相続欠格・相続廃除は、相続税法を学習する際に、相続開始前の期間の死亡保険金、代襲相続の発生原因として登場します(民法887条2項)。本節では、相続欠格と相続廃除(民法)について解説します。1 相続権の剥奪相続欠格と相続廃除は、(推定)相続人から相続権を剥奪する制度です。(1)相続欠格とは?相続欠格とは、相続による財産取得の秩序を侵害する行為を行った場合に、家族関係の適正な秩序を維持するという公益の理由から、被相続人の意思にかかわらず法律上の制度として相続資格を当然に喪失させる制度です(民法891条)。(2)欠格事由ア 1号事由まず、故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者は、相続人となることができません。「故意」に限定されており、殺人についての故意(殺意)が必要です。過失致死の場合には、死亡の結果が発生していても相続欠格とはなりません。欠格事由に該当し、殺人について故意がある以上、未必の故意でも認められます。また、「刑に処せられた者」と規定されています。有罪となって執行猶予の判決を受けた者は、取り消されること(刑法25条の2、26条の2)なく執行猶予期間が満了すれば、刑の言渡しが効力を失うので、「刑に処せられた者」に該当しません。イ 5号事由また、「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」は、相続人となることができません。相続に関して不当な利益を得ることを目的として、不正なことを要件となります。遺言書の内容を自分に有利な内容に書き換えることは当然に該当しますが、公正証書遺言の存在を知りながら隠匿した場合も該当します。(3)欠格の効果欠格事由に該当すると、当然に相続権を失います。欠格者に子(被相続人の直系卑属に限る)がいるときは、子は代襲相続人になります(民法887条2項)。3 相続廃除(1)相続廃除とは?相続廃除とは、被相続人(または遺言執行者)の請求により、家庭裁判所が推定相続人の相続権を喪失させる制度です(民法892条、893条)。家庭裁判所は、後見的見地から除外事由に該当するかどうかを決定します。令和2(2020)年度において、家庭裁判所において認容されたものは95件であり、相続廃除が認められることは少ないです(司法統計)。(2)除外事由と効果廃除対象者は、遺留分(3-23(4) p.277)を有する推定相続人に限られます(民法892条)。被相続人の父母姉妹は、遺留分を有しておらず(民法1042条)、廃除対象にはなりません。被相続人は、遺言によって遺留分を放棄させることはできないので、廃除によってその効果を有効にすることができます。(3)廃除事由廃除は、被相続人に対する虐待・重大な侮辱、またはその他の著しい非行があったときに、家庭裁判所への請求から推定相続人の遺留分を剥奪することができます。虐待・侮辱・非行の内容は、相続関係(婚姻関係、親子関係)を破壊するものであることから、被相続人の財産の承継や遺族の生計の保障などが問題となります。(4)相続廃除の効果相続廃除の審判が確定することによって、廃除対象者は相続権を失います。廃除対象者に子(被相続人の直系卑属に限る)がいるときは、子は代襲相続人になります(民法887条2項)。(5)廃除の取消し被相続人は、いつでも廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができます(民法894条1項)。「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者」や、「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」は、相続人となることはできません。相続廃除とは、被相続などの請求により、家庭裁判所が推定相続人の相続資格を喪失させる制度である。廃除事由は、被相続人に対する虐待・重大な侮辱、または推定相続人のその他の著しい非行である。COLUMN 1 「カラマーゾフの兄弟」と欠格・廃除ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」は、大谷翔平がテーマとなっていたり、日本の現代の相続欠格と相続廃除の規定を連想させるところがあるなど、興味深いと思います。父フョードル・カラマーゾフがグルーシェニカと再婚し、グルーシェニカが父フョードルの全財産を自分のものにしてしまうことを阻止するために、子が父フョードルを殺害したのであれば、欠格事由に該当し、子は相続権を失います。また、長男ドミートリー・カラマーゾフは、突然実家に帰ってきて、父フョードルを床に投げ飛ばし、倒れた父フョードルの頭を踵で2、3回蹴りつけ、「たばこはなかったら、また殺しに来てやる」とわめきちらします。父フョードルは、長男ドミートリーに遺産を渡したくないのであれば、自分に対する虐待に該当するとして、相続廃除を請求するという方法があります。COLUMN 2 江戸時代の勘当勘当とは、親子関係を断つことであり、昔の日本では勘当されると相続権が剥奪されました。奉行所に届け出て関係を断つのが本来のあり方ですが、公式でなくても懲戒的な意味を持たせるだけの内証勘当も行われました。現在の日本の法制度においては、実親子関係を切断して相続権を剥奪する制度はありません(特別養子縁組(3-13(3)参照)は除く)。POINT 1相続欠格とは、被相続人の意思にかかわらずに民事上の制裁として相続権
相続税や贈与税の対策として、養子縁組が利用されることがあります。養子縁組は、税理士試験の相続税法において、ほぼ毎年のように出題されています。令和3(2021)年度の計算問題では、AはBの養子であることになっています。また、平成23(2011)年度の理論問題では、養子縁組後に離婚したことになっています。本節では、養子(民法)について解説します。1 養子制度とは?養子制度は、(自然の血縁関係のない者の間に、人為的に嫡出親子関係を創設する制度です。普通養子と特別養子があります。2 普通養子(1)養子縁組の成立普通養子縁組は、養親となる者と養子となる者との間の契約です。戸籍届を提出し受理されることによって、養子縁組が成立します(民法799条が準用する739条1項)。令和元(2019)年度の養子縁組の届出件数は7万2732件です(e-Stat)。(2)養親・養子の要件養親となる者には、20歳以上であればよく(民法792条)、養子となる者は、年齢に制限はありません。養親や配偶者も養子にすることはできません(民法793条)。養子縁組は親子関係を形成する制度であるからです。(3)配偶者のある者の縁組配偶者のある者が未成年者を養子とするときは、原則として夫婦共同で縁組をしなければなりません(民法795条)。夫婦が共に養親となることが子の養育のためには望ましいからです。また、配偶者のある者が養親となる縁組をするには、配偶者の同意を得なければなりません(民法796条)。縁組関係、相続関係、扶養関係などに影響を及ぼすからです。(4)未成年養子成年者が養子となる場合は、当事者の合意によって縁組ができます。未成年者が養子となる場合は、特別の制限が設けられています。15歳未満の者を養子とするには、法定代理人(例、親権者)が代わって縁組の承諾をします(民法797条1項)。15歳未満の者は、自ら縁組をする能力がないとされています。これに対して、15歳以上の者は、未成年者であっても、意思能力を有していれば、法定代理人の同意なしに養子縁組をすることができます。未成年者を養子とするには、原則として、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法798条)。裁判所が養子縁組が適切であるかどうかを客観的に判断することによって未成年者の保護を図っています。(5)養子縁組の意思縁組を行うには、当事者間に縁組をする意思があることが要件となります(民法802条1号参照)。相続税の節税のために養子縁組をする場合の縁組意思の有無が問題となった事件において、最高裁平成29(2017)年1月31日判決・裁判所Webは、「相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がない」場合に当たるとすることはできない」と判示しました。もっとも、相続税の節税のためだけの養子縁組を無効としないとしても、税法上、相続人の数に算入される養子の数の制限(不動産4の節税3(2))によって、節税効果が得られない可能性があります。(6)普通養子縁組の効果養子縁組の効果は、養親の嫡出子の身分を取得します(民法809条)。実親との親子関係も存続したままなので、二重の親子関係が成立します。また、養子と養親との間には、縁組の日から親族関係が生じます(民法727条)。なお、養親と養子の親族との間には、親族関係は生じません(民法727条)。養子縁組によって、親族関係を生ずる親族の範囲を広くしすぎないためです。離縁は、当事者の協議によって行うことができます(民法811条1項)。普通養子縁組と成立します(民法812条が準用する739条1項)。協議離婚と同様に、養親と養子の両方が離縁届に署名押印して、届出をする(民法812条が準用する765条1項)。縁組によって、養子縁組により生じた親族関係は終了します(民法729条)。3 特別養子(1)特別養子縁組とは?特別養子縁組とは、縁組の日から実方の血族との親子関係を終了させる縁組です(民法817条の2第1項)。養親は、原則として、婚姻中の夫婦でなければなりません(民法817条の3第1項)。実親の養育が困難または不適当であることが必要です。実親の養育を終了させる制度であるからです。父母による子の虐待が社会問題となる中で、子の利益のために特に必要があると認めるときであっても、特別養子縁組の申立てができることになっています(民法817条の7)。また、養子となる者の父母の同意も、原則として要件となっています(民法817条の6)。(2)家庭裁判所の審判特別養子縁組は、縁組となる者の申立てに基づき家庭裁判所の審判により成立します(民法817条の2)。当事者の合意によって成立するものではありません。令和2(2020)年度の特別養子縁組の成立件数は693件です(民法817条)。(3)養親・養子の要件特別養子縁組の場合、縁組となる者には、配偶者のある者であることが要件となり、夫婦として共同縁組でなければなりません(民法817条の3)。養子は、原則として15歳未満でなければなりません(民法817条の4)。一般的に養子関係に最も関係が深いといわれる幼いときに特別養子縁組を可能にしています。特別養子縁組の効果は、原則として15歳未満でなければなりません(民法817条の5)。
認知は、相続人としての地位の有無に影響するため、税理士試験の相続税法の計算問題によく出題されています。平成27(2015)年度において、「子Xは嫡出でない子であり、被相続人甲は生前に認知している」、平成24(2012)年度においては、「子Xは非嫡出子であり、被相続人甲は生前に認知している」と出題されています。本節では、認知(民法)について解説します。1 任意認知(1)認知とは?父または母は、「嫡出でない子」を認知することができます(民法779条)。「嫡出でない子」というのは、婚姻関係にない男女から生まれた子のことであり、「婚外子」や「非嫡出子」と呼んだりします。認知は、婚外子との間に法律上の親子関係を発生させる法律行為です。認知されない場合、自然の血縁関係があったとしても、相続権を有しないなどの不利益が生じます。(2)母子関係法律上の母子関係は、原則として、母の認知を待たず、分娩の事実によって当然に発生するので、母の認知は問題とはなりません。DNA鑑定などによって証明される血縁上の母子関係は、分娩の事実を基礎づけることになります。平成26(2018)年度税理士試験の相続税法の計算問題では、被相続人Xの「子は嫡出でない子である」としか記載されておらず、本節の冒頭で紹介した試験問題とは異なり、認知の有無については触れられていません。しかしながら、法律上の母子関係は、分娩の事実により当然に発生するので、子は(被相続人である母の)相続人となります。(3)父子関係認知は、婚外子との間に法律上の父子関係を成立させます。民法の考え方として、原則として、自然的血縁関係を基礎において法律上の父子関係を成立させるものとしていますが、例外的に、血縁上の父子関係と法律上の父子関係に差異が生ずる場合を認めています。例外的な場合として、父の認知に子の承諾を得ない場合や、子の否認の訴え(本節のCOLUMN2)などが挙げられます。(4)認知の要件認知は、戸籍の届出などにより届け出ることによって行います(民法781条1項)。届出が受理されることにより、認知の効力が生じます。また、認知は、遺言によっても行うことができます(同条2項)。認知が有効であるためには、血縁上の父子関係がある子を認知する必要があり、届出のときには、父子関係の証明までは求められません。成年の子を認知するには、その子の承諾を得なければなりません(民法782条)。成年するまでに承諾された子が自由に受けない扶養義務を避けることなどを防ぐためです。また、胎児を認知するには、その母の承諾を得なければなりません(民法783条1項)。認知が真実であることを確保するためです。一方、未成年の子を認知するときは、父又は母の一方的に行うことができます。これに対して、自然的な血縁関係がない場合、子などは認知の無効を主張することができます(民法786条)。2 強制認知(1)強制認知とは?子などは、任意に認知しない父に対して、認知の訴えを提起することができます(民法787条、強制認知)。これによって法律上の父子関係が発生することになります。父が死亡した場合には、検察官を被告として、認知の訴えを提起することができます。(2)父子関係の説明認知の訴えにおいて、自然的な血縁関係があることを証明する責任は、子など(原告)にあります。当事者双方の同意でDNA鑑定が行われることも多いですが、当事者に当事者鑑定を強制させる規定はありません。(3)認知の効果認知によって、法律上の父子関係が子の出生時に遡って生じます(民法784条)。父子間に相続権や扶養義務などが生じます。4 相続開始後に認知された者の価額支払請求権父の死亡後に、父子関係についての認知によって相続人になった者がいる場合において、その者を抜いて既に遺産の分割が成立しているときは、相続分の支払請求を行うことになるので、本来であれば遺産分割は無効となるところを規定しています。しかしながら、遺産分割は有効のまま、認知により相続人になった者が、他の共同相続人に対して、相続分に応じた価額支払請求権を有することを認めています(民法910条)。法律関係の安定と認知された者の保護が図られています。ただし、民法910条は、認知の遡及効にかかわらず、他の共同相続人らが相続権を失わないことが前提です。認知の遡及効により相続権を失った者が遺産分割を行った場合には、遺産分割は無効となります。なお、法律上の母子関係については、分娩の事実により当然に発生するので、被相続人である母の婚外子が存在し遺産分割後に判明した場合には、遺産の再分割をすることになると解されています。COLUMN 1 認知された婚外子の法定相続分嫡出子と認知された婚外子がいる場合、現在では両者の法定相続分は等しいことになっていますが、平成25(2013)年12月までは、婚外子の法定相続分は嫡出子の1/2であるとする規定がありました。本節の冒頭で紹介した平成24(2012)年度の試験問題では、当該規定を前提として問題を解くことが求められていました。民法が改正されたのは、最高裁判所が、当該規定は、「憲法14条(法の下の平等)に違反する」と判断したからです。最高裁平成25(2013)年9月4日判決・裁判所Webは、「憲法22条(居住移転職業選択の自由)から時代までの社会の動向、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容と矛盾することを考慮すると、婚外子と嫡出子の法定相続分に差別を設けることは、これを改めるための立法措置が採られなかったことによるのであって、婚外子を子に持つ親の婚姻歴の有無という選択ないし変更する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているということができる」と判示しました。以上を踏まえれば、「遅くとも相続の開始した平成13年7月当時において、法定相続分の差を合理化するものではなく、嫡出でない子の法定相続分を差別する合理的な根拠は失われていたというべきである」と判断しました。なお、被相続人の非嫡出子が相続人である場合において、相続人に非嫡出子と半血兄弟姉妹がいるときは、半血兄弟姉妹の法定相続分は、全血兄弟姉妹の法定相続分である(民法900条4号)は適用していません。半血兄弟姉妹は、平成22年度税理士試験の相続税法の計算問題に出題されています。COLUMN 2 死後懐胎子による認知の訴え冷凍保存した夫の精子を夫の死亡後に用いて生まれた子の母(元妻)により、夫の死亡した子であることについて認知を求める訴訟を提起した事案がありました。最高裁平成18(2006)年9月4日判決・裁判所Webは、「民法が親子関係に関する法規は、自然懐胎により親子関係を基礎として、その法律関係について、母子関係については分娩の事実を重視して、その間に法律上の親子関係を認めるものとする。この規律に照らせば、死後懐胎による親子関係を認めるものとは解されない」と判示しました。ところで、現在の生殖補助医療を用いると、自然懐胎の可能性の一部を代替するものにとどまらず、生殖補助医療を用いた生殖も可能とするまでになっており、死後懐胎子はこのような人工生殖により出生した子に当たるところ、上記通達は、少なくとも死後懐胎子と死亡した父との間の親子関係を想定していないことは、明らかである。すなわち、死後懐胎子については、その父が懐胎前に死亡しているため、懐胎前に父がその子の懐胎の可能性を知り得たとは考えられず、扶養、養育、扶養を受けることはあり得ず、相続に関しては、死後懐胎子が父の相続人になり得ないものという「そうすると、その者との間の法律上の親子関係の形成に関する問題は、本来的には、死亡した者の保存精子を用いる人工生殖に関する生命倫理、生まれたくる子の福祉、親子関係の規律全体を視野に入れることになる関係者の意識、更にはこれらに関する社会一般の考え等を多角的な観点から検討を行った上、親子関係を認めるべきか否か、認めるとした場合の要件や効果を定める立法によって解決されるべき問題であるといわなければならず、そのような立法がない以上、死後懐胎子と死亡した父との間の法律上の親子関係の成立は認められないというべきである」と判示しました。死後懐胎子は、法律上の父が存在しえない子となります。自然生殖では生まれることのない死後懐胎子について、民法の枠内において法の欠缺の解釈の問題として法律上の父子関係を考えるのではなく、民法が想定しておらず民法が予定しない以上、法律上の父子関係は認められないと、上記判決は判断しています。POINT 1認知は、婚外子との間に法律上の父子関係を成立させるものである。子などは、認知しない父に対して、認知の訴えを提起することができる。認知によって、法律上の父子関係が子の出生時に遡って生じる。
賃借と対比される契約として、使用貸借契約があります。簡単ななどで利用されますが、詳細については知られていないことが多いです。使用貸借契約は、税理士試験によく出題されています。平成27(2015)年度の相続税法の計算問題では、宅地には「使用貸借契約に基づく権利(使用借権)による敷地利用権が設定されている」と記述されています。本節では、使用貸借契約(民法)について解説します。1 使用貸借契約とは?使用貸借契約とは、貸主がある物(目的物)を引渡すことを約し、借主が目的物を無償で使用収益をして、契約終了時に返還することを約することによって成立する契約です(民法593条)。借主から貸主に対して、通常の賃料とまで高くなくても使用収益の対価の支払いがある場合に、賃貸ではなく使用貸借と認定されることがあります。目的物が不動産の場合、賃貸借であれば借地借家法の可能性がある一方、借主は保護されないため(1-7(4)参照、1-8(7)参照)、賃貸借なのか使用貸借なのかは当事者にとって重要です。2 当事者の義務(1)貸主の義務貸主は、借主に対して、目的物を使用収益させる義務を負います。もっとも、賃貸借契約とは異なり、使用収益するのに適した状態に置くという作為義務までは負わず、使用収益を妨げないという不作為義務に止まります。請求権の期間制限(1)借主の費用償還請求権借主が貸主に対して、目的物について支出した費用(通常の必要費以外の費用)を償還請求する場合(民法595条2項が準用する583条2項、本節の2(2)イ)は、民法166条1項の消滅時効(3-6(6)参照)が適用されます。もっとも、借主は、貸主が目的物の返還を受けた時から1年以内に償還請求をしなければなりません(民法600条1項、除斥期間)。使用貸借契約の終了に伴う契約期間の精算を早期に行わせるためです。(2)貸主の損害賠償請求権貸主が借主に対して、用法遵守義務違反によって生じた損害の賠償請求をする場合(本節の2(2)ア)は、民法166条1項の消滅時効が適用されます。もっとも、この損害賠償請求権については、貸主が目的物の返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は完成しません(民法600条2項、時効の完成猶予)。使用貸借の存続中は、貸主が目的物の状況を把握することが困難なことが多く、貸主が用法遵守義務違反の事実を知らないうちに消滅時効が完成することを防ぐためです。そのうえで、貸主は、上記の消滅時効が完成していなくても、目的物の返還を受けた時から1年以内に賠償請求をしなければなりません(民法600条1項、除斥期間)。5 使用貸借契約の税務個人間または法人と個人の間で土地の使用貸借契約を締結した場合の課税関係を説明します。なお、個人と法人の間の契約については、解説を省略します。(1)個人間の使用貸借契約個人間で土地の使用貸借契約を締結しても、借地権相当額(権利金相当額)について贈与があったものとして、借主に対して贈与税が課されることはありません。(賃貸借による)借地権の設定の対価として権利金などを支払う取引上の慣行がある地域においても、土地の使用貸借に係る使用借権の価額は、ゼロとして取り扱われます。もっとも、借主は、地代相当額を贈与により取得したものとみなされ(相税9条)、贈与税が課されることはあります。ただし、親族間における使用貸借であり、地代が相当の少額である場合などには、課税されません(相基通9-10)。なお、土地の貸主が死亡し、使用貸借に係る土地を相続により取得した場合における相続税の課税価格に算入すべき価額は、自用地としての価額となります。冒頭の試験問題において問われている点です。(2)法人間の使用貸借契約法人間の土地の使用貸借の場合、法人が無償で貸し付けることはないと考えて、原則として、借地権の認定課税がされます(法法22条2項)。法人貸主は、受贈収益(認定権利金)の益金算入をし、同額を寄付金として処理します。また、認定権利金の額が土地価額の50%以上の場合、土地の一部が譲渡されたものとして、土地の簿価の一部を損金に算入します(法基通13-1-7)。これに対して、法人借主は、借地権を資産計上し、同額の受贈収益を益金に算入します。もっとも、法人借主が使用貸借契約により他人に土地を使用させた場合において、契約書において将来借主が土地を無償で返還することが定められており、かつ、その旨を借主との連名の書面により遅滞なく所轄税務署に届け出たとき(無償返還の届出)は、借地権の認定課税は行われないと定められています(法基通13-1-7)。無償返還の届出に対しては、法律に基づかない届出によって課税関係が大きく異なるのは公正ではないかという批判があります。○法人間の土地の使用貸借1 無償返還の届出なし(借地権の認定課税あり)(1)法人貸主寄付金(損金算入制限あり)/ 益金(受贈収益)(2)法人借主借地権(資産計上)/ 益金(受贈収益)2 無償返還の届出あり(借地権の認定課税なし)(1)法人貸主寄付金(損金算入制限なし)/ 益金(認定権利金の額が土地価額の50%以上の場合譲渡益(損金算入))(2)法人借主借地権(資産計上)/ 受贈益(益金算入)かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければなりません(民法858条)。(3)成年後見人の権限の終了成年後見人の権限は、成年被後見人が死亡したときに終了します。ただし、下記のとおり、管理事務に関する規定があります(民法873条の2)。成年後見人は、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、①相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為、②相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る)の弁済、及び③その形状を変更することなく期限の到来した相続財産の利用行為をすることができます。ただし、③を為すには、家庭裁判所の許可を得なければなりません。(4)成年後見人の相続家庭裁判所は、成年後見人及び成年被後見人の資力その他の事情によって、成年被後見人の財産の中から、相当な報酬を成年後見人に対して与えることができます(民法862条)。家庭裁判所が成年被後見人の財産の中から報酬を与えるので、成年後見人が受け取ることができる基本報酬の目安等は、月額2万円です。管理財産額が高額である場合には、増額されることがあります。親族が成年後見人の場合には、報酬の申立てがされず、報酬が支払われないことが多いです。最高裁判所は、成年後見人の報酬額について、管理財産額に応じて算定される方式から、財産額の多寡のみによらず増減される方式に変更することを検討しています。(5)成年後見監督人家庭裁判所は、必要があると認めるときは、成年後見監督人を選任することができます(民法849条)。成年後見監督人の主たる職務は、成年後見人の事務の監督です(民法851条)。成年後見監督人は、管理する財産が多額・複雑なため専門家の助言が必要なとき、成年後見人と成年被後見人が利益が相反するとき(例、遺産分割)などに選任されます。5 任意後見(1)任意後見契約任意後見契約とは、本人の事理弁識能力が不十分な状況になった場合における財産管理などの事務の全部または一部を委託する契約(任意後見契約に関する法律3条)。任意後見契約の締結後、本人の事理弁識能力が不十分となった場合、親族や任意後見受任者などが任意後見監督人の選任を請求し、家庭裁判所がこれを選任すると(同法4条)、任意後見契約の効力が生じ、受任者が任意後見人になります(同法2条1号)。任意後見契約と同時に、事理弁識能力が十分な状況である現在から死亡するまでの財産管理を委任する契約を締結することがあります。この場合、事理弁識能力が不十分な状況となっても、任意後見監督人の選任がされなければ任意後見が開始されることがあるという問題があります。(2)任意後見契約の効力任意後見契約の公正証書が作成されると、公証人から登記所への嘱託により、任意後見契約が登記されます。(3)任意後見人任意後見人は、本人の家族が任意後見人になることが多いです。任意後見人は、契約に定められた委任事務の代理権は与えられますが、本人の法律行為についての取消権や同意権は与えられません。(4)法定後見との関係任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り(限定)、法定後見の開始などをすることができます(同法10条1項)。COLUMN 1 成年被後見人の欠格平成25(2013)年改正により、成年被後見人となっても、選挙権及び被選挙権を有することになりました。成年後見制度と選挙制度は、その趣旨目的が全く異なるものであるため、成年後見制度と選挙制度は、その趣旨目的が全く異なるものであるため、選挙権を付与するために必要な判断能力が一定の行為能力が特別視すべき程度まで不足していると予定しているものであるから、成年被後見人とされた者の中に、選挙権を行使するために必要な判断能力を有する者が少なからず含まれていることが理由です。また、令和元(2019)年の「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」の成立により、成年被後見人等となった場合に、一定の資格や職種など(例、公務員、警備員)から一律に排除する欠格条項を改め、個別的・実質的に能力の有無を審査・判断されることになりました。これまで欠格条項の存在が成年後見制度の利用を躊躇させる原因の1つとなっていました。COLUMN 2 成年後見人などによる不正成年後見人、保佐人、補助人、任意後見人、未成年後見人及び各監督人による不正があり、家庭裁判所が対応を終えたと最高裁判所が報告した件数及び被害金額は、下記のとおりです(「最高裁判所事務総局家庭局 実情調査」)。不正報告件数及び被害額は、平成29年以降、減少しています。不正報告件数 (うち専門職による件数) 被害額 (うち専門職による額)平成28(2016)年 831件 (22件) 約56.7億円 (約0.8億円)平成29(2017)年 294件 (11件) 約19.6億円 (約0.5億円)令和2(2020)年 186件 (30件) 約17.9億円 (約1.5億円)COLUMN 3 未成年後見未成年者に対して親権を行う者がないときなどには、未成年後見が開始します(民法838条1号)。成年後見とは異なり、審判を経ずに当然に後見が開始します。最後に親権を行う者は遺言で未成年後見人を指定することができます(民法839条1項)。指定がない場合には、家庭裁判所が未成年後見人を選定します(民法840条1項)。実務では、親族などが未成年者を引き取って面倒を見ていることが少なくなく、必ずしも未成年後見人が選任されているわけではありません。POINT 1成年後見制度には、法定後見と任意後見がある。法定後見には、本人の事理弁識能力に応じて、(成年)後見、保佐、補助の3類型がある。精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、親族らの請求により、後見開始の審判をすることができる。成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産管理に関する事務を行う。任意後見契約とは、本人に判断能力があるときに、受任者に対して、将来、事理弁識能力が不十分な状況となった場合における財産管理などの事務を委託し、代理権を付与する委任契約をいう。
「贈与契約」と「遺贈」は、多くの場合、無償で財産を取得できることになりますが、「負担」が付いていることがあります。負担が付くと、課税関係が複雑になります。令和3(2021)年度税理士試験の相続税法の計算問題では、「被相続人甲は、この(甲の)所有するのための条件として、養子Aが養子Cに対する貸付金100万円を免除することとしており、養子Aは養子Cに対するその貸付金の全額を免除し、この株式の贈与を受けている」と記述されています。これは、負担付贈与でしょうか。負担付遺贈は、令和2(2020)年度の相続税法の計算問題に出題されています。「CはFが遺贈により取得した家屋Nに係る借入金保証金15万円については、上記の遺言書に基づき、弊社が負担する」と記述されています。本節では、負担付贈与と負担付遺贈(民法)について解説します。1 負担付贈与とは?負担付贈与とは、受贈者に一定の義務を負担させることを内容とした贈与です。例えば、贈与者が身の回りの世話をすることを贈与の義務として贈与することが挙げられます。負担が履行されることによる受益者は、贈与者である場合と第三者である場合があります。負担付贈与の場合、負担の履行の有無にかかわらず、契約の成立によって贈与の効力が生じます。これに対して、(常に)負担が履行した場合の効力が生じる贈与を「停止条件付贈与」といいます。停止条件とは、法律行為の効力の発生が、将来において発生不確実な事実にかかっていることをいいます。本節の冒頭で紹介した令和3(2021)年度の試験問題の贈与は、第三者に対する貸付金免除の負担を停止条件としており、負担付贈与ではありません。なお、停止条件と対比されるものとして、解除条件があります。条件成就は、2-20 COLUMN1(p.123)で解説しています。◎負担付贈与贈与者 ⇔ 受贈者(負担による受益者は、贈与者または第三者)(2)債務不履行を理由とする契約の解除受贈者がその負担である義務の履行を怠るときは、贈与者は、贈与契約を解除することができます(民法553条、541条、542条)。(3)負担付贈与の課税関係負担付贈与の場合、受贈者は、負担がないものとした場合における贈与財産の価額から負担額を控除した価額を贈与によって取得したことになります(相基通21の2-4)。これに対して、贈与者は、負担付贈与をする双務契約としての反対給付(譲渡所得)が課されます。また、受贈者の負担が第三者の利益に帰するときは、第三者は、負担付贈与額を贈与によって取得したものとして贈与税が課されます(相基通9-11)。2 負担付遺贈(1)負担付遺贈とは?負担付遺贈とは、受遺者に一定の義務を負担させることを内容とした遺贈(3-22(4)p.274)です。例えば、遺贈者の配偶者に対する扶養義務を負担することを受遺者の義務として遺贈することが挙げられます。負担付遺贈の場合、受遺者は受遺財産の内容を承知して遺贈を承認しているので、遺言の効力は契約ではなく単独行為であるため、負担付贈与の場合と異なり、受遺者は一方的に負担を押し付けられることがあります。受遺者は、負担が加重だと考えたときなどは、遺贈を放棄することができます。放棄した場合は、相続人に負担付きの遺産が帰属するのではなく、負担付遺贈をされることによる受益者が相続人として遺贈を受けることになります(民法1002条2項本文)。◎負担付遺贈遺贈者 ⇒ 受遺者(負担による受益者は、相続人または第三者)(2)遺贈額と負担額負担付遺贈の受遺者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負います(民法1002条1項)。例えば、1000万円の遺贈を受けた場合、1000万円を超えない限度においてのみ、義務を履行する責任を負います。(3)遺贈の取消し負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができます。その期間内に履行がないときは、相続人は、家庭裁判所に対し、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを請求できます(民法1027条)。令和元(2019)年において、負担付遺贈に係る遺言の取消事由が新設されるまでは、判例により、取消権は家庭裁判所に形成の訴えによらなければ、遺言の安定を害するので取消権を行使できないとされていました。この遺言の取消しは、負担付贈与の場合の債務不履行による解除ができること(本節の1(2))に対応するものです。負担付遺贈が取り消された場合、遺贈は遡及的に効力を失うので、遺贈の目的は原則として相続人に帰属します(民法965条)。この場合、相続人は、負担を履行すべき義務があることを解決しています。(4)負担付遺贈の課税関係負担付遺贈により取得した財産の価額は、負担がないものとした場合における遺産の価額から負担額(遺贈があった時において確実と認められる金額に限る)を控除した価額によるものとされています(相基通11の2-7)。これに対して、受遺者の負担により利益を得る第三者(相続人を含む)は、負担付遺贈を放棄した場合は、相続人に負担付きの遺産が帰属するのではなく、負担付遺贈をされることによる受益者が相続人として遺贈を受けることになります(民法1002条2項本文)。COLUMN 停止条件付遺贈遺贈に停止条件を付することができます(民法985条2項)。例えば、Xに子が生まれたら、Xに建物を遺贈するとした場合、Xの子の誕生が停止条件です。負担付遺贈は、負担の履行がなくても遺贈の効力が生じるのに対し、停止条件付遺贈は、条件が成就してはじめて遺贈の効力が生じます。条件が成就しないときは、遺贈の目的は相続人に帰属することになります。課税関係として、停止条件付遺贈があった場合において、条件成就前に相続税の申告書を提出するときは、遺贈の目的となった財産については、未分割財産として課税価格を計算します(相基通11の2-8)。POINT 1負担付贈与とは、受贈者に一定の義務を負担させることを内容とした贈与である。負担付贈与の場合、受贈者がその負担である義務の履行を怠るときは、贈与者は、贈与契約を解除することができる。負担付遺贈とは、受遺者に一定の義務を負担させることを内容とした遺贈である。負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。そして、その期間内に履行がないときは、相続人は、家庭裁判所に対し、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを請求することができる。負担付遺贈が取り消された場合、遺贈の目的は、原則として相続人に帰属する。
令和2(2020)年度税理士試験の相続税法の理論問題において、「代物弁済が行われたことにより、贈与税の課税が問題となる場合について、関連する条文とその趣旨に触れつつ説明しなさい」と出題されています。本節では、代物弁済(民法)について解説します。1 代物弁済とは?代物弁済とは、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約(代物弁済契約)をし、他の給付をすることを「代物弁済」といいます(民法482条)。代わりの物による弁済であり、金銭の支払いに代えて物などを譲渡することが多いです。あくまでも契約ですので、債務者が、債権者の合意なく、一方的に代わりの物で弁済することはできません。国税は金銭で納付することが原則であるところ、相続税に限って一定の場合に認められている物納も一種の代物弁済です。民法482条(代物弁済)弁済をすることができる者(略)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。2 債務消滅までの道筋金銭の支払いに代えて土地を譲渡して代物弁済する場合の債務消滅までの道筋は、以下のとおりです。まず、金銭の支払いに代えて土地を譲渡する代物弁済契約の締結によって、債務者に土地の所有権が移転します(民法176条)。この段階では、金銭債務はまだ消滅しません。その後、債務者が、土地の所有権移転登記を完了し、第三者に対抗する対抗要件を具備したときに(民法177条、1-3(2)参照)、金銭債務は消滅します。3 代物弁済の課税関係個人間の代物弁済を前提として、課税関係を説明します。債務者(譲渡人)には、他の給付により資産を移転するため、原則として譲渡所得が発生します。消滅する債務額が代物弁済時よりも著しく低い場合、代物弁済と消滅債務額の差額について贈与とみなされ(相税7条)、債権者には、贈与税が発生することがあります。また、代物弁済時価が消滅債務額よりも著しく低い場合、消滅債務額と代物弁済時価との差額について贈与とみなされ(相基通9-8)、債務者には、贈与税が発生することがあります。これらの贈与税は、本節の冒頭の税理士試験で出題されている点です。○個人間の代物弁済の課税関係個人債権者(譲受人) 個人債務者(譲渡人)消滅債務額が代物弁済時価よりも著しく低い 劣後額について贈与税 消滅債務額(収入とする)と譲渡した資産の取得費(譲渡費用も含む)の差額に対して譲渡所得税代物弁済時価が消滅債務額よりも著しく低い 代物弁済を譲渡対価として所得税差額について贈与税COLUMN 遺留分侵害額請求と代物弁済の合意民法改正法は、遺留分(3-23・27(7)参照)の権利者は、減殺対象となった財産に対して持分権または所有権を有することとされていました(遺留分減殺請求権)。ただし、減殺相手方は、価額による弁償での解決(金銭解決)を選択することもできました。これに対して、民法改正により令和元(2019)年7月1日に以降に開始した相続については、遺留分権利者は、(最初から)侵害額に相当する金銭の支払請求権(遺留分侵害額請求権)を取得することになりました。現物返還から金銭給付へと変更されました。もっとも、遺留分侵害額請求権の当事者は、合意により、金銭の支払いに代えて現物を提供することができます。この合意は代物弁済です。課税上、原則として、単純提供により消滅した債務額に相当する対価により現物を譲渡したことになります(所基通33-1の5)。現物は、相続財産である場合と遺留分義務者固有の財産である場合とがあります。遺留分権利者は、仮に遺留分義務者から代物弁済により相続財産である土地を取得したとしても、相続または遺贈により取得したのではないので、相続税の小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。なお、遺留分義務者は、相続財産である土地を代物弁済したとしても、他の要件を充たせば小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。POINT 1代物弁済とは、債務者が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をし、他の給付をすることをいう。金銭の支払いに代えて土地を譲渡する代物弁済契約の締結によって、債務者に土地の所有権が移転する。その後、債務者が、土地の所有権移転登記を完了したときに、金銭債務は消滅する。
本部では、保証債務(民法)について解説します。保証債務は、税理士試験の租税法の計算問題によく出題されています。平成27(2015)年度の試験問題では、被相続人に係る債務として、「知人Wが負う借入金債務の連帯保証債務」があり、「知人Wは弁済を遅滞することがしばしばあったが借入金債務に応じた弁済能力を有しており、相続開始時において被相続人甲は債権者から保証債務の履行を求められていない」と記述されています。他方、平成25(2013)年度の試験問題では、被相続人甲は「取引先が銀行から800万円の融資を受ける際に連帯保証人となった」、「当該取引先は自己破産し、銀行は、被相続人甲に対し売り渡したもので800万円の支払を求めた」と記述されています。また、保証債務には、令和2(2020)年4月に施行された改正民法により、大きく変更された点があるので、注意が必要です。1 保証債務(1)保証契約の成立保証債務とは、主たる債務(主債務)の履行を担保することを目的として、債務者と保証人との間で締結される保証契約により成立する債務です。主債務者と保証契約の当事者にはなりません。また、保証人が主債務者から保証人になることを委託されていなくても、保証契約は成立します。保証契約は、書面でしなければ効力が生じません(民法446条2項)。書面が必要なのは、保証契約が保証人に一方的に負担を課すものであり、保証人に保証債務を負担する意思を明確に認識させるためです。◎保証債務債務者 ← 主債務 → 主債務者↑保証債務(保証契約)保証人(2)事業のための貸金等債務についての個人保証契約の特則令和2(2020)年4月に施行された改正民法により、事業のために負担する債務のうち貸金等債務を主債務とする保証契約は、保証人が個人である場合には、原則として無効となりました。個人保証人は、保証債務の内容を理解せずに保証契約を締結するおそれがあり、また事業借入金などが主債務の場合には多額の保証債務を負うおそれがあるからです。ただし、例外もあります。まず、保証人になろうとする者が保証契約締結の日前1ヶ月以内に作成された公正証書で保証債務を履行する意思を表示している場合は有効です(民法465条の6第1項)。保証契約書だけでなく、公正証書の作成も義務づけることにより、個人保証人に真に保証意思があることを確認できるからです。また、役員や支配株主などがその法人の保証人になる場合など、主債務者の事業に現に関与している主債務者の配偶者などがその主債務者の保証人になる場合も有効です(民法465条の9)。主債務者の事業状況を把握できる立場にあり、保証債務の内容を理解せずに保証契約を締結するおそれが低いからです。(3)主債務者の情報提供義務(事業目的の保証の委託)主債務者の情報提供義務の規定が令和2(2020)年4月に施行された改正民法により新設されました。主債務者は、事業のために保証を主債務者に委託する保証の委託をするときは、委託を受けた個人(保証人)に対し、①主債務者の財産及び収支の状況、②主債務者以外の担保として他に提供し、または提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容に関する情報を提供しなければなりません(民法465条の10第1項)。主債務者が上記①~③の情報を提供せず、または事実と異なる情報を提供したために委託を受けた個人がその事情について誤認をし、それによって保証契約の申込みなどの意思表示をした場合において、主債務者が情報を提供せずまたは事実と異なる情報を提供したことを債権者が知りまたは知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができます(同条2項)。この義務の前提として、保証契約の当事者ではない主債務者に情報提供義務を課している、情報提供義務違反の効果として情弱救済ではなく保証契約の取消しを認めている、主債務者が過失によって情報提供義務に違反した場合であっても保証契約の取消しを認めているという点が挙げられます。(4)保証債務の範囲保証債務の範囲は、原則として、主債務だけでなく、主債務に関する利息、違約金、損害賠償、主債務に従たるすべてのものも含みます(民法447条1項)。(5)保証債務の性質主債務者の弁済などによって消滅すると、保証債務も当然に消滅します。また、主債務の履行がない場合に、保証人は補充的に履行する責任を負います(民法446条1項)。具体的には、保証人には、まず主債務者に請求せよという催告の抗弁(民法452条)と、まず主債務者に執行させよという検索の抗弁(民法453条)が認められ、債権者が催告などを怠ったために主債務者から全部の弁済を得られなかったときは、保証人は一定の限度で責任を免れることができます(民法455条)。(6)債務者の情報提供義務(契約締結後)債務者の情報提供義務の規定が令和2(2020)年4月に施行された改正民法により新設されました。債権者は、主債務者から委託されて保証人となった者(法人・個人を問わない)から請求があったときは、主債務の履行状況などについての情報を提供しなければなりません(民法458条の2)。主債務の履行状況などとは主債務の信用に関する情報であるため、委託を受けていない保証人には、情報提供請求は認められていません。なお、債権者が情報を提供しなかった場合の効果は、条文に明示されていません。また、債権者は、主債務者が分割弁済をしなかったことなどにより期限の利益を喪失したときは、個人である保証人(委託の有無を問わない)に対して、喪失を知った時から2ヶ月以内にその旨を通知しなければなりません(民法458条の3)。通知しない場合は、喪失時から通知時までの間に生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く)を保証人に請求することができません。これらは、債務不履行となって主債務の遅延損害金が保証人が知らないうちに累積し、多額の請求をされることを防ぐための規定です。(7)保証人の求償権主債務者から委託を受けた保証人は、保証債務を弁済するなど自己の財産をもって主債務を消滅させる行為(出捐)に対し、出捐した財産額(出捐額が消滅した主債務額を超える場合には、出捐額)を求償請求(償還を求める権利を行使)することができます(民法459条1項)。例えば、主債務が貸金債務(1000万円)である場合に、保証人が債権者に対して保証債務1000万円を弁済して主債務を消滅させたときは、保証人は、主債務者に対し、1000万円を求償請求することができます。求償の範囲には、出捐した財産額のほか、前渡日(免責日)以後の法定利息及び避けることのできなかった費用などが含まれます(同条2項が準用する442条2項)。連帯保証債務の求償権(3-6コラム1)とは異なり、各自の負担部分は問題とならず、支払額を請求することができます。もっとも、求償請求しても、実際には主債務者からの回収が困難であることが多いです。なお、主債務者から委託を受けていない保証人の求償権は、一定の制限を受けます(民法462条)。また、保証人は、債務の消滅行為をする前及びした後に主債務者に通知しないと、求償権が制限されることがあります(民法463条)。さらに、委託を受けた保証人は、債務消滅行為をする前に主債務者に対して求償できる場合があります(民法460条)。(8)保証債務の課税関係相続税において、保証債務を相続しても、現実に債務とはいえないので、債務控除の対象にはなりません。ただし、主債務者が弁済不能の状態にあるため、保証人がその債務を履行しなければならず、かつ、主債務者に求償しても返還を受ける見込がない場合には、主債務者が弁済不能の部分の金額は、保証人の確実な債務として債務控除の対象になります(相基通14-3-1)。本節の冒頭で紹介した試験問題には、この点の理解が問われています。2 連帯保証債務連帯保証債務とは、債権者と保証人が保証契約を締結するだけでなく、さらに連帯の特約をすることによって成立する債務です。保証人は、主債務者と連帯して債務を負担することになります。実務でみられる保証は、ほとんどが連帯保証です。連帯保証債務の特徴として、補充的な責任ではないので、催告の抗弁及び検索の抗弁が認められず(民法454条)、連帯保証人は、債権者に対して主債務者と同様に責任を負います。また、保証人が複数いる場合(共同保証)であっても、連帯保証人は債務全額について保証債務を負担します(分割の利益なし。本節のCOLUMN1)。COLUMN1 共同保証[1] 共同保証とは?共同保証とは、1個の債務について複数の保証人がいることです。[2] 分別の利益共同保証人は、原則として、分別の利益を有します(民法456条)。各共同保証人は、主債務額を保証人の頭数で割った額についてのみ、保証債務を負担します。例えば、主債務が貸金債務(1000万円)である場合において、保証人が2名いるときは、各保証人は500万円についてのみ保証債務を負担します。◎共同保証債務債権者 --- 主債務(1000万円) --- 主債務者--- 保証債務(500万円) --- (保証)保証人A--- 保証債務(500万円) --- (保証)保証人Bただし、保証が(単純保証ではなく)連帯保証であるときは、(連帯)保証人は分別の利益を有しません。[3] 奨学金の保証人による不当利得返還請求訴訟日本学生支援機構から奨学金を借りる場合において、機関保証ではないときは、連帯保証人1名と保証人1名が必要です。共同保証となります。日本学生支援機構(旧:日本育英会)から奨学金を受けた元奨学生の(連帯)保証人ではなく(単純)保証人が、日本学生支援機構の請求により、分別の利益を前提とした自己の保証債務額を超える金額の支払いを余儀なくされたと主張して、金銭の返還を求めた事案がありました。札幌地裁判決(H21年5月13日判決・裁判所Web)は、日本学生支援機構が、保証人の分別の利益を援用しない限り、主たる債務の全額に相当する保証債務を負担しており、原告らが分別の利益を援用せずにした弁済は、原告らの負担部分を超える部分についても、自らの保証債務を有効に弁済に過ぎないから、当然に有効であると主張したのに対し、「金融機関などの民間金融は、民法457条により、債務者の特段の権利主張を要することなく当然に分割債権となる」、「民法456条が保証人に分別の利益を認めた趣旨は、保証人の保護と法律関係の明確化のためであるが、かかる趣旨に鑑みても、主たる債務が可分債務である場合には、各保証人は平等の割合をもって分割された額についての保証債務を負担すると解するのが相当である」と判示しました。そのうえで、「保証人が、分別の利益を有していることを知らずに、自己の負担を超える部分を自己の保証債務と誤信して債権者に対してした場合にも」非債弁済(民法707条1項)として「保証人による自己の負担を超える部分に対する弁済は無効であって、保証人は、債権者に対し、当該部分相当額の不当利得返還請求権を有するというべきである」と判示しました。COLUMN2 根保証[1] 根保証とは?継続的取引関係から生じる不特定の債務を担保するための保証を「根保証」といいます。[2] 個人根保証個人根保証契約は、一定の範囲に属する不特定の債務を主債務とする保証契約であって保証人が法人でないものをいいます(民法465条の2第1項)。個人根保証契約については、極度額を定めなければならず(同条2項)、自然根保証の禁止)、保証人の責任が際限なく限定されています。また、元本の確定事由が法定されており(民法465条の4第1項)、主債務の範囲が時間的に限定されています。個人根保証契約のうち個人貸金等根保証契約については、さらに、元本確定期日の規制があります(民法465条の3)。[3] 不動産賃借人の債務の保証不動産賃借人の債務の保証は、賃料債務や不動産の滅失・損傷による損害賠償債務などを保証するものです。保証人が個人の場合、上記[2]の規定が適用されます。建物賃貸借によると不動産賃貸借契約の更新が原則とされており(1-8(6)参照)、不動産賃借人の保証人は、原則として、更新後の不動産賃借人の債務を保証します。[4] 身元保証身元保証とは、被用者の雇用によって使用者に生じる損害の賠償を目的とした保証です。身元保証法により身元保証人の責任が軽減されています。身元保証には、保証の性質をもつものと、損害担保契約としての性質(被用者に免責事由がある場合であっても使用者の損害を賠償するという内容)をもつものとがあります。前者の場合において、個人が保証人であるときは、上記[2]の規定が適用されます。COLUMN3 保証人の救済のための非課税(連帯)保証人として債務の弁済、連帯債務者として他の連帯債務者の負担部分の債務の弁済、身元保証人として債務の弁済のために、個人が不動産などを売却した場合、下記要件を充たすと、譲渡所得(所得税)が非課税となります(所基通64-2項、所基通64-4)。① 本来の債権者が直に債務を弁済できない状態であるときに、債務の保証などをしたものでないこと② 保証債務を履行するためにやむなく不動産などを売却したこと③ 履行をした債務者が、本来の債務者から回収できなくなったこと本来、譲渡による所得を別に消費する者は、所得計算に影響を与えませんが、保証人などの救済のため非課税となっています。POINT保証債務とは、主債務の履行を担保することを目的として、債権者と保証人との間で締結される保証契約により成立する債務である。保証契約は、書面でしなければ効力は生じない。主債務が弁済などによって消滅すると、保証債務も当然に消滅する。また、主債務の履行がない場合に、保証人は補充的に履行する責任を負う。主債務者から委託を受けた保証人は、保証債務を弁済するなど自己の財産をもって主債務を消滅させたときは、主債務者に対し、支出した財産額を求償請求することができる。連帯保証債務とは、債権者と保証人が保証契約を締結するだけでなく、さらに連帯の特約をすることによって成立する債務である。連帯保証債務の場合、催告の抗弁、検索の抗弁、分別の利益が認められない。
実務において、連帯債務や保証債務の知識は重要です。連帯債務者(連帯保証人)になったために、自己破産(2-8P154頁)せざるを得なくなる方もいます。本節では、連帯債務(民法)について解説します。1 物約担保と人的担保債務を担保できるようにするために担保をとることがあります。担保には、物的担保と人的担保があります。物的担保とは、物の財産的価値によって債務を担保することをいいます。具体的には、担保物権(例、抵当権(1-3P30頁)、譲渡担保(2-4P42頁))などです。物的担保の長所として、担保物の価値が低下しない限り、担保物権を行使して債権を回収できるのが長所です。他方、短所として、優先弁済を受けるための手続(競売など)に時間と費用がかかります。これに対して、人的担保とは、人の信用力によって債務を担保することをいいます。具体的には、「連帯債務」(本節)、「連帯保証債務」(3-7P198頁)です。長所として、資力のある協力者がいる場合には、債権者が破産する可能性が低くなります。他方、短所として、人の信用力に依存するため担保としての効力が不安定です。2 分割債務債務の目的が性質上可分である場合において、債務者が複数いるときは、各債務者は、それぞれ独立した債務を負担し、原則として等しい割合で債務を負担します(民427条、分割債務)。この場合は、債務者の人数が増えるほど回収可能性が高まるわけではありません。例えば、貸金債権(1,000万円)について、債務者が2人いる場合には、各債務者は500万円ずつ支払義務を負います。債務者の1人が支払いをしなくても、もう1人の債務者に500万円を超えて支払義務を負うことはありません。なお、各債務者が当事者として等しい割合で債務を負うというのは、債権者との間での関係であり、債務者相互の内部関係(負担割合)も別個に定めることができます。自分の負担額以上の弁済をした債務者は、他の債務者に対して求償請求(償いを求める権利を行使)できます。○分割債務債権者(1000万円)→債務者A(500万円)+債務者B(500万円)実務上は、債務者が複数いる場合、債務者が分割主義を避けるため、契約などにより連帯債務とすることが多いです。3 連帯債務(1) 連帯債務とは?連帯債務の場合、各債務者は、それぞれ独立した債務を負担し、対外的には全部の弁済すべき義務を負い(民436条)、1人が弁済すればすべての債務が消滅されます。債務者の人数が増えるほど回収可能性が高まります。例えば、貸金債権(1,000万円)に対して、連帯債務者が2人いる場合には、各債務者は1,000万円の支払義務を負います。債務者が分割を主張することはできません。1,000万円の支払いがあり、債務者の1人が1,000万円を弁済すれば、もう1人の債務者の債務もすべて消滅します。連帯債務は、特定の意思表示(例、共同不法行為についての民法19条)または当事者の意思表示(例、契約)によって成立します。○連帯債務債権者(1000万円)→債務者A(1000万円)+債務者B(1000万円)民法436条(連帯債務者に対する履行の請求)債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。(2) 連帯債務者の求償権ア 求償権の範囲連帯債務者の1人が弁済をすると自己の財産をもって免責を得た(連帯債務者を消滅または減少させた)ときは、その連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、支出した財産額(財産額が免責を得た額を超える場合には、免責額)のうち各自の負担部分に応じた額を求償請求することができます(民442条1項)。例えば、貸金債権(1,000万円)に対して、連帯債務者が2人いる場合(負担割合は同じ)において、債務者の1人が債権者に対して200万円を弁済したときは、弁済した債務者は、もう1人の債務者に対して、200万円の支払いを請求することができます。なお、免責を得る前及び後に、他の連帯債務者に通知しないと、求償権が制限されることがあります(民443条)。イ 求償権の範囲連帯債務者が弁済のために支出した財産の額だけでなく、免責日以後の法定利息(当分は年3%)及び避けることのできなかった費用(例、弁済費用、訴訟費用)なども含まれます(民442条2項)。ウ 連帯債務者の負担部分負担部分とは、連帯債務者相互の内部関係において、各自が債務を負担すべき割合をいいます。負担部分の割合はあらかじめあるからか、各連帯債務者の利益の割合によって定まり、契約がなければ、連帯債務者を通じた国税債権の割合によって、各自がうけた利益の割合によって決定されます。決まらない場合には、平等の割合と解されます。エ 連帯債務者の中に無資力者がいる場合連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、他の連帯債務者が各自の負担部分に応じて分担して負担します(民444条1項)。免責を得た連帯債務者の求償の確保を目的としています。(3) 連帯債務の課税関係相続税の債務控除の対象となる債務は、確実と認められるものに限られます(相基法14条1項)。連帯債務を相続し、債務控除を受けようとする者の負担部分が明らかになっている場合には、その負担部分に相当する額が債務控除の対象になります。また、連帯債務者のうちに弁済不能の状態にある者があり、かつ、求償して弁済を受ける見込みがない場合には、弁済不能者の負担部分を負担しなければならないと認められる金額の全額を、債務控除の対象になります(相基通14-2)。COLUMN 14 租税法律主義[1] 租税法律主義憲法84条は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」とし、租税法律主義を定めています。国民の財産権を保障するため、法律の定めによることのより、納税は、恣意的な課税から守られ、予測可能性・法的安定性が与えられます。・租税法律主義によって、国民は恣意的な課税から保護され、予測可能性・法的安定性が与えられます。[2] 通達課税(1) 通達とは?税法の解釈の権限は、財務省にかかわらず、行政の内部基準にとどまる通達(内部法)である行政規則です。上級行政機関が下級行政機関に対して命令する権限の範囲内である行政規則による行政内部での拘束力を有しますが、国民に対して直接拘束力をもつものではありません。税務行政においては、複雑・難解な租税法令の統一性を確保するため、膨大な解釈通達が出されており、強い影響力があります。もっとも、法律に反する通達課税、通達で納税義務を創設することは租税法律主義に違反しており(通達の許容性)、許されない。(2) 非課税非課税の範囲が長期にわたった後、課税を継続してパチンコ遊技機に対して物品税(消費税の導入に伴い廃止)を課税した処分につき、行政実例違反に反し、無効であるかが争われた事件があります。最高裁昭和33(1958)年3月28日判決・裁判所Webは、「課税庁が所論のように長年にわたって課税しなかったものであっても、過去の行為が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の規定に基づき適法に処分する」と判示しました。この判例に対しては、長年にわたり課税であったという事実に対して信頼が生じている場合にはその信頼を保護すべきであるべきである、非課税としてきた業務を変更するのであれば新たな法律によるべきであるという批判があります。(3) 合法性の原則とは?「租税行政では、法律で定められている租税の徴収の義務があり、減免の自由・徴収しない自由はないということを「合法性の原則」といいます。租税法律主義の静的な側面にあります。画一的な処理を採ることで、納税者間の公平が維持され、また、租税行政による不正が生ずるおそれが減ります。(2) 税務訴訟における租税法律主義令和2(2020)年度の国税の還付または徴収に係る訴訟事件のうち、国税被告事件の終結件数は169件ですが、そのうち和解によって終結したのは0件です。また、国税原告事件の終結件数は104件ですが、そのうち和解によって終結した事件は1件です(司法統計事件編令和2(2020)年)。国税庁長官通達「国税庁所管税務訴訟事件における和解について(事務運営指針)」は、なお、上記の和解による民事事件の解決には、①(債権者の減免)債務者の任務を期待する制度で、強制執行対象財産の捜索の手段や強制執行の準備をすること、②(債権者の)権利の満足と債務者の生活保障の調和をはかることを、③当事者の時間的経済的負担を減らすことを図ることをというメリットがあり、地方裁判所の民事調停手続の利用事件の申立件数が3〜4割は和解によって終結しています。また、税務調査などの段階において、「当事者の便宜や衡平な結論等のために、たとえ収入金額などの重要な事項の金額について解釈に異論する余地が見られないため、これは、法律に反する通達でなく、納税義務者の同意による和解の形をとりながら解決につながったというのではなく、行政指導に対する納税者の承諾の範疇にすぎず、課税処分に対する納税者の承諾が反映したものと解すべき」(金子宏「租税法」97頁)と考えられています。(4) 適法立法禁止法律によって不利益な遡及効を定めることは認められないということを「遡及立法禁止」といいます。法律は、国税徴収法48条及び30条によって、刑事上の責任の遡及処罰を禁止しています。これに対して、法律による遡及効は直接条文で禁止する規定はなく、法律による遡及効は明示的に許される場合があります。個人の場合5年を超えて土地建物等に譲渡したことによる譲渡所得の金額の計算上控除できる50万円の控除制度があったことについて、譲渡所得の金額が多額にのぼり、かつ、高率の累進税率が適用になり、多額の納税義務が課されることではないかが争われた事件があります。最高裁平成23(2011)年9月22日判決・裁判所Webは、「(1)(略)改正法が施行された平成16年4月1日の時点において既に所有期間の取得日の経過をいまだ満たしていない納税者について、所有する土地等の譲渡所得について、所有期間の取得日の経過を前提として、将来施行される法律に適用され、所得税の納税義務が変動することになる。しかしながら、長期譲渡は既存の法律の納税義務の内容を前提としてされるものであり、また、所有者が1番目に長期に譲渡する際の所得金額について課税されるものであること、(略)、個々の納税関係における法律の規定の適用が変更され、客観的に影響があるものといえるのである。る。(2)法律は、譲渡所得及び相続の関連性の認識の有無が法律で明確に定められてきたことを前提とするものであるが、この点について法律による明確な定めがないことをもって「権利の剥奪」と解するのが相当である。(略)、そして、法律で一定日から法律の遡及の必要性を法案で定めることによって法的に安定を阻害するおそれのある場合には、法律による遡及適用について、その内容及び遡及を許容する程度の公益上の要請を総合的に考慮して、その効果が法律によって許容される合理的な理由として認められるものであるかどうかによって判断すべきものであるところ(略)、法律の遡及適用の変更及びその変更の法律上の遡及適用についての法律による規定が法の遡及適用について、その目的及び法の遡及適用の影響の内容及び法の遡及適用の場合においても、これに付随すべきものである。したがって、「略)、法律が遡及適用が憲法の規定に反するか否かについては、「略」納税者の租税法上の地位に対する合理的な期待として許容されるべきものであるかどうかという観点から判断するのが相当である。(3)(略)まず、(略)、上記規定は、長期譲渡所得の金額の計算において所得が生じた場合に各控除がある一方で、異なる控除がある場合にはその適用がされることによる不利益を解決し、適正な租税の負担の要請に応じ得るようにするために、高率の累進税率による所得税の引下げをあわせて、他の控除制度が設けられた経緯によるものである。次に、上記規定は、長期譲得所得の金額が多額にのぼり、高率の累進税率が適用になる場合に、不動産の投機的な取引(買戻しの遡及)の進行を阻止することを主な目的として定められたものであり、これも、(略)平成10年の時点で長期譲渡から除外することとされたのは、その適用期間の経過に伴い、取得者が、取得後5年を超える長期譲渡益を目的として土地建物等を譲渡した場合、取得者が、取得後5年を超える長期譲渡益を目的として土地建物等を譲渡した際に、多額の納税義務が課されるおそれがあったため、これを防止する目的によるものであったと解されるところ、平成16年分以降の所得税に係る譲渡所得の計算上適用されるべきものであったと平成16年分の所得税に係る租税法律主義に反すると認められた不動産、不動産、不動産中の不動産の売却の利益が行われたとしても考慮すると、上記のそれぞれの具体的なものであったというべきである。そうすると、「略」本件改正法が本件申告期限までに条改正法の規定を当初から適用することとしたことは、具体的な公益上の要請に基づくものであったということができる。そして、このような要請に基づく法改正により事後的に変更されるのは、上記(1)によると、納税者の納税義務それ自体ではなく、特定の資産に係る損失繰越控除終了後に残余資産をして納税者の負担を軽減を図ることで納税者の所得に帰し得る地位にあるものである。そして、納税者に、他の租税に比べ、上記所得が生じた結果の実現に寄与するものであるならば、当該譲渡の翌年の申告終了後に所得が生じたものによるものであるので、当該譲渡が長年にわたるものであるのであればその地位は不確定な性格を帯びるものといわざるを得ない。また、租税法規は、財政・経済・社会政策等の国政全般の見地から総合的な政策判断及び極めて専門技術的な判断を踏まえてたえず改正され得るものであり、納税者の上記地位もこのような政策的、技術的な判断を踏まえてたえず政策的に法改正が図られた性格を有するものであること、本件法改正が長期譲渡所得を対象とする法定率が改正された時期には、長期譲渡所得の計算において損失が生じた場合にのみ損金通算を認めることは不合理であり、これを解消することが適正な租税負担の要請に応えることになるとされるなど、上記地位について政策的な見地から合目的的判断がされるに至っていたものといえる。」、「暦年の初日から改正法の施行日の前日までの間にその適用対象となるようにより年数や月数などを通じて公平が図られる面があり、また、その期間も暦年のうち3か月に限られている。納税者においては、これによって納税負担の軽減に係る期待がある程度減少したとしても、将来にわたる所得に帰し得ることはできるのであるから、それ以上に一律に成立した納税義務を加重されるなどの不利益を避けるものではない」。したがって、本件改正法は、「納税者の租税法規上の地位に対する合理的な期待を不当に侵害するものではない」と判示しました。遡及課税の必要性、納税者の権利・地位の期待、及び遡及課るによる不利益の程度が重要な考慮要素となっています。POINT 1債務の目的が性質上可分である場合において、債務者が複数いるときは、各債務者は、それぞれ独立した債務を負担し、原則として等しい割合で債務を負担すべき。連帯債務の場合、各債務者は、それぞれ独立した債務を負担し、対外的には全部の弁済すべき義務を負い、1人が弁済すればすべての債務者が免れる。連帯債務者の1人が弁済をするなど自己の財産をもって免責を得たときは、その連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、支出した財産の額のうち各自の負担部分に応じた額を求償請求することができる。
日本における分譲マンションのストック総数は約665.5万戸(令和元(2019)年末時点)であり、約1512万人が居住していると推計されています(国土交通省)。分譲マンションのうち築40年超のものが平成30(2018)年末時点で81.4万戸であるが、令和10(2028)年末には219.7万戸、令和20(2038)年末には366.8万戸になることが見込まれています。今後、老朽化した分譲マンションの放置や解体が社会問題になるおそれがあります。また、災害による滅失した場合に法律関係が問題になることも考えられます。本節では、分譲マンションの所有形態である建物区分所有(区分所有法)について解説します。区分所有は、税理士試験にも出題されており、平成27(2015)年度の相続税法の計算問題では、区分所有の登記がされた居住用及びその敷地の評価額が問われています。1 区分所有権とは?1棟の建物の構造上・利用上独立した一部に成立する所有権を「区分所有権」といいます。区分所有権が利用される代表例は、分譲マンションです。複数の区分所有者及び共有者に関する法的な管理を行うため、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」または「法」)が定められています。民法の特別法です。2 区分所有建物の所有関係(1) 専有部分区分所有権の対象となる建物の部分を「専有部分」といいます(法2条3項)。なお、区分所有建物のうち、人の居住の用に供する専有部分のあるものを「マンション」といいます。(2) 共用部分専有部分に属さない建物の部分及び専有部分に属しない建物の附属物を「共用部分」といいます(法2条4項、4条1項)。廊下や階段、水道設備などです。なお、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、在宅勤務が増え宅配便の受け渡しなどで共用部分に置かれることが増えており、放置などによるトラブルが生じています。また、本来は専有部分となり得るものを、規約により共用部分とされた建物の部分及び附属建物を共用部分とすることもできます(4条2項)。集会室や駐車場などです。共用部分は、区分所有者の共有となり(法11条1項)、その持分割合は、専有部分の床面積の割合によります(法14条)。区分所有者は、専有部分を処分すると共用部分の共有持分も合わせて処分したことになります。また、原則として、専有部分と分離して共用部分の共有持分だけを処分することはできません(法15条)。(3) 敷地利用権専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利を「敷地利用権」といいます(法2条6項)。区分所有者は、原則として、専有部分と敷地利用権を分離して処分することができません(法22条1項)。敷地利用権に関する不動産登記は、専有部分についての不動産登記で代用されます。3 区分所有における管理(1) 管理組合・管理者区分所有者は、全員で、建物の管理などを行うための団体(強制加入団体)である管理組合を構成し、集会を開き、規約を定め、管理者を選任することができます(法3条)。管理組合の意思決定は、区分所有者全員からなる集会の決議によって行われ、集会の議事は、原則として、区分所有者の人数及び議決権総数の各過半数で決することになります(法39条1項)。もっとも、多くの規約では、所有者の半数以上が出席する集会において出席者の議決権の過半数で決するとされています。また、管理者が日常の管理業務を行うことは困難であるため、集会の決議によって管理者を選任して、管理者に一定の範囲の管理行為を行わせることができます(法25条以下)。実務においては、区分所有者の中から選任された役員で構成される理事会によって理事長が選任され、理事長が管理者となって管理者されることがあります。(2) 規約管理組合は、区分所有者が従うべき規則を規約によって定めることができます。例えば、専有部分での民泊営業やペット飼育の禁止などです。規約に反して効力が及ぶので、反対した区分所有者も拘束されます。規約の設定、変更または廃止は、区分所有者の人数及び議決権総数の各75%以上の多数による集会決議で行うことができます。さらに、一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければなりません(法31条)。実務においては、各区分所有者が、分譲業者が分譲時にあらかじめ作成した規約案を承認で確認することを集会決議とみなして設定することが多い(法45条2項)。(3) 共用部分の管理共用部分の管理(下記イの著しい変更を除く)は、区分所有者の人数及び議決権総数の各過半数による集会決議によって行うことができますが(法18条1項)、各共有者が単独で行うことができますか、または比較的重要性のない変更行為は、各共有者が単独で行うことができます(法18条1項)。イ 共用部分の形状及び効用の著しい変更(例、定期的な大規模修繕工事)は、管理として行うことができます。共用部分について形状及び効用の著しい変更を伴う変更(例、階段室からエレベーター室への改造)をするするには、区分所有者の人数及び議決権総数の各75%以上の多数による集会決議で行います(法17条1項)。共有物の変更は共有者全員の同意を必要とする民法251条(3-4P177頁)の特則です。なお、共用部分の著しい変更を伴う決議があります。区分所有者に高齢者が多いことなど、合意形成が困難であったりします。4 区分所有建物が一部滅失したときの復旧(1) 専有部分建物の一部が滅失したときは、各区分所有者は、自己の費用と責任で専有部分の復旧を行います。(2) 共用部分ア 小規模滅失建物の価格の50%以下に相当する部分が一部滅失したときは、滅失した共用部分の復旧は、区分所有者の人数及び議決権総数の各過半数による集会決議によって行うことができます(法61条5項)。この決議が成立したときは、決議に反対した区分所有者を拘束され、費用負担しなければなりません。イ 大規模滅失建物の価格の50%を超える部分が一部滅失したときは、滅失した共用部分の復旧は、区分所有者の人数及び議決権総数の各75%以上の多数による集会決議によって行うことができます(同条5項)。この決議が成立したときは、反対した区分所有者に対して買取請求をすることができます。買取を請求することにした区分所有者は、決議に反対した区分所有者に対し、建物及び敷地に関する権利(所有権など)の買取を請求することを通知し、区分所有者に対して買取請求をすることができます(同条7項)。意思表示に反して買い取りを強制することはできないので、一方的な買取請求によって売買契約が成立します。建物の価格の90%を超える部分が一部滅失したときは6ヶ月以内に復旧の決議が成立しなかったときは、各区分所有者は、他の区分所有者に対し、建物及び敷地に関する権利の時価での買取を請求することができる(同条12項)。復旧などを望む区分所有者に建物区分所有権を集約させ、現状の打開を図る趣旨です。5 建替え建物の建替え(滅失して新たに建築)は、区分所有者の人数及び議決権総数の各80%以上の多数による集会決議で行うことができます(法62条1項)。建替えに参加する区分所有者は、参加しない区分所有者に対して、区分所有権及び敷地利用権の時価での売渡しを請求することができます(法63条1項)。この請求がなされると、法律上当然に売買契約が成立し、建替えに対する反対がない状態になります。○区分所有法の決議要件| 内容 | 決議要件 || :--- | :--- || 集会の議事(原則) | 区分所有者及び議決権の各過半数 || 規約の設定、変更、廃止 | 区分所有者及び議決権の各75%以上 || 共用部分の管理(著しい変更を除く) | 区分所有者及び議決権の各過半数 || 保存行為 | 各区分所有者が単独可 || 共用部分について著しい変更 | 区分所有者及び議決権の各75%以上 || 建物の一部が滅失したときの専有部分の復旧 | 区分所有者が自己の費用と責任 || 建物価格の50%以下に相当する部分が一部滅失したときの、滅失した共用部分の復旧 | 区分所有者及び議決権の各過半数 || 建物価格の50%を超える部分が一部滅失したときの、滅失した共用部分の復旧 | 区分所有者及び議決権の各75%以上 || 建物の建替え | 区分所有者及び議決権の各80%以上 |COLUMN 1 被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法(1) 目的被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法(以下「被災区分所有法」)は、災害により、①区分所有法が滅失した区分所有建物の敷地の敷地権の一部が、滅失した区分所有建物及び敷地の売却並びに①と②の一部の滅失した区分所有建物の取壊しなど早急にする特別の措置を講ずることにより、被災地の迅速な復興に資することを目的とする法律です。災害により滅失した建物が放置されることを防止するため、区分所有法にはない選択肢が認められています。(2) 区分所有法人の決議・売却区分所有建物が全部滅失すると、区分所有関係も管理組合も消滅して、区分所有法が定める決議ができなくなります。区分所有法人の意思が難しくなります。しかし、平成7(1995)年の阪神淡路大震災後に、区分所有法の建替え規定に準じ、建物の再建を望む声が高まり、被災区分所有法が制定されました。平成23(2011)年の東日本大震災後は同法は改正されています。被災区分所有法によって、天災その他災害により区分所有建物が全部滅失した場合、敷地共有者は、議決権の80%以上の多数で建物の敷地の全部を売却することができます(法20条1項)。共有者全員の同意(民251条)は不要です。(3) 大規模一部滅失の売却・取壊し被災区分所有法によれば、区分所有建物を敷地とともに第三者に売却したり、取り壊したりするには、区分所有者全員の同意が必要です。なお、区分所有者が自己の権利を個々に売却することを意図できます。この点について、区分所有建物が一部滅失した場合、区分所有権及び敷地利用権の持分価格の各80%以上の多数で、建物・敷地または建物の敷地の敷地権を処分することができます(9、10条)。また、区分所有者の人数及び議決権総数の各80%以上の多数で、建物の取壊しを行うことができます(11条)。売却を伴わない建物の取壊しのためであり、取壊し後に敷地を売却するのか、建物・敷地を再建するのかについて意見が分かれている場合などに選択されます。COLUMN 2 マンションの建替え等の円滑化に関する法律建替えした複合マンションで、マンションの建替え等の円滑化に関する法律を定めることを目的として、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」(平成14(2002)年に制定されました。マンションの建替えの円滑化に関する法律(4条の5)、マンション敷地が地震に強いかを利用した分譲マンション(105戸)では、平成28(2016)年にこの法律に基づく建替え決議がなされ、令和3(2021)年に建替えが完了しました。平成26(2014)年の法改正によって、耐震基準を満たしていないと認定された場合には、マンションと敷地の売却を、区分所有者、議決権及び敷地利用権の持分価格の各80%以上の決議によって行うことができるようになりました(108条1項)。POINT 11棟の建物の構造上・利用上独立した一部に成立する所有権を区分所有権という。区分所有者は、全員で、建物の管理などを行うための団体(強制加入団体である管理組合)を構成し、集会を開き、規約を定め、管理者を選任することができる。管理組合の意思決定は、区分所有者全員からなる集会の決議によって行われる。集会の議事は、原則として、区分所有者の人数及び議決権総数の各過半数で決する。規約の設定、変更または廃止は、区分所有者の人数及び議決権総数の各75%以上の多数による集会決議で行うことができる。区分所有者には、共用部分の管理、一部滅失したときの復旧、建替えに関する規定がある。
平成23(2011)年度税理士試験の相続税法の計算問題として、「無道路地の評価」が出題されています。税法上、無道路地とは、道路に接しない土地(接道義務を満たしていない土地を含む)であり、評価方法について財産評価基本通達20-2が定めています。無道路地の所有者は、隣地の所有者が隣地の通行を拒絶する場合、道路に出ることができなくなり、無道路地を利用することができなくなるのでしょうか。本節では、隣地通行権(民法)について解説します。1 隣地通行権とは?他の土地に囲まれて公道に通じない土地を「袋地」といい、河川、水路、海、著しい高低差がある崖を渡らなければ公道に出ることができない土地を「準袋地」といいます。袋地または準袋地の所有者は、公道に出るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行すること(民210条)。この隣地通行権(囲繞地通行権)は法律上当然に認められる権利であり、隣地の所有者の同意は不要です。同意(契約)で必要な通行権(1-4P46頁)とは異なります。○袋地| | | || :--- | :--- | :--- || 土地A(袋地) | 土地B(囲繞地) | 土地A(袋地) || 土地C(囲繞地) | 公道 | |隣地通行権が認められるのは、土地が荒廃され、社会的な損失が生じることを防ぐためです。2 公道に通じない土地とは?「公道に通じない土地」の公道は、公衆の用に供される道路を指し、私道を含みません。また、現に道路が存在する場合であっても、既存の通路では土地の利用に応じた利用にとって不十分であるときは、「公道に通じない土地」と評価されることがあります。隣地通行権が認められるかどうかについて、最高裁平成6(2006)年3月16日判決・裁判所Webは、「自動車による通行を前提とすると210条通行権の成否及びその具体的内容は、他の土地について自動車による通行を認める必要性、周辺の土地の状況、自動車による通行を前提とすると210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである」と判示しています。さらに、道路に2m以上接するという建築基準法43条1項の接道要件を満たしていない土地について、最高裁平成11(1999)年7月13日判決・裁判所Webは、「建築基準法43条1項本文は、土地又は建物の所有権を取得して、接道要件を定め、営業等のために公法上の規制を課している。このような建築基準法43条1項本文は、その目的、手段等からみて、同一土地の所有者のために隣地の他の土地の上に無償の通行権が当然に認められると解することはできない」と判示しています。隣地通行権の成立及び内容について、接道要件を考慮すること自体は否定されていないと解されています。3 有償通行権(原則)(1) 隣地通行の場所及び方法隣地通行権が認められるからといって、隣地の好きな場所を通行できるわけではありません。隣地通行の場所及び方法は、通行のための必要があり、かつ、隣地の所有者のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません(民211条1項)。具体的には、権利を濫用したり、隣地を荒廃させたりすることはできません。(2) 償金の支払義務通行権者は、通行する土地の所有者の損害に対して償金を支払わなければなりません(民213条1項)。償金は、隣地に現実に発生した損害を賠償する性質と通行権の利用を償還する性質を併せ持ちます。もっとも、通行権者は、償金の支払をしなかったとしても、隣地通行権を失わず、引渡しを請求することができます。隣地通行権は、公道に面するために認められる権利であり、償金の支払いを前提として認められるわけではないからです。4 無償通行権(例外)共有物の分割(3-4P178頁)によって公道に通じない土地が生じたときは、袋地の所有者は、公道に出るため、他の分割者の所有地のみを通行することができます(民213条1項)。また、土地所有者が土地の一部を譲渡したことにより公道に通じなくなったときは、袋地の所有者は、公道に出るため、譲渡人または譲受人の土地のみを通行することができます(同条2項)。これらの場合、償金を支払う必要がありません。通行権の発生を予期して分割地または譲渡した他の分割者の利益を保護するためであり、償金の負担を負わせるのは酷といえるからです。POINT 1袋地または準袋地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。隣地通行権の通行の場所及び方法は、通行権者のために必要があり、かつ、隣地の所有者のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。通行権者は、原則として、通行する土地の所有者の損害に対して償金を支払わなければならない。
顧問先の法人の取締役がその法人から金銭を借りるため、取締役に対対する貸付金として処理したという経験があるかと思います。税務面からは、会社利益相反取引は役員給与と認定されるのではないかなどが気になりますが、法務面からは、利益相反取引の承認手続の有無が問題となります。また、取締役が、法人の定款の目的に記載されているものの、現に行われていない事業を個人事業として行う場合には、競業取引の承認手続の問題となります。平成30(2018)年度税理士試験の所得税法の計算問題では、「甲は、代表取締役であったA社を本年3月30日に退職したが、長年培ったノウハウを活かして本年5月1日から機械部品の販売業を開始した」と記述されています。仮にA社も機械部品の販売業を行っていた場合、甲の事業は競業取引として制約を受けるのでしょうか。本節では、競業取引と利益相反取引(会社法)について解説します。1 利益の対立取締役は、会社の利益を犠牲にして、自己または第三者の利益を図ってはならない義務が当然に課されており、競業取引と利益相反取引は特に制限されています(会社356条)。2 競業取引(1) 競業取引とは?取締役が自己または第三者のために行う会社の事業の部類に属する取引を「競業取引」といいます(同条1項1号)。取締役が会社のノウハウや顧客情報を利用して取引を行い、会社の利益を害する危険が大きいため、競業取引を行うには、会社の承認手続(本節4)が必要とされています。会社の事業の部類に属する取引とは、会社が現に行っている取引と、商品などが市場が競合する取引です。定款の目的に含まれているものの現に行っていない事業に属する取引は、原則として含まれませんが、進出を予定している事業に属する取引は含まれます。(2) 会社の事業の機会の略奪取締役を選任した後は、競業は原則として自由です。(前略)競業取引と会社が競業の後も競業禁止の合意をすることはできますが、定款に有効と解するのは相当でなく、競業の範囲が合理的かつ必要な範囲を超える場合には、合意は、公序良俗に反し無効となるべきです。3 利益相反取引(1) 利益相反取引とは?取締役が自己または第三者のために会社との間において行う取引(直接取引)、及び会社が取締役以外の者との間において行う会社と取締役との利益が相反する取引(間接取引。例、取締役の債務の保証)を「利益相反取引」といいます(同条1項2号・3号)。会社と取締役の利益が相反するため、利益相反取引を行うには、会社の承認手続(本節4)が必要とされています。(2) 規制の対象外定型的に会社を害するおそれのない取引は、利益相反取引の規制の対象にはなりません。例えば、取締役から会社への贈与や、取締役から会社への無利息・無担保での金銭貸し付けは、規制の対象とはなりません。また、会社の利益の犠牲者である株主全員の同意がある場合の取引も、規制の対象にはなりません。4 競業取引と利益相反取引の承認手続取締役は、競業取引または利益相反取引をしようとする場合には、取引について重要な事実を開示し、株主総会の普通決議(取締役会設置会社においては取締役会決議)による承認を受けなければなりません(会社356条1項、365条1項)。取締役会において承認決議を行う場合、競業取引または利益相反取引を行う取締役は、特別利害関係人として議決に加わることができません(会社369条2項)。取締役会設置会社においては、競業取引または利益相反取引を行った取締役は、取引後、遅滞なく、取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(会社365条2項)。会社が適切な事後措置をとることを可能にするためです。5 取締役の責任競業取引または利益相反取引について、株主総会または取締役会の承認を得た場合であっても、会社に損害が生じたときは、取締役は任務懈怠による損害賠償責任を負うことがあります(会社423条1項、2-6P参照)。利益相反取引の承認をせずに競業取引を行った取締役によって得た利益の額は損害の額と推定されます(同条2項)。会社が損害を証明することは困難であることや、推定により立証の負担が容易になります。また、利益相反取引について会社が承認したときは、利益相反取締役や取締役会の承認決議に賛成した取締役などは、任務懈怠と推定されます(同条3項)。利益相反取引のうち自己のために直接取引をした取締役の任務懈怠による損害賠償責任は、帰責事由がないことによって免れることはできません(会社428条1項)。COLUMN 1 民法の利益相反行為の規制(1) 代理人の利益相反行為の規制代理人が本人の法律行為の代理人として、同時にその法律行為の相手方となること(自己契約)、及び当事者双方の代理人となること(双方代理)は、原則として無権代理とみなされます(民108条1項本文)。したがって、本人が追認をしなければ、本人に対して効力は生じません(民113条1項)。また、自己契約及び双方代理に該当しない、代理人の利益相反行為も、原則として無権代理とみなされます(民108条2項本文)。例えば、代理人の債務を本人が代理人として本人に保証させる行為です。なお、この民法108条は、会社の承認を受けた取締役の利益相反取引(本節の8)には適用されません(会社356条2項)。(2) 親権を行う父母と子の利益相反行為の規制親権を行う父母と子の利益が相反する行為については、親権者は、その子のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(民826条1項)。例えば、親権者と未成年の子が共同相続人となる場合の遺産分割協議を行うときは、特別代理人が必要です。また、親権者は、数人の子に対して親権を行う場合において、その1人と他の子との利益が相反する行為についても、その一方のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(民826条2項)。なお、この民法826条は、後見人と被後見人(3-1P121頁)との間の利益相反行為について準用されています(民860条)。COLUMN 2 民法に反すると認識しながら(1) 税理士の故意による不真正の税務書類の作成財務大臣は、税理士が、故意に、真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき、又は税法36条の規定(脱税相談等の禁止)に違反する行為をしたときは、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができます(税理士法45条1項)。故意とは、事実に反し、または反するおそれがあると認識して行うことをいうとされています。依頼者が自らの営業上の利益を知らされていたにもかかわらず、その希望の接待交際費を計上したり、売上金額の一部を除外したりした場合等には、脱税の対象となります。依頼者から、真正の事実に反することが発覚しても税理士に対して損害賠償請求をしない旨の誓約書を取得したとしても、税理士法上の上記規定に違反することに変わりはありません。(21) 弁護士の誠実義務と誠実義務(1) 誠実義務弁護士職務基本規程に、「弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする」と定められています(5条)。弁護士法上、「弁護士は、社会正義の実現のため他の職務の地位から真実(事実)義務が課されています(以下、日本弁護士連合会中央境界協会倫理委員会編著『解説弁護士倫理基本規程』より)とされています。民事事件の場合、弁護士は、真実を積極的に探求する客観的義務は負わないものの、客観的な真実に反することを知りながら、ことさらに自己(依頼者)の主張を展開して証拠を提出したり、あるいは相手方の主張を誤って反証を提出したりすることは許されないという消極的真実義務を負うとされています。刑事事件の場合、弁護人(弁護士)は、客観的真実の発見に協力する積極的な義務を負いません。黙秘権が保障されている被疑者及び被告人(38条)に対して誠実義務(下記(2))を負う弁護人も、積極的な真実義務は負いません。しかしながら、弁護人は、裁判所及び検察官による実体的真実の発見を積極的に妨害し、または積極的に真実を歪める行為をすることは許されないという消極的な真実義務を負います。(2) 誠実義務弁護士法上、「弁護士は、依頼の趣旨に反する行為を行わない限り、人の権利及び法制度の改善に努力しなければならない」とされており(1条2項)、依頼者に対して誠実義務を負います。弁護士職務基本規程には、この規定を(前述のため)。弁護士と依頼者の正当な権利・利益を誠実に擁護することによって、基本的人権が擁護され、社会正義の実現に寄与します。弁護士は、法の専門家であり、公的な独占を有する職務であることから、通常の注意義務(民644条、2-6P142頁)を加重した誠実義務を負うと考えられています。(3) 弁護士の依頼者との関係と誠実義務真実義務と誠実義務は、両立することが多い。例えば、刑事事件において、被告人が法廷で事件に関与しておらず無罪を主張しながら、弁護人との接見の中で事件への関与に対して事件への関与を告白した場合。弁護人が主張するすることは誠実義務に反し、無罪主張することは真実義務に反するように思えます。被告人が無罪主張を維持したいと述べる場合には、弁護人は、事件の見通しを十分に説明し、「(反省の情がないとの理由で)重い結果を導く可能性がある」ことを伝え、それでも被告人が翻意しない場合には、被告人の自己決定権に従った弁護活動をすることが誠実義務の内容として要請され、弁護人は控訴断念を強要させられるを得ません。POINT 1競業取引とは、取締役が自己または第三者のために行う会社の事業の部類に属する取引をいう。利益相反取引とは、取締役が自己または第三者のために会社との間において行う取引、及び会社が取締役以外の者との間において行う会社と取締役との利益が相反する取引をいう。取締役は、競業取引または利益相反取引をしようとする場合には、取引について重要な事実を開示し、株主総会の普通決議(取締役会設置会社においては取締役会決議)による承認を受けなければならない。競業取引または利益相反取引について、会社の承認を得た場合であっても、会社に損害が生じたときは、取締役などは任務懈怠による損害賠償責任が生じることがある。
取締役、会計参与、監査役など(以下「取締役など」)は、会社や第三者に対して損害賠償責任を負うことがあります。ワンマン社長経営の会社における、実質的には従業員にすぎない取締役も、監視義務違反として責任を負うことがあります。どのような場合に取締役などが損害賠償責任を負うのかは、顧問税理士として知っておいたほうがよい知識です。本節では、取締役などの責任(会社法)について解説します。1 会社に対する損害賠償責任(1) 任務懈怠責任取締役などは、その任務を怠ったときは、会社に対し、任務懈怠によって生じた会社や財産を賠償する責任を負います(会社423条1項)。条文上は明示されていませんが、取締役などは、任務懈怠につき自己の帰責事由によるものでなかったことを主張・立証すれば、責任を免れます。(2) 任務懈怠とは?任務懈怠とは、会社に対する善管注意義務(善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務)及び忠実義務(法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行う義務)に違反することです(会社330条、355条)。取締役の善管注意義務違反として、他の取締役に対する監視義務違反や内部統制システム構築義務違反など、不作為(なすべきことをしないこと)による任務懈怠が問題となることがあります。(3) 経営判断の原則会社経営は、不確実な状況下で迅速な判断が求められ、またリスクを負いながら利益を獲得するものであるため、取締役には広い裁量が認められます。したがって、取締役の行為が結果的に会社に不利益な結果をもたらしたからと言って、取締役には経営判断に誤りがあり、善管注意義務違反にはなりません(経営判断の原則)。なお、役員の法令違反行為には、経営判断の原則は適用されません。2 第三者に対する損害賠償責任(1) 任務懈怠責任ア 任務懈怠責任の概要取締役などが任務懈怠によって会社に重大な過失があったときは、取締役などは、任務懈怠によって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社429条1項)。会社債権者が、倒産した会社の取締役などに対して損害賠償請求するのが典型的な例です。会社法429条1項の責任は、第三者保護のための法定の特別責任です。取締役などは、民法の不法行為による損害賠償責任(1-6P参照)を負わないときであっても、この規定により損害賠償責任を負うことがあります。イ 任務懈怠責任の要件第三者は、取締役などの悪意または重過失を任務懈怠について証明すればよく、第三者に対する加害について証明する必要はありません。民法の不法行為責任とは要件が異なります。また、損害には、直接損害(例、取締役が会社のお金を支払う能力がないにもかかわらず、会社を代表して第三者と売買契約を締結したため、第三者が代金を回収不能となった損害)と、間接損害(例、取締役が著しく不合理な業務執行を行ったために会社が破産し、第三者が回収不能となった債務)の両方が含まれます。ウ 名目的取締役実質的には経営にタッチする(い)ことがない名目的取締役であっても、代表取締役の業務執行を監視しなかったことを理由として、第三者に対する損害賠償責任を負うことがあります。しかし、近時の裁判例には、監視義務を尽くしていたとしても、代表取締役の業務執行を阻止することができなかったため、任務懈怠と第三者の損害との間に因果関係がないという理由で、名目的取締役の賠償責任を否定するるものもあります。(2) 計算書類などの虚偽記載による責任取締役は、計算書類などの虚偽記載をしたときは、第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社429条2項1号ロ)。虚偽記載の計算書類を信用して融資した銀行が、回収不能額について損害賠償請求するのが典型的な例です。取締役は、虚偽記載について注意を怠らなかったこと(無過失)を証明することによって責任を免れます(同条2項柱書)。直接担当の事項ですが、取締役は、軽過失でも責任を負いますし、第三者ではなく取締役が証明責任を負います。情報開示は重要であり、また、計算書類などが虚偽の場合には大きな危険をもたらすため、取締役には過失責任及び無過失の証明責任が課されています。COLUMN 1 会計参与(1) 会計参与とは?会計参与は、会社の役員であり(会社329条1項)、取締役と共同して、計算書類などを作成する権限(会社の意思決定をし、あるいは会社の運営に携わる者)です(会社374条1項)。特に中小企業において計算書類などの信頼性を高めるために設置されます。会計参与の設置は、原則として、会社の任意です。(2) 会計参与の資格会計参与は、公認会計士もしくは監査法人または税理士もしくは税理士法人でなければなりません(会社333条1項)。(3) 会計参与の損害賠償責任会計参与は、会計参与の本務(1)及び第三者の本務(本節の1(1))に対して損害賠償責任を負うことがあります。例えば、会計参与の職務執行を行うに際して、職務の執行に際して不正行為または法令・定款に違反する重大な事実を発見したときは、監査役(監査役非設置会社にあっては株主)に報告する義務を負うため(会社375条1項)、報告を怠ったときは任務懈怠となり、会社に対して損害賠償責任を負うことがあります。また、会計参与は、計算書類などの虚偽記載について、無過失である場合を除き、第三者に対して損害賠償責任を負います(会社429条2項2号、本節の8(2))。(4) 報酬の課税関係会計参与が会社から受け取る報酬は、所得税法上、給与所得として課税されます。事業所得ではありません。COLUMN 2 監査役の責任に関する最近の判例監査役の任務懈怠により、従業員による継続的な横領等の発見が遅れて被害が生じたとして、会社が監査役に対して損害賠償を請求した事件がありました。横領した元経理担当の従業員は、発覚を免れるため、預金口座の残高証明書を偽造するなどしていました。最高裁令和3(2021)年7月19日判決・裁判所Webは、「計算書類等が会計基準等と異なる会計処理に基づき作成されるものであり(略)、会計基準以降取締役等の責任の下で正確に作成されるべきものである(略)ことや(略)、会計基準等の内容が正確であることを当然の前提として計算書類の監査を行ってよいものではない。監査役は、会計基準が信頼性を欠くものであることが明らかでなく、計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかを判断する場合には、計算書類の内容が会計基準等に適合するか、又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきである」、「そうすると、会計方針を決定した上で、計算書類を確定し、会社債権者に開示してよくなるものであることを明らかでない限り、計算書類が会計基準に適合していないこと自体が会社の内部に開示していることを確認したとすれば、常にその任務を尽くしたと認められるものではない」と判示しています。税理士は、顧問先から監査役への就任を依頼されることもあるため、監査役の責任内容については注意が必要です。COLUMN 3 株主代表訴訟会社が取締役などから取締役などに対する損害賠償責任の追及を怠る可能性があるため、株主が会社のために代表訴訟を提起することが認められています(会社847条)。株主代表訴訟の確定判決は、勝訴・敗訴を問わず、会社に対して効力を有します(民訴115条1項2号)。会社のために訴訟を提起するのであり、勝訴の場合の損害賠償は、株主個人ではなく、会社に対して支払われます。株主が勝訴した場合において、責任追及の訴えに係る訴訟に関する費用を支出したとき、または弁護士費用を支払うべきときは、株主は、会社に対し、相当と認められる額の支払いを請求することができます(会社852条1項)。全額を請求できるわけではありません。一方、株主が敗訴した場合には、悪意(わざと訴訟して会社に権利を失わせる意図など)があったときを除き、株主は、会社に対し、訴訟によって会社に生じた損害(例、訴訟対応費用、信用毀損)を賠償する義務を負いません(同条2項)。POINT 1取締役などは、会社に対し、任務懈怠によって生じた損害を賠償する責任を負う。任務懈怠とは、会社に対する善管注意義務及び忠実義務に違反することである。取締役の判断の内容及び過程に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務違反にはならない。取締役などは、任務懈怠について悪意または重過失があったときは、任務懈怠によって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。取締役は、計算書類などの虚偽記載をしたときは、虚偽記載について注意を怠らなかったときを除き、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。