通常逮捕のような請求権者の制限はない。請求を受けた裁判官の事後審査の結果,逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない(法210条1項後段)。(2)判例は、特に理由を説示せず事前の令状審査がない緊急逮捕制度を合憲とする(最大判昭和30・12・14集9巻13号 2760頁)。令状主義の原則形態が、個別事案における強制処分の発動に際しあらかじめ裁判官がその正当な理由を審査することからすれば、現行法の設計導入した緊急逮捕制度は変則である。しかし勾留請求段階まで裁判官の関与が予定されない現行犯逮捕とは異なり、事後ではあれ「直ちに」逮捕状請求がなされることで裁判官による逮捕の正当れよう。な理由の審査が行われるから、恋法にいう状による逮捕の一種と位置付けら身体拘束処分の設計として、仮に現行犯逮捕と事前の状による通常連の制度しかなければ、高度の嫌疑は認められるものの現行犯には該当しない重大事の被疑者が面前に居るが、裁判官の令状発付を得る暇がなく、令状を得ても被疑者の逃走等により逮捕が著しく困難になるのが見込まれる緊急の局面においては、おそらく「現行犯」の法解釈・運用が著しく弛緩して勾留請求まで裁判官の審査機会がない現行犯逮捕が実行されるか、任意同行等の名目による実質上の身体拘束が誘発されるであろう。いずれも不健全な違法手続である。法はむしろ正面からこのような法的必要に対し、身体拘束の正当理由に関するできる限り迅速な裁判官の事後審査を介在させて、逮捕の必要性・緊急性との合理的調整を図ったものと理解できよう。(3) 以上のような緊急逮捕制度の趣旨と憲法の状審査の要請から、逮捕後の状請求はできる限り迅速に行われなければならない。裁判官による迅速な事後審査は、緊急逮捕制度の合憲性を支える基本要素である。請求を受けた裁判官は、①逮捕実行の時点での緊急逮捕要件の充足、②状請求時に被疑者の身体拘束を継続する理由と必要の両者を審査する。①について、犯罪の嫌疑は通常逮捕の要件である「相当な理由」(法 199条)よりも高度な「十分な理由」(法 210条)が要求されている点に注意を要する。また,逮捕実行時において明らかに逃亡や罪証隠滅のおそれがなかったと認められるときは、逮捕の必要性がなかったとして請求を却下すべきである。①の審査に用いることができるのは、逮捕実行の時点における疎明資料に限られる。逮捕後に得られた被疑者の弁解や供述等の証拠を用いることができないのは当然である。①で緊急逮捕行為が適法であったと認められるときは、裁判官は次いで②の審査を行い,拘束の理由と必要を認めるときは逮捕状を発する。②の審査では逮捕後令状請求時点までに収集された証拠も疎明資料になる。もっとも、「直ちに」行うべき状請求を遅延させるような逮捕後の捜査は相当でない。*緊急逮捕後、逮捕状請求前に,捜査機関が留置の必要がないと思料して被疑者を釈放した場合であっても、既に実行された身体拘束処分の適法性を裁判官の審査に付すという状主義の趣意から、逮捕状請求を行うべきである(犯罪捜査規範120条3項参照)。裁判官は、①の緊急逮捕時の要件充足の有無を審査判断した上で令状請求を却下すべきである。
法は、身体拘束開始の手続を異にする3種類の逮捕を定めている。通常逮捕、緊急逮捕,現行犯逮捕である。通常逮捕と緊急連捕は逮捕状という裁判官の状によることを要する。ただし、令状発付の時期が異なる。これに対し現行犯逮捕は令状を要しない。以上3種類の逮捕について逮捕後の手続は共通である。◼️通常逮捕(1) 逮捕の原則形態は、裁判官があらかじめ発する「逮捕状」による逮捕である。これを「通常逮捕」という。検察官または司法察員は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由のある被疑者について,裁判官(原則として、地方裁判所または簡易裁判所の裁判官。規則299条)に対し、逮捕状の発付を請水することができる。なお、普察官である司法察員については、公安委員会が指定する替部以上の者に限る(法199条2項。検察事務官と同法査には静求権がない。速捕状の請求をするには逮捕状請求青という書面によらなければならない(規則 139条・142条)。また。逮捕の要件である逮捕の理由及び逮捕の必要があることを認めるべき資料を提供しなければならない(「疎明資料」という。規則 143条)。*同一の犯罪事実について、当該被疑者に対し、前に逮捕状の請求またはその発付があったときは、その旨を裁判所に通知しなければならない(法199条3項)。現に捜査中である他の罪事実について前に逮捕状の請求またはその発付があったときも同様の通知を要する(規則 142条1項8号)。これらの通知は、状裁判官に再度の逮捕状請求である事実等を認識させて、請求に対する審査を慎重ならしめようとする趣意であり、状主義の中核に係る手続であるから、この通知を欠いた請求手続は、主義の精神を没却する重大な違法になり得る。(2) 連捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕状請求書及び疎明資料に基づき逮捕の要件の存否を審査する。必要があると認めるときは、逮捕状請求者の出頭をまめてその陳述を聴き、書類その他の物の提示を求めることができる(規則143条の2)。裁判官は、審査の結果、逮捕の理由があると認めた場合には、明らかに逮捕の必要がないと認めるときを除き、逮捕状を発する。「連捕の理由」とは、「被疑者が罪を狙したことを疑うに足りる相当な理由がある」ことである(法199条2項本文)。「逮捕の必要がない」とは、「被疑者の年齢及び競選びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、機疑者が逃亡する度がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等」のことをいう(規則143条の3)。裁判官は「明らかに逮捕の必要がないと認めるときは」請求を却下しなければならない(法199条2項但書)。令状主義の趣意には、理由のない身体拘束を防ぐのみならず、必要のない身体拘束を抑制することも含まれるというべきであるから、法は、逮捕の理由すなわち犯罪の嫌疑があったとしても、身体拘束の必要がない場合には、裁判官の判断により逮捕を認めないこととしている。もっとも、急速を要する逮捕状発付の審査において、必要性の積極的な認定まで求めると適時の逮捕の実行を阻害するおそれがあるから、明らかに必要がないとき請求を却下すれば足りるとしたのである。この点は、勾留の要件構成と異なっている[後記皿1(1)。一定の軽微な犯罪については、被疑者が定まった住居を有しないか、正当な理由なく捜査機関の出頭要求に応じない場合に限り逮捕することができるとされている(法199条1項但書)。これは、逮捕の必要性の表を積極要件として逮捕要件を加重したものであり、ここから、法は軽徴な犯罪については、原則として逮捕の必要がないとみていると理解できよう。「逮捕の必要」の核心は被疑者の逃亡の防止と罪証隠滅の防止であり、これが、法的意味での身体拘束処分の目的である。被疑者の意思を制圧し身体・行動の自由を奪する逮捕や勾留を、任意捜査である被疑者取調べを直接の目的とした法制度と解することは到底できない。(3) 裁判官の発付する逮捕状については、被疑者の氏名・住居,罪名,被疑事実の要旨等一定の記載事項が法定されている(法 200条)。罪名及び被疑事実の要旨の記載は、逮捕される被疑者に対し身体拘束の理由を告知する機能を果たすと共に、裁判官が審査対象とした「罪」すなわち具体的被疑事実を手続上明示顕在化する機能を果たす。逮捕状によって逮捕を行うことができるのは、逮捕状請求権のある検察官・司法察員に限られず,検察事務官・司法巡査も含まれる(法199条1項)。逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない(法201条1項)。捜査機関が、あらかじめ発付された逮捕状を所持しないためこれを被疑者に示すことができない場合において、急速を要するときは、被疑者に対し、被疑事実の要旨及び逮捕状が発せられている旨を告げて逮捕し、その後できる限り速やかに逮捕状を示すという手続をとることができる。これを逮捕状の緊急執行という(法201条2項・73条3項)。逮捕状の有効期間内に逮捕の必要がなくなったとき及び有効期間を経過したときは、逮捕状を返還しなければならない(法200条、規則 157 条の2)。*2023(令和5)年に、犯罪被害者等の情報を保護するための規定の整備についての法務大臣諮問第115号に係る法制審議会答申に基づいた法改正が行われ(令和5年法律 28号),性罪の被害者等の個人特定事項(氏名及び住所その他の個人を特定させることとなる事項をいう)について、後記の起訴状の公訴事実の記載等に係る規定[第2編公訴第2章II1(2)**〕と併せて、逮捕状や勾留状の被疑事実の要旨の記載についてもこれを秘匿する措置に関する規定が設けられた。従来も公開法廷における被害者特定事項の秘匿措置はあったが(法290条の2、291条2項・305条3項・295条3項)、被告人に送達される起訴状謄本の公訴事実の記載や、捜査段階で被疑者に星示される逮捕状・勾留状等の被疑事実の要旨の記載については、被害者等の個人特定事項を秘匿することができるとする明文の規定がなかった。このため、特定事項が記載されたままの起訴状勝本の送達や逮捕状・タ皆状の星示により、被疑者・被告人に被害者の氏名等が知られてその名誉やプライヴァシィが書されるのみならず、逆恨みした被疑者・被告人から報復される可能性もあり、被害者等がそれを恐れて被害申告を控えたりこれを取り下げるといった事例もあった。このような事態に対処するため明確な秘匿措置を明文化したのがこの改正である。このような制度趣旨から、後記のとおり対象者は性犯罪被害者には限られない。秘匿措置の対象となるのは、①性犯罪(刑法犯では刑法 176条・177条・179条・181条・182条・225条・226条の2第3項・227条1項3項・241条1項3項)に係る事件の被害者、このほか犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者の個人特定事項が被疑者に知られることにより被害者等(被害者または一定の場合におけるその配得者、直系親族・兄弟姉妹)の名誉または社会生活の平穏が著しく書されるおそれがあると認められる事件、被害者またはその親族の身体もしくは財産に書を加えまたはこれらの者を畏怖させもしくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認められる事件の被害者。②①に掲げる者のほか、個人特定事項が被疑者に知られることにより名誉または社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる者、その者またはその親族の身体もしくは財産に害を加えまたはこれらの者を支させるしくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認められる者である。これらの者について、個人特定事項の記載がない逮捕状の抄本その他「速構状条の2)。に代わるもの」を被疑者に示す措置を採ることができる場合が定められた(注2。これと同じ対象者の個人特定事項について、その記載がない勾留状【後記I.3(1)の抄本その他「勾留状に代わるもの」を被疑者に示す措置をとることができる場合の規定も設けられた(法 207条の2)。この場合に、裁判官は、被疑者の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあると認めるときは、被疑者または弁護人の請求により,秘匿されていた個人特定事項の全部または一部を被疑者に通知する旨の裁判をしなければならない(法 207条の3)。**電磁的記録による逮捕状の発付、執行に関する法改正要綱(骨子)「第1-2・5」によれば、(1)逮捕状は、書面によるほか、裁判所の規則の定めるところにより電磁的記録によることができるものとし、(2)電磁的記録による逮捕状には,被疑者の氏名及び住居。罪名、被疑事実の要旨,引致すべき官公署その他の場所、有効期間並びにその期間経過後は逮捕をすることができず状は検察官、検察事務官または司法察職員の使用に係る電子計算機から消去することその他の裁判所の規則で定める措置をとり、かつ、当該措置をとった旨を記録した電磁的記録を裁判官に提出しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記録し、裁判官が、これに裁判所の規則で定める記名押印に代わる措置(状に記録された事項を電子計算機の映像面、書面その他のものに表示したときに、併せて当該裁判官の氏名が表示されることとなるものに限る。)をとらなければならないこと。(3)ア)電磁的記録による逮捕状により被疑者を逮捕するには、裁判所の規則の定めるところにより(2)の事項及び(2)の記名押印に代わる措置に係る裁判官の氏名を電子計算機の映像面,書面その他のものに表示して被疑者に示さなければならないとし、イ) 勾引状の緊急執行に関する手続は、電磁的記録による逮捕状により被疑者を逮捕する場合についても同様とするとされている(要綱(骨子)「第1-2・1(4)ウ」参照)。(4) 逮捕は、被疑者の意思を制圧してでもその身体・行動の自由を奪し束する「強制の処分」の典型であり、その目的達成に必要な範囲で被疑者の抵抗を制圧するに足りる有形力を用いることができる。被疑者が抵抗し・逃亡しようとするとき、または被疑者以外の第三者が逮捕行為を妨害しようとするときは、逮捕完遂に対する妨害を排除するために必要かつ相当な措置をとることができる。法定の要件を充足し適法と認められる強制処分の個別具体的場面での発動過程において、対象者の被る法益侵害がその目的達成のため必要かつ相な範囲及び限度に留められるべきことは然である(強制処分実行に際しての比例原則)。警察官の武器使用については職法に定めがある(職法7条)。なお、察官は、逮捕された被疑者について、その身体に凶器を所持しているかどうかを調べることができる(同法2条4項)。*逮捕を実行・完遂するまでの過程で、被疑者の身体・所持品を検索し、逮捕完遂目的を阻害する凶器・逃走具を発見したときは、これを奪することができると解される。これは、法 220条の規定に拠る証拠物等の無状捜索・差押えではなく、むしろ逮捕手続が法定され適法に許可されていることから、その本来的目的達成に必要な附随措置ないし逮捕行為に対する妨害排除措置として、逮捕に関する法の規定と裁判官の許可により併せ許容されているものと位置付けられよう。このように解した場合、逮捕された被疑者の身体や所持品について凶器等を検索する場所は、「逮捕の現場」(法 220条1項2号参照)に限定されない。
1) 人の身体・行動の自由は、基本的人権の中でも最も根源的な自由である。しかし、狙罪捜査においては、身体・行動の自由を強制的に奪してでも被疑者の逃亡や罪証隠滅行為を防止しつつ捜査を続行することが必要な場合がある。そこで、憲法は、司法官憲が被疑者の身体を拘束する正当な理由を認めた「命状」に基づいて,このような処分を行うことを原則としている(「逮捕」についての「主義」。憲法33条)。また,憲法は、身体拘束を継続する「抑留」「拘禁」について、「理由」の告知や「正当な理由」を要請している(憲法 34条)。これを受けて刑事訴訟法は、被疑者の「逮捕」(法199条~206条・209 条~217条)と「勾留」(法207条~208条の2)の制度を設け、裁判官による「正当な理由」の審査という統制・制興を及ぼすことにより、身体拘束という極めて動な基本権侵害処分を正当かつ合理的に必要な限度に留め、その適正を図ろうとしている。「連捕」とは、被疑者の身体の自由を奪し、引き続き短時間拘束の状態を続ける強制処分である。恋法33系にいう連捕は、拘束の着手段階であり、拘東状態の継続は、憲法34条にいう抑留に当たる。法は、逮捕を原則として裁判官の許可を受けて捜査機関が実行するものとし、憲法33条の令状主義の要請に対応している。「勾留」とは、被疑者または被告人の身体を拘束する裁判及びその数行をいう。法3条にいう禁に当たる。本章ではこのうち被疑者の勾留を扱う。逮捕された被疑者について、検察官の請求により、裁判官が行う強制処分である。裁判官が法定の要件を審査して発する勾留状という状に基づき身体拘束処分が執行される。逮捕のように捜査機関の処分を裁判官が許可するのではない。(2)以上のような裁判官の関与は、重大な基本権侵害である身体拘束処分の「理由(狭義)」すなわち犯罪の嫌疑の存在と、身体拘束の「必要性」を,捜査から中立の立場にある司法権が審査することにより、「正当な理由」のない身体拘束が行われるのを防止する趣旨である。裁判官はこのような審査を通じて、一面で捜査機関の行動を抑制し、他面でこれを正当化する。また、身体拘束処分は性質上一定時間継続するものであるが、いかに捜査のためとはいえ、人の身体・行動の自由を奪した状態を無制限に続けることは、それ自体が適正な手続(憲法31条)とは言い難い。そこで法は、逮捕と勾留について、それぞれ時間・期間の制限に関する規定を設け,被疑者の身体拘束により逃亡と罪証隠滅を防止しつつ捜査を続行できる時間・期間を規律限定することによって、基本権侵害と捜査目的達成の必要との合理的調整を図っている。このような身体拘束処分に係る法制度の趣旨・目的に鑑み、その核心たる裁判官による「正当な理由」の審査及び身体拘束の時間・期間に関する法的規律の趣意に反する違法状態が生じるのをできる限り防止することが、身体拘束処分に関する法解釈・適用の基本的な要請である。
変死者又は変死の疑のある死体」(「変死体」という)があるとき、検察官は「検視」をしなければならない(法 229条1項)。死亡が犯罪に起因するものかどうかを判断するために死体の状況等を外表検査・見分する活動である。その結果犯罪に起因することが判明すれば、捜査が開始される。捜査そのものではなく、その端緒のひとつである。検視の対象となる「変死体」とは、不自然死で犯罪に起因する死亡か不明のもの、または不自然死の疑いがありかつ犯罪に起因する死亡か不明のものをいう。自然死(病死、老死等)であることが明白な死体。及び不自然死であるが犯罪に起因しないことが明白な死体(明白な自殺、水中の溺死等)はこれに当たらない。祝非に起因する死亡が明白な場合は、直ちに捜査が開始されるので、検視の対象にはならない。例えば当該死体について、刑訴法の規定に従い検証や、鑑定処分として解剖等が行われることになろう。他方、不自然死のうち犯罪に起因しないことが明白な死体については、いわゆる「行政検視」の対象になるにとどまり(このような場合の警察官の手続について「瞥察等が取り扱う死体の死因又は身の調査等に関する法律」[平成24年法律34号]及び「死体取扱規則」[平成25年国家公安委員会規則4号]がある),刑訴法上の検視(「司法検視」)の対象ではない。実際には、検視の対象となる可能性のある死体が発見されると警察官に届出がなされるのが大部分であろう。この場合,普察官は前記「察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」に基づき、当該死体を取り扱うことが適当と認められる警察署長にその旨を報告し,察署長はその死体(犯罪捜査の対象となる死体を除く)の死因を明らかにするため必要があると認めるときは、医師等をして、体液等を採取して行う薬毒物検査、死亡時画像診断等の検査を行わせることになる。しかし、当該死体が「変死体」であるときは、司法検視が行われることになるので,後記「検視規則」に基づき、察署長から検察官に通知をし,検察官が司法検視の要否を判断することになる。検察官は、検察事務官または司法察員に検視をさせることができる(法229条2項。「代行検視」という)。なお、察官が変死体がある旨検察官に対して通知する場合や検察官の命を受けて代行検視する場合の手続について「検視規則」(昭和33年国家公安委員会規則3号)がある。検視を行うについては、変死体の存在とその見分の必要性・緊急性を理由に、住居主または看守者の承諾がなくとも令状なしに変死体の存在する場所に立ち入ることができるという見解が有力である。しかし、捜査そのものでなくとも、私的領域への侵入に対する憲法 35条の保障は及ぶはずであるから、疑問であろう。