コンピュータ等の電磁的記録に係る記録媒体の差押え等の実施に際しては、技術的・専門的知識が必要であるため、捜査機関の独力で実行するのが困難な場合がある。このため、処分対象者に専門技術的な協力を義務付ける規定が設けられた。捜査機関は、処分を受ける者に対し、「電子計算機の操作その他の必要な協力を求めること」ができる(法 222条1項・111条の2)。なお、後記のとおり、この規定は、捜査機関が行う「検証」についても準用されるので、捜査機関が電磁的記録に係る記録媒体を対象に検証をする場合にも,協力要請をすることができる。対象者が協力要請に応じない場合には、差押え等に「必要な処分」(法111条1項)として捜査機関が自ら電子計算機等を操作し、または専門的知識のある補助者に操作させる等の方法をとることになろう。
「差し押さえるべき物」が特定の電子計算機など「電磁的記録に係る記録媒体であるとき」には、捜査機関は、その記録媒体自体を差し押える代わりに、次のような方法で捜査目的達成に必要な電磁的記録を取得することができる。記録媒体が大容量のサーバである場合に,捜査上必要な電磁的記録(データ)のみを取得する方法を明文化したものである(法222条1項・110条の2)。捜査機関は、自ら差し押えるべき記録媒体に記録された必要な電磁的記録を他の記録媒体に複写し、印刷し、または移転した上、当該他の記録媒体(例,ディスク等や印刷物)の方を差し押えることができる。「移転」とは、電磁的記録を他の記録媒体に複写するとともに、元の記録媒体からは電磁的記録が消去されるようにすることをいう。また、捜査機関は、このような複写、印刷。移転を、自ら行うのではなく、差押えを受ける者に行わせることもできる。
捜査機関は、裁判官の発する状により、電磁的記録を保管する者、その他電磁的記録を利用する権限を有する者に命じて必要な電磁的記録を記録媒体に記録させ、または印刷させた上、当該記録媒体を差し押えることができる。この強制処分を「記録命令付差押え」という(法 99条の2・218条1項)。記録命令付差押え処分の実質的な取得対象となるのは証拠として必要な電磁的記録(データ)であるから、状には、記録させまたは印刷させるべき電磁的記録、及びこれを記録させまたは印刷させるべき者を記載しなければならない(法219条1項)。他方で、通常の差押えのように個別の記録媒体自体(電子計算機等)を特定して記載する必要はない。例えば、「〇年〇月〇日から同月✕日までの間にメールアドレスロロロロロによって送受された電子メールの通倉履歴(送受信の日時・送信・送信先のメールアドレス)」のような記載となる。新設されたこの処分は、サービスプロバイダ等捜査協力が見込まれる電磁的記録の保管者等に対して、捜査目的達成に必要な範囲で、電磁的記録をディスク等の記録媒体に記録させた上、これを取得することで、大容量の記録媒体自体の差押えを避け、また。複数の記録媒体に分散して保管され利用されているデータについて、協力的な保管者等にこれらを一つの記録にまとめて記録させた上で、これを取得することができるようにしたものである。対象者の協力が期待できない場合には、通常の記録媒体の差押え処分によることとなる。これについても、次に説明するとおり、電磁的記録の特性に即した処分の執行方法に関する規定が新設されている。なお、記録命令付差押えは、協力的な対象者を想定しているので、逮捕の現場における無状の強制処分を認める規定には掲げられていない(法 220条1項2号参照)。故に無状で記録命令付差押えをすることはできない。
物理的には別の場所にあるが、差押えの対象である電子計算機とネットワークで接続され一体的に使用されている記録媒体から、データを複写して取得する方法が導入された(法218条2項)。捜査機関は、差し押えるべき物が電子計算機であるとき、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であって、当該電子計算機で作成もしくは変更をした電磁的記録または当該電子計算機で変更もしくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるもの(例,作成した電子メールを保管するため使用されているサーバ、作成・変更した文書ファイルを保管するため使用されているファイルサーバ)から、その電磁的記録を当該電子計算機または他の記録媒体(例,別途用意されたディスク等)に複写した上、当該電子計算機または当該他の記録媒体を差し押えることができる。この処分は差押えの一形態であるから、差押令状の発付を得て実施される。対象を明示する憲法上の要請をたすため、裁判官の発する令状には、「差し押さえるべき物」である電子計算機のほか、「差し押さえるべき電子計算機に電気通情回線で接続している記録媒体であって、その電磁的記録を複写すべきものの範囲」を記載しなければならない(憲法35条、法219条2項)。例えば、「メールサーバのメールボックスの記憶領域であって、〇〇の使用するコンピュータにインストールされているメールソフトに記録されているアカウントに対応するもの」,「リモート・ストレージ・サーバの記憶領域であって,〇〇の使用するコンピュータにインストールされている、そのサーバにアクセスするためのアプリケーションソフトに記録されているIDに対応するもの」のような記載となる。複写すべき電磁的記録を保管した記録媒体が、「サイバー犯罪に関する条約」の締約国に所在し,電磁的記録を開示する正当な権限を有する者の合法的かつ任意の同意がある場合に、国際捜査共助によることなく同記録媒体へのリモートアクセス及び同記録の複写を行うことは許されるとした判例がある(最決令和3・2・1刑集75巻2号123頁)。なお、通常の差押えの場合と異なり、逮捕現場における無状の処分ができる旨の規定は設けられておらず(法 220条1項2号参照),また同様の処分を定めた総則規定の準用もないので(法99条2項・222条1項参照),逮捕の現場で無令状で電気通回線で接続している記録媒体からの複写を行うことはできない。
コンピュータ・ネットワークの利用の進展に対応し、また、大容量・複数の記録媒体(例、サービス・プロバイダが管理するサーバ・コンピュータ)から捜査目的達成に必要な限度でそこに記録されている電磁的記録(データ)を証拠として取得する適切な方法を導入するため、2011(平成 23)年改正によって、新たな強制処分規定の新設と、データが記録されている記録媒体の差押えの執行方法に関する規定の整備等が行われた(平成23年法律74号)。この改正は、2012(平成24)年6月22日から施行されている。新設された処分の実質的機能は、電磁的記録それ自体の取得・保全であるが、差押えの対象を有体物としている現行法の構成〔12(2)]に整合させるため、それが記録されている記録媒体の取得手段として規律されている〔なお後記*参照)。
(1) 前記のとおり、無状捜索の対象は、逮捕被疑事実に関連する証拠物が存在する蓋然性の認められる「逮捕の現場」並びに被逮捕者の身体及び所持品である。「現場」は逮捕行為が現に実行・完遂された場所であって、被逮捕者や第三者による証拠の破棄隠滅行為が及び得る範囲に限定されるのが原則である。被逮捕者の身体及び所持品を対象とする捜索の実行については、前記のとおり、特段の事由がある場合、被逮捕者を「逮捕の現場」から捜索に適した最寄りの別の場所まで連行して処分を実行することができる。これに対して、逮捕の時機を遅くする特段の事由もないのに、被疑者をその居宅等に同行してから逮捕を実行し、居宅等を「逮捕の現場」として捜索するのは、捜査機関の恣意的判断で無状捜索が可能な場所を選定することを認めるに等しく、令状主義の基本趣旨に反するであろう。「逮捕の現場」に居た第三者の身体については、制度趣旨の前提となる逮捕被疑事実に関連する証拠物が存在する一般的蓋然性が認められず、また前記のとおり人の身体には場所とは別個固有の法益が認められるから、捜索をすることはできないと解すべきである。(2)差押えについては、状に基づく場合と異なり対象物件に関する事前の明示・特定がなく、また、明文による限定はないが、逮捕被疑事実に関連する証拠物等が存在する蓋然性に立脚した法の趣旨から当然に、差押えの対象物は逮捕被疑事実と関連する証拠物及び没収すべき物と思料されるものに限られる。もとより、別の被疑事実に関連する証拠物等を差し押えるのは違法である。関連性の有無の判断は基本的に状に基づく処分の実行の場合と異ならないが〔皿3(2)、対象物件の事前の明示・特定がないため全面的に捜査機関の判断に委ねられることになる。脱法的権限行使の危険に鑑み、事後の不服申立ての番査にはとくに慎重な判断が要請されよう。*捜査機関において、被疑者をその居宅で逮捕し、これに伴う無状捜索・差押え権限を用いて、逮捕被疑事実とは別の被疑事実に関連する証拠物を探索・発見しようとの意図の有無にかかわらず、前記のとおり、たとえ逮捕被疑事実に関連しない別件の証拠物を発見してもこれを差し押えるのは違法である。もっとも無状捜素の過程で発見された物件が法禁物であるときは、所持罪の現行犯逮捕ができることから、その現行犯逮捕に伴う無状差押えが可能となる(例、恐喝被疑事実で適法に逮捕状を得た被疑者について、覚醒剤営利目的所持の嫌疑があるとき、同人を同人の居宅で逮捕し、これに伴う居宅内の無状捜索の結果、多量の覚醒剤を発見したので、同人を覚醒剤営利目的所持の被疑事実で現行犯逮捕すると共に、当該覚醒剤を差し押えた場合)。このような場合に、法禁物の無状差押え処分について、捜査機関の事前の意図のみを理由にこれを違法とすることはできないであろう。(3) 令状に基づく処分の場合と同様に,強制処分の実効性を確保するため。これに対する妨害排除や原状回復の措置を行うことができる。例えば、逮捕現場に居た者が、その場に存在していた逮捕被疑事実に関連する証拠物を隠匿しようとした場合には、そのような差押え処分に対する妨害を排除し原状を回復するのに必要かつ相当な措置を実行することができると解される。(4)適法な逮捕行為を実行・完遂するに際し、逮捕という強制処分の附的効力として必要かつ相当な範囲で、これに対する妨害排除措置を採ることができる。例えば、逮捕者その他の第三者または被逮捕者の生命・身体の安全を確保するため、逮捕行為に対する抵抗を制圧する措置の一環として、被逮捕者の身体を検索し所持する凶器を強制的に奪取・確保することができると解される。これは、法 220条に基づく証拠物等の捜索・差押え処分ではなく、むしろ適法な逮捕の目的達成のため許容されている措置と位置付けられよう。したがって、このような措置の実施場所は「逮捕の現場」に限定されない。逮捕行為を完遂し妨害を排除するため、被逮捕者から逃走用具を奪取・確保する措置についても同様である。
(1) 法は状主義の例外として(憲法上の根拠と趣旨について、II2参照)、状を必要としない捜索・差押えの要件を具体的に法定している(法 220条)。捜査機関は、被疑者を逮捕(通常逮捕・現行犯逮捕・緊急逮捕)する場合において、必要があるときは、無令状で人の住居または人の看守する邸宅、建造物もしくは船舶内に立ち入り、被疑者の捜索をすることができる(法220条1項1号・3項)。適法な逮捕を完遂するため被疑者の所在を探索・発見する緊急の必要性が認められる場合の合理的例外と解される。被逮捕者の探索・発見を目的とする住居等への立入りであるから、その性質上、逮捕行為に着手する前の時点から静容される。住居等に立ち入り被疑者を捜索する場合において急速を要するときは、住居主等の立会いを要しない(法222条2項)。もっとも、無合状で捜査版関の立入りが行われ住居の平穏が害されるので、運用上、住居主等処分を受ける者に法に基づく正当な処分の実行であることを告知することが望ましい。通常逮捕の場合であれば逮捕状を呈示するのが適切であろう。また、被疑者以外の者の住居等を捜索する場合。「必要があるとき」の判断に際しては、被験者が当該住居等に現在することを認めるに足りる状況があることを考慮すべきであろう(法102条1項・2項参照)。(2) 捜査機関は、被疑者を逮捕する場合において、必要があるときは、逮捕の現場で、無状で捜索・差押えをすることができる(法220条1項2号・3項)。なお、無状の「記録命令付差押え」は法定されていないので許されない。また、電気通言回線で接続している記録媒体からの複写も許されない(法222条1項は、法99条2項を準用していない)。通常逮捕,現行犯逮捕,緊急逮捕のいずれの場合であっても、適法な逮捕の要件があることが前提となるので,捜索・差押えの「正当な理由」の要素である嫌疑の存在すなわち被疑事実の存在する蓋然性は認められる(なお、緊急逮捕について逮捕状が得られなかったときは、差押物は直ちに還付しなければならない。法220条2項)。その上で、「逮捕の現場」並びに被逮捕者の身体及び所持品には、被疑事実に関連する証拠物または没収すべき物が存在する一般的な蓋然性を認めることができる。このように、令状裁判官による事前審査を介さなくとも、逮捕現場並びに被逮捕者の身体及び所持品を捜索し,逮捕被疑事実に関連する証拠物等を差し押える「正当な理由」が一般的に認められることに加えて、逮捕を実行する際に被逮捕者や第三者が証拠の破棄隠滅を行うことを防止して急速に証拠を保全する緊急の「必要があるとき」,例外的に無状の処分を許容するのが、この制度の趣旨である。(3)前記法の趣旨から、「逮捕する場合において」とは、前提として逮捕を実行する現実的可能性が認められる場合でなければならない。被疑者を逮捕する現実的可能性が未確定の状況で、捜索・差押えに着手することは許されないと解すべきである。判例は、緊急逮捕のため被疑者方に赴いた察官が、たまたま被疑者が外出中で不在であったにもかかわらず、帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に、被疑者宅の捜索・差押えを開始し、その直後に帰宅した被疑者を逮捕したという事案性質上、処分実行の時刻の制限規定の準用はなく(法222条3項)、また冷状に基づく処分についての被疑者の立会いに関する規定は適用されない(法222条6項)。
(1) 特定の「場所」に対する捜索令状の効力範囲については、既に述べたとおりである[II1(2)。処分実行時点において記載の「捜索すべき場所」に現在する物については、場所に対する令状の効力が及び、捜索をすることができる。これに対して、捜索すべき場所に現在する人の身体に対しては場所に対する捜索令状の効力は及ばない。捜索すべき場所に現在する人が現に所持している物については、捜索すべき場所内にあることから原則として状裁判官の許可は及んでいると解されるので、そこに差し押えるべき物の存在を認めるに足りる状況があれば(法102条1項・2項参照)、捜索をすることができると解される。これに対して、明白に捜索状の効力が及んでいないと認められる物については、捜索すべき場所内にあっても捜索することはできない。(2)差押えの対象は、第一に、状に「差し押えるべき物」として記載された物件に文面上該当し、かつ第二に,被疑事実と関連する証拠物または没収すべき物でなければならない。被疑事実との関連性がいかに明瞭であっても、令状に記載されている物件に該当しないものを差し押えるのは違法である(麻雀賭博被疑事件につき「本件に関係ありと思料される帳簿、メモ,書類等」と記載された令状で、麻雀牌と計算棒を差し押えたのを適法とした最判昭和42・6・8判時487号38頁は疑問であろう)。また、文面上は状に記載された物件に該当しても、被疑事実との関連性が認められないものを差し押えることはできない(暴力団員による恐喝被疑事件につき「暴力団を標章する状,バッチ、メモ等」と記載された状で、常習的な賭博開張の模様が克明に記録されたメモを差し押えたのを適法とした最判昭和51・11・18判時 837号104頁の関連性判断は緩やかに過ぎるであろう)。捜査機関は、状裁判官が明示・記載して許可した限度で差押え処分を実行できるのであるから、原則として、前記、第一、第二の点を差押え処分実行の際に個別に点検・確認しなければならない。とくに被疑事実との関連性の有無は、裁判官が許可した差押え処分の対象たる「証拠物」に該当するかどうかの決定的に重要な要素であることから、慎重な判断が要請される。関連性の有無の判断は第1次的には差押え処分を実行する捜査機関に委ねられることになるので、これが無限定に弛緩すれば、令状主義の核心的目標が無に帰するおそれがあろう。もっとも差押え処分時の関連性判断は、流動的な処分実行の過程における判断であると共に、犯罪事実そのものが公訴提起段階ほど明瞭になっていない捜査の初期段階において客観的証拠を収集するため、「被疑事実」の具体的範囲をある程度広く想定せざるを得ない側面もある(「罪となるべき事実」のみではなく、これに密接に関連する犯行の動機・目的や犯行に至る経緯に係る重要な事実。犯人その他の者の犯行前後の行動に係る事実等にも及び得る)。このため関連性有りとされる証拠物の範囲もこれに伴って広がる可能性はあろう。*処分実行時にその場で直ちに被疑事実との関連性の点検・確認が困難な特段の事情がある対象物については、差押えに「必要な処分」(法222条1項・111条1項)として占有を取得した上、速やかに関連性の有無の点検・確認を行って証拠物の選別とそれ以外のものの返却を行うという処分の実行方法も可能であるように思われる。判例は、被疑事実に関連する情報が記録されている蓋然性が高いと認められるパソコン、フロッピーディスク等について、そのような情報が実際に記録されているかを捜索差押えの現場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があるときは、内容を確認することなしに当該パソコン等を包括的に差し押えることが許されるものと解される旨説示している(最決平成 10・5・1集52巻4号275頁。リモートアクセスによる電磁的記録の複写処分について同旨の判例として最決令和3・2・1刑集75巻2号123頁)。しかし,被疑事実との関連性が不明な物の占有取得も可能な場合があるという趣意であれば、これを「差押え」処分そのものとみるのは困難であろう。他方、包括的に占有取得されたフロッピーディスク等の電磁的記録媒体のすべてが被疑事実に関連する証拠物とみているとすれば、「関連性」の枠が緩やかに過ぎるように思われる。** 状の「差し押さえるべき物」に文面上該当し、かつ被疑事実との関連性が認められる物件が、別の被疑事実の証拠物にもなるという場合はあり得る(例,業務上横領被疑事件の証拠物として差し押えられた会計帳簿が、別の被疑事実である脱税や贈賄被疑事件の捜査の端緒や証拠となる場合)。捜査機関がそのような可能性を想定して捜索・差押状を請求し、状発付を得てこれを実行することに、特段の法的問題があるとは思われない。当該令状に記載された物に文面上該当していても,当該被疑事実との関連性が認められず別の被疑事実のみに関連する物を差し押えたと認められる場合は違法であり、他方、関連性が認められる場合には、それが他の被疑事実の証拠物になり得る物であったとしても、その差押えを違法とする理由は考え難い。令状に基づく捜索・差押え処分について、いわゆる「別件捜索・差押え」と称されている問題は、仮象の問題であるように思われる。実行された身体拘束処分を余罪被疑事実の「取調べ」のために利用しようとする別件逮捕・勾留とは事情を異にする。(3)捜索・差押え処分の実行時に、捜査機関が様々な態様の写真撮影を行う場合がある。捜索・差押え手続が適正・公正に実行されたことを示す証拠を保全するためその実施状況を撮影するのは、検証の結果を写真撮影という方法で記録する活動であるが、処分実行に附随するものとして捜索差押え状により併せ許可されていると説明できよう。また。差押え対象物が発見された客観的状況それ自体を証拠化するため、その物件を、発見された場所・状態で撮影することも、検証の結果を記録する活動であるが、差押え対象物の証拠価値を保存するための差押えに附随する措置として、併せ許可されている処分と考えることができる。これらの処分は、令状裁判官が捜索・差押え処分を許可した範囲外の新たな法益侵害を生じさせるものではないから。検証状は不要と考えられる。令状に差し押えるべき物として記載されている物件の占有を取得せず、その代替措置として撮影する場合はどうか。写真撮影の目的が場所や物等の客観的状態の認識とその証拠化・保全にとどまらず、証拠物の古有取得と機能的に同価値である場合には、写真撮影という方法を用いて「押収」処分(憲法 35条法430条)が実行されたとみるべきであろう。したがって、差押状に記載されていない物件について、写真撮影という方法を用いて「押収」処分を行ったとみられる場合には、状により許可されていない違法な処分として、法430条の定める準抗告の対象になると解すべきである(後記最決平成 2・6・27 藤島昭裁判官の補足意見参照)。判例は、察官が捜索・差押えをするに際して令状記載の差し押えるべき物に該当しない物件を写真撮影した事案について、「[当該]写真撮影は、それ自体としては検証としての性質を有すると解されるから、刑訴法 430条2項の準抗告の対象となる「押収に関する処分』には当たらないというべきである。したがって、その撮影によって得られたネガ及び写真の廃棄又は申立人への引渡を求める準抗告を申し立てることは不適法であると解するのが相当である」と説示しているが(最決平成2・6・27刑集44巻4号385頁),前記のとおり、その法的性質ないし機能は「検証」ではなく、写真撮影という方法を用いた「押収に関する処分」が実行されたと解されるので、準抗告をすることができるというべきである。*情報通信技術の進展・普及に伴う法整備に関する法制審議会答申において、電磁的記録による各種状の発付・執行等の規定の整備に関する要綱が示されており(要欄(子)「第1-2」)。捜索・差押え状等については、大要次のとおりである。下記のとおり、検証や鑑定処分等の令状〔第6章参照〕についても同旨の規定が備される見込みである〔選捕状・勾留状については第3章11(3)**、I3*を参照)。総則規定について、要綱(骨子)「第1-2・2」では電磁的記録による差押状等の発付・教行について、(1)差押状及び捜索状は、書面によるほか、電磁的記録によることができるものとする。(2){磁的記録による差押状または捜索状には、被告人の氏名、罪名、差し押さえるべき物または捜索すべき場所、身体若しくは物、有効期間並びにその期間経過後は執行に着手することができず状は検察官及び検察事務官または司法察職員(法 108条1項但書の規定により裁判所書記官または司法察職員に執行を命ずる場合にあっては、裁判所書記官または司法警察職員)の使用に係る電子計算機から消去することその他の裁判所の規則で定める措置をとり、かつ、当該措置をとった旨を記録した電磁的記録を裁判長に提出しなければならない旨並びに発の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記録し、裁判長が、これに裁判所の規則で定める記名押印に代わる措置(令状に記録された事項を電子計算機の映像面,書面その他のものに表示したときに,併せて当該裁判長の氏名が表示されることとなるものに限る。)をとらなければならないものとする。(3)電磁的記録による差押状は、次のアまたはイに掲げる方法により処分を受ける者に示さなければならない。ア(2)の事項及び(2)の記名押印に代わる措置に係る裁判長の氏名を電子計算機の映像面,書面その他のものに表示して示す方法イ(2)の事項及び(2)の記名押印に代わる措置に係る裁判長の氏名を処分を受ける者をしてその使用に係る電子計算機の映像面その他のものに表示させて示す方法。(4)電磁的記録による捜索状は、(2)の事項及び(2)の記名押印に代わる措置に係る裁判長の氏名を電子計算機の映像面,書面その他のものに表示して処分を受ける者に示さなければならないものとする。要綱(骨子)「第1-2・3」では電磁的記録による法119条の捜索証明書等の提供について,(1)法119条の規定による証明書の交付は、これに代えて、証明書に記載すべき事項を記録した電磁的記録を提供することによりすることができるとし、ただし、相手方が異議を述べたときは、この限りでないものとする。(2)法120条の規定による押収品目録の交付は、これに代えて、目録に記載すべき事項を記録した電磁的記録を提供することによりすることができるとし、ただし、相手方が異議を述べたときは、この限りでないものとする。要綱(子)「第1-2・4」では電磁的記録による法 168条2項の鑑定処分許可状の発付・執行について、(1)法168条2項の鑑定処分許可状は、書面によるほか、電磁的記録によることができるものとする。(2)電磁的記録による鑑定処分許可状には、被告人の氏名、罪名及び立ち入るべき場所、検査すべき身体、解剖すべき死体、発掘すべき墳墓または破壊すべき物並びに鑑定人の氏名その他裁判所の規則で定める事項を記録する。(3)鑑定処分許可状が電磁的記録によるものであるときは、鑑定人は、裁判所の規則で定める方法により(2)の事項を電子計算機の映像面、書面その他のものに表示して処分を受ける者に示さなければならないものとする。要綱(骨子)「第1-2・6」では検察官等がする差押え等に係る電磁的記録による状の執行について、(1)法218条1項の状は、書面によるほか、電磁的記録によることができるものとする。(2)電磁的記録による(1)の状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名、差し押さえるべき物、捜索すべき場所、身体若しくは物、検証すべき場所若しくは物または検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間並びにその期間経過後は差押え、捜索または検証に着手することができず状は検察官,検察事務官または司法響察職員の使用に係る電子計算機から消去することその他の裁判所の規則で定める措置をとり、かつ、当該措置をとった旨を記録した電磁的記録を裁判官に提出しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記録し、裁判官が、これに裁判所の規則で定める記名押印に代わる措置(令状に記録された事項を電子計算機の映像面、書面その他のものに表示したときに、併せて当該裁判官の氏名が表示されることとなるものに限る。)をとらなければならないものとする。(3)前記「第1-2・2(3)」は、検察官,検察事務官または司法察職員が法218条の規定によってする差押えまたは検証についても同様とするものとし、2(4)は、検察官,検察事務官または司法察職員が同条の規定によってする捜索についても同様とするものとする。要綱(骨子)「第1-2・7」では電磁的記録による法225条3項の鑑定処分許可状の発付・執行について、(1)法225条3項の鑑定処分許可状は、書面によるほか、電磁的記録によることができるものとする。(2)前記「第1-2・4(2)」及び同(3)は、電磁的記録による許可状についても同様とする。
(1) 検察官、検察事務官または司法察員は、捜索・差押えのための状請求を行うことができる(法218条4項。請求権者の範囲は逮捕状より広い。法199条2項参照)。請求に際しては、規則の定める事項を記載した「請求書」を裁判官に提出し(規則139条1項・155条),併せて、請求書記載の処分を実行する「正当な理由」(憲法35条)を示す「疎明資料」を提供しなければならない(規則156条)。規則では「被疑者....が罪を狙したと思料されるべき資料」の提供(同条1項)が要請されている。また。被疑者以外の者の身体、物または住居その他の場所についての捜索令状を請求するには、「差し押さえるべき物の存在を認めるに足りる状況があることを認めるべき資料」を提供しなければならない(同条3項、法102条2項参照)。これらの請求書と疎明資料等に基づき状裁判官が審査すべき「正当な理由」の具体的内容は、既に説明したとおりである〔II1(2))。処分の「必要性・相当性」も令状裁判官の審査すべき状発付の要件と解すべきであり、明らかに必要性をくと認められる場合や対象者の被る法益侵害の質・程度等を勘案して合理的権衡すなわち相当性を欠くと認められる場合には、請求を却下することができる。*判例は、差押え処分に対する準抗告の審査・判断に関して、次のように説示している。「差押に関する処分に対して、[刑訴]法430条の規定により不服の申立を受けた裁判所は、差押の必要性の有無についても審査することができるものと解するのが相当である。・・・・・差押物が証拠物または没収すべき物と思料されるものである場合においては、差押の必要性が認められることが多いであろう。しかし、差押物が右のようなものである場合であっても、狙罪の態様、軽重、差押物の証拠としての価値、重要性、差押物が隠滅毀損されるおそれの有無、差押によって受ける被差押者の不利益の程度その他諸般の事情に照らし明らかに差押の必要がないと認められるときにまで、差押を是認しなければならない理由はない」(最決昭和44・3・18刑集,,23巻3号 153頁)。この趣意は、事前の状審査の場面においても基本的に当てはまる。令状請求段階で必要性・相当性の不存在が明白に認められるときは請求を却下すべきである。**状裁判官が、「諸般の事情」の考慮勘案に際し、憲法上の価値衡量を行うべき場合もあり得る。例えば、報道機関の所持・管理する取材フィルムを証拠物として押収する理由が認められる場合においては、憲法上保障された「報道の自由」(憲法21条)並びに憲法上十分重に値すると解されている「報道のための取材の自由」と、「国家の基本的要請である公正な刑事裁判の実現」並びに「適正迅速な捜査の遂行」との間の具体的比較衡量が要請される(最大決昭和44・11・26 刑集23巻11号 1490頁[博多駅事件],最決平成元・1・30刑集43巻1号19頁[日本テレビ事件],最決平成2・7・9刑集44巻5号421頁[TBS 事件]参照)。最高裁判所は「憲法は、刑罰権の発動ないし刑罰権発動のための捜査権の行使が国家の権能であることを当然の前提とするものである」と述べているので、このような刑事司法作用に係る要請を憲法上の価値衡量の要素と位置付けているとみられる(接見指定の合憲性に関する最大判平成11・3・24民集53巻3号514頁参照)。取材フィルムに関する前記各事案では押収が是認されたが、事案が異なり、例えば報道の自由自体が直接侵害・制約されるような場合であれば、憲法上の価値衡量の結果、押収の必要性ないし相当性を灸くというべき事案もあり得よう。また、前記事案では押収(提出命令・差押え)の可否のみが問題となったが、例えば、報道機関が管理・支配する建造物に立ち入る「捜索」の可否についても、同様の考慮勘案が要請されるであろう。***郵便物等「通信の秘密」(憲法21条2項)に係る物の差押えについては、特別の定めがある(法 222条1項・100条)。法令に基づき通信事務を取り扱う者が保管・所持する「郵便物、信書便物又は電信に関する書類」は、被疑者から発し、または被疑者に対して発したものについて文面上は無限定に(法 222条1項・100条1項),その他の場合は「被疑事件に関係があると認めるに足りる状況のあるものに限り」(法 222条1項・100条2項)差し押えることができる。前者の規定は、開封して内容を点検しないと証拠物たることが判明しない郵便物等の性質を考慮したものと思われるが、差押え対象が被疑事件に関連する証拠物であることは当然の前提であるから、被疑者発または被疑者宛の場合であっても関連性のないことが明白なものは差押え対象から除外されるべきである。なお、被疑者発または被疑者宛を除く郵便物等で通信事務取扱者が保管・所持するものの差押令状を請求するには、その物が被疑事件に関係があると認めるに足りる状況があることを認めるべき疎明資料を提供しなければならない(規則 156条2項)。前記差押え処分をしたときは、その旨を発信人または受信人に通知しなければならない。ただし通知によって捜査が妨げられる度がある場合はこの限りでないとされている(法 222条1項・100条3項)。郵便物等の差押えは、通信の秘密を直接侵害する処分であることから、このような現行法の事後通知が、通言傍受法の定める事後通知制度〔第7章1I3(8)〕に比して、十分な合憲的手続保障(憲法31条)といえるか疑問であろう。郵便物等を差し押えるために通事務取扱者に対する「捜索」をすることは許されるか。差押えについてのみ特別の定めがあるのは、捜索を許さない趣旨であると解される。捜査機関が通事務取扱者の管理・支配する場所に立ち入り不特定多数の郵便物等の探索や開封が行われるとすれば、不特定多数人の通の秘密が侵害される程度は著しいので,このような捜索は類型的に不相当というべきである。通信事務取扱者が差押え対象物の選別に協力的でない場合には、差押え処分に必要な最小限度の措置が可能であるにとどまるであろう(法 222条1項・111条1項)。(2) 状には、被疑者の氏名、罪名、差し押えるべき物、捜索すべき場所、身体もしくは物、有効期間(原則は7日。規則300条)等法定の事項を記載し、裁判官がこれに記名押印する(法 219条1項)。「被疑者の氏名」が明らかでないときは、人相,体格その他被疑者を特定するに足りる事項でこれを指示することができる(法 219条3項・64条2項)。なお,被疑事実の存在と証拠物存在の蓋然性等は明瞭であっても被疑者は「不詳」ということがあり得る。このような場合でも「正当な理由」の審査・判断が可能であれば令状を発することができる。「罪名」の記載は、処分の理由とされている事件を特定することを通じて、処分の対象となる場所や物の特定に資する趣意である。もっとも、逮捕状とは異なり「被疑事実の要旨」は令状の記載事項ではない(規則155条1項4号、法200 条参照)。捜素・差押え処分は被疑者以外の者に対しても実行されることがあるので、捜査の秘密保持の必要や被疑者の名誉等に配慮したものである(通信傍受令状の記載事項との異同について、通信傍受法6条[被疑事実の要旨、罪名、罰条が記載事項とされている]。ただし傍受状の星示について同法10条1項但書参照)。後記のとおり。処分対象の特定の要請に資する場合には、罰条や被疑事実の要旨を記載することもできると解される。もっとも、捜査の秘密保持や被害者等氏名秘匿の要請が強い場合は別論である。「差し押さえるべき物」及び「捜索すべき場所、身体若しくは物」の「明示」記載は、法上の要請であり、合状主義の中核を成す(恋法35条)。令状裁判官は、捜査機関の権限範囲をあらかじめ明示・限定することにより恣意的権限行使を防止するという状主義の趣旨に即して、状請求書と疎明資料等に基づいた蓋然性判断を踏まえ、対象を具体的に明示・特定する必要がある。もっとも、「差し押さえるべき物」については、捜査の初期段階に物の個別的形状・特徴までは判明していないことも多い。令状審査が被疑事実と関連する証拠物の存在についての蓋然性判断であることから、個別・具体的な記載を基本としつつ、ある程度包括的・抽象的な表現が用いられるのはやむを得ない。実務上、個別の物件を明示・列記したのち「その他本件に関係すると思料される文書および物件」という記載が付加される例も少なくない。このような記載方法について,判例は、具体的な例示に付加されたものであり、状記載の被疑事件に関係があり、かつ例示物件に準じる文書・物件であることが明らかであるから、物の明示に欠けるところはないとしている(最大決昭和33・7・29刑集12巻12号2776頁)。しかし、この場合,令状自体に「本件」がある程度具体的に明示されていなければ、捜査機関の恣意的判断防止の趣意に反するであろう。このような記載をする場合には、被疑事実の要旨を記載するなどして「本件」の内容を明らかにする必要があろう。「捜索すべき場所」等は、捜査機関の処分権限の及ぶ範囲を、管理支配が異なる他の対象と明瞭に区別できる程度に明示・記載すべきである。場所については、通常。管理支配が同一である範囲で、その地理的位置を住所等で明示・記載して特定する。複数の場所を捜索するときは、「各別の状」によらなければならない(憲法 35条2項)。1通の状に複数の捜索場所を記載することは許されない。捜索対象が人の身体や自動車のように移動するものである場合、住居のように地理的位置で特定することはできないから、他の方法(対象者の氏名や車両番号等の記載)によることになる。令状裁判官は、同一の管理支配が及ぶ場所的範囲内について、特段の事由がない限り処分実行時にその場所に存在すると見込まれる物(例,捜索すべき住居内に存在する机。金庫、箪笥等の物)をも併せて当該場所を捜索する正当な理由を判断しているとみられるから、特定の場所に対する捜索状により、処分実行時点においてその場所に存在する物を捜索することができる(当該場所内に存在しても、その場所の管理支配に属さないことが明らかな物は別論である)。例えば、公判期日で異議なく取り調べられていたような場合は、もはや秘密に当たらないとしている(最決平成 27・11・19刑集69巻7号797頁)。(3) 捜査機関は、捜索・差押えの実行に際し,錠をはずし、封を開き、その他「必要な処分」をすることができる(法 222条1項・111条1項)。捜索・差押え処分の実効性を確保し,その本来的目的達成に必要な手段は、それが対象者に及ぼす法益侵害と合理的権衡が認められる相当な態様の附随的措置であれば、令状裁判官により本来的処分と併せ許可されているとみられる。すなわち前記条文は、別個固有の処分を定めたものではなく、法定されている捜索・差押え処分の附随的効力についての確認規定と解される。それが令状に基づく処分に伴う場合には、裁判官によって併せ許可された「令状の効力」と説明することもできる。判例は、ホテル客室に対する捜索差押え令状に基づき被疑者の在室時に処分を実行する際、事前に察知されると差押え対象物である覚醒剤が破棄隠滅される度があったため、ホテル支配人からマスターキーを借り受けて、来意を告げずに施錠された客室ドアをマスターキーで解錠し入室した措置について、「捜素差押えの実効性を確保するために必要であり、社会通念上相当な態様で行われていると認められるから、刑訴法 222条1項、111条1項に基づく処分として許容される」と説示している(前掲最決平成 14・10・4。捜査機関が宅配便配達人を装って解錠させたのを法111条の処分として適法とした裁判例として、大阪高判平成 6・4・20高刑集47巻1号1頁)。判例のいう「社会通念上相当な態様」とは、対象者の被る法益侵害措置の必要性との合理的権衡が認められる行為態様を意味すると解される。また、捜索・差押えが「強制」処分という権力作用であることから当然に,その実効性・目的達成を阻害する者の行為を制圧・阻止する等の妨害排除措置ができる。法は、捜索・差押えの実行中は、何人に対しても、許可を得ないでその場所に出入りすることを禁止でき、禁止に従わない者は、これを退去させ、または処分終了までこれに看守者を附することができると定めている(法 222条1項・112条)。これは、強制処分の附随的効力としての妨害予防・妨害排除措置を明記したものである。なお、捜索・差押え処分を途中で一時中止する場合において必要があるときは、処分が終わるまでその場所を閉鎖し、または看者を置くことができる(法 222条1項・118条)。捜索場所に居る人が、捜索を妨害したり差押え対象物を隠匿しようとする場合には、前記のとおり処分の実効性確保のための妨害排除措置として合理的に必要な限度でこれを制圧阻止・原状回復等を行うことができると解される。そのような妨害排除や原状回復措置の過程で、対象者の身体等に向けられた有形力行使や身体等に隠匿された差押え対象物件の探索が行われることがあり得るが、対象者の被る法益侵害が合理的に必要な限度にとどまる限り、正当な強制処分の実行として、違法の問題は生じないというべきである。「必要な処分」は、前記のとおり捜索・差押え処分に附随する措置であるから,本来別途状が必要と解される処分を行うことはできない。例えば,捜素・差押え処分実行中に差し押えるべき物が捜索場所とは管理支配を異にする場所に投棄された場合、いかに差押え処分の実効性確保のため必要であろうと、該場所に強制的に立ち入るには別途捜索状が必要である。*場所に対する捜索状に基づき捜索場所に現在する人の身体について捜索をすることができるかという形で議論される問題〔前記 1(2)〕は、本文のように位置付けて処理するのが適切であろう。前記のとおり場所に対する捜索状の効力がその場に現在する人の身体にも及ぶと解することはできない。しかし、捜索差押え処分の実効性を確保するための妨害排除と原状回復措置が正当な範囲で実行される限り、妨害者が自らの責めにより被った法益侵害について不服や異議を主張できるとする理由は認め難いように思われる。**人の身体については、前記のとおりその名誉・差恥心等の人格的法益に配慮する必要があるので〔12(1)),身体の捜索や身体検査の実行に際して、対象者のこのような法益を保護するという観点から、身体に対するこれらの処分を実行するのに適した最寄りの場所まで対象者を連行することが許される場合もあり得よう。処分が捜索令状や身体検査令状による場合には、それは令状裁判官が本来的処分と併せ許容した状の効力であり、処分実行に「必要な処分」(法111条)に当たる。(4) 押収物(差し押えられまたは領置された物件)についても、証拠物等の保全という押収の本来的目的を達するのに「必要な処分」をすることができる(法222条1項・111条2項)。例えば、押収された未現像フィルムの現像や押収された信書の開封、金庫の解錠等の措置がこれに当たる。専門技術者に依頼して押収物に記録された電磁的記録等を可視化・可読化したり、消去されたデータを復示する措置は、専門家に対する鑑定嘱託と鑑定処分の法的性質を有するとみることができるが、そのような措置は令状裁判官が差押え処分を許可する際に併せ許可しているとみることができるから。差押え処分の附随措置として行うことができ、別途鑑定処分許可状等の状は不要であろう。これに対して、新たな法益侵害を生じさせる場合。例えば、押収物を破壊したりその内容を改変するに至る措置は許されない。必要あれば、別途。検証または鑑定処分として行うべきである(法 222条1項・129条、法225条1項・168条1項参照)。(5)捜索・差押えを公務所内で実行するときは、公務所の長またはこれに代わるべき者に通知して、立会いを求めなければならない。人の住居または人の看守する邸宅,建造物、船舶内で実行するときは、住居主、看守者またはこれに代わるべき者の立会いを求めなければならない。これらの者を立ち会わせることができないときは、隣人または地方公共団体の職員(消防職員等)を立ち会わせなければならない(法222条1項・114条)。立会いの趣旨は、手続の公正を担保することにある。また。押収拒絶権を有する者には、拒絶権行使の機会を与える意味もある。人の身体の捜索の範囲については、前記のとおり着衣及び身体の外表部に限られると解すべきである。裸にすることはできない〔12(1))。女子の身体の捜素については、その名誉・羞恥心等の人格的法益に配慮し、原則として成年の女子を立ち会わせなければならない。ただし急速を要する場合はこの限りでない(法222条1項・115条)。なお、その趣旨から、身体捜索を実行する者が成年の女子である場合には、それに加えて成年女子を立ち会わせる必要はないであろう(東京高判平成30・2・23高刑集71巻1号1頁)。捜索・差押えに被疑者及び弁護人の立会権は認められていない。他方、検察官。検察事務官または司法察職員は、必要があると判断するときは、被疑者を捜索・差押えに立ち会わせることができる(法222条6項)。なお、身体拘束処分を受けていない被疑者について立会いを強制する方法はない。逮捕・勾留されている被疑者について、身体物処分の効力として立会いを強制できるか疑問がある。身体拘束の法的目的を被疑者の逃亡及び罪証隠滅の防止と解する限り、その目的の範囲外であるから立会いのための行動制はできないであるう。(6) 日出前、日没後に捜索・差押えのため人の住居等に立ち入って処分に着手することは、令状に夜間でも処分を実行することができる旨の記載がない限り許されない。ただし日没前に捜索・差押えに着手したときは、日没後でも処分を継続することができる(法 222条3項・116条)。夜間における住居等私生活の平穏に配慮する趣意である。このような配慮を要しない賭博場や旅館。飲食店等夜間でも公衆が出入りすることができる場所については、前記の制限はない(法 222条3項・117条)。強制採尿状は後記のとおり捜索差押状であるが〔第7章11。警察官が強制採尿状により、逮捕中の被疑者を夜間診療中の病院まで連行して採尿する場合には、夜間における私生活の平穏を保護するために設けられた法の制約は受けないとした裁判例がある(東京高判平成 10・6・25判 992号 281頁)。なお、捜査機関は、日出前、日没後に捜索・差押えをする必要があるときは、令状請求書にその旨及び事由を記載しなければならない(規則 155条1項7号)。(7) 捜索をした場合において、証拠物または没収すべき物が発見されなかったときは、捜索を受けた者の請求により、その旨の「証明書」を交付しなければならない(法 222条1項・119条)。差押えをしたときは、押収物の目録を作成し、所有者・所持者・保管者またはこれらの者に代わるべき者に交付しなければならない。押収品目録の作成・交付は、請求の有無にかかわらず必要的である(法 222条1項・120条)。このほか、法は、押収物の保管・廃棄、売却・代価保管、還付・仮付,賊物の被害者還付についての規定を設けている(法 222条1項・121条~124条・222条1項但書)。
(1) 憲法35条は、前記状主義の原則について、「[意法]第33条の場合を除いては」との除外文言を設けている(憲法35条1項)。憲法33条は、合憲適法な「逮捕」の要件を定めた条項であるから、憲法は「逮捕」が実行される場合に、侵入・捜索・押収に関し裁判官の令状を必要としない例外を認めているのである。これを受けて法220条は、適法に「被疑者を逮捕する場合」において、令状を必要としない捜索・差押え・検証を行う要件を定めている。この制度の詳細については、Ⅳで説明する。憲法が、合憲適法な逮捕が認められる場合、捜索・押収等に状主義の例外を許容する趣旨は、裁判官による「正当な理由」の審査を介さなくとも、不当不合理な基本権侵害の危険が小さく、他方で捜索・押収等の処分を実行する緊急の必要性があることを想定したものと解される。前記のとおり「正当な理由」の第一は狙罪の嫌疑の存在であるが、合憲適法な逮捕が行われる場合には、逮捕の要件たる嫌疑の存在は当然の前提として認められるであろう。また、第二の証拠物等が存在する蓋然性については、一般に逮捕が行われる現場や被逮捕者の身体・所持品には、逮捕被疑事実に関する証拠物等が存在する蓋然性が認められるといえるであろう。これに加えて、発見された証拠物等を緊急に保全する高度の必要性が認められる状況があれば、裁判官の審査を介さずに侵入・捜索・押収を実行する合理性が認められるであろう。(2) 憲法35条の解釈論として、逮捕が行われる憲法33条の場合以外であっても、令状を必要としない捜索・差押えが許される場合があり得るとの解釈が成り立つ余地はあろう。「正当な理由」に関する裁判官の審査を介さなくとも処分対象者に対する不当・不合理な侵害の危険がなく、かつ緊急の必要性があれば、無令状の捜索・差押えを許容しても憲法35条の状主義の趣意には反しないから、明文はないが憲法はこのような緊急処分を否定はしていないと説明することも不可能ではない。例えば、合憲適法に実施されている侵入・捜索の過程で、別の被疑事実に関する証拠物であることが一見明白な物件を発見し、それを緊急に保全する高度の必要性が認められる場合、裁判官の令状なしに、その物件を差し押える処分等が想定されよう。もっとも、憲法35条の解釈としてこのような緊急差押え処分が合憲と解されても、現行法には、「被疑者を逮捕する場合」(法220条1項)以外に無状の差押えができる旨の要件と手続を定めた条文はどこにも存在しないから、もとよりこのような緊急差押え処分は法 197条1項但書の「強制処分法定主義」に反し違法である。立法事実としてこのような処分を設ける必要性があるか、その前提としての処分の合憲性、処分の要件・手続の具体的設計はいずれも国会による審議検討の上、「法律」によって特別の根拠規定が設けられなければならない(恋法31条)。裁判所が刑事訴訟法の解釈としてこのような緊急差押え処分を許容する余地はない。そのような解釈は誤りである。
1)憲法35条は、「住居、書類及び所持品について、侵入,捜索及び押収を受けることのない権利」を保障している。この基本権は、「司法官感」すなわち裁判官が「正当な理由に基いて」発する「捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ」,侵害されない。これが、捜索・差押え等強制処分の発についての令状主義の原則である。その趣意は、以下のとおりである。憲法が保護しようとしている人の「住居,書類及び所持品」についての基本権の実質は、そこに記述された対象に係る財産的利益にとどまらず、個人の私的領域におけるプライヴァシイの期待という利益とみることができる。これは、憲法 33条の保障する身体・行動の自由と並んで、個人にとって最も基本的かつ重要で価値の高い権利・自由である(憲法 13条参照)。捜査目的で個人の私的領域に侵入し、捜索・差押え等を行うことは、対象者の意思を制圧し、このような重要な権利・自由の侵害・制約を伴う処分類型であるから、これを捜査機関限りの判断と裁量のみで実行可能とするのは危険であり不適当である。そこで、個別具体的な事案において,司法権に属し直接捜査を担当しない裁判官が、このような基本権侵害を実行する「正当な理由」の有無について事前に審査を行い。状によって処分の発動を許容する場合に限り、処分の実行を認めるという仕組が要請されているのである。この状主義の中核的目標は、裁判官が強制処分を実行する捜査機関に対し。侵入・捜索・押収に該当する行為類型の発動対象と権限行使の具体的範囲を、あらかじめ明示・限定することにより、捜査機関の恣意的権限行を抑制する点にある。憲法 35条が「捜索する場所及び押収する物を明示する」状を要請しているのは、捜査機関の強制処分権限が及ぶ対象範囲の設定に捜査機関限りの第1次的な判断と裁量が働く余地を排しておく趣意である。なお、令状における捜索・差押え対象の明示は、処分の実行に際して対象者に受忍の範囲を告知し、不服の機会を与える機能をも果たすことになるが、それは主として憲法31条の告知・聴聞の要請であり、法110条の定める状の星示は、憲法35条の状主義の直接の要請ではない。*近時、最高裁判所は、憲法35条の保障対象には、「『住居。書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入』されることのない権利が含まれる」旨明言したが〔第1章I11(4)*),従前の最高裁判所の判例も、状主義の統制を及ぼすべき意法 35条の基本権保障の実質が、財産的利益にとどまらず私的領域におけるプライヴァシイであることを示唆していた。例えば,所持品検査と違法収集証拠排除法則に関する最判昭和53・9・7集 32巻6号1672頁では、対象者の内ポケットに手を差し入れて所持品を取り出したうえ検査した察官の行為を「一般にプライバシイ侵害の程度の高い行為であり、かつ、その態様において捜索に類するものである」と説示している。最決平成21・9・28刑集63巻7号 868頁では、配送過程にある荷物に対するエックス線検査を、「荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから、検証としての性質を有する強制処分に当たる」とし,これを令状によることなく実行したのは違法と判断している。最決平成 11・12・16刑集53巻9号1327頁では、いわゆる「電話傍受」が憲法上状主義の統制を受けるべき強制処分であることを明言した際に、「電話傍受は、通宿の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分である」と述べている。**憲法が明記する「侵入、捜索及び押収」という類型的行為態様、並びに「住居、書類及び所持品」という侵害対象は、いずれも憲法解釈上、状主義の統制を及ぼすべき処分の範囲を画定する第1次的基本枠組である。このような憲法の文言を軽視して、一足飛びに不定型なプライヴァシイという言葉のみに依拠する解釈は不適当であろう。前記のとおり憲法 35条の保護範囲は、明記された住居・所持品等の財産的価値には限定されず私的領域におけるプライヴァシイにも及ぶと解すべきであるが、捜査機関の行為態様が類型的に「住居」等私的領域への「侵入」と、「捜素」に該当することが明瞭である場合には、当該個別事案において対象者の現に被ったプライヴァシイ侵害の程度がそれほど高くなくとも、強制処分として状主義の統制を受けるというべきである。この点は、捜査機関の活動が刑事訴訟法上の「捜索」「差押え」「検証」に該当するかどうかの法適用や、「強制の処分」(法 197条1項但書)の解釈・適用に際しても同様である。例えば、捜査機関が住居主や管理者の承諾なしに人の住居敷地内に立ち入り、証拠物の探索目的でそこに存在する物を調べる行為は、態様として「住居」に対する「侵入」「捜索」に類型的に該当することが明瞭であり、令状主義の統制に服すべき強制処分にほかならない。これは、当該住居敷地に施錠等がなく誰でも立ち入るごとができる具体的状況であったとしても変わりはないというべきである。これに対して、およそ住居等私的領域への侵入を伴わない、公道上に遭留された物の占有を捜査機関が取得する行為は、行為類型として憲法 35条にいう「侵入、捜索及び押収」には該当しない(判例は、被疑者が不要物として公道上のごみ集積所に排出し、その占有を放棄していたごみ袋について、「通常、そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても、捜査の必要がある場合には、刑訴法221条により、これを遺留物として領置することができるというべきである」と説示している。最決平成 20・4・15刑集62巻5号1398頁)。2)以上のような状主義の基本趣意から、裁判官の審査判断の内容となる「正当な理由」(憲法35条1項)とは、基本権侵害処分の性質・内容から次のように理解することができる。第一,目的の正当性。捜索・差押えが処罪捜査目的で行われる処分である以上. 捜査対象となる犯罪の嫌疑が存在することが大前提となる。裁判官は、犯罪の嫌疑すなわち特定の具体的な被疑事実が存在する蓋然性を審査しなければならない。具体的な被疑事実の存在する蓋然性が認められなければ、捜査の前提を久くので状請求はけられることになる。第二、差押えの目的物が捜索する場所に存在する蓋然性。裁判官が捜査機関の処分対象と範囲をあらかじめ画定して恣意的権限行使を抑制するため、状にこれを具体的に明示記載する前提として、特定の被疑事実に関連する証拠物等が特定の捜索場所に存在する一定程度の蓋然性判断が可能でなければならない。捜査機関は、このような裁判官による蓋然性判断が可能である程度に、審査判断の素材となる疎明資料を提供しなければならず、被疑事実の存在とこれに関連する証拠物等の存在の蓋然性を明らかにすることができなければ,状請求は斥けられ、強制処分の発動は事前抑制されることになる。第三、処分の必要性・相当性。被疑事実とこれに関連する証拠物等の存在する蓋然性が認められても、捜査目的達成の為により侵害性の低い代替手段が可能である場合(例えば任意提出による領置の可能性)や、捜査目的達成の必要性と処分対象者が被る法益侵害の程度が明白に権衡を失している場合、裁判官は不必要ないし不相当な基本権侵害を抑制すべきである。理由のない強制処分の発動のみならず、必要性・相当性をいた強制処分の発動を抑止することは、命状主義・司法的抑制の趣意に良く適うものといえよう。処分の必要性・相当性も選法にいう「正当な理由」の一要素と解すべきである。*犯罪の嫌疑の存在は、裁判官が捜在機関による処分実行時点を想定して行う蓋然性判断の対象であるから、令状請求・発付時点において犯罪が実行されている必要はない。過去に実行された犯罪の嫌疑の存在も、将来確実に実行される見込みのある犯罪の嫌疑の存在も、疎明資料に基づく蓋然性判断という点で変わるところはない。一定の疎明資料により状に基づく処分が実行される時点で犯罪の嫌疑が存在するであろう蓋然性の判断ができれば、状発付は可能であろう。令状発付時点で来禁制薬物が海外から密輸されるであろう蓋然性が疎明できる場合や、令状発付時点でおとり捜査により将来の特定の日時・場所において禁制薬物の取引が実行される蓋然性が疎明できる場合等がその例である。このような場合,将来存在が見込まれる被疑事実に関連する証拠物等を対象とした捜索差押状を発付できない理由は見出し難いように思われる。** 状は、捜査機関による処分が実行される時点における証拠物等の存在の蓋然性判断に基づいて発付されるのであるから、状発付時点において捜索する場所に差押え対象物が現在する必要はない。例えば、状発付時点では差押え対象物はまだ捜索場所に存在しないと認められるが、将来の処分実行時には、確実に存在することが見込まれることが疎明できるのであれば(例,状請求時点では証拠物は捜索する場所にはないが、将来処分を実行する時までに確実に捜索する場所に証拠物が郵送される見込みであることの疎明),裁判官は対象物が現在する場合と同様に蓋然性判断を行い令状を発することができる。(3) 法はこのような憲法の要請を受けて、裁判官による「正当な理由」の事前審査を経て捜索・差押えに関する令状を発付する手続を具体的に法定している(法 218条・219条、規則155条・156条)。また、状に基づき捜査機関が捜素・差押えを実行するに際しての様々な規律も法定されている(法222条1項・3項・6項)。これについてはⅢで説明する。
(1) 捜索(法218条1項)とは,一定の場所(例、住居)、物(例,金庫や鞄や自動車)または人の身体(例。身体の外表部及び着衣)について、証拠物等の探素・発見を目的として行われる強制処分をいう(法222条1項・102条)。このほか,被疑者を逮捕するためにその所在を探索・発見する目的で行われることもある(法220条1項1号・222条2項参照)。(2)押収とは、物の占有を取得する処分をいい。最広義では、刑事訴訟法の定める差押え・記録命令付差押え・領置・提出命令の総称である(用例,法103条~105条にいう押収)。このうち、提出命令(法99条3項)は、裁判所が、物を特定して所有者、所持者または保管者にその提出を命ずる裁判である。捜査機関のする押収には提出命令は含まれない。法218条・220条・221条の定める差押え、記録命令付差押え及び領置に限られる(用例、法222条1項にいう押収)。従前、証拠物の収集・保全を目的として対象者に一定の作為を法的に義務付ける捜査手段は用意されていなかった。2011(平成23)年法改正で新設された「記録命令付差押え」(法99条の2)等の電磁的記録の取得・保全のための手段には、対象者に一定の作為を義務付けるものがある〔本章V)。差押え(法218条1項)とは、人の占有を強制的に排除して物の占有を取得する処分をいい,その対象は、証拠物及び没収すべき物と思料されるものである(法222条1項・99条1項)。なお、憲法35条にいう収は、状主義による統制の趣意から、性質上、占有取得過程において対象者の意思を制圧しその重要な権利・自由を侵害・制約する処分類型を意味する。これに対して、捜査機関の行う領置(法 221条)とは、被疑者等が遺留した物、または所有者・所持者・保管者が任意に提出した物の占有を取得する処分をいい。占有取得過程に強制の要素がないので、憲法35条の押収には当たらず、したがって状は必要でない。ただし、占有取得後の効果は差押えの場合と同じであり、領置された物に対する捜査機関の占有は強制的に維持される。もっとも領置された物が証拠物や没収すべき物でないことが明らかになれば、留置の必要がないので還付しなければならない(法222条1項・123条・124条)(公道上のごみ集積所に排出されたごみについて,遺留物として領置することができるとした判例として最決平成 20・4・15刑集62巻5号1398頁)。* 対象者に作為を義務付ける捜査手段として、法197条2項は、捜査機関が、公務所または公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる旨定めている。照会を受けた機関や会社等は報告義務を負う(個人はこの規定による照会の対象とならない)。ただし報告義務を間接強制する手段は設けられていない。照会に応じない場合、捜査機関は、必要があれば捜索・差押えという直接強制手段により捜査目的を達成することになろう。照会に対して報告がなされた場合、それは法的義務に基づくものであるから、法律上の守秘義務や契約上の守秘義務には違反せず、したがって刑事上・民事上の法的責任を問われないと解される点に意味がある。協力的な第三者からの捜査情報の取得手段として機能する。なお、捜査機関は、報告を求めるに際して、必要があるときは、みだりにこれに関する事項を漏らさないよう要請することができる(法197条5項)。照会対象から捜査上の秘密が漏洩するのを防ぐ趣意である。** 作為義務の間接強制や捜査手段としての証拠物等の提出命令制度は立法論上の課題である。このうち、差し押さえるべき物が竃磁的記録に係る記録媒体(例,証内部にも及び得るとすれば、最高裁の創出した条件捜索差押状(いわゆる「頭前菜尿合状)という法形式の射程は、生体を構成し「物」とはいえない血液等の体設には及ばず。他方、体内に存する証拠物たる尿や無下されて体内に存在する証拠物には及ぶと解するのが整合的であろう。無体の情報(例、電磁的記録たるコンピュータ・データ)は差押えの対象とならない(検証の対象にはなる)。差押えの対象となるのは、それが記録された有体物(例、記録媒体たるディスク、印字された紙等)である。取得目的たる情報内容とその記録媒体との関係は、書類等の紙媒体でそこに記載されている情報内容が主たる取得対象である場合と基本的な法的枠組に変わりはない。もっとも、電磁的記録に固有の性質(可視性・可読性がないこと、改変が容易であること,記録媒体に膨大な情報内容を記録可能であること等)は、状発付段階や差押えの実行段階において、種々の考慮を要するであろう。* 電磁的記録自体は差押えの対象でないから、状請求書や状に「差し押さえるべき物」(法219条1項,規則155条1項)として、被疑事実に関連する電磁的記録を印字した紙や電磁的記録を複写した記録媒体(ディスク等)との記載がなされる例があった。これらを差し押えるに際し、捜査機関が自らコンピュータを操作して電磁的記録を可視化・可読化する措置(例,ディスプレイへの表示,紙への印字)や、捜査機関が持参し、または処分対象者の所持するディスクへの複写措置は、法111条の定める差押えに「必要な処分」として実行できる。しかし従前は、処分対象者等にこのような措置を行わせる義務付け規定はなかった。被疑事実に関連するデータが記録されている蓋然性の高い記録媒体は、その全体が関連性ある「証拠物」として差押えの対象になり得ると解されるが、膨大な情報が記録された媒体全体(例。サービス・プロバイダーのサーバ・コンピュータ)の強制占有取得は、処分対象者や無関係の第三者に対する法益侵害の程度が著しく高まる可能性があるから、処分対象者が協力的な第三者である場合には、捜査の必要性と対象者等の被る法益侵害との合理的調整の一手段として、必要なデータのみを取得する方法が望ましい。そこで、前記 2011(平成23)年法改正では、前記「記録命令付差押え」処分のほかに、「電磁的記録に係る記録媒体」の差押えの実行方法の一類型として、記録媒体そのものを差し押えることに代えて、必要な電磁的記録のみを、他の記録媒体に複写させ、印刷させ、または移転させた上、当該他の記録媒体の方を差し押える処分類型を設けている(法222条1項・110条の2第2号)